破壊の神を模したモノ

作者:ともしびともる

●破壊をもたらすもの
 関東地方の某所。静かな田園の脇を走る私鉄線路、その裏に広がる森に、巨人は潜んでいた。
 朝の通勤時間、二両編成の小さな電車が近づく音を聞き、青銅の巨人が森の暗がりから躍り出て線路へと立ちふさがった。車掌が急ブレーキをかけたがもう遅い。車両全高の2倍はあろうかという巨人は、飛び込んでくる車両の正面に壮絶な蹴りを放った。衝突の衝撃に先頭車両はグシャグシャに潰れ、凄まじい破壊音とともに車両全体が田んぼへと落下した。横転し、窓が割り尽された車両の中から、辛うじて息がある乗客の微かな呻き声が上がる。それを聞き取った巨人は倒れた車両に近づき、手にした二本の短槍を、無慈悲かつ執拗に、何度も何度も振り下ろした。
 列車は惨たらしく破壊され、程なくして残骸の中に声を上げるものは居なくなった。奪うべきグラビティ・チェインが尽きたことに気がつくと、巨人は咆哮を上げ、炎を上げる両目を次なる目的地へと向け、線路を踏みしめながら歩き出した。

●智略を以て立ち向かえ
「ごめんなさい、また発生してしまいました、指揮官型ダモクレス、『ディザスター・キング』一派の襲撃です……!!」
 ミルティ・フランボワーズ(メイドさんヘリオライダー・en0246)が開口一番にケルベロスたちへと頭を下げて詫びる。
「『ディザスター・キング』はグラビティ・チェインの略奪を主務とする軍団を率いており、自身の有力な配下に各地で襲撃事件を起こさせています。今回の事件を起こしたのは巨大銅像の軽巡級ダモクレス、『アーレース』です」
 アーレースは身長7メートルほどの巨大な動く青銅像のような姿をしている。私鉄の線路上に現れ、車両のみならず沿線上の駅などを次々襲撃するつもりのようだ。
「最初に襲われた2両編成車には30名以上の乗客がいましたが……本当にごめんなさい、助け出すことはできません。乗客全員の殺害を完了したアーレースは、6キロ先の駅を目指して線路沿いに移動していきます。皆さんには、車両を襲撃した地点を離れ、駅へと向けて移動中のアーレースと会敵、開戦してもらうことになります」
 現場は静かな田園地帯であり、人気はないので人払いの必要は無いだろう。線路の向こうには森が広がっているので、そちらを戦場にすることも出来る。
「アーレースの巨体から繰り出される攻撃は一撃一撃が強力で、漫然と戦うと危険な相手です。ただ、火力が高い反面、知的な能力は高くないようです。興奮しだすと命中率よりも威力を優先して攻撃を選択する傾向があるようで、それが弱点と言えるかもしれません。耐久力も高い敵ですが、破壊属性の攻撃にやや弱いようですよ」
 敵の情報を確認し、有効な戦略を立てて望んでほしい。
「それから、敵の目的はグラビティ・チェインの略奪なので、ケルベロスと会敵しても一般人の襲撃を優先して逃走を図ろうとする可能性があります。なので、迎撃の際には敵を現場に向かわせない工夫が必要です。今回の敵は思考が単純な傾向があるので、攻撃などで進路を妨害したり怒らせたりして『排除すべき邪魔な敵』と認識させるのが有効そうです」
 一度戦闘が始まれば、以後は敵も逃走などは行わず、障害であるケルベロスの排除に全力を注ぐようになるだろう。
 説明を終えると、ミルティは悲しげにまた頭を下げた。
「予言で悲劇を止められなくて本当にごめんなさい……。野蛮な破壊者を、皆さんの知恵と戦略で叩き潰してしまってください! そして、どうか次の悲劇を止めてください……! ……いってらっしゃいませ!」


参加者
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
ユグゴト・ツァン(凹凸普遍な脳深蕩・e23397)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
長谷川・わかな(はんにゃーガール・e31807)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
バラフィール・アルシク(白き放浪医・e32965)
曽我・小町(天空魔少女・e35148)

■リプレイ


 地鳴りを響かせ、線路を踏みつけて歩くアーレースの進路上に、ケルベロス達は立ちふさがった。巨人の槍の先からは赤黒い液体が滴り、その向こう側では、原型を留めぬほど破壊された列車が、か細く煙を上げている。
「なんて、酷い……!」
 遠目にも分かる惨劇の光景に、天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)が思わず息を飲んだ。
「戦と破壊の神、『アーレース』か。良い噂は聞かない個体だったが、やらかしてくれたようだね」
 野蛮さ顕な襲撃跡に、千歳緑・豊(喜懼・e09097)は呆れ混じりのため息をもらす。その知性を感じさせぬ蛮行に、ユグゴト・ツァン(凹凸普遍な脳深蕩・e23397)は眉をしかめ、嫌悪と怒りを露わにしていた。
「……破壊の神とは。暴虐の化身とは。戯言よ。莫迦に薬物など不要で在り、必要な術は解体と解く」
 列車を見やり、思い詰めた表情を浮かべ続けるバラフィール・アルシク(白き放浪医・e32965)を、相棒のカッツェが覗き込む。
「……これ以上、虐殺をさせるわけにはいきません……ね」
 心配そうにする相棒に彼女はそう呟いた。
「悲劇はここで食い止めてみせる。もう誰も、傷つけさせない……!」
 長谷川・わかな(はんにゃーガール・e31807)の表情も固く、元気印の笑顔も今日は引っ込めたままだ。
 一方、巨大な討伐対象を目にして、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)不敵な笑みを浮かべていた。
「電車の正面衝突に打ち勝つとは……と驚きたいところだが、我々もインドで電車を相手にしていたな、その辺は互角か。ククク……なんにせよ、愉しめそうな相手で何よりだ」
 愉快そうな忍び笑いを漏らすペル。この小柄な少女は、眼前の巨人に力比べを挑もうとしているのだ。
 立ち尽くした曽我・小町(天空魔少女・e35148)は、視界の先の大量虐殺の光景に言葉を失っていた。
(機械の巨人に大勢の人が……でも、夢で見たアレじゃない)
 地球滅亡の光景を夢に見て以来、小町の心に刻まれた絶望が脳裏を離れることはない。ここで起きた悲劇は彼女の絶望を想起させたが、彼女とてその度に心を折られるほど、生半可な覚悟で戦士になったわけではないのだ。
「……大丈夫、あたしの絶望には、届かない」
 小町は決然とした口調で言い放ち、真っ直ぐに敵へと向き直った。
 進路上のケルベロスに気づいたアーレースは、威嚇の咆哮を上げ、二本の槍を地面に突き立てて衝撃波を巻き起こした。周囲の田畑が破壊され、岩や土塊が辺りに吹き飛ぶ。降り注ぐ土埃に、ケルベロス達は怯むことなく速やかに作戦行動に入った。


「さて、鬼さんこちらってとこかしら?」
 小町が敵の前へと駆け、光散るスターゲイザーの一撃で巨人の足を蹴り祓う。
「犠牲者を出したわたしが赦せないんですよね……八つ当たり、させてもらいます……」
 同じく飛び込んでいた折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は、怒りに荒んだ瞳でチェーンソーを振りかぶり、敵の脛部を袈裟斬りにして赤い火花を派手に散らせた。
 足元を一瞥した巨人の顔面に稲妻が飛び込んで、顔中に電撃が広がる。
「貴方の相手はこちらです……来なさい!」
 ライトニングボルトを放ったバラフィールに合わせてわかなも跳躍し、重力を纏った靴で巨人の足の甲を思い切り踏みつける。
「身体ばっかり大きなうすのろさん! 追いかけてこれるものなら来てみなよ!」
 わかなが叫び、攻撃を放ったものは森の方向へと引いていく。彼らの初手の狙いは、挑発によって駅の襲撃を阻止しつつ、敵を森林内へと誘導することだ。
 森林を背に陣取っていたユグゴトは、すれ違う仲間を視界の端とらえつつ魔導書を広げ、粘液の下僕を召喚した。
「破壊を抑える蹂躙を。神を倣った玩具に刑を」
 命に従い、流体の化物が巨人の身体を這い上がっていく。苛立たしげに唸り、粘菌を振り払おうとする巨人へと、木の陰に隠れていたペルが素早く駆け寄った。
「脳筋な木偶の坊よ、少し邪魔させて貰おうか。そら、こっちの蹴りも負けてはいないぞ……」
 大きく跳躍したペルは巨人の腹部に迅雷の両足蹴りを叩き込んだ。巨人は衝撃によろめき、ペルは反動を利用し飛びのいて、ユグゴトと共に木々の裏へと駆け込んだ。
 執拗な挑発に、巨人は怒りの咆哮を上げて進路をケルベロスの方へと向ける。巨人は大地を踏み荒らしながら、煽られるがままに森の中へと侵入してきた。
「悲しみの連鎖はここで絶ち切ります! 行きましょう、だいふく!」
 まんまと森林内に誘導された敵に、ケルベロス達は本格的な戦闘を開始する。ある者は飛び、ある者は木の裏に隠れて位置取り、敵の視野から消えることを意識しながら立ち回る。
 雨弓は『隠された森の小路』の力を利用し、森林内とは思えないスピードで中空を翔けた。背後に回った隙をついて凍結の手刀を敵の首筋に放ち、振り返ろうとした巨人の頭頂部に、頭上に潜んだだいふくが猛毒の針をブスリと刺した。
 味方強化と敵弱体化を図りつつ小回りを効かせて立ち回るケルベロスに対し、巨人は力任せの攻撃を繰り出し続ける。列車を破壊した蹴りで安々と木々をなぎ倒し、木など存在しないかのように動き回った。
「……はあ、これは確かに、食らったらまずそうだ」
 豊は蹴り折られる木々を見やって呟いたが、その言葉はどこか余裕を含み、むしろ楽しんでいるかのように響いた。
「そら、鬼さんこちら、だ」
 豊は木の裏から飛び出して身を晒し、次の木へ移る一瞬の合間で敵の槍を狙撃して見せた。
 粗雑な敵の攻撃は比較的躱しやすかったが、当たればやはり威力は強烈だった。猛る巨人が巻き起こした衝撃波の爆裂が周囲の木々を吹き飛ばし、巻き込まれただいふくが耐えきれずにその姿を消された。
「だいふく……!」
 雨弓が悲鳴のように叫ぶ。豊を庇ったグラも地面に激しく叩きつけられ、もはやいつ倒れてもおかしくないような様子だった。
 仲間を何度か庇った茜も、既に全身傷だらけだ。だが今の茜は、守れなかった人々への自責の念に、敵の苛烈な攻撃が奇妙に心地よい気すらしていた。
「まあコイツのことは、ぶっすり潰しても許さないんですけどね……!」
 苦々しく呟く茜。戦線は拮抗し、敵を消耗させた分だけ、部隊も消耗させられていた。
 そして事態は一変する。纏わりつくケルベロス達を振り払おうと、巨人が手にした槍を乱暴に凪いだ。その槍が振り下ろされるのと、ユグゴトが詠唱の為に足を止めたのが同時だったのだ。
「ユグゴトさん!」
 短槍の一撃が彼女の頭部に直撃し、砕けるような音と共に彼女の体が強烈な勢いで木の幹へと叩きつけられた。


 叩きつけられた木は傾ぎ、ユグゴトの体は木にもたれてズルズルと座り込む。頭部から大量に流血しており、どう見ても立ち上がれる損傷ではなかった。
「この……!」
 茜が呟き、巨人を睨みつける。
「ふふ……くくく。やってくれる」
 しかし、ユグゴトは笑いながらヨロヨロと立ち上がった。ケルベロス達が驚いて彼女を振り返る。
「だが、どうだ? 貴様の一撃は頭蓋を少々破壊したのみ、我が脳にすら達しては居らぬ。総てを破壊するならば『徹底的』を志せ。貴様の如き半端『物』は有象無象の基と成れ……!」
 漏れた笑いと裏腹に、血濡れのその目は憤怒と憎悪に燃えていた。怒れる彼女の魂が、その肉体を凌駕したのだ。
「三十余の生命に謝るが好い。誤った貴様の行き先は『実験動物』と思え。……脳筋は屠る」
 ユグゴトは暴走も辞さぬ勢いで力を奔走させ、刃の風を巻き起こす。風は彼女の拒絶を現したかのように吹き荒れ、巨人の損傷部をズタズタに切り裂いた。
「お行き! パット! プック!」
 『隠された森の小路』が偶然作り出した木々の隙間から、小町のファミリアと、グリも合わせて敵の死角から飛び出し、巨人の損傷部を突いたり引っ掻いたりした。
 危機を脱し、戦闘も中盤に差し掛って、ケルベロスは「ジグザグ」技を次々と繰り出した。治癒の術が無い巨人に対し、これは残酷なまでの効果を上げた。時間が経過するごとに巨人の動きは鈍くなり、その身もみるみる蝕まれていく。
「あたしはまだ力不足……けど。この歌声は神をも砕く、魔剣にもなるのよ?」
 小町の歌声が希望を灯し、ケルベロス達の集中力を研ぎ澄ませていく。対して巨人はまなならぬ身体に苛つき、当たり散らすかのように槍を雑に振り回し始めた。
「ひどい挙動……、庇うまでも、ないですね」
 茜が呆れ混じりに呟く。巨人が払い飛ばした木がこちらに倒れてくるのを見て、茜は怪力無双を用い、その木を敵の顔面に向けて弾き返した。飛ばした木が巨人の視界を遮った瞬間、跳躍した茜が木を両断して巨人の眼前に現れる。茜はチェーンソー剣を振り下ろし、巨人の脳天から顔面に掛けてをバリバリと斬りつけた。
 意表をついた攻撃に、顔面を押さえてよろめく巨人。その背後に、二太刀の鉄塊剣を構えた雨弓が回り込んだ。瞳に明らかな怒りをたぎらせ、その背中に十字の傷を刻み込む。燃え上がる創傷に巨人が仰け反って上を見上げた瞬間、ダブルジャンプと木を利用して空高く跳躍していたわかなが木の葉と枝を突き破って現れた。
「はああああっ!!」
 わかなが掲げた鉄鍋が、落下の勢いに乗せてその顔面に叩きつけられる。巨人がよろめくのを見て、樹上に隠れていたバラフィールとカッツェが姿を表し、交差しながらの同時攻撃を仕掛けた。
 勝負を決しようと、ケルベロス達が破壊攻撃を容赦なく叩き込む。巨人は呻きながら、また闇雲に槍を振り下ろそうとした。その様子を見た豊は不意に笑い、槍の射程地点へと全速力で突っ込んでいく。
「豊さん!?」
 豊は駆けながら半身を捻り、振り下ろされた槍を一寸の差で躱した。そのまま勢いを殺さずに走り抜け、敵の両足の間に滑り込みながらの射撃で、巨人の顎を真下から正確に撃ち抜いた。撃たれた顎から無数のヒビが広がり、ボロボロと破片が散り始める。
「おや、もう限界かな?もう少し頭を使ってくれれば、もっと楽しかったんだけどね」
 命知らずな豊の挙動に、ペルがさも愉快そうに笑った。
「死ぬ気か? 豊。いや、我にも判るぞ、命を賭して闘争に浸る愉悦はな……!」
 ペルの手から、自身の何倍もあろうかという巨大な白剣が創造された。ペルは両手を振り上げ、巨人の脳天めがけて消滅の巨剣を振り下ろす。
「目には目を、デカぶつにはデカぶつだ。食らえ……」
 足が止まった巨人に、その大剣を避ける術は無かった。眩い白剣の一撃は、巨人の頭部を粉々に霧散させた。頭部を失ったアーレースは首から激しい炎を吹き上げながら膝をつき、ぐらりと傾いで倒れた瞬間、神を騙った巨人の全身は轟音とともにバラバラに砕け散った。


「あっけない最後だな。まあ、多少は楽しませてもらった」
 ペルが崩れ去った巨人を見やって笑い、作り出した巨剣を消滅させた。
 敵が無力化したのを見て、バラフィールは踵を返して列車へと飛び立つ。わかなも彼女を追うようにすぐさま列車へ駆け出した。
「……私もあちらに行こう。お嬢さん方は外にいた方がいいんじゃないかね? 中は……まずいだろうから」
 豊が静かな声で言い、茜が振り返らずに歩きだす。
「わたしは彼らを救ってあげることができなかった……だからせめて心に刻んでおきたいんです」
 頑なな表情でそう言った茜も、わかな達を追って駆け出した。
「……それじゃ、手分けって事で。あたしは森のヒールに当たるわ」
「私も、お言葉に甘えて……そちらはお任せ致します」
 表情を出さずに小町が言い、雨弓は頭を下げてその場に残った。
「莫迦の脳など元より不要であったが、砕け散るとは。実験道具にも成らん。最後まで使えぬ木偶め」
 額の血を拭い、破片を蹴り上げながらユグゴトは吐き捨てた。敵の残骸を忌々しく睨みつけつつ、ペル達と同様に森のヒールを始めた。
 いち早く列車に向かったバラフィールは光の翼を広げ、生命の微かな灯火がないかと探った。潰れた列車にヒールをかけて空間を作り、窓から列車の中へと入って……しかし、翼が命の息吹を感じ取ることはついになかった。
「ラフィ、さん……」
 車内で呆然と立ち尽くすバラフィールの様子に、わかなも希望が潰えたことを察する。本当は分かっていた、それでも彼女らは、一縷の望みを持たずにはいられなかったのだった。
「これはまた、ヒドイ有様だな」
 豊が列車に入り、予想通りの赤く凄惨な光景にため息をつく。尨犬のヒールがひしゃげた列車を少しずつ修復していき、列車の残骸によって苦しげに潰されていた遺体も次々と開放されていった。その遺体達を、茜は丁寧に抱き上げて一人ひとり列車の外へと助け出していく。血に染まっていく茜の体。彼女は身を切るような悔しさに歯を食いしばりながら、ただ黙々と死体を運び出し続けた。
 意を決して列車内へと入ったわかなは、茜に倣って遺体を運び出そうと会社員らしき男性の遺体に触れた。彼の胸ポケットからスマートフォンが滑り出て、落下の拍子に待受画像が表示される。幼い子供を抱いて幸せそうに笑い合う、彼の家族写真だった。わかなの眼から、涙の粒が次々と溢れ出す。
「ごめんなさい……。助けに来れなくて、ごめんなさい……ごめんなさい……」
 わかなは膝を抱えて蹲り、少しの間、謝りながら泣き続けた。
 森のヒールを終えた雨弓は、一人列車を振り返っていた。
 雨弓は惨劇の現場に近づくのをつい忌避した。その光景を見れば、洗脳され、愛する夫を殺めてしまった時のことを思い出してしまいそうだったからだ。
 冥福を祈り、列車に向けて手を合わせた雨弓の目からは、いつの間にか涙がこぼれ落ちていた。そこに、復活しただいふくがポン、と現れ、彼女の涙をそっと拭いて、可愛らしく鳴いた。
 森のヒールを終えた彼らは、自然と列車の側に集まった。列車と犠牲者に可能な限りヒールを施して、皆で静かに黙祷する。
「ごめんなさい……。私の力は『命を守るため』に使うと、ここで皆さんに誓わせてください……」
「もっと強く、強くならなきゃ。今度こそ皆を守れるように……」
 バラフィールが祈るように言い、わかなは滲む涙をこらえながら、小さく、しかし強く呟いた。
「さあ皆、顔をあげよう。自分を責め過ぎてはいけないよ。私達が守れた命も、確かにあるのだからね」
 豊が気に病む仲間へと声をかける。小町は頷き、犠牲者の無念を悼みながらも、
「受け止めて行くしか、ないわね」
 自分に言い聞かせるようにつぶやき、悲しむわかなを慰めるように、肩にそっと触れた。
「……それでも、ディザスターキングは許さない。絶対にすり潰す……!」
 茜が悔恨と怒りを込めてその決意を口にする。それぞれの思いを胸に、彼らは現場を後にした。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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