恋の病魔事件~恋の病は闇への誘い

作者:白鳥美鳥

●恋の病は闇への誘い
「由香、今日、告白するんだよね?」
「……う、うん……」
 放課後の教室。敬子はまだ自分の席に座っている由香に話しかける。これから、一大告白をしにいく親友を励まそうと思ったのだ。
 ……しかし、由香の様子がおかしい。緊張しているというより……青ざめているような。
「そ、そういえば、緊張しているからお昼が食べられないって言ってたけど……本当は具合が悪いんじゃないの?」
 お昼休みに、『胸がドキドキして何も喉に通らない』と言っていた事を敬子は思い出す。
 ……あの時は、緊張しすぎているのだと思っていたけれど……。
「由香、家に帰ろう? それともまずは保健室に行ってみる? 告白なんて何時でも出来るんだから……」
 そう言って敬子は由香の手を取ろうとする。
「……け、敬子……ちゃん……あ……あり……」
 青白い顔をした彼女は、そこまで言うと、ふらりとしてそのまま崩れるように机に突っ伏してしまった。
「ちょ、ちょっと、由香、由香……! 誰か、先生を呼んできて!」
 突然の敬子の大きな声に、教室中がざわめき始める。
「保健の先生……ううん、救急車、救急車――!」

●ヘリオライダーより
「今日、日本の色々な病院から原因不明の病気について連絡が来たんだよ」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話し始める。
「この病気……誰かに純粋な恋をしている人がかかるみたいで、その症状が『胸がドキドキして、食べ物も飲み物も喉を通らない』。勿論、比喩じゃなくて本当に水さえ飲めなくて無理矢理飲もうとすると激しく咳き込んで吐き出してしまうって事なんだ。患者さん達は点滴を受けていて命の危機は脱しているのが幸いなんだけど、治療方法が全然分からない状態なんだよ」
 それで……とデュアルは続ける。
「この病気の症状を聞いたアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)達が調査してくれたんだ。原因は『恋の病』という病魔。みんなには、この病魔を倒して『恋の病』に侵されてしまった人達を助けて欲しいんだ」
 続けてデュアルは対処に関する説明を始めた。
「患者さんは、病魔と戦闘可能な病室に運んでもらっている。ウィッチドクターがいれば、患者から病気を引き離して戦闘を行う事が出来るんだ。みんなの中にウィッチドクターがいなくてもミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)が同行したいそうだから、それについては問題ないかな。病魔の方はピンクの髪に天使の翼、弓を持っている女の子の病魔。見た目通り、弓を使った攻撃をしてくるよ」
 最後にデュアルは一番大切な事を伝える。
「この病気にかかった人って恋をしている人、なんだよ。それで……恋に臆病になってしまう可能性だって高いよね? でも、この病院のせいで恋を怖がったり、誰かを好きになる事を躊躇ってしまうかもしれない。でも、誰かを好きになれるって事は、とても大切な事だから……みんながその事を忘れないように伝えてあげてくれると嬉しいな。じゃあ、頑張ってきてね! 応援してるよ!」


参加者
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)
楚・思江(楽都在爾生中・e01131)
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
赤羽・イーシュ(ノーロックノーライフ・e04755)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)

■リプレイ

●恋の病魔事件~恋の病は闇への誘い
 『恋の病』に罹ってしまった由美が処置を受けている病室へと向かうケルベロス達。病室には青い顔をした由美が点滴を受け、横たわっていた。
(「恋の病魔ねえ。またユニークな奴が出たもんだ。……ま、殴り倒せンならなんだって構わねーけど!」)
 不思議な病魔に戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)は、そんな事を思わずにはいられない。
「まったく、ただでさえ神経質になってる時に、こんな奴に取り憑かれるとは災難にも程があらぁな」
 楚・思江(楽都在爾生中・e01131)は、由美の傍に近寄りそう言う。今回、彼女に憑りついている病魔を召還する役目がウィッチドクターである思江の役目なのだ。
 施術黒衣を羽織った彼は彼女から病魔を呼び出す。
 由美から現れたのは……ピンクの髪に可愛らしい女の子の容姿。背中に天使の翼、そしてピンクの弓とハートの付いた矢を持っていて……それはキューピッドを思わせる病魔だった。
「よし、ミーミア! この子を頼む!」
「うん、分かったの!」
 病魔が離れた由美のベッドを点滴などと一緒に押しながら、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、彼女が戦いに巻き込まれない様な場所へと向けてベッドを移動をしていく。そして、病魔と由美達の間にケルベロス達が入り、臨戦態勢に入った。
「大体『恋の病』とかいう名前が悪いんスよ。これ単なるガチの病気じゃニャーですか! ンな紛らわしいヤツはブチのめしてやりまさァ! ブチネコだけに!」
 そう言うと、先制攻撃と言わんばかりに黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)は病魔の急所に向かって蹴りを叩き込む。
「蒼き鋼の業、味わいなさい」
 続き、蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)も、凛とした声と共に斬霊刀に空の霊気を乗せて斬り上げた。
 奇襲を受けた病魔だが、直ぐに持ち直す。すっと手を上げるとその上に沢山のハートが現れ、それを矢に変えると凛子達に向かって正確に撃ち抜いていった。その矢の攻撃を受けると痺れを感じる。
 その時、間髪を入れず、三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)が攻撃をしていた病魔に向かって炎の渦を蹴り込む。そして、思江とアレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)は、雷の壁と紙兵を飛ばして赤羽・イーシュ(ノーロックノーライフ・e04755)達の護りを固め、アレックスのウイングキャット、ディケーは神居・雪(はぐれ狼・e22011)達へと清らかなる風を送った。
「ビックリすんなよ……っ!!」
 雪はナイフと雷を同時に放ち、二つがぶつかる衝撃音と光、電撃が病魔に突き刺さる。注意を雪に引きつけ、病人である由美に危害が行かない様にする配慮だ。気休めにしかならないかもしれないけれど、無いよりもまし。彼女の優しさが感じられる攻撃だ。
「雪、無理したらいけないよ」
「じゃあ、アンタが代わってくれるか?」
「勿論。女の子に怪我はさせないよ」
 雪の行動を心配したアレックスの言葉に雪は突っぱねる。それにアレックスは微笑みながらそう答えた。それに、嬉しくもあるけれど呆れる感情も生まれ、雪は苦笑する。
「さァ、熱いバトルを始めよう! オープン・ザ・ゲート! フューチャライズ! バトルに命を賭ける僕としちゃァ、惚れた腫れたの恋煩いより切った張ったのバトルの方が燃え上がるのさ。ときめかせてくれるんだろうね、恋の病!」
 バトルに情熱を燃やす将は、病魔に向かって急所を狙い、強烈な蹴りを放つ。
「へへっ、ロックな俺達がそんなロックじゃねぇ病気なんかに負けてたまるかってんだ!ロックに治療してやるよ!」
 ロックに命を懸けるイーシュは、ロックのリズムに合わせる様に如意棒を扱う。ヌンチャク型に変形させると病魔に向かって一撃を放つ。イーシュの相棒で、同じくロックが好きなボクスドラゴンのロックは病魔に向かってブレスを吐いて攻撃をした。
 由美を避難させ終えたミーミアも戦線に合流する。まずはオウガ粒子を放って物九郎達の集中力を高め、相棒のウイングキャットのシフォンは清らかなる風を将達に送って、加護の力を高めていった。
 病魔も再びハートの形の矢をあてがう。弓を引き、狙う先は雪。心臓を狙って矢を放つが、それをアレックスが庇った。
「ね? ちゃんと守ったよ?」
「あ、ありがとう……」
 笑顔で言うアレックスに、ぶっきらぼうながらも雪はお礼を伝える。それに満足気にアレックスは微笑んだ。
「しっかり回復するぜ!」
 思江はオーラによる回復をアレックスに放つ。
「一気に攻めましょう」
「ええ、ブチのめしてやりまさァ!」
 凛子と物九郎は声をかけあって、病魔に一気に襲い掛かる。まずは凛子の汚染を含む斬撃を見舞い、物九郎は特殊な呪紋に依る「竜頭」で、ドラゴニックハンマーを体の一部の様にして殴りつけた。
「この剣は痛いよー!」
「これでも喰らいな!」
 いさなはマインドリングから生み出した光の剣で病魔を一閃する。更に雪の弱点を突いた一撃が襲い掛かった。
「願いと祈りを心に宿し! 未来の扉を今開け! ……ライズアップ!」
 新世代TCG『Futuraiz!(フューチャライズ!)』の興行団体のスター選手である将によるカードによる攻撃。引いたカードは騎士。続けざまに病魔へと斬りつけていった。
 イーシュはオウガメタルで全身を纏う。そして、渾身の一撃を病魔へ叩きつけた。
 ミーミアは雷の力で凛子の力を高め、ディケーとシフォンは交互に清らかなる風を送っていく。ロックはアレックスに属性インストールを行い、回復に努めた。
 病魔は可愛い笑顔を浮かべたままである。恐らく相当のダメージを負っているのだろうが、その表情はキューピッドの様な可愛らしさのままで変化が起きないのかもしれない。この病魔はそういう性質を持っているのだろうか。あくまで、この個体に関してだけれど。
 ふっと出現させるのは美しく輝く矢。それは、どこか神々しさすら感じる。病魔はその輝く矢を引くと、今度はもう一人の攻撃の要である物九郎を狙ってきた。それを、間一髪でイーシュとロックが防ぐ。
「ロックな治療を期待してるぜ?」
「勿論、ブチのめしてやりまさァ!」
 あまりイーシュのロックという言葉はピンとこなかったけれど、意味合いは取れたので物九郎は明朗に答える。
「十万億土の彼方まで! 根こそぎブチのめしてやりまさァ!!」
 猫に纏わる伝承による先読みと高速加速。それを合せた物九郎の格闘技が病魔に叩き込まれた。
「そぉれとつげきー! 当たってくだけろー!」
 元気な声をあげていさなが自らのグラビティと乙女心を燃え上がらせたオーラによる体当たりが加えられる。
「――――卑怯と言って呉れるなよ?」
 アレックスの天秤剣に宿る星の重力が動きを封させ、無謬の一撃と共に病魔を裂く神速の一撃を与えた。
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおあああっっ!!!」
 思江の大音声の雄叫びは、病魔の神経を振るわせて侵していく。そして、最後に動くのは凛子だ。
「これで終わらせます。氷の華と共に眠りなさい!」
 蒼き龍たる凛子の蒼龍の氷の剣技。その斬撃は切り口を凍らせていった。
 病魔の全身が凍っていく。そして、砕ける様に綺麗にはらはらと消えていった。

●由美へのメッセージ
「由美ちゃん、由美ちゃん、気が付いたの?」
 病魔を倒してから、ケルベロス達は由美の様子を見守っていた。目が覚めそうな由美に声をかけるのはミーミア。それに由美が、ぼんやりと目を覚まし、辺りを見回した。
「あ、あれ、ここは? それに……私、苦しくない……」
 今いる場所、ケルベロス達の事、そして何より自らの状態の変化を感じたようだった。
「……そう、そうだ。私……告白しようとして……苦しくなって……辛くて……何も分からなくなって……」
 少しずつ、発病した時の事を思い出してきたらしい。その身体は震えていた。
「安心して下さいや。『胸がドキドキしてヤバい』とか恋煩いで罹るヤツに似ちゃいますけども、今までのは比喩でナシにそーゆーガチな病気だったんスよ」
 物九郎が由美に病状がどんなものだったのか説明する。
「……え? 本物の病気、だったの……?」
 確かに恋煩いとよく似ている病気だ。しかし、恋煩いで死にかける事はまず無い。
 凛子も優しく由美に語りかける。恋をする自らの過去と重なるものを感じるから、彼女の気持ちが分かる気がするのだ。
「大切な人を想うと、胸が苦しくて食事ものどを通らなくて……わたくしにも経験ありますわ。でも今回のは、ただそれと症状が似てしまっていただけの病の結果ですから、大切な想いはそのままどうかお持ちになってくださいね。その想いが届くこと、わたくしも祈らせてもらいます。頑張ってくださいね」
 凛子の優しい言葉と笑顔で、由美も少し落ち着いた表情になってきた。
「これで恋にめげないでほしいな。君が本気で恋してたから、この無粋な病魔が現れたんだ。今度はちゃんと告白してごらん、きっと上手くいくよ」
 アレックスは優しくそうやって由美に励ましの言葉をかける。
「今回は災難だったが、好きになるって事はそう悪ぃ事でもねぇんじゃないか? ……こいつみたいなナンパ野郎には注意だけどな」
 雪はそう言ってからアレックスを指さす。アレックスはフェミニストだからだ。
「あれ? もしかしてヤキモチやいてる?」
「終わったからって早速ナンパしてんじゃねぇよ、馬鹿」
 軽い口調で言ったアレックスに、雪は睨むとどつく。その様子を見て、由美が少し笑った。
「ふふ、仲が良いんですね」
「……まあ、一応、友達だからな」
 ぶっきらぼうに言う雪に、アレックスは苦笑する。
(「告白か……なんか、そういうので真っ白になっちまうようなウブな感覚ってのは懐かしい感じだな」)
 思江はそんな事を思う。今は気になる相手とあえて友人として過ごす楽しみを味わっているから。
「心が痛むのは恋だけじゃねえってことだ。心ってぇのは、複雑なもんだからな」
 思江はそう冗談めかして笑うと、その先を続ける。
「恋心かどうかに関わらず、人間ってのは自分の意志と関係なく色んな感情を持つもんさ。……ちゃんと、受け止められるようにできてるんだ。大丈夫さ」
「君はこんなとんでもない病気とちゃんと戦ってたんだぜ。安心しな。君は強い。だからきっとうまくいくはずさ。それに……相談できる友達とか。僕らのよーに助けてくれる誰かとかもいるんだ」
 そう声をかける将は、愛とか恋とかは分からない。でも、間違いなく言える言葉はあるのだ。
「恋はハートでビートでロックなモンだからな。無くても……まあ生きていけないことはないけどな、いつもドキドキワクワクしてたほうが、最高にロックに人生、楽しめると思うぜ。なんたって地球の味方のケルベロスが応援してるんだ、怖がるコタなにもないさ!」
 熱い口調で伝えるイーシュ。それにロックが同調するように「がおー」と鳴いている。
 いさなも元気一杯に由美に語りかける。
「恋は一人で悩むんじゃなくて二人で悩むものだよっ。女の子は前を向いていた方が100倍可愛いんだからっ!」
 そう言って、にっこりと笑ういさな。それにつられるように由美も笑った。
「そう、だね……。うん、皆さんの言うとおりだね。……それに、敬子ちゃんもいてくれる。まだまだ、頑張れる!」
 ケルベロス達の励ましと、もう一つの心の支えでもある親友の敬子。恋は……まだまだ頑張れる。優しい気持ちも生まれてくる。だから、大丈夫。
 由美の表情には、そんな希望と安心が浮かんでいて……それがケルベロス達には嬉しい。
 そんな由美を見ていると、思江も、今のままの友人関係を楽しむだけではなく、もう少し進んでみても良いのではないか。そんな事を思った。
 少し、しんみりと。でも、優しい空気が流れる。少し、前にまた進めると。
 そんな中、賑やかな声が上がった。
「おいロック、何俺の手を甘噛してるんだ。あっ歯ぁ立てんなっ!」
 見ると、イーシュがロックにちょっかいを出されて、じゃれ合っている。そんなやり取りを見ていると、どこかにあったしんみりとした気持ちが吹き飛んでいく。
 思わず皆で笑ってしまって……その時、明るい未来が見えた、そんな瞬間だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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