恋の病魔事件~幼馴染恋愛症候群

作者:柚烏

「あら、どうしたの? 全然ご飯食べてないじゃない」
「うーん……ちょっと食欲なくて。大丈夫だよ、熱とかないし。あたしって、寝込むようなタイプじゃないでしょ」
 そんな他愛もないやり取りをして、京香が寝室に引っ込んでから数日が経つ。最初は疲労か風邪かと思っていた両親も、食欲が無いと言う娘が言葉通り――食べ物も水も喉を通らないのだと気づいた時、京香の身体は限界まで追い詰められていた。
「水だけでも、と思っても……咳き込んで吐き出しちゃうし……京香、調子はどう?」
 朝になっても起きてこない娘を心配した母親は、ゆっくりと寝室のドアをノックするが――いつも聞こえてくる筈の元気な声が、今日は聞こえてこない。
「京香、まだ寝てるの――って……!?」
 ドアの隙間から、そっと娘の様子を伺ったその時。母親はベッドの中でぐったりと意識を失った、京香の姿を目の当たりにした。
「京香! 京香! しっかりして!」
 必死に娘の身体を揺さぶるも、反応は無く――カーテン越しに差し込む朝日に照らされた京香の顔は、憔悴しきって青ざめている。
 直ぐに救急車を呼んだ母親は、これが不可思議な病であることなど知るはずもない。治す薬が無いと言われるその病は――恋の病。

「……本日、日本各地の病院から原因不明の病気についての連絡が入ったよ」
 バレンタインのイベントで賑わう最中、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は難しい顔をして、各地で起こっている異変についての報告を始める。
「何でもこの病気は、誰かに純粋な恋をしている人がかかるみたいで、その症状は『胸がドキドキして、食べ物も飲み物も喉を通らない』……と言うものなんだ」
 これは、決して比喩表現などでは無い――本当に水も飲めない状態になり、無理矢理飲もうとすると激しく咳き込んで吐き出してしまうようなのだ。
「水分を摂取出来ないと、ひとは2~3日で死に至る。幸い病院に運ばれた患者さんは、点滴を受ける事で命の危機は脱したけれど、治療方法などは全く判明していなくて……」
 しかしこの病気の症状を聞いた、アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)達ケルベロスが調査した所、原因は『恋の病』という病魔である事が分かったと言う。
 ならば、自分たちがやるべきことは――この病魔を倒し、恋の病に冒されてしまった人たちを助けることだ。
「既に患者さんは、病魔と戦闘可能な病室に運ばれているよ。皆の中にウィッチドクターがいれば、患者から病魔を引き離して戦闘を行う事が可能になるね」
 尚、事件解決に向かうケルベロスの中にウィッチドクターが居ない場合、事前に病院に連絡しておけば医療機関のウィッチドクターが手伝いに来てくれる。但し一般人である彼が戦闘に巻き込まれないよう、注意する必要があるだろう。
「病魔『恋の病』は可愛らしい天使の姿をしていて、手にした弓で此方の心を惑わしてくるみたい。盲目的な恋の虜にしたり、恋のトラウマを甦らせたり……ひとによっては、戦い辛い相手かもしれないね」
 幸い戦闘能力はそれほど高くはないので、心を強く持って立ち向かって欲しい。ちなみに病魔に取りつかれた少女は京香と言い、近所の幼馴染に仄かな恋心を抱いていたようだ。
「この病気は病気の苦しみがトラウマになって、恋をするのを怖がるようになる可能性が高いみたいなんだ……。だから可能なら京香さんが、この病気の影響で恋に臆病になることが無いように、フォローしてくれたらと思うよ」
 元々勝気でさっぱりした性格の京香は、幼馴染の少年とも友人のような関係だったのだが、今年のバレンタインをきっかけに告白しようとしていたらしい。もし、恋することに臆病になってしまったら、彼女は自分の気持ちを押し殺して、幼馴染の殻を破れないまま過ごすことになるだろう。
「自分を助けてくれたケルベロスの皆からフォローがあれば、京香さんの気持ちも前向きになると思う。だから……僕からもどうかお願いしたい」
 ぺこりと頭を下げるエリオットは言う――恋の病を蔓延させる病魔を倒し、皆が恋のキューピッドになってくれたら、この騒動も少女の恋を育む糧になるだろう、と。


参加者
ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
ソフィア・ワーナー(春色の看護師見習い・e06219)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
十朱・千鳥(ローズロワ・e19159)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ

●恋する心を護る者
 バレンタインの華やいだ雰囲気に引き寄せられるようにして、日本中に出現した病魔――恋の病。それはロマンチックな名前に反し、一切の食事を受け付けなくなると言う恐ろしい病だ。
「ふつう恋の病……と言えば、微笑ましいものなんですけれどね」
 上品な笑みを湛え、さらりとピンクブロンドの髪をかき上げるのはベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)で。その儚げな美貌に反して彼は、命に係わる病を止めようと、素早く戦闘の準備を進めていく。
「それなのに、恋する乙女の敵とか許されない!」
 憤然と声をあげる十朱・千鳥(ローズロワ・e19159)は、被害者が自分と同じ位の高校生だと知り、他人事だと思えない様子で唇を噛んだ。
「……本当の恋の病って苦しいけど、楽しくて、幸せなもんだろ」
 ――ぽつり零れた千鳥の呟きは、真っ白な病室に切なく吸い込まれていく。そんな彼に、ソフィア・ワーナー(春色の看護師見習い・e06219)は思わずこくりと頷いていて――看護師見習いである彼女は、自分の名が表す知恵と守りの戦士たろうと誓いを新たにした。
「けれど、恋は盲目なんて諺もあるくらいだ。舐めてかかったら火傷をする」
 普段の柔和な、気弱そうにも見える表情を隠し、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は眼鏡をそっと指で押し上げる。
(「……そう、恋はひとを変える。焦がし、狂わせる」)
 ――思い出すのは過去、奴隷として虐げられてきた頃の記憶。かつてレスターはひとりの少女と出会い、私だけを愛してと乞われた。けれど彼はそれを拒み、そうして――。
(「苦しんでる人がいるのなら、全力で助けるから……」)
 一方で、笑顔の裏に切実な誓いを秘めたティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は、想いを口にしない代わりにぎゅっと拳を握りしめる。
 点滴を受ける被害者の少女――京香は、憔悴した様子で眠りに就いていた。そんな彼女の頭を優しく撫でて、御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)もまた、喪失の痛みを抱えながら力強く言い聞かせる。
「乙女の抱いた恋心、咲かせてあげたいのです。病なんかに負けないように、私達がお手伝いを……!」
 毅然としたまなざしで顔を上げる姫桜に頷いて、施術黒衣を纏った百鬼・澪(癒しの御手・e03871)は皆の準備が整ったことを確認し、早速病魔の召喚を開始した。
「もう少しだけ、待っていてくださいね。すぐに、助けます」
 ――病を屠る者が纏う夜闇の黒衣は、死を悼むためでなく生を祝うためにある。己の役目を果たすべく、澪は祈るように集中をして――やがて京香の心臓辺りから、何かを引き抜くような仕草を行った。
(「さあ、現れなさい……ひとを蝕む、病魔」)
 普段浮かべているたおやかな笑みは失われ、澪は感情無き瞳で具現化した病魔を見据える。愛らしさすら漂わせる、天使のような病魔――恋の病を前にしても、彼女は微塵も動じること無く、その裡にはただ憎悪だけが渦巻いていた。
 大変だったね、と上里・もも(遍く照らせ・e08616)は眠る京香に声をかけつつ、彼女が戦いに巻き込まれないよう寝台を動かす。敵は恐らく、宿主である京香ではなく此方を狙ってくるだろうが――安全を確保するに越したことはない。
「でももう大丈夫だ……私が来たぜ!!」
 狼の耳をぴんと立てて、ももは勇ましくも華やかに胸を張る。思い悩む人、挫けた人――そんな人たちの力になりたいと彼女は願うから。
「その為なら歌も踊りも……何なら戦いだってこなせるぜ」

●恋の病は狂おしく
 ――恋の病が操るのは、恋心を揺り動かす危険な弓矢だ。それに心囚われることを防ぐ為、先ずは千鳥が星辰の剣を操り、皆に守護星座の加護を与えていった。
「戦い抜くための、勇気を、力を、折れぬ刃を――」
 更に、澪が辺りに真白の花を舞わせ――その触れれば雪のように消える白苑を受け止めた姫桜は、己のボクスドラゴンと同じ名を持つ奇蹟に貌を綻ばせる。
「……さあ、シオン。私達も参りましょう」
 七色の花が蔦のように絡まる鎖を操り、姫桜が地面に描くのは守護の魔法陣。共に盾となるシオンは先ず耐性を得ようと、属性を注入してふんわり翼を広げる。
「さて、それでは私達は攻撃に専念するとしましょう」
「ベル兄、私も続くね――」
 優雅な物腰でベルカントが構えたのは、危険な凶器であるバールであり――その先端の鉤が容赦なく病魔を突き破った所へ、ティスキィの轟竜砲が火を噴いた。
「……!」
 息の合ったふたりの連携に、病魔はよろめき体勢を崩すも、直ぐに反撃に転じて恋の矢を射る。後衛を狙ったその一撃を庇った澪は、矢の威力そのものよりも付随する状態異常の方が厄介のようだと、惑う心の中で相棒のボクスドラゴンに声をかけた。
「私は大丈夫、花嵐は攻撃に徹して……!」
 ニーレンベルギアの花を揺らして、花嵐が吐き出すのは花属性のブレス。その間にソフィアが女神に祈りを捧げ、癒しの力をこめた春の風を辺りに呼び寄せる。
「どうか私に、癒す力をお与えください」
「さあ、歌うよ。私たちはいつだって、世界を変えられるんだ」
 無機で冷たかった心が、熱い電流に解され溶かされていく――ももが紡ぐ恋する電流は、困難に挑む者達を応援する恋の歌だ。軽やかなステップと共に、とびっきりのウインクを決める彼女は、自分が可愛いことを自覚している自信に満ち溢れている。
「……ほら、スサノオも。敵に張り付いて気を引くのがお仕事なんだから」
 と、相変わらずなももの様子に、ちょっぴり呆れた素振りを見せていたオルトロスのスサノオであったが、悪を許さぬ正義の心は忘れていない。口に咥えた神器の剣が病魔を斬り裂き、その後方からはレスターの正確無比な射撃が追い打ちをかけた。
(「京香は絶対に助けだす!」)
 地獄化した涙を弾丸に変え、致死の呪いをこめて放たれた一撃は、標的を食い破り群舞する蝶の幻を見せる。追い詰められた病魔が苦し紛れに矢を放つが――それは図らずしも、己を追い込んだレスターの心を貫いていた。
「……あ、っ!?」
 ――瞬間、彼の目の前にはトラウマが、彼に愛を乞うた少女が立ち塞がる。放っておけないと言うヴァルキュリアの使命感で、彼女に救いの手を差し伸べたものの――あくまで対等の好意を望んだ少女へ、自分が寄せたのは憐憫だったのだ。
(「今なら分かる。思いを寄せる相手に、可哀想な女の子と同情される屈辱。……その事が彼女を狂わせた」)
 俺が悪いんだ、とトラウマに苛まれるレスターは己を掻き抱いて膝をつくが――彼を叱咤するように、ソフィアが懸命に呪医としての力を振るう。
「緊急手術を行います!」
 トラウマから受けた傷、そしてトラウマそのものを彼女は消し去り、危機は脱したと見た一行は病魔への攻撃に集中していった。鋼の鬼と化した拳で、ももが恋の病の護りを削り――其処へ千鳥が、時空の調停者たる力の欠片、時空凍結の弾丸を撃ち出す。
「あと、少しだから……」
 祈りと共にティスキィは氷の花を生み出して、うつくしくも儚きそれは吐息の合間に爆散した。きらきらと舞い散る氷片が虹色の光を宿す中、ベルカントの手から零れた深紅の薔薇が、刃の鋭さを以って病魔に襲い掛かる。
「可愛らしい外見でも、容赦はしませんよ」
 華麗な薔薇舞が嵐のように獲物を切り刻んだ後、其処に居た筈の病魔は、跡形も無く消滅していた。そう――恋の病の呪縛は、無事に解かれたのだ。

●甘く切ない恋の話
 それから少しして、寝台に横たわる京香は無事に目を覚ました。今度は彼女が病の苦しみから恋に臆病になることの無いよう、フォローをする番だ。
「初めまして、私は御伽・姫桜と言います。私達は京香ちゃんの恋の応援が出来れば、と思っています」
 先ず一行を代表し、柔らかな笑みを浮かべた姫桜が丁寧に自己紹介をして。そして彼女は、己の経験した出来事を語りだす――以前自分には大切な人が居たが、過去に起きたことによって今はもう会えないのだと。
「その悲しみは今でも胸を締め付けることはありますが、それ以上に過ごした日々の思い出が胸を暖かくしてくれます」
 ――大切な人だからこそ、想いを伝えるのが臆病になる。その気持ちは良く分かるけれど、折角抱いた恋心を蕾のままにしておくのは勿体無いと姫桜は言った。
「……少しずつ、前に進んでみませんか? 悩んだときは友達に相談してもいいですし、私も力になりますわ」
 ゆっくりと恋の花を咲かせましょう、と花綻ぶように微笑む姫桜。どうやら京香は頼もしい年上女性に憧れを抱いたようで、自分も誰かに頼って良いんだと安堵した表情を見せた。
「うん、あたし……姫桜さんみたいな、包容力のあるオトナの女性になりたいなぁ」
「ふふ、あなたもいずれ、素敵な女性になりますわ。……そうそう、皆さんの恋のお話も聞きたいですわ」
 皆の大切な方のことを教えて欲しいと、姫桜が仲間たちを見回せば、相槌を打っていた澪が思わず呟きを零す。
「言わないと、伝わらないことも沢山あります。……言えずに二度と会えなくなってしまうことも」
 それは大切な人ともう会えなくなったと言う、姫桜の話を受けての言葉だった。彼女もまた喪失の痛みを経験したのだろうと察した澪は、どうか京香は後悔しないで欲しいと願い、真剣に言葉を紡いでいく。
「普段の姿も、恋に悩む姿も、どちらも貴女。悩む気持ちも愛しい気持ちも、貴女が今想う気持ちをどちらも伝えたっていいんです」
 ――貴女が好きになるような素敵な人なら、きっとちゃんと聴いてくれる。分かってくれる。それは澪の心からの願いだった。
(「私の場合は……種族の血も手伝って、あまり臆病になることはなかったですね」)
 一方でベルカントは、己のことを語るにしても境遇が違い過ぎるからと、聞き役に回っているようだ。サキュバスと言う種族も手伝い、自分は恋愛話に事欠かず、さらりと口説き文句を口に出来る――まあ今でこそ、恋人は居るのだけれど。
「……ただ、伝えるとしたら。男性は結構、鈍い方も多いですからね。何か伝えることで関係が前進することも多いと思いますよ」
 大丈夫ですよ、と口癖のように呟いてからベルカントは言う。何も伝えないままモヤモヤした気持ちを抱えている方が、きっといつか後悔する日が来る、と。
「未来を変えるなら、今がチャンスなのではないでしょうか」
「あの、ね……私には、初恋の人がいたんだ」
 と、其処で勇気を出して告白したのはティスキィだった。好きな人と想いが通じ合えたらステキだけど、想いを伝えるのはとても勇気がいる。でも、そこで諦めちゃもったいないと、彼女はひとつひとつ、言葉を丁寧に選びながら京香に訴える。
「でも、好きって自覚した時にはもう、その人には好きな人がいて。お相手さんもその人が好きなのを知っていたから、私自身は想いを伝えられなかったの」
 ――それは、今も隣に居るベルカントで。そうして人知れず失恋したティスキィは沢山泣いて――想いを秘めたまま初恋は終わった。
「京香さんは同じような後悔をしてほしくないな。伝えることで何か変わるかもしれない。例えダメでも、次に繋げる勇気になるから……負けないで」
 後悔したから、今度はちゃんと伝えた――だから今は、自分を支えてくれる大好きな人がいると言って、ティスキィは微笑んだのだった。

●小さな一歩を踏み出そう
 恋の話が盛り上がる中、自分も高校生なのだと告げた千鳥は、話しやすい親しげな空気を作ってそっと京香に耳打ちをする。
「なあ、京香の好きなひと、どんなひととか聞いてもいいか?」
「え、えっと……その」
 思わずぼっと顔が赤くなる京香に微笑んで、じゃあ自分から――と千鳥は胸を張って誇らしげに告げた。
「俺の好きなひとはさ、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきたの。昔も、今も。本当にずっと」
 すごく可愛くて、優しくて、ほんと好きで。てらいのない様子で話す千鳥は、多分あいつも俺のことが好きだと思うと言って、あははと笑う。
「――なんてのろけー♪ でも色々あって、ずっと一緒にいれても、この想いを繋いでくのは本当に難しくてさ」
「うん、あたしも……ずっとあいつと一緒なんだと思ってたけど、就職とかで離ればなれになって……ああ、結婚とかもするんだろうって考えたら、苦しくなって」
 うん、と京香を気遣いながら千鳥は、難しいから苦しくて――けれどそれでも、一緒に居たいと思えるくらいのひとなんだときっぱり言った。
「だから、さ。誰にもとられない前に、ちゃんと気持ち、伝えようぜ」
 ――けれど、勇気を出して告白するのはとても難しいことなのだと、ソフィアは身を以って知っている。自分も恋をしているのだと告げた彼女は、相手が師団の仲間で強くて優しい人だけど、きっと友達にしか思われていないだろうと言って溜息を吐いた。
「それに年齢が離れていて……だから京香さんが少し羨ましいのですけど、そこで一個提案があるんです」
 指をひとつ立てて、ソフィアはぱちりと瞳を瞬きさせながら提案する――お互いに今年は、ひとりの女の子として見て貰えるように頑張りませんか、と。
「いきなり大きな目標へ挑戦しますと、どうしても怖くて自信が持てないから。でも小さな目標から挑戦したなら、そして達成できたなら。だんだん自信になると思うんです」
 この提案は臆病だと思うか、と問われた京香は、思わずぶんぶんと首を振っていた。そう――ひとっ跳びで告白まで行かなくても、少しずつ自分をアピールして気持ちを伝えていけば良い。
「恋に臆病になる気持ちはよくわかる。俺にも気になる人がいる……でも、まだ告白する勇気がなくてさ」
 と、恋に悩むのは京香たちだけではないようで。ソフィアと同じく年の離れた相手を想うレスターは、本当の自分を知ったら幻滅させてしまうんじゃないかと溜息を吐いた。
「なら、レスターさんも一緒に頑張りましょう? 三人で挑戦するなら、勇気も貰える筈ですよ」
 ――そう、君の恋も自分の恋も、まだ始まってもない。
 レスターと京香の手をぎゅっと握りしめて、ソフィアが誓いを新たにする中――ももは、恋の病を乗りこえた少女たちにそっとエールを送った。
「これだけ覚えておいて。もし告白して残念な結果になっても、そこで全部終了じゃないんだ」
 その後だってチャンスはある。逆に相手が、自分を好きになるようにすることだって出来るのだ。
「だからいっぱい考えて、自信の持てるやり方が見つかるといいね」
 ――立ち止まったっていい。ゆっくり休んで元気になったら、また歩こう。もし疲れ切って動けなくなったら、私が駆け寄っていっぱい笑わせてあげるから。
「だって――気持ちひとつで、世界は変わるよ」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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