剣姫の名はアーネスティン・ザ・スカート

作者:紫村雪乃


 凍てついた夜闇。
 東京近郊の街を災厄が襲った。
 その災厄の名はアーネスティン・ザ・スカート。女の姿をしていた。
 腰までとどく長い髪。冷然たる相貌は人形のように端正だ。
 女はロングスカートに長袖のメイド服をまとっていた。手には指先が出る黒の手袋をはめている。
 その右手には細身の剣が握られていた。さらに驚くべきことに、彼女のスカートに沿うように三対、計六本の剣が浮遊していた。
 その佇まいは凛然として美しい。華奢ではあるが、幾多の修羅場をくぐりぬけてきたかのような凄みが彼女にはあった。
 アーネスティン・ザ・スカートは剣をふるった。舞うように美しく。剣が閃くたびに一般人の鮮血がしぶいた。
 あっという間に死体の山が築かれる。ダモクレスたる彼女にしてみれば一般人の抹殺など造作もないことであったろう。長剣の柄に下げられた『E』の文字のドッグプレートが血に染まってゆれる。
「……遅いわね」
 累々と転がる死体を侮蔑の目で見下ろし、アーネスティン・ザ・スカートは呟いた。
「早く来なさい、ケルベロス。私が斬り捨ててあげるから。愚図愚図していたら、この街に生きている人間はいなくなるわよ」
 あらたな獲物を求め、剣の美女は足を踏み出した。


「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようです」
 ヘリポートに駆けつけたケルベロスを待っていたのはセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)であった。
「指揮官型の一体『踏破王クビアラ』は自分と配下のパワーアップの為、ケルベロスとの戦闘経験を得ようと配下を送り込んできました。その配下であるダモクレスはケルベロスの全ての力を引き出して戦う事で、より正確なケルベロスの戦闘データを引き出そうとします」
 その為ならば人質を取ったり、一般人を惨たらしく殺したりなどする行為も平気で行なってくるようだ。そんな行いを見過ごすわけにはいかなかった。
「場所は」
 セリカは東京近郊にある街の名を告げた。その街の繁華街中心にある交差点の中央にダモクレスは現れる。急げば犠牲者を出すことなく敵と対峙できるはずであった。
「ダモクレスの名はアーネスティン・ザ・スカート。七振りの剣を自在に操ります。その威力は絶大。さらには近距離だけでなく、遠距離への斬撃をも放ちます。また近距離のみなら広範囲も」
 強敵であった。のみならずただ戦えばいいというわけではない。
 敵の狙いはケルベロスのデータを取ることであった。その阻止の為には可能な限り短い時間で敵を撃破する事が必要だ。
 他方、敢えて手を抜いて戦ってデータの信憑性を下げるという手段もある。が、それでアーネスティン・ザ・スカートに敗北してしまえば元も子もないし、敵に気取られればさらなる犠牲者が生まれてしまいかねない。こちらの作戦を取るなら細心の注意が必要だろう。
 説明を終えると、急いでくださいとセリカはいった。
「今なら人々を救うことができます。皆さんならきっと」


参加者
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)

■リプレイ


 中型多目的ヘリコプターが飛んでいる。内部キャビンには八人の男女の姿があった。
「身を捨ててまでのデータ収集……流行りなんすかねぇ?」
 やや感慨を込めたように、その女は口を開いた。
 荒野を思わせる白の髪と灰色の瞳。十歳ほどの少女に見えた。が、その身に漂うふてぶてしさはどうだろう。
 彼女の名はグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)。謎の遺跡の奥に閉じ込められていたという過去をもつケルベロスであった。
 すると別の女が顔を上げた。こちらは十七歳ほど。目にしみるほど鮮やかな蒼の髪と瞳をもつ、まさに天空から舞い降りた天使というにふさわしい美麗な少女であった。
「相手を倒すには、まず、情報収集……」
 少女――ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)は首を傾げた。
「それは、むこうもおなじ考え方、なのかしら。もし、そうであるなら、戦っているものが、命ある者、そう、再認識させられて……やっぱり、もやもや、哀しいきもち」
 ハンナは目を伏せた。すると、その肩にそっと手をおいた者がいる。
 男だ。十五歳なのだが、それよりもやや大人びて見える。
 名をゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)というのだが、その頬には傷がひとつ。いや、傷というのならばひとつだけはなかった。全身に彼は無数の傷を刻んでいる。それが彼が歩んできた道の凄絶さの証であった。
「悪趣味なことをし始めたものだな」
 嫌悪に顔をしかめ、ゼノアは続けた。
「木偶程度が人類に対して挑戦をするとは、身の程を教えてやらんとなるまい」
 ゼノアは視線を転じた。その先には眼鏡にメイド服を身につけた、十歳にも満たぬ少女の姿がある。どこか儚げな、ガラス細工の人形のように繊細な少女であった。
 名はテレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)。今回のターゲットであるアーネスティン・ザ・スカートの宿敵主であった。
「そうですね」
 テレサはこたえた。宿敵ではあるが、面識はない。
「確か七振りの剣を使うんですよね。どう戦うんでしょうか。気になりますっ」
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)という名の、十歳ほどの少女が好奇心に満ちた目をテレサにむけた。
 そのスズナであるが。人間ではなかった。銀狐のウェアライダーなのである。するとテレサはわかりませんとこたえた。
「まあ相対してみればわかることよ」
 微笑し、穏やかな美貌の女はいった。
 三十四歳。すでに一人娘のいる主婦であるが、その容姿は若々しく、とても主婦であるとは見えなかった。
 彼女の名はユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)。能く剣をつかうのだが、その剣流に予断は必要なかった。敵と対した時にわきおこる感性のままに彼女は剣をふるうのだ。
「そろそろですよ」
 窓外を見下ろし、二十歳ほどの娘がいった。メイド服をまとった天空海闊という言葉が似合う娘である。
 その時、娘――エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)の可愛い顔にわずかに翳りがさした。
「同じく剣で挑みたかったところですが、残念ですね」
 エストレイアはごちた。騎士としての記憶が微かに残る彼女にとって、本来の武器は剣である。が、今回、エストレイアが選んだ武器はバスターライフルであった。
「ともあれ、朽ち果てて頂きます」
 エストレイアは中空に身を躍らせた。


「なんて脆弱な生き物なの」
 侮蔑の目で辺りを睥睨すると、アーネスティン・ザ・スカートは右手の長剣を振り上げた。
 刹那である。ものすごい地響きをあげて、彼女の眼前に何かが落下してきた。激烈な衝撃にアスファルトに亀裂がはしり、粉塵が舞い上がる。
「……来たようね」
 アーネスティン・ザ・スカートは秀麗な顔に酷薄な笑みをうかべた。彼女のみは粉塵の中から放散されるただならぬ殺気を感得していたのである。
「そこまでです」
 粉塵の中から声が響いた。テレサのものだ。
 すると粉塵から一人の娘が歩みだしてきた。
「ティアクライスのエストレイア、参上です!」
 娘――エストレイアが名乗り、さらに叫んだ。
「私達ケルベロスが相手致します!」
「嬉しいわ。待たされるのは嫌だもの」
 アーネスティン・ザ・スカートが長剣の切っ先をエストレイアにむけた。
 その様子を見つめつつ、片膝ついた姿勢からハンナは素早く身を起こした。そして辺りの状況を確認。ほっと息をついた。
「間に、合ったみたい……? それなら、よかった。誰かが傷つくの、痛いのは、哀しいことだもの」
「ハンナ」
 傍らのゼノアがささやくような声で呼びかけた。
「初っ端から飛ばすぞ。遅れるな」
「ん……わかってる。早く、終わらせる、の」
 ハンナがうなずいた。ゼノアを見返す瞳には愛の炎が大きく燃え上がっている。
 ハンナは真っ白なマスケット銃をかまえた。その時、すでにゼノアは太く長大な銃身を持つライフル銃――バスターライフルでダモクレスをポイントしている。
 ゼノアの目がぎらりと光った。指がトリガーをしぼる。銃口から灼熱の光が噴出された。
 あっ、という愕然たる声は誰が発したものであったか。熱光線ははじかれている。長剣の一閃によって。
 驚くべし。剣の一振りのみにて彼女はケルベロスの攻撃を防いだのであった。


「綺麗な娘ね。服装と中身がかみ合っていないのは、機械だからかしら。……でも、その綺麗さもここまで。命を安く見積もった代償、その身で受けなさいな」
 二十歳ほどの娘が告げた。
 白髪に透けるほど白い肌。その華奢な肢体は触れれば壊れそうなほどだ。が、彼女の紫瞳には眩しいほどの光がやどっていた。
 片白・芙蓉(兎頂天・e02798)という名の娘はしかし、その瞳を少し翳らせた。哀憐の情に。
 アーネスティン・ザ・スカートという娘。確かにその剣舞は美しいのだが……。
 惜しい、と芙蓉はもらしたが、それが何を意味しているのか――。
 芙蓉の足元からのびた異形の植物が黄金の光を放った。その時だ。テレサが問うた。
「あなたたちは何者なんですか?」
「あなたたち?」
 怪訝そうにアーネスティン・ザ・スカートは眉根をよせた。
「何を聞きたいの? 私たちはダモクレス。そして私はアーネスティン・ザ・スカート。それ以上でもそれ以下でもないわ」
 機械的な冷徹さでダモクレスはこたえた。胸の奥がざわついている。が、それが何に起因しているのか彼女にはわからなかった。
 アーネスティン・ザ・スカートはテレサの姪である。が、眼前のテレサがそうであるとは知らなかった。ダモクレスがレプリカントになった場合、かつての同胞はその者を認識できなくなるのだった。
 が、今、テレサとアーネスティン・ザ・スカートは邂逅した。戦場という舞台で。それは運命の皮肉というしかなかった。
 その時だ。グーウィが口を開いた。
「知りたいことがあるならお教えしましょう。見料は初回サービスです」
 グーウィの手から漆黒の鎖がとんだ。ギリギリギリと音たててはしる鎖の速度は弾丸の初速と同程度である。
 が、アーネスティン・ザ・スカートは容易く躱した。同時に踏み込む。閃く刃は光の亀裂を空に刻んだ。
「くっ」
 呻く声は二つあがった。ハンナとゼノアを庇ったテレサとスズナの口から。
 そしてもう一つ。それは声なきものであった。エストレイアをかばったテレビウム――液晶テレビの顔をした芙蓉の子供型サーヴァントである。
「よく頑張ったわ」
 消えゆくサーヴァントに芙蓉は頷いたみせた。そしてゆらりと、しかししっかりとスズナが屹立する。
「さすがの剣さばき、です……けれど! やらせはしませんっ!」
 スズナは叫んだ。が、断ち切られた腹からは今にも内蔵が飛び出しそうであった。
「ううぬ」
 表情を表さぬはずのアーネスティン・ザ・スカートの顔が怒りにどす黒く染まった。
 刹那である。漆黒の鎖が唸りをあげて疾った。さすがに反応が遅れたのダモクレスの手にじゃらりと巻きつく。
「つかまえましたよ」
 エストレイアが快哉をあげた。その時、すでにハンナとゼノアはバスターライフルでダモクレスをポイントしている。
「七剣……すごい。わたしも、普段は剣、使うけど……手合わせできなくて、残念」
 ハンナがトリガーをしぼった。ゼノアもまた。迸る光流は二条だ。
 ダモクレスすら耐え切れぬ衝撃に、たまらずアーネスティン・ザ・スカートはアスファルトをえぐりつつ後退した。
「うふふ」
 という軽やかな笑い声を聞いたのは、まだダモクレスが剣をかまえる前であった。その眼前に、いつの間にかユリアが立っている。
 ユリアとアーネスティン・ザ・スカート――剣鬼と剣姫、今、ナイフと剣をとって相対す。


 剣鬼と剣姫は同時に動いた。
 交差は一瞬。常人には二人の姿が消失したと映じたことだろう。
 その刹那の間にユリアは稲妻のような刺突を繰り出していた。アーネスティン・ザ・スカートは胴薙ぎの一閃を。
「や、やるわね」
「さすがは」
 交差した後、二人は呻いた。ユリアは腹から鮮血をしぶかせ、アーネスティン・ザ・スカートもまた腹から黒血に似たオイルを噴出させている。メイド服の一部は裂けていた。
 が、だ。次に動き得たのはダモクレスの方であった。振り向きざま長剣をユリアの背に薙ぎつける。
「ぬっ」
 スカートを翻し、ダモクレスは跳び退った。その眼前を光流が疾りすぎている。
「よくも邪魔してくれたわね」
 歯軋りし、アーネスティン・ザ・スカートが光線の射手――テレサを睨みつけた。この時、彼女は誰にも覚えたことのないほどの憎悪に震えている。
 アーネスティン・ザ・スカートは長剣の切っ先をテレサにむけた。
「今度は私が問うわ。お前は何者なの?」
「テレサ・コール。あなたは私の姪です」
 テレサは告げた。が、ダモクレスは嘲笑で報いた。
「馬鹿な。私がお前の姪ですって。何を――」
 アーネスティン・ザ・スカートは言葉を途切れさせた。が、すぐに迷いを振り切るように叫んだ。
「戯言はいい。とにかくお前だけは絶対に殺す」
「いいでしょう」
 テレサはちらりと視線をはしらせた。すると芙蓉がうなずいた。同時にユリアは首を横に振った。
「私は大丈夫よ――ええ、今、愉しんでいるから。あちらを先に助けてあげて?」
「フフフ。了解よ」
 忍び笑う芙蓉の手から鎖が噴出した。それは地を這うように滑り、巨大な魔法陣を描いた。その中心にいるのはテレサとスズナである。
 魔法陣が光った。テレサとスズナの傷が細胞レベルで癒えていく。
「……そういうことね」
 ふふん、と笑うとダモクレスは刃を振った。刃風が鎌鼬のように芙蓉を襲う。咄嗟にスズナのミミック――サイが芙蓉を庇った。
「上よ」
 叫んだのはユリアであった。彼女の目は空を飛鳥のように舞うダモクレスの姿をとらえている。刃風の一閃はケルベロスたちの注意をひくためのものであったのだ。
 慌ててケルベロスたちはバスターライフルの銃口をむけた。が――。
「遅い」
 ケルベロスたちの只中に剣姫は舞い降りた。光流がはね、渦巻く。
 足をとめたアーネスティン・ザ・スカートの手の長剣から血が滴り落ちた。さらにスカートに沿って漂う六振りの剣の切っ先からも。スカートを舞わせ、それにより彼女は斬撃を放ったのであった。
 わずか数瞬の出来事だ。それだけでケルベロスたちは満身創痍となっている。
 戦慄に芙蓉の顔から笑みが消えた。このままでは回復が追いつかない。その足元からのびた攻性植物がまたもや陽光めいた光を放ち、仲間を癒した。
 その芙蓉の焦りを読み取ったか、同時にグーウィもまた幻想的に輝く弓をかまえた。妖精に祝福された矢を放ち、彼女もまた仲間を癒す。
「日はダウジングとモリブドマンシー……得意のホロスコープは道具を持ってなくて」
 背を灼く焦慮の炎を無視し、この場合、グーウィは軽口を叩いた。驚くべき精神力の強さである。
 ゼノアの目が再びぎらりと光った。
「ここまでだ。一気にきめるぞ」
「そうね」
 ハンナは哀れむように剣姫を見やった。
「あなたにも、仕えるべき主がいるの、ね」
 それでも、わたしのたいせつなひと、この星、傷つけるのなら、そのひとのもとへ、帰してあげられない。ごめんね……。
 悲しみを打ち砕くかのようにハンナのバスターライフルが吼えた。同時にゼノアのバスターライフルも。
 それは偶然であったろう。二つの迸る光流がからまった。
「こんなもの」
 アーネスティン・ザ・スカートは剣ではじいた。いや――。
 はじかれたのは彼女の剣であった。愕然として剣姫の目が見開かれる。光は彼女の演算結果を超える威力を秘めていたのである。
「何っ」
 呻くアーネスティン・ザ・スカートの眼前、鬼装状態のエストレイアが迫った。咄嗟にダモクレスは左手で剣の柄をとる。
「遅いといったの貴方でしたよね」
 エストレイアは超鋼化させた拳をダモクレスの秀麗な顔にぶち込んだ。たまらず機械の娘が吹き飛ぶ。待ち受けていたのはユリアであった。
 ぶつかり、散りしぶく悽愴の鬼気。剣の天才同士の放つ一撃は互の身を深く切り裂いた。周囲の建物に亀裂がはしったのは、振り抜いた二人の刃の衝撃の余波である。
「くっ。こうなれば」
 アーネスティン・ザ・スカートは殺意に燃える目をテレサに据えた。そして疾駆。全力の――いや、全力を超えた機動力で。衝撃で地が爆ぜていく。
「相手をしてあげます」
 バスターライフルでテレサは姪をポイント。撃つ。
 が――。
 破滅の光はむなしく流れすぎた。あっ、と声をもらしたテレサである。その眼前、ぬっとアーネスティン・ザ・スカートは迫っていた。
 たばしる剣光はテレサの首に。それはすぐ紅く染まった。テレサの――いや、スズナの鮮血で。
 逆袈裟に斬りあげられながら、しかしスズナは会心の笑みをうかべた。彼女は剣の天才に勝ったのである。その証拠にアーネスティン・ザ・スカートは屈辱に顔をゆがめている。そして彼女の次の一撃を放とうとし――。
 彼女はカッと目を見開かせた。下方からぎらと睨み上げる顔がある。グーウィだ。
「お前の天命は凶とでたっす」
 鋼の鬼と化したグーウィの拳がダモクレスの顔面をとらえた。


「凄腕のメイドさん、でしたね……」
 息絶えたダモクレスの娘を見下ろし、スズナはぽつりともらした。それからもの問いたげな視線をテレサにむける。
 こたえは、ない。黙したままテレサは音のもどった世界で傷付いた一般者のもとへむかった。
「ハンナ」
 ゼノアがハンナにそっと声をかけた。そして優しく気遣うように、
「大丈夫か。歩けるか」
「うん。少し痛いけど、だいじょぶ。ゼノは……?」
 ハンナはゼノの腕をそっと撫でた。
 その傍ら。芙蓉は静かに瞑目していた。
「生まれ変わったら会いましょう?」
 鎮魂の祈りであった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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