恋の病魔事件~片恋ろまんす

作者:志羽

●恋の病魔事件
「あら、何も食べないなんて……ダイエット? 良くありませんよ」
「そうでは、ないのですが……」
「昨日も食べてませんでしたよね? せめてスープだけでも飲みなさい」
 母親から勧められ、少女は頷く。スープを近くに寄せ、匙でひとすくい。
 食べる気がしないと思いながらも少女はそれを口に入れた。
「……っ!!」
 だがそれは喉を通らない。そのまま咽て吐き出し、少女はそのまま意識を失った。
 咽て咳込んだだけで倒れるなんて――母親は何かの病なのかもしれないと慌てて救急車を呼んだのだった。

●予知
 原因不明の病気――日本各地の病院からそういった連絡がきているのだと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達へと告げた。
「この病気がねー、誰かに純粋な恋をしている人がかかるらしくて、その症状は『胸がドキドキして、食べ物も飲み物も喉を通らない』っていうやつで」
 それは比喩表現ではなく、本当に水も飲めない状態だという。無理矢理飲もうとすると激しく咳込んで吐き出してしまうのだ。
 今のところ、病院に運ばれた患者達は点滴を受ける事で命の危機は脱している。けれど、治療法などは全く、判明していないのだ。
「で、この病気の症状を聞いてね」
 アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)さん達が調査してくれたのだとイチは続ける。
「その調査のおかげで、原因は『恋の病』っていう病魔であることがわかったんだ」
 つまり、この病魔を倒してしまえば、患者たちは助かるということだ。
 病院側は戦闘可能な病室に患者を運んでいる。ウィッチドクターがいれば、患者から病魔を引き離して戦闘を行う事ができるだろう。
「もし、ケルベロスさん達の中にウィッチドクターさんがいなくても、病院に連絡しておくから手伝いにきてくれるよ」
 その場合は引き出した後、すぐ離れてもらうようにお願いしておくとイチは言う。
「恋の病の病魔は、弓を持っててそれで攻撃してくるよ」
 戦闘能力はそれほど高くないので、油断せずにあたれば倒せると思われる。
 そう言って、けれどとイチは言葉継いだ。
「この病気って苦しいもので。それがトラウマになってもう恋したくない、とか……そう思っちゃう可能性が高いみたいで」
 もし可能なら、皆で少女をフォローしてあげてほしいとイチは続けた。
「助けてくれた皆からの応援とかがあれば、きっと恋続けられるようになると思うから」
 っていうお願いを俺がするのもなんか変な感じがするんだけど、とイチは笑ってケルベロス達を現場へと送り出すのだった。


参加者
獅子・泪生(君の為の・e00006)
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
シーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
アイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773)
シヲン・コナー(清月蓮・e02018)
亜桜・真音(みにまむれでぃ・e09889)
エルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)

■リプレイ

●病魔の出現
 とある病院、その一室にて今は落ち着いて眠る少女が一人。
 彼女に巣食う病魔を取り出さねばならないのだから。
 目にした少女は眠ってはいるが苦しそうだ。それを齎しているのは恋の痛み。
 その痛みは藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)にはわからない。それは恋をしたことがないからだ。
 死んでしまいそうなくらい、きっと素敵な恋をしている。だからこそ今苦しんでいるのだろう。
 でも、死んでしまってはその恋も報われないわとうるるは零す。
「私たちでしっかり病魔退治しちゃいましょ!」
 その言葉にシーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)はうんと頷く。
「恋する乙女は強いのですよ!」
 シーネは最近恋を自覚したばかり。だからこそ、この少女を助けたいという気持ちは一杯だ。
 亜桜・真音(みにまむれでぃ・e09889)も少女を前に瞳を伏せる。
(「まおはまだ恋は知らないけど、わかるの。心に秘めた想いを伝えるのが、どれだけ難しいか。でも、秘めたままじゃダメだわ」)
 一歩勇気を出す為にもと真音は自分の出来る事をすべくこれから起こることに意識を向けた。
「エルピス、任せた」
 少女の前に立ち、シヲン・コナー(清月蓮・e02018)は視線向ける。
 任せて、とエルピス・メリィメロウ(がうがう・e16084)は少女の前に立った。
 眠る彼女の前に立ち、引き出すのは彼女の身に巣食う病魔。
 彼女の身の内からエルピスが引き出した病魔は――可愛らしい少女の姿をしていた。
 金色の髪にふわりと広がるワンピースを纏った背に翼をもつもの。少女の姿をしたものはまるで毒気のない純真な、本当の天使のようだった。
 けれど――それは病魔。少女を蝕んでいたものだ。
「恋の病ってとってもかわいい……!」
 病魔と言うからには、恐ろしい姿をしているのかと思っていた。
 けれど目の前に現れたのものはそうではない。
「恋する乙女は可愛くなるって言うくらいだからこうなのかなぁ?」
 エルピスは改めて、現れた少女に視線を向け、でもこれは敵なのだと唸り声を零す。
「恋患いって言葉があるけれど本当に病魔として実現しちゃうなんて!」
 想うにも焦がれるにもまずは自分自身が健康体でなくっちゃねと獅子・泪生(君の為の・e00006)は構えた。
 病魔はくすくす笑いながら矢を番える。しかしそれが貫くのは運命の恋ではない。
 本当にそう、恋煩いとはよく言ったもんだと真柴・隼(アッパーチューン・e01296)は頷く。現れたこの病魔を倒せば、少女は助けられるのだ。
「あ゛~~~食事も喉を通らない程の恋とか、きゅんきゅんするわ、少女漫画じゃん!」
 けれど生死に関わるとなれば話は別。
 隼の傍ではテレビウムの地デジがスパナをぶんぶん振って頷いている。
「恋で悩む乙女の話はよくわからないですが、ひとつ確かな事がありますの!」
 アイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773)はルーンアックスを両手に一つずつ持ち、病魔をきっと睨みつけた。
「食物をも拒否させる病魔が恋に絡むというのは無粋ですの!」
 これ以上悪さはさせませんのと、アイヲラが叫ぶのと、病魔の矢が放たれるは同時。

●ここからの恋
 放たれた矢は、少女を呼び出すべく近くにいたエルピスに向いていた。しかしシーネが危ないとそれを叩き落として届かない。
 その矢の返礼とばかりにシヲンは後ろから手製の手榴弾をなげた。
「大丈夫。食らうとほんの少し、痺れるだけだ」
 シヲンの言葉と、それが病魔にあたるのは同時。眩しい閃光と電撃が病魔の身を襲った。
 床を蹴って、エルピスはその足元に低く身を沈めた。
「ふふふのふー、やっつけちゃうのよ」
「私も!」
 エルピスとうるる、二人の視線はふとあって、先に動いたのはエルピス。
 低い体勢から手をついて、足を振り上げる。急所を狙った蹴りが病魔の身に綺麗に入った。
 続けて病魔の懐に踏み込んだうるるもその脚を振り上げた。電光石火の蹴りは病魔の急所、身体の中心を貫くように入った。
 二人の攻撃が連続してダメージは募る。
 病魔の体がのけぞった。そこに続けて向く攻撃がある。
「さあさあ、どこからでも――って、見た目はなんだかとても恋のキューピッドちっく……!」
 泪生は病魔の身の上に狙いを定めた。
「狙い撃ちなら泪生だって負けないんだゾ……!」
 レサーカと名を呼ぶとロッドが変じる。青いルリカケスは泪生の魔力を纏い、飛翔する。
 狙い撃ちなら負けない! とそんな気持ちで放ったファミリアは病魔に激しい体当たりをぶつけた。
 攻撃受ける病魔の目の前までシーネは踏み込み、跳び上がる。
「判決は死刑です。――後悔しろですクソ虫」
 空中で回転し、ただ鉄塊剣の重さのままに首目がけて振り下ろす一撃。その一撃は首を落とすまでに至らないが深く入り込んだ。
 続けてシーネのミミック、アマリリスはその口開けて飛びかかった。
 アマリリスを振り払った病魔は、目の前に迫る刃を目にする。
 隼のチェーンソー剣が唸りを上げてその身を斬り破ったのだ。その後ろからぴょんと飛び出した地デジはスパナを思い切り振り下ろす。
「想いは必ず届けさせるわ! まお、がんばるっ!」
 走り込んで振るうのはマインドリングから具現化した光の剣。
 真音の振るう剣先は迷いなく病魔を捕らえていた。
「いっせーのー、せいっ!」
 アイヲラが構えたのは自らの掌。
 その掌が捕らえたのは――病魔の頬だった。響いたのは痛そうな、張り手の音。
 その痛みにか、病魔の瞳はアイヲラに向いた。
「燃えちゃうといいのよ!」
 エアシューズの摩擦熱、エルピスが足を振り上げれば炎を纏い、病魔の身は燃え上がる。
 敵は一体。
 攻撃が集中し、あっという間にその体力は確実に削られていた。
 病魔の攻撃はアイヲラに向くが、時折シーネが、そして守りに徹するサーヴァント達が割り入る。
 追った傷は、シヲンが今、癒しの力を振るっていた。
 魔術切開とショック打撃。シヲンが傷口を塞ぐ間に彼のボクスドラゴン、ポラリスが攻撃を行っていた。
「恋する乙女は、強いのですから! 病魔なんかに邪魔、させないのです!」
 流星の煌めきと重力を乗せた脚をシーネは病魔へと叩き込んだ。
「一途な恋心に巣食う悪い病は俺達ケルベロスが排除してあげないとね」
 隼が振るったチェーンソー剣の刃が傷を更に切り広げる。
 病魔は攻撃を、と動こうとするが傷口の痛み広がり動きが鈍っていた。
「トォォォォ!」
 その瞬間を見逃さず、アイヲラはルーンアックスを高く掲げて跳躍した。その勢いのまま振り下ろせばクロスの軌跡が病魔の上に走る。
 真音はとんとステップを踏む。普段は小さな翼がオーラを纏い広がった。その翼を以て、病魔と向き合い。
「さぁ、まおと踊りましょ――メリィ・メリィ・ランページ!」
 優雅にターンすればその翼が病魔を薙ぎ払う。羽毛のように軽く、風のように鋭い一撃は病魔の傷を一層深く斬り開いた。
「ぐるるー」
 そこへ響く威嚇の一声。エルピスの唸り声に病魔の身はまるで硬直したかのように精彩を欠く。
「焔よ、踊れ。灰に還せ」
 気高き炎の精霊サラマンデル――泪生が召喚した傲慢でわがままな精霊。いつもは、あまり仲は良くはないのだが今日は違う。
 恋の後押しには積極的、恋路を邪魔するものは許さないとばかりに、今日の炎は一層激しい。灼熱を舞い踊らせ焔を咲かせ焼き尽くす。
 その焔の下を潜り抜け、うるるが拳に集わせるのは喰らってきた病魔の力。
「忘れていいわ、私が覚えていてあげる」
 苛烈な降魔の一撃をうるるは放つ。罪も病も魂も、余さずそのすべてを一瞬で押し流す激流だ。
「だってママは言っていたわ。愛は溺れるくらいが丁度いいって!」
 だからあなたもとうるるは一撃に沈む病魔へと笑み向ける。
 苦しいのは――此処で終わり。

●コイバナ
 しばらくすると少女は無事に目覚めた。病魔より解放された彼女はもう命の心配はない。
「弱った心と体には美味しい料理、現役メイドの腕の見せ所ね?」
 卵とほぐしチキンのおかゆと、野菜スープのゼリー寄せよと真音は差し出す。
「……お口に合うかしら?」
 その声にきゅうと少女のお腹が鳴って、恥ずかしそうにはにかむ。
「お腹いっぱいになったらとってもしあわせだもんね」
 そんな音にエルピスはふふふのふーと笑う。真音は遠慮せずにと再度進めると少女はまずスープを口に。
 それはするりと喉を通り、倒れたときの苦しさを少女は感じる事はなかった。
「……お前の為の食べ物じゃないぞ」
 おいしそう、と涎をじゅるりとさせるポラリスにシヲンは一言。ちょっとずつだが美味しいそうに食べている少女の姿に大丈夫そうだと安心もする。
 しかし――別の心配がまだある。
「時にバレンタインのご予定は?」
 冗談めかして問えば、少女はその表情曇らせる。
 隼は話を聞かせてと笑みかけた。
「ね、ね、相手はどんな感じなの? ワタシすごく気になるなあ」
 話してほしいなとエルピスもお願いを。
 すると駅で助けてもらった男子高生の話を。彼にチョコをと思っていたのだと少女は話してくれた。
「へえ、駅で絡まれた時に……王子様じゃん、イケメンだな~!」
「イケメン!」
「お、王子様だなんて、そんなっ、そんな……」
 かぁっと少女の頬は赤く染まる。
 隼の言葉にエルピスは尻尾をゆらゆら。今、気持ちはそこに現れていた。
「ワタシ、恋する気持ちって良くわからないけどきっとね、とってもとーってもあたたかいと思うの」
 エルピスはだってね、と尻尾揺らしながら少女に笑みかける。
「その人のために頑張ろうって思えたり、綺麗になろうって思えるのは凄いの!」
 きらきらとエルピスの瞳は輝き、そこでふにゃりと笑みの形が変わる。
「ふふふのふー、ワタシが照れくさくなっちゃった」
 そう言うけれど、でもミンナの話も参考になるのよと続ける。
 ね、とエルピスが視線向ける。それにつられて、少女の視線もまた動いた。
 そこでふと、シーネと少女の視線が出会ってお互いに瞬きひとつ。
「私、好きなヒト、いるのです」
 ひとつ息吐いて、シーネはほとりと言葉落とした。
「片想いだし、全然相手に伝わってないのですけど……隣にいて、お話して、それだけでも。何だか幸せだなあ、って」
 シーネはそう言って片想いって、凄く苦しいし、独りよがりなんじゃないかって思ったりするけどと続ける。
「それ以上に、幸せな時間、たくさん作れるものだと思うのです」
 シーネは言いきって、そこで照れてふゃー……とちょっと赤くなった頬に手を当てながら鳴く。
「苦しかったよね、お疲れさま」
 少女へとそっと声をかける。泪生は視線が合うとにこりと笑み向けた。
「だけど、誰かのことをこんなに深く強く想えるのってとても素敵なことだと泪生は思うんだ」
 だからその気持ちを、諦めてしまわないでねと紡ぐ。
 その言葉には勇気を出して彼の元へ、また元気な姿を見せてあげられますようにと願いが込められていた。
「まおも、人を好きになるって、すてきなことだと思うの」 恋心はどんな宝物にも変えられない、たったひとつの宝石。
「あなたは確かに、心に素敵な宝石を抱えているわ」
 その輝きを失わないで、大事にしてあげてと真音は微笑む。
「私からのアドバイスはひとつだけ」
 うるるは大事なことよと胸を張って得意げな顔。少女は、それは何? と首傾げる。
「えっとね、恋とは決して恐れないことよ。ママが言っていたわ、世の中は好きって言ったもん勝ちだって!」
 初恋らしい初恋もしていないけれど、ママのいう事に間違いはないとうるるは信じている。
 向けた言葉は受け売りだけれど、元気出して、頑張ってと思ううるるの気持ちは本物。
 そんな恋話の様子に恋を語る女の子ってホント可愛いわぁ尊いと隼は思う。
「キミの様な可愛い女の子からチョコを貰って、喜ばない奴なんていないと思うけどな~」
 男ってのはキミが考えてる以上に臆病でカッコつけな生き物だからさ、と紡ぐ隼の足元で地デジはこくこくと頷いている。
「シャイな彼の為にもキミの勇気をほんの少し振り絞ってあげて?」
 きっと彼もキミが声掛けてくれるのを待ってる筈だと隼は少女に笑み向けた。
「悩むにも行動するにも、考える為の当分とお体を動かす為の栄養が必要ですのよ!」
 そこでアイヲラは持参したクリームプリンを差出す。それはデザートだ。
「喉元通ればなんとやらと申しますし、まずはご自分を労り次への行動へ移すためにも、どうぞ召し上がって下さいまし!」
 おいしくなあれとアイヲラはそれを渡す。少女は一口、それを食べて美味しいと零した。
 その様子にシヲンはポラリスをちらりと見る。口の端から涎がつーと落ち、羨ましそうに瞳をキラキラと輝かせるのは変わらず。
「……あれもお前の為の食べ物じゃないぞ」
 わかっているとポラリスはぷきゅ~と鳴き声一つ。その様にシヲンは笑みを零し、少女へ視線を向けた。
「君の病気は完治している。今は少しでも栄養を摂取して落ちた体力を戻すといい」
 そう言って、蜂蜜色の双眸が優しさを滲ませる。
「血色が悪いと彼も心配してしまうぞかもしれないぞ?」
 シヲンの言葉にそうですねと少女は笑む。
 その笑みは、はにかんで、くすぐったそうな。
「……これ食べて、チョコを渡しに……行ってきます」
 それは紛れもなく恋する少女の笑みだった。
「応援してるよ!」
 大丈夫、と泪生は言う。
「恋は、幸せになれるものなのですから!」
 シーネは私も頑張るから、と一緒の目線に立って。
「誰かを想って奮励する女の子達の笑顔の花咲く一日になるといいね」
 恋が叶う事を願ってるよ、と二人の仲が一歩先に進む様、隼は背を押す一声を贈った。
 頑張りますとそれぞれの言葉を受け、少女は頬を染める。
 恋心は決して折れない。彼に会いに行く、その時を思い描いて。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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