春散らしの機荒神

作者:黄秦

 その町は大都市の外れにあり、未だに広い田畑がそこかしこにある田舎町だった。
 しかし最近は近所に大型のショッピングモールが開店し、道路が広がりモノレールも開通して……と、少しばかり発展を見せている。

 その日、その町の中でも特に広大な畑の真ん中で、不意に風が激しく吹き荒れた。
 そして、ごうごうと砂塵を上げて逆巻く風の中に、武者姿の巨大なダモクレスが現れたのだった。
「ひっ」
 悲鳴に、ダモクレスは振り向く。それは、5軒ほど立ち並んだ住宅の一つ、二階からダモクレスを見た住人の物だった。
 ダモクレスは、やおら手にした剣を振りかぶり、その家へと振り下ろす。
 凄まじい一撃で家はあっけなく破壊され、住人は倒壊した家の下敷きになった。
 更にダモクレスは、銃を取り出し引き金を引く。エネルギー砲が逆巻く暴風となって、残りの家々へ襲いかかった。

「ドラゴンめは、おらぬ……か。それは、そうか」
 ダモクレスは、破壊された家屋をつまらなそうに見やると、そのまま立ち去ろうとする。
「……おお」
 そして、忘れていたと振り返り、人々の亡骸からグラビティ・チェインを奪い取った。
「善し」
 奪いつくすと、ダモクレスは改めて北の方へと目を遣った。
 モノレールの中でダモクレスに気付いた乗客達が騒いでいるのが見える。
「ム。あれは、グラビティ・チェインを運んでおるか」
 ダモクレスは威勢を正し、人々ではなくモノレールへと向けて大音声で呼ばわった。
「我はスサノオマシン! 竜を滅する、もの! 我が武装をもって、貴様をコロし、その内にあるグラビティ・チェインをもらい受ける!」

 『クサナギ』が火を噴き、『アメノハバキリ』が閃いて、言葉通りにモノレールは破壊され、乗客諸共に落ちて炎上した。
 スサノオマシンはそれで満足などせず、ショッピングモールへと向かう。
「少しは、壊し甲斐が、あろうか。中の、グラビティ・チェインは、潰したついでに、回収すればよかろう。面倒だが、善し。仲間たちの、そしてイマジネイターのために、なる」


 指揮官型ダモクレス達の地球侵略は今も続いている。
 六体の指揮官の一体、『イマジネイター』は、規格外のイレギュラー達を取りまとめ、地球侵略の活動を行っている。
 ダモクレスの中でも、イレギュラーな存在である彼らに、統一された作戦などはない。各々が各々の考えで、グラビティ・チェインの略奪やケルベロス撃破などを目的として動いているようだ……と想定されている。


 そして、セリカ・リュミエールは予知を告げた。
「イマジネイターの配下である『スサノオマシン』が東京郊外の町に現れたようです。
 右手に『クサナギ』なる銃を持ち、左手には『アメノハバキリ』という、刃が五つに枝分かれした巨大な剣を抱えています。
 体長凡そ7メートル。二階建ての家と同じくらいと考えてもらえばいいでしょう。
 大きさのせいか、それとも対ドラゴン兵器の矜持か、彼は自分より小さいものを気にかけません。見下しているのではなく、眼中にないのです。
 人間はグラビティ・チェインの小さな入れ物くらいの認識のようです。
 今回は、イマジネイターのためにグラビティ・チェインを集めていますが、人間は建物と一緒に壊してしまえばいいと思っているようで、一人一人殺して回るという事はあまりしたがらないようです。
 そんなスサノオマシンですから、ケルベロスの皆さんの事も、最初は相手にしないかもしれません。
 ケルベロスが脅威であることは知っていますから警戒はしますが、まず周囲の破壊を優先しようとします。
 こちらが力を示し、倒すべき強者と認識させれば、今度は正面から戦いを挑んで来るでしょう」

 周囲の状況はこうだ。
 スサノオマシンの出現場所の北側が道路で、モノレールやショッピングモールがある。
 西から北にかけて、住宅街があり、南は畑が広がっている。
 東には、大きな川が南北方向に流れており、隣町との区切りになっている。
 周辺住民は避難させ、一帯は封鎖が完了している。田畑で戦う限り、人的被害は心配ないだろう。時期的に作物もあまりないため、そちらの被害も気にする必要はない。
 ただし、ショッピングモールの避難がまだ完全ではない。
 もし、スサノオマシンを引き留めることが出来なければ、負傷者や死者がでる可能性があるため、その前には撃破して欲しいとセリカは言う。

「もう一つだけ。国道に接する辺りに、小さな菜の花畑があります。今の時期は黄色い花が愛らしく咲き、例年、これを楽しみにしている人も少なくありません。
 勿論、皆さんのご無事と撃破が優先です。ですがもしこの花畑が守られたなら、それは嬉しく思います。
 イマジネイター達の野望を打ち砕くためにも、どうか皆さん、よろしくお願いします」
 羽野間・風悟は赤く燃える尻尾を振って立ち上がる。
「おう、まかしとけって!」
 そして、親指を立て、にっかり笑うのだった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)
ユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ

● 
 その日、東京都、郊外。
 いつもであればモノレールが走り、多くの車が行き交う道路は今は封鎖され、人も車も通行するものは何もない。
 道路の南側には、一面畑が広がっている。時期的に作物の植えられてない場所が多く、耕された地面が黒々と広がる中、菜の花畑だけが、黄色の絨毯を作っていた。
 底抜けの青い空にも、何かを察してか飛ぶ鳥の姿すらない。

 やがて、空の青がぐにゃりと歪んだかと思うと、長大な剣と銃を持つ、巨大なダモクレスが現れた。
 柔らかな土を踏みしめれば、ずぶ、と沈み込み、大きな穴をあけている。
「む……?」
 異様なまでの静けさを訝しみ、スサノオマシンは辺りを見渡す。建物に生き物の気配はなく、モノレールは線路だけ。
 ゆっくりと踵を返し、両の手に武器を構え北へと一歩を歩み出した、その時。
「燃え盛る竜の炎、受けてみてっ!」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)の叫ぶに合わせ、轟と唸りを上げて、三体の竜が飛んだ。灼熱の炎を纏い、スサノオマシンへと襲い掛かる。
 突然に現れた炎の竜に、スサノオマシンは僅かな躊躇も見せず、最初に牙を剥いた一体を巨剣、アラハバキで切り捨てた。
 シルのドラゴンは四散したが、その隙からフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)のドラゴンが剣へと食らいつき、浜本・英世(ドクター風・e34862)のドラゴンがその巨体に巻き付いて、スサノオマシンを炎の渦に包み込んだ。
「むんっ!」
 スサノオマシンは気合を込めて剣を振るい、幻影のドラゴンを打ち消す。しかし、消しきれない炎が纏わりつき、鋼鉄の皮膚をチロチロと焼き焦がしていた。
「君がスサノオの名を冠するならば、まずは多頭の竜がお相手しようというわけだ」
 英世が嘯いて見せた。

 ドラゴンの幻影を皮切りに、ケルベロスらは総攻撃を仕掛ける。
 浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)がアームドフォートの一斉発射で動きを封じ、ユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813)が打ち出した光弾が炸裂する。
「全く仕事熱心なことだ。竜十字島に殴り込みでもかければよい物を」
 篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)時空凍結弾が凍てつかせた。
 アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)は不滅の英雄譚で、癒しと、不浄を消し去る見えざる盾を与える。
 一方で、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)のフロストレーザーは、回路の一部を凍てつかせ、羽野間・風悟(ウェアライダーのブレイズキャリバー・en0163)がスターゲイザーを見舞った。


 ケルベロスたちの一斉攻撃が地を揺るがし、砂煙が蒼天に吹き上がる。
「やったか!」
 風悟がフラグを立てる。
 もうもうと立ち込める煙がやがて晴れた時、スサノオマシンは、変わらぬ偉容をケルベロスに見せつけていた。確かに手傷を負わせている、が、その巨体はまだまだ余裕を見せていた。
 フラグが無事回収されたところで、スサノオマシンは滅竜砲クサナギの銃口をケルベロスたちに向けた。
「汝ら、ケルベロスか。我は、スサノオマシンである」
 銃口にエネルギーが収束し赤熱した。
「その猛攻と、ドラゴンの幻影にて、我を、惑わさんとした、愚かしさに、応えるものである!」
 言いざま、引き金を引く。滅竜級の名に相応しい高エネルギーが赤熱する砲弾となって発射され、ケルベロスたちを飲み込もうとする。
「ニャーゴ大佐!」
 アリサはサーヴァントのニャーゴ大佐と共に走りだす。希里笑も一歩前に出て、身体を張って盾となる。
 庇い合い防御してもなお、炸裂した荒神の砲弾は、ケルベロスたちに大きなダメージを与えた。
「あいたた……やっぱり手強いね!」
 シルは痛む傷を強く抑えた。滅竜級とさえ言われるほど強大な敵、スサノオマシン。手にした武器は、正直ちょっとかっこいい……けれど。
「ドラゴンもダモクレスも、人を食べ物みたいに扱って……そんなこと、させてたまるかっ!」
 それ以上に、許せない敵なのだ。
 四大属性のエネルギーをその手に集めて放つ。これだけの巨躯だ、当てることは難しくない。最初の一撃を、もう一つのエネルギー弾で追い撃つ。
 フィーはそのシルに、癒しを施す。
「小さいとか強さに関係ない事、教えてあげるよ、ねっ?」
 皆を(主に女子)見て同意を求めるフィーから、希里笑はそっと視線を外した。
 ユアンは心の力を溶岩に変えて、スサノオマシンの足元から吹き上げさせる。
「ヴィル、回復を頼んだよ?」
 ユアンに頼まれたテレビウムの画面が明滅し、気力を奮い立たせてる。
「やれやれ、偉そうなのはまあ口だけではないってことですかね?」
 クサナギの砲撃で毛並みが焦げてしまったジュリアス、反撃の雷刃突を見舞う。迸る雷気が爆ぜて、スサノオマシンの装甲を破壊した。
「逃げ帰っては如何です? 今ならまだ後ろから撃ちません」
 一歩下がって間合いを離すスサノオマシンへ、更に挑発を続けるジュリアス。ケルベロスたちは、スサノオマシンを建物も人もない東側へと誘導したいのだ。
 まだ、遠ざけたとはいいがたい。まだまだ、威を示すには足りない。
 アリサは時間を凍結する弾丸を放ち、スサノオマシンから熱を奪った。
「……まぁ、最後に倒れ伏すのは君の方だがね」
 英世はマントを翻して跳躍し、重力を乗せた蹴りをスサノオマシンに食らわせる。
 五枝の長剣で斬りつけるが、挙動は僅かに鈍い。刃の間をすり抜け、輝線を描いた超重の一撃が、家ほどもある巨体を揺るがせた。
「引き裂けッ!レイザァァァッ!ウィングブレェェェェェェドッ!!」
 空を裂くほどに吼えて、鷹兵は超硬質化させた己の翼で、スサノオマシンを一文字に斬り裂いた。
 ひらひらと舞う風悟の紙兵が緩やかに癒す。
 紫水晶の盾が展開して、仲間たちを守っていた。


「むんっ」
 スサノオマシンの身体からケーブルが伸びて、まるで絡み合う木の根のように地を這い、力を集める。
 それがスサノオマシンに与えたダメージを回復する。
 そして、その顔は再び北を向いた。菜の花畑が広がる方向だ。
 希里笑はライドキャリバーを駆った。高く高く跳んで、スサノオマシンの眼前まで迫る。
「眼中に無い様だね。でも、無理やりにでもこっちを見てもらうよ!」
 アームドフォート『瑞天』を構え、至近距離から主砲をぶっぱなす。その顔面を直撃するのと、アラハバキの一撃がライドキャリバーを薙ぎ祓うのはほぼ同時だった。
 もっていかれそうになる衝撃を堪え、ライドキャリバーはなんとか着地する。
 ジュリアスは絶空斬で畳みかけ、さらに傷を広げた。
 その巨躯を恃み、スサノオマシンは強引に反撃に出る。その足元から炎が吹き上げた。
「小さくても竜だと言ったはずですよ」
 ニートだからって侮れば火傷するのだ。
「成程、ならば、汝で試し斬り、よ」
「え」
 自分を見るスサノオマシンの殺気がただ事でなくて、ちょっと引きこもりたくなるユアンだった。
 ならばと、英世はもう一度ドラゴンの幻影を飛ばした。もしかすると、誘導しようとする意図はバレているのかもしれない。
 それでも、乗ってくれているならそれでいい。これだけ遠ざかってなお、スサノオマシンの攻撃の余波が菜の花の花びらを散らしてるのが見えた。
 風悟は満月に似た光球を鷹兵に放ち攻撃性を高める。
「その装甲、叩き割ってくれる!」
 鷹兵のルーンアックスは輝きをいや増し、全力で振り下ろせば、言葉通りにスサノオマシンの鋼の装甲を打ち砕いた。


 ウルォオオオ……ン!
 荒ぶる機神は、軋むような咆哮を上げた。
 アメノハバキリを振り上げ、空間ごと叩き斬るような勢いでシルに斬りつける。
 真っ向から、ゾディアックソードで受け止めようとするシルだったが。
「……くぅ、お、重いぃ~」
「いくらなんでも無謀だよッ!?」
 アリサとサーヴァントたちが急ぎ割って入り、シルがぺちゃんこになる前に、弾き飛ばして脱出させる。
「ちいさくても強いけどねぇ、無理は駄目だよ?」
 ごろごろ転がっていくシルへ、フィーは癒しの力を送る。
 希里笑はライドキャリバーを駆ってスサノオマシンを翻弄し、その、死角からドリルで貫いた。
「潰すよ。こんな奴を野放しにはできない!」
 希里笑が抉り開いた穴をジュリアスの使い魔が食い破り、さらに広げる。


「むう、強い……。何故、汝らは、強い?」
 自分と同等、或いはそれ以上だけを視界に入れて来たスサノオマシン。
 小さく見下ろすばかりの犬たちが、自分を追い詰める。それが不可解であった。
「だが……善し!!」
 滅ぼす、戦うために生まれたようなものだ。ならば強者を相手取って、何の不足があるだろう。そこに大小など関係なかった。
 スサノオマシンは、完全にケルベロスらへと向き直る。
「その強さ、ねじ伏せる!」
 その力をクサナギに全て込め、放つ。ドラゴンを滅するための銃から放たれる全力の砲弾は、爆炎と共にケルベロスへと炸裂した。爆炎が、蒼天を刹那、昏く閉ざす。
 フィーは即座に雷の壁を構築する。ニャーゴ大佐とアリサが、希里笑は躊躇なく前に出た。
 アメジスト色の盾が展開し、援護する。それでも殺しきれない威力がジュリアスを襲った。意識の途切れかける鼻先に、風悟の紙兵衛が乗って、癒す。
「守る、私が絶対に守る……!」
 アリスは願う、おとぎ話の英雄たちのように守りたいと。幻想の力を強い想いで、仲間を守る盾へと変える。小さくても、その力を束ね、いくつもの強敵を破ってきたのだ。
 鷹兵もまた癒しに回った。
「貴様にくれてやる命など、一つたりともない……!」
 その叫びが、この戦いを顕していた。

「『其は其の中より取られたればなり。汝は塵なれば塵に返るべきなり。Asche zu Asche Staub zu Staub』」
 ユアンの詠唱。中空にいくつもの閃光がひらめき、放電と爆発を引き起こした。貫く熱線が回路を破壊し、爆発の衝撃はさしもの巨体をも揺るがした。
 たまらず、スサノオマシンは木の根を這わせ、力を啜ろうとする。
 しかし、フィーはそんな暇を与える気はない。
「『枝葉を伸ばし絡め取れーー』」
 茨めいた棘蔦が絡み付き、伸ばした根ごと磔けにして、拘束する。スサノオマシンの伸ばした根に咲いた花は、終わりを告げる為の目印。
「武装混剛!! ヨーツイブレードおぉぉ くぁらたけわりいぃぃ!!」
 ジュリアスの全力で、縦一文字に切りつけ両断する。
「おぉ……うぉおおおお…………っ」
 全身から放電している。熱に鋼の皮膚は溶けて、その苦痛でスサノオマシンが呻く。それは、人の声でも機械音でもなく、吹きすさぶ冬の風のように響いた。
「ケルベロスよ!!」
 スサノオマシンは吼えた。アラハバキを水平に構え、最後の力を全て込めている。
「受けて見せよ!」
 巨体が、地を蹴った。
 唸る嵐の如き雄たけびを上げて、スサノオマシンは突進する。
 風悟の光球がシルを包み込んだ。
 シルは、ゾディアックソードを構え、真っ向から受け止める。今度は、無謀ではない。
「いっけっぇええ!」
 星座の重力を剣に宿し、大きく振るうその勢いで、アラハバキへとその切先を叩きつけた。
 重い一撃が、アラハバキの枝刃を砕き、剣身と食い合った。その衝撃が体の芯まで揺さぶって、シルは身動きも取れない。
 もう一撃が来たら、こちらの負けだ。……しかし。
「……見事」
 アラハバキの縦横にひびが入り、砕けた。スサノオマシンの両腕が落ちる。
 英世が指を鳴らし、空間ごとスサノオマシンを両断する。
 真っ二つになった上半身がずるりと滑り落ち砕けた。続いて足が膝をつき、地響きを立てて倒れ伏す。
 度重なる破壊で内部が細かく粉砕されたのか、大量の細かな結晶が、体中に穿たれた傷穴から砂流となって流れ落ちた。
 ――神は死すと塩の柱になるというのは、どこの神話だったろう?
 主を失ったアラハバキと滅竜砲クサナギもまた、形を失って崩れ去った。


 鷹兵が見あげれば、空が青い。遮るものが何もない空は、驚くほどに突き抜けて青い。
 緩やかな春の風がそよいでいる。
 戦闘の跡も生々しいこの大地と、酷く対照的だった。
「直で中心地を襲撃されずによかった、と言うべきか……」
 そこかしこに穴をあけ、焦がして煙を上げてはいたし、自分たちも傷だらけだったけれど。
 壊された家屋もほぼ無くて、遠くには菜の花畑が広がっている。
 避難した人々も直ぐに普通の生活に戻れるだろう。
 苦労の甲斐は充分にあったようだ。

「ありましたか?」
 英世がアリサに声をかける。
「無ーい! そっちは?」
 残骸に埋もれていたアリサが顔を出して問い返す。
「いえ……」
 皆はスサノオマシンの残骸を調べていた。
「何探してんだよ?」
 砂まみれの風悟と舞鳥轟がひょこりと顔を出す。なんで砂まみれかと言うと、さっきまで、被害を調べるといいつつ畑を舞鳥轟でヒャッハー☆と爆走してたからだ。ちなみにその後、全員からこってりと怒られた。
「コギト玉を探してるんだよ」
「ドラゴンを滅ぼした英雄の物らしいですからね。持ち帰って研究しようかと」
 アリさと英世が答える。
「ふーん? で、見つかったのか?」
 気のない問いかけに、探していた誰もが首を横に振る。それらしいものは見つからない。
「じゃ、一緒に壊れたんじゃね? 俺ダモクレスの事は詳しくねーけど、お前らだって別に探しながら戦闘したわけじゃねえんだろ?」
 風悟の言う通り、探しながら戦う余裕などなかったし、あれば儲けものくらいではあったけれど。
「……何らかの形で、ドラゴンへの対抗手段と成る事を期待したのだがね」
 だから、残念だと英世が言うと、風悟は笑った。
「それを組み込んだ奴は、今、みんなで倒したじゃーん! てことは、竜殺しのナントカより、俺らの方が強いってこった! そんなの研究したって大したことわからなかったって!」
 なぁ? とドヤ顔する風悟。
「いや、そういう事でもないんだけど……」
 その能天気さに、説明するのも面倒になったアリサだ。
「それより、ほら!」
 指さした方を見れば、菜の花が風に揺れている。
「余波で畑の端の方が少し傷付いちまったけど、大したことはなさそうだ。あいつらも、頑張ったんだぜ!」
「そうですか。良かった……」
 ユアンが微笑む。そろそろ、様子を見に行きたいと思っていた所だ。
「行って見よう!」
 シルが真っ先に駆けだした。
「ああ、まってよ」
 フィーも後を追う。つられて希里笑もライドキャリバーで駆けだした。
「私たちも行きましょうか」
 ユアンが微笑んで皆を促した。

 ケルベロスたちは菜の花畑を眺めて歩く。
 吹く風は穏やかで、今しがたまで死闘を繰り広げてたことも忘れそうだ。
 小さな黄色い花たちは満開に咲き誇り、春の到来を告げていた。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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