激写!! 昼日中の大虐殺、犯人はパパラッチか

作者:質種剰

●急転! 撤退命令
 世間はスキャンダルで満ちている。
 警察官の犯罪、聖職と謳われる教職者の裏の顔。
 芸能人の不倫や恋愛沙汰。
 そんなゴシップを求めて街を彷徨うダモクレスがいた。
「……スクープ! ゲキシャ!」
 パシャッ、パシャパシャッ!
 右腕に抱えていたビデオカメラを素早く構え、物陰から対象を連写する男。
 名を『ポロリライド・パパラッチカメラ君』という。
 黒いビジネススーツと革のビジネスシューズでビシッと決め、両手には赤いグローブを嵌めている。
 背負子で赤い怒り顔のプリンターを背負っているのも独特だが、何より印象的なのは、その頭部。
 鉄色の首から上が、大きな大きなインスタントカメラなのだった。
「ゲキシャ! ゲキシャ!」
 ポロリライド・パパラッチカメラ君は、ケルベロスを観察して集めたデータを元に何やら研究を進めたがっているのだが、ケルベロスだけに焦点を絞っていてはその意図を悟られてしまうのを危惧して、一般人のネタも追っていた。
 ラブホテルの駐車場に隠れて入り口を見張っている時、不意に通信が入った。
「……レジーナ様。今チョット教師と学生の密会現場をデスネ……エ? 撤退デスカ?」
 ポロリライド・パパラッチカメラ君の声音に緊張が走る。
「ハイ……ハイ。判りマシタ。ソノヨウニ……」
 通信を切るや、ポロリライド・パパラッチカメラ君の関心は、ラブホテルから他所へ移っていた。
 昼の街中、明るい陽の光を浴びてせかせかと歩く人の群れを見据えて、
「貴方タチには恨みはアリマセンが、レジーナ様への手土産になってもらいマスヨ」
 彼は抑揚のない声で言い放つのだった。


「指揮官型ダモクレスによる地球侵略は、未だ続いているであります」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、神妙な顔つきで話し始める。
「指揮官型の一体『コマンダー・レジーナ』は、多くの配下ダモクレスを地球に送り込んでいますし、彼女が着任してからというもの、潜伏していたダモクレスが何体も動き出したであります」
 動き出したダモクレスの多くはそのまま撤退したようだが、中には行きがけの駄賃とばかりにグラビティ・チェインを略奪する者も少なくない為、多数の事件が予知されている。
「皆さんに向かって頂きたいのは、神奈川県の街中であります。そこで、『ポロリライド・パパラッチカメラ君』なるダモクレスが人々の虐殺に及ぶでありますよ」
 どうか、被害者が出る前にダモクレスの討伐を、宜しくお願いします……!
 かけらが深々と頭を下げる。
「ポロリライド・パパラッチカメラ君は、右手に構えたビデオカメラを用いて『ノガレエヌゲキシャ』という攻撃を仕掛けてくるであります」
 近距離の敵単体をカメラのフラッシュで威圧する破壊攻撃で、敏捷性に長け、相手に強いプレッシャーを植えつける。
「また、ビデオカメラの撮影内容をプリンターから印刷し、写真つき記事をばら撒く『ショウゲキスクープ』を使ってもきます」
 こちらは複数人へ影響する斬撃で、頑健に優れ、プリンターから広範囲にばら撒かれる様々な記事が相手の平常心を奪い、命中するとトラウマを引き起こす。
「時折、皆さんをビデオカメラで撮影する『データ採集』も行ってきます。こちらは理力に秀でた魔法で、離れていても複数人に当たりますが、怒りを呼び起こすのが特徴であります」
「現場は神奈川県の雑踏で、パパラッチカメラ君が凶行に及ぶのはちょうど昼休憩が終わった頃であります」
 今回は予めパパラッチカメラ君がラブホテルに張り付いているので、その隙を突けば一般人を避難誘導する余裕がある。
「それでも、パパラッチカメラ君へ気取られないよう、一般人の避難は慎重にお願いしますね」
 と、かけらは補足して、
「コマンダー・レジーナへこれ以上の情報を渡さない為、そして一般人の虐殺を防ぐ為に、どうかダモクレスを撃破してくださいませ。宜しくお願いします……!」
 そう説明を締め括るや、彼女なりに皆を激励するのだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
ミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)
アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)
雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)

■リプレイ


 ラブホテルの駐車場。
「ゲキシャ! ゲキシャ!」
 ポロリライド・パパラッチカメラ君は、ラブホテルの入口から外へ出ていくワケありカップルを盗撮するのへ夢中になっている。
「ラブホテルに張り付いてるとか、全く何の情報収集をしてるのやら」
 それを見たムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)は、思わず呆れて肩を竦めた。
 『健全な魂は健全な筋肉に宿る』をモットーに日々筋肉を鍛え上げている青年からすれば、他人の下世話な話をわざわざ嗅ぎつけるパパラッチカメラ君の所業など、到底理解に苦しむのだろう。
 かつて傭兵として筋肉の素晴らしさを布教しながら戦場を渡り歩いていたが、とある怪物に心臓を食われ、地獄化したというムギ。
 性格は明るい熱血漢。また、初心で純情、ヘタレな為か、ラブフェロモンの使用や快楽エネルギーの摂取に苦手意識があるらしい。
「まあいい、俺はやるべき事をやるだけだ」
 気を取り直したムギは、がっしりした体躯を包む着物姿で表通りの通行人へ接触。
「すまないが落ち着いて聞いてくれ。デウスエクスかわもうじき現れるんだ」
 自らが凛とした所作を見せる事により一般人を礼儀正しくさせて、彼らが迅速に避難できるよう適度な緊張感を持たせた。
「悪趣味な敵だな、おい」
 戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)も、盗撮タイミングを虎視眈々と狙うパパラッチカメラ君に、当然良いイメージは抱けないようだ。
 短く逆立てた黒髪と、人の心の底まで見透かしそうな青い目が印象に残る、飄々とした風情の青年。
 ヤブ医者を自称しているが、ひと度戦闘となれば伊達眼鏡を外し、病魔を殲滅するウィッチドクターへと意識を切り替える。
 老成した雰囲気と若者らしい気さくな物言いが同居した、それでいて胡散臭い診療所所長である。
「こちらです、音を立てず静かにお願いします」
 久遠は、ムギみたいに凛とした風を纏ってスムーズな避難誘導をと思うも。
「慌てず騒がず、速やかな避難を心がけてください」
 何故だか判らないがこの日の彼は着物以外の防具だった為、なるべく小声で通行人へ話しかけ、地道に彼らを退避させる他なかった。
 尤も、一般人に対する避難誘導は皆が心を砕いていて、恙なく終わりそうな気配である。
(「盗撮が撮影機材の進化に繋がると言う歴史は皮肉ですよね」)
 ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は、胸の内でそう嘆いていた。
 ご令嬢らしく物腰丁寧で性格も大人しくお人好しだが、好きな物を前にすると周りが見えなくなる事もしばしば。
「ただ……この狼藉の犠牲が何も産み出さないのは解ります。何としても阻止しますよ」
 そんなビスマスの好物とは、なめろうに他ならない。
 恩師より受け継いだなめろうを始めとするご当地文化への想いを胸に、今日も彼女はナメビスくんや仲間達と、ご当地文化を守るべく奮闘するのだ。
(「突然失礼しますご当地ケルベロスです。今はお静かに……デウスエクス襲来がありますので、落ち着いて普段通りに屋内への移動をお願いします」)
 まずは接触テレパスを使い、一般人へ丁寧に避難をお願いして回った。
(「ついにつきとめたぞ、カメラダモクレス2号機! 否、盗撮魔ぁあ……!」)
 ミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)は叫びこそしないものの、黒い耳をひょこひょこ動かしたり、尻尾をぱたんぱたん振って大興奮の態だ。
 それと言うのも、ミリムは以前カメラ怪人ダモクレスと戦い、これを撃破しているのだ。
 黒い耳と尻尾、翡翠の猫目、艶のある黒髪を持つウェアライダーの少女。
 性格は、デウスエクスに虐げられる人は放って置けない——と後先考えず事件へ首を突っ込み解決に乗り出すほど、正義感が強い。
(「見つけ出したかけらさんには感謝しないとだ! 証拠隠滅にボコボコのスクラップにしてやるのだ!」)
 意気込むミリムだが、懸命に態度へは出さず、
「突然ごめんね、ボクはケルベロスだよ。デウスエクスが襲来するから、落ち着いて普段通りに屋内へ移動してくれるかな」
 パパラッチカメラ君に気づかれまいと通行人へヒソヒソ声で話しかけ、避難を頼み込んだ。
「ま た カ メ ラ か」
 うんざりした顔で唸るのは久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)。
 何故なら、彼もミリムやビスマス同様に、カメラ怪人ダモクレスと戦った1人だからだ。
「いやまぁ別にそんな数が多いとかではないんだけど……まぁ情報記録するのにカメラを使うのなんて、現代人でもスマホでよくやってる事ではあるけどさ」
 短めの黒髪とどことなく理知的な赤い瞳がクールな雰囲気を漂わせる少年で、歳よりやや幼く見える風貌の航。
 そんな彼の魅力はサバサバした性格と鋭いツッコミ、加えて常々仲間の具な変化も見逃すまいと気を配っている、密かな優しさである。
(「それにしたってケルベロスだけに焦点を絞らない為に行くのがなんでラブホ? ……パパラッチカメラ君故致し方なし、か」)
 航は深い溜め息をつきながらも、生来の親しみ易さを隣人力にて発揮、通行人の肩を叩くや接触テレパスを用いて静かに避難を促すのだった。
 一方。
「くっ……こんなことなら私とお義父様の既成事実の為に、上手く誘導してホテルに行けばスキャンダルになってよかったのに……」
 アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)は、ラブホにぴったり張り付くパパラッチカメラ君を見やって、悔しそうに唇を噛んだ。
 秘密結社オリュンポスの大幹部ゴルゴン三姉妹にして、首魁の義理の娘であるオラトリオの女性。
 慈愛に満ちた精神を持ち、味方を護り支える守護聖騎士ではあるものの、恋する乙女特有とでも言うべきか、諸々の発言のイタさが色々台無しにしている。
「ああ……お義父様をホテルへどうやってお誘いすれば、いっその事お酒を……ハッ!? いけません! そのような考えは不浄です!」
 ともあれ、アテナは義父への清らかな想い——もとい過剰な妄想を無理やり鎮めて、真面目に一般人の避難誘導を手伝った。
 他方。
(「人の秘密を勝手に見るなんて許せません!」)
 と、密かに憤慨しているのは雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)。
 綺麗な銀髪を長めに垂らして右目を隠している、猫のウェアライダーの美少年。
 その穏やかな見た目通りにのんびりした性格で、人と話す時、たまに自分でも何を言っているのか分からなくなってしまうそうな。
 恋人仲も良好、そのチョコ作りの腕から、周りには良いお嫁さんになれると目されていたりする。
(「デウスエクスが来る、怪しまれないよう逃げて」)
 時雨はなるべく平静を装って通行人へ近づくと、そっと背中へ触れて声なく言葉を伝達、避難誘導に励んだ。
「隠し撮りなんて、すごく悪趣味よね……誰にでも見られたくないものなんて沢山あるだろうし」
 ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は、パパラッチカメラ君に盗撮された人々の気持ちを慮って、瞳を曇らせる。
 流れるような金髪と深いピンク色の眼、日焼けした肌が印象的な、シャドウエルフの美少女。
 性格は非常にのんびりしているが敵の前では一変、ちょっと暑苦しい一面を垣間見せる事もあるとか。
 自分の騎士道を探求する日々を送っていて、弱きを助け強きを挫く、見た目や物言いが大人びた鎧装騎兵である。
(「こんにちは。突然ごめんなさいね、もうすぐデウスエクスが来るからここは危険なの」)
 ローレライは仲間同様に通行人へ触れて心の声を伝えてから、殺気を広く放って総仕上げ、彼らが自然とこの場から離れていくよう仕向けた。
 草臥・衣(神棚・en0234)も殺界形成をこなし、人々が自ずから遠ざかる様を待っている。


 レジーナとの通信を終えたポロリライド・パパラッチカメラ君が、ラブホテルのある裏通りから、日頃は人の往来激しい表通りへと、ようやく移動してきた。
 しかし、既に通行人達は屋内への避難を終え、一般人のフリをして奴を待ち構えていたケルベロス達が、悠然と取り囲んでくる。
「スクープ! ゲキシャ!!」
 だが、パパラッチカメラ君はブレない。
 一般人だろうとケルベロスだろうとやる事は同じとばかりにカメラを向け、シャッターを切った。
「盾の真髄、お見せするわ!」
 ここで、ローレライが自らフラッシュの雨へ我が身を晒して航を守る。
 普段の柔らかな雰囲気から一変、騎士のような凛々しさでカメラの前に毅然と立つ彼女は、肉体を負傷する身代わりとはまた違う趣で格好良い。
「感覚を研ぎ澄ませ、足りない所は俺が補ってやる」
 ムギは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出。
 前衛陣の超感覚を覚醒させる事で、それぞれ攻撃グラビティの命中率を高めた。
「面倒な相手だな、おい」
 と、頬張っていた唐揚げを飲み込むのは久遠。
「だが、そう簡単に事が運ぶと思うなよ」
 スッと眼鏡を外すや、両腕に嵌めたバトルカントレットを構えてパパラッチカメラ君へ肉薄。
 まさに達人の域へ到った熟練の一撃を、奴の腹部目掛けて打ち込んだ。
「スクイッド……オールレンジリフレクトッ!」
 ビスマスはご当地のイカの気を集め、イカモチーフのフルアーマー鎧装を生成して装着、鎧装からイカ型ビームソードビットを射出して、撹乱を狙う。
「貴方の動きは大体検討付いているんです……その動きを潰させて貰いますよっ!」
 さらにビスマス結晶のビーム砲から、ご当地のビスマス結晶の気が含まれたビームを、ビームソードビットの剣先へ反射させ、ビームの威力を増して死角よりパパラッチカメラ君の脇腹を撃ち抜いた。
 ナメビスくんも懸命にボクスブレスを放射、パパラッチカメラ君の動きをますます鈍らせた。
「そもそも、盗撮ってダメな事だと思うです」
 と、真理は遠隔爆破を見舞う。
「カメラ型ダモクレスを相手にするのは今回で二度目だ……」
 ぶるぶると肩を震わせ、怒りで長い尻尾の毛をぶわっと膨らませるのはミリム。
「でもあなたは前のと違う——ボクの風呂場をあなたが盗撮してたのを確かにボクは見たんだ!」
 ビシィ、とパパラッチカメラ君へ鋭く言い放つも、その一方では律儀に小型治療無人機を展開。
 ドローンの群れを手足の如く操って、前衛陣をしっかり警護させた。
「ああ……もしも私がお義父様とホテルで初夜を過ごしたら……きっと別室の小火騒ぎで全員外へ避難させられて……」
 避難誘導を終えた安心感からか、再びうっとりと妄想に耽るのはアテナ。
「そしたらきっとオリュンポスへ電話がいって、私達の秘密の関係がすっかり皆様の知るところになり……ああ、お義父様、例えお義父様がオリュンポスを追われても、私は何処までもお側について参ります……!」
 何故かその妄想は昼ドラの如きドロドロした愛憎劇の様相を帯びていたが。
 ともあれ、アテナは夢心地ながらもライトニングロッドを翳して雷の壁を構築、後衛陣がもし怒りに駆られてもすぐ平常心へ戻れるようにと、異常耐性を高めた。
「……名は体を表すとは言うが、いくらなんでもまんますぎじゃね?」
 航は、パパラッチカメラ君の頭部——紛う事なき巨大インスタントカメラを眺めて、思わずツッコまずにいられない。
「それにしたって、教師と生徒の密会ねぇ。デウスエクスがそんなん盗撮してタレコむというのも何というかシュールだな」
 醒めた表情で言う間にも引き抜いた白刃が緩やかな弧を描き、奴の手足の腱だけを見事な太刀筋で斬り裂いた。
「店長さん……覗かれたんですか。それは、確実に倒さねば、ですね。容赦なく」
 険しい声で雪時雨の弓弦をギリギリと引き絞るのは時雨。
 放たれたエネルギーの矢がパパラッチカメラ君の胸部ごと心を貫き、催眠状態へと陥れた。
「見られたくないものをばら撒かれたんじゃ、たまったものじゃないわね……」
 ローレライも眉根を寄せつつ、An die Freudeの主砲の照準を合わせる。
 そのまま一斉発射して、パパラッチカメラ君を数多の砲弾の餌食にした。
 傍ら、テレビウムのシュテルネは、ガラスの重い灰皿を手に残虐ふぁいと、ガツンと鈍く大きな音をパパラッチカメラ君の脛で響かせた。


 パパラッチカメラ君は、頭部のみならず胴体全てが機械の身体であるのか、傷ついても生身のように血煙を上げたりしない。
 それでも戦いが長引くにつれ、確実に体力は削られていた。
「スクープ! ゲキシャ!!」
 また、純粋な威力とは別の意味で脅威のショウゲキスクープ。
 戦闘中に撮影した内容をプリンターから印刷、景気良くばら撒かれた写真付き記事を見て、ケルベロス達がサッと蒼褪めた。
『イエスフルーツ! ゴーなめろう! いざ、全てを内包する究極のなめろうへ共に至らん!』
「説得でやり過ぎた時の場面……盗撮されてましたか」
 と、比較的に冷静ながらも冷や汗を垂らすのはビスマス。
 以前、酢豚のパイナップル認めないビルシャナへ向かって、ビスマスは果物と魚肉のコラボを示し、信者をなめろう教へ宗旨替えさせたのだ。
『真夜中に響く悲鳴! 白羊の盾、ホラー映画でちょっぴりお漏らしか』
「ひぁ……っ!」
 アテナを庇ったローレライは、スクープ記事が自分にしか見えないグラビティの産物と判っていても、顔を赤らめて言葉を失う。
『天誓騎士の私生活! 半泣きで干す布団にはまさかの世界地図!?』
「……う、うわぁああ!?」
 こちらは思わず絶叫するミリム、御歳18歳。確かにこの歳でオネショがバレたら恥ずかしい筈だ。
 だが、ムギだけは強かった。幾らパパラッチカメラ君にビデオカメラで撮影されても、
「記録したいならしかとその目に焼き付けろ、我が筋肉を!」
 記事の心配など全くない様子で魔力を糧に急激な筋肉再生、己が治癒力を高める。
 鍛え抜かれた筋肉ゆえの荒業によって、精神の損耗すら回復した。
 戦いは続く。
「調子が悪くなったら言え。即座に回復する」
 と、医者らしく仲間の体調を気遣うのは久遠。
 皆がスクープ記事に精神を蝕まれ続けるのを防ぐ為、薬液を広範囲へ振り撒いて前衛陣の傷を癒すと、同時にトラウマ記事をキレイさっぱり消し去った。
「ルイ、頼みますよ」
 ビスマスは、白い針杖を赤い瞳のハリネズミ姿へ戻した上で、魔力を籠めて射出。
 パパラッチカメラ君の顔面へぶち当てると、件のイカ型ビームソードビッドによる衝撃を、数多の針の痛みで倍加させるのだった。
「俺の一撃はちと痛いぞ」
 仲間の強化具合を確かめてから、惨殺ナイフを抜き払うのはムギ。
 ジグザグに変形させた刃で斬りかかり、パパラッチカメラ君の腹を容易には治らぬ深さに斬り刻んだ。
「あんな盗撮写真をオリュンポスに送りつけたせいで、お義父様は……権力の椅子を追われかねない事態に……!」
 さて、パパラッチカメラ君の執拗な撮影で怒りに駆られたアテナは、十二神アレスの名を冠した大型の機械槍を召喚。
 激情をぶつけるかのように力一杯投擲して、奴の胸を容赦なくズブリと貫いた。
「ああ、お義父様、やっぱり駆け落ちしか生きる道は無いのでしょうか……」
 妄想逞しいアテナの脳内愛憎劇も、そろそろクライマックスのようだ。
 一方。
「…………まぁ、何というか」
 航は、先の3人ほどトラウマ記事へ動揺しなかったものの、
「男子高校生ケルベロス密着24時、浮かび上がる女っ気ゼロの真実って……余計なお世話だっつーの!!」
 度重なって撒かれるトラウマ記事へ密かな怒りを抱えていたのか、持ち前のツッコミスキルを発揮しながら距離を詰める。
 紋章の力を借りた神速の突き攻撃を全身全霊で浴びせて、パパラッチカメラ君へ大きなダメージを齎した。
「当たって……外すもんか、雷苦無!」
 他方、トラウマ記事を見てカッと言い知れぬ怒りに駆られた時雨は、グラビティで作り出した雷の苦無を6本全て投げつけ、その鋭利な刃先でパパラッチカメラ君へ激痛を与えた。
「こ、この記事……本当にばら撒かれていたらと思うと!」
 身も世もなく羞じらいまくるローレライは、妖精弓を引き絞って七色の矢を射かける。
 七彩の宝石で出来た矢は、触れたものを跡形もなく消し去り浄化してしまう程の威力で、パパラッチカメラ君を破壊した。
 シュテルネもテレビフラッシュを繰り出し、目には目をとばかりにパパラッチカメラ君を怒らせるべく奮闘している。
「ああ! 下着の色が黒だとかスリーサイズとか言うんじゃない! サラシ巻きがバレます!」
 一方こちらは、未だ怒り冷めやらぬミリム。
 光輝のエネルギー集中せし拳を固めて、渾身の力でパパラッチカメラ君の胸を殴り貫いた。
「くっ、私の目指す男らしさが……!」
 そのトドメを刺した一撃には、騎士の誇りや自尊心の他に、事実かはともかく風呂を覗かれた怒りで満ち満ちていたのは間違いないだろう。
 まさに鬼気迫る、燦然と輝く憤怒に満ちた拳であった。
 ——ちゅどぉぉぉぉん!!
 息絶えたポロリライド・パパラッチカメラ君は、ビデオカメラとプリンターを巻き込んで爆発炎上、手元の盗撮記事もろとも灰になるという壮絶な最期を遂げた。
「ほい、お疲れさん。何とかなったな」
 肩で息をしながら、いずれ燃え尽きるだろう残骸を見つめるミリムへ、久遠が声をかけた。
「尻尾のモフモフ具合でも診察してやろうか、ミリム店長?」

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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