中華街に現る、狂気の堕天使

作者:ほむらもやし

●これから起こる事件
 朱に塗られた柱、頭上に並ぶ提灯。その通りでは、漢字で書かれた看板が派手さを競うように主張し合っていた。
「ここが中華街なんだ、本当に外国――って感じがするよ」
 朱塗りの竜門をくぐると少し進むだけで、ちゃんぽん、角煮、皿うどん、しゅうまい……ぴかぴかと油で光る魚介やお肉、野菜のイメージを思い起こさせる、香りが心地良く鼻を刺激し始める。
「ちゅうわけで、まずは豚まんでも食うか?」
「何を言っているのですか、これは肉まんですよ」
 ひと組のリア充が破局へのフラグを踏んだ直後、竜門の上から哄笑が響き渡る。
「地球のサルがブタを食う、面白えな、うひゃはははは」
 妙に篭もった高笑いを上げながら、まるまると太ったエインヘリアルが轟音と共に下に居た数人を踏み潰して着地した。
「おっと、なにか踏んづけてしまったなあ、悪い、うっかり殺してしまったぜぇ!! まあ、どのみち死ぬのだから、変わりは無いがな」
 笑いながら薙いだ刃が背を向けて逃げ出した人々の身体を2つに分ける。
「にしても、ここは良いところだな、うまそうなものがたんまりありやがる。そうだな時間はたっぷりある、サル共と遊ぶ前に腹ごしらえでもするか、ひゃはははは」

●急ぎの依頼
「今度は、アルフレッド・バークリー(行き先知らずのストレイシープ・e00148)さんが懸念していたとおり、エインヘリアルの犯罪者が、長崎の中華街で虐殺事件を起こすと分かった」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、そう告げると、急ぎ現地に向かうケルベロスを募り始める。
「今回のエインヘリアルも凶悪犯らしい。凶悪な罪を赦す代わりに侵略の尖兵に仕立てるなんて、僕には正気の沙汰とは思えないけれど、だからと言って見過ごすわけにはできないよね」
 対応が遅れれば、人命が理不尽に奪われるばかりか、世界に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化までも遅らせる結果にも繋がる。
「敵となるエインヘリアルは1体のみ。配下は居ない。戦い方は汚く、癒力と耐久力に優れ、まるまると太った見た目が特徴で、ディアックソードを使いこなす他、パンチやキックをいった格闘戦を得意とする」
 エインヘイリアルの現れるのは長崎市にある中華街。
 現場は幅10メートルほどの歩行者専用道路の入り口付近で朱雀門と呼ばれる門がある。
 通りの両側に飲食店や工芸品を扱う店舗が軒を連ねていて賑やかな商店街と言う感じで、店頭では肉まんがせいろで蒸されていたり、他にも長崎らしい食べ物がそこかしこで販売されている。
「今回は到着と敵の出現がほぼ同時になりそうだから、準備時間は無い心づもりでね。もし一般人への配慮もしてくれるなら、戦闘と避難を同時にこなすことになるから、自分で出来ること見極めた上で無理をし過ぎないようにね」
 長崎県警察には応援要請をしているが、事態が急すぎるため、事件発生時点で2名しか対応出来ないから、過度な期待は出来ない。
「緊急事態だから、多少荒っぽい手段を用いても問題にはさせない。無いに越したことはないけど、もし死者や怪我人が出ても諸君らが罪に問われることは無いから、自分の力でできる範囲内で健闘を祈る」
 そういえばこのエインヘリアルは食べ物に感心を示していたような気がする。
 お店でお金を払って、食べ物をお買い求めしている時間は無いだろう。だが、非合法な手段でも目的を優先するならば。知恵は現場にいる者が閃くもの、良い手立てはきっとあるはず。
「今回の敵が犯した罪は知らない。でも罪は償うものだよね。その価値観は地球でもアスガルドでも変わらないと思う。罪を犯した者を利用しても罪は償われない。それをエインヘイリアの連中に教えてやって欲しい」
 そう締めくくったケンジは、あなた方の顔をジーッと見つめる。そして、少し表情を穏やかにして、さあ行こう。と手を差し伸べた。


参加者
貴石・連(砂礫降る・e01343)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
大上・零次(螺旋の申し子・e13891)
レイン・プラング(解析屋・e23893)
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
龍造寺・天征(自称天才術士・e32737)
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)

■リプレイ

●朱雀門にて
 通りには落ち着いた時間が流れていた。
 目に付く人々は40~50人程度だろうか。到着と同時ケルベロスたちは、敵襲に備えて動きだすが、備える間も無く巨大な竜巻を予感させるような、張り詰めた空気が肌を打った。
「お、いいもの持ってますね、あなた! いっただきます!」
「きゃっ! 何をするのですか?」
 手を伸ばしかけた女性と売り子の間に割り込むようにして、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)は、肉まんを奪い取る。
「もちろん……後で、お礼はさせていただきます。損はさせませんから……ね?」
 後に本人は強引に譲って貰ったと主張するのだが、今は緊急時。漂うラブフェロンの気配により不思議なムードが漂う中、門の上から狂気を帯びた声が聞こえてくる。
「間に合え!」
 すぐに敵が現れるのは分かっていた。
 門の上から落ちてくる巨大な影、その真下に居る一般人を突き飛ばした、大上・零次(螺旋の申し子・e13891)が、直後、エインヘリアルに踏み潰される。
「ん~何か踏んづけたなあ、ぶひっ、ぶびっひっひ」
「やれやれ、エインヘリアルって王子たちみたいに均整のとれた戦士と思ってたけど、メタボさんもいるんだね。メタボの病魔を召喚して治癒してあげようか?」
 言葉と共に突き出した、貴石・連(砂礫降る・e01343)の指先が空を切る。
「はあ? なんだこの小娘は」
「ああ、生活習慣も変えないと、体型は維持できないから、あんたにはやるだけ無駄だね!」
「生活習慣? その言葉そのまま返してやるぜぇ、貧相な胸のお嬢ちゃん」
「ひ、貧相ですって?!」
 向き直って再び指を突き出した、連の表情が急速に険しくなって行くが、闇雲に戦えば避難中の人たちを巻き込む、可能性が少なくない現実を突きつけられてか、その拳の動きは鈍い。
 今更食べ物を取りに行っても無駄な一手になる。敵の注意を引かんと身構える湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)は打つ手が無くなり、唇を噛む。
「コギトエルゴスム化されている間、こんなものは食べられなかったのでしょう」
 エインヘリアルが現れた時点で食べ物を手にできたのは、麻代だけだった。
「そうだ、その匂いだ、たまらねえな!」
 形はどうであれ今は敵の注意を引きつけて避難の時間を稼ぐべきと判断し、麻代は成り行きに任せたまま、両手に持った湯気の立つ肉まんを2つ見せつける。
 一方、余計な混乱を引き起こさないよう、レイン・プラング(解析屋・e23893)は、店の中にいる人々に裏手から逃げるよう、細心の注意を払いながら呼びかけ、エインヘリアルに対して姿を晒している通りの人々に対しては、小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)、龍造寺・天征(自称天才術士・e32737)、十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)たちが避難を呼びかけている。
「それでは差し上げましょう。その後で、私どもとお手合わせ願えますか?」
「まったくおめでたいやつだな、わざわざそんなことを言うなんてな、ひゃははっ」
 今すぐに一撃を見舞うことも可能だが、相手がかなりの強敵と考えれば、全員が揃うまで時間が稼げるなら、それに越したことは無い。たとえ目論見とは違うことになっても、一般人の姿が見えなくなるまでで良いから時間が稼げれば、と内心で祈る。
「こんなものじゃたりねえな」
 熱さなど感じていないのか、瞬く間に肉まんを平らげたエインヘリアルは、遊んでやるとばかりに麻代を殴り飛ばした。
「ひゃーはっはっはっ、悪ぃ手が滑ったぁ!!」
「やっぱり、エインヘリアルもロクなもんじゃねーな。所詮はてめぇも使い捨ての罪人というわけか」

●戦いの時
 もはや話を引き延ばすことは無理とみた、刃鉄は言い捨てると同時、戦端を開く。
 繰り出した電光石火の蹴りがエインヘリアルの太ももを捉える。一般人の姿はもう見えないから、思い切り戦っても巻き込む可能性は無い。
「絶対に好き勝手させねーぞ!」
 目指した役割に違いはあれど、被害を最小限にエインヘリアルを倒す一点で全員の目標は一致している。
 ここから先敵がどのように動くかは予断を許さない。だから天征は最初に足止めを狙う。
「クハハ!! 無様である。まんまるく太ったエインヘリアルめ。貴様には一人も殺させん!」
 掲げたドラゴニックハンマーを砲撃形態と変え、竜砲弾を撃ち放つ。次の瞬間、命中した砲弾が爆ぜて路地を爆炎が吹き抜ける。続いて美緒が絶対に絶望しない魂を歌い上げる。その響きはケルベロスたちを狩る対象と侮っていた敵の脳を大いに揺さぶる。
「あーあ、料理を楽しめる思ったのに。アナタって空気の読めないブタさんね?」
 ため息交じりの罵りはエインヘリアルに向けられたものだが、涼香の放つ祝福の矢は、レインに破剣の力を与え、続けてウイングキャットのねーさんの清らかな羽ばたきが生み出す加護の力が広がって行く。
「そうね、ここには、無作法なブタさんに食べさせるような料理はありません」
 レインは紡ぎ出した弾丸を放つと、その飛翔に機を合わせるようにして、エインヘリアルの側面に回り込む。
「貴方の逃げ場は、もうありません」
 絶対に逃がさない。強い意思を孕んだ刃がぶよぶよの肉に一条の筋を刻んだ。
「ブタブタ吠えるんじゃねえ!」
 不意に現れたケルベロスたちに取り囲まれ打ち据えられて、エインヘリアルは戦いの本能を剥き出しに反撃に転じた。
「ひゃーはっはっはっ、もう勘弁ならねえ!!」
 矢面に立つ前衛の4人に向けて、横薙ぎに振るわれた太く強靭な脚の一撃。
 辛うじてかわした刃鉄の横で、庇おうと飛び出した麻代と零次の動きが間に合わず連が打ち据えられる。鈍い音の直後、揺らぐ身体。口から流れ出た鮮血が白銀の甲冑の上に赤い筋を伸ばす。しかし連は悲鳴一つ上げず――零次の放った温かな光球、ルナティックヒールに癒やされながら、ほんの短い間後輩の顔を思い起こす。
「やり返すんだ!」
 間髪を入れずに、連はその小さな胸を敵に向け、神速の雷刃突を繰り出す。
「クハハハハハ!! 無様だな。最弱のエインヘリアルであるか?」
 言い放つと同時、敵に集中させた天征の意識が、極限に達する。
「消し飛べ!」
 木っ端微塵になってしまえ、破壊のイメージはそのまま大爆発をとなりエインヘリアルに襲いかかる。
「さあ、この何でもない日常を楽しくいきましょう!」
 美緒は歌う。嫌なことを帳消しにする、明るく楽しい歌を。この過酷な戦場に於いて、皆が安らげる何処か、ある者には大切な人との時間、またある者に取っては、おかえりと暖かく迎えてくれる仲間たちとの場所、美緒の歌は癒やしと安らぎをもたらす響きとなり、続けて盛大に爆ぜる涼香のブレイブマインの七色の爆煙が、強烈な爆風と共に吹き抜けて、ダメージを癒やす。
「犯罪者とはいえ、剣に覚えがあるなら、いいところも見せて下さいね!」
 互角以上の戦いが出来ている。麻代は守りに向いている意識を攻撃に傾けて、目にも止まらぬ速さで雷の霊力を帯びた突きを繰り出す。それに機を合わせて、エインヘリアルの後ろに回り込んだレインが、稲妻を帯びて光り輝くゲシュタルトグレイブを突き刺した。
 肉の塊に深くめり込んだ傷口から血が零れ落ち始める中、オウガメタルを纏い鋼の鬼と化した零次の拳がエインヘリアルのぶよぶよの肉を抉り飛ばした。
「我が前に塞がりしもの、地の呪いをその身に受けよ」
 拳を輝く結晶と変えて、連は打撃を繰り出した。直後、打ち込んで、めり込んだ拳の先の周囲に貴石の結晶が生み出されて、急速に皮膚を裂き広げて行く。
 畳みかけるような連続攻撃のダメージ、執拗な追加効果から生まれる苦痛にエインヘリアルは悲鳴を上げる。
 あらゆる攻撃を阻むかに見えた肉壁は今や傷だらけで、それが絶対の守りでは無かったことを物語っている。
「ふはははは! 龍造寺家7千年の歴史にて引き継がれし研鑽の結晶! その身に受けてみよ! 顕現せよ! 機神竜ガルファイド!!」
 長い台詞の間に、機械の龍へと変形させチャージを終えた、天征のアームドフォートが火を噴く。相当の誇張はあっても景気の良い方が気分も乗る、死地を潜り抜けて来た彼だからこそ分かる哲学と共に放たれた全力のグラビティが、避けようと横に跳んだエインヘリアルを追うようにして命中する。同時に閃光、そして大爆発が起こる。
「やった、か?」
 激烈な爆炎と爆風、衝撃波が通りを抜ける中、看板は砕かれて、下げられていた提灯も根こそぎ飛ばされ、エインヘリアルは跡形も無く消し飛んだかに見えた。
「……へへ、ひゃひゃひゃひゃ。今のは強烈だったぜえ!」
「?! まだだ!」
 爆煙の中に揺らめく影が見えると同時、まだ余裕を感じさせる声と共に、一条の光が煙を裂き、現れた蟹座の煌めきが迫ってくる。
「っ! いかん!!」
 咄嗟の反射で前に出た零次が、まずその直撃を受ける。視界が金色に輝き、続けて目に突き刺さるような金色が世界の全てとなるかと思われた瞬間、膝の力が抜け落ち、目の前の色は血の赤色に変わって行く。
「よりによって蟹座とは冗談がきついですね」
 代わるように麻代が前に出た瞬間、星座の輝きは砕け散り、その輝きは光の粒となって舞い降りてくる。
「ちくしょうめ!! てめえらなんで倒れやがらないんだぁ!」
 前列を薙ぎ払おうと、渾身の力を篭めた攻撃を2人に食い止められて、エインヘリアルの顔が青くなる。直後、すかさず涼香の発動したブレイブマインの爆煙が、消えかけていた、零次と麻代の意識を戦いの現実に引き戻し、それとほぼ同時、ウイングキャットの清らかな翼の羽ばたきの癒やしも重ねられる。
「所詮てめぇは、ぼっちのブタ野郎じゃん!」
「舐めるなっ!!」
 美緒の何処までも前向きな歌声が響き渡る中、お前の剣なんか怖くねーぞ、と罵りつつ、刃鉄はエインヘリアルが無造作に突き出した刃を軽くいなすと、その巨大な腕を掴むように引き寄せて、盛大な一撃を脇腹にたたき込んだ。
「こんなサル共に、オレ様が、そんな馬鹿なことが――」
「剣と格闘が得意なのは、あなただけでは無いの」
 ふらふらとよろめくエインヘリアル。その隙を見逃さずに間合いを詰めた、連が降魔の一撃を撃ち出せば、その反対側に浮遊する御業が火炎弾を撃ちかけて来る。
 避けることも出来ずに、次々と命中して爆ぜる炎が瞬く間に燃え広がり、全身を覆う脂身を焼く。続いてレインが突き出したナイフを横に構える。次の瞬間刃がギザギザに変形し、振るわれた斬撃の軌跡がそのまま燃え上がる肉を抉るように斬った。
「どこまでしぶといのですか?」
 呆れすら覚えるエインヘリアルの辛抱強さ、早く戦いを終わらせたい。逸る気持ちを抑えるようにして、麻代は瞼を降ろして心と刃を一体に、意識を集中させ、零次は炎の中の敵の姿を見定めながら再び間合いを詰める。
「喰え」
 身を護ろうと刃を振り回す敵の動きを読み切り、エインヘリアルの巨体に触れた瞬間、触手のように流れ込む霊体の触手。敵の体内に浸潤したそれは焼けた肉に食い込み命を吸い上げた。
 輝く拳を構え迫る美緒を避けるようにして、身を屈め癒術を発動するエインヘリアル、ようやく炎は消えて焼け焦げた傷跡も塞がるが、ダメージの回復はとても小さなものに留まった。余りにも小さな効果にエインヘリアルが口惜しそうに舌打ちした瞬間、鋼の鬼と化したオウガメタルを纏った美緒の拳が焦げた臭いを放つ皮膚を再び砕いた。
「クハッ、クハハハハ! こんがり焼けて良い感じになったでは無いか、そのまま滅びるが良い!!」
 高笑いと共に、再び砲撃形態と変えたドラゴニックハンマーを構える天征。次の瞬間、放たれた巨大な竜砲弾は薄くなったエインヘリアルの肉を砕いて盛大に爆発した。
「今度こそ、やった……か」
「残念だが、やれてねーぜ」
 ぶっきらぼうに応じ、地面を蹴って間合いを詰める刃鉄。次の瞬間、電光石火の蹴りが次の一手を放とうとしていたエインヘリアルの急所を強かに貫いた。
「がはっ、ぜえぜえ、くそう、そうだ、こうしよう、この街の半分はお前らにくれてやる。それで手を打たねえか? ひゃははは!!」
 エインヘリアルは悪くない話だろうと、下卑た笑みを零す。
「へえ、検討に値する素晴らしい提案ね――とでも言うと思った? アナタって心底空気の読めないブタさんね!」
 涼香がここまでは常に癒しへ向けていた力を破壊の力と変えて、竜語魔法を発動、掌から灼熱のドラゴンの幻影を解き放つ。
「ぐ、ぎゃああああ!!!」
「なんてしぶといブタさん、あとはお願い!」
「諒解しました」
 涼香が放ったドラゴンの幻影に焼かれるエインヘリアルを目がけて、バートランドが翳したヴォーバル・ウェポンに聖性を帯びた光が降臨する。ドリル回転がもたらす破壊の力と己の持つ力の全てを乗せて、レインは足掻くエインヘリアルの胸元へ必殺の拳を叩きつけた。直後、体内深くにめり込んだ拳が巨大な孔を穿った。
 エインヘリアルの悲鳴が止んだ。
 口から溢れ出る血が喉を塞ぎ、身体は電気に打たれたように硬直して、鈍い水音を立てて、巨体は横様に倒れた。
 涼香の視界には、巨体から引き抜いた血まみれの拳に殺気を漂わせてエインヘリアルの死骸を睨み据えるレインの姿が映っている。
「やっと終わりました」
 レインの口から零れた呟きに、誰もが戦いが勝利に終わったことを確信して、安堵するのだった。

●戦い終わって
 戦いの余波で壊れた通りは、美緒や零次らが中心となってヒールを掛けたことで戦う前とあまり変わらない元の状態に戻った。
 突然の襲撃に恐怖する、中華街のお店の店主や従業員、訪れていた観光客や市民たちは、ひとりの負傷者も出さずに敵だけを撃破したケルベロスたち『ありがとう』を連呼するほどに感謝すると同時に大いに賞賛した。
「皆、疲れているし、話はこれくらいでいいか?」
 大勢やって来た警察への説明をしていた零次のたてがみを揺らして風が吹く。肌を打つ冷たい風であったが、それは春の訪れを知らせる風でもあった。
「さあ話も終わった、肉まんの代金のことも大丈夫だ。皆で飯でもどうだ?」
 零次は逆立った髪を軽く元に戻すと、小さく息を吐き出して、優しげに目を細めた。
「長崎の中華街だから……ラーメンよりちゃんぽんなのかなー」
「ちゃんぽんの他にも、皿うどん、角煮、しゅうまい……美味しそうなものばかりです」
 美緒の言葉に相槌を打つレインも警察の話から解放されてほっとひと息。人通りの戻ってきた中華街の奥の方へと歩き始める。
 そこにまた風が吹き寄せて来て、連は風が来た空を見つめる。
(「無事に終わったよ」)
 思い浮かぶのは、大切な友の顔、思いは繋いだと心の中で呟いて、連は通りの奥へと進んで行く仲間たちの後を追った。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。