恋の病魔事件~甘い天秤

作者:犬塚ひなこ

●恋の病
 少年が手にしたチョコレートは二つ。
 片方は健気な幼馴染から貰った可愛らしい桜色の箱に入ったもの。もう片方は同じクラスで気の合うスポーツ少女から貰ったシンプルな箱。
「どうしよう……」
 チョコレートは明らかにどちらも本命。両方から告白を受けた少年は悩んでいた。
「アイツもあの子もどっちも好きだけど……本当は。あれ、それにしても何だか」
 おかしい、と呟いた少年は胸を押さえて屈み込む。
 どちらも選べずに迷っていたせいか、朝から何も喉を通らない。水すら吐き出してしまうくらいに彼は悩み――否、衰弱していた。
 苦しげな声が少年から零れ落ち、ついには彼はその場に倒れ込んでしまう。恋の病とはよく言うがこの状況は明らかに妙だ。
「誰か、助け……」
 虚空に向かって手を伸ばした少年は意識を失う。
 そして、そのまま目を覚まさぬ彼が病院に運び込まれたのは暫く後の事だった。
 
●バレンタインの病魔
 日本各地の病院から原因不明の病気についての連絡があった。
 そう語った雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は集ったケルベロス達に事件の概要を説明しはじめる。
「どうやらこれは恋の病みたいなのです。この病気は誰かに純粋な恋をしたり、恋に憧れる人がかかるらしくてですね、その症状は――」
 胸がドキドキして食べ物も飲み物も喉を通らない、というものらしい。しかしこれは比喩表現ではなく、本当に水すら飲めない状態だ。無理矢理に飲もうとすると激しく咳き込んで吐き出してしまうほど。
「被害者さんは病院に運ばれて点滴を受けているので、命の危機はいちおう脱しましたです。でもでも、普通の治療方法では治らないのでございます」
 そこで、この病気の症状を聞いたアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)達が調査してみた所、原因は『恋の病』という病魔である事がわかった。
 この病魔を倒し、恋の病に冒されてしまった人達を助けて欲しい。
 リルリカはケルベロス達を真っ直ぐに見つめ、よろしくお願いします、と頭を下げた。
 
 現在、患者の少年は病魔と戦闘可能な病室に運ばれている。
 仲間の中にウィッチドクタ―が居れば患者から病魔を引き離して戦闘を行う事が可能だ。万が一、人員がおらずとも事前に病院に連絡しておけば病魔を呼び出す役割だけを担ってくれるウィッチドクターを手配できる。
「敵を呼びだした後は特別病室の中での戦いになります。恋の病の病魔は弓を持っているらしいので、きっとそれを使って襲って来ますですよ」
 幸いにも敵は一体。
 戦闘能力もそれほど高くはないので全員が協力しあって戦えば勝てるはずだ。だが、問題は敵を倒した後にも発生するという。実は、と口を開いたリルリカは被害者の少年の揺れ動く心について語った。
 少年は幼馴染とクラスメイトの両方から告白され、どちらも選べずに悩んでいる。まさに思春期だ。
「この病気は……その苦しみがトラウマになって、患者さんが恋をするのを怖がるようになる可能性が高いみたいなのです」
 優柔不断。三角関係。恋の駆け引き。
 中学生になったばかりの少年には厳しい状況だがこれも青春。
 それゆえにもし可能ならば恋に臆病になるようなことがないようフォローしてあげて欲しい。自分を助けてくれたケルベロスからの言葉なら彼も素直に受け入れてくれるだろう。
「彼の心がどうなるかは皆様次第です。がんばってきてくださいですっ!」
 えいえいおー、と片腕をあげたリルリカは仲間達に応援の眼差しを向けた。


参加者
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
海野・元隆(海刀・e04312)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)
ブラン・バニ(トリストラム・e33797)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)

■リプレイ

●恋の駆け引き
 特別病棟の奥、或る病室にて少年は眠り続けていた。
 彼が冒されたのは恋の病。それもただの恋煩いなどではなく、病魔によるものだ。
「まさかウイルスも無しに病魔が湧くとは」
 病であればなんでも良いのかと呆れ気味に片目を瞑り、ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)は少年を見遣った。
 そして、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)も被害者のベッドの前に立ち、現状の確認を行う。
「俺の標的であるリア充を苦しめようとは。病魔め、よくやっ……ナンテヒドイコトヲ」
「裁一だんちょ、本音が出てるよ!」
 本音を隠すために無理矢理に言葉を言い換えた裁一に、ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)が明るく笑いながら突っ込む。
 海野・元隆(海刀・e04312)も裁一が抱く思いを汲み取り、薄く笑んだ。
「いやはや、恋の病も病魔にして退治できるとは、便利な世の中になったもんだと思ったが……結局原因が解決せんなら意味がないか」
 恋の病も厄介だが、それもこれも要因があっての事。もてる男もなかなかに辛いものだと思い、元隆は肩を竦めた。
 そして、ヒルダガルデ達は一歩下がり、病魔を召喚する巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)に道を譲った。
「じゃあ、始めるね。みんな、気を付けてね?」
 少年に手をかざした癒乃は仲間を代表し、彼の内に巣食う物に呼び掛ける。
 召喚の力が紡がれていく中、ブラン・バニ(トリストラム・e33797)は興味津々に病魔が呼び出される様を見つめていた。ブランは少年らしく瞳を輝かせながら、今回の被害者が置かれた状況を思う。
「それにしても二人から告白だなんて、ほんとに羨ましい話だよね!」
「恋の病ってロマンチックで憧れるけどね。今回みたいなのはちょっとね」
 フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)も少女めいた憧れを抱いたが、自分は神様だからと首を振って思い直す。
 チョコを渡した女の子も、渡された彼も何も悪くない。
 だから助けたいとフェクトが誓った次の瞬間、病室内の気配が変わった。
 敵が召喚された、と感じたイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は咄嗟に身構え、仲間と共に其々の布陣につく。
「これが今回の敵ですね。まさか恋の病が病魔として実在するとは……。デウスエクスではありませんが、此処で倒します!」
 イリスが凛とした声で言い放つとブランが頷き、元隆とヒルダガルデも防護の構えを取る。更にジャスティンが癒乃の前に立ち塞がり、片手を掲げた。
「出たな、恋の病。人の恋路を邪魔するのは許さないぞ!」
 ジャスティンは先手を取り、眼鏡に似たホログラフィを展開して援護を巡らせた。対する恋の病は暫くきょとんとしていたが、ケルベロス達に気付いてふわりと微笑む。
「……♪」
「貴女が恋の病……私はまだ恋を知らないけれど、人に害為す病魔は滅する。これが今の私に課せられた使命だものね」
 行こう、とシャーマンズゴーストのルキノに呼び掛けた癒乃は真剣な眼差しを向けた。
 愛らしい天使の姿に裁一は複雑な思いを抱く。リア充爆破を掲げる彼にとって、対象が死ぬという事は未来の標的が減る事と同じ。
「まぁ獲物横取りもいいところですし、死なせたら困るので助けますか」
 裁一が嫉妬の力を高め、恋の病魔が弓を構える。
 そして――恋と嫉妬が巡る宿敵との戦いの幕があがった。

●友情と愛情
 戦闘態勢を取った病魔は弓を引き絞り、此方に狙いを定める。
 その狙いがイリスに向かっていると察した元隆が即座に庇いに入り、ハートの矢を受け止めた。敵の力はそれほど脅威にはならないが、慢心は禁物。
 傷を受けた仲間を示し、ジャスティンはボクスドラゴンのピローに援護を願う。
「ピロー、回復おねがーい」
 主の声を聞いた匣竜が元隆に属性の癒しを施し、ぱたぱたと尾を振った。その間に裁一が敵に向けて駆け、一気に距離を詰める。
「恋の病魔はリア充から生まれた、つまり……リア充も同然ですね!」
 嫉妬爆特攻と名付けられた凄まじい爆発が巻き起こり、病魔が衝撃に揺らいだ。
 爆風から抜けてきた裁一と入れ替わるようにヒルダガルデが接敵し、手にしていた竜槌を振りあげる。
「この距離は痛いだろうなぁ」
 ほぼ零距離から解き放たれた竜砲の弾丸が敵を次々と貫く。ヒルダガルデの勇ましくも凛々しい姿を瞳に映し、癒乃も掌を握り締めた。
「人の心に巣食い、貪るモノよ。貴方を覆い隠す暗幕は既に上がっている」
 高らかに宣言した癒乃は守りの雷壁を戦場に張り巡らせる。同時にルキノも祈りを捧げることで仲間に加護を与えていった。
 癒乃達から援護で力漲っていくことを感じ、フェクトは床を蹴りあげる。
「古今東西、恋愛成就は神様の十八番。天使ちゃんの出る幕はないよ!」
 可愛らしい翼を持つ病魔を天使にたとえたフェクトは、天井近くで回転を入れて落下の勢いを一撃に乗せた。流星の如き一閃が病魔を穿つ中、元隆も反撃に入る。
「天使と神様か。そう考えると興味深い戦いだな」
 やや茶化してみせた元隆は破鎧の衝撃を敵に与え、その服を破り取ってゆく。きゃん、という声が上がり、病魔から「えっち」とでも言いたげな視線が向けられた。
「そういうのは求めてないんだ。ねえ、ノワさん」
 興味なさげに首を振ったブランはシャーマンズゴーストに声をかける。そして、ブランはノワさんと機を合わせて稲妻を纏った突きを解き放った。
 ブラン達の息の合った見事な連携に続き、イリスは腕を天に掲げる。
「然程強くはないようですが……、油断はしませんよ!」
 刀と翼に光を集め、イリスは鋭い斬撃を放った。其処から繰り出される連撃は敵を縛る光となって病魔に纏わりついていく。
 絶大な威力の攻撃を受けた恋の病はよろめきながらも、弓を構え直した。
 イリスの言葉通り、油断はできないと感じたジャスティンは更なる力を仲間に宿そうと心に決める。ピロー達が戦う最中、少しの余裕があると見たジャスティンは裁一に問いかける。モテないと語る裁一も実はイケメンであることは知っているのだ。
「ねえ、だんちょも恋ってしたことあるんじゃないの?」
「恋はしたこと無いですが、他の男女のいちゃいちゃは爆ぜるべき!」
 だが、裁一は相変わらずの主張を貫く。そんな彼こそいつもの彼らしいと感じ、ジャスティンは小さく笑った。
「僕はしばらく爆破対象になんないから安心してね!」
「当分や暫くじゃなく永遠で、どうぞ? さあ、レッツゴージャスティーン!」
「永遠かあ……。うん! 行くよ、皆にぱわーあっぷ!」
 裁一の呼び声に応えた少女は爆破スイッチを押し、爆風を巻き起こした。恋愛がさっぱり分からない自分には欠陥があるのかとほんの少しだけ思ったジャスティンだったが、今はそれを口にしないでおいた。
 更に裁一が其処に続き、やればできると信じる心を魔法に変える。
「なんだか! 爆破できそうな気がします!」
 そして、なんやかんやですごい爆発が起こった。
 ヒルダガルデとブランは二人の仲の良さと連携に薄く笑み、自らも打って出る。
 左脚で床を蹴り、地獄化した右脚を敵に向けたヒルダガルデはしなやかな蹄で旋刃の一閃を放った。
「槌ばかりでなく、こちらも気をつけなくてはな?」
「そうそう、気を抜いたらすぐに倒しちゃうよ?」
 続いたブランが鋼の鬼を纏った拳を振り下ろし、敵の力を削る。きゃ、と恋の病魔から悲鳴が上がり、ヒルダガルデは仲間に視線を送った。
 それが合図だと気付いたフェクトは妖精弓の弦を引き絞る。
「天使は天使らしく、神様に跪け! 天使の弓に対抗して此方も神様の弓、エンジェルアローならぬゴッドアローでいくよ!」
 確りとした決め台詞と共に心を貫くエネルギーの矢が解き放たれた。
 だが、敵も矢を打って此方を仕留めようとしてくる。すぐさま立ち塞がった元隆はすべての矢を受け止め、果敢に耐えた。
「そら、恋の弓だか何だか知らんが俺には効かんぞ。どんどん撃ってこい」
「頼もしいね。でも、無理はしないで」
 癒乃は紡いだ気力で元隆を癒し、ルキノも回復の祈りで補助につく。敵は既にかなり弱っており、あともう少しで決着が見えるだろう。
 そう感じたイリスは竜語魔法を唱え、終わりに向けた一撃を与えようと動く。
「その目に文字通り、焼き付けてください!」
 解放された竜の幻影は炎を吐き、恋の病を焼き払わんと吼えた。そして、戦いはついに最終局面へと向かってゆく。

●病の終焉
 戦いは巡り、再び病魔の矢が放たれる。
「ふふ、一気に行くよ。天使の弓より、神様の弓の方が強いに決まってる!」
 しかし、フェクトは弓に魔力と強い思いを乗せ、敵の矢に向けて自分の矢を向けた。祝撃として放たれた一閃は攻撃を相殺し、二つの矢が弾け飛ぶ。
 癒乃も回復行動を止め、戦いの終わりを見据えた。
「さぁ、貴方の終幕をはじめよう」
 掌に淡い生命の光を宿した癒乃はそれを恐れへと変える。迸る顕世の代償が敵を包み込む最中、イリスも銀天剣を掲げた。
「――光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ!」
 イリスの放った眩い斬撃が敵を斬り裂き、貫き、弱らせていく。彼女達が抱くのは、最期を裁一に下して欲しいという思い。
 元隆も同じ思いを抱えながら、舟幽霊の幻を顕現させる。
「こいつが宿敵ってことは……ま、それも若さってことか」
 男心は複雑だと呟いた元隆。彼が視線で敵を示すと、幾つもの亡者の魂が病魔を引き裂いていった。ヒルダガルデ好機を見出し、青い炎の地獄を呼び起こす。魂を焼べるべく執拗に病魔に纏わりついた焔は、静かに燃え盛った。
「さぁ、準備は整った。派手にやってしまえ」
「裁一さんの気合の入った爆発、応援してるよ」
 次が最後の一撃になると感じたブランもノワさんを止め、周囲に光を生み出す。白の鳥めいた光から囀りが響き、宿敵と相対する裁一の身を包んだ。
 そして、ピローとジャスティンもまた鷹の目を展開させることで彼の補助に動く。
「裁一だんちょ、今だよ! トドメだ!」
 頷いた裁一は皆からの気遣いを胸に抱き、宿敵目掛けて駆け出した。狙い打った一撃に全てを賭し、今日最大の嫉妬を見せるべく――裁一は叫ぶ。
「全力の嫉妬を! その身に受けて散るべし!」
 一瞬の静寂。そして、爆発。
 そうして恋の病魔は崩れ落ち、まるで最初から幻だったかのように消え去った。

●恋のいろは
 そして、病から解放された少年が目を覚ます。
「やぁ少年、気分はどうかね? うふふ、モテるというのも大変だなぁ」
 ヒルダガルデはベッドから起き上がった彼を覗き込み、事情は全て分かっているのだと説明してやった。戦闘用の病室には損壊箇所もなく、少年も無傷。
 後は彼の心だけだと感じた癒乃は、自分の胸の前に置いた両手を握り締めた。
 少年が俯く様子に、ブランは問いかける。
「何を悩んでいるのかな。どちらを選ぶか? それとも断り方? 僕がふたりに告白されたらやっぱり両方と付き合いたいかな」
「両方なんて、そんなの駄目だよ!」
 ブランの無邪気な意見に少年は慌てて首を振った。
 すると、盛大に頷いた裁一がびしりと指先を突き付けて語る。
「世の中ハーレム出来る人なんて少数、基本無理! ってことでモテない人から見れば贅沢な悩みです!」
 力強く紡がれた言葉には何故か説得力があった。
 イリスは少年が傷付いて欲しくないと願い、その背を撫でる。
「貴方が誰を好きなのかは私にはわかりません。チョコを貰った二人の内どちらかか、或いは全く違う子かもしれませんね」
 彼の気持ちは彼にしか分からない。それ故に自分達が出来るのは考える手伝いをして、その背を押してやることだけだ。
 そして、フェクトは自称神様らしく尊大に胸を張って語る。
「君はどちらかを選んだ結果、もう一人を傷つけることを怖がってるんじゃないかな?」
「……どう、かな」
「そんな優しい人の子に神様からのアドバイス!」
 それは――後悔のしない、自分に誇れる選択をすること。
 神様は人へ道を示すのみ。どうするか決めるのは君自身だと告げ、フェクトは眩いほどの笑顔を浮かべた。イリスも頷き、静かに微笑む。
「私から言えるのは、自分の気持ちに正直になって欲しい。ということだけです」
 自分に素直になれば、幸せが待っている。
 かつて自身も自分に正直になって告白した経緯があることを思い出し、イリスは少年をそっと見つめた。
 癒乃も思いを告げようと意を決し、考えを述べていく。
「自分の言葉で、自分の道を選んで決める事、それが出来る人は決して弱くはない……それだけは忘れないで……」
 未来がいかなる形でも、君の決断は君自身をいずれ助ける力になるはず。
 ケルベロス達の言葉を受け、少年は考え込んだ。元隆は急がなくてもいいと声をかけようとしたが、彼の中で想いが固まり始めたことを感じ取る。
「どうだ? お前の中での結論は出たか」
「うん、僕は……ずっと一緒に居た幼馴染の事が好きだ」
 苦しい事もあるだろう。相手を悲しませてしまう時もあるはずだ。
 しかし、それも人生なのだと元隆は語った。ブランも感心したように大人の言葉を聞き、少年に自分なりの応援を送った。
「好意を受け取るのは簡単だけど、お断りするのって難しいよね。でも、頑張って」
「君の答えが決まっているのなら、どちらにも、正直に伝えることだよ」
 誠意には誠意で返すことが一番だ、とヒルダガルデも心が決まったらしい少年の肩を叩く。そうして、彼はヒルダガルデ達に感謝を述べた。
「ありがとう。ちゃんと伝えようと思う」
 胸が痛いのもきっと大丈夫だから、と少年は決意を固める。
 彼はもう平気だと感じ、イリスとフェクトは笑みを交わしあった。恋の病に真の意味で打ち克った少年を見つめ、癒乃はそっと幸先を願う。
 仲間達の言葉が届いたことにジャスティンはほっとしていた。
「僕、今まで恋愛したことないんだよね。君みたいに胸が苦しくなったりどきどきしたことも全然ないの! だからちょっと羨ましいな」
 そうして、ぐっと掌を握ったジャスティンは応援の思いを向ける。
「これから大変かもしれないけど頑張ってね。男は甲斐性! だよ!」
 元気の良いジャスティンの言葉を聞き、裁一はその通りだと同意した。そして、裁一は少年に最後の一言を告げてゆく。
「少年よ、どういう結末こそあれ悩み抜いて後悔しない選択をすべし。成功でも失敗でもそれは経験となって無駄にもなりませんからね。まだまだ若いですから」
 本当はリア充に成り得る彼を爆破してもよかった。
 だが、今日の分の嫉妬は恋の病にぶつけてやったのだ。今回だけは勘弁してやってもいいだろうと考え、裁一は肩を竦めた。
 そう――悩める少年の未来を救うことが出来た、こんな日くらいは。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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