至上の快楽

作者:天枷由良

●その名は絞首
 惨劇の舞台は、騒がしい世間から離れた別荘地に立つ、一件の屋敷。
「――アハッ、アハハ! 良いですよ貴方! 中々に丈夫なものをお持ちのようで!」
 興奮のあまり笑いながら、黒ずくめのダモクレス『ブケー』は両腕に力を込めた。
 細糸で宙吊りにされた男から、呻き声が漏れる。
 このままでは死ぬ。
 辺りに転がる妻や子供、友人の遺骸と同じように、首を刎ねられて死ぬ。
 迫る未来を、男が感じ取らなかったはずはない。
 しかし、どれほど足掻いたところで、人がダモクレスから逃れられるわけもなく。
「気持ちいいでしょう? たまらないでしょう? 私も段々と癖になって――」
 流暢に語るブケーの前で、ついに男の首は耐えきれず弾け飛んだ。
 鮮血が噴き出し、鈍色の腕を濡らす。
「……チッ、醜い顔だ」
 一転、不機嫌そうに吐き捨てたブケーは、周囲を見回してさらに溜め息をつく。
「残念ながら、ここでの任務は完了してしまったようですね」
 次こそ賛美に値するものがあれば良いのですが。
 ブケーは呟き、自らの首に糸を巡らせ、力強く引きながら屋敷を後にするのだった。

●ヘリポートにて
 指揮官型ダモクレスによる地球侵略作戦は、依然として続いている。
「ディザスター・キング麾下の主力軍団が、また襲撃事件を起こしたわ」
 ケルベロスたちに語るミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)の険しい表情は、既に被害が出ていることを示していた。
「『ブケー』と呼ばれるダモクレスが、別荘地に立つ屋敷の一つに侵入。余暇を楽しんでいた二十余名の人々を殺戮して、グラビティ・チェインを略奪したの」
 その後、ブケーは別荘地を移動して新たな目標の元に向かっている。
「失われた生命は取り戻せないけれど、被害の拡大を防ぐことなら出来るわ。これから別荘地に向かって、ブケーを撃破してちょうだい」
 敵は一体のみ。
 髪も衣装も黒ずくめの、両腕が機械化された細身の男だ。
 喉元には意味不明な数字のタトゥーも掘られているが、それより奇怪なのは行動である。
「移動しながら、自身の首をピアノ線で絞めているみたいなの。……不気味よね」
 どうやらブケーは、首を絞めることに執着があるらしい。
 それは己のみならず、他人に対しても同様。
 ケルベロスたちが相手であっても、執拗に首を狙ってくるだろう。
 勢い余って刎ねてしまうくらいなのだから、その力強さも想像に難くない。
「ただし、彼の目的はあくまでもグラビティ・チェインの略奪。皆と遭遇したら、まずは逃げることを考えるでしょう。大掛かりでなくとも、何かしらの策を講じる必要があるわね」
 幸い、ブケーが進むのは別荘地を走る一本道だ。
 辺りには冬枯れの木々くらいしかないが、待ち伏せることは容易と思われるし、一度諦めさせてしまえば、ブケーが戦闘中に再び逃走を図ることはない。
「なにより相手は、自分の首を絞めて恍惚感に浸りながら歩く変態よ。道端で宴会でも開かれてなければ、木々や枯れ草なんて目に入らないんじゃないかしら」
 怯えと呆れを程よく混ぜた顔で言いながら、ミィルは言葉を継ぐ。
「このおぞましいダモクレスの撃破を、犠牲になった人たちへの手向けとしましょう。そして必ず全員、無事で返ってきてちょうだいね」


参加者
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
アイビー・サオトメ(アグリッピナ・e03636)
神藤・聖一(白貌・e10619)
コール・タール(極彩色の黒・e10649)
ケドウィン・アルカニクス(劇場の怪人を演じる地獄の番犬・e12510)
シレン・エアロカーム(志は新しき風と共に・e21946)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ


 褪せた草木が続く一本道で、挟撃のため二手に分かれて待ち伏せるケルベロスたち。
 まだ敵の気配はなく、辺りは景色と同様に淋しげな静寂に満ちている。
(「ポヨン、今日の敵がどんなやつか分かるか? ……こういうやつだっ」)
 暇を持て余したか、木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が赤いスカートを履いたボクスドラゴン・ポヨンに、己の首を絞めるふりをしながら不気味な表情を作って見せた。
 返ってきたのは侘しい冬風と、相棒の白い眼。
 もちろん、そうなるだろうとケイも思ってはいた。
(「……な、気味悪いだろ? 俺も嫌いなタイプだし、さっさとやっつけちゃおうぜ」)
 悪びれることもなく言ってみれば、ポヨンは引き気味のまま封印箱に収まる。
 ケイは重箱みたいなそれを抱えて、敵を待ち構える態勢に戻った。
 訪れる沈黙。その中にあると、ケルベロスたちは様々なことを思う。
 多くは残忍極まりないダモクレス・ブケーへの怒りであるが、リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)やコール・タール(極彩色の黒・e10649)、神藤・聖一(白貌・e10619)などは、知った顔であるケドウィン・アルカニクス(劇場の怪人を演じる地獄の番犬・e12510)の心中を憂いたりもしていた。
 件のダモクレスと彼は、何やら因縁があるらしい。
 とはいえ、枯木の上で一人待つケドウィンは此処まで多くを語らず、たとえその多くを知ったとしても、ケルベロスたちのやることは一つ。
 それをリコリスに言わせるなら「これ以上被害を出さないよう、ブケーを破壊してしまいましょう」であって、コールに代弁させるなら「殺すだけ殺したクソ野郎を当然の道理として殺す」だが、そこに気負うようなものは何もない。
 幾度もの戦いを経てきたケルベロスたちは聖一を筆頭に、落ち着いて時を待つ。
 そうして、しばらく経った頃。
 風に乗って聞こえた声は含む熱量に反し、ケルベロスにより一層の寒気を感じさせた。
「アハハ! アハ、ヒッ、グ、ゲホッ……ハハ、ヒヒッ!!」
(「なんとおぞましい嗜好であるか……」)
 ブケーが何をしているか、見るまでもないだろう。
 滲む嫌悪を抑えながら、ぴくりとエルフ耳を動かしたシレン・エアロカーム(志は新しき風と共に・e21946)が、共に身を潜めるクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)たちに目配せする。
 徐々に近づいてくる異常者は自らの首を絞めることに夢中で、逃げ道を塞ぐために伏せているリコリスやコール、ケイはおろか、ケドウィンにすら気付かない。
 彼らが特殊な気流を纏っていることを考慮しても、随分とお粗末なものだ。
(「許せない……」)
 あんな輩の快楽となるために、人々は殺されたのか。
 怒りを滾らせるアイビー・サオトメ(アグリッピナ・e03636)の瞳から魅惑的な色が失せ、代わりに身体から地獄の炎が揺らぐ。
 焚き付けられたように、アイビー自身を含めて四人のケルベロスと三体のサーヴァントは道に飛び出し、ブケーの行く手を阻んだ。
「ヒッ、ハハ、ハ……! こんなところに新しい首……っと、ん?」
 ただの人でないことが理解できたのか、ブケーは己を絞めたまま、軽く追い立てる程度の攻撃を避けて後ずさる。
 シレンが三度笠を取る間に、また一歩。
「困りましたねぇ。ケルベロスの首は興味深いですが……」
 指揮官から命じられているのは、あくまでもグラビティ・チェインの略奪。
 細糸を引き絞ったブケーは来た道を取って返そうとして――すぐに足を止めた。
 そこには、三人のケルベロスが立ち塞がっている。
「ポヨンもいけ!」
 放った封印箱から飛び出す相棒と共にケイが斬りかかり、合わせて動くケルベロスたちによって、ブケーは容易く包囲の手に押し込められていく。
 最後に樹上よりケドウィンが降りてくると、抜け出せる穴は何処にも見当たらない。
 道を逸れたり押し通ろうとしたところで、その間に攻撃を受けては逃れようもない。
「……仕方ありませんねぇ」
 己の首から解いたピアノ線を垂れ下げて、ブケーは堪えきれない興奮を笑いに変える。
「どうしてもというのなら、お望み通り至上の快楽を教えてあげましょう!」
「ふん。貴様の技、この肉体に通用するかどうか、試してみるがよい!」
 合羽を翻し、女性らしからぬ筋肉質な身体でシレンが挑発すれば、ピアノ線は彼女と前衛陣の全てへ、値踏みするように伸びていった。


 払い飛ばそうとするシレンの刀を掻い潜り、ピアノ線が首を絡め取る。
 螺子が数十本は外れているらしい相手でも、やはりデウスエクス。戦いに入れば中々、思うようにはやらせてもらえない。
「よりどりみどりですねぇ、ヒヒッ!」
「……全くもって悪趣味だ」
 ぎりぎりと食い込む細糸に痛みと動きづらさを感じながら、それでも聖一は舌打ちを挟みつつ淡々と言って、距離を詰めた。
「その首をへし折っても笑えるかどうか、試してやろう」
 鋭い蹴りが延髄を斬るように放たれ、ブケーは一瞬の内に頭を地面へ叩きつけられる。
 しかし漏れ聞こえるのは、苦悶ではなく欲求。
「……どうせなら、絞めて!」
 どうあっても、ブケーの全てはそこに行き着くらしい。頑なに離そうとしないピアノ線が、シレンのビハインド・コーパァや、クリームヒルトのボクスドラゴン・甲竜タングステンの首にも絡んでいることから、その執着の強さが伺えた。
 ならば。
「ツバキ、やれ」
 簡潔な命令で、聖一のビハインドが起こすのは金縛り。
「あっ……ああああ、なんですかこれぇ!」
 何もないところから締め付けられる感触は、ブケーにとっても未知の領域だろう。快感を覚えたのか、のたうち回る間に細糸も緩み、それをシレンは怒号一つで弾き飛ばす。
 あとに残るは、薄っすらとした赤。
「次はやらせないであります! 皆様は、ボクが護るであります!」
 自らも首を擦りつつ、クリームヒルトの放つヒールドローンは治癒と警護に飛び始め、その稼動範囲を定めるようにリコリスが竜牙伸縮鞭――骨で作られた伸縮自在の鞭剣を広げていけば、傷跡は限りなく無に近づいていく。
 守りの手立てはまずまずだ。なら、次はケルベロスたちが攻める手番。
「望むままに死ねると思うなよ!」
 コールが槍の如く伸ばしたブラックスライムを向けると、未だ金縛りの感覚に浸るブケーも飛び起きた。
 そのままでいればどうなるか、考えるくらいは出来たのだろう。彼は絞められることに悦びを見出しても、刺し貫かれることは望んでいない。
 だが、些か遅かった。戦意を漲らせるアイビーが狙い澄ました飛び蹴りで容赦なく腹を穿ち、ケイは雷の霊力を纏わせた大太刀シラヌイで神速の突きを繰り出す。
 蹴りによる足止めは僅かでも命中力を高める手助けとなり、大太刀は外殻を引剥がして脆さを与えた。そこに威力抜群の一刺しをコールが叩き込めば、ふざけた態度のダモクレスから初めてまともな――そう表現すべきかは実にきわどいが――反応が返る。
 それは数多の死を振りまいてきた自分に対して、確実な報いが近づいているのだと。
 もう一度コールに言わせるならば「クソ野郎への当然の道理」が、訪れようとしていることを悟る顔。
「……ふふ」
 まだそのような表情を見せられたのかと、ケドウィンが零した笑みに気づいたのは聖一とリコリスくらい。
 右目周りを面で覆った男の変化はそれほど些細なもので、操る黒鳥の姿をしたスライムを留める要因になるはずもなかった。槍に変わったそれを握り、ケドウィンはコールの動きを鏡で映したように振るう。
 突き刺さり、傷口から身体を汚染してくるデウスエクスの残滓に、ブケーがいかなる感覚を味わっているかは想像するしかない。
 だが不死のデウスエクスに、忍び寄る死が苦しみを伴わないはずもないだろう。
 そこから逃れるため、ブケーが用いる方法は、ただ一つしかなかった。
「――ほ、本当に……自分の首を絞めて、回復しているのでありますか……?」
「……そのようですね」
 あからさまに気味悪がるクリームヒルトに対して、リコリスはただ目の前の事象を受け止め、呟く。
「ハヒッ、ヒッ、アハハ! ヒヒッ!」
 目を見開いて泡を吹き、全身を震わせているデウスエクスがそれで『回復』しているのだとは、騎士道精神に則るクリームヒルトでなくても、ケルベロスたちには到底理解できないものだった。


 しかしいくら解せずとも、自傷に似た行為で力を取り戻していくのは確からしい。
 足取りは軽やかになり、笑いは高らかになり、毒気を払ったブケーはデウスエクスらしからぬ晴れやかさを通り越して、また異常者の面構えに返る。
 必然、ピアノ線も荒れ狂い出す。前衛陣の品定めを終えた細糸は後衛陣に伸び、リコリスからケイ、アイビーを絡め取って、残りを何とか庇ったクリームヒルトと聖一の首も襲いかかった。
「このっ……俺はニワトリじゃねえっつーの! トサカにきたぞコンチクショウ!!」
 僅か一文の間で前言を覆すというケイの器用さは、口ばかりでなく刀の扱いにも現れていた。避けられないと判断するが早いか、首と細糸の間に刀を捩じ込んでおいたのだ。
 どこで仕入れたかはさておき、それが絞め技への対処法だったはず。ケイの目論見は――しかし、発揮されることなく己の頬に冷ややかな感触を浴びせるだけだった。
 なにせ、ブケーの絞めは勢い余って刎ねてしまうほどのもの。そんなに絞めたきゃ自分のでも絞めてろと吠えても、既にセルフ首絞めを見た後では何とも虚しい。
 地獄の炎で防ごうと目論んだアイビーもまた、似たような状況であった。
 リコリスも逃れることは出来ず……しかし、彼女には僅かな違いがあることを、ブケーは察する。
「どうしました? 血が出なくて残念ですか?」
 臆するでもなく言ったリコリスの首には、地金が覗いていた。
 彼女はレプリカント。ダモクレスとは極めて近く、最も遠い存在。
 もしかすると、ブケーも同根の者に対して何か思ったかもしれない。
 けれども、この場においてそれは何ら重大なことでなかった。ブケーの目的は戦いを切り抜けることで、リコリスに至っては己を此度の演者ですらないと思っている節がある。
 では何かと問われたら、彼女は舞台装置であると言うのだろう。
 それは、行動で以って示されていた。
 自らを含めて傷ついた仲間たちに戦う力を与えるべく、舞台そのもののような結界を生み出したから、ではない。後衛より戦線を支えるメディックの立場にあって、彼女の行動はまさしく機械のごとき正確さと、多くの可能性に対する備えを有しているのだ。
 そしてポヨンが及ばずながら治癒の手に加われば、盾になる聖一やクリームヒルトも多少の無理は出来る。そもそも彼らは、威力の高い首絞め攻撃に備えた防具を整え、仲間を庇うことを厭わない。
 早速、ブケーが両手で伸ばした細糸の先に、クリームヒルトが立ちはだかる。重装に身を固めて大盾を持つ彼女は、護ると言ったのだからきっちり護る。証として示すように、癒やしの力を持つ光の翼が翻った。
 そこに少々耐久力で劣るとはいえ、コーパァや甲竜タングステンまで揃ったのなら、いかにブケーの首絞めが強烈でも、たとえケイが危惧するように足を止められたところで狙われたとしても、大崩れはしまい。
 静かな別荘地の片隅で行われる応酬は、次第にケルベロスの優勢へと傾いていった。


 そして果敢なのは、守る役目を担ったものばかりではない。
 納刀状態から一瞬にして刀を抜き放ったシレンが、ブケーを斬り抜ける。出来ることなら筋肉で絞め上げてやろうかとすら思う肉体自慢の一振りは、特別な効果をもたらさなくとも絶対に無視できない威力だ。
「―――狂え、『宝器開放』」
 さらには短く唱えるなり、強制的に力を引き出されて黒く染まりだす如意棒を、コールが敵に叩きつける。直撃した部位に赤いオーラが迸って、己の首を絞めているはずのブケーから快楽とは違う声が漏れた。
 もう、かなりのダメージを与えているはず。正確なところは分からないが、アイビーはそう断じて全身を覆うオウガメタルを解き、代わって地獄化したラブフェロモンとその生成器官から作り出す、アイビー独自の「地獄化したサキュバスミスト」を放出し始める。
「燃えて、溶けて、崩れて、壊れろ……」
 呪うような囁きと共に、噴き出す霧は触れるものを溶かす。ブケーは耐えかね、逃げ道を探して逡巡し、最後の最後で他者に快楽を求めた。
 狙う先は、仮面の男。入念な品定めに適う首だったのだろうか。それとも。
「ウィヒ……ッィィィ!!」
 もはや言葉にならない声を漏らして、ブケーはピアノ線を伸ばす。断末魔代わりになるそれは力強く、ケドウィンの首をいとも簡単に捉えて真横に折る――かもしれなかった。
 彼が一人で戦っているのなら、むしろそうなる以外になかっただろう。斬られることには耐性のある防具も、破壊的な力の前には紙くず同然だ。
 しかしケドウィンの前には、聖一が立っていた。光のあるところに影が纏わるように、そこにあって何ら当然であるように。
 それ以外にも多くの助力を得て、機会は訪れた。
「今、楽にしてやる」
 ケドウィンの元から伸びる槍が、これまでの攻撃で剥がれた外殻に突き刺さり、糸状になってブケーの中に侵入していく。
 幾重にも分かれたそれは瞬く間に全身を駆け巡り、あらゆるところに行き渡ったあと、地獄の炎を寄る辺として煮える。
 血が煮えれば肉が焦げ、骨が溶け、そうして気がつけば、ブケーの痕跡はケルベロスたちの耳に残る笑い声だけとなっていた。

 それが消える頃には、既に聖一の姿がなく。
 ケイはそう遠くない屋敷へと足を向けていた。普段は飄々としている彼も、惨劇を目の当たりにしては神妙に弔うしかないだろう。
 一方で現場に残るシレンは、辛うじて形を残していたピアノ線を拾い上げ、忌々しげに睨めつけて引き千切る。身体はそのまま、自然と屋敷のある方へ向いた。
「命を落とされた方々……どうか、安らかにお眠り下され。同じ過ちは、拙者達が二度と起こさせぬ」
 静かに目を閉じて、祈る。
 だが、その誓いを確かなものとするためには、ブケーたちを従える指揮官の動向を掴まねばならない。
「いったい、どこにいるのでありましょうか……?」
 未だ手がかりはなく、クリームヒルトは頭を悩ませるばかり。
 ただ、ケドウィンには思うところがある。ブケーを狂わせた存在、定かでない友人、かつて逃げ出した場所のこと。それらが関わってくることも、あるのかもしれないと。
(「ケドウィンさん……」)
 その時が来たなら必ず叩いてみせると決意する仮面の男を、アイビーが未だ輝きの戻らない瞳で、心配そうに見つめていた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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