ピタッとくっつくダモクレス

作者:青葉桂都

●襲撃されるケルベロス
 とある工業地帯の外縁部。
 そこはミッション地域と呼ばれるエリアの端に近い場所だった。
 先日から行われている破壊作戦でいくつかのミッション地域は解放されていたが、残念ながらここの敵はまだ健在。
 そこを戦闘を終えたばかりらしいケルベロスの一団が足早に移動している。
 身のこなしを見れば、まだ駆け出しと言っていい実力の者たちだ。
「傷は大丈夫か? 安全な場所までついたら手当してやるからな」
「このくらい大したこと……」
 傷の大きな仲間をかばいながら、彼らはミッション地域を離脱しようとしていた。
 移動する前方にある建物の陰から新たな敵が現れた。
「へっへへ、ここにいやがったでやんすよ」
「ケルベロス、見つけたやんすー!」
 顔のついたオレンジ色の球体という姿のダモクレスたち。その数は、少なくとも10以上はいるようだった。
 その顔はいっそコミカルといっていいようなものだったが、ケルベロスたちにゆっくりとそれをながめる余裕はなかった。
「戦闘が終わったばっかりだってのに!」
「ここは逃げるしか……!」
 痛みをこらえて身構えるケルベロスたちの前で、球体たちは2つずつ連結し始める。
 くっつくことで他者を強化する能力を持つことはすぐにわかったが、だからといってこの場ですぐに対策はとれない。
 体当たりをし、あるいは壁や地面に反射するレーザーを放って攻撃してくる敵に対し、ケルベロスたちはなすすべもなく逃げるしかなかった。
「ケルベロス、口ほどにもないでやんすー!」
 力をあわせて逃走するケルベロスたちをあざけりながら、ダモクレス・オプションくんたちは容赦のない追い討ちを加えていた。

●ヘリオライダーからの依頼
 指揮官型ダモクレスによる地球侵略のための試みは続いていた。
「すでにご存知の方もいらっしゃるでしょうが、指揮官型ダモクレス『マザー・アイリス』はコストパフォーマンスに優れた量産型を投入するため、各地に試作機を放っています」
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)が告げた。
 ミッション地域に放たれた量産型によって、ミッションからの離脱中にケルベロスが敵に囲まれる事件も起こっている。
 敵は消耗していたり、あるいは少人数やまだ未熟なケルベロスを狙って襲撃を仕掛けてくるため、すでに犠牲も出ているようだ。
「量産型ダモクレスはミッション地域の外縁部に潜んで襲撃を行っていますので、見つけ出して撃破していただきたいのです」
 芹架が今回情報を得た敵は、ミッション地域の1つである鹿島臨海工業地帯に潜んでいるという。
 見つけ出して破壊して欲しいと彼女は告げた。
 出現するのは、オプションくんという量産型ダモクレスだ。
 オレンジ色の球体に目と口が付いた姿のダモクレス。まるで耳のような制御ロッドが付属している。
「名前の通り他のダモクレスにくっついて支援するというコンセプトがあるようで、単体としての戦闘能力はあまり高くありません」
 ここに集まっているケルベロスなら、1対1では確実に勝てる。
 ただし、数が多い。実に16機のオプションくんが出現するようで、侮れば痛い目にあうことだろう。
 また端とはいえ工業地帯ということで大きな建物が並んでおり、隠れ場所には事欠かない。敵のサイズもけして大きくはないようだ。
 うまく探索しなければ、襲撃されて大打撃を受けるかもしれない。
 ただ逆に、気づかれずに見つけ出すことができれば、奇襲をしかけることも可能だ。
「オプションくんの戦闘能力ですが、まず一番特徴的なのがコバンザメのように他者にくっついて強化できることです」
 くっついて行動することで、防御力が強化されるのだという。
 また、オプションくんの体は意外と硬く、体当たりによる攻撃を行ってくる。衝撃で体が麻痺してしまうこともあるようだ。
 他にレーザーを放つこともできる。これは壁や地面で反射しながら目標を追う性質があり、命中率が高いそうだ。
「量産型のダモクレスが実用化されるのは、厄介なことだと言えるでしょう。支援タイプならなおさらです」
 いずれは指揮官であるマザー・アイリスをどうにかしなければならないのだろうが、まずは試験されているダモクレスへの対処が必要だ。
「確実に全滅させていただくよう、よろしくお願いいたします」
 芹架はケルベロスたちに頭を下げた。


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
鏡月・空(月下震天・e04902)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)

■リプレイ

●オプションくんを探せ!
 鹿島臨海工業地帯――ダモクレスに支配されたこの地の外縁部を、ケルベロスたちは見つからないように移動していた。
「やれやれ、面倒くさい奴らが現れたようですね」
 鏡月・空(月下震天・e04902)が呟いた。
「連携して弱った隙を突くのは基本。……とはいえ、小賢しい上に鬱陶しい連中だな。襲われた仲間の分も、たっぷり礼をしてやろーか」
 鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)が緩い調子の笑みを浮かべている。
「あァ、ったく……ナメられッぱなしじゃ居られねェよなァ。帰り道に奇襲するのが卑怯とは言わねェが、やったらやられる覚悟ぐらい有るだろ?」
 バアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)の笑みは凶暴だった。
「口ほどにもねェのがどっちか、教えてやろうじゃねェか」
「だな。連中の目論見通りになんざさせるかよ」
 言葉を交わす彼らは、姿を隠す気流をまとっていた。
 他のケルベロスたちも、大半が同じく気流をまとっている。敵がどこにいるかわからない以上、身を隠して行動するにこしたことはない。
 もっとも隠れているだけではいずれ発見されてしまう。
 一塊となって行動し、攻撃に備えながらケルベロスたちは潜んでいる敵を探していた。
「隠れないでどーんて行ってばーんてやってがーんて倒す方が好きだけど、有利に戦えるならやるしかないよね」
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)が言った。
「あ……」
 声を上げたのは神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)だった。
 敵を見つけたのかと仲間たちが身構える――。
 が、建物の前にあったコンテナを確かめようとして、うっかり入り口についていたスイッチを触ってしまったらしい。
 ちょっと潤んだ目で、明滅する回転灯と仲間たち間に視線をさまよわせる。
「ど、どうしたらいいんでしょう」
「もう一回押してみたら?」
 無表情のまま近づいた鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)がスイッチを切った。
「なにやってんだよ姉ちゃん……。意外と機械音痴だよな。この前も叩けば直るとか言って、PCぶっ壊してたろ」
 青い髪の少年が言った。
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は周囲を確認するが、特に動くものはみあたらない。敵が潜んでいるのはこのあたりではないようだ。
「とりあえず、ミッションに挑んでる人たちがいないみたいなのはありがたいな」
 一房だけ色の違う前髪の少女が凛とした声で告げる。
 ヒーローたる篁・悠(暁光の騎士・e00141)は、まだ未熟な仲間が襲われるのを決して望まない。
 とある建物の角を曲がろうとしていた時のことだった。
 バアルルゥルゥが小さい体をさらに縮めて手鏡で角の向こうを覗き込む。
 少し離れた場所を移動する小さな影が映っているのが見えた。
 そして、何人かの耳に潜めたダモクレスたちの声が届く。
「気をつけるでやんす。さっきからこの辺をうろついてる奴らがいるみたいでやんす」
「わかったでやんす。襲うのはいいけど、襲われるのはごめんでやんす」
 身を隠していたおかげで姿は見られていないものの、存在にはどうやら気づかれてしまっているらしい。
 皆、敵から隠れることには注意を払っていたが、敵を探すことについてはあまり考えていない者も多かった。意外と時間がかかってしまっていたのだ。
 先手を取ることはできるにせよ、奇襲といえるほどの効果はないだろう。
 だが、さらに時間をかければ、気流で隠れていても発見されるのは避けられない。
 ハンドサインで攻撃のタイミングを確認しあうと、敵が姿を消す前にケルベロスたちは飛び出していった。

●強襲ケルベロス
 琥珀は攻撃に備えながら、壁の陰から飛び出して一気に距離を詰めていく。
 他の前衛たちも同じだ。
「敵襲ー! ケルベロスどもが来たでやんすー!」
 オプションくんの1体がケルベロスたちの接近に気づいて仲間たちに警告を発した。
(「いや、なんなんでしょうかあの喋り方は……。ダモクレスなのに妙に感情豊かに聞こえるのは果たして私だけでしょうか……」)
 表情はいつも通りだったが、しかし琥珀は思わず力が抜けそうになる。
 そう聞こえるようプログラムされているとして、果たしてどんな意味があるのか……。
 聞いた者を脱力させるのが目的だとすれば、成功していることになる。
 悠が琥珀を追い越す。
「芥の如き絡繰の群れよ、卑劣なる貴様達を打ち倒し、その行いが無意味であることを知らしめよう! ……人それを『鏤塵吹影』と言う!」
 振りかざす剣より、星座の幻影が飛び出した。
「やれやれ、面倒くさい奴らが現れたようですね」
 空が蒼い紋様の入った剣を振るった。
 振りぬいた刃を静かに鞘へ戻すと、桜の花が舞い踊る。
 敵の大半はまだ反応できていなかったが、とっさに何体かが他のオプションくんにはりついてサポートしていた。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、 道を示せ!」
 ケルベロス側も鈴が敵を追跡するエネルギーの狼たちを召喚して支援する。
 仲間たちを追って前進する煉が、わずかの間だけ遠い目をしているのが見えた。
「後輩ケルベロスを襲うダモクレスか。ひよっこだった俺もこの一年で強くなったんだな。……親父……」
 小さな呟きが聞こえたのは仲間たちのうち何人だったか。
 気合を入れ直して発した言葉は、全員にはっきりと聞こえた。
「……うしっ! 可愛い後輩に手を出したことを後悔させてやる。俺の獄炎、心逝くまで味わいなっ!」
 狼の闘気をまとう左のジャブが、とっさにくっつきあった1体を吹き飛ばす。
「ま、こっちのがわかりやすくて好みだよっ! 小江戸の緋色が殲滅してあげる!」
 グラビティ・チェインを乗せた緋色の鎌が、やはりくっついた別の1体を弾き飛ばす。
 雅貴が放つグレイブが敵前衛の頭上を越えて中衛に降り注いでいた。
 先手を取ったケルベロスの攻撃で、すでにオプションくんの1体が壊れかけている。
「まずは、確実に数を減らさせてもらいましょう」
 琥珀は装着しているアームドフォートを操る。
 レーザーが工業地帯を一閃し、まず1体目のオプションくんが転がった。
 だが、1体を倒したとしてもまだ15体のダモクレスが残っている。
 前衛に出てきているオプション君の一部が、残った仲間にくっつきはじめる。半数ほどが仲間にくっつき、残りが体当たりやレーザーで反撃してきた。
 煉や空は自分に向けられた攻撃の一部を回避している。琥珀や悠は命中した攻撃のいくらかをかばってかわりにくらっていた。
「リューちゃん、攻撃された人を回復してあげてね」
 狼状の闘気を操って仲間に向けながら、鈴がボクスドラゴンのリュガに声をかける。
 回復を受けながら、ケルベロスたちはまず前衛から狙っていた。敵の半分を占める前衛の中、さらに半数が防衛役のようだ。
 もっとも、他の敵も放置しておくわけにはいかない。
 雅貴は中衛や後衛への牽制を引き受けていた。
 狙いながら敵の動きを確認する。おそらく中衛はすべて妨害役だ。3体いる。動きからして、後衛は支援役と狙撃役に分かれているようだ。
 敵も役割分担はしているのだ。
(「けどな、連中の目論見通りになんざさせるかよ」)
 戦闘時の雅貴が見せる笑みは、普段よりも鋭い。
「テメーらの悪行は、今日で終いだ――実用化の夢ごと、消え失せな」
 音もなく……狙った1体の作る影から刃が現れる。
「――――オヤスミ」
 父の剣術と母の魔術、その面影から織り成した技はオプションくんの1体を切り裂き、動きを鈍らせる。

●くっつく敵を吹っ飛ばせ
 飛び回る敵はその頑丈な体をぶつけようと迫ってくる。速度はケルベロスたちのほうが早いが、すべてかわしきるのは難しい。
「やらせません、バリア弾チャージ……シュート!!」
 琥珀が打ち出した砲弾から、グラビティを中和するエネルギーフィールドが展開され、体当たりを受けた悠を守っていた。
 鈴はチェーンナイフを構えた。
「リューちゃんは回復、お願いします」
 命じられたリュガが癒しのブレスを吐いている。
 守りを固める敵、特に防衛役は厄介だ。先手を取って1体を倒したものの、その後くっつきあって守りを固めた敵をまだ倒しきれていない。
「狼の追跡者が教えてくれた弱点は……ここです!」
 オラトリオの翼を広げて、鈴は弱っている1体へと接近する。
 連結部分を切り開いて分離させると、振動するナイフはさらにオプションくんの装甲までも切り崩す。
 そこに弟が飛び込んできた。
「いいタイミングだぜ姉ちゃん! これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ!」
 烈火のごとく燃える闘気が煉の右拳を狼へと変えて焼き尽くす。
「まず1体目っと。ノルマは2だが、クラッシャーとしちゃ4は潰してぇとこだな。姉ちゃん、援護頼む」
「うん、任せて、レンちゃん」
 弟の言葉に、鈴はうなづいた。
「オプション君って名前なのに、今回は1種類しかいないのが不思議だなー」
 緋色は呟きながらも、確実に弱っている敵を狙っていた。だが、別の1体がくっついて攻撃を防ごうとする。
 後方から飛び込んできたのはバアルルゥルゥだ。
 破壊のルーンを刻んだエアシューズで重力を操って、オプションくんを蹴り飛ばす。動きの止まった敵から、硬い音と共にくっついていた1体が吹っ飛んでいく。
「ハッハァ! 良い音がするじゃねェか。まるでビリヤードだなァ!」
 吹っ飛んだところで、今度は緋色が跳躍した。
 川越市で抽出したグラビティ・チェインを簒奪者の鎌にまとわせる。
「いちげきひっさつPS-CC! どーん」
 鎌を思いっきりぶんなげると、大爆発と共に3体目の敵が地に落ちた。
 防衛役は残り1体。
 悠はその1体と打撃役をまとめて削り取りに行く。
 勇気ある白猫が携えるのは、閃雷を纏う光の剣。闇を照らす神鳴る光をまとい、少女は戦場を駆け抜ける。
「雷よ、神威を示せ 其は天空の怒り 悪逆に憤怒する正しき怒りの顕現である 炸裂せよ! 総てを爆ぜ砕く、荒ぶる雷霆よ!」
 剣に宿る雷を収束して、超圧縮する。
 手の中に作り上げた雷球を、悠は敵中へと投げ込んだ。
「雷霆よ、爆ぜ砕け! 神雷ッ!! 散光―――ッ!!!」
 炸裂した雷球が周囲の空間を巻き込んでいく。
 残りの防衛役が、それでも仲間を守り2体分の雷をまとめて受けた。
 傷ついた敵を非物質化した空の剣が敵に吸い込まれるように断ち切り、そして琥珀の中和弾が止めを刺した。
 ケルベロスたちは次いで中衛に目を向ける。彼らもすでに、雅貴の牽制攻撃でだいぶ傷ついているようだった。

●殲滅戦
 傷ついていた3体の妨害役は、ほとんど抵抗もできずに砕けていった。
 体当たりでケルベロスたちを麻痺させようとするが、琥珀の弾丸が広げたバリアやリュガがインストールした癒しの属性により、すぐに回復することができている。
 空は自分に前衛の4体が突っ込んできていることに気づいた。
「せめて1人くらいはつぶしてやるでやんすー!」
 武器にもなる愛刀の鞘で、攻撃を防ごうとする。だが、彼を守ったのは空自身が持つ武器ではなかった。
 オプションくんの1体が空にくっついて、最初の1体からの攻撃を軽減してくれた。
 残る敵のうち1体の体当たりを琥珀が代わりに受けてくれた。最後の1体は刀を抜き放ちざまに弾く。
「なんてことでやんす! ケルベロスが味方に見えたでやんすよー!」
 くっついているオプションくんが叫んでいる。
「桜吹雪の幻影に惑わされましたね。守ってくれたことには感謝しておきますが……」
 敵の体を引きはがし、左の手に蒼いオーラをまとう。
「砕けろ!! まだまだ!! そして吹き飛べ!!」
 まずナックルを叩き込むと、さらに連続で拳を繰り出す。最後に思い切り蒼炎をまとった脚で蹴り飛ばすと、オプションくんは爆散した。
 他の前衛も、煉の拳と緋色の鎌、雅貴のグレイブがそれぞれ止めを刺す。
 残るは後衛の5体だった。
「あんな球体など一気に焼き払います。バルムンク、一斉発射」
 琥珀の体からミサイルが一斉に敵へと飛んでいった。
「ピスケスよ輝け! そして凍てつく氷の棺となれ!」
 悠の背後に双魚宮の紋章が浮かび、オーラが敵に襲いかかる。
「成敗!」
 雅貴の牽制ですでに傷ついていた1体が氷漬けになって動きを止めた。
 煉は壁に反射して自分へ向かってきたレーザーを、降魔聖衣で受け流す。
 だが、反撃で狙うのは攻撃してきた敵ではない。
 追いつめられて、それでもなお仲間をくっついて守ろうとした1体だ。
「んなにくっつきたいならいくらでもくっつきやがれ。壁によっ!」
 左のジャブで、吹き飛んだ敵は壁にめり込んでもう動かなくなる。
「これで4つめっと」
 打撃役としての役目は十分果たしたと言える。手を止める少年ではないが、すでに戦いの終りは間近だった。
 もう回復の必要はないと見たか、姉が残る敵の1体をナイフで斬り刻んでいる。
「さあ残りもばーっとやっちゃうぞー!」
 緋色の爆発がナイフで切られた1体を砕いたかと思うと、影から生まれた雅貴の刃がもう1体を砕く。
 バアルルゥルゥは最後の敵に近づく。
 丸い体をひっつかみ、目の前に引き寄せる。
「ひっ、ひいぃ……助けてくれでやんすー!」
「なァ、こんなのはどうだ?情報吐けば見逃してやるッてのはよ。アイリス以外の指揮官で良いぜ、居場所とか作戦とかなァ」
「わ、わかったでやんす! なんでもしゃべるから、もっと耳を近づけるでやんす」
 言われた通りに、頭をオプションくんに近づけてやる。
「かかったでやんすねケルベロスー!」
「……ハッ。そんなこったろうと思ったけどな」
 至近距離からぶつかってきた金属の塊に、バアルルゥルゥの額が割れる。
 だが、音速を超える拳が最後の敵を粉々に砕いていた。
「片付いたな。もう1つくらい狙いたかったけど、しょうがねぇか」
 周囲を見回した煉が言う。
「ふむ。……敵は取ったか」
 戦いが終わったと判断した悠が、薔薇を一輪手向けた。
「それじゃあ、帰りマ、ショウカ……」
 琥珀色の空を見上げて……機械的な呟きが琥珀の口からもれた。
「ちょっと、ぶつけられすぎて壊れちゃったんじゃないよね?」
「……冗談ですよ」
 心配する緋色に、無表情のまま琥珀は答えて見せた。
「ケルベロス狩りのダモクレスが来る前に、急いで逃げましょう。でも、調子が悪いなら無理しないでくださいね」
 気遣いながらも鈴が撤退を呼びかける。ここはまだダモクレスの支配地域なのだ。
 ケルベロスたちは足早にミッション地域から引き上げていく。
 去り際、雅貴は一度だけ振り向いた。
「……今に見てろ。諸悪の根源を討って、必ず平和を取り戻す」
 それはここで襲われた誰かへの言葉なのか。
 ミッション地域に背を向けたとき、彼はもう表情を緩めていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。