災い害為す鋼の進軍

作者:月見月

 山間部の小さな集落。まとまった平地がないゆえに、数十人から百人程度の小さな区画が、点々と存在する地域。そのうちの一つ、林業を中心として細々と存続する小村はこの日、巨大な鋼鉄によって潰えようとしていた。
「なんだぁ、今の爆発は? 事故か?」
「違う、あれはダモクレぶがっ!」
 始まりは、突如として姿を現した巨大なダモクレスが材木運搬用のトラックを破壊したことに端を発する。静かな村で突如として起こった爆発、それに気を取られた村人は、ダモクレスの脚部に展開されたエネルギーシールドによってひき潰された。
 それを見た村人たちはすぐ様事態を理解し、クモの子を散らすように四方八方へ逃げ始める。
「逃げろ、逃げるんじゃ! いくらデウスエクスっていったって、あの図体では入り組んだ山を動き回れんじゃろう!」
「いや、駄目だ……アイツ、背中から小さな何かを吐き出して……が、あああっ!?」
 相手の姿はどう見ても動きの速いタイプではない。地の利を生かして逃げようとした村人たちは、頭上より襲い来る無数の小型ダモクレスによって、呆気なく命を落としてゆく。
「道が潰される前に、早く町までいかにゃならん! ケルベロスに連絡を取れさえすりゃぁ……」
 徒歩での脱出は不可能だと見切りをつけた者は、車での脱出を試みる。町にたどり着けさえすれば、望みはある。そう信じて車を走らせ……。
『逃亡対象を確認。彼我距離測定、目標補足……発射』
 ダモクレスの両腕に装備されたレーザー砲により、呆気なく打ち抜かれた。爆発する車体から、炎と共に搭乗者の破片がまき散らされる。後に残ったのは、轟々と燃え盛る炎のうなりのみ。人の声は一切掻き消えた。
『目的拠点の制圧を確認。残敵はゼロ。次目標の制圧の為、移動を開始する』
 そうして、ダモクレス……ディザスター・ルークは移動を開始する。その名に冠した災いをもたらすために。

「最近頻発している、指揮官型ダモクレスによる地球襲撃事件。今回の指揮官は『ディザスター・キング』っす」
 自らの前へ集まったケルベロス達へ、オラトリオのヘリオライダー・ダンテが重々しくそう口火を切った。
 指揮官型の一体『ディザスター・キング』は、グラビティ・チェインの略奪を任務とする主力軍団を率いており、今回もグラビティチェイン取集の為に配下のダモクレスを送り込んできた。
「今回の相手は『ディザスター・ルーク』。ディザスター軍団の中で拠点攻略に重きを置いたダモクレスっす」
 ディザスター・ルークは埼玉県の山間部へと出現し、五十人程度の集落を全滅させており、現在は次の目標へ向けて移動中である。
「最初の襲撃を行った村から次の目標地点と思しき場所までは、渓谷状になった地形にそって移動しているっす。結構大型な機体っすからね、障害物の多い森の中を移動するを嫌った見たいっす」
 最初の被害を防ぐことはもう出来ない。だが、これ以上の虐殺を止めることは可能だ。相手の移動ルートが割り出せる以上、そこへ攻撃を仕掛けぬ手はないだろう。
「相手はディザスター・ルーク1体だけっすが、流石は拠点制圧用ダモクレス、侮ることはできないっす」
 ディザスター・ルークは5メートル程度のダモクレスだ。下半身はカニのような多脚構造になっており、前方の二本には高出力のシールド発生装置が備えられている。上半身はモノアイ型カメラを搭載した頭部に、大型のレーザー砲と一体となった両腕、背後には大型のコンテナを2基取り付けている。
「主な攻撃法は三つ。脚部のシールを展開しつつ相手を圧殺する攻防一体の突撃、両腕のレーザー砲による狙撃、背部コンテナに格納された小型配下による一斉攻撃っす」
 シールドによる圧殺はその巨体も相まってなかなかの威力を誇る上、同時に防御も固めてくる。腕部レーザー砲は連射性能こそ低いが、命中精度が高く侮れない。背部コンテナに搭載された小型機はそれぞれが独立の個体という訳ではなく、遠隔操作できる武装といったところだろう。不足しがちな手数と小回りの良さを補い、こちらの陣形を崩しにかかってくる。製造機能も持ち合わせているところが、拠点攻略型たる所以だろう。
「先程も言った通り、相手は渓谷の間を進んでいるッす。左右からの強襲や退路の遮断なども行えそうっすね」
 そもそも、相手の作戦目的はグラビティチェインの略奪であり、その方針に従って行動しようとするだろう。なので作戦を行う際には、相手を逃げられない状況へ追い込んでから戦闘を行う必要がある。始まってさえしまえば、逃走を考えずに戦い続ける可能性も高い。
「ここで相手を逃がしてしまえば、略奪されたグラビティチェインで戦力が強化され、更に被害が拡大するっす。それを止めるためにも……ここで打倒してくださいっす。それが、殺された人々の為にもなるっす」
 そう話を締めくくると、ダンテはケルベロスたちを送り出すのであった。


参加者
小華和・凛(夢色万華鏡・e00011)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
草間・影士(焔拳・e05971)
クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)
大原・大地(題名おおはらごろごろ・e12427)
ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)

■リプレイ

●止めよ、鋼の進軍
 春の近づきつつある山間部。左右を崖に挟まれた渓谷を、鋼鉄の巨躯がゆっくりと進んでゆく。ダモクレス『ディザスター・ルーク』は村を全滅させたのち、次なる目標へ向けて移動している最中であった。
「さて、ダモクレスとは……まぁ、巨大ロボを倒すのはケルベロスの華とも言うしのう」
「……ロボも正義の味方だとかっこいいんだけどね。あれは真逆の存在だ」
 山間に機械の駆動音が木霊する中、クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)や肩に白毛のウイングキャットを載せた小華和・凛(夢色万華鏡・e00011)を始めとした八人のケルベロスが、その光景を見下ろしていた。
「もう一度作戦を確認しておこうか。相手が渓谷の中ほどに差し掛かったら、足止め用に障害物を投下、動きが止まったところを前後に分かれて奇襲……準備は問題ないかい?」
 相手に発見されぬよう、木々に隠れる迷彩マントと消音ブーツ、連絡用の通信機を手に、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が作戦の概要を再確認する。彼の視線の先には、岩や太い丸太を山積みにしたヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)とウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)の姿があった。
「勿論。大きめの岩を幾つかと、木も何本か切り倒しておいたよ。落とすだけなら、そこまで人手もいらないだろうしね」
「出来る限り当てないように気を付けるが、念のため注意してくれ」
 障害物は十分に移動を阻害する量である。あの巨体であろうと、これを吹き飛ばすには相応の時間を掛けねばなるまい。
「よし、ならそろそろ二手に分かれておくか。移動速度が速いわけではないが、余裕はありすぎて困るものではないしな」
 地図を片手に周辺地形を調べていたアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)の言葉を受け、仲間たちは二手に分かれ、ジッと息を潜める。相手はほぼ無警戒と言って良い状態だ。だがもし気まぐれに周辺を走査でもされたら、高確率で発見されてしまうだろう。そんなジリジリとした緊張感と共に時は過ぎ……。
「ーーいま!」
 渓谷の狭まった場所へと足を踏み入れた瞬間、通信機を通じてアンノの合図が仲間たちへと伝わり、ダモクレスの眼前へと無数の障害物が降り注ぐ。
『頭上、物体が多数降下。岩石、木材と判断。危険度低。脅威に非、ず……』
 咄嗟に頭上を見上げたディザスター・ルークのモノアイが捉えたのは、岩や丸太と共に駆け下りてくる草間・影士(焔拳・e05971)の姿。
「既に被害が出てしまっているのは悔しいが、これ以上の凶行を見過ごす訳にはいかない。何としてでも、ここで止めさせてもらう」
「わ、っととと!? ……盾使いとしてここから先には通しません! 勝負です!」
 両腕のレーザー砲による狙撃を警戒し距離を取って着地する影士。彼とダモクレスの間へ、バランスを崩してそのまん丸い体で崖を落ちていった大原・大地(題名おおはらごろごろ・e12427)が転がり出る。ボクスドラゴンと共に盾を構える彼を始めとし、前後へケルベロスたちが降り立ち、戦闘陣形を形作った。
『……周辺地形、障害物多数。機動力三十パーセント低下。迂回路を検索……該当なし。敵性対象、ケルベロス8、サーヴァント3。逃走失敗の可能性、極めて高し』
 忙しなく周囲の情報を収集、分析するダモクレス。その頭脳が決断を下すのに、然程時間はかからなかった。
『現時刻を以て即時戦闘態勢へと移行……脅威対象の殲滅を最優先事項とする』
 脚部の障壁が展開、両腕の砲口に光がともり、背部のコンテナハッチが開かれる。戦闘開始を決めた『ディザスター・ルーク』に対し、ケルベロスもまた己が得物を手に行動を開始するのであった。

●災い、害為せし城塞
『ケルベロスの戦闘能力データ計測を開始。適正戦術を構築する』
「機械のキミに言っても理解できないだろうけれど、君が殺した人たちの無念、その身に刻ませてもらう……データとして測れるとは思わないことだ」
 ガチャリと両腕を構えるダモクレスへ、ウェインは怯むことなく真正面から対峙する。放たれる二条の閃光は必中の軌道で迫る、が。
「そうはさせないよ。せーの、ふんっ!」
 盾を構えた大地がレーザー攻撃を引き受けた。身の丈と同じ大きさの盾はジリジリと煙を吹きながらも耐えきり、返す刀で予め腹に装着していたカボチャを破裂させた。意表を突く攻撃にダモクレスが混乱している間に、如意棒の先端がダモクレスの脚部を強かに打ちのめす。
「命中率も高く、威力も低くない。その大砲……厄介だな。刈取らせて貰うぞ!」
 全高5メートルの巨体、当然一撃程度で倒れるほど軽くはないが、それでもバランスは崩れる。その隙を狙ってアスカロンは相手の体を駆け上がり、その左腕目掛けて手にした刀で袈裟に斬る。が、装甲表面へ僅かに傷を残すに留まった。
「っ、流石に硬い……ぐぅ!?」
『損傷軽微。戦闘を継続』
 ディザスター・ルークは右腕でアスカロンを地面へ叩き落とすや、脚部の大型障壁でひき潰さんとする。しかし間一髪、大地のボクスドラゴンに体を押し出され、攻撃範囲から辛くも逃れた。
「予定通り、相手の意識は前方班に向いているみたいだね」
「さぁ、こちらも仕掛け始めようか。行こう、ディート!」
 ディザスター・ルークの主武装は多くが前方を向いている。相手が前方班に気を取られている隙に、無防備な背面を攻めたてようという狙いだ。手近な岩を踏み台にアンノが飛び上がると同時に、ヴィットリオがライドキャリバーと共に走り出した。ライドキャリバーが機動力にモノを言わせ相手の脚部へ衝突を繰り返し、視線を下へと引き付ける。そうしてがら空きとなった頭上からアンノの重力蹴りが炸裂、ヴィットリオの気力による遠距離爆破を目眩ましとして反撃されることなく離脱に成功する。
『周辺状況、前後挟撃による包囲。対応……敵陣形の攪乱を選択。小型機を射出する』
 個別に相手をしていては埒が明かないと踏んだのだろう。背部コンテナが解き放たれ、そこより無数の小型機が湧き出てくる。
「まぁ、順当に行ってそうくるよね。でも……それは想定済みさ。白雪はカバーしきれない部分を頼んだよ」
 幾条ものレーザーや火薬が迫る中、凛は手にした小さなスイッチを押し、色とりどりの爆発を発生させる。殺傷力はないものの敵の視界を塞ぐには十二分、カバーしきれない範囲はウイングキャットが回りつつ、小型機による一斉攻撃をやり過ごす。
「俺達がどんな思いを抱えていても、ダモクレスが後悔する事もないだろう。ならば、せめて速やかに破壊する事が俺の責務というものだ……無論、一機残らずな」
 視界を塞がれ、攻撃の手を止めていた小型機達。彼らは影士の言葉通り一機の例外もなく、爆煙を突き破って現れた槍に貫かれる。邪魔者が居なくなるや、炎の魔力を帯びた影士が飛び出し、ディザスター・ルークの背面装甲へ拳を叩き込んだ。目に見える傷こそないものの、熱と共にミシパキと罅の入る感触が拳へと伝わる。
「龍の嘶きと巨大なカラクリとは、何やら面白いものじゃな。じゃが、実力はいかほどのものかの?」
 間髪入れず、影士と同じ場所へ攻撃を叩き込むはクライス。赤熱した装甲へ吸い込まれた竜砲弾が、僅かに脆くなっていた装甲を打ち砕いた。その巨躯に比べれば狭い範囲ではあるものの、パラパラと零れる鉄片と共に穴が開き、内部機構が露出する。
『……敵対象の脅威度、上方修正。即時排除の必要性、極めて高いと判断。可及的速やかな排除を行う』
 同時に、無機質なはずのダモクレスの気配が一変する。機械的な音声に滲むそれは明確な殺意。射抜くような視線がモノアイより発せられていることを、ケルベロスたちは肌で感じ取るのであった。

●堅きモノ、挑む者
『収奪した物資、グラビティチェインを許容範囲限界まで消費。小型ディザスター、再製造、即時展開』
 ディザスター・ルークの次の一手は、小型機の追加投入であった。限定的ながらも製生産力を持つこのダモクレスは、自らの持つ資源、能力をフル稼働させ、新たな配下を生み出してゆく。渓谷は再び、無数の攻撃に満たされた。
「同じ手が何度も通用すると思うか!」
 しかし急造の一手、その数は決して多くはない。レーザーを掻い潜り、周りの小型機を叩き落しながら、影士は再びダモクレスへの攻撃を試みる。死角となっている脚部をブラックスライムで飲み込み、装甲を大きく抉り取る、が。
『可動域を全開まで活用。障壁出力最大、吶喊』
「っ、装甲を削りながら反撃を……がはっ!?」
 ガリガリと両側の岩肌を削り、無理やり体を反転させるや、障壁で影士を弾き飛ばした。無論、無理な軌道は関節部に負荷をかけ、装甲を摩耗させている。
「耐久力に任せて、被弾ダメージを織り込んでの戦術に切り替えてきた……?」
 通常の戦い方では抗しきれないと判断したのか、より攻撃的な戦闘方法へと移行しているようだった。となれば、此方の受けるダメージも先の比ではない。そう悟ったヴィットリオは仲間の盾となるべく、敵前へと身を晒す。
「盾は自分を、誰かを守るために使う物なのに……攻撃前提で使うのは間違っている!」
 それは反対側の大地も同様。太い尻尾を振り上げ、重みの乗った一撃をお見舞いし注意を引く。それが功を奏してか、ダモクレスの視線が大地へと向く。そのまま両腕を構えると、再び強烈なレーザーを放ってきた。
「ぐ、ぐぐ……絶対に、押し負けるもんか!」
「耐えてくれ! 燃え上がれ、活力の炎っ!」
 より精度の上がった砲撃に防ぎきれないレーザーが肌を焼く。それを和らげたのはヴィットリオの全身からあふれ出した白炎。破壊の熱を生命の炎が和らげてゆく。
「待っていろ、いまその光線を止めてやる。さぁ、お前の進軍もここで打ち止めだ」
 そう告げるアスカロンは、右手に嵌めた籠手へと纏ったオーラを収束させる。内部で紙兵同士をぶつけ合わせ一体に全ての魔力を集めるや、左腕の砲身へと投擲。砲身へ入り込んだ紙兵が内包した呪いを解放すると、瞬く間に金属を腐食させていった。
『砲身崩壊の危険甚大。左腕光子砲、エネルギー供給緊急停、し……』
 脆くなった砲身が負荷に耐えきれないと判断し、攻撃を停止しようとするダモクレス。だが間に合わず、閃光と共に左腕が爆発した。
「あの状態なら、直接電流を内部へと送り込めるはずだ……!」
 無数の破片と共に、ダモクレスの左腕から配線やケーブルが垂れ落ちる。凛はそこ目掛けて電撃を飛ばし、剥き出しの配線を介して破壊をもたらしてゆく。内部からの破壊は想定していないのか、鋼の巨体は目に見えて動きを鈍らせた。
『ガ、ピ、ギギッ! 内部カイ路、損しょう甚大。小型機の遅滞戦トウによる、じこ修復時間の確保、ヲ……』
「そんな隙を与えるものか。お前に許されるのは、懺悔の時間だけだ」
 Overcharge。電子音声と共にウェインは全身に蓄積させた魔力を暴走させ、光の粒子を纏いながら突撃する。小型機はすれ違いざまに粉砕し、そのまま背部コンテナへ猛烈な連撃を加えてゆく。コンテナのうち一基は耐えきれず崩壊、地面へと製造途中の小型機をまき散らした。
『製造ノウ力、28パーセント、まで低下。実用限界、機能をテイシする。残存えねるぎーを、脚ぶ障壁へ』
 比較的損傷の少ない脚部障壁へエネルギーを注ぎ込むディザスター・ルーク。その姿を、アンノは表情だけは愉快気に眺めていた。
「あははっ、なかなか粘るけどさ~……全部、無駄なんだよね」
 薄く開かれた瞳に映るのは確かな怒り。彼の意思に呼応するように現実と相反する領域が展開、周囲の空間ごとダモクレスを包み込み、押し潰す。
「……終焉の刻、彼の地に満つるは破滅の歌声、綴るは真理、望むは廻天、万象の涯にて開闢を射す」
『離脱、不可ノウ。小がた機による攪乱、残機なし。脚部障壁、有効はんい外。右腕大型コウシ砲……発射可能、1。最低限のキノウ維持以外の出力ヲ、右腕へ』
 障壁ごと虚しく潰されるディザスター・ルークは、しかして残された右腕をアンノへと向ける。かき集められたエネルギーが砲口へと集まり、輝きを増してゆく。
『発し……』
「おやおや、敵のロボを倒すには古来よりヒーローの一撃ときまっておるじゃろ?」
 最後の一撃が放たれる、寸前。頭上より声が響く。ひび割れたモノアイに映るのは、太刀を大上段に構えたまま落下してくるクライス。
「森羅万象を征し、一天四海を絶つ! 森羅流終ノ型・天地開闢!」
 全身全霊を込めた、必殺の一刀。着地したクライスに一拍遅れ、断ち切られた右腕が落下する。まるで人間のように、ダモクレスのモノアイが見開かれた。
『武装、そう失……セン闘、続こう……ふか、の……う』
 勝利も抵抗も逃走も、全てが潰えた。自らの敗北という結論に至ったディザスタールークは、跡形もなく虚空へとに見込まれてゆくのであった。

●終わる戦い、待ち受ける敵 
 戦闘はケルベロスの勝利によって幕を閉じた。誰もが傷を負っているものの、倒れている者が居ない事は幸いだった。
「挟撃されやすい場所を移動してくれていて、助かったね」
「ああ。開けた場所で対峙していれば、より苦戦していたかもしれんな」
 手近な岩にもたれつつ一息つくヴィットリオへ、汗をぬぐっていた影士が同意を示す。もし障害物のない場所だったら、敵は縦横無尽に暴れまわっただろう。
「だが、もしもがどうあれ……勝ったのは僕たちだ」
 しかしウェインの言う通り、勝利したのはケルベロスだ。それは決して揺らぐことはない。ゆえに思考は自然とその先へと向かう。
「なかなかに大層な敵じゃったが……こやつがルークということは、当然ビショップやナイト、クイーンがおるんじゃろうなぁ」
「そもそも指揮官の名前からしてキングだから、居てもおかしくないだろうね」
 まだ見ぬ敵に思考を巡らせるクライスの言葉に、凛が相槌を打つ。ダモクレスの勢いは留まることを知らない。今後も、鋼の軍勢との戦いは続くだろう。
「なに、その時はまた倒せばいいんだよ。それが僕らケルベロスだしね」
 丸太や岩を片づけ地形を元に戻しながら、大地は気負うことなくそう呟く。どんな相手だろうと、やることに変わりはないのだ。
 そうして、周囲に散らばった障害物の撤去と各々の治療を終えたケルベロスたちは、帰還すべく元来た道を戻り始める。
(「また、先手を打たれてしまったが……次こそ、こうはいかない」)
(「助けられなくてごめんね……その代わり、必ず」)
 去り際に、アスカロンとアンノはそっと背後に視線を向ける。今回、取りこぼしてしまった命の為にも。
 八人は次なる勝利への誓いを胸に秘めながら、戦場を後にするのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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