戦いの定め、誰がための勝利

作者:ほむらもやし

●止められない虐殺
 島根県の北西沖にある孤島。
 大陸から南下してきた寒気により低気圧が急速に発達したこの日、海は激しく荒れていた。島には嵐のために操業を中止して待避して来た漁師のほか、灯台を管理する保安員など合計40人ほどが滞在していた。
 船着き場の奥に繋がれた漁船は大きく揺れ、急峻な崖の上にある建物や斜面には吹き付けられた雪が積もっている。
 昼間なのに空は暗く、波と雲、雪と風が世界の全てに見える荒天の中、白銀の鎧を纏った少女が飛行していた。その姿はとても頼りなくちっぽけな存在に見える。
 だが飛行する少女は灯台の灯り、そして島影に気づくと、背中にある3対6枚の黒翼をめいいっぱいに広げて、大自然のダイナミズムに抗うようにして力強く姿勢を安定させた。
 続いて目にも止まらぬ速さと正確さでミサイルポッドを展開する。
「目標ロックオン、ミサイル、攻撃始める」
 次の瞬間、ミサイルポッドが火を噴く。白と黒の世界に鮮やかな橙色の炎を上げながら大量のミサイルが飛ぶ。数秒後、島にある灯台と建物の全てが爆炎に包まれる。
「生存者あり、近接戦闘用意」
 破壊された建物から悲鳴を上げながら飛び出てくる人々、ある者は背中についた火を消そうと雪の中を転がり回り、ある者は恐慌状態に陥って崖から落ちて行く。幸運にも傷を負っていない者もいる。
「攻撃始め」
 少女は広げた翼を短く変形させてからスピードを上げて飛ぶと、十数秒の後、ステップを踏むような動きで着地する。そして抜き放った剣の刃を起動させた。
 次の瞬間、顔を煤まみれにした男の頭部がころころと地面を転がった。
「ひぎいいいい!!」
 突然の殺戮者の登場に、恐慌状態に陥った別の男は地面に這いつくばると、雪を握りしめて、懸命に投げつける。
「うひゃあああ!! たすけてたすけてたすけて、命だけはッ――」
 命乞いをする男の首が、刃が再び薙がれた後に、ぽとりと落ちた。
 島は小さい上に周囲は急峻な崖が。厳寒の海は荒れていて飛び込めば間違いなく死んでしまう。生き延びた者たちに助かる手段は無く。
 島に滞在していた40人ほどが皆殺されるまでの時間はわずかだった。
「南東にもっと大きな島があるようね」
 もっともっとグラビティチェインを奪わなければ、物足りなげに呟くと、少女騎士のダモクレスは背中の黒翼を変形させて地を蹴る。さらなる虐殺を求めて。
 
●緊急の依頼
「よく聞いて欲しい。指揮官型ダモクレスの一体、ディザスター・キング麾下にある主力部隊の一人、イクス・バルムによる、虐殺が発生した」
 予知が間に合わなかったことを謝罪し、非業の死を遂げた見知らぬ人々に黙祷を捧げると、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、これから先の対応について話を始めた。
「敵の名はイクス・バルム、外見は白銀の鎧を纏った少女騎士だ。背中に3対6枚の黒翼を備えている。現在、彼女は島根県北方の日本海を南東に移動中、隠岐諸島の西ノ島に向かっている。諸君は西ノ島の海岸線付近でこれを迎撃し、島民の命を守って欲しい。諸君が最後の砦だ。もし突破されれば、島民を救う術は無くなる」
 イクス・バルムは島伝いに虐殺を実行する算段で動いている。故に比較的長い距離を移動している今が、虐殺の拡大を食い止める最初で最後のチャンスなのだ。
「イクス・バルムは剣とミサイルを間合いによって巧みに使い分ける、極めて優秀なダモクレスだ。また高度な自己回復能力を備えている。また単独での長期行動を可能にするためか、生存性の高さは脅威だ」
 イクス・バルムは基本的に出会う者を基本的に敵だとと認識するが、目的は虐殺によるグラビティチェインの略奪。
 グラビティチェインの略奪はケルベロスとの戦闘よりも優先すべきと考えるから、迎撃時は逃げられないようにする策や工夫が重要になる。
「迎撃に適しているのは西ノ島の北側の海岸線、波打ち際の背後に崖がそそり立っている感じだ。海に向かって突き出した岩場もあるし、崖の上で戦うことも可能だと思う。但し現地は悪天候で多少の積雪もあるから、気に留めて欲しい」
 崖の上は、陸地側に向かって標高が高くなっている。樹木は生えているが、強い海風にいつも晒されているせいか樹高は高くない。また尾根を超えて、島の南側まで行かなければ、民家も集落も無いため、周囲の被害などは一切考えずに戦える。
「命には地球よりも重いと言いながら、敵を殺すために戦わなければいけない。運命は自分で拓くものと言いながら、人生は他人の都合で大きく変えられる。何が正しくて、何が間違っていたかなんて、終わってからじゃないと分からない。でも普通の人が何の罪も無いのに、無惨に殺されるのなら、それは否定しなければいけないよね」
 だから君らにお願いするんだ。
 そして話を最後まで聞いてくれたあなた方に、ケンジは直ちに出発すると告げた。


参加者
アルマニア・シングリッド(古書目録・e00783)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
鏑城・鋼也(悪機討つべし・e00999)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
篠村・鈴音(寸胴鍋大好き・e28705)

■リプレイ

●接敵迫る
 昼間なのに夜のような暗さ、頬を打つ雪交じりの風は痛みを感じるほどだった。
 得体の知れない胸騒ぎが、単に気のせいなのか、それとも思い出せないだけなのか、イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)は、結論を得ないままに剣を手に取った。
(「……今、考えていても埒があきません」)
 ヘリオンから降りて数分、打ち付ける風が急速に体温を奪って行く。
 激しく揺れる林の木々が柔らかい触手のように波打つ。敵の姿こそまだ見いだせないが、ここは既に戦場で、いつ戦端が開かれてもおかしくはない。
 リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)は、取り出した黒縁の、伊達メガネを掛けると、北西の空を睨み据える。僅か数ミリの硝子を通すだけで、世界は変わる。世界が世界としてあるべき所以が自身にあるならば、その変化は自分自身にあるのかも知れない。銃身に手を軽く添えて、空に銃口を向けると、あっという間に吹き付ける雪が付着する。
(「酷過ぎます……。何としてでも、止めないと、ですね」)
 強い風の吹き付ける崖の上で、エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)は刹那、瞼を閉じた。波の砕ける音岩の間を吹き抜ける風の音だけが世界の全てとなる間、ただそこに居たと理由だけで、何の意味も無く失われた40余の命に哀悼の誠を捧げる。そして、もう犠牲は絶対に出さないと、見開いた青い瞳に力を篭めた。
「何としてでも、止めないと、ですね」
「ああ、……胸糞悪い事しやがる。これ以上被害を増やさないためにも、ここでしっかり討たせて貰うぜ」
 どこか苛立ちを孕んだ声色で応じつつ、鏑城・鋼也(悪機討つべし・e00999)は半身を木の陰に隠すようにして北西の空に目を向ける。
 相棒と呼ぶボクスドラゴンに声を掛けてから、自身は激しく揺れる木々の間から空を見つめる、弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)。
 雲は低く垂れ込めていて、雪交じりの風が吹いている、
 もしイクス・バルムが雲の中を飛んでくれば、アルマニア・シングリッド(古書目録・e00783)が手にしているような双眼鏡での発見は困難だ。また身を隠している以上、此方から仕掛け戦いに持ち込め無ければ、接敵よりも先に尾根の向こうの街並みへの攻撃が開始される。
「高機動、近遠距離攻撃可能、高度回復能力……嫌な敵だな」
「本当です。飛行する相手はどうにも苦手ですが……。なんとしても食い止めましょう。これ以上の勝手はさせません」
 愚痴にも似た、ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)の呟きに、篠村・鈴音(寸胴鍋大好き・e28705)は頷いた。

●戦いのとき
 一行が布陣する、西ノ島はおよそ幅10km奥行き、数kmの小さな島だ。
 イクスは雲海を抜けてから速度を落とすと島の全体に意識を廻らせる。そして海岸線の先、尾根の向こう側にある湾の付近に人口が密集していると認めた。
「目標確認、対地戦闘用意――」
(「来た!」)
 直後、攻撃の為、尾根の高さを目測したイクスが一挙に高度を下げたことで、ケルベロスたちはまたとない好機を得る。
 それと同時、リナリアのバスターライフルから撃ち放たれた光条がイクスを直撃する。
「とにかくここに釘付けにする」
 予想していなかった攻撃に対応できず、大きく姿勢を崩しイクス、その周囲に椅子と名付けられたミミックのばらまいた偽りの黄金の輝きが満ちる。直後、回転しながら地面に激突するイクスに方に、仁王は足を踏み出した。
「この身に宿るは戦場の力!」
 叫びと共にグラビティチェインをオーラと変えて、その加護を盾と広げる。
「逃がしませんよ……これ以上貴女に人々を殺させはしません」
 続けて、ボクスドラゴンの吐き出すブレスが翼を短くたたみ立ち上がろうとするイクスを捉える。
「貴様ら、なぜわかった?!」
「これ以上、あなたに命を奪わせはしません」
 エレの鋭い一振りから投射されたカプセルがイクスの黒髪の上で爆ぜて治癒を阻むウイルスを噴出させた。それとほぼ同時、ウイングキャットのラズリの清らかな羽ばたきがイクスに迫る前列に加護をもたらす。
 不意を突く形となった今こそが攻撃を重ねる絶好機ではあったが、同時にこの戦いがすぐに終わり得ないと誰もが直感する。
「………捉えた!」
 機を逃さずに、鈴音は剣を抜き、直後、振り抜いた刀刃から無数の炎弾を放つ。
 炎弾は正に炎の鱗の如く、白と黒、モノトーンに支配された風景を鮮やかな橙色で照らしながら高速で飛び行き、間も無くイクスに集束して爆ぜる。
「イクス……あなたが何を思って戦うのかは知りませんが、もうグラビティチェインは奪わせません!」
 ウイングキャットの羽ばたきを介して広がる邪気を払う力を得て、イピナとラインハルトがほぼ同時に一歩を踏み出す。イピナの剣の一振りから放たれた時空凍結弾が命中するのに続き、ラインハルトは身の内にある魔力と血潮から血の色の剣を幾本も生み出した。
「You’re mine!」
 叫びと共に放たれた血の剣が赤い飛沫と火花を散らしながら白銀の装甲に突き刺さる。
「ば、莫迦な、こんなことがあってたまるか」
「お前は此所に居ちゃいけないんだ!」
 追撃の生み出した壮絶なダメージに蹌踉めくイクスに追い打ちを掛けるように鋼也はアームドフォートを一斉射、次の瞬間、閃光とともに爆炎が広がって、周囲に積もった雪を蒸発させた。
「やったか?」
「いいえ、まだよ」
 視界を覆うような黒煙の中にイクスの影を見いだした、アルマニアは鋼也に声を掛けると、すぐに表情を険しくする。
 今、戦闘が優勢に推移しているのは、敵が守勢にあるからだ。考えうる限りの備えはしているが、敵が攻勢に転じた時にどれだけ耐えきれるかは分からない。ゆえに一手でも多く攻撃を繰り出すのが今の最善手だ。
「聞いても見ても嫌なものってあるよね。 サモンっ!」
 組み合わせによって、色は美しいものだけではなく、醜いもの、不快なものも、生み出す。美の法則を外し、敢えて気味悪い色に混ぜた発光色の野外用ペンキから生まれた奔流が、奏でられる不快な不協和音共にシルエットにしか見えないイクスに集束して爆ぜる。揺らめく影を目がけて、ボクスドラゴンのフリツェルの体当たりが続く、直後、その衝撃を受け逃がすようにして、イクスは後ろに跳ぶと膝だけで踏みとどまった。
「調子狂うな。全く」
 取り囲むように布陣するケルベロスを見遣り、イクスは癒術を発動する。瞬間、その莫大な力を象徴するような光が広がる。光は吹雪く風景の中に虹を作り出し、その幻想的な光の中でイクスは、黒髪をふわりと広げて踊った。
「想像以上に強力な癒力です」
 しかしダメージの全てが癒されたわけではない。それを見抜いた上でエレは前列に向けて輝くオウガ粒子を放出する。
「何度癒しても同じことです!」
 オウガ粒子により覚醒した超感覚の後押しを受けた、イピナの刃がイクスを捉えると同時、ラインハルトの放った降魔の一撃が白銀の装甲を破って、その魂を啜り取る。
「アンタ、戦うこと、殺すことしか知らないような有様ね」
 世界を見る目にフィルターを掛けた今、それは私も似た者かもとリナリアは感じながら妖精の力を矢に込めると、喪服の如き深い紺の裾を風に揺らしながら、妖精弓を引き絞り、次の瞬間、確りと腕を伸ばし狙い定めて、射放つ。強い風が吹き、その軌跡は大きく横に流されるが、まるで生きているかのような曲線を描いて飛翔すると、数秒の後、イクスの横腹に突き刺さった。
 ミミックが作り出した獲物が敵を打ち据える中、仁王は眼前に両手を翳す。
「あなたにはここで果てて頂きます」
 瞬間、極限まで集中した精神が解き放たれて、突如イクスを起点に大爆発が起こる。爆炎に飛び込むボクスドラゴンが体当たると同時に立ち上る茸雲が橙色に明滅する。
「――ナメんなよ」
 強大な癒術は守りの要だが、攻撃しなければ勝つことは出来ない。吐き捨てるような呟きと共にイクスは宙に飛び上がるとミサイルポッドを全開にした。
「ミサイル、攻撃始める」
「来ます! 備えて下さ――」
 仁王が警告を告げる前に、ミサイルポッドが一斉に火を噴き、鮮やかな橙色の炎を噴きながら大量のミサイルが複雑な曲線を描きながら飛び行く。
 炸裂するミサイル。大気は歪み生み出された異形の炎は津波の如くに地表を蹂躙した。
 もし先制攻撃されていれば、壊滅的な被害をもたらしていたと思われる攻撃。
 仲間をかばおうと飛び出した、仁王と相棒のボクスドラゴンが直上と左右から殺到するミサイルに全力で耐えようとしたが、圧倒的な威力の前に脆くも打ち倒され、椅子と称されたミミックも、フリツェルと名付けられたボクスドラゴンも圧倒的な火力の前になす術もなく、その口を開いたままで、横に倒れたままだ。
 炎は周囲の木々を燃やし、薄暗かった戦場は炎の熱と明るさで満たされた。
「あら、もう勝ったつもりですか?」
 ローラーダッシュの火花を散らしながら宙に跳び上がる、鈴音の蹴りがイクスを打ち据えた。次の瞬間イクスの全身は激しく燃え上がる。
 だがそれは一瞬だった。軽く払う様な黒翼の動きに吸い取られて炎は消え、いつの間にかに解けたポニーテールの黒髪が風に惑う。前髪の合間に覗く青の瞳に感情は感じられなかったが、唇の端は持ち上がり、微かに笑んでいるようにも見えた。
「ちょこまか動いてんじゃねェぞ!」
 鋼也の放った銃弾がイクスの頬を掠めて空の彼方に消えた直後、アルマニアの振り抜いたルーンアックスの刃が背中の左側、連なる黒翼の上部を捉えた。
「ッ?!」
 時がゆっくりと感じる刹那、斧刃はめりめりと音を立てながら、3枚の黒翼を根元から切り落とした。
 焼け焦げた土の上に降り立つイクス。
 次の瞬間、剣戟の音が戦場に響く。
 イピナの繰り出す孤の軌跡を描く斬撃が重ねられる中、ラインハルトの指のひと突きに気脈を断ち切られ、既にダメージを重ねていたイクスの動きは大幅に鈍る。
 イピナの体力の大部分を削り取ったとは言っても回復されれば形勢は逆転しかねない。
 殺神ウイルスを放ったエレに従うように、ウイングキャットのラズリが清らかな羽音で飛び回る。
(「綱渡りのような戦いね」)
 一回のしくじりや不運で戦況が覆る余裕の無い状況に、多少のことでは動じないリナリアの掌にも汗がにじむ。同時に肩に力が入っていたことに気が付いて、軽く息を吐きだしてから狙い定め、バスターライフルの引き金を引いた。
 次の瞬間、放たれた冷気を帯びた極太の光条がイクスを包み込む。瞬く間に熱を奪われて、全身を白い霜で覆われたイクスは、堪らずに虎の子の癒術を発動する。
 天を貫くような光が爆ぜて、傷だらけの身体が急速に癒されるかに見えたその時、突如として、輝きは終焉を迎える。
「まあ、いつかはそうなるでしょう」
 エレが拘りつづけたアンチヒール、それが今発動した。
「自業自得なだけでしょう」
 空の霊力を帯びたい刃の霊剣は切なげな風切り音を残して僅かに塞がりかけただけの傷口を深々と抉った。
 重ねられた斬撃に沿って大輪の傷が花咲く。
「畳みかけるぞ!」
「はい! 私も明日から本気出すよ!!」
 鋼也の動きに機を合わせるようにアルマニアは心に誓う。炎を帯びた激しい蹴りがイクスを打ち据え、続いてアルマニアの誓いから生み出された溶岩が、もはや蹂躙されるだけに見える少女の足元から噴き上がって首から下の身体を埋め尽くす。
 それを機にイピナとラインハルトの2人は踏み込み、息の合った動きで刃を振り上げる。
「イクス……あなたが何者かは分かりませんが、これで終わりにします!」
「良いんだね?」
 無慈悲に言い切り、イピナが宙に舞い上がると同時、ラインハルトの抜身の斬撃がイクスに刻まれる。直後、急降下の加速と共にイピナが突っ込んで来る。重力の加速と自身の持つ力と受け取った加護の全てを刃の先に乗せて、イピナはイクスの胸元にそれを突き立てた。時間が静止したような刹那の後、白い胸元に飲み込まれた刃は加速の勢いのままに突き抜けて、その身体を2つに分断する。次の瞬間、分断された身体は光を放ち、大爆発を起こして消滅した。

●戦い終わって
 山の斜面に反射する爆発音が消えて、風と岩で波が砕かれる自然の音が、耳に届く音の全てとなる静寂の中、血塗れになった刃を手に爆心地に立ち尽くすイピナの姿が目に入った。
「大丈夫ですか?」
「ええまあ、それよりも周囲への被害はありませんか?」
 爆炎に晒された林の木々はなぎ倒されて、所々で火がくすぶっていた。
「私は大丈夫、かなりの強敵でした」
 戦いに倒れた仁王も命に別状は無く、共に倒れた相棒を膝の上に抱きかかえるようにして凍り付いた雪を拭う様に撫でている。
 誰一人欠けていないことを知り、ほっとしたイピナは握ったままの剣を鞘に戻そうとして、刀刃に残ったイクスの血に気が付いて布でぬぐい取った。
 周囲にヒールを掛けると、戦いに傷ついた何事もなかったかのように景色は元に戻り、振り続ける雪は露わになった土壌を再び白く覆い始めていた。
 かくして大きな犠牲から始まった、長い戦いは勝利に終わった。
 エレは北西に目を向けると、胸の前で手を合わせた。
(「どうか安らかに……もう、誰も死なせませんから」)
 それは、何もしていないのに、その島に居たという理由だけで、殺されてしまった40余名に向けての真心を込めた祈り。
 間もなく肩の上に乗っている、ウイングキャットのラズリの首筋を擦り付ける感触に目を開くと、その小さな額を指先で撫でた。
 瞬きを繰り返しながら嬉しそうにするラズリにエレは目を細める。
「あー、さっむい、早く帰ってこたつに入りたいの。うん、思考に余裕がないと辛いだけだけよね?」
 眼鏡をしまい込んだ、リナリアが小首を傾げながら微笑む。
 終わってしまったことは、どうすることもできない。
 でも、未来は変えることができるし、理不尽な未来があれば、どんな困難が伴ったとしても、変えたいと思うのが、ケルベロスがケルベロスたる所以かも知れない。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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