絶望と恐怖の刃

作者:千咲

●マラソン大会
 ――よく晴れた日の昼前、静岡県。
 春の香りが漂い始めたとは言え、まだまだ寒い日が続く今の季節は、まだまだ絶好のマラソン日和。
 この日は風も比較的穏やかで、前半で市街を抜けて、後半の海岸線を走る直線コースなどは、良い具合にスピードを乗せることができることだろう。
 そんなマラソンコース後半の沿道。ランナーの到着を待つギャラリーの間から、1人の少女がコースに飛び出してきた。
 齢の頃は15前後と言ったところか……輝くような銀色のボブカット綺麗な褐色の肌。
 でも何より人目を惹くのは下着っぽく映るその恰好で、ブーツから露わな脚は、ストッキングにガーターベルトという、煽情的な姿だった。
「ふふっ、早く来ないかなぁ……」
 まるで友達との待ち合わせでもしているかのようなことを呟く彼女は、コース外に出そうと声を掛けるスタッフのことなど、俄然無視。
「乙女の肌に触れようとするなんて、えっち!」
 そんなことを言われるとスタッフの方も掴みかかるような真似ができず、次第にギャラリーを巻き込んで大盛り上がり。
 そうこうしているうちに先頭ランナーの姿が……。
「あはっ、来た、来た!!」
 少女は、群がるスタッフたちを振り切り、ランナーの正面へと走ってゆくと、驚くランナーの脇を何事もないかのようにすれ違う。
 が、ホッとしたのも束の間、走り抜けたランナーが数十メートル後に鮮血を噴き出して崩れ落ちた。
「さすが、速いのね……こんなに距離が開いちゃった。さて次は……」
 刃から滴る血を、舌ですくうような格好をしながら、少女はにこっと微笑む。

 血の気が引いて逃げる観客。しかし、これが選手1人1人に伝わるのはまだ先のこと。狂気に彩られた、凄惨なゲームの始まりだった……。

●絶望と恐怖の刃
「みんな……また次のダモクレスが現れることが分かったの」
 集まった面々に、赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)が極めて不穏な話題を切り出した。
 指揮官型ダモクレス『イマジネイター』の次なる刺客みたいなの、と。
「この部隊は数あるダモクレスたちの中でも、特に規格外と言えるイレギュラーの機体ばかりを取りまとめ、地球侵略の為に差し向けてきているようなの。それはもう、同じ軍団に所属しているとは思えないほど機体もメンタリティもばらばら。そんな集団の中から静岡県に遣わされたのが、『ウツギ・エイト』と言う、少女型の機体なの」
 あどけない少女のようなその娘が現れるのは、静岡県で開催されるマラソン大会のコース後半、沿岸に出た辺りだと言う。
「その娘は、先頭集団が到達するより前に何処からともなく現れると、周りにいるギャラリーには手を出すことなく、関係者を躱しながらコース中央に陣取るの。そして……最初のランナーが到着した瞬間、本来の狂気を表に出して襲いかかるの。そう、何をしたら注目を集める事が出来て、如何に皆の反応を窺えるのかがよく分かってるみたい」
 困ったことに最初は手ぶらで現れるから、下着のような恰好もあいまって、変わった娘がショーをやっているかのように、ギャラリーも深刻さを実感できないのだと言う。
「正直、状況が状況だけにマラソン大会が続行出来なくなるのも、最悪、周りの人たちに被害が出るのもやむを得ないかも知れない……けど」
 もし可能なら被害ゼロかつ大会への支障も無く、この少女型ダモクレスを排除して欲しいの、と窺うような視線を送る陽乃鳥。
「狂気を顕わにしたときの彼女の武器は、両手に現れる絶望と恐怖を司る2本のナイフのみ。その2本を駆使して戦う彼女の戦闘スタイルは、天性のスピードを活かした完全なインファイター。ゆえに比類なき攻撃力はもちろんだけど、より大変なのは彼女を捉えることかも知れないね」
 そして、そんなスタイルなんかより何より特徴的なのは……と続けて語る陽乃鳥。
 戦い方の端々に彼女の性格が現れる――格下とみるや嗜虐的な戦い方に、同格以上なら一撃必殺を狙ってくる――ってことを頭の片隅に置いておくと良いかもと付け加える。利用できるかはともかくとして、と。
「いずれにしても軍団に所属するとは言え、イレギュラーと呼ばれるだけあって任務や命令なんかの範疇には収まらない存在だから、気を付けて。目的のためには何をしてくるか分からない……けど、怖じ気付いてちゃケルベロスは務まらないもの」
 だから……あとは任せるわね、と、陽乃鳥は一際強い口調で皆を送り出すのだった。


参加者
ポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
シーラ・アルマーティア(銀竜騎・e33644)

■リプレイ

●静岡マラソンに迫る危機
 静岡の朝は空もよく晴れ渡り、風も穏やか。絶好のマラソン日和。
 生憎、昼過ぎともなるとだいぶ温かくなると見られており、そうなる前にコース後半、海岸線、長い直線コースでスピードに乗ってゴールしようと、全般的にスピードレースの傾向。
「うつぎさんの妹機、ですか。色んな意味で、どうしても時間を取られてしまいそうですが……現れてからの時間、大丈夫でしょうか」
 土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は観客の中に紛れて時計をみやりながら、ヘリアライダーの陽乃鳥が言っていた、大会の続行可能リミット――せいぜい7、8分というのを気に掛けていた。
 が、ポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)は気にしても始まらないと割り切り、
「それより、ダモクレスは……いや、指揮官機は何を企んでいるのやら」
 マラソン大会を妨害して惨劇を起こすことに、どれほどの意味があるのかと思いを巡らせる。
「まったく。命があるとはいえ、ダモクレスのような機械がなにかを楽しむというのはあり得るのでございますかね? 偏見が過ぎるのかもしれませんが……」
 周囲を弄ぶような真似をするという敵の話を思い出しながら、ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)が呟く。
「どうでしょう。でも、いずれにしても、こうして私たちが来た以上、弄ばせる命は一つとしてありません」
 ダモクレスたちが何を考え、何を感じているのか明確な答えなどない。が、自分たちの為すべきことは明確ですと、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)が応えた。
「そうね、わたし達の目標は大会の中止回避及び、犠牲者を出さないこと。妹の凶行はわたし達の手で止めます」
 心強い仲間たちの言葉に安堵しながらも、必然的に真剣な表情にならざるを得ない、五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)。
 その想いの強さが滲み出たのか、所属旅団の長、アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)は、力の限り共に立ち向かいたい……と思わずには居られない。
「そうだね。僕たちの手で止めよう。犠牲者を出すことなく、悪を滅すること! 単純だけど、大切なことだからね」
 と言ったとき、ふと、ギャラリーの間から1人の少女がコース上に躍り出る――下着同然の恰好の銀髪、褐色の肌の可愛い少女が。
 そして、それを見つけた途端、ケルベロスたちは合図もなく追うように観客の間を抜けだした。
「運営スタッフです。皆さん、落ち着いて! 少しココから離れてください」
 事が起こってからでは遅いと、ポートが周囲の人々への呼びかけを開始。ざわつく程度で大きな騒ぎにならないのは、プラチナチケットの効果だろうか。
「このままコース外に追い出せれば、一番良いんですけど……」
 シーラ・アルマーティア(銀竜騎・e33644)が良い手がないものかと思案する。手がなければ皆で力押しでもするしかないか、と。
 そこへレイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)は指をパチンと鳴らす。
「ん、可愛い娘だな。ダモクレスじゃなけりゃ、デートに誘うんだがなぁ……」
 秘密兵器、という訳ではないが、とっさに用意してきた鎖製の投げ網を構えてファントムに騎乗。一気に彼女に向けて走り出す。
(「……さて、どう避ける?」)
 思い切って網を投げる。その瞬間、褐色の少女の両手にナイフが出現。その目の前で刃が縦横に閃いたかと思うと、鎖網が細切れになって地に落ちる。
「行くぜっ! 相棒っ!!!」
 全開で立ち向かうレイ。不意を突いて一気に押し出そうと、騎乗したまま無双の力で組み付こうとするも、その手が触れる瞬間、幻に触れたかのように擦り抜けてしまった。
「やはり、そう簡単ではありませんか……仕方ないですね」
 コース上ということもあって控えていたが、被害が出てからでは遅い。シルクが、やむなく殺気を放つことで一般の人々にはこの場を暫く離れてもらうことにした。
「あなたが企んでいるその凶行、この場では行えぬものと知りなさい」
 人々が離れていった後を、ステインがすかさず駆け抜ける――キープアウトテープ。万一のことがあっても戦場に立ち入らぬよう、禁止の一線が引かれたのだった。
「ふーん、これがケルベロスかぁ……楽しそうだね。なら、キミたち相手でも良いかな」
 褐色の少女――ウツギ・エイトは、まるで邪気がなさそうに、にこっと微笑んでみせた。

●エイトvsシックス
「妹の凶行を止める為に、ウツギ・シックス――出撃します」
 今日ばかりは……と、敢えて名乗り出ながら初撃に砲撃形態にしたドラゴニックハンマーを構えたうつぎ。
 その前に、と一瞬だけ合図で制し、シルクが一歩前に出る。
「花の鎖は艶やかに……」
 言葉と共に菫色の盾が、咲き誇る花弁のように拡がって彼女の周りを彩る。その絢爛な姿が否応なくウツギの視線を強引に惹く。
「……ほら、もう目が離せない」
 ウツギの意識がすっかり花に向けられた瞬間を逃さず、竜の力を込めた砲弾が直撃。
 意識の外からの直撃に驚き、足が止まる。そこに、高速回転したステインがエクスカリバールの一撃を見舞う。
「盛大に、パーツを溶かしてあげましょう……!」
 両腕の黄金爪に炎を灯し、殴りつけるポート。
 炎の饗宴はさらに続き、ライドキャリバーのファントムが炎を纏って突撃するが、それは寸前で躱される。しかし、それを読んでいたレイは、寸前に跳んで上空から一気に蹴り抜いた。
「痛っ!!」
 感じたままを口にするウツギは、比較的珍しい部類なのだろう。とは言え、双方を躱すのが無理と悟った瞬間に、蹴りを喰らいながらも腿の辺りに刃を突き刺した辺りは抜け目がない。
 そして、抜いた刃の血塗られた刀身に、心の奥の苦い過去が映し出され、痛みと共に膝をつく。
「押し出せないのは残念ですが……人払いができたのは何より」
 構えたバスターライフルからエネルギー弾――グラビティを中和する弾丸を撃つシーラ。一撃でウツギの反応ががくっと落ちたのが見た目にも伝わってくる。
 すかさずアルレイナスが気脈を突こうと狙い打つが、さすがに精緻さを求める攻撃は当てるのが難しい。
「なら、これならどうですか?」
 岳が、仲間の感覚を研ぎ澄ます輝くオウガ粒子を散布。
 それを受け、妹の動きが手に取るように感じられるようになったうつぎは、まずは確実に力を削ぐべきと、礫を叩き付けた。
「性能では、確かに貴女の方が上かもしれない。でも私には積み上げてきた経験がある。そして仲間がいる。お姉ちゃん、負けません!」
「仲間? 何それ? 経験――それって学習機能のこと? そんなの標準装備じゃない!?」
 だって、ほら……と、2本の刃を以て、踊るように姉を斬り裂くウツギ。みるみるうちに無数の傷が走り、あちこちが朱に染まる。
 さらに追い打ちを掛けようと、ナイフを振り上げた敵との間に、岳が大地を割るように宝石の柱を召喚。凶刃を防ぐとともに、うつぎの身体を包み込むんで体内のグラビティを回復させてゆく。
「地球さん、どうぞ力を貸して下さいね~」
 まるで祝福に抱かれているかのような温かい感覚。
 回復の時を稼ぐべく、代わりに前に出たのはポート。高々と跳躍し、鋭い蹴りを見舞う。
「あなたの相手は私が引き受けましょうか」
「そのまま外に引き摺りだしてしまいましょうか」
 たとえ躱されたとしても、避けるために後ろに退がらざるを得ない絶妙な位置に竜砲弾を撃ち込むシーラ。地道に彼女を動かして行けば、いずれコースから押し出せるはず……と。
 だがウツギの方も、簡単には距離を詰めさせない。
「こっちだって、せっかく一流のアスリートと遊ぶ楽しみを先送りにしてるのに……外になんか出たら機会を逃がしちゃう」
 と、相手をすると明言したポートのトラウマを抉るように刃を突き立てようとするが、その2人の間に、シルクが割り入って代わりに刃を引き受ける。
 朱に染まった刃に、苦い過去が映し出され心の傷を抉られるも、断ち切るように一歩下がってゲシュタルトグレイブを繰り出す。
「容易く手折れる程、軟であるつもりはありませんよ」
 意表を突いて垣間見える凶悪さを孕んだ反撃に、ウツギも咄嗟に反応できなかった。

●迫る時間との戦い
「やんちゃにもほどがあるってもんだ。他人のトラウマほじくって、何が楽しいもんなのかね。まあ、この際はどうでもいいことか……五継様の御姉妹との決着、お手伝いさせていただきます」
 ステインのバールに無数の釘。そのままフルスイングでウツギの額を掠めた。
「よーしっ、一気に押し切るぞ、旋刃脚っ!!」
 仲間との位置取りを巧みに変えたアルレイナスの蹴りがヒット! 半ば偶然の産物かも知れないが、技を叫ぶことで逆に敵の反応のずれを呼んだらしい。
「アスリート相手だろうと、一般人しか相手にできなかったのは、やっぱりお姉さんに敵わないってことを判ってるからですよね。その辺りを、よく教えてあげましょう」
 岳は挑発がてら、うつぎに電気ショックを飛ばして神経を活性化。その勢いを借り、ドラゴニックハンマーを超高速で振り下ろす。
「相手を知り、理解する事で前に進む。私はそれを学びました。相手をいかに無惨に殺すか、そんなことだけに憑りつかれた貴女には先が無い」
「学ぶ? 何それ、意味分かんない。楽しいか、楽しくないか……それ以外に何があるの?」
 半ば諭すような姉の言葉に、ウツギ・エイトは微塵も理解できない様子でナイフを閃かせた。姉を、何度でも無惨に斬り裂こうとするその刃の前に、レイが己のサーヴァントを強引に潜り込ませた。
(「すまん、相棒!」)
 そして自らは疾走時の摩擦を熱に変えて、炎と化した蹴りを喰らわせる。
 次いでポートの異形の巨腕が、さらに膨れ上がる。
「崩れる。壊れる。砕ける。消える。無常の理、其の身に受けて……!」
 吹き荒れる破壊の嵐。黄金の爪が引き裂き、砕こうとする。
 その間にアルレイナスが大きな声音で回復を促す。
「響け、癒しのジャスティス力! 悪しき者よりの傷を虚無に消し去る光となるのだ! 輝け、波動ッ! ジャスティスヒーリングッ!!」
 とは言え、さすがにメディックとは違い、その回復量は十分とは言い難い。ゆえにステインが分身の術を用いて援護。
「……助かるぜ、これで俺も相棒もまだまだ戦える」
 レイは屈託ない笑みを浮かべて応えながらも、その両手の銃は既にウツギを狙い撃っている。
 そして更にシルクの竜語魔法が響いた――よく晴れた空に浮かぶ竜の幻影。炎の息吹が褐色の肌を灼く。
「回復なんて鬱陶しい……」
 少々イラついたようにステインを狙うウツギ。トラウマ云々が何気に気に障っていたらしく、血に塗れた刃に、誰かの憎しみに満ちた眼差しが映る。記憶の奥底に眠る誰か……か!?
 直接的なダメージよりも重く感じられるそれが、思わず身体をふらつかせた。すかさずシーラが気力を分け与えるようにして急場を凌ぐ。
 代わって再びポートが前に。気脈を断ち切るように黄金爪の先を突き入れる。
「稼働を遮られる心地は、いかがですか……まだまだ邪魔しますけどね!」
 その一撃で躯が思うように動かなくなったのを感じたのか、ステップを踏んでリズムを刻み始めることで維持を図るウツギ。
「また例の一撃が来ます!」
 ステップから一気に間を詰め、両手のナイフを繰り出す神速の斬撃。
 防ぐとまでは言わないまでも……と、岳が大地を踏み抜くようにして振動を生むことで隙を作った。
 そのお陰か、アルレイナスが一足早く身を滑り込ませて刃を受け、返す剣に空の霊力を込めて斬り返す。

●決着
「頃合いだ。一気に仕留めるぜっ……!」
 レイの疾走。そして魔狼銃フェンリルと、冥淵銃アビスを合わせるように構え、高密度の光弾を撃つ。それは、宙に光の帯のような軌跡を描きながら5つに分裂。それぞれの方向から一気に集約するように敵を貫いた。
 多方向から弧を描くように飛ぶ光とは対極的に、左右から最短距離で放たれたのは、シルクのアームドフォートの主砲とシーラの竜砲弾。
 さしものエイトも、ダメージ故か反応が鈍く躱しきれない。
 そこにステインのどす黒い悪意が膨れ上がり、右拳へと集約してゆく。その拳が闇に染まりきったところで放つ渾身のストレート。ウツギの小柄な身体が吹っ飛んだ。
「うつぎさん……決めていただけますか」
 その言葉を受け、うつぎが妹を抱き起こすように……。
「……姉の抱擁では不服かもしれませんが。――おやすみなさい、エイト」
「ま……まだ私は……」
 限界に達したのだろう。それでもまだ動く手でナイフを握り絞めるウツギ・エイト。
 その様子に、僅かに辛そうに表情を歪ませながら、優しく抱きしめる――同時に無音で全身の兵装が駆動――ありったけの弾薬が零距離で撃ち込まれてゆく。
 爆煙が辺りを覆い……やがて、薄らいだ後に残ったのは唯一人。
 しばらく……と言っても1分にも満たないくらいの間、立ち上がることも忘れ、座り込んだままの彼女に岳は、
「姉妹で相争わざるを得なかったこと。『心』がある以上、哀しくないはずはないと思います。 ……泣きたかったら我慢しないで下さいね」
 ハンカチを手渡してから、すぐにコースのヒールを始めた。
「それでは……皆さん、お騒がせしました、もうすぐ先頭グループが来るので盛大な応援をー」
 遠くに離れていった人々を呼び戻すべくポートが声を掛ける。
 ――無事に済んで何より。終わり良ければ……とは誰の言葉だろうか。
 ようやく我を取り戻したうつぎは、ゆっくりと立ち上がり、仲間たちに頭を下げた後、エイトの惨殺ナイフを拾い上げ、皆と一緒にその場を離れてゆく。

 正直、ギリギリだったこともあり、観客が完全に戻ることはなく例年より静かな大会になるだろう。が、それでも運営自体に支障ない事がせめてもの幸い。
 ケルベロスたちは、そうした結果にようやく安堵し、帰還の途についた。
 ……遺品のナイフを大切に握りしめながら。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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