おいでませ酉年様! 浅草鷲神社の酉の市

作者:質種剰

●作戦会議
 かの酉年様事件の解決に貢献したケルベロス達が、今、ある議題を掲げて顔を突き合わせている。
「やはりここは、神社で酉年祭をして、酉年様を誘き出そう」
 七種・徹也(玉鋼・e09487)が、仲間を見やって言った。
「そだな。緊急で酉の市やろうぜ」
 善は急げとばかりに頷くのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)。
「やろうやろう! ウェルカム酉年キャンペーン、みたいな♪」
 ステラ・アドルナート(明日を生きる為の槍・e24580)も元気に囃し立てた。
「いいでぃすねぇ♪ 酉年様おいでませ~な酉年祝い♪」
 赤い瞳をキラキラさせるのはリディア・リズリーン(希望双星・e11588)。
「開催地はどうしましょうか。関東辺りで何処か……」
 弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)は、理知的な瞳を伏せて思案する。
「それなら、浅草鷲神社がお薦めよ」
 すると、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が、屈託のない笑顔を見せた。
「酉の市……値切り大会でも開催してみるか」
 神崎・晟(海闊天空・e02896)が、落ち着いた物腰で静かに呟く。
「鶏肉フェスも宜しければ是非」
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は、濡れた瞳を揺らして控えめに進言。
 霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)も、たいやきを撫でつつ言った。
「よし、ケルベロス主催で酉の市を開くで決定かなぁ。名づけて酉年様一本釣り大作戦!」
 こうして、議題——かの酉年様を誘き寄せる為の作戦が決まり、続いて具体的な打ち合わせがなされた。

●開催、酉年様祭!
「皆さん、年始に発生した酉年様の事件を覚えておいででしょうか」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が明るい声で問いかける。
「あの事件を起こした酉年様なるビルシャナを、酉年様祭を開くことで誘き寄せ撃破しようとの作戦を、霧島殿達が発案なさったであります」
 酉年様事件が解決された事で、酉年様は失意に沈み事件を起こしていないようだが、その鬱屈した気分によってか、尚も力を増大させつつある。
「このまま年末まで放置すれば、酉年が終わる瞬間に大暴発を起こす危険もありますよ……」
 それを防ぐ意味でも、酉年を祝うお祭りを大々的に行って、酉年様を撃破するという作戦は有効かもしれない——かけらは言った。
「酉年様祭の会場は、浅草鷲神社の広い境内を使うことになりました」
 ケルベロスが開くお祭りだと告知するので、周辺住民を中心に沢山の人が集まってくれるだろう。
「屋台などもいっぱい出るようですが、皆さんが希望なさったら、屋台の設備を貸し出してくれるであります。本格的な移動キッチンなども準備が可能だそうですよ」
 その他、縁日やイベントで可能そうな事柄は概ね実行できる筈なので、お祭りにきた人々を盛り上げる為の企画を考えてみるのも楽しいだろう。
「勿論、酉年様のお祭りを純粋に楽しむ、お客様としての参加も可能であります♪」
 準備を手伝った後、お祭りは恋人と一緒に楽しむとか、屋台の店番を交代制にして両方楽しむなど、色々な楽しみ方がありそうだ。
「そうそう、バレンタイン直後という事もあって、チョコレート供養もやるとか。もしもお手元に余ったチョコがおありでしたら、供養して頂くのも宜しいかと思うでありますよ」
 チョコレート供養の証に緊急酉の市限定縁結び守を貰えるそうな。
「さて、酉年様祭が最高潮に盛り上がれば、酉年様が姿を現すであります! 酉年様と戦うだけでなく、お祭りに来ている人々の警護も、しっかり行ってくださいませね」
 酉年様と戦う皆さんは、いつ酉年様が来ても大丈夫なように待機し、出現と同時に速やかに撃破できるようお願い致します、と頭を下げるかけら。
「酉年様は、『酉年礼賛』、『鳥類弥栄祈願』、『音速チキンレッグ』なるグラビティを使って攻撃してくるでありますよ。ポジションはスナイパーであります」
 とにかく酉年を褒めちぎる酉年礼賛は、敵単体を催眠に陥れる、射程が短く理力に溢れた魔法攻撃。
 祝詞を唱えながら硬化した翼で斬りかかる鳥類弥栄祈願は、敵複数人へ多くのダメージを与える、射程が長く敏捷性に優れた斬撃である。
 音速チキンレッグは、頑健さに長けた単体向けの破壊攻撃で、長射程かつ相手の傷口を抉り拡げる鋭い蹴りである。
「酉年様祭、とても楽しそうでありますね! 良いお祭りになる事をかけらも祈ってるでありますよ♪」
 かけらはそう説明を締め括り、ケルベロス達を激励した。


参加者
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
エンミィ・ハルケー(白黒・e09554)
忍乃・飛影丸(ダークブレイズ・e09881)
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
伊・捌号(行九・e18390)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)

■リプレイ

●讃えよ
 いよいよ、ケルベロス主催の酉の市が始まった。
「これが、酉の市……」
 マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)は、色とりどりに軒を連ねる出店が珍しいのか、興味深そうに眺めている。
 つい最近人の心が芽生えたばかりというレプリカントの男性。
 豊かな銀髪に涼やかな紫水晶の眼と、整った外見は青年のそれだが、心は無邪気な少年そのもの。
 故に自らを幼いと判断し、常々周囲から人の暮らしや心の機微を学ぼうと努力しているマティアス。
 その結果、味覚はプリン好きの甘党に目覚めたのだとか。
 また、恋を少しずつ経験している為か、前より表情豊かになってきたそうな。
「酉の市というもの、初めて体験する……賑やかで良いものだな」
 マティアスは、祭りの空気を肌で感じる内に我知らず楽しそうな声になって、
「旅団の仲間に、土産を買っていってみようか?」
 肩を並べて歩く奈津美へ、優しく声をかけた。
「本当賑わってるわね。ええ、折角だし買っていこうか。きっと皆喜ぶわよ」
 2人は『日進月歩』の団員が喜びそうな物を探しに探して、
「ベビーカステラ美味しそうね。お土産これにしようかな?」
 遂に、奈津美がイメージにぴったりなお菓子を見つけたのだった。
「すごい活気です! 本当は私も一緒に楽しみたかったんですけど……でも、今は」
 シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)は、仲間達とこまめに連絡を取りつつ、境内の警備にあたっていた。
 物心付いた時、既に探検家の父と二人で世界中を旅していたシャドウエルフ。
 光を鮮やかに照り返す白い髪と、思慮深い輝きを湛えた青い瞳を有し、情緒豊かかつ優しい内面が外見に表れたかのような容姿端麗な女性である。
 その心根は純粋で自然を愛し、森の中を散歩するのが大好きというシャルローネ。
 だが、周囲の状況に流されやすく、食べ物の誘惑にも弱いのか、
「次のお店は……あっ、あそこですね!」
 美味しそうな屋台の誘惑に負け、嬉々として食べ歩きに励むのだった。
 流石は以前にクレープ3つ買いした健啖家である。
 一方。
「えっと……お祭りにいらしたケルベロスの皆さんは、酉年様が出現したら速やかに、一般人の方々の避難誘導を……」
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は酉の市が始まってすぐ、シャルローネと手分けして他のケルベロス達へ無線機で連絡。
「ええ……ありがとうございます。どうぞ宜しくお願い致しますね……」
 彼女らしい礼儀正しい物腰で、酉年様への対応を説明していた。
 一見、物静かで大人しい性格に思えるも、銀の瞳はどことなく邪な欲望に濡れている風に見える、清楚さと妖艶さを併せ持った美人サキュバス。
 好奇心と知識欲が旺盛で、気になった事には何でも首を突っ込む性質、ケルベロスとしての活動もその欲求によるところが大きいのだという。
「ん、美味しいチキン南蛮……あっちの水炊きも良さそうですね」
 そんなクノーヴレットは、自ら進言した通りにチキンフェス——様々な鶏料理の食べ比べを敢行、美味しそうにローストチキンを頬張っていた。
 同じ頃。
「どんな理由にせよ、祭りっていいよなー、店いっぱいで見てるだけで楽しいし!」
 深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)は、広げた碧い翼に風を受けて、空からお祭りの賑わいを眺めていた。
 高く結ったポニーテールの青い髪と、爛々と輝く青い瞳が爽やかな、人派ドラゴニアンの螺旋忍者。
 海に囲まれた島の出で、その魂の中へ強大なデウスエクスを封印している蒼は、ずっと故郷を守る役目を引き受けていた。
 物事をいつでも真っ直ぐに捉える、シンプルな思考が持ち味のやんちゃなわんぱく小僧である。
「爆発とかされたら困るし、祭りの邪魔もさせねーけど」
 御社の周辺を目を凝らして見下ろし、真面目に警戒を続ける蒼だが、やはりお祭りに混ざりたい気持ちが大きいのだろう。
「酉年様きっちりぶっ飛ばし終わったら、俺も焼き鳥食いに行っていいかな?」
 ふと子どもらしい希望を洩らして、人懐こそうな眼をキラキラさせた。
 その真下では、
「おめでた迷惑な酉年様とも決戦ですわね……とはいえ、酉の市も楽しいものになりますと宜しいですわね……アリス姫様」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)が、隣を歩むアリスをエスコートして、様々な屋台を巡っている。
 騎士道精神に溢れる鎧装騎兵のサキュバスで、アリスに仕え忠誠を誓う彼女。
「とっても賑やかですねミルフィ……♪ あ、かわいい酉さんのぬいぐるみです♪」
 振り袖を着て艶やかな風情のアリスがそう目を輝かせれば、主の為に射的でぬいぐるみを早々と落としてプレゼントした。
 白い兎耳と尻尾デバイスがトレードマークの彼女は優秀なメイドであるも、料理だけが壊滅的に下手らしい。
「焼き鳥やタンドリーチキンも美味しいですわよアリス姫様、牛や豚とは比べ物になりませんわ♪」
 そんなミルフィだが、食べる側に回って主君と酉の市を満喫する様は楽しそうである。
「チョコさん……失敗しちゃってごめんなさい……」
 アリスも自作のチョコを供養して、胸のつかえが取れたようだ。
 他方。
「盛況ですネー! まずは景気付けに熊手を買っておきますカー」
 忍乃・飛影丸(ダークブレイズ・e09881)は、人々でごった返す道を満足そうに見やると、自分も社務所で熊手を買い求めた。
「酉年=サマを無事に退治できマスように、祈らなければならないデース」
 流れるような銀髪と表情豊かにくるくる動く紫の瞳、色黒の肌が異国情緒を漂わせるレプリカントの女性。
 数多の鋲がボンデージ風ファッションにも見える忍び装束へ身を包んでいて、布地の面積は小さく実に色っぽい。
 ちなみに口調がアメリカンなニンジャである理由は、飛影丸が心を得るきっかけとなったデータのせいだそうな。
「鶏さン、の鳴きマネ大会、をしたラ、酉年様が出て、来ないかナ、と思っていタのです、が、もっと素敵なお祭り、になりまし、タ」
 と、感慨深そうに呟くのは、エンミィ・ハルケー(白黒・e09554)。
 絹を縒りかけたような白い髪と漆黒の瞳、褐色の肌を持ち、儚げな少女の雰囲気を纏ったレプリカントの美女。
 動作不良を起こした山奥で大樹の根本に寄り掛かっていた彼女は、朽ちぬ身体で四季の変化や動物たちの営みを眺めているうちに定命化したという過去を持つ。
「でハ、一般の方の避難、宜しくお願い、しマす」
 エンミィも仲間達同様、祭りの開始前には他のケルベロスへ避難誘導について頼んでいた。
 その声音はやや電子的で抑揚も不規則、無表情と相まって、空想好きなエンミィの内面も滲んだ一種独特の空気を作り上げている。
「まダ、時間はありマす、ね」
 酉年様がいつ出てきても良いように敷地内を歩く傍ら、密かに物陰で何やら練習も重ねるエンミィだった。
 さて。
「はー、こうやって美味いもん食えることだけは本気で感謝してもいいっすね」
 伊・捌号(行九・e18390)は、屋台にて買った焼き鳥を旨そうに頬張りつつ、酉年様のお出ましを待機していた。
 頭の上に乗っけたボクスドラゴンのエイトと、丸ハツや赤ひも、かんむりを分け合っているのが、何とも微笑ましい。
 灰色の髪と黒い瞳、抜けるような白い肌が魅力的な、聖職服のよく似合う美少女サキュバス。
 デウスエクスの欲望を満たす為に育てられたという過酷な来し方からか、世界の何処かに自分のような存在を助けてくれた神様が居ると深く信仰している捌号。
 不健康ながら整った顔立ちと下っ端口調の可愛らしい、それでいてふてぶてしい態度の巫術士である。
 今は、ある人に貰った『伊九』という名を好んで名乗っているとか。

●崇め奉れ
 舞彩は可愛いにわとりパーカーを着込み、手の上をぱたぱた飛ぶ鶏ファミリアロッドのメイと、鶏肉料理の屋台を巡っていた。
 鶏料理を前に、メイが怖がり騒ぐのは少し可哀想である。
 突然、マフラーをくいくい引っ張られた。
「ママ!」
 振り向くとべそをかいた迷子が。
 ママじゃなかったと絶望して泣き出す男児に視線を合わせ、微笑む舞彩。
「大丈夫。お姉さんとこの鶏さんが、一緒にいてあげるわ」
 彼に焼き鳥のねぎまを買い与え、出会った記念の写真を撮り、お迎えがくるまで祭りを一緒に楽しむ事にした。

「あっ、タイショー! コレなんの祭り? ……え、酉の市?」
 祭りの気配に誘われたのか、気さくに屋台の店主へ話しかけるのはカザハ。
「……まーいいや、鳥モモ一本おごってー」
 顔見知りでも無いのに、自然と地元のおっちゃん達の輪に入って盛り上がるのが、カザハの人徳なのだろう。
「鳥神様にカンパーイ!」

 アンセルムは予想以上の人混みに圧倒されつつ、酉年様印の根付にお守り、デフォルメ酉年様人形入りおみくじを購入、
「ビルシャナって思わなければ、丸くて可愛いよね」
 ゴロベエの飴細工屋『がんだーら』へ現れた時には、既に人形のカラバリもコンプしていた。さぞ彼の運勢は吉凶入り乱れてるに違いない。
「飴細工ですか……ひよこ型、可愛いですね」
「着色した飴で作った全長30センチの酉年様の飴細工をどうぞご覧あれ」
 ゴロベエが作ったのは、一般人用にデフォルメした普通の鳥の飴細工と、ノリの良いケルベロス向けの無駄に精巧なビルシャナ飴細工。
 ましてや飾ってあるサンプルはカリー観音、ハヤシライス大好きカレー絶許明王R、ビーフストロガノフ大好きカレー絶許明王Bの3鳥。彼は本気だ。
「全種買いますね、こういうのは見ていて興奮——ごほん」
 アンセルムの財布が軽くなるのも無理はない。
「こっちもどうぞ。色んな意味で堪能してくれ」
「あ、この子そっくりの飴? 大事に保管するね」
 ゴロベエは人見知りを押して——己が隣人力に助けられつつ接客する中、アンセルムの為に少女人形の飴細工をおまけしてあげた。

「とんまのマトンに誘われて、未年してるでしょ? ら~む~♪」
 万造は、何故だか未年感たっぷりのジンギスカン屋台を個性的に展開。
「美味しい美味しいな~♪ もぉチョット~♪」
 軽快な音楽に合わせ、人間離れした調理の技とパフォーマンスでジンギスカンをジャンジャン焼きまくる。
 ちなみに彼が着ている未年フルな着ぐるみは、名を『頓馬のマトン』というらしい。

「よく分かんねーけど、とにかく酉をチヤホヤすりゃあいいんだろ?」
 そう言い切るシンシアは焼き鳥屋を物色。
「この『ぼんじり』って何だ? 1本くれよ」
 と、初めてのぼんじりを一口齧って驚愕した。
「……なんっだこれ、超うめー! 普通のより何つーかこう、じゅんわりしてんな! え、こいつ鶏のしっぽ? ケツの先までうめーとか最強かよ……! もう1本くれ!」
 ぼんじり、油つぼ、羽子板、ペタと次々食べて大興奮するシンシアを眺め、クロスも嬉しいのかぴょんこと跳ねた。

「おでん美味しいですね」
 と、リュセフィーがおでん屋台で舌鼓を打つ一方。
「はいよ、オウマ式チキンカレー3人前、毎度ありー!」
 1人で屋台を回す泰地が、大きな容器とスプーンを一般客へ手渡していた。
 ゴロゴロと大振りに切った鶏肉が入ったカレーは、立ち上るスパイスの香りも相俟って非常に美味しそうだ。
 暖簾には、オウマ式チキンカレーだけでなく酉年の文字も大きく幅をきかせていて、誘き出し作戦への意気込みも窺える。
 隣人力も駆使した泰地の屋台は、旨いチキンカレーに魅せられた客が後を絶たなかった。

「さて、皆さんの協力もあり無事ケルベロス主催の酉の市を開催する事ができました」
 そう満足げに呟くのは仁王。
「なんだかドリームイーターを相手にしてる既視感もありますが、それと同様、存分に楽しんで誘き寄せるとしましょう」
 真面目な彼らしく催し物で問題が起きていないか見回りつつ、出店を見物する。
「おやガイバーンさん、こんにちは。楽しんでおられますか?」
 早速見つけた友人、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)は、ササミのなめろう屋台に居た。
「こんにちは。ビスマスのなめろうは絶品じゃからな」
「酉年様祭で鳥の料理と来たら、これを出店するしか無いですよね」
 胸を張るビスマス。
 ササミのなめろうとは、まず、適当な大きさに切って日本酒へ浸したササミをレンジでチン。
 それを味噌や薬味、ササミのダシが出た日本酒で叩き混ぜて作る。
 味噌は、白味噌、トマト味噌、アボカドのなめろう、イチジク味噌、梅味噌から選べるそうな。
 また、プラカードを抱えて宣伝するナメビスくんも可愛らしい。
「なめろうの味つけをなめろうで……面白いですね」
 仁王も友人と共に、ササミなめろうで舌鼓を打った。
 同じ頃。
「ふふふ……今度こそ、酉年様を倒して干支的なパワーを手に入れ、今年を猫年にするのですよ!」
 ヒマラヤンは、こっそりとササミなめろう屋台の陰に潜んで、壮大な野望を胸に小さくガッツポーズしていた。

「ソースとマヨのオーソドックスなやつ……屋台といえば……だね……」
 と、千里が買ってきたのは出来立てのたこ焼き。
「あ、千里……あったよ。手強い熱さのおでん」
 一方、ヒメが笑顔で差し出したのは熱々おでんだった。
「たこ焼き買った私が言うのもなんだけど、何で酉の市におでんが」
「卵があるからじゃない?」
 ヒメはふーふーと卵を冷まして千里へあーんする。
「熱ッ」
 千里は千里でお返しにたこ焼きを食べさせた。
「ちょっと照れちゃうけどこういうのいかにも仲良しっぽくて良いわね」
「本当にね……っぽいじゃなくて仲良しだから尚のこと良いよね……」
 食べさせ合いっこは楽しいが、酉の市へ来たからには鶏も食べたい。
 そう思って屋台を探し回ると、ヒメには少し見慣れた横顔を発見。
 樹が懸命に熊手を宣伝していた。
「せっかくだから声を掛けたいけど邪魔しちゃうのも悪いかな……」
 躊躇う友人の背中を押すべく、千里はクールに唆す。
「行ってきなよ……私は、開運祈願の団扇サイズの熊手を……宜しくね」

 さて、こちらは晟の屋台『くまでもん』。
「安いよ安いよ、お買い得だよー、福を集める熊手が大安売り!」
 樹がメガホンで呼び込みに励んでいる。
「掌サイズから、身の丈サイズまで、お客様のニーズに合わせた熊手を販売しておりまーす」
「商売繁盛、家内安全! 商談後の手締めは威勢よく——二藤君、声が小さいぞ?」
 屋台接客の心得を教えながら、晟が焼くのは色味鮮やかなタンドリーチキン。
「お疲れ様です、俺にもタンドリーチキンくださいな」
 それは、片身揚げやら骨付き鳥やら鶏三昧を楽しんでいた宵一が更に食べようとする程、ウコンの良い匂いで食欲を刺激してくる。
「生憎だが、タンドリーチキンの値切りは厳禁だぞ?」
 晟は、様々な客と丁々発止の値切り交渉を楽しむ反面、宵一には気軽に高値をふっかけている。
 それでいて、
「ほらほら……折角のチャンスなんだから少し話してくるといいよ……」
「あ……あの……タンドリーチキン2つと、団扇サイズの熊手があったら、欲しいなって」
 千里にずるずると引っ張られてきたヒメが、誰に逢いに来たか判ってしまえば、
「まけた、まけた」
 と、2人を応援する気持ちでタンドリーチキンをおまけしてやっていた。
「っと、こちらタンドリーチキン二人前です、海自仕込みの店主による、スパイスの効いた逸品をどうぞー」
 樹も声を張ってヒメに商品を手渡す傍ら、熊手の代金を密かに値引きしている。
「『あなたの人生に幸福と刺激(スパイス)を』くまでもんの味をお召し上がりください、っと」
「ありがとうございます。実は温泉卵を向こうで買って来たんですよ、多分かなりスパイシーでしょうし、とろける卵と一緒ならマイルドに頂けるかなと」
 一方、樹と宵一の互いに解り合った遣り取りには、
「別に大して辛くもないだろうに」
 自分を激辛党とは夢にも思わぬ晟1人が、不思議そうに呟いた。

「TKGって何? 一度も食ったことがないな、是非頂こう」
 首を傾げた夜へ、素直に呆れるツヴァイ。
「……お前日本人なのに卵掛けごはんさえ食った事無いとかどんな食生活してたんっすか?」
「TKGは日本人の常識なの?」
「ええいそれを外国人の俺に聞くなと」
 肩を竦めつつ、ツヴァイは昆布の佃煮をトッピング、付け合わせには鮭。
「まずは器に割れば良いのだよね? 付き合いの礼だ、半分やろう」
 夜は割った卵をツヴァイの飯へテロ。
「ってお前またなんつう事を」
「おや、白身だけが行ったな? まぁ気にするな、食えよ」
「白身も混ぜた方が美味いという事を知らぬ様っすねえ、お坊ちゃまめ」
 引きつった笑顔と悪びれぬ笑顔の応酬。
 とりあえずツヴァイの見様見真似で麺つゆ垂らし、初のTKGを口へ運ぶ夜。
「卵の甘味とつゆの出汁が絡んでとても美味い……艶々輝く黄身は黄金色で実に美しく、照り映えていっそ神々しいよ」
「うええ無駄に食レポみてえなキラキラオーラ出てやがる……」
 ま、食って楽しんで誘き寄せとなりゃ一石二鳥っすね。トリだけに?

「すごい……楽しいですね」
 宴は、居並ぶ屋台の中からお好み焼きの目玉焼き乗せを発見、酉年様崇拝レシピの徹底ぶりにくすくす笑う。
「塩焼き鳥好きなんですよね。特に砂肝……軟骨……ぼんじりも好きだなあ……え? やだな。おっさん臭い?」
 空で待つ女を思い出す。
「ははは。お酒のおつまみ系って、美味しいんですよ……ねえ?」
 先の3種とちょうちんを包んで貰い、おっさん臭い小檻への土産にする宴。
 チョコレート供養が要らぬ代わりに、武器としても使えそうな大きさの熊手を買った。

「チョコレート供養があってよかったぜ」
 ハート型チョコが山と積まれた段ボール箱を抱えるのは理弥。
「あれ、そんなにたくさんチョコ貰ってたの?」
 人混みに怖じ怯えるアロアロの手を握ったマヒナは不思議そうだ。
「……これが普通の女の子からのチョコならな……」
 理弥の溜め息は重い。
 重過ぎる身内チョコの説明を聞いて、どうせ供養に出すなら——と、マヒナが箱のチョコを摘むも。
「砂糖の塊か、それ以上……チョコにしては甘すぎるかも、たしかに」
 時にダイス目レシピの苦行をこなす彼女が甘いと言うのだから、相当だ。
「『普通の』女の子との良縁ください! ……むしろ家族の性癖治して貰った方がいいか……」
 無事に供養を終え、縁結び守を手に、神社へ参拝する理弥は真剣で。
(「特に神頼みはしてなかったけど、うまくいきましたありがとうございます」)
 密かに願解きするマヒナも彼の必死さに圧倒されている。
「パンケーキ売ってる屋台ないかな?」
「パンケーキ、ってだいぶ鳥から離れるんじゃね?」
「一応卵使ってるわけだし……」
 果たしてパンケーキ屋台は見つかった。
 エッグベネディクトの如く、上にポーチドエッグが乗っかっていたが。

「しっかし、頑張って用意はするけど回せっかねー、あ、手は止めない方向で」
「なんつーか盛り上がってんのは良いんだけど本気で手ェ、足りんのか?」
 ぶつぶつ零し合いながら鯛焼きらしき粉もんをせっせと焼くのは、カイトとアルト。
 彼岸茶屋の出張屋台の目玉は、カイト曰くの『焼き酉様』。
 おかず鯛焼きの鶏型バージョンだ。
 メイン食材にテリヤキ、唐揚げ、酉ハムと鶏肉を揃え、サブはトマト、レタス、茹で野菜に卵を用意。
 タレはマヨネーズ、オーロラソース、ぽん酢、塩ダレレモンの4種だ。
 客は、この中からメイン1つ、サブ2つ、タレ1つを選んで注文する。
「いらっしゃい、ご注文どうなさいますか? かしこまりました!」
 幾らクソ忙しくても接客スマイルを忘れぬ、バイトの鑑なアルト。
 カイトは、挟んだトマトをトサカの如く頭から出して焼く傍ら、
「たいやきは摘まない! 後で買ってやるから!!」
 ボクスドラゴンのたいやきが酉ハムへ腕を伸ばすのを叱ったりと大忙しだ。
「いや、売れねェよかマシだけどさ、つーか材料足りっか? 応援要請した方が良いんじゃねーか?」
 アルトが心配している所へ、颯爽と救世主が現れた。
「インドでもやったし、客寄せもだいぶ慣れて来たわ、快調、快調☆」
 そうほざいてマイク片手にパフォーマンスするぽてとだ。
「……あれ?、でも店員足りてる? びみょーに呼びすぎちゃった気が?」
 だが、救世主が呼んだのは災厄もとい更なる客の群れ。
「アルト君がスマイルだけど笑ってない気が……」
「……ッ、だからあんた鬼かァ!? こんのクソ忙しい時に客を増やすなァッ!」
 とうとうアルトの雷が落ちた。
「あはは……ちょ、ちょと調子に乗って呼び込みすぎちゃった?」

 弥奈は、ファミリアロッドの白菜を肩に乗せて歩いていたが。
「こちら見ていただけますか。見事な……虫の形をしているでしょう?」
 どん、と神主へ見せた箱の中には、大量のカミキリ。
 つい最近、弥奈は小檻の誘いで昆虫チョコを作っていた。
「……あの後、自分でも型を取り寄せて作ったんです。出来は良かった」
 でもね。やっぱね——深く嘆息する弥奈。
「すこーしばかり、周りの評価は良くなかった……」
 再び恋人を泣かせた挙句、残りは自分でも食べて、尚余ったのだろう。
「残った虫チョコ……供養して貰っていいでしょうか……型も、宜しければ供養を……」

●然らば現れん
 酉の市の盛り上がりが最高潮に達した頃。
 酉年様との戦闘を担った者達は、自ずから境内へ集まってくる。
 とにかく酉年様を褒めちぎって誘き出す為に。
「酉年様万歳!!」
 酉年様戦を見物に来ていたリュセフィーも、作戦の一助になればと奴を崇めた。
「避難誘導は任せて。頑張ってきてね!」
 マティアスは、ベビーカステラを両手に抱えた奈津美が応援するのへ力強く頷くや、一目散に駆けてきて。
「ふむ……こんなにも楽しいひとときを過ごせたのは、酉年様の存在あればこそ、だな」
 と、率直に酉年様を褒めた。
「流石は酉年、盛大な祭りになりましてございますわね、アリス姫様♪」
 アリスの手を引いて走り込んできたミルフィも、早速酉年様を称賛する。
「こんナ、にお祭り、が盛り上がルなん、て。さスが、酉年、です、ネ!」
 片言のお陰か、却って演技っぽさが感じられず、賛美を真に迫って響かせるのはエンミィ。
「おうよ! これだけ大勢の参拝客を集めるなんて、流石は酉年様、大人気だぜ!」
 蒼も地面に降りて、手放しに酉年様を褒めまくる。
「やっぱ酉年っすよね、美味いっすし」
 捌号はエイトへ焼き鳥のちょうちんを分け与えながら、酉年へ惜しみない賛辞を送る。
「すみません、遅れました! 鶏つくねのハンバーグが美味しくて……!」
 口周りをハンカチで拭き拭き走ってくるシャルローネ。しっかり鶏料理を持ち上げるのは忘れない。
「うふふ、わかります……私も、フライドチキンだけでも色んなお味があるから、ついつい目移りしまして……♪」
 クノーヴレットが、ガーリック味のチキンを懸命に頬張りつつ頷いた。
 すると。
「くくく、もっとだ……もっと我を崇めよ!」
 バサバサと眩く豪奢な翼を羽ばたかせて、空から酉年様が降臨した。
「ここならグラビティ・チェインが沢山集まりそうだな?」
 そう目をギラつかせてのたまう酉年様は、いつかの予知で多くのヘリオライダーが見た姿と変わらず、おめでたい格好をしていた。
 やたらと飾り立てた巨大な熊手を抱え、酉年やら謹賀新年やら染め抜いた旗を背負い、煌びやかな羽織袴を着込んでいる。
 ただ、その鶏冠の下にギラリと光る目は険しく、消そうとしても消せない殺気に燻っていた。
「ドーモ、酉年=サマ。ダークブレイズです」
 まずは飛影丸が、大仰な所作でお辞儀をする。
「大丈夫、頼りになる仲間が戦ってます。皆さんは落ち着いて避難を!」
 8人が即座に酉年様を包囲する一方で、奈津美やアンセルム達がテキパキと一般人へ避難を促している。
「皆さン、酉年様が、出ましタ。ケルベロスの誘導、に従っテ、逃げてくダさい、ネ!」
 エンミィやシンシア、アリスの割り込みヴォイスが人々の流れを円滑にし、仁王やアルトの立入禁止テープも逆流防止に役立った。
「あんの酉野郎、俺の楽しみを邪魔しやがって……!」
 クロスを背に乗せ、食いかけの焼き鳥を握って飛ぶシンシア。目的を忘れかけているのはご愛嬌。
「酉年の素晴らしさをその身に刻みつけてやろう!」
 酉年様は、言い終わらぬ内に翼を振り下ろし、後衛陣を斬りつける。
「あぁっ……」
 シャルローネを庇ったクノーヴレットの胸から、血が噴き出す。悲鳴が妙に甘いのは気のせいか。
「酉年様……こんなにお強いなんて、ゾクゾクします」
 ともあれ、酉年様の意識が一般人へ向かぬよう、きっちり奴を褒めながら反撃するクノーヴレット。
 小動物の姿に戻したファミリアロッドに魔力を籠めて射出。
「あふ……酉年様ってお胸も逞しくて、とてももふもふなんですね……」
 しかも、ファミリアシュートを頭へぶち当てる隙に、何故だが酉年様の胸へ顔を埋めて舐め回した。
 ミミックのシュピールはエクトプラズムを武器に攻撃している。
「確かに酉の市は楽しかった……だが酉年様は許してはならない」
 マティアスは、痛みや感情に左右されぬ戦闘機らしい挙措で機敏に跳び上がるも、
「ここでしっかり退治する」
 人一倍強い『地球の人々を守りたい』という想いをAir Schuhe "Feder"へ乗せ、光の尾たなびく飛び蹴りを炸裂、酉年様の機動力を奪った。
「少々はしたないですが……!」
 ごくり、と残っていたハンバーグを飲み下してから、シャルローネは半透明の御業をけしかける。
 御業は次々と炎弾を放ち、酉年様のフサフサした羽毛を業火で焼き尽くした。
「霧幻の壱式……捕らえろ、朧月!」
 蒼は周囲の水気を集束させ、海月の姿をした霧の式鬼を呼び出す。
 式鬼が実体なき霧の触手を伸ばすや、するすると酉年様を絡め取ってその動きを封じた。
「おめでたい酉年様の本体とお会いできるとは……ツイてますわ」
 上品な言い回しで酉年様を褒めてから、エアシューズを履いた足にて距離を詰めるのはミルフィ。
「ミルフィ……頑張って……」
 遠くから主君の応援が聞こえた。
「やはり鶏料理は至高ですわね……!」
 ミルフィはローラーダッシュの摩擦を利用してホワイトマーチラビットへ炎を纏わせ、酉年様の大きな腹へ激しい蹴りをぶちかました。
「ヘーイ、ミスター酉年=サマ」
 と、あっけらかんとした物言いで酉年様を挑発する飛影丸。
「正月に散々グラビティをむさぼっておきながラ、それが減ったからってタタリに来るとはいい度胸デース!」
 だが、彼女の敵を打ち倒すという強い意志は、地獄化した心臓部から手足へと移った炎のように轟々と燃えている。
 肉薄した飛影丸は掌から氷結の螺旋を放ち、命中した酉年様の巨体をもビキビキと凍てつかせた。
 ガイバーンは小型治療無人機を展開、クノーヴレットら前衛陣の怪我を癒した。
「こけ、こっこ」
 と、可愛く鶏の鳴き真似するのはエンミィ。
 同時に、『汎用クマの顔型血戦兵器・アルクトス』の凛々しいお口から小さな砲身が迫り出して、キャノン砲発射。
 砲弾は酉年様の分厚い翼にぶち当たるや、カッとスパークして全身を痺れさせた。
 戦いの最中、酉年様はやたらとその悪い人相もとい鳥相で、酉年を褒め称える祝詞を繰り返す。
「能く此の悪世に於いて 広く無上の酉を説く!!」
 捌号は、ガイバーンの身代わりに催眠へかかるエイトを見ながら、思わずツッコミを入れずにいられない。
「やばい、全然何言ってるかわかんねーっす……」
 それでも前衛陣に続いて後衛達へ紙兵を降らせる所作は水際立っていた。
 エイトも意識の靄が晴れて、きちんと捌号の指示通りに属性インストール、蒼の異常耐性を高めている。
「……相手を見て喧嘩を売る事だ」
 微かな脅しを含んだ声音で、中空から無数の大剣を顕現するのはマティアス。
 切れ味鋭い大剣の群れは、瞬時に組み上げたプログラムによって酉年様を囲むように布陣、集中的に斬撃を見舞った。
「では……そろそろ失礼して」
 シャルローネは、とんがり帽子を被った3体の小人を召喚。
「この子達はちょっと乱暴者、ですよ」
 それぞれ松明・長鎌・虫あみを持った小人達は勢いづいて走り寄り、主人に危害を加える者——即ち酉年様へ暴虐の限りを尽くし、火傷の苦痛を増大させた。
「うふふ、捕まえました……♪ さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……♪」
 クノーヴレットは魔力を篭めた指先で、酉年様の敏感な部位を時に優しく、時に激しく撫でたり揉んだり擦ったりとやりたい放題。
「ウッ……我を誰と心得てかような狼藉を……!」
 絶妙な力加減と巧みな指使いが酉年様の体力を奪うと共に、理性を鈍らせ正常な判断力をも失わせた。
 惜しむらくは、クノーヴレットの愛撫に負けたところで、傲岸不遜な酉年様の身悶え方に特に可愛げを感じないところか。
「喰らえぃ、我が音速の蹴りを!」
 ただ、バタバタと見苦しく羽ばたいた末に、その見た目からは想像もつかないほどの飛び蹴りを放ってきた。
「ゲホッ!」
 その肺腑を貫く痛みに耐えかね、がばっと血を吐くのは捌号。
「聖なる聖なる聖なるかな。我が祈り、折ること能わず」
 気を落ち着けて己が信ずる存在へと純粋なる信仰を捧げ、神のご加護を以て怪我を癒した。
「貴方を討つには……この腕一本で、事足りますわ……!」
 ナイトオブホワイトの艦載兵器を積んだ腕部分のみ、自身の腕に装着するのはミルフィ。
 ドリルアームに変形しての一撃は、浪漫のみならず破壊力も抜群、酉年様の腹を抉り抜いて激痛を与えた。
「酉年様ってしぶと……あ、いや、さっすが酉年様、こんなに強いと思わなかったぜ! 酉年の底力だな!」
 酉年様を引きつける為の賛辞を忘れない蒼は、空の霊力帯びし島渡を投擲。
 ——ザクッ!
 狙い澄ました軌道を描いて吸い込まれる島渡が、酉年様の下腹に負った大怪我へ正確に突き刺さった。
「クックドゥー、ドゥルドゥー」
 相変わらず鶏の鳴き真似を続けつつ、すらりと日本刀を引き抜くのはエンミィ。
 緩やかな弧を描く白刃が三日月の如く閃いて、酉年様の袴の上から、その両脚を的確に斬り裂いた。
「ご利益も無しに信仰が減ったことを責めるだけなんて、カミサマじゃなくただの怪物デース。大人しく退治されなサーイ!」
 片言ながら怜悧な正論を繰り出す飛影丸は、心臓の地獄炉をフルドライブ。
 全身より獄炎を噴きあげるや、酉年様を掴んで天高く飛翔、錐揉み落下して奴のみを思い切り地面へ叩きつけた。
 ズシィィィン!
 捨て身の投げ技を見事に決められて、目を回す酉年様。
「げほっ、鳥類は……もっと憐れんで然る、べき……」
 最期まで、己や酉年、鳥類の優位を信じて疑わぬ死に様であった。
「……折角、これだけ賑やかな酉の市だったから、酉年様が居なくなってからも戻ってきた人達に楽しんでもらえたら」
 そう考えたマティアスは、ミルフィや他のケルベロス達と共に戦場となった境内周辺のヒールへ励んでいる。
「え、もう倒されてしまったのですか? そんなあ、私の計画が……」
 忘れ物を取りに行っていたらしいヒマラヤンは、今頃境内に現れ、がっくりと地面へ手と膝をつき落胆した。
「ってか、あいつもしかして12年後に復活とか……しねーよな?」
 蒼は、ようやく目当ての焼き鳥——小豆と呼ばれる脾臓の部分——を思う存分齧りつきながら、ふとよぎった疑念に眉を顰めた。
「ぴよ、ぴよ」
 エンミィは、卵のぬいぐるみでジャグリングをする最中、いつの間にか操るぬいぐるみが卵からヒヨコに孵化しているマジックジャグリングを披露して、戻ってきた一般人から喝采を浴びていた。
「アーまだ縁日はやってますかネ」
 飛影丸が気ままにうろつく傍ら、修復がひと段落ついたミルフィも主君の手を取る。
「アリス姫様、参りましょうか♪」
 捌号は、満足そうに白銀の翼を広げたエイトをやはり頭に乗せて、
「次、何食いたいっすか?」
 そんな彼らの計らいによって酉の市は再び盛況を極め、日暮れまで続いたのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 15
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