深夜の海辺に、首なし鎧武者の亡霊あり

作者:ハル


 山口県下関市。そこには、有名な合戦跡地である、壇ノ浦古戦場跡が存在している。
「ここは観光スポットとしても有名だけど、まさか今頃になって首なし鎧武者の霊が出没! ……なーんて噂が立つなんてな」
 午前3時。青年は、綺麗に整備された海沿いの跡地を歩いていた。
 青年の手には、ビデオカメラが一台。たとえ噂であっても、歴史好きの一人としては、見過ごせない内容だ。
 時間が時間だけあり、有名な場所にも関わらず、人影はまったくない。それがなんとなく不気味に思うのか、青年はそわそわと落ち着かない様子。
「やっぱ滅亡した平家の亡霊? はたまた天皇陛下だったりして……いや、それはないか」
 なんにせよ、噂が立つという事は、目撃者がいるという事。
 興味と興奮を胸に、青年がビデオカメラを構えた。
 すると……。
「……あれ?」
 ふいに、ビデオカメラにノイズが走る。ジー、ジーと、電子音が数度響いた。
「故障かな?」
 青年は、買ったばかりなのに……そんな事をぼやきながら、ビデオカメラのレンズを自分の方へと向ける。
「…………え?」
 青年の息が止まる。レンズには、薄笑いを浮かべながら、青年に鍵のような何かを振りかぶる女の姿が映っていたからだ。
 ブスリ! 青年の心臓を穿つように、鍵が深々と突き立てられると、糸の切れた人形のように青年の身体が崩れ落ちた。
「ふっ、ふふふっ! 私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があったの!」
 それを成したのは、第五の魔女・アウゲイアス。
 アウゲイアスの傍らには、いつの間にか首なし鎧武者が佇んでいた……。


「皆さん、大変です! 黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035) さんの懸念通り、不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、集まったケルベロス達の顔を順に見渡しながら、強い口調で告げる。
 元凶となるドリームイーターは姿を消しているが、合戦跡地に現れる、首なし鎧武者に関する噂を元に生み出されたドリームイーターは健在だ。
「どうか被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい! また、ドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるはずです!」
 セリカは事件の概要を纏めた資料をケルベロス達に配る。
「今回出現した、首なし鎧武者の戦闘力についてですが、まず二振りの日本刀で武装しているようです。刀と小太刀を巧みに操る剣術に加えて、水を操って皆さんを海の中へと引き摺りこもうとしてきます」
 また、ドリームイーターは自分の事を信じていたり、噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。
「足場に関しては場所が観光地付近という事もあり、非常に安定しているのでご安心ください」
 そこまで説明を終えると、セリカは資料を閉じる。
「合戦はとうの昔の終わっています。ドリームイーターも、武士として生み出されたのなら、生き恥を晒すのは辛いはずです。どうか被害者の青年共々、救ってあげてください!」


参加者
一式・要(有象無象・e01362)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)
フェルト・スターチス(染まらぬ白布・e25047)
四方堂・幽梨(ジャージの剣鬼・e25168)
植田・碧(紅の閃光・e27093)
楸・奏(銀狼の騎士・e31513)
黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)

■リプレイ


 美しい月明かりに、潮の香り。踏み鳴らす大地は綺麗に整備されており、とてもではないが、霊が現れるような雰囲気ではなかった。
 だが、忘れてはならぬのが、ここが山口県下関市……あの、壇ノ浦古戦場跡であるということだ。
「私、こういうの苦手なのよね」
 現場へと赴きながら、植田・碧(紅の閃光・e27093)がポツリと呟いた。過去にもホラー系の仕事には何度か遭遇しているものの、やはり未だ慣れない様子。
「そうですか? お話としては面白そうだと思いますけれど……」
 フェルト・スターチス(染まらぬ白布・e25047)は碧にそう返すものの、
「(初めての任務。私の能力で、どこまで……。やれる事をやるしかないんだけれど……)」
 内心では不安があるのか、その肩は緊張に硬くなっていた。
「こういった古戦場には、古戦場には戦鬼の亡霊・残留思念は憑き物――もとい付き物ですからね」
「ええ、とはいっても、遠い昔の戦場で散った命を……このような形で侮辱するのは不愉快ですけれどね」
 被害者が出ているとなれば、なおさら捨て置ける問題ではない。葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)が苦笑を浮かべ、黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)が眉根を寄せる。
「あっ、すみません、奏さん」
「大丈夫ですよ、気にしないで?」
 その時、朔太郎は思わず手に力を込めてしまった事に気付き、すぐに力を緩める。朔太郎の手には、自分よりも一回り小さな、楸・奏(銀狼の騎士・e31513)の手の感触があった。
「あら、ラブラブね。それじゃあ月の綺麗ないい夜だし、お相手が出るまで楽しみましょうか?」
 恋人の初々しい様子に、一式・要(有象無象・e01362)がクスクスと笑みを浮かべる。
「(リ、リア充!)」
 それは、戦場に吹く一陣の清涼剤の役割を果たすかと思いきや、人付き合いの苦手な四方堂・幽梨(ジャージの剣鬼・e25168)に大層なダメージを与えていたようだ。
「とにかく、ゆっくり眠らせてあげたいね」
 もう戦は終わった。スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)の言葉に、ケルベロス達は頷いた。

「人の強い怨念は、どれだけ長い年月を経ても薄れないのだそうです。……どうやら、ここも例外ではないようで――」
 眠る青年から少し離れた開けた場所にて、朔太郎がそう切り出す。
 雰囲気作りのため、その場には要の用意した松明の火が周囲を照らし、影を形作っている。
「首なし鎧武者……ホラーだね! 本当にいたら心霊写真とか撮れるのかな? カメラないけど……」
「し、心霊写真、い、いいわね! カメラがないのが残念だわー!」
 朔太郎の話しに合わせるように、スノーエルと碧が応じる。だが、カメラのシャッターを切る仕草を見せるスノーエルと違い、碧の言葉は震え、どこか棒読み気味であった。
「(に、苦手だって言ったのに!)」
 それもこれも、雰囲気作りに余念の無い要のせいだ。碧が要をジーと恨みがましく見ていると、要は褒められていると思ったのか、グッとサムズアップをしてみせる。
「首なし鎧武者さんですか、一目見てみたいものですね」
 だが、実際に要の雰囲気作りは功を奏しているようで、考えすぎてガチガチだったフェルトも、自然とその流れに乗る事ができていた。
「首無し武者か……首を狙えないのは、厄介だけど……頭がない分だけ重心や重量は甘くなるはすだね……」
 その時、幽梨が真剣な声色で呟いた一言に、フェルトは思わずクスリと笑ってしまう。
「え、そういう話じゃないの……あれ……? え、ええ?」
 笑うフェルトに、幽梨は冷や汗をダラダラ流しながら焦っていた。
「確かに、それは大変な問題ですね」
 柊夜も釣られて笑みを零しながら、周囲を警戒するように伺う。
「マシュさんもどうぞ」
「あ、ありがとう! 良かったね、マシュちゃん、奏ちゃんが紅茶くれるんだってー?」
 奏は怪談話の間に、用意したお菓子を摘まもうと、ポットから紅茶を注ぐ。その変わり……という訳ではないが、綿飴のようなマシュを撫でさせてもらおうと思っていたのだが――。
 ガシャッ……ガシャッ……という、重厚感のある金属音。そして、奏が紙コップに注いだ紅茶の表面に浮かぶ波。
「残念ですが、どうやらお茶は後にした方がいいようですね」
 柊夜の視界の先。そこには、赤を基調とした鎧を身に纏う戦鬼の姿があるのであった。


『我ハ、何者ナリヤ?』
 その声は、直接ケルベロス達の脳髄に響くようにして伝わってきた。
「(誰も何も、昔の幽霊さん?)」
 スノーエルは口には出さずも、そうというしかない外見に首を傾げている。
「確か彼女の話では、赤い装束は平家武士で、白い装束なら源氏方の武士。天皇だったら首はちゃんとある……だったかしらね」
 要は、友人の琵琶弾きから聞いた話を整理しつつ、赤い甲冑に注目し、
「平家武士……ね?」
 そう答えた。すると、首なし鎧武者が肩を震わせ始める。怒りではなく、笑っているのだ。
「お互い、得物を持って向かい合ってんだ。誰だって同じだろ」
 そして、幽梨が黒鈴蘭の鯉口を切ると同時、鎧武者も二刀を抜いた。
『クックック、是非モナシ、存分ニ斬リ合アオウゾッ!』
 それ以上、言葉は不要。鎧武者が、その場を動かず高速で斬撃を奔らせる。空間諸共すべてを断ち切らんせとする一撃に対し、抜刀した幽梨の巧みな捌きが応じた。

「(首が本当にないじゃないの!!)」
 分かっていた事ではあるが、その断面がどうなっているか……などを想像してゾワゾワしたものを背筋に感じる碧。彼女は、己が内に渦巻くそれを振り払うように高々と飛び上がると、ルーンアックスを鎧武者に叩き付ける。
「――っと!」
 碧の攻撃により、鍔迫り合いから解放された幽梨は、一旦後退するついでに、弧を描く斬撃で鎧の隙間を切り裂く。
「幽梨ちゃん、今癒やすんだよ!」
 スノーエルは、幽梨が所々に負った切り傷を見るや、白き翼の書を開き、詠唱。幽梨に癒やしと強化を施していく。
 だが、スノーエルの癒やしを嘲笑うかのように、鎧武者の流水の如き薙ぎが前衛と中衛を襲う。
「ぐぅっ!?」
 威力が減衰しているにも関わらず重い一撃に、庇いに入った要の周囲を覆う水のようなバトルオーラが、いくつか弾け飛んだ。
「マシュちゃん、お願いだよ!」
 スノーエルの声が飛び、マシュが要に属性をインストールする。
「(やはり攻撃の威力をいかに抑えるかが重要みたいですね!)」
 さすがはクラッシャーといった所か。だが、それが分かっているならば、それに応じた戦い方があるというもの。要の背後から躍り出た柊夜の如意棒が、鎧武者の剣戟を捌きながら、一撃を確実に加えていく。
「見えてないみたいね。首なしだけに」
 さらに、体勢を立て直した要の電光石火の蹴りは、夜闇を切り裂くように、鎧をボコリとへこませる。
「とにかく、一撃です! それだけを考えて!」
 戦う事に対して、恐怖がないと言えば嘘になる。だが、フェルトは自分と同じ、理不尽な状況に巻き込まれる人を一人でも減らすため、戦う事を決断したのだ。
「――っ!!」
 フェルトの気持ちの籠もったファミリアシュートが、鎧武者に次々と着弾する。まずは一歩。思わず溢れ出そうになった笑顔を噛み殺すフェルトの背に、
「お見事です」
 朔太郎の優しげな声がかけられた。フェルトと入れ替わるように朔太郎は前に出ると、月光斬が閃いた。捕縛を付与し、鎧武者の動きを制限しようという意図だ。
「さすがです、朔太郎さん」
 奏は、一撃離脱で背後に戻ってきた朔太郎に軽い笑みを見せながら、
「(私も負けてはいられない)」
 前衛の前にヒールドローンを展開した。


「残念。水の技ならあたしの得意分野だ」
 要の脚に絡みつき、海の中へと引き込まんとする捕縛に対し、要は同種の水の如きバトルオーラで包み込んで解除する。怨念の籠もった海の水を浄化するように、要のオーラは翅の様に穏やかに舞い散る。
「そんな攻撃が当たると思って?」
 鎧武者は二刀を瞬時に振ると、『空間』事、碧を切り捨てようとする。だが、碧は半身を横に逸らし、その攻撃を回避。逆にグラビティを込めた弾丸で鎧武者を打ち抜く。
「頭がないから、視線は読めない。だけど、これだけ斬り合えば、自然と癖なんかは見えてくるもんだ」
 戦闘が進むに従い、幽梨の瞳の奥にある、冷静で静謐な気配が研ぎ澄まされていく。右からの斬撃を白鞘で受け流し、死角から放たれる小太刀での一撃を幽梨はしゃがみ込んで躱した。
 ハラリと、緑の髪が一房、二房宙を舞った。
「受けきれると思うな……!」
 そして、裂帛の気合いと共に放たれる抜刀術! 次いで、斬り上げ! 剣風に拳さえも込めて炸裂させた幽梨の周囲には、オーラが少し早い桜のように舞っているようにさえ見えた。
 ピシリと、鎧武者の鎧に罅が入る。
 追撃に迫る終夜を中心にして、鎧武者は薙ぎで状況を変えようとするが――。
「これならば!」
 武器封じに、プレッシャー。それに執拗にジグザグを重ねた効果で、鎧武者の攻撃は明らかに弱体化している。今ならば十分に受けきれると判断した柊夜は、一角獣と連携して二刀を捌くと、変幻自在の運足・歩法により鎧武者の死角に回り込んだ。
「狩らせて貰うぞ、その魂……水底に還れ!」
 懐の内からの柊夜の声に、鎧武者が慌てて剣を振るう。だが、そんな付け焼き刃の攻撃は、ただのカモでしかない。柊夜は鎧武者の腕を掴むと、相手の体重と動きを利用して投げ技を放った。
「あと少しなんだよ! もう一踏ん張り頑張ろう!」
 疲労は、ケルベロス側にもある。だからこそ、スノーエルの癒やしと励ましが力となる。幸い、敵のダメージ量が減った事で、戦闘当初は列では間に合わなかった回復が、今では間に合うようになっている。
 鎧武者の攻撃の前に果敢に飛び出すマシュを誇らしく思いながら、スノーエルは仲間をオーロラのような光で包み込む。
「そうです、ここで挫ける訳にはいきません!」
 緊張とダメージで、フェルトは今にでも倒れそうだった。それでも、彼女は歯を食いしばって大地を踏みしめる。両脚に怨念の籠もった海水が絡みつこうとも、フェルトは空の霊力を帯びた斬撃で、鎧武者に必至で食らい付いていく。かつて、死にかけた時に感じ、今も染みついて離れない恐怖を振り払うように。
「氷ダメージも蓄積しているはず……」
 奏の言葉通り、鎧武者の脇腹の辺りは凍り付いている。それは、奏のフロストレーザーによるものだ。数回放って当たったのは一回だけだが、ジグザグの効果や、鎧武者の現在の命中率を加味しても、相当に消耗しているのは間違いない。
「朔太郎さん、最後は任せましたよ?」
 振り返る奏に、朔太郎は笑顔で頷く。奏は安心したように笑うと、釘を生やしたエスカリバーグで鎧武者を殴りつけようとして――。
「あっ!」
 思わず、朔太郎が声を出す。奏の攻撃が回避され、隙ができた奏を鎧武者が空間事切り裂こうと刀を振り下ろしたからだ!
「そうはさせないわよ? 面白いネタがあるんだから……ふふっ」
 だが、鎧武者の刀は、要によって受け止められ、オーラと共に赤い飛沫が飛び散る。そんな中、痛いだろうに、余裕ある笑みを浮かべる要。
「行ってきな、花形役者!」
 要のフォローに幽梨とマシュも入る中、朔太郎は押された背中と期待に応えるべく、
「たまには賭けに出てみましょうか……彼女も見ていることですし、ちょっと格好つけさせて下さいね、っと!」
 仕込み傘を宙に放った。
 傘は螺旋状ぬ渦巻く黄金を纏った黒い巨鳥に姿を変え、鎧武者に襲い掛かる。
「死んで尚も戦い続ける苦しみから、貴方を解放して差し上げます。現代の戦場は、我々ケルベロスにどうぞお任せ下さい」
 朔太郎の弔いの中、巨鳥の猛烈な突進を受けた鎧武者は、甲冑を粉々に粉砕されて消滅した。
 その消えゆく間際……。
『見事ナリ……現代の侍達ヨ』
 ケルベロス達は、そんな声を聞いた気がした。


 一時は水浸しや破損で酷い事になっていた壇ノ浦古戦場跡を修復した一同。
「お疲れ様、皆無事?」
「お疲れ様です、なんとか無事みたいですね」
 碧の言葉に、皆を見渡した柊夜が答える。
「じゃあ、とりあえず被害者さんの様子を見に行こっか?」
「そうするのがいいだろうね」
 それから、スノーエルと幽梨の提案で、被害者の青年の様子を見に行く事となった。

 跡地モニュメント前では、すでに青年は目を覚ましていたようで、
「……えっと、皆さんは?」
 困惑の表情を浮かべていた。
「わぅ、わぅ!」
「おっと!」
 そんな彼を落ち着かせるように、フワモコ狼に変身した奏が、青年の膝の上に飛び乗る。
「私達はケルベロスです。あなたは、魔女の鍵で胸を刺されてしまって、その影響で――」
 一瞬和んだような表情を浮かべる青年に、フェルトが状況を掻い摘まんで説明する。最初こそ不安を覚えていたらしい青年だが、フェルトの説明を聞くに従い、終わる頃には「た、助かりました! ありがとうございます!」と、何度も頭を下げていた。
「本当に歴史がお好きなら、ここで昔あった戦いの壮絶さはよくお分かりでしょう」
「うん、黛さんの言う通りだと私も思うんだよ。今回は偽物だったけど、本物だとしても、やっぱり眠りを妨げたら可哀想かなって!」
「はい、仰る通りで……、軽率でした」
 朔太郎とスノーエルの諭しにも、青年は素直に反省している。こんな事になるなどと、想像もしていなかったに違いない。
 だが、ケルベロス達もお説教がしたい訳ではない。
「貴方が興味を持つのも分かるわ。だから、これからは気を付けてね? はいっ、これで終わり! 貴方も、もう頭を下げない!」
「は、はい、すみま――いえ、改めてありがとうございました!」
 打ち切るように碧が手を叩くと、青年も謝罪をやめ、最後に心からの感謝を。
「……ところでさ、朔太郎君お寿司食べたくない?」
 やりとりが一段落した所で、要がニヤリと笑っている事に朔太郎は気付く。
「わぅ?」
 お寿司と聞いて、奏も朔太郎と要の方へと寄ってきた。
「いやね、歌舞伎俳優朔太郎君の恋人情報提供者には、どこぞの雑誌から金一封出るそうで……」
 言いながら、二人にカメラを向ける要。そして、パシャリと一枚。
「一式さん、それ、どうする気ですか?」
 朔太郎は、すごくいい笑顔で、金一封だと喜ぶ要の肩をガシリと掴んだ。
「いやね、朔太郎君、目が笑ってないよ? 冗談だよ、奏さんだって変身してるし」
「……わぅ?」
 朔太郎と要のやり取りを、奏は不思議そうに眺めていた。
「噂が立つのは、今も強い気持ちが残っているからなのかな……?」
 月明かりの下、周囲の喧噪を余所に幽梨が呟く。
 できれば今日の月のように、静かに眠っていて欲しいと、幽梨は目を伏せるのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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