湿原の牢獄~ゲヘナの蒼艶

作者:七凪臣

●湿原の物語
 釧路湿原でデウスエクス達をサルベージしていた死神テイネコロカムイは、ケルベロス達に討たれた。
 そして知れた事実は二つ。
 テイネコロカムイの目的が、グラビティ・チェインを略奪し、牢獄に幽閉されている仲間を脱獄させることだった事。
 その牢獄に幽閉されているのは、死者の泉を見つけ出したとも伝えられる、古のヴァルキュリア・レギンレイヴと、その軍団である事。
 悠久ともいえる時間、幽閉されたレギンレイヴは世界の全てを憎悪し、復讐を目論んでいる。
 彼女が解き放たれれば、大きな禍が起きるかもしれない――数多の人々が殺められ、その魂からエインヘリアルが生み出されるような。
 しかし。
 テイネコロカムイの撃破の甲斐あり、レギンレイヴらがすぐさま地上に出てくる恐れはなくなった。
 とは言え、この『牢獄』も完璧でないのを、テイネコロカムイの脱獄が証明している。
 それに万一、彼女らの存在が他のデウスエクスに知られてしまったなら。利用を画策する勢力が現れるかもしれない。特にエインヘリアル勢にとっては、戦力増強の好機となるだろう。
「つまり。このまま放置は出来ないということです」
 リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は告げる、湿原にて始まった一つの物語の終わりと、新たな変事を防ぐ手立ての始まりを。

●鳥篭への誘い、煉獄女王
 『鳥篭』のように浮遊する40以上の牢獄が在る地へは、テイネコロカムイを撃破した際に入手した護符を利用すれば赴ける。
「この鳥篭の一つ一つに各1体ずつ、ヴァルキュリアないし死神が幽閉されています。外へ出る事は出来ないようですが、牢獄外からやって来たケルベロスならば周囲を自由に移動する事は可能と思われます」
 故に、牢獄の地へ転移した後、幽閉された敵を各個撃破するのが今回の作戦のアウトライン。
 ただし鳥篭外から内部への攻撃は一切通らない。よって内部に潜入するまでは、ケルベロス側から攻撃する事は出来ない。されど鳥篭内からの外への攻撃は、威力は落ちるが不可能ではなく。つまり、鳥篭内への潜入に手間取ると、その分だけ敵からの攻撃を受けてしまうことになる。
「もしも特定のチームが40体余りのデウスエクスから集中砲火を浴びるような事態が起きたら、ただでは済まないでしょう。ですから皆さんには、狙いを定めた相手の気を惹きながら鳥篭へ接近して下さい」
 相手が挑発に乗ってくれれば、その攻撃は『此方』に向けられる筈。一工夫が必要な局面だ。
「そして皆さんに倒して頂きたいのは――」
 それは女性体の死神。
 藍色の豪奢な薔薇のドレスを纏う姿は優美なれど、冷えた瞳が全ての印象を凍て付かせる。
「蒼い炎を扱うのに長けた敵のようです。その温度は灼熱でありながら、極寒の印象もありました」
 さながら死者の罪を焼く、煉獄の炎のように。
「言うなれば、煉獄の女王――でしょうか。炎を操る以外にも、その一瞥で敵対する者の思考を奪う事もあるかと」
 侮れぬ相手だと言い添え、リザベッタは忘れてはならない大事を付け足す。
「鳥篭の死神たちは、牢獄を脱出する為の『グラビティ・チェイン』を強く欲しています。例えば、戦闘不能になった誰かがいたらその相手のとどめを最優先にするくらいに」
 だから、途中で力尽きてしまった者、或いはその危険がある者が出たとしたら。命を奪われないよう、速やかに牢獄外へ撤退させる等の対応が必要になるだろう。
「用心して下さい。大事な作戦ではありますが、皆さんの命以上に大切なものはありませんから」
 憂いを緑の瞳に滲ませて、しかしヘリオライダーの少年はケルベロス達に戦いを求める。
 永き幽閉の果て、狂気的な状態にあるだろうモノとの。
 ただただ糧を欲し、命喰らわんとしようとするデウスエクスとの。
 美しき炎で全てを灼き尽くさんとする死神との。


参加者
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
天見・氷翠(哀歌・e04081)
佐久間・凪(無痛・e05817)
ミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
バフォメット・アイベックス(山羊座の守護の下・e14843)
凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)

■リプレイ

●突入
 変化は、不意に。
 鳥篭を形作る柱に当たって弾けた二つの力に、女は蒼い瞳をパチリと瞬いた。
「まぁ、面白いこと」
 一つはバフォメット・アイベックス(山羊座の守護の下・e14843)が放った対デウスエクス用のウィルスカプセル。そしてもう一つは、佐久間・凪(無痛・e05817)が投じた炎の残り香。
 彼方へ出してくれぬ牢獄は、女を内に囲う代わりに向こう側からの攻撃も無効化してくれる。故に、まじまじと其れを観察した女はくふりと笑うと、手にした書を開き編んだ輪郭に銀を帯びた炎の塊を、炎を呉れた少女へ投げ返す。
 けれどそれは。させないよ、と速力を上げて凪の前へ出たミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)が我が身で受けた。
 その事に、女は――煉獄女王こと死神ヘルフレイムマスターはまた瞬く。数千年、或いは、数万年。人の寿命を遥かに超える永い年月をここで過ごした彼女にとって、ケルベロス達の襲来は心浮く変化。自分と似た炎を使う相手がいるのも、また興味深く。
 いちいち愉し気な死神の様子に、床でもなく天井でもない不可思議な空間にレッサーパンダの尻尾を靡かせ疾走する深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)は、大仰な溜息を吐いてみせる。
「あー、また面倒なやつにゃ。このまま鳥かごの中でのんびり朽ちたらいいのににゃ」
 揶揄る声に、女の瞳に残虐な光を帯びた。
 更に、
「ずっと此処に閉じ込められて、暇だったのでしょう? ちょっと私達と遊んで貰えないかしら?」
 一直線に此方を目掛けながら走る凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)のあからさまな挑発に、死神は薔薇のドレスを肩から揺らしコロコロと笑い始める。
「何と頼もしい事でしょう!」
 そうして今度は、月音へ先ほど凪に投じたのと同じ炎を放つ。
 狙う獲物の気を惹く作戦は、上手く行っていた。他の班も同様なのだろう、余計な攻撃が襲って来る事は無い。
 とは言え、油断は禁物。
「神を詐称する愚か者よ! 神の使徒である私が代わって罰してあげましょう! 首を洗って待ってなさい!」
 黒山羊の姿に神父服を纏うバフォメットは、まだ距離のある鳥篭むけて今一度カプセルを投じる。
「もっと遊びましょう?」
 手招くように、炎を繰る女。総じて四度、それを浴びた後。
「っ!」
 ついに凪の手が豪奢な篭の扉に届く。
「行きます!」
 迷いはなかった。力強く伸べた指先が、そこに触れる。途端、無限の時間、閉ざされ続けた空間が音もなく開かれた。
 一気に駆け込むケルベロス達。だが、それはどうしても無防備になってしまう一瞬でもあり。
「ようこそ、わたくしのお庭へ」
 いの一番で飛び込んだ凪の視界を、金色に輝く炎が激しく灼いた。

●閃華
「次はどの子にしましょう? そうね、貴方かしら」
 うっそりとした笑みを漏らし、死神は更に金を帯びた炎を放つ。狙われたのは、バフォメット。だが着弾より早く、ミリムが身を呈す。
「っつぅ」
 篭の外で受けた炎より、威力は段違い。不可思議な檻の効果をミリムは我が身で体感し、けれど怯むことなく鳥篭の内を強く踏み締めた。
「外の世界に復讐を……って」
 ぴくんと動く頭上の耳に、跳ねる尾はミリムのテンションバロメーター。
「永い幽閉で理性をなくした危険な相手、だよね? そんなの、牢の外には出してやれないよ!」
 耳も尾も凛と伸ばして、ミリムは反撃の狼煙代わりに星辰を宿す剣を掲げ、輝かせた守護星座の恩恵を自分を含めた布陣前衛へ授ける。
「てめーらは、存在自体が屑なんだよ!」
 目的地を目指し駆けるだけだった時は、もう終わり。廻り来たようようやくの出番に、月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)は猛烈な勢いで蒼い女へ肉薄する。
「まずはテメーが死んどけっ」
 盛る嚇怒は、他者の死を弄ぶ死神という種族の愚昧さへ。猛る胸の裡のまま、鎌夜は怨念染みた刃を振るい、女の肌に裂傷を刻む。彼が作った流れに乗って、ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)も死神の元へひた走る。だが、長じた竜族の男は縦長の瞳孔の一瞥を敵へは呉れず。『出口』となる扉と、己が軌道を確認するのにまずは意識を注いだ。
(「間違っても、出してやるわけにはゆかぬのでな」)
 逃がしてはならぬ相手へガイストが見舞うのは、電光石火の蹴撃。しかし、ドレスの裾を払う女の動きも素早く。辛うじて余韻に棚引いた二の腕を捕えはしたが、続いた月音の黒き弾丸は空を貫くのみ。
「楽に倒せる相手じゃないって事ね」
「それなら雨音と勝負にゃっ!」
 定まり切らぬ手元に悔いる月音の声を背に、雨音が軽やかに跳ねた。愛らしい容貌とは裏腹に、レッサーパンダは気が強い。その性質を受け継ぐ少女は、小さな猛獣と化して物質化を解いた刃を死神の横っ面に叩き込む。
「神敵滅殺!」
 躱されるなら、足を止めれば良い。容認できぬ『神』の詐称を挫くべく、バフォメットは魔力を籠めた咆哮でデウスエクスの鼓膜を揺さ振る。
 狙うは、可及的速やかな排除。健やかに生きる人々を、邪な余波が襲わぬように。
「……行こう」
 黒猫を思わせる封印衣の上をそっと撫で、凪も蒼薔薇の園に身を投じる。ありったけの力を乗せた蹴りを敵の脇腹へ見舞うと、踵についた荊にも、鎖にも似た飾りがしゃらりと空を華麗に踊った。
(「一先ずは、これで何とか」)
 ヘルフレイムマスターの蒼とは対極の、どこまでも澄んだ青に淡く色づく白翼を背に広げ、守護の陣を描き終えた天見・氷翠(哀歌・e04081)は人知れず安堵に胸を撫で下ろす。
 篭の内に至るまでのダメージは軽微。逆を言うと、内に入ってから凪とミリムが貰った怪我は看過できぬものだが、二人は盾を担う者。すぐさま戦線離脱に直結せずに済んでいる。
(「でも……」)
 鳥篭の扉を背に、戦況を具に見遣り。感受性の強い氷翠は、蒼炎の主の歓喜に胸を痛めた。
 同胞に危険分子と判断されての、幽閉だろう。されど、敵との邂逅に胸踊らす程の永き時間は、想像を絶する虚無であった筈。
(「……それはやっぱり、可哀想」)
 理不尽へ寄せる悲哀は、氷翠の優しさ。だがそれを解さぬ死神は、思考に沈む氷翠へ喜々と謳う。
「さぁ、貴女も一緒に踊りましょう?」
「……!」
 直後、燃え上がった銀光帯びる炎に氷翠は――氷翠の記憶は震えた。

「大丈夫ですか」
「うん、もう十分」
 気勢を吐く鎌夜が死神と切り結ぶ後方、一手を氷翠の癒しに割いたバフォメットは、返った応えに「ならば」とデウスエクスへ向き直る。
「さあ、お薬のお時間です!」
 それは治す力ではなく、回復阻害の効もある一撃。
「これで、どうにゃー!」
 雨音の霊斬る刃が死神の肩にあった傷を抉じ開けると、狙いの定まり悪さはやや落ち着き。ずんっと重い感触を伝えて来た足先に、ガイストは陣笠の下の眼を満足気に細めた。常は開戦と同時に放る陣笠だが、今日は上とも下とも知れぬ空間に被った侭だが、これはこれで趣深い。思ったように攻撃が通るなら、尚の事。
 そして月音が繰り出した雨音と同じ技が、死神を捕えればケルベロス達の憂いは更に晴れて。
「ほら、やっぱりこうした方が似合うわ」
 握ったナイフが切り裂いたドレスを一瞥し、月音はふふりと笑う。
 鳥篭の中の死神にヴァルキュリア。
 麗しき牢獄を作った人は、随分と好い趣味をしていたようだ。
(「勿論、皮肉よ?」)
 戯れ相手と下に見た相手に追い込まれ、少しずつ焦りが滲む白い顔を間近に、月音は余裕の笑みを密やかに深める。

●不屈
 死神の冴え冴えとした視線を、自ら宿した自浄の加護に守られミリムは平然と受け流す。
『再び、デスバレスへ攻め入ろうぞ!』
 不思議な予兆の中、レギンレイヴはそう言っていたという。
(「つまり、一度は死神たちに戦いを挑んで。そしてきっと敗れて。それでここに幽閉されちゃったってことなのかな?」)
 ヘルフレイムマスターの一瞥に、肩を並べる誰もが膝を折っていないのを確認すると、ミリムは鋭く敵との間合いを詰める。
「レギンレイヴ一味まとめて幽閉されるのも大変だね!」
 労いの言葉とは裏腹に、光耀のエネルギーを集中させた拳での殴打は苛烈。だが、顔を歪めた死神も、負けじと笑う。
「何れこの世を支配するのはレギンレイヴ様ゆえ。此れくらい、何の障りにもなりませ――」
 けれど言葉の余裕さえ奪うように、気迫の陽炎揺らす鎌夜が女の声に一括を被せた。
「っは! 強がりも大概にしとけよっ」
 世界の全てに復讐などと、よく吠えたものだ。ならば――。
(「オレはテメェら全てを地獄に叩き落す為に戦うさっ」)
「死ねよ滅びろ息絶えろォ!」
 その名は、非天。天に非ずと云い乍ら、己と得物を完全に地獄と同調させた鎌夜は、炎獄の恒星へと姿を転じ。天の憤怒と成って、滅却の一撃を振るう。
「……くぅッ」
 莫大なエネルギーの衝撃に、ドレスに咲いた薔薇が散る。はらはら舞い狂う、蒼い花弁。それらを踊るように掻き分け、雨音は斬霊刀を閃かす。
「脱出を計る鳥? 魚? なんでもいいにゃ! 外はこわ~い獣がいるから、このまま鳥かごの中でおねんねして貰うにゃ。もちろん、永遠にゃ!」
 毒を仕込む剣撃は、深く。堪らず死神は喉元を押さえてのたうつ。が、当然。これで終わりではない。
「囚われの、鳥篭。哀れと思えど、解き放ちはせぬ」
 猛攻の波に心臓をドクリと一つ高く打たせ、ガイストは青い鱗に覆われた拳を固めた。
「この牢獄で散るのが其方の宿命ぞ」
 風を切って突き出した拳から放たれる、敵喰らうオーラの弾丸。牙剥いた闘志そのままの一撃は、死神の腹部を無残に抉る。
 攻めに重きを置いた布陣の、破壊を担う者らの三連撃。まともに受けた女の足元は覚束なく、白い膝が床に崩れた。
 しかし、余力は未だあると見受けたバフォメットは朗々と唱える。
「守護星座の光のもと、仇成すものに罰を。ともに歩む者に癒しを……我が守護星座の輝きを見よ!」
「ぅ、アァッ」
 捧げた祈りに、煌く山羊座。氷翠の癒しにも使ったそれは、此度は忌むべき敵を裁く光となって煉獄の女王を激しく灼いた。
 そして。
 磨き上げた拳の一撃を、凪が死神の左頬へ呉れた直後。氷翠は一同に目配せし、自身は何も変わらぬように癒しの力を編む。
 頃合いだった。おそらく、眼前の敵はあと数撃で堕ちる。だが、機を定める報せは未だ。
「憐れみ、だとでも?」
 突如腕を下ろし、裂帛の叫びで自らの回復に努めた月音に、蒼い死神は眉根を寄せ。よろりと立ち上がると、金に彩られた炎を発す。
 その炎は月音をきつく苛んだ。されどミリムは己が癒しに徹し、苛烈な破壊力を誇るはずの鎌夜が月音の回復に回る。
「……成程」
 そしてガイストの拳から殺意が消えた時、死神はしたり顔で微笑んだ。
「何かを待っているのね? だから、わたくしを殺せない!」
 それは彼女にとって、窮地を脱する好機。デウスエクスは喜色輝く双眸を、身の内に多くの澱を仕込んでくれた月音へ向ける。
「あら、光栄」
 獲物に択ばれた事に気付いても、月音は余裕を嘯く。練度も余力も、最も及ばぬ身。狙われ続ければ、死をも覚悟せねばならぬ局面にも関わらず。
「私も、煉獄どころか、地獄行き確定コースなのよ? 折角だから、ご一緒する?」
 道連れにね、と言い放つ月音の姿は何処か凛然と。しかし、それを現実にするつもりは誰にもない。
「貴方の好きなようにはさせません! 私とガルム、二人分の想いにかけて!」
 過去に喰らった竜の名を呼んで凪は走り、月音を庇うとそのまま反撃に転じる。
「私が強大な壁となりましょう! 『荊棘』」
 足に纏わせた氷の棘は、氷の竜の力の片鱗。衝撃波を伴う蹴りは破壊力そのものより、怒りの感情を死神に根差させ、意識を凪へと傾けた。

 何故、待つ時間というものは長く感じるのだろう?
「蒼い炎は美しく、好みではありが。美女の視線ほど、気をつけねばならぬものはない」
 ――斯様なものに心揺らす歳でもないがな。
 くくっと喉を鳴らし、死の視線を凌いだガイストは、深い呼吸で疼く心根を押し留める。
 敵は既に瀕死。ど派手に命運を決してしまいたくて仕方ないのだが。散った彼女の力が別の死神の餌にされては堪らない。
 図るは、他班と協調した一斉撃破。故に待つのだ、レギンレイヴに挑む者らからの合図を。
(「大丈夫……まだ、待てるよ」)
 理性的に現状を判じながらも、氷翠の瞳は死神が繰る蒼い炎に吸い寄せられる。
 本当は視たくないもの。全てを喪った幼少の記憶をざわめかせるもの。
 胸がキリリと痛んだ。でも、そんな中でも氷翠は煉獄の女王の運命を嘆く。
 レギンレイヴも、彼女に従った者らも。『死神』にとって罪人なのだろうけれど。果たしてその罪が、永遠の地獄に相応しいかは分からないから。
(「地球が大事。絶対にあげられない。だから、外の世界の代わりに『解放』を――」)
「!」
 ささやかな祈りが捧げられた、その時。
 眩い人工の光が牢獄内に弾けた。

●決す
「何事!?」
 それが示す意味を知らぬ死神は、剥き出しの肩を困惑に跳ねさせながらも凪へ炎を投じようとした。
 だが、ミリムにとって凪は大事な仲間。一人に全ては負わせないとミリムは身を投げ出し、爆ぜた銀の残滓を打ち破って拳を固める。
「覚悟はいいですか」
 騎士の誇り、自尊心、様々を詰め込んだ光で、ミリムは死神の腹部を打つ。
「……なっ」
 再開された攻撃に、ヘルフレイムマスターは目を剥き。そして今にも消えそうな息を吐いた。
 おそらく、待った時間は三分程。互いを支え合って耐えた時間の終わりに、ガイストは低く唸る。
「次で、決まりだ」
 若さの差か。一歩先んじた鎌夜の背を、竜族の武人は視線と声で押す。
「請負った!」
 死神への怒り一色に思考を染め、鎌夜は『死』を間際に顔を歪めた女の懐へ飛び込んだ。
「テメーは全部、焼き尽くすぜ。体も、魂も。灰さえ残さずになァ!」
「――……様、ぁ!」
 向けられた憤怒の矛先は、眩く熱く。遥けき空から地表を照らす光炎に焼かれ、蒼き死神は消し飛んだ。

「今は安らかに眠りたまえ。灰は灰に、土は土に。アーメン」
 バフォメットの悼みの祈りに、空間の歪みと崩壊の始まりが重なる。
「危ないのにゃ! 急ぐのにゃ!!」
 戦いの疲れに体は重いが、雨音の声は変わらず軽く。月音と氷翠は顔を見合わせ、頷き合う。
 事は、成した。
 ならば残るは――。
「無事に戻るまでが任務というものだ」
 渦巻く気流に陣笠を飛ばされぬよう被り直したガイストを先頭に、鳥篭を出たケルベロス達は帰還を急ぐ。
 殿を務めた凪は、最後に振り返る。
「……さようなら」
 そこにはもう、何も遺っていなかった。

 永遠にも似た時間の果て、レギンレイヴらの野望は潰えた。
 虜囚の魂は、眠る。二度と目覚めぬ、そして何ものにも縛られぬ悠久の時を。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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