●
天命、という言葉がある。
その単語の意味するところは、変えようにも変えられない運命、あるいは天から与えられているという、その身に宿る寿命、天寿のことだ。
ならば、天命漏らし、という言葉を聞いたことはあるだろうか。
運命を、寿命を、天寿を漏らすこと。
それはつまり――。
「……未来を語ること、知、る、こ、と……」
女は寒さに震える指先に力を入れ、呟きと共に考えをスマートフォンの画面へと打ち込んでいく。
――天命を漏らしたもの、聞いたものはそれに等しく命を削られるという。
――そのため未来を知るための占いはぼかされたり、抽象的に語られることが多い。
「……んふ、この考察もまとめられたら、ブログに載せよっかな。――さて」
深夜を超えた頃合いだった。暗がりを照らすのは懐中電灯の真っ直ぐな光と、片手に持ったスマートフォンの待ち受け画面。
暗闇を探るようにして懐中電灯を上に向ければ、くすんだ赤色の鳥居が滑るように目に入った。
人気のない神社の境内。女は好奇心を押さえきれぬといった様子で、しかし興奮を抑えるためにひとつ息を吐き、思いついたように視線を下げ、再び画面をタップする。
――くだん、という妖怪もいる。
――必ず当たるという予言をして、死ぬ。もしかすると、すぐに死ぬという諸説が生まれたのは、この天命漏らしのせい? 明確な『予言』をするが故に、この妖怪はすぐに死ぬと謂われているのかもしれない。
ざ、と寒風が泣いた、そのときだった。
鼓膜を突いた幽かな笑い声に、女は小さく悲鳴を漏らし、スマートフォンを持ったまま固まった。女は所謂オカルト好きではあったのだが、恐怖そのものに耐性があるわけではないらしい。
だが、訪れたのはオカルトそのものでは、なく。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
女の胸に衝撃があった。
その衝撃を理解したか、否か。それすらも解らぬうちに、女は意識を手放し崩れ落ちる。
そうして女のすぐ傍らの土くれが、ぼこり、と動いた。
土くれは見る間に体積を増し、なにかの形を成す。
一目見たならばその形は、牛、だと多くの人が表現するだろう。
その体が冠している頭が、人のそれでなかったのならば。
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「にんべんにうし、と書いて――件。くだん、と読みます」
九十九・白(白夜のヘリオライダー・en0086)は空中に指先で文字をなぞって、にこりと軽く笑った。
「今回皆さんに討伐をお願いするドリームイーターが生み出したのは、この『くだん』という妖怪に似たものです。この妖怪が多く語られているのは西日本各地の伝承だったりするんですが……まあ、ここらへんはいいでしょう」
気になった方は今度俺と語りましょう、と白はもう一度笑って、それから改めて口を開いた。
「身体が牛で、頭部が人。生まれ出でて、必ず当たる『予言』を語り、死ぬ。或いは幾つもの予言を落とし、凶事が終われば死ぬ……簡単に説明してしまえば、くだんはそんな感じの妖怪です。ドリームイーターはこの『くだん』型の化け物を仕上げて……今回も何かしらを起こそうとしているようですね」
ちらりと上げられた視線に込められた意図は、無論「それを阻止せよ」といった類のものだった。それに頷いたケルベロス達に、白は目を細める。
「くだんの能力はひとつ、『予言』です。……が、まあ、あれです、カタチは『予言』ですが、要するに敵の攻撃手段ですから、普段皆さんが相手取っているドリームイーターと同じものだと思ってください」
それと、と白は付け加える。
「今回の怪物型ドリームイーターも多くの報告例と同じく、『己は何者か』という質問を投げかけてくるだろうこと。己のことを信じていたり、噂していたりする人間の元へ誘き寄せられる性質をもっているだろうこと。この点を留意しておいてください」
息を吐いた白は、ふと思い出したように言葉を並べた。
「予言、で思い出したんですが……天命漏らし、という言葉もあるんですよね。なんでも、定まっている未来、要するに運命を口にすると、口にしたものも耳にしたものも、寿命が縮んでしまうのだとか。……俺たちヘリオライダーは限定的ではありますが、こうして未来予知をします。……けれど、ふふ、これはきっと天命ではないんでしょうね」
皆さんが変えていく未来は、定まっている未来ではないんですから、と。
そう言って気にした風もなく、白は笑った。
参加者 | |
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雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749) |
蛇神・優希(永久ノ泡沫・e01162) |
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769) |
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004) |
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974) |
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724) |
イヴァン・ドラクリヤ(ゲオルギウス・e27997) |
ルシェル・オルテンシア(朽ちぬ花・e29166) |
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清浄なはずの月光は、薄雲に遮られて霞んでいた。
社に続く長い階段を一歩一歩上りながら吐く息は、もう春もそこまで来ているだろう頃であれども、未だ白い。
「……定められた運命を零す人面の牛、か。天命漏らし、とはよく言ったものだ」
イヴァン・ドラクリヤ(ゲオルギウス・e27997)が、己の背後に立つビハインドに視線を遣りながら告げた。
「頭が人の牛ちゃん、ね」
今は暗闇に浸り、その色は見て取れないが――紫陽花色の髪を揺らし、ルシェル・オルテンシア(朽ちぬ花・e29166)はイヴァンの言葉に頷いた。腰元に固定された懐中電灯の明かりが、歩くたびに暗がりを照らす。
「聞いたものも口にしたものも寿命を削る……と。であれば、件というものは、一体何故、予言を与えるのだろうな」
「ああ、そっか。くだんちゃんは予言を告げると死んでしまうんだったわね。それがくだんちゃんの天命なのかしら……」
イヴァンの言葉に応じながら、ルシェルは噂を巡らせる。
「牛の身体に、人の頭かぁ。うー……普通にグロテスクな姿しか思い浮かばないんだけど……」
露骨に顔を顰めながら、雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)は言った。その言葉を耳にして、エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)は微笑む。
「獣が人面の生物を出産する話なら、古今東西存在しますわ。ですので、実在してもおかしくないのかもしれません。……それこそ天寿を全うして生きたケースは聞きませんけどね」
エルモアの言葉にシエラは苦笑する。
「くだん……妖怪、ね。災厄に、豊凶に……重大な予言を遺すんだっけ。でも、その予言を伝えても、当人はその未来に居合わせる事はないんだね。不幸になる事もないけれど、幸せになる事もない。それじゃあまるで……死ぬ為に生まれてくるみたいだ」
「そう――ですわね。予言……天命漏らし、ですか」
何かを考えるようにエルモアは視線を上げて、それから呟いた。
「予言は人の身に過ぎた力で、もしかすると、その代償なのかもしれませんわね」
「ふむ。どうせなら良い内容の予言をしてくれれば良いものを。凶事についての予言ばかりと聞くと、やはり良い印象は持てないな」
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)もまた、吐息を白く濁らせながら噂を散らす。
「まぁしかし、予言を告げたらすぐ様死ぬっつーのぁ、やっぱなんとも悲しい生き様な気もするな」
シエラの言葉を拾うように、空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が言った。どこかしら憐れみを感じさせるその言葉に、御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)もまた頷く。
「予言する妖怪。そして直に死ぬ。ただ一つの未来を告げて。……生まれた事にどんな意味があるのか、興味深い妖怪だな」
瞳にかかる前髪の合間から、蓮は階段の先を見上げた。
階段の途切れた先を懐中電灯で照らせば、くすんでいるくせに、やたらと赤を感じさせる鳥居が目に入る。
「圧倒的計算に基づいた事柄において、ある程度先を予測する事は可能だが、それを予言と呼ぶには些か不明瞭か。本当に、そういった意味合いではない予言を行う妖怪が存在するのか、興味はあるが――」
その言葉を最後に、ケルベロス達は階段を上り切る。
軽く上がった息を整えて、蛇神・優希(永久ノ泡沫・e01162)は懐中電灯の光を何の気はなしに前方へと投げた。
「――あっ、」
地面に身を横たえていたのは、女性。優希は思わず駆け寄り、その身体の熱を確かめる。
「眠って、いるのかしら」
優希の後ろから女性の顔を覗きこみ、ルシェルが呟いた。そのようですと応じて、優希は女性の頬に手を当てる。随分と冷えた頬の温度に、どきりと跳ねた鼓動をまるごと呑みこんで、視線を暗がりへと走らせる。
ケルベロス達がそれに気付いたのは、正しくそのときだった。
●
幾人かが持っていた懐中電灯の光の中に、蹄が見えた。
それは静かに佇んでいた。始めからそこに居たのか、今、出でたのか。それすら解らなかった。
探るように上げられた光が、それを照らし出す。艶のない黒毛が覆うのは、牛の身体。その身体の頂に――人の頭。光を照り返さない昏い瞳が、何の感情も映さぬままにケルベロス達に向けられた。
そして。
「ドヤツ」
それは平坦な声で一言だけ、そう発した。
どやつ。――何奴。それが問いであることを理解した満願が、一歩前に踏み出す。
「てめぇが何かって?」
土を踏みしめる。満願は片目を眇め、表情のないそれを見遣った。
「『くだん』だと言うとでも思ったか、笑わせんなよ。人の興味――夢にたかる糞蠅風情、それがてめぇだ」
言い放たれた満願の言葉を、それは表情変えることなく受け止めた。
だがその表情は、直ぐに転じる。
歯茎を剥き出しにして、昏い瞳を愉悦に歪ませて、痙攣するかのように人頭を震わせる。
「シッ」
そう、それは嗤った。
その瞬間、満願の耳元でやたらと大きな音を立てて、不可視の力そのものが爆ぜる。額を横殴りにするかのような一撃は、明らかな害意。
「っは……! 所詮はそれがてめぇの正体だ、糞神がッ!」
ともすればそれが現れたその瞬間から、戦いは始まっていた。
一斉に布陣を組んだケルベロス達を見て、それは――くだんはがちがちと不揃いな歯を鳴らす。
「シッ、――シシ、シッ、シッシシッ」
「……」
その音に、イヴァンは一瞬眉を寄せた。
「ああ、なるほど」
歯の隙間から漏れる、嗤うようなその声の真意に至り、イヴァンは呟く。
「……『死』か」
呟きを漏らすとほぼ同時、満願の頭を狙った害意と同じものが次々に辺りに爆ぜた。
「未来は数多に分かたれた枝葉、何が影響して変わるか分からない。予言とは、どうしてもいい事を告げる印象はなかった、が。……案の定、夢喰いであるお前だ。いい予言など、するはずもなかったな」
蓮が一息でくだんの懐に飛び込む。暗闇を一閃するのは流星が如き輝きと、命を地面に縫い止める重力を宿した蹴り。
「妖怪の君には興味があるが――……夢喰いの君は排除する障害でしかないね。役目を果たした後自死するのかもしれないが、何もさせるわけにはいかないな。さぁ、黄金騎使がお相手しよう!」
アンゼリカの持つ得物が、刹那のうちに光弾を発射する。
前衛達の補助となるべく、エルモアもまた攻撃態勢に移った。
「その『死』とやらが予言なのでしたら」
言いながら放たれるのは魔力の込められた光線。
「語ったからには死んでいただけます?」
(「運命とか、天命とか。あまり信じたくはないな。……予知の力があったって、なくたって、存在し得る最悪を退ける為に、みんな生きて、戦っている筈」)
敵意、あるいは憎悪――古き書の中で語られる悪魔の名を冠する得物を振るい、シエラは思う。厭な笑みを浮かべたままその場を動こうとしないくだんに向けて、シエラは武器を横薙ぎに払う。
牛の身体を打ち付け裂いた筈が、土くれが舞った。
「キミは在ってはならないモノだ。その予言も、私には響かないさ」
だから、と言葉にはせず、シエラの視線がくだんを射抜く。
「――キミに、此の花を贈るよ」
得物が纏うのは闇よりも深い黒き焔。咲き乱れる花のように、焔が踊った。
倒れ込んでいた女性を安全な場所へと移動させ、優希とルシェルもまた戦線に加わる。夜気を掬うかのように手のひらを差し出せば、優希の祈りに応えるが如く黄金色の果実が実る。
「あなたに罪はないけれど、あなたはただの紛い物よ。奪ったもの、本当の持ち主の元に返してもらうんだから!」
ルシェルが声を張った。
ルシェルの援護を受けながら、イヴァンが地を蹴る。
揺らぐようにイヴァンの傍らを守るのは、ビハインドのその姿。
「もしも貴様が本当に件を名乗るのであれば、答えろ。予言を渡せ。『私の愚妹は何処に現れる?』」
放たれた問いに、くだんは応えなかった。
●
「醜悪な面、いつまでも晒してんじゃねぇぞ」
眼前の敵への憎悪すら込めて、満願は己の右手へと内臓に宿る地獄を呼び寄せる。黒炎は魔獣の姿を成し、そのあぎとを大きく開いた。
「てめぇに予言をくれてやる。ここでてめぇはお終い、片道切符で地獄行きだ。――食い潰されて死ね」
がちん、と閉じられた黒炎の牙が、くだんの脇腹を喰いちぎる。
大きく削がれた身体から零れたものは、血ではなく、土だった。
「――シッ」
まるで動じず嗤うように、再びくだんが『死』の予言を放つ。
「必ず当たる『予言』なんて、つい聞いてみたくなっちゃうけれど。ルシェはその『予言』は信じないわ。少なくとも今はまだ、ね!」
前衛達が攻撃を飛び退いて躱す。それにより生まれたスペースに踊るように踏み込み、ルシェルは蹴りの一撃をくだんへと見舞った。
「確実な予言を告げると死んでしまう妖怪、件。元になった妖怪とは外見ばかりで……あなたは死ばかりを撒き散らすドリームイーター。確定されていない未来を、希望ある未来へと変えさせていただきます」
ふわりと、優希の翼が広げられる。それと共に中空に編み上げられるのは魔力の極光。味方に降り積もっていた『予言』の痛みを、光が拭い去る。優希の傍から今だけは離れ、奮闘するボクスドラゴンの咲優もまた、母親のように慕う優希を真似るように、傷を負った仲間に向けて癒しの波動を放った。
「予言は『人』には過ぎた力、と思いましたけれど――。人外にもそれは謂えるのかもしれませんわね」
後方から攻撃を放ち続け、エルモアは言う。
「明確な予言を言い回って人を脅かしたりする、嘘吐きのインチキ予言者などは、それこそ命を削られるべきだと思うのだけれど。……ああ、ごめんあそばせ。あなたはまさにその具現でしたわね?」
伝説の王が振るった剣。その名のアームドフォートが起動する。
指示を出すかのようにエルモアが振るった腕に合わせ一斉発射された攻撃が、目くらましのように土埃を上げた。
土埃の奥で、くだんが嗤った。
「危ないッ!」
瞬時。アンゼリカがエルモアをその場から突き飛ばす。
腹の位置で爆ぜようとした攻撃から、身をもってエルモアを庇う。アンゼリカの身体を、遅れてきたその一撃が襲った。体勢を持ち直したエルモアがはっと顔を上げた。
「アンゼリカさんっ」
「――っ、まだまだ。ケルベロスはこの程度では屈しないさ」
天光色の瞳に闘志を燃やし、アンゼリカはくだんを見据える。
がたがたと薄気味悪さすら感じさせるほどに頭を震わせて、くだんは嗤っていた。
「……人は目に見えない不気味な物に恐怖を抱く。俺達はまだいい。お前の存在が偽物だと知っているからな。しかし、いや、だからこそ、か」
淡々と蓮が告げる。
「人々に妙な事を告げる前に消えてもらおうか」
蓮の視線が射抜いた先、薄らとした御業が炎弾を放つ。
「死は節理だ。誰にでも等しく訪れる。……それ故に、さあ、『門』を開くとしよう――」
イヴァンの纏う空気が変わる。
「『わたしは視た。一匹の竜が、十本の角と七つの頭をその身に宿し、深淵より出でるのを。其は怒りの日、裁きの下される黙示録也――』」
紅の瞳を真っ直ぐにくだんへと向け、イヴァンは存在しない魔導書の頁を謳いあげる。始めに現れた場から動かなかったくだんが、その時初めて、動いた。
「……逃さんよ。貴様の失命もまた、定められている。そうであろう? 『件』よ」
イヴァンの発したその言葉に、シエラは一瞬、瞳を伏せた。
予言を発し、死ぬ。
ただそれだけの存在であるらしいくだんという妖が、やたらと無碍な存在のように思えて。
(「分かってる。あれはドリームイーター。くだんじゃないし、……そもそも想像上の存在の在り方に疑問を抱いても、ねぇ」)
上げた視線の中に映ったのは、足を一本もぎ取られ、バランスを崩して地面に顔を擦り付けるくだんの姿だった。
●
「喰らえ、そして我が刃となれ」
壊れたからくりのように嗤い続ける――あるいは、予言にて呪い続ける――くだんへ向けて、蓮は影を放つ。いにしえの鬼の姿にも似たその影は、竜巻が如く風を纏い、くだんの身体を切り裂いた。
土くれがぼろぼろと牛の身体から零れ落ちていく様を見つめ、蓮は目を眇めた。
癒し手である仲間達からの回復を受け、傷を癒したアンゼリカも、再び敵前へと躍り出る。
懐中電灯の光は、ケルベロス達の動きに合わせ、闇夜の中に光の道を作る。
「ルシェはね、少し思うのよ。くだんちゃんの天命は哀しいなって」
咲笑うようにルシェルは言い、その足元で地を叩いた。
一度。
二度。
三度。
闘志を呼び起こすかのような舞を、さんざめく刃を、ルシェルは踊る。
「でもね、やっぱりあなたは紛い物。だから――ルシェが叩き込んであげるわ、奈落の底まで!」
四度。
力強く踏みしめた地面を最後、ルシェルはある言葉を囁いた。
練り上げられた魔術はそれを鍵とし、一匹の番犬をつくりあげる。地獄の番犬を模したその影は、牙を剥きくだんに襲い掛かった。
「……終わりだな、『くだん』」
たっぷりとした皮肉を込めて、満願が呟く。
その身を噛み砕かれながらも、くだんは虚空を見つめ嗤っていた。
夢喰いの気配が消えたその場には、色濃い夜気と、くだんだった土くれだけが残っていた。かりそめの命が絶たれた瞬間、くだんはただの土と化した。
「……私達がデウスエクスを倒すのは、当然の事。だからこれは、予言の結果では――ない、ですよね」
戦いが終わったことを理解したのだろう、己の元に甘えるように戻ってきた子竜を一度抱きしめて、優希は呟いた。
「天命、か」
アンゼリカが考えるように言葉を漏らす。
地面に散らばる土くれをイヴァンは僅かに手に取り、そして散らした。社の前に寝かされていた女性に近寄れば、寝息を立てたままであることが解った。イヴァンは静かに女性を抱き上げ、仲間達に目配せを送る。
「夜の神社は魔が潜むと聞く。早々に帰るとしよう」
「そうですわね、長居は無用ですわ。ところで――わたくし、その方の考察には興味がありますの。ぜひ完成させてもらわなくては!」
下まで降りたならば起こしてしまっても構わないでしょうか、と小首を傾げたエルモアに、状況の説明はすべきだろうという同意が返された。
連もまた、鳥居を見上げ、それを潜って帰路を踏もうとした。
歩を進めた、そのときに。
――シッ。
ばっと、振り返る。
「……? どうかした?」
「……いや、」
シエラの問いに、なんでもない、と返す。
耳朶を打ったような気がしたそれは、何であったのか。振り返った先を改めて懐中電灯で照らしてみても、そこには闇夜があるだけで、答えなど何も返さなかった。
作者:OZ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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