瞬炎は潰えず

作者:刑部

「ブチ殺したげる! アンタだけは絶対に!」
 峠に怒気をはらんだ女性の声がこだまし、それを打ち消す様に鉄のぶつかる音が響く。
「単騎で俺とやり合うとは、やるではないか小娘っ!」
 ハルバードを振るっていた巨躯の男がそう言い、鍔迫り合いを演じる女の腹を蹴って距離をとる。……が、
「黙れっつーの! とっととくたばりやがれユミルの子!」
「ユミルの子?」
 四つの角を生やした女は罵声を浴びせ、不安定な地獄化した翼を羽ばたかせて突っ込むか、その足取りは些かおぼつかず、ユミルの子と呼ばれた巨躯の男は小首を傾げ、
「あんな奴らと一緒にするな!」
 とハルバードを振るって応戦する。
 巨躯の男はエインヘリアル。
 名をハールドレックと言い、アスガルドで重犯罪を犯しコギトエルゴスム化されていた男であり、尖兵の捨て駒として送り込まれた者。
 4つ角の女の方は、先日の唐津におけるミッション破壊作戦において暴走し、姿を消したランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)その人であった。
 手足に竜鱗が浮き、炎に包まれた鉄塊剣を振るうランジ。その攻撃をハルバードを巧みに操り受け逸らすハールドレック。
「なかなかやるが、まだまだ俺には及ばんな」
 振るわれたランジの剣を跳ね上げたハールドレックは、そままハルバードを回転させ槍先を向けると、ランジの腹に突き入れた。
「ぐっ……ガハッ……まだだ、ユミルの子、お前だけは……」
 槍が体にめり込んでゆくのも構わず、血反吐を吐いて前進するランジにハールドレックが目を見開くが、急に膝から崩れ落ち動かなくなる。
「地球もなかなか面白いではないか」
 ランジの体からハルバードを引き抜いたハールドレックは、そう不敵に笑うのだった。

「ランジさんが見つかったで!」
 杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) の声に、何人かのケルベロス達がバッと振り返り駆け寄って来る。
「山口県のここや。ここでユミルの子に似たハルバードを持ったエインヘリアルと戦っとる」
 千尋が地図で指したのは山口県の東部、烏帽子岳の辺り。
「エインヘリアルは最近見られる様になった、凶悪犯罪者を捨て駒みたいに送り込まれるタイプの奴や。たぶん遭遇したんは偶然やと思うな」
 身振り手振りを加えて説明を続ける千尋。
「ランジさんも暴走しとるぐらいやから、普通にやったら負けはせんやろうけど、どんだけユミルの子と戦ってきたんか知らんけど、もうボロボロで、このエインヘリアルのハルバードに腹を貫かれてやられてまう」
「なに!」
 続くて言葉を紡ぐ千尋に怒りの双眸を向けるケルベロス達。
「かっ飛ばせば倒れた直後ぐらいになんとか着ける筈や。救出が遅れたらトドメを刺されたり、連れ去られたりするかもしれへんからな。このエインヘリアルを倒したら、ランジさんをケルベロスとして回復出来る筈や」
 その視線を受け流した千尋の言葉に、ケルベロス達から安堵の声が漏れる。

「連戦で消耗しとるとは言え、暴走したランジさんを倒したエインヘリアルや。気ぃ抜いたらあかん。さぁ、気合入れてとっととしばいて、ランジさんを助けんで!」
「任せておけ!」
 行って八重歯を見せて笑う千尋に、ケルベロス達も笑顔で闘志を燃やすのだった。


参加者
ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)
風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)
ルヴァリア・エンロード(雷破の銀騎・e00735)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
朝影・纏(蠱惑魔・e21924)
シャルトリュー・ハバリ(見習いメイド・e31380)

■リプレイ


「地球もなかなか面白いではないか」
 ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)の体からハルバードを引き抜いたエインヘリアル『ハールドレック』は、不敵に笑うと穂先に付いた血脂を拭い、
「お前ほどの強者がもっと居れば良いが……いい勝負であったぞ」
 と、トドメを刺すべくハルバードを振り上げるが、その眼前に勢いよく落ちて来た赤毛の少年。
「お前に用はない、だが……邪魔をするなら殲滅する」
「迎えに来たわよ、ランジ。でもそこの邪魔なのを片付けるから少しだけ待っていて」
 ガーネット・レイランサー(桜華葬紅・e00557)がその紅瞳を輝かせ、刃を構えって飛び掛ると、半歩分ほど遅れて着地した朝影・纏(蠱惑魔・e21924)も、倒れるランジを一瞥し黒い革靴で地面を蹴り、振るう『造兵刀』の切っ先が弧を描く。
「ほう、新手か望むところよ!」
 ハールドレックは嬉しそうに歯を見せて笑うと、頭上で勢いよくハルバードを旋回させ、攻撃を捌きに掛る。
「名前も知らないエインヘリアル。名乗りは必要ありません。貴方には此処で……成した行いを相応に償い消えて頂きます」
 メイド服のスカートの裾を摘まんで着地したシャルトリュー・ハバリ(見習いメイド・e31380)が振るう『侍女式槍斧』の刃が、ハールドレックのハルバードの刃とぶつかり火花を散らす。
「……それと、もう一つ。私の友達を傷つけた報いは、受けて頂きます」
「出来るかな、小娘?」
 青い瞳で睨むシャルトリューに、余裕の表情で返したハールドレックが力を込めて押し返し、そのまま体を回転させ仕寄るケルベロス達を薙ぎ払う。
「先ずは押さねばならない。この程度で……」
「たいした自信だが、いつまでその余裕が続くかな? さぁ縫い止めろ、銀の針よ」
 ケルベロスコードを後ろに投げたアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が薙がれた前衛陣にヒールドローンを飛ばし、ガーネットを庇った自身のテレビウム『マギー』から、視線をハールドレックに向けたピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、その斬撃を堪えつつ銀色の針を投じて敵の足元を縫い付けた。そこに、
「あなた、同胞を殺害してこっちに送り込まれたそうね? その様な凶悪犯罪者は、私たちの世界でもお断りだ」
 空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)が守りを固める為地面に鎖を展開すると、その動きに彼女の耳にある希絆【繋】が揺れ、
「アタシたちとやりあいましょう……あの子同様、退屈はさせないつもりよ?」
 銀色のポニーテールを躍らせたルヴァリア・エンロード(雷破の銀騎・e00735)が、展開したカードのゲートをくぐって吶喊すると、その攻撃をいなす様に跳び退さるハールドレック。その動きで倒れたランジとの間に距離が生じ、桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019)と共に仲間達がその間を埋める様に降下してきた。
「次から次へと大歓迎ではないか! ……それ程その者が大事か!」
「彼女が暴れて反発してくるかもせえへんけど、そこは耐えて宥めて!」
 次々と降下し得物を構え一重二重に自分を包囲するケルベロスの姿に、ハールドレックが不敵に笑ってハルバードを薙ぎ、風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)が冬馬と共に降下してきた仲間達の内、不退転の決意をもってランジを護る者達に彼女を託すと、極楽鳥の翼を羽ばたかせ、ルヴァリアを後押しする様に掌から竜の幻影を放つ。

「無茶したわね、ランジ。でもわたくし、あなたのこと誇りに思うわ」
「傷を塞ぐ程度にだけ回復します」
 アジサイとガーネットが投げたコートでランジを包んだ千手・明子が意識を失っているランジに語り掛け、神無・冬華が回復を施す。過剰に回復して暴れ出しても色々面倒になるので、命に危険が無いなら妥当な処置と言えよう。
「暴走自体はお世辞にも誉められた行動ではありませんが、羨ましいものですね、己自身よりも優先すべきものがあるということは……」
「まったくです。さぁ、無事に連れて帰れる様守り切りましょう」
 追儺の鬼神を嵌めた掌を敵に向けた西城・静馬の言葉に頷いた筐・恭志郎が、拡声器を用いて仲間を鼓舞すると数名が得物を掲げて気勢を上げる。


「想い描く結末は――もうその掌の中に」
「同じ旅団の先輩……まだ話した事ないんだ。引きずってでも連れて帰るよ」
 フィー・フリューアの周りで小動物や人形が奏でる交響曲が響き、ジャニス・ヨークの黄金の果実が輝き受けた傷を癒す中、
「……一気に叩かせて貰う。……儚く散り逝くがいい!」
「俺の財布の中身程のピンチじゃないぜ」
 チャフを撒きつつ吶喊するガーネットをかすめ、笑ったリヴァーレが光の銃から放った魔力弾。
「ここから先は通しません……!」
「あなたの運命もここまでよ」
 と、包囲する様に攻撃を仕掛ける玄梛・ユウマや四条・玲斗の攻撃をハルバードで捌いたハールドレックは、流れる様な動きでその魔力弾を跳ね上げたが、その腕が上がったところをガーネットに突っ込まれた。
「懐に飛び込まれた長柄の不利を……」
「何のこれしき」
 睨み上げるガーネットに口角を上げたハールドレックは、ハルバードを短く持ち石突側で攻撃を捌きつつ、体を軸にしたテコの動きで刃側を叩き込んで来るが、
「戦慣れしている様ね。しかし関係ない。ランジにあんな事をしたのなら、唯、斬る。それだけよ」
「援護するわよ、ガネ君」
 黒き閃光の如く距離を詰めた纏が大上段からその刃を振り下ろし、ルヴァリアの持つグレイブ状の鎌が水平に薙ぐと、交錯する刃……クロスブレイドの傷を敵に刻んでそのまま斬り抜ける。
「……やる」
 短く賞賛を口にしたハールドレックは、波濤の如く攻撃してくるケルベロス達を捌きつつ溜めた気力を使ってその傷を癒した。

 30人近いケルベロス達を前にして些かも怯まず、その巨躯と巧みなハルバード捌きでケルベロス達を迎え撃つエインヘリアル、ハールドレック。
「こいつはいい。どっちを見ても敵ばかりだ」
 呵呵と笑って振るわれるハルバードの刃から、シャルトリューを庇った館花・詩月が吹っ飛ばされ、モカにキャッチされる。
「大丈夫ですか?」
「いたた……大丈夫大丈夫」
 直ぐに駆け寄り、回復を施すシャルローネ・オーテンロッゼに礼をいう間も、剣戟の音が響いている。
「見たらわかる、強いやつやん。……せやけど退かれへん時は半歩かて退かんのや、極楽堂の本気見せたるでー! さぁ、あの日の【種】はどないな花を咲かせんねんやろな?」
 珍しく口を一文字に結んで舞ったレギナエが、敵の胸に指先で触れると、
「ぬ……お……お前達……」
 虚空を見上げたハールドレックは、
「まだ死に足りぬか、何度でも嬲り殺してくれるわ!」
 無茶苦茶にハルバードを振り回し始めた。
「ランジさんらしいと言えばらしいですし、これもまた……」
「……流石はレギー。与えたトラウマが逆効果になるとはねぇ。ある意味才能かな?」
 あっけとられるシャルトリューの言葉を継いで、レギナエの本気をそう評したピジョンは、だめだこりゃ的な顔を映して隣で頷くマギーと共に、暴走して無駄な動きが多くなったハールドレックの隙を突いて距離を詰めると、
「私は私が出来る事をしましょう。刹那と永久に。微睡みを、貴方に」
 皆に守られるランジを一瞥したシャルトリューも、
「意地でも、絶―っ対に! 連れて帰るんだからねー!」
 と声を上げ、星河を振るうアーシィ・クリアベルと鍔迫り合いを演じるハールドレックに、停滞を与える術式弾を撃ち放つ。

 かなりのダメージを追わせ、バッドステータスも受けている筈だが、疲れも見せずハルバードを振るい続けるハールドレック。
「くっ……」
 振るわれたハルバードの一閃に押し返される前衛陣の内、冬馬を始め幾人かが堪え切れずに弾き飛ばされる。
「群れを成すしか知らぬ弱き者供め!」
「弱き者、と言ったか。仲間のために力を振り絞った俺達の仲間に……個としての暴力のみでしかそれを語れん貴様がそう言うか。ならば見せてやろう、貴様にない絆の強さを」
 啖呵を切ったハールドレックを睨みつけたアジサイが、ヒールドローンを展開すると、
「そうとも、何度弾き飛ばされても仲間が……皆が私を支えてくれる」
(「わたしには、これぐらいしかできないけど」)
 九音・征夫が妖刀亀斬りを構え、口の中でそう呟いたセレティル・ルミエールもオウガ粒子を放出すし戦線を支える。
「あなたみたいな下衆は向こうでも迷惑だろう。だったら私たちが死刑に処してやろう」
 薙がれるハルバードをかいくぐったモカが触れた掌から、ハールドレックに螺旋が叩き込まれ、視線が交差するより速く跳び退くが、神速の勢いで繰り出された突きがモアの左太股を貫き、鮮血が大地を染める。
「逃がさぬ……」
「それ以上させるかー!」
 更に一撃を見舞おうと踏み込むハールドレックに、飛び蹴りを見舞いその足を止めたのは狼森・朔夜。更にピジョンとルヴァリアが割って入り、
「……その弱き者を誰ひとり倒せていないあなたは何だと言うのです」
「私たちの友達にはこれ以上、指一本触らせないよ!」
 エステル・ティエストの鎖がハールドレックの行く手を遮る様に仲間を守り、月代・風花がランジを守りながら攻撃を飛ばし、左右からも次々と攻撃を仕掛けるケルベロス達。
「次からへと……」
 長めに持ったハルバードを風車の如く振り回し、遠心力も加えて前衛陣を薙ぐハールドレックだったが、
「いくら貴様が勇を誇ろうが、俺達の心が折れる事はない」
「そうそう、いくら怪我しても治してみせるんだよ」
 アジサイや霧城・ちさといったメディク達が、手厚いヒールで戦線を支え続け、
「……全力で斬り刻む!」
 仲間達の攻撃に気を取られたハールドレックに、レギナエの援護を受け、刃を出したモカの手刀が連続で叩き込まれると、
「ぐ……ぬ……」
 今まで重ね塗られた各種バッドステータスが、一気にその勢いを増してハールドレックの自由を奪い、片膝をつきそうになるのを立てたハルバードに縋ってなんとか堪える。……が、ケルベロス達がその隙を逃す訳がなかった。
「戦の趨勢が決まった様だねぇ。さぁ一気に押し切ろう!」
 声を上げたピジョンに続き、次々と波状攻撃を加えるケルベロス達。
「こんなもの……か、せめて手厚く葬れよ……」
「誰が……」
 最後……致命傷を与えた纏にそう嘯いて口角を上げたハールドレック。
 短い拒絶の言葉をぶつけた纏の前で、更なる追撃を左右から受けたハールドレックは、笑いながら絶命し、
「……目標の殲滅を完了。……状況終了」
 崩れ落ちるその姿にガーネットが大きく息を吐いた。


 ハールドレックが絶命した事を確認し、明子が抱えるランジの周りに集まるケルベロス達。
「ヒールを掛けながら、どんどん語り掛けていきましょう」
「いきますよー」
 猫耳をぴくぴくさせた冬華とリボンを揺らしたちさが、そう言いつつヒールを施し、
「1人で戦うのはきついだろ? 戻って来いよ。皆、迎えに来たんだぜ」
「誕生日が同じ日でプレゼント交換しましたね。なんだか可笑して、嬉しくて、笑い合った。また誕生日がきます。またプレゼント交換しましょう」
 語り掛けた朔夜がその場を仲間に譲り、シャルローネがランジとの思い出を語ると、
「もう一度、一緒に縁日に行きましょうって、約束したじゃないですか? こう見えても、楽しみにしてるんですからね、私。破ったらひどいですよ?」
 とランジの前にかがんだシャルトリューが、ランジの鼻をつんつんする。
「タ一ミナルでの日々も、ついこないだ一緒に行った雛人形職人さんの依頼も……これからだっていっぱい楽しい事があるんだから、早く目を覚ましなよ」
「ほんとほんと、帰ったらたっぷり説教してやるから、いつまでも寝てんなよ」
 ヒールしながらフィーと、軽口を叩くリヴァーレ。
「パッチワークハロウィンの事件で戦線を共にした時は本当に頼もしかった。また肩を並べて戦いましょう」
「……これ以上、知ってる人が居なくなるのは、辛いから。私は、ランジさんに……帰ってきてほしい、な」
 煌く心緑を握り締めた恭志郎が優しく語り掛け、普段は無口なセレティルも今は想いを言の葉に乗せる。
「……酷い有様ね、まあ多少の無茶や無鉄砲は貴女らしいのだけれど、今回はやり過ぎよ。さあこれ以上皆に心配をかける前に帰ってらっしゃい」
「マサヨシさんも帰って来ましたよ。さぁ、今度こそ一緒にユミルの子を倒しましょう」
 瞳を細めた纏の言葉に続くエステルの言葉……『ユミルの子』にランジの体がビクンと跳ね、カッと怒りを湛えた眼を見開いた。
「ユミルの子!」
「否。お前の迎えだ」
 咆えたランジをガーネットが一喝すると、
「ランジぃ……」
 目に涙を浮かべた纏がランジを抱きしめる。
「誰だ! 何だ! 離せ!」
 まだ正気を取り戻してないのか、振り解いて逃れようとするランジを纏と明子が抱きしめる。
「よっしゃよっしゃ、頑張った! よーう頑張った! 見や、ランジちゃんのためにこーんなに仲間が集まったんやで?」
「そうだ。まだ極楽堂大喜利の決着がついてないだろう?」
 いつもの笑顔を浮かべたレギナエが語り掛け、モカも笑顔を見せ、
「ランジは極楽堂の副店長みたいなものだもん。居ないとお店が盛り上がらないよ!」
「そうだよね。ほら思い出して」
 アーシィと風花も、とてもいい笑顔でランジに語り掛ける。
「思い出せ。獄楽堂での日々、ターミナルでの日々。他にもシャトが歩み培ってきた絆を……」
 アジサイの言葉が心に沁みる。
「う……あぁ……あたしは……アタシは……」
 抱えた頭を左右に振るランジ。
「シャトさん、頑張って!」
「頑張れ!」
 ユウマとジャニスの握った拳に力が籠る。
「あああああああああぁぁぁぁあああああ!」
 絶叫したランジの四肢から竜鱗がぼろぼろと剥がれ落ち、その首がガクンと後ろに落ちるかと思ったが、踏み堪える様にして止まったかと思うと、ぐぐっと顔の位置を元に戻しパッと目を開いた。
「あれ? アンタなんで泣いてんの?」
 目の前に涙目の纏の顔があり、思わす小首を傾げて訪ねるランジ。
 途端に皆がランジの名を呼びもみくちゃにされる。そんな興奮状態の皆から聞いて状況を理解したランジ。
「さて、ランジ。最初の一言をどうぞ」
 詩月に促されたランジは、ぐるっとみんなの顔を見て、
「……た、ただいま」
 とはにかんだ。
「まったく、世話のかかる子なんだから。……おかえり、ランジ」
「おかえり」
 ルヴァリアとガーネットが目を細め、冬馬ら他の者達も笑顔で頷いている。
「ほらほら、おにぎりも甘い物も用意してますよ」
「お腹すいてるんじゃないか? ほら。それとも辛い物がよかった?」
 とおにぎりを差し出す征夫と、チョコ菓子を投げ寄こすピジョン。更に、
「足りないなら近くの鹿野は豚で有名だから、そちらで良ければ良い場所を案内するわよ」
 と笑顔を見せる玲斗など、普段自分がどの様に見られているのか、ちょっと考えてしまうランジ。
「帰ったら、当時の心境を聞きたいものです」
 その光景を眺めながら静馬も笑顔を浮かべる。
 ランジ・シャトはここに帰還した。その時、彼女の周りには多くの笑顔の華が咲いていた。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 6/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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