ミッション破壊作戦～難攻不落への挑戦

■リプレイ

●恐羅漢山解放作戦
　中国山地西部、恐羅漢山。
　山麓にキャンプ場やスキー場などのレジャー施設を抱く、広島県と島根県の最高峰。
　だが、そんな場所も、今や山中に出現した強襲型魔空回廊により、ダモクレスの侵攻に晒される地と化していた。
　鹵獲した生物を改造し、新たなダモクレスへと改造するダモクレスフランケン。こんなやつを、市街地へ解き放つわけにはいかない。未だ続く侵攻に終わりを告げるべく、ケルベロス達は上空に静止したヘリオンより意を決して降下する。
「ミッション破壊ってまさに地球救っちゃってる感じじゃん？　ボクたちまさにヒーローじゃん？」
　その手にグラディウスの柄を握り締め、チェリー・ブロッサム（桜花爛漫・e17323）は降下しながら、自らが英雄視されている妄想に想いを馳せた。
「ってことは、うまくできれば好きな人にかっこいいところ見せられるじゃーん！　いざ、ボクの恋路のために！　おとなしく破壊されてよねっ！」
　まずは一撃。光の障壁に刀身が触れると同時に、凄まじい爆風が辺りを包む。が、しかし、やはり一発だけでは破壊するのは困難なのか、それとも魂の力が足りなかったのか。
　強襲型魔空回廊を守る光の壁は、未だその場に健在だった。だが、その堅牢さを改めて前にしても、ケルベロス達は怯まなかった。
「この地球で好き勝手になんかさせないよ！」
　ダモクレスが地球に残した、様々な被害の爪跡。それを思い出しつつ、影渡・リナ（シャドウランナー・e22244）のグラディウスが光の壁に突き刺さる。その際に巻き起こった爆風が収まるよりも早く、続けてキルロイ・エルクード（放浪者・e01850）もまた光の壁に仕掛けた。
「俺がしてやることはただ一つ。奴らに全てを奪われた怒りと憎しみを、有りっ丈叩き付けてやることだけだ」
　人間を部品と見做し、兵器へと改造するダモクレス。キルロイ自身も、思い当たる節がないわけではない。そして、一度でも改造されてしまったら最後、その人間は二度と再び元の姿に戻ることはない。
「いくら踏み躙られようと、この思いが朽ち果てることなどあり得ない。俺の身に換えても、必ず地獄へ叩き落してやるぞ、ブリキ人形共！」
　ダモクレスにより運命を歪められ、自らの手で婚約者を殺めねばならなかった過去。その無念を、怒りを力に変えてキルロイはグラディウスを叩き付け。
「俺も過去に、デウスエクスに心と感情を奪われた側だからな。何かを奪い。更には作り替えるとか、我慢出来ないどころか、今すぐぶちのめしたくなるくらいなわけだ」
「もう二度と、後悔しないって決めたから……。だから、貴様らデウスエクスの思い通りには何一つさせませんよ……！」
　頬の横をすり抜ける爆風の残滓を横目に、ヤクト・ラオフォーゲル（銀毛金眼の焔天狼・e02399）とシルフィディア・サザンクロス（この生命尽き果てるまで・e01257）もまたグラディウスを構える。そう、大切なものを、人を、奪われたのは一人ではない。だからこそ、二度と繰り返してはならないという想いが、彼らの力の源となる。
「相手が誰であろうが何だろうが叩き潰し、この星から全てのデウスエクスを殲滅する……！」
「これ以上誰からも奪わせないために……」
　シルフィディアとヤクトの手にしたグラディウスの刀身が、彼らの想いに呼応するようにして力を増して行った。破壊すべき対象は極めて堅牢。しかし、最初から遠慮などするつもりもない。
「俺の心の残り滓と地獄……併せて持ってけ、グラディウス！　出し惜しみは無しだ！」
「そのためにも、こんな所からウジャウジャ湧いて来られるとウザくて鬱陶しくて邪魔なんですよゴミ屑共が……消え去れ……！」
　再び巻き起こる大爆発。もはや、爆風の余波によって地表さえ見えない。だが、それでも煙と煙の微かな隙間から光の壁を視認して、エリオット・アガートラム（若枝の騎士・e22850）はグラディウスの柄を握る手に一層の力を込めた。
「ミス・ネフィラ、ディザスター・キング配下……これまで僕が戦ってきた、憎むべき敵。心を持たぬ者は、こんなにも残酷なことが平気で出来るのか」
　人々を守るべき騎士として、人間を素材としか見做さないダモクレスの行いは、理解の範疇を越えている。恨みや苦しみや欲望ではない。ただ、粛々と作業するかのように人を殺す存在が引き起こす悲劇。これ以上、そんな悪夢を地球に広げないために。
「無辜の人々の命を奪い、その苦しみさえ娯楽のように楽しんできた奴らを、僕は絶対に許さない。被害者の絶望、遺族の嘆き……この胸の痛みは決して忘れない。騎士の名に誓って、悲しみと理不尽の連鎖は必ず終わらせる！　グラディウスよ、僕に力を……！」
　エリオットの叫びに呼応したグラディウスが光の壁に突き刺さり、新たな爆風が地表を覆った。が、そんな彼らの想いを重ねてもなお、光の壁は未だに崩れる様子さえ見せなかった。
「我が物顔の略奪者め、ポンコツのパーツにさせるものなんて何一つないよ。この星は、ボクが知らないことばかりだ」
　それでも、動揺する素振りさえ見せず、続けて烏丸・コジマ（魔忍ヤタガラス・e33686）がグラディウスを構える。
　広島、島根、そして未だ見ぬ様々な未知なる場所。それら、全ての世界の欠片を、一つたりとてダモクレスに奪わせてなるものかと。
「そもさん！　いやそもそも！　星喰らう神デウスエクスは、塵芥も残さず殲滅する！　それがボクの使命なのだ！　然らば、この魔空回廊もダモクレスも、分解、解体、破壊してみせよう！」
　それこそが、地獄の番犬としての自分の使命。たとえ、幾度阻まれ、退けられようとも、決して屈することはないと告げ。
「私の生まれ育った広島で好き勝手なんてさせない！　山も海も街も、ダモクレスの為に使わせはしない！　私達の大地を返してもらうよ！」
　これで最後。鎮座する難攻不落の障壁へ、白波瀬・雅（サンライザー・e02440）が駄目押しの一撃を叩き込んだ。
　瞬間、巻き起こる巨大な爆発。だが、凄まじい威力に反し、手応えらしきものが感じられない。
「諦めてたまるか！　こんなダモクレスが市内にまで進行してきたら、私の友達や家族まで危険が及んでしまう。大切な人達が、心無いダモクレスに作り変えられてしまう……。そんなこと、させはしない！」
　それでも、決して挫けず、退かず、彼女は最後までグラディウスの刀身を突き刺し続けた。
「皆、私に思い出の土地を守るための、そして大好きな人達を守るための力を貸して！　絶対に……諦めてたまるかぁぁぁ！」
　山中に響き渡る雅の声。溢れ出る衝撃が力の奔流となって周囲のダモクレス達を吹き飛ばし、天をも貫く轟音が、峡谷の端々まで広がって行った。

●難攻不落
　爆炎が静まると、そこにあったのは多数のダモクレス達の残骸だった。
「……ッ！　魔空回廊は！？」
　慌ててグラディウスを拾い上げ、起き上る雅。だが、果たして彼女の予想に反し、目の前には光の障壁が微動だにせず鎮座していた。
「マジかよ……」
　あれだけの想いを力に変えて叩き込んでもなお、不足していたというのだろうか。信じたくない現実に言葉を飲み込むヤクトだったが、いつまでも留まるのは危険でもあった。
「今は退きましょう。破壊はできなくとも、かなりの損害を与えることはできたはずです。それに……」
　他の仲間達を鼓舞しつつ、エリオットが言葉を切る。見れば、破壊されたダモクレス達の残骸の中から、一際巨大で不気味な個体が、ゆっくりと起き上り近づいて来ていた。
「……ケルベロス……アラタナ、パーツ……？　モクヒョウ、シュウセイ……！」
　全身に無数のケーブルをぶら下げた、巨人型の指揮官機。無機質な機械音を発しながら、この地を守るダモクレスフランケンが襲い掛かって来たのだ。
「痛っ！　……って、あぁっ！　ボクの洋服、破れちゃったじゃないかぁっ！」
　胸元を掠めたアームに服ごと肌を切り裂かれ、チェリーが思わず憤慨して叫んだ。
　こうなれば、徹底的にやってやる。お返しとばかりに鋭い脚の一撃で蹴り飛ばし、敵の関節をチューブごと破壊して。
「どうやら、見逃してはくれなさそうですね」
　己の纏った闘気を癒しの力に変えて、シルフィディアはすぐさまチェリーの傷を服ごと修復する。
「行きますよ……。準備はいいですか？」
「勿論！　皆で、ちゃんと無事に帰るまでが作戦だしね」
　エリオットの言葉に頷き応えるリナ。こんなところで、むざむざ機械人形の部品にされて堪るものか。
　投擲される殺神ウイルス入りの特殊カプセル。その中身がダモクレスフランケンに悲惨したところで、すかさずリナの振るった刃が汚染された個所を斬り刻む。空の霊力を帯びた斬霊刀の一撃は、敵の負傷している個所を、正確無比に斬り落とすのだ。
「ガラクタ風情が……。産廃は焼却処分だ」
　衝撃に後退したところを狙い、紅蓮の炎となって飛翔するキルロイの蹴り。それに重ねるようにして炎を纏ったライドキャリバーのファルコンが突撃し、更には大地を蹴った雅の脚が、真正面から敵の身体を貫いた。
「いっけぇぇぇっ！！」
　炎の着弾した個所に重ね、自らの脚に炎を纏ったかの如く蹴り飛ばす。巨体を誇るダモクレスフランケンも、さすがにこれは効いたのだろう。
　全身に飛散して行く炎に巻かれながら、重音と共に膝を突いた。そのまま倒れ込んで来るところを目掛け、ヤクトが敵のチューブやケーブルの集中する個所を狙い、鋭い指突を繰り出した。
「お前に改造される趣味はないぜ。その前に、こっちがバラバラにしてやるよ」
　瞬間、内部より弾け飛ぶエネルギーチューブの数々。気脈ならぬ、エネルギー回路そのものを寸断され、ダモクレスフランケンの動きが俄かに鈍る。
「おやおや、調子が悪そうでありますな！　そんなポンコツは殴ってみよう！」
　もっとも、機械が殴られて直るのは迷信に過ぎないため、命の保証はできないが。そう結んで、コジマの掌底が炸裂し、吹き飛ばされた機人の身体がバラバラに弾け飛んだ……かに、見えたのだが。
「損傷……増大……。再構築……開始……！」
　敵の傷口より溢れ出したケーブルが、瞬く間に散らばったパーツに繋がり、結合されて行く。重なる損傷を物ともせず、機械の巨人は再びケルベロス達の前に立ちはだかった。

●明日へと繋げ
　鹵獲した生物を改造し、時に自らの肉体さえも再構築させるダモクレスフランケン。攻防一体の、厄介な相手だ。が、しかし、ここで背中を見せれば後ろから襲われることが解っている以上、ケルベロス達に逃走の二文字は存在しなかった。
　そちらが100回復活するなら、こちらは101回殺してやる。地獄化した己の心より溢れ出す炎。それを両手に狼の形にして宿し、ヤクトは真正面から叩き付ける。
「テメェの臓腑。その全て、貪り喰らう餓狼の顎門に沈め」
　強大な狼の覇気が、その存在感だけで敵を圧倒していた。これ以上は、長引かせるのもこちらが不利だ。それを悟り、続けてコジマが両手から手裏剣を投げ付け嵐を呼ぶ。
「デカくて邪魔すぎるから、ここで解体してしまおう。塵は塵へ、ポンコツはスクラップへ！」
　秘儀、螺旋竜巻地獄。二つの手裏剣により発生した風の渦で、相手を挟み潰す大技だ。
「ダメージ……危険域、到達……。再構……築……！？」
　それでも、凝りもせずに再生を試みるダモクレスフランケンだったが、どこか様子がおかしい。見れば、いつの間にかエリオットによって投げ付けられた殺神ウイルスが、完全に全身を蝕んでいた。
「窮鼠猫噛……油断したね？」
　死角から回り込んだ赤い大口。自身の影から呼び出した獰猛なる顎門で、チェリーは容赦なく敵の身体を噛み砕き。
「地獄の苦しみを、死ぬまで味わえ……！」
　今まで、この地で捕えられ、改造されてきた者達の恨み。それを代弁するかのように、地獄の刃と化したシルフィディアの両腕が敵を斬る。
「ガッ……！？　両腕部……破損……！？」
　両腕に伸びるケーブルを断ち切られ、さすがのダモクレスフランケンも一瞬だけ怯んだ様子を見せた。そこを逃さず、立て続けにリナとエリオットの二人が、それぞれの武器を手に左右から踏み込んだ。
「放つは雷槍、全てを貫け！」
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ！！」
　槍の如く繰り出される稲妻の幻影。そして、掲げられた聖剣より放たれし、闇を切り裂く一筋の光芒。二つの光は敵の身体を左右から貫き、そのまま大地へと繋ぎ止める。人々を殺め続けたダモクレスに対する、断罪の儀と言わんばかりに。
「報いを受けろ」
　今や、完全に逃げ場を失ったダモクレスフランケンに、キルロイがファルコンと共に多数の弾丸を撃ち込んだ。鉛玉は、犯した罪の数だけ持って行け。弾が尽きるのが先か、それともくたばるのが先か。正しき怒りを胸に秘め、ついに渾身の一発が敵の脳天を打ち砕き。
「これで決める……！　来たれ光槍、ブリュンヒルデ！」
　敵の傷口から漏れ出たエネルギー。それを束ね、槍と化し、雅が真正面から敵の身体を貫いた。
　いつか、この地を解放するために。そして、全ての人々が安心して過ごせる未来を作るために、決して負けるわけにはいかないと。その願いが、彼女に力を与える。その想いが、強敵を打ち砕く武器となる。
「損傷率……限界……突破……。再構築……不可能……戦闘……続行……不能……」
　不気味な音声を発しつつ、機能を停止するダモクレスフランケン。魔空回廊の破壊こそ成せなかったが、しかし確かな手応えはあった。
「な、なんとか勝てましたね……良かったです……！」
　崩れ落ちた敵の姿を前に、安堵の溜息を吐いて胸を撫で下ろすシルフィディア。
「さ、やる事はやったんだし、後はちゃんと帰るだけだよね」
　リナもまた、グラディウスを片手に他の仲間達へと促した。
「次こそはブッ壊してやるぜ。必ずな……」
「ああ……。必ず、だ……」
　去り際に、ヤクトの言葉に頷きつつも、キルロイは少しだけ魔空回廊の方を振り返る。
　次に相対するときは、今まで以上に容赦をしない。そんな想いを胸に秘め、ケルベロス達は恐羅漢山の解放が、一歩だけ前進したことを確信しつつ帰路に着いた。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年3月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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