小松空港、重装の機兵団

作者:白石小梅

●小松空港、蹂躙方陣
 北陸の玄関口、石川県小松市、小松空港。
 だが今は、飛翔機士に拠る空爆とケルベロスの迎撃が繰り返される、ダモクレス勢力と地球文明との最激戦地の一つ。
 その夜も、激しい闘いがあったばかり……。
「全機撃墜! やったぜ、相棒!」
「……俺の銃とお前の手裏剣があればな。こんなもんだ」
 一人の忍がガンマンと手を叩き合い、共に出撃した仲間たちと無事を確認しあう。
 だが、その日は波乱があった。
「おい、管制塔の方から新手だ!」
 それは、放棄された車両やコンテナの奥から姿を現した、厳めしい鎧の機兵隊。
「まさか、噂の量産機群か!」
『敵部隊の接近を確認。迎撃せよ。この地を死守せよ』
 巨漢の手頸から一斉に弾丸が弾け飛び、番犬たちの手裏剣やレーザーが舞う。
 瞬く間に始まる、熾烈な射撃戦。
「数が多すぎる! 止めきれない!」
 言うと同時に、忍者のことを機兵の剛拳が殴り飛ばした。すぐさまその拳が鎖に引かれて敵の手頸に戻っていく。
「フレイルアームか……! 退け! 皆退け!」
 倒れた忍者を肩に背負い、ガンマンが撤退の指揮を執る。
 機兵たちはしばらくその背に向けて弾丸を連射していたが、やがて蒸気を吹いて停止した。
『敵部隊の撤退を確認。拠点防衛を続行する』
 彼らはゆっくりと身を翻し、空港の建物へと戻っていく。
 この地球に築いた一大拠点を守るため、彼らの同型機が大挙して押し寄せる。
 その日の為に……。

●怒涛のダモクレス軍団
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が、居並んだ番犬を前に口を開く。
「マザー・アイリスの放った試作機が現れました。今度は小松空港です」
 現在、ダモクレス勢力は六基の指揮官を地球へ送り込み、それぞれに競争させつつ異なる手法で侵略を進めている。
「マザー・アイリスの軍団はやがて来るケルベロスとの闘いに量産型ダモクレスを投入するべく、試作機をダモクレス制圧下のミッション地域に送り込み、性能テストをしているのです」
 すでにいくつものミッション部隊が、帰還時に正体不明部隊に襲撃を受けている。損耗している部隊や少人数の巡回中、戦闘能力の低い者が狙われ、無視出来ない被害が出ているという。
 放置すればこちらの戦力は擦り減り、敵には有用な勝利データが積み重なっていくばかり。
「量産型試作機はミッション地域の外縁部に潜み、襲撃活動を行っています。皆さんはミッション部隊とは別に、試作機に対する索敵攻撃隊として出撃。外縁部に潜む量産型試作機を見つけ出し、殲滅してください」

●アームドギア
「こちらが今回出現を確認した量産型です。名称、アームドギア。単体で開発の進められた機体のようで、所属識別コード等はないようです」
 それは、蒸気を吹きながら突進してくる厳めしい巨漢型のダモクレス。
「得られた情報を分析したところ、開発段階では搭乗者を前提とした戦闘スーツだったようです。コスト面か技術面かの問題で計画が頓挫していたところを、マザーアイリスが自軍に組み込んだようですね」
 マザー・アイリスはパイロット式を廃し、安価で簡易な戦闘頭脳をこのスーツに組み込むことで安価に構築できる機兵団を作りあげた。ということらしい。
「敵総数は十六体。試作型の頭脳は防衛型と射撃型に分かれているようで、八体ずつディフェンダーとスナイパーに分かれ、攻撃の間に防御姿勢を挟みつつ、防衛型は主に鎖で繋がった剛拳を飛ばし、射撃型は手首に組み込まれた機銃を連射します。そうして同性能、同装備の機体を異なる行動で連携させているのでしょう」
 コンセプトが拠点防衛向きなのだろう。小松空港を仮想の防衛拠点とし、守備に就いているという。

「様々な開発プロジェクトを自軍に組み込み、限られた予算と期間の中で生産体制を整え、まだ存在もしていない大兵力を出現させる……マザー・アイリスは相当なやり手なのでしょう。ですがここで最終調整を失敗させれば、敵軍団の性能を大幅に削げるはずです」
 それでは出撃準備をお願い申し上げます。
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
ルミネール・エトワール(境を超える治癒師・e19449)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
美津羽・光流(水妖・e29827)

■リプレイ

●小松空港強襲行
 日が落ちる。
 厳しい海風の中も、僅かに暖かみが混じるようになった。遠くに見える山々は、頬を撫でる風に白粉を落としつつあるようだ。
 そこは廃墟となった北陸の玄関口。
 飛び交う飛行機も今はなく。滑走路には雑草たちが芽吹き。放置された車両が寂し気に佇む。
 やがて来る解放の日を夢に見て、小松空港は明りを灯す。
「夜が来るね。ヒールのおかげでインフラは生きてるから、電気はつく、か……こういうの、任務って感じだよね。じゃあ張り切って斬り込む前に……まずは準備だね」
 ゼレフ・スティガル(雲・e00179)がそう呟く。彼を筆頭に並んだのは、八人の番犬。空港より少し離れた高台に集合して。
「地形を調べてみたが……小松空港はただひたすら平地だ。空港だしな。昼間なら気付かれずに近づくのは困難だろうが、夜が俺たちに味方をしてくれそうだ」
 情報の妖精さんを用いて地形情報を集めていたのは、望月・巌(茜色の空に浮かぶ満月・e00281)。嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)から、迷彩の外套を受け取って。
「適当な遮蔽物まではこれでゆっくり近寄ろう。それにしてもマザー・アイリスもどんだけ研究熱心なんだか。無駄と思い知らせてやらなきゃな。連中を鉄屑に変えてやる」
「勝手に性能テストにつき合わされるとかたまったもんじゃないしな。まぁ、この時点でおじゃんにすれば、敵の高々な鼻も折れるだろ。……放置された送迎バスを発見。隠れるのに使えそうだ」
 そう言うのは、双眼鏡を覗き込んでいたノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)。
 ルミネール・エトワール(境を超える治癒師・e19449)が、双眼鏡を睨み据えたまま答える。
「こちらは敵が目視できました。建物周辺に数体が哨戒中」
「ほー。本当に律儀に守ってるんやね。拠点防衛型て言うてたもんな。空っぽのボディにしょっぱいオツム入れて動かすんじゃ、それが限界なんやろうか?」
 美津羽・光流(水妖・e29827)の言う通り、敵は迎え討つ仕様のようだ。何も調べず無策で近づかない限り先手を取られることはないだろう。
 だが、志藤・巌(壊し屋・e10136)は舌を打つ。
「チッ。却って厄介だな。こっちが奇襲を掛けるには隙が少ない。……おい、そう緊張するな。大丈夫だ。中々骨が折れる仕事だが、今回は頼りになる面子が揃ってる」
 志藤の言葉は、固くなったまま遠方を睨んでいたルミネールへ。
「依頼の参加は、とても久しぶりでして……身体がなまってなければいいのですが。それに今回の武器はどれも馴染みの無いものなんです」
 彼女は緊張した笑みを浮かべると、ようやく双眼鏡を下げる。
「作戦のため努力をしていただいてありがとうございます。大丈夫。みんなで支えあえば、きっと上手く行きますよ」
 生明・穣(月草之青・e00256)が、微笑んだ。その隣には、ウイングキャットの藍華も一緒だ。皆に励まされ、ルミネールも頷く。
 準備は整った。
 番犬たちは潜入する。闇の帳に包まれた、小松空港へ……。

 それは、建物からの遮蔽物となる送迎バス。
 数十メートル先では、機械音を発しながら、一体のアームドギアが周囲を哨戒している。
 匍匐を終え、バスを背にしてゼレフはふうっとため息を落とした。
(「さて、陽動を掛けて誘いだそうかと思ったけど……敵が丸見えならそんな必要はないかな」)
(「ですね……今回は建物を拠点として、ほとんどが周囲や内部を哨戒しているようです」)
 穣が反対側を覗き込めば、そちら側にも一体がうろついていて。望月はバスの下へと潜り込み、空港の建物を見上げる。
(「……建物二階にも一体。周囲を見下ろしてるな。こりゃ厳重だ」)
 ハンドサインで伝えられた情報に、志藤が腕を組んで。
(「視界の重なり合いを考慮して配置されてるのか。背を討とうと近づけば、他の奴に見付かる」)
(「動き自体は同じコースの繰り返し……タイミングを見れば、ある程度まで近づけそうですが……奇襲を成功させるにはもう一工夫要りますね」)
 しばらく敵の動きを観察して、ルミエールが振り返る。
 頷くのは、二人。

『異常なし』
 何千、何万と同じ言葉を繰り返しながら、巨漢の機兵は振り返る。
 そしてにんまりと笑った光流と、目が合った。
「よ。これ以上は好きにさせへんで」
 瞬間、その横っ面を螺旋の氷が打ち据える。目が眩んだ機兵の脇には、すでに陽治の影。
「研究熱心なお母さんに伝えな。無駄な鉄屑を量産するのはやめなってな」
 巨大な槌が、竜の息吹を噴き出して機兵を叩きのめす。盛大に転がった飛んで行った機兵に、コンテナの影に隠れていた仲間たちが一斉に躍りかかった。
「よし。まずは一体。派手にやったからな。すぐに来るぞ。俺たちは回復に専念だ」
 ため息をつく間もなく、硝子の割れる音が響き渡る。銃弾の嵐が、建物から降り注いで。
 二人が身を捻って仲間たち隠れていたコンテナへ戻った時には、先ほどの一体はすでにひしゃげたスクラップと化していた。
『敵襲。敵襲。この地を死守せよ』
 牽制の弾幕を撃ち終えると、機兵たちは建物から次々と飛び降りる。更に、車両やコンテナを押し退けて、周囲に散っていた機兵たちがすぐさま集結してくる。
「多っ! どれがどれやらわからへんな。まずは印を刻まんとあかん……って、回復したらまたわからへんやん」
 次の瞬間には消し飛ぶだろうコンテナの裏で、光流が肩をすくませる。
「大丈夫だよ。とりあえず、僕やゲンが叩いた奴を続けて叩けばいいさ。さあ、見せてやろう」
 ゼレフがそう言って飛びだすと同時に、濁流のような銃弾に呑まれてコンテナは弾け飛んだ。
 そして闘いが、始まった。


 コンテナの影から身を躍らせれば、敵陣は壁の如く並んで迫ってくる。
 こちらの挙動を察し、前列は一斉に盾を構えるような姿勢を取る。更に、行軍の合間を縫って、後列の火砲が火を噴いて。
「腰を沈めた防御姿勢か。威力の底上げを図るつもりだろうが……俺たちの前ではどうだろうな」
 弾幕の中を右へ左へ跳ね飛びながら、陽治が撒くのは薄緑の霞……運気調整呪霞。後を追うように光流がオウガメタルを輝かせて。
「激しく突っ込んだって!」
 迫るのは、拳を構える巨漢の壁。
「応! 崩すぞ……! 姿勢を乱した奴に突っ込め!」
 野太く猛りながら、跳躍した志藤の拳が大地を打つ。走った振動波は、機械の内部まで届く激震となって敵を弾いた。跳ね飛んだ一体の頭上に、ゼレフが飛びあがって。
「さあ……さよなら」
 渾身の刃が烈風を裂き、その頭蓋にめり込んだ。頭の半ばまでをひしゃげさせて、巨漢は大地に突き刺さる。
 だが巨漢は潰れた頭のまま起き上がり、その拳を構える。
『撃て』
 それに合わせ、一斉に前衛の拳が放たれた。
 敵味方の射線が入り乱れる中を、紅一点は跳躍して空へ逃れる。
「狙いは荒くとも、力は強い……堅い布陣を崩せない限り、段々と向こうは強化され、こちらが追い込まれますね……でも、そうはさせません!」
 ルミネールの指が振り下ろされると同時に、雨の如く剣閃が大地に突き刺さる。細剣が関節へと滑り込み、フレイルアームの勢いを殺して。
 無数の金属音の中、藍華の癒しの風を背に、望月と穣が飛びだした。両者の目が、戦場の中で、交錯する。
(「狙うぞ……!」)
(「わかってる。奴だね」)
 穣が撃ち出したトラウマボールが戦場を裂き、頭のひしゃげた巨漢の胸を打った。節々をスパークさせながら、片膝をついた巨漢。それでもなお起き上がろうとする頭蓋に、望月が達人技で弾丸が撃ち込んだ。
 頭から貫通され、節々から火花と蒸気を吹きだしながら、巨漢は崩れ落ちる。
「マザーアイリスは使えるものは皆使おうと言う事の様ですね。とにかく物量系でしょうか」
「全く。一息つかせるつもりもないらしい。来るぞ!」
 左右に跳んだ両者を、後列からの機銃の乱舞が追いかける。
 嵐のように飛び交う銃弾、砲撃のように飛び交う拳。機兵たちの布陣は今だ固く、二体落としたところで崩れる様子はない。攻撃を散らし、こちらの布陣を押し崩さんと迫り来る。
 番犬たちの体に纏わりついた呪鎖が、ひらひらと舞う紙兵たちに断ち切られて消滅していく。飛び交う銃弾の中を、流れ星のように身を捻るのは、ノチユ。
「っと。地味だけど火力は高いんだな……癒し手には向いてる気がしないけど、こっちは一人も倒れないよ」
 一体の機兵に鎖を引かれ、綱引きになっていた志藤を包むのは、癒しの霧。呪いの鎖がばつんと千切れて、敵は無様にこけた。
「助かる。攻撃の誘引は厄介だな。各個撃破に差し障る」
「怒り、というより、攻撃を誘引する呪鎖か。纏わりつかれてちゃ厄介だろう。片っ端から切り離すよ」
 頷き合った二人。
 闘いは、これからだ。


 時が過ぎて。
 流石に敵は堅陣。陣を維持し、番犬たちに圧力を掛けた攻めを繰り返す。
 対する番犬たちも堅陣を構え、受けて立つ。
 やがて浮かびあがるのは、地力と連携の差。ぶつかる度に敵の前衛は擦り減っていき、一体、また一体と膝を折っていく。
 そして……。
「オ、オォ、ォオオ! 機械には、落ちる地獄もないか? なら鉄屑になりな!」
 激しい金属音を立てながら、志藤が巨漢を押し込んでいく。渾身の連打が入る度に、火花を噴き上げながらその巨体が一歩一歩と後ろへ下がり、最後の一撃が兜を胴体へとめり込ませた。
「前衛は崩した……! ガンさん、生明さん、頼むぜ!」
 首のなくなった巨体が、ゆっくりと後ろへ倒れて落ちた。
 前衛を失った敵陣に、番犬たちが躍りかかる。
「厳めしい鎧にダンスを躍らせるとは、さすがだね。さあ、みんな! 厄介な加護を消し去ります……!」
「敵の態勢は万全……! 私もお手伝いいたします!」
 赤い火線の中を、舞う二人の影。穣と、ルミネール。
 無論、敵後衛も怯みはしない。前衛の崩壊までの間に、万全の射撃姿勢を取っていたのだ。
 だが二人が解き放つのは、闇を喰らうが如きスライムの弾丸。鈍い衝撃と共に機兵たちに降り注ぎ、帯びた加護を砕いて散らしていく。
 足を乱した火線を掻い潜り、ゼレフが跳躍する。渾身の銀閃が、袈裟懸けに機兵の体にめり込んで。メタリックバーストの援護もあって、最高の当たりに砕かれた機兵は、火花を噴いて崩れ落ちた。
 巨体の上に片足をついて、男は剣を肩に背負う。
「前衛があれだけ固いと、柔らかくさえ感じるね。さ、次はどちらさん?」
 躍りかかってきたのは剛拳。舞うようにそれを避け、ゼレフは巨漢と睨み合う。
「前衛が崩れて闘い方を変えたかい? そう来なくっちゃね」
 その上半身を回転するように振り回しながら、機兵たちは突撃してくる。
 だが前衛の守りを失い、加護も砕かれた機兵たちは、瞬く間にその数を減らして行った。
 ゼレフのゲイルブレイドが嵐のように周囲を跳ね飛ばし、望月の制圧射撃が降り注ぐ。
『迎撃せよ。迎撃せよ。この地を死守……』
 吹き荒れる攻撃の嵐の中で、そう叫んでいた首が光流の絶空斬に落とされる。
 番犬を寄せ付けまいと火線を乱舞させていた一体は、突如として背から剣を突き立てられた。影の如く、その傷を抉るのは、ノチユ。
「最期に聞かせてやろうか。星を墜とした男の英雄譚をさ」
 もはや、癒しよりも攻撃が優先だ。耳打ちの如き囁きが終わると同時に、ノチユの剣が巨体を叩き割った。
 次々に倒れる機兵。三体ほどまで数を減じつつも、一体が態勢を整えるべく防御姿勢を取る。内臓の修復プログラムが、肉体を修復させ始め……。
『……? 修復過程にエラー発生。繰り返す』
「回復出来ないのは、コイツのせいさ。機械の体も侵すウイルスは、想定外だったか?」
 親指でカプセルを弾くのは、陽治。その首元に、殺神ウイルスのカプセルが叩き込まれ、巨漢はどうっと崩れ落ちた。
 すぐさま藍華がもがく巨漢に飛び掛かり、その躰を引っ掻いてパーツに解体していく。
「序盤にタネを撒いておいて良かった。加護を崩せなければ、こっちも痛手を被ったかな」
 もはや、残りは二体。雄叫びの如く蒸気を吹きあげて、剛拳が戦場を飛ぶ。ルミネールを狙った一撃は、しかし直前で光流が受け止めて。
「光流さん!」
「ぐぅ……! いや、あと100発は大丈夫や! 結構キッツイけど! やったれ、先輩!」
 大丈夫なのか、きついのか。とにかく、その心意気は無駄に出来ない。頷いたルミネールは相手に向かって跳躍する。
「この一体は、私が引き受けました! 最後の一体を、お願いします!」
 火炎を纏って蹴りの一撃。胸倉を打たれ、巨漢は砕け散る。
 その叫びが終わるより先に、ノチユの戦術超鋼拳が最後の一体を宙に舞わせていた。銃弾を乱舞させたまま飛んで行った最後の一体は、望月の構えたリボルバーに突き刺さる形で止まる。
「おいおい。撃つ前に銃本体にまで喰らい付いた馬鹿はお前が初めてだぜ。ま、せっかくだ。胃袋への直射、味わっておきな」
 引き金が、落ちる。
 内部に叩き込まれた一撃に、最後の機兵は爆散した。
 後には、燻る炎の中に、鎧の破片だけが残された。


「ひぃー……痛かったわぁ。盾役は初めてやったから、しゃーないけど」
「先ほどはありがとうございました。でも、戦闘不能に陥る方もおらず、よかった」
 光流が頭を掻きながら、ルミネールに治癒されている。
 建物や施設へのヒールは、ノチユが行っていた。
「空港が幻想化したら、困る気もするけど……今は使ってないしな。復興したら、か」
 ゼレフはしゃがみ込んで、右の手頸に藤色のリボンを巻き直している。お守りのカランコエを、そっと胸元に移して。
「……やあ。お疲れ様。首尾は上々だったね。一緒に闘えて良かったよ」
 その隣に腰を下ろすのは、志藤。
「こちらこそだ。さすがに前衛は固かったな。範囲攻撃じゃあ致命傷は難しかった。後衛には有効だったか?」
 その肩を叩くのは、望月。
「戦術や状況次第だろうが、弱い敵には十分有効だろう。気の置けない仲間との闘いは、頼もしかったぜ」
 二人の巌は、無言で拳を重ね合う。
 一方、穣と陽治は少し離れた場所で頷き合っていた。
「怪我がなくて良かった」
「お前これ……怪我がないっていうか?」
 穣はともかく、前衛で闘い抜いた陽治は痣だらけだ。藍華が、喉を鳴らしながら彼に癒しの風を浴びせて。
「治る怪我でよかったってことだよ。さあ、みんなに飴でも配ろうかな」
 そう言って穣は何か特別なハンドサインをそっと送る。
 特別な想いを籠めた、たった一つの合図。
 二人だけのやり取りに、陽治は微笑んで頭を掻いた。

 ……。
 こうして、小松空港に現れた尖兵は駆逐された。
 いずれの解放を夢に見て、小松空港は眠り続ける。
 だが眠りから覚めるのを待っているモノは、この地の底に。
 もう一つ、あったのだった……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。