繊細にして甘美なるもの

作者:小鳥遊彩羽

 そこは、公民館の一角にある和室。
 静まり返った室内には、十名ほどの男女と、全身が羽毛で覆われた異形――ビルシャナの姿があった。
「例えば、缶のおしるこに入っている粒などは、絶対に許されない最たるものの一つだ」
 静かにビルシャナが発した言葉に、人々はごくりと息を呑む。
「では、一体何が悪いのか。そう、言うまでもなく粒だからだ。あれが粒でさえなければ、おしるこを飲み終わった後もなお缶の底にへばりついている粒を見て嘆くことも、残った粒を諦めて缶を捨てる必要もなかっただろう」
 経験があるのだろう、確かにそうだと同意する人々の前で、ビルシャナの言葉は続く。
「つまり、そもそもあんこに粒など必要ないのである。あの噛み締めた瞬間の得も言われぬ異物感や食感は、想像するだけでも恐ろしい……そして、何よりも皮! 歯につくだけでは飽き足らず、よりにもよって隙間に挟まってくる。我々の与り知らぬ所でだ!」
 人々の間に、目に見えない衝撃が走った。
「嫌……! つぶあんの皮、歯についてるよなんて言われたら、もうお嫁に行けません!」
「そうなったら歯ブラシでも取れない……! つぶあん、何て恐ろしい奴なんだ!」
 慄き、あるいは震え上がる人々。
 その様子に満足そうに頷き、ビルシャナはばさり、と翼のついた両腕を広げた。
「よって私はここに宣言しよう。あの、絹のように繊細でなめらかな口どけとのどごし――そう、こしあんこそが我らを導く光であると!」
「こしあん……! ずっと求めていたものに、やっと出会えた……!」
「ああ、こしあんさえあれば、もう何も怖くない!」
「こしあんよ、どうか我らを救いたまえ――!」
 高らかに響き渡った声に人々は目を輝かせ、あるいは涙を流し、ビルシャナと化した一人の男に盛大な拍手を送った――。

●繊細にして甘美なるもの
「ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開いてビルシャナになっちまう人がいるみたいなんすよ」
 その、『悟りを開いてビルシャナ化した人間』を撃破して欲しい――黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まったケルベロスたちへそう告げた。
「皆さんには、このビルシャナが自分の教えを布教してる真っ最中に乗り込んでもらうことになるんすけど、ビルシャナの言葉には強い説得力があって、放っておくとそこにいる一般の人たちが配下にされちまうんす」
 配下となった一般人は決して強くはないものの、ビルシャナを守ろうと立ち向かってくるだろう。ビルシャナさえ倒せば元に戻るので救出は可能だが、配下が増えればそれだけ戦闘でこちらが不利になるのは否めない。
 だが、ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある説得が出来れば正気に戻せるかもしれないので、出来れば説得して目を覚まさせてやって欲しいとダンテは言った。
「……で、そのビルシャナが開いちまった悟りってのが、『あんこはこしあんに限る』ってやつらしいんすよ。一般の人たちは男女合わせて十名ほどいるみたいなんすけど、なんやかんやで結構共感しちまってるみたいで、別に美味しけりゃつぶあんでもいいんじゃ……とか思ってる人はその場には残っていないっす」
 一般人はビルシャナの影響を強く受けているため、理屈だけで説得することは不可能だろう。説得の際に重要なのはインパクトだ。よって、そのための演出などをあれこれ考えてみるのがいいかもしれない。
「とにかくインパクトさえ与えられれば、別にあんこにこだわらなくても大丈夫だと思うっす。残念ながらビルシャナになっちまった人は助けられないんで、これ以上被害が大きくならないように倒してきてくださいっす。よろしくお願いするっすよ!」
 ダンテはそう締め括り、笑顔でケルベロスたちを送り出した。


参加者
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)
アルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)
辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
林崎・利勝(誰がために・e03256)
杉崎・真奈美(眠り巫女・e04560)
小倉・奈菜菜奈(アイドルの穴・e13958)
エルフリード・ファッシュ(シャドウエルフのガンスリンガー・e16840)

■リプレイ

「こしあんばんざーい!」
 なんやかんやでビルシャナに魅入られた人々が、揃って両手を挙げたその瞬間、すぱーん! と勢い良く扉が左右に開かれた。
「まいど! 利きあんこのデリバリーデービスでーっす!」
 辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)の声を皮切りに、ぞろぞろと室内へ上がり込むケルベロスたち。
「な、何だ貴様らは!?」
 突然の闖入者に狼狽えるビルシャナと、何事かと困惑した様子でケルベロスたちを見つめる信者たち。
「皮が張り付くのは飲み物を口にすれば取れる。イカスミや青のりよりはマシだ!」
 間髪容れずエルフリード・ファッシュ(シャドウエルフのガンスリンガー・e16840)が叫んだ。
「隙間に挟まるならば歯間ブラシを使えばいい。小豆の皮以外でも歯ブラシじゃ取れないのだから!」
 しんと静まり返る室内。さすがのビルシャナも目を瞠っている。つかみ(インパクト的な意味で)はばっちりだ。
「えへへ、僕があまりにもカワイイから見惚れちゃった?」
 さらりと当たり前のように言いながら、信者たちの前に二種類のおはぎを差し出すラッカ。片方はこしあん、そしてもう片方はつぶあんを用いて作られたものだ。
「わ、私の目の前にそのような忌々しい粒を差し出すな!」
 ビルシャナが目ざとく反応したが、ケルベロスたちはお構いなし。
「どう? せっかく種類あるんだから、どっちもおいしく食べようよぉ。ハイ、召し上がれ!」
 信者たちは戸惑いながらも、ラッカの笑顔に半ば押された形でおはぎを手に取った。
 実は、予めつぶあんのほうにだけ『おいしくなあれ』がかけられているのはここだけの話であるが、これもれっきとした作戦だ。
「ボク自身もまたこしあん派の一人……だが! 多様性の美を否定するような真似、見過ごすわけにはいくまい」
 ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)はビルシャナへとある意味宣戦布告のような宣言を行うと、自分が美しく見える角度をしっかりと決めながら、おはぎを食べる信者たちへ向き直った。
「そもそも、こしあんとはつぶあんを漉してつぶを除いたもの。こしあんとて本来はつぶあんなのだ」
 割り込みヴォイスを駆使しつつ、ナコトフは衝撃でざわざわしている室内に至極真っ当な正論を響かせる。
「つぶあんなくして、こしあんの存在はありえない。そう……つまり、つぶあんの否定は、こしあんを否定するも同然なんだよ!」
「い、言われてみれば……!」
 何人かの信者たちが早速我に返る。
「皆さん大人になってつぶあんの良さを忘れてるっす!」
 そこに、小倉・奈菜菜奈(アイドルの穴・e13958)が言葉を滑り込ませた。
「子供のころ一度はあのあんぱん的なヒーローの頭の味を想像したはずっす! 彼の頭はこしあんじゃなくて、つぶあんなんすよ! 子供心を忘れるなっす!!」
「知らなかった……!!」
「確かにこしあんのおしるこであれば、缶のおしるこを味わう分にはその嘆きはなくなるだろう。だが、だからといってこしあんのみだけで良いというのは笑止千万!」
 またまた衝撃を受ける信者たちへ、さらにエルフリードが畳み掛けた。
「こしあんだけで良いと思うなら、なぜつぶあんは今まで残ってきたのか! それはつぶあんもこしあんも等しく愛されているからだ!」
「確かにそうだー!」
「お、お前たち! こんな訳もわからん奴らの戯言など真に受けるんじゃない!」
 すっかり存在を忘れかけられているビルシャナが、信者たちの心を必死に繋ぎ止めようと叫ぶ。
「――もったいない」
 やれやれと言った様子で、林崎・利勝(誰がために・e03256)が口を挟む。
「あんこに限っただけでも、さらしあん、黄身あん、小倉あん……まだまだ種類がありますのに、こしあんだけを褒め称えるのは……実にもったいない」
「そ、そんなに……!?」
「……それにあんこより、きな粉と黒蜜のほうがおいしいですし、その二つがかかった栃餅に、熱いお茶があれば至高の極み。好みはそれぞれですが、それに凝り固まるだけでなく――他の物に目を向けてみると、見識が広がるかもしれませんよ」
 無論、これはあくまで利勝個人の感想で絶対的な評価ではない。だが、説得に際しそれは全く問題のないことだった。
「というかな、おしるこに限って言えば、『こしあんの絹のように繊細でなめらかな口どけとのどごし』なんて感じないぞ! 湯に溶かしてるからな!」
 省略されるはずだった箇所も全部言い切り、エルフリードはびしっと指を突き付ける。
「こしあんやつぶあんだけじゃないわ!」
 おはぎでは首を振らない信者たちへ、杉崎・真奈美(眠り巫女・e04560)はこしあんでもつぶあんでもない『すあま』で攻めた。
 あんこがなくともお茶の味を引き立てる素朴な味わい。それだけで美味しく頂ける柔らかくもちもちとした食感はまさにお茶請けにぴったりで、信者たちの何人かがまったりと楽しみつつ正気を取り戻す。
「お前ら! 見ている世界が狭いぜ!」
 真奈美と同じく、別の信者たちへとそう切り出したのはアルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)だ。
「つぶあんだろうがこしあんだろうが、それを美味いと感じるのは日本人くらいなんだよ! 俺はスペインの生まれだが、豆が甘いとかふざけてんのかと思うね。酒のあてにもなりゃしない」
 スペインという、信者たちからすればある意味とても斬新な方面の切り口は、それだけで興味を引くには十分だったらしい。
 ビルシャナのくだらない話に引っかかるほうも引っかかるほうだが、真っ当な道に引き戻せるのは自分たちしかいない。それを理解してはいるものの、それでも内心は少々面倒くさいと思いつつ、アルトゥーロは続けた。
「――なら何がいいかって? 決まってんだろ、チーズだよ、チーズ。適度な塩気と、複雑な味わい。種類次第では料理にも使える万能の食材だ! ほら、そこのお前、このダイスチーズを食べてみろ。あんこなんかどうでもよくなるだろう?」
 言われて、信者の男性が受け取ったチーズを食べる。
「お、美味しい……!」
 程よいチーズの塩気は、あんこで甘くなった口にぴったりだったようだ。
(「人の個性がそれぞれ違うように、嗜好も違いますよね。それをとやかく言うつもりはありませんが……人を巻き込んでまですることではありませんね」)
 御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)の背後から、唐突に神々しい(ライトの)光が放たれる。
「な、何という神々しい光……! だが、負けるわけにはいかぬ!」
 眩しげに目を細めつつ、どうだ私のほうがうんと神々しいぞと言わんばかりにビルシャナが翼のついた腕を広げるが、信者たちの視線は姫桜に釘付けだ。
 姫桜はゆったりと天使の翼を広げ、そこはかとなく慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらおはぎをもぐもぐしている信者たちの説得を始めた。
「ダイエットや栄養面でいいのは、こしあんよりつぶあんです。皮の部分には食物繊維がたっぷりと含まれていて、脂肪の吸収を抑え、腸にたまった老廃物を排出する働きをしてくれます」
 ダイエットと聞いてやはり女性陣が反応する。その様子を見つつ、姫桜は静かに続けた。
「またこしあん、つぶあんのいずれにも、体内の活性酸素の増加を抑制するポリフェノールが含まれていますが、その含有量はつぶあんのほうが多いのです。カロリーの差はあまりありませんが、栄養面で良いのはつぶあんのほうなのです」
 姫桜のとてもわかりやすい説明もとい説得に、女性陣が心を動かされたようだ。
「やっぱり、つぶあんのほうがいいのね……美味しいし……うっ」
 そこで口元を抑える女性に、すかさずラッカが反応する。
「もしかして、歯に皮が挟まっちゃった? 大変だぁ! ……ハイ、糸ようじ! 鏡も貸してあげる! これでもう怖くないね!」
 すぐに糸ようじと手鏡を女性信者に差し出すラッカ。それを受け取った女性は気恥ずかしそうにしながらも、見えないように後ろを向いてさっと歯のお手入れを済ませたようだ。
「ねぇしってる? おはぎのお米と合わせるならつぶあんのほうが食感の相性いいんだよ。豆知識ね、小豆だけに!」
 おはぎをもりもりと食べていた信者たちが、やがて観念したように頷いた。
「私たちが間違っていました……目が覚める思いです……」
「このおはぎ、つぶあんで出来ているほうが、うんと美味しいわ」
 もちろん、おまじないの効果もあっただろう。だがそれ以上に、ケルベロスたちの説得が信者たちの心を取り戻したのだ。
「それでも絹のように繊細でなめらかな口どけとのどごしを求めるなら……それの最高峰はカスタードだと思うよ。ハイ、あーん!」
 とどめに、ラッカが最後まで迷っていた信者にカスタードクリームを食べさせる。
 あんこのそれとは違う絶妙な甘さに、最後の一人がとうとう屈した。
「さあ、皆さん、早くここから離れてください」
 すかさず真奈美が殺界を形成し、正気を取り戻した信者たちをこの場から離れさせる。
「……貴様ら、許さん……絶対に許さんぞ……!」
 ケルベロスたちの眼前にただ一人残され、すっかり空気と化していたビルシャナが、怒りに震える翼を広げ閃光を放った。

「――ビルシャナ、お前さんの番だぜ」
 眩い光に気圧されることなくアルトゥーロは二丁の銃を素早く構えると、無数の弾丸をばら撒くように放ちビルシャナの動きを制する。その隙にビルシャナへと肉薄した利勝が、落ちてくる葉を十字に切り裂けるほどの速さのある斬撃をビルシャナへと刻んだ。
「君たちってホント極端だよ! ね、ビルシャナ! でもそーいうところも、ス・キ・だ・よ!」
 可愛く笑って、ラッカは前衛陣の背後をカラフルな爆風で彩り、力を添える。
「この鳥野郎! こしあんのように磨り潰してやる!」
 そんな中、物騒な物言いと共に容赦なくバスターライフルをぶっ放すエルフリード。
 彼が日本に来て初めて食べて、そして今でも大好きなぼた餅はつぶあんで出来ている。そして目の前のビルシャナはそのつぶあんを全否定した存在だ。エルフリードが怒りを覚えないはずはなく――仲間たちが信者を説得している間は頑張って逸る心、もとい殺意を抑えていたが、ビルシャナを残すのみとなった今、もうその必要はどこにもなかった。
「集まれ炎、踊り散れ華――」
 ケルベロスチェインを手繰り、守護の魔法陣を描き出す姫桜の傍らで、ボクスドラゴンのシオンが自らの属性をインストールし、守りを固める。
「天仰ぐ向日葵の『崇拝』も、行き過ぎれば沈みゆくスイレンの『滅亡』を招くのだよ……!」
 胸ポケットから向日葵とスイレンを取り出しつつ、ナコトフはさらに攻性植物を放った。
 蔓草の茂みの如く伸びた触手が、ビルシャナの全身に絡みついて締め上げる。
 続けざまに、真奈美が召喚した無数の刀剣が空中に解き放たれた。死天剣戟陣――その名の如く踊るように鮮やかな音を響かせながら、呼び出された全ての刃が余すことなくビルシャナの元に降り注ぐ。
「ヒャッハー! お前もつぶあんにしてやるっす!!」
 テンション高く声を上げ、勢い良くガトリングガンを連射する奈菜菜奈。愛らしいハート形のナノナノばりあを展開するナノナノのハチハチが、戦場を飛び回りながら奮戦する。
 奈菜菜奈によって蜂の巣にされたビルシャナだが、未だ倒れる気配はない。
「させません!」
 ビルシャナの手から放たれた孔雀の炎を、庇うように割り入った姫桜が花蔦絡む白の大鎌で振り払った。
「ありがと、シノン! 回復はボクにまかせて!」
 ラッカが練り上げた癒しのオーラが、姫桜を取り巻く炎ごと消し去る。皆が攻撃に集中出来たのも、彼の手厚い回復の手があってこそ。
「《蠍》には毒がつきものさ!」
 精神を研ぎ澄まし、アルトゥーロは必中の一撃を放った。
「とっておきの一発だ、しっかり受け取れ!」
 ロケットランチャーを構えたエルフリードが怒りを込めたロケット弾を撃ち出し、姫桜の翼から放たれた聖なる光が、ビルシャナの『罪』を炙り出す。
「はぁっ!」
 真奈美は左手に持った刀を水平に構え、一足飛びで最短距離からビルシャナの胸元を狙った。正々堂々たる真正面からの平突き。そこに、死角から迫った利勝が緩やかな弧を描く斬撃を見舞い、ビルシャナの腕を斬り裂く。
「――『諦め』たまえ。せめてその黄泉路を華々しく彩ってあげよう」
 ナコトフははだけさせたシャツの胸ポケットから取り出した彼岸花を、ビルシャナの足元へ投げつける。
「こしあんより甘美なもの……つまりこのボクと相対した。それがキミの敗因だ!」
 舞い上がる花弁の刃――切り刻まれたビルシャナの全身から噴き上がる真紅が、さながら地獄の業火のように踊った。
 ビルシャナが最後の抵抗と言わんばかりに不快な鐘の音を響かせるが、ケルベロスたちは怯むことなく攻撃を重ねた。
「変なものに目覚めたのが己が不運と、ここで散れや。じゃあな」
 アルトゥーロがそう吐き捨てると同時に、目にも止まらぬ速さで撃ち出された弾丸がビルシャナを貫く。
 倒れたビルシャナの全身から羽根が散り、――やがて、その姿は溶けるように消えていった。

「よい子のみんなは好き嫌いしちゃダメっす! 好き嫌いする子はビルシャナになっちゃうっすよ!」
 そこはかとなくカメラ目線を決めながら、誰にともなく告げる奈菜菜奈。
(「これくらいで我を忘れそうになるとは……まだまだだな」)
 ビルシャナを倒したことでようやく怒りが収まったらしいエルフリードは、深く息を吐き出し眉間に寄った皺を解す。
「ビルシャナってぇのは、悟ってるっつうより変な電波撒き散らしてるようなもんだな。元を絶たないとどうにもならん」
 命のやり取りだとわかってはいても、どうにも気が乗らないのは――この変な電波のせいもあるんだろうとアルトゥーロは思うことにする。
(「……帰りにケーキでも買うか」)
 そんなことを思うアルトゥーロの傍らで、利勝もまた、信者たちに語ったおかげか食べたくなった栃餅と、ついでに茶葉を買いに行こうと心の中で密かに思っていた。
「あんこの話をしていたら、おしるこが食べたくなってきちゃいました。美味しいおしるこのお店を知っているので、良ければ皆さんで食べに行きませんか?」
「ええ、疲れた時には甘い物が一番です」
 姫桜の申し出に、真奈美を始め、ケルベロスたちは皆一様に頷いた。
「いっぱい動いてお腹すいちゃったし、ちょうどおやつにはいい時間だよね」
 行こう行こうと皆の周りを動き回るラッカに促され、ケルベロスたちはその場を後にする。
 最後に、ナコトフはシャツのポケットから取り出した紫苑の花を、ビルシャナがいた場所へと捧げた。
「――さようなら、ビルシャナ。ボクはきっと、『君を忘れない』だろう」

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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