この日もいつもと同じような、何気ない日常の内の一日として過ぎ行く筈だった。
西に傾く太陽が、空に滲んで次第に橙色に広がっていく。
やがて一面を覆い尽さんばかりの、鮮やかな茜色の夕焼け空を見て、人々が今日という日の終わりに思い浸る頃――災厄は突然降りかかる。
どこにでもある市街地の町並みは、まるで戦場のような凄惨な光景に変わり果てていく。
建物は廃墟のように崩壊し、地面は夥しい量の血で染め上げられて、先程までの平穏な営みはもはや見る影もない。
数分前まで人であったモノ達は、原型を留めない程無残な姿で横たわり。臓腑を撒き散らし、肉塊の群れが漂う血の海の中、佇む一つの影がそこにいた。
ソレは、黒い機械の身体に獅子の顔を胸にあしらう異形の怪物――ダモクレスであった。
その禍々しい鋼の獣は、形ある物も、命ある者も、全てを破壊し蹂躙し尽くして。
屍の山を築き上げたその頂に君臨し、燃えるような夕陽を浴びた孤高の獅子の咆哮が――唯一体だけが残る赤い世界に轟いた。
六体の指揮官型ダモクレスによる地球侵略は、今も尚続いている状態だ。
その中の一体、『イマジネイター』率いる軍団が事件を起こすと、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が予知した内容をケルベロス達に告げる。
「ダモクレスの中でも規格外のイレギュラー達を取り纏めたのが、イマジネイターの軍団なんだ。正規の指揮系統とは違って統一された作戦はない代わり、個々が自己判断で行動するみたいだね」
そのような状況でも軍団として機能するのは、規格外のイレギュラー同士の連帯感によるものだとシュリは言う。自分と同じ立場であるという共通認識が、互いの結びつきを強めているようだ。
「今回キミ達が戦う敵は、『頂に立つ獅子レグルス』という名前のダモクレスだよ。大層な二つ名が付いてるけど、それだけ規格外の相手だと思った方が良いよ」
このダモクレスは、胸に獅子の顔を持つ黒塗りのロボットで、かなりの荒くれ者らしい。手当たり次第にあらゆるモノを破壊し尽くす性質で、見境なく力を振るう横暴ぶりに、他のダモクレスも近付こうとしない程恐れられている。
そうした類稀な強さを備えた相手だからこそ、戦いに臨む際は心して掛かる必要がある。
レグルスは市街地の大通りに忽然と現れて、そこで大量虐殺を始めようとする。
「一般人の避難誘導は警察官達に頼むから、キミ達は戦いに集中してくれればいいよ」
現場ではヘリオンから降下して、強襲を行うことになる。戦闘になればケルベロス達を先に排除しようと動くので、一般人への対応は気にしなくて良い。
敵の攻撃方法は、とにかく力で押し切る形の戦闘スタイルだ。腕力に物を言わせて捻じ伏せようとしたり、雄叫びを上げて怯ませようとする。また、獅子の口の水晶部分から、強力なビーム砲を発射してくる。
規格外であるが故、他とは決して相容れず、一線を画す個の集団。
彼等を早急に食い止めなければ、被害は拡大の一途を辿るだろう。
「言うなれば、手に負えなくなった猛獣を野に放つようなものだしね。例え相手がイレギュラーな存在であっても、活路は必ず見出せると思うんだ」
今まで幾度も困難を乗り越えてきたケルベロス達ならば、今回も必ず勝利を収めると。
人々の平和と未来を護る為、託された想いを乗せてヘリオンが戦場に飛び立っていく。
参加者 | |
---|---|
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610) |
アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684) |
オルガ・ディアドロス(盾を持つ者・e00699) |
巫・縁(魂の亡失者・e01047) |
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
月代・風花(雲心月性の巫・e18527) |
●猛る黒鋼の獅子
夕焼け空に包まれる町並みは、鮮やかな赤い世界が広がっていた。
一日の終わりを告げる黄昏の陽はとても綺麗で眩しくて。しかし突然降って湧いた災厄により、街は炎と人々の血で緋に染められようとする。
ダモクレス軍団の地球侵攻が、人々の平穏な日常を脅かす。そのような非道な企みを阻止せんと、空から正義の使者が舞い降りる。
「頂に立つ獅子、か……。随分厳つい敵みたいだが、こちらも劣らぬ面々が多いな……♪」
ヘリオンから降下して、白き竜の翼を翻しながら空中を舞うリーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)。彼女は共に降り立つ仲間達を見て、実に頼もしそうだと胸躍らせる。
落下するリーフの視線の先にある市街地は、普段であれば賑わいを見せているのだろう。しかし警官達による避難誘導が既に行なわれ、人々がいなくなった大通りはまるでゴーストタウンのようだった。
街から生活感が消え、無機質な建物だけが立ち並ぶ景色の中で。唯一つだけ蠢くモノが、そこにいた。
「感じる……感じるぞ、この地獄の疼きを。お前が頂に立つ獅子レグルス!!」
その影を見つけた途端、カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)が表情を歪ませながら胸元を押さえつけ、視界に捉えるダモクレスに向かって声を荒げる。
彼女の手に触れるのは、翡翠色をした水晶だ。それは胸に獅子の顔を持つダモクレスの、その口の中に輝くモノとどこか似ていた。
そのことが何を意味するのかは、カルディア自身も分からない。だが一つ確かなことは、殺し合う為に巡り逢った相手だと――彼女の中の闘争本能が、そう訴えかけていた。
「……お前と奴との因縁については何も言わない。しかし、俺は盾だ……お前を守る者だ」
カルディアの身を案じるように、オルガ・ディアドロス(盾を持つ者・e00699)が静かに力強い口調で、彼女に固く誓う。
大切な者の為ならば、怒れる竜にでも成ろう――オルガは心の中で決意を秘めながら、戦場となる地に足を着けて身構える。
地上に降りた彼等を待っていたのは、破壊と殺戮のみをただ望む、鋼鉄の異形――頂きに立つ獅子の名を冠するダモクレスであった。
見る者に威圧感を与える漆黒の機体。胸に獅子の顔を持つ禍々しい外見は、通常以上の強敵であると感じさせられる。
「確かに凄く強そうだけど……だからといって怯んでなんかいられないっ! 無差別な破壊なんて絶対にさせないんだから!」
ダモクレスの全身から漲る殺気に、月代・風花(雲心月性の巫・e18527)は僅かながらも恐怖を感じて身体を震わせる。
けれども共に戦う仲間達がいることに、風花は勇気をもらって心を落ち着かせ、気を引き締めながら敵を見据える。
「ググ……貴様等、ケルベロス、ダナ。俺ノ邪魔ヲ、スルツモリ、カ」
空から突然現れたケルベロス達に行く手を阻まれて、ダモクレスは若干苛立つ仕草を見せるも一瞬で。立ちはだかる者は倒せば良いと、闘争心を剥き出しにして襲い掛かってくる。
「グオオオオォォォッッ!!」
戦いを告げる獅子の雄叫びが、大気を震わせながら戦場にけたたましく響く。聴く者を怯ませる獣の王の咆哮を耳にしても尚、番犬達には効かないのか平然とした様子を見せる。
今回彼等は、サーヴァントを含めて七名が前衛という布陣を敷いてきた。その影響で敵の列攻撃は分散されて、被害も最小限で留まったのだ。
だがこの戦法は、回復効果にも同様の影響を及ぼす為に、その点は注意が必要となる。
「屍を築くだけの狂獅子か。獅子心王と呼ばれた辣腕の王とは、似ても似つかないものだ」
アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)が皮肉交じりに嘲笑い、光の粒子を後衛陣に散布して戦闘感覚を研ぎ澄まさせる。
その直後にビハインドの執事が衝撃波を飛ばし、荒ぶる獅子の動きを鈍らせて援護する。
「如何なる難敵であろうとも、民を背にした我らケルベロスの戦いは常に不退転也――我、金剛不壊の穂先となりて黒獅子を討つ」
真紅の鎧を身に纏った巨漢の戦士、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が雄々しく仁王立ちしながら敵を迎え撃つ。
力を込めて握り締めた巨大な戦槌を、振り回すと噴き出る竜気によって速度が加わって。威力を増したコロッサスの一撃が、悪しき鋼の獅子に叩き付けられる。
「私達が戦いに敗れたら、多くの人が犠牲になります……。絶対に、負けられません……」
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)が交わす誓いは、この戦いの勝利と、全ての仲間が無事の帰還を果たすこと。
指輪に込めた瑞樹の想いは光の盾となり、コロッサスを護るように彼の周囲を浮遊する。
「制御の利かなくなった獣はただのケダモノだ。そんな輩は確り飼い馴らさなくてはな」
巫・縁(魂の亡失者・e01047)が仮面の奥の瞳を輝かせ、間合いを詰めて太刀を振るう。狙い澄まして繰り出す刃は弧を描き、獣の脚の関節部を鮮やかに斬り裂いた。
そこへオルトロスのアマツが吼えることなく忍び寄り、口に咥えた剣で追い討ちをかけるように斬り付ける。
立て続けにケルベロス達の攻撃を浴びようと、黒き鋼の獅子は微動だにせず。力勝負は望むところだと、熱い吐息を荒げて獣が獰猛な牙を剥く。
●破壊と殺戮の獣
「頂点に孤立する者に……出来ない芸当もある!」
真白に輝く刃に雷を纏わせて、リーフが地面を滑空するかのように突撃し、獅子の鋼の身体に紫電の刃を突き立てる。
「イマジネイターなんぞどうでもいい。私の怨嗟がお前を喰らう! ただそれだけだ!」
カルディアの胸の疼きが一層激しくなって、更なる高揚感を滾らせる。燻り続けた思いを解き放つが如く、蠍座の力を宿した双剣で、宿敵たる獅子に高火力の一撃を叩き込む。
「面白イ……コレコソガ戦イダ! 我ガ全力ヲ振ルウニ相応シイ!!」
敵も味方も関わらず、手当たり次第に力を振り翳し、他のダモクレスからも恐れられてきた存在。だがその力を、正面から受けて立つ者達がいる。レグルスはそのことに嘗てない程興奮し、衝動に流される侭に凶暴な爪でカルディアを襲う。
「戦場では全力を尽くして守り、防ぐ者とならん。其れが盾騎士というものだ」
その時、オルガの身体が咄嗟に反応し、そうはさせじと立ち塞がった。竜を思わせる甲冑の騎士が、獅子の一撃を受け止める――が、その威力は想像以上に凄まじく。オルガの屈強な体躯でも、堪え切れずに弾き飛ばされてしまう。
この純粋なまでの類稀な強さこそ、レグルスが規格外と云われる所以であった。しかし、百戦錬磨の番犬達は、敵の強大な力を見せつけられても決して怯まない。
「幾ら強敵とはいえ、私達の連携には敵わないってこと、嫌って程わからせちゃうよ!」
今までも仲間と共に大きな苦難を乗り越えてきた。だから今回も――そうした自信を力に変えて、風花が御業を用いて鋼の獅子の脚を絡め取る。
「その通り。心無い機械の獅子が、心の強さを持つ僕達に勝てる道理はない!」
風花の言葉に同調するように、アルシェールが毅然とした態度で振る舞いながら、高貴なオーラを放って仲間に治癒を施した。
「救える命は必ず救うのが、我等の責務。これ以上、貴様等に好き勝手な真似はさせん」
コロッサスが燃え盛る焔の如き闘気を脚に纏い、刃のように鋭い蹴りをすかさず放つ。
「真っ向勝負か、上等だ。貴様のような迷惑な輩は徹底的に潰すから、覚悟しろ」
不敵な笑みを浮かべながら、縁が高く跳躍をする。夕陽を背に浴びた縁の姿は、隕石が降り注ぐかの如く。勢いを乗せた重い蹴撃を、獅子の胸にある顔面目掛けて炸裂させる。
「ククッ、良イ気概ダ。ナラバ、コイツヲ受ケテミロ!」
レグルスの獅子の口にある水晶が、眩く輝きながら周囲のエネルギーを取り込んでいく。蓄積された力が渦を巻き、破壊を齎す光となって縁を狙って放たれる。
「……やれやれ。あまりこの身を傷付けたくないのだが、仕方あるまい」
今度はアルシェールが、間に割り込み光線を防ごうとする。翡翠色の閃光がアルシェールの小柄な身体を飲み込むが、少年は闘志を奮い立たせて踏み止まって。獅子の水晶と同じ色の双眸で、鋭く睨み返した。
「――聖王女様、どうかお力をお貸しください」
深く瞑目し、瑞樹が祈りを捧げると。全身から眩い光が溢れ出し、アルシェールが受けた傷を優しく癒す。あの閃光をもう一度受ければ、彼の体力では耐えられないだろう。瑞樹は仲間の状態を冷静に分析し、癒し手として最善の役割を果たす。
「生憎、こちらには獅子退治の専門家が居る! 勇者の加護を宿した力、喰らうが良い!」
リーフが勇猛果敢に突撃を繰り返す。ヘルクレス座の刻印をあしらえた白銀の槌に冷気を込めて、生命の時を凍て付かせる超重力の一撃を打ち据える。
「全力でなんか戦わせない……いっぱい邪魔しちゃうよ!」
風花が聖なる槍を天に掲げると、空の霊力が穂先に宿る。風花は疾風の如き速さで戦場を駆け、斬り裂く刃が傷を重ねる。
「これより攻勢に移る――」
先程受けた借りを返すべく、オルガが反撃を開始する。漆黒の巨大な盾を突き出しながら猛突進し、敵を押し込むように抑え付け。僅かな時間に生じた隙を狙い、竜の槌を振り下ろして鋼の身体を打ち砕く。
「まだだ……まだこの程度では物足りない……。貴様もそうだろう、頂に立つ獅子よ!」
決して満たされることのない心の渇き。カルディアの身体が憎悪の炎に覆われて、心の奥に眠る闇の力を呼び醒ます。
禍々しい黒炎を纏った彼女の声に、狂える獅子が共振するかのように吼え立てる。
戦いはここまで両者譲らず、拮抗した勝負を展開している。だからこそ、些細な油断が命取りになりかねない。ケルベロス達はそのことを肝に銘じて気合いを入れ直し、敵の気迫に圧し負けまいと積極的に仕掛けるのであった。
●頂に立つ者の名は
力と力がぶつかり合い、互いに退くことを知らないこの戦いは、激化の一途を辿っていくことになる。
ここに来て、防御の要であった二体のサーヴァントが討ち倒されて、これまで敵の攻撃を凌いできた壁が崩されてしまう。しかし対する黒鋼の獅子も、ダメージが蓄積されて消耗著しい状態だ。
ケルベロス達はどれ程傷付き多くの血を流そうとも、この機を逃すわけにはいかないと。残った気力を振り絞り、手を緩めることなく一心不乱に攻め立てる。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――」
コロッサスの詠唱に呼応して、紅き神火を宿した剣が顕れる。刀身に纏わる暁闇が、炎を帯びて燃え上がり。振り放たれる一閃は、夜明けを告げるが如く。『黎明』と呼ぶ名に相応しく、コロッサスの豪快な一撃が獣の闇を斬り祓う。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華――龍嵐!」
縁が携える剣には刃がない。あるのはただ鞘のみの、竜の瞳を欠くかのような奇怪な剣を振り抜くと――斬撃が大地を割って鋼の獅子を断ち、血飛沫が赤い華を咲かせて花弁の如く舞い散っていく。
「グヌヌッ……シブトイ奴等メ! コレデモマダ倒レナイノカ!!」
怒れる獅子が叫び狂い、獣の王の咆哮がケルベロス達の足を竦ませる。前衛の守りが薄くなったところを狙われて、疲労の色が濃くなり立っているのも精一杯の状況だ。
「後もう少しの辛抱です。私の力で、皆さんを支え続けます」
回復役に徹する瑞樹が、すぐさま癒しの力を行使する。淡い光の紗幕が仲間を包み込み、温もりが傷の痛みを和らげて、気力を瞬く間に回復させていく。
「貴き行いには、如何なる謬りも存在しない――後は愚かな獅子の牙を叩き折るだけだ!」
幕引きの舞台を整えたとでも言いたげに、アルシェールが自信に満ちた言葉で仲間を鼓舞する。今こそ敵を討つ絶好機だと、彼の直感がそう告げていた。
「それじゃ一気に畳み掛けちゃおう! 舞い散れ、氷華!」
風花が霊刀に念を込めると、氷の力を帯びていく。振り抜く刃は竜爪の如き切れ味で、氷の華を描くかのように舞いながら、獅子の機械の身体を斬り刻む。
「頂に立つ獅子よ、これにて光に、星になれ! 大英雄よ来たれ! その称号の所以を……寡黙に語れ、雄弁に!!」
リーフが虚空に星座を描き、伝説の大英雄の力を召喚させてオーラを彼女の身に纏う。大英雄と重なり合ったリーフの手には、黄金色に輝く槌が握られていて。眼前の獅子を砕かんと、渾身の力を溜めて打ち下ろす。
「頂に立つってことは前も後ろも無いってことだ……。お前は、ここで、死ね!!」
蝕む痛みも忘れる程に、息を切らせて軋む身体を引き摺って。カルディアが殺意を宿した深紅の瞳で、手負いの獅子を睨め付ける。
視界に映る敵の姿は霞んで見えて、足取りも重くふらつき思うように進まない。それでもこれで全てを終わらせようと、剣を振り上げた時――死へと誘う漆黒の爪が、彼女を制して迫り来る。
「……全く、世話が焼けるな。だが、お前が無事なら、それで良い……」
カルディアの生命の輝きが消えそうになる。その窮地を救ったのは、聞き覚えのある友の声だった。オルガが彼女を力尽くで押し退けて、敵の攻撃を代わりに受けたのだ。腹部に爪が深く突き刺さり、滴り落ちる赤い雫が大地を染める。
意識が薄らぎ膝を突き、オルガの身体が崩れ落ちそうになる瞬間――誓いを立てた者への想いが力を与え、オルガの不屈の精神が、獅子の執念をも凌駕する。意識を取り戻し、守り通した姫君の顔を見て、竜装の騎士は小さく頷き最後を託す。
「ああ……こいつで決着を付けてやる。喰らえ! ル・クール・デュ・スコルピヨン!!」
カルディアの胸の水晶が、蠍座の剣と共鳴して魔力を増幅させていく。溢れんばかりの憎悪を込めた怒涛の連撃が、瀕死の獣を斬り刻み。脈打つように輝く獅子の水晶を、髪に仕込んだ蠍の針で貫くと――。
翡翠の欠片が砕け散り。猛り狂う鋼の獅子は息絶えて、砂のように崩れて消滅していった。
――怨嗟に囚われていた女性の騎士は、胸の疼きが鎮まるのを感じると、漸く落ち着きを取り戻し。この手で宿敵を討ち倒した感触を、思い返して噛み締める。
激しい剣戟の音も、轟く砲声も今は止み、戦いを終えた戦場は静寂に包まれていた。
「獅子の名に恥じぬ強敵であった。……今回は、瑞樹がいてくれて良かったよ」
コロッサスは傍らに寄り添う少女に感謝を述べながら、そっと掌を差し出した。
これからも俺と一緒にいてくれるか、と。寄せる言葉に瑞樹は微笑みながら、差し伸べられた掌の上に、自分の掌を重ねて添える。
そのやり取りは何だかプロポーズみたいだと、少女は恥じらうように顔を赤らめ俯くが。それでも繋いだ手を離すことはなく。
二人は互いの想いを確かめ合うように、伝わる肌の温もりを感じ合っていた。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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