二挺斧の戦闘狂

作者:そらばる

●禿頭の斧使い
 人々でごったがえす駅前広場を、遥か高みより見下す不埒な視線に、人々はまだ気づいていない。
「うっひょー! いるいる、わんさと湧いてやがる」
 駅前広場の隅に建つビルの屋上。落下防止用の柵に片足を乗り上げ、片手で額に庇を作りながら、にやにやと口の端を上げる大男が一人。
 骸骨に皮を直接貼り付けたようなガリガリの凶相に、禿頭、長い手足に骨ばった体格の、エインヘリアルである。
「こんだけいりゃー、どこブッ叩いてもお宝天国じゃねーかよ。ヒッヒヒ。久々に暴れてやろうじゃねーの」
 下品に舌なめずりをすると、エインヘリアルは二挺の禍々しい黒い戦斧を担いで、屋上の縁を蹴り、何気なく宙に身を躍らせた。
「――殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅぅぅぅ!! 戦争なんざ、カンタンなもんだぜぇえぇぇぇッ!!」
 哄笑を上げ、豪速で降ってきた大男が、人波の中心に戦斧を打ち下ろす。
 轟音と、悲鳴。噴き上がる真紅。
 逃げ惑う人々の中央で、血肉を踏みつけ立ち上がるエインヘリアルは、返り血にその身を染めながら、不気味な笑みを浮かべた。

●罪人エインヘリアル
「単独のエインヘリアルによる虐殺事件が予知された」
 固い声音でケルベロス達に告げたのは、ザイフリート王子であった。
「この者は、過去、アスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者だ。残忍かつ知能は低い。エインヘリアル側にしてみれば、体のいい捨て駒といったところだろうな」
 この罪人を放置すれば、多数の命が無残に刈り取られ、人々には恐怖と憎悪がもたらされることだろう。
「結果、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせる……おそらくはそれも狙いの一つであろう。至急現場に向かい、この罪人の始末を頼みたい」
 襲撃されるのは、白昼の市街地。百貨店など大型の建物に囲まれた、立体交差状の駅前広場である。
 エインヘリアルはビルの屋上から、駅前広場の人の多い中心部へと跳躍しようとする。大量の人が行きかう駅前広場への着地を許した瞬間、虐殺は開始され、多くの犠牲は免れない。
「さりとて事前の避難は、予知を違える事になる。奴の目的は大量虐殺だ。人の少ない場所は襲わない」
 人々に犠牲を強いずに敵を撃破するには、敵が駅前広場へ跳躍する前に、ビルの屋上で接触するしかないだろう、とザイフリート王子は言う。
「罪人エインヘリアルは血の気が多い上に単純だ。強敵と対すれば、虐殺よりも目先の交戦を優先するだろう。当のビル内にいる人々には、あらかじめ避難を呼びかけておく為、お前達は存分に戦いに集中すると良い」
 敵は罪人エインヘリアル1体のみ。ルーンアックスのグラビティ四種を使い分けるようだ。知能は高くはないとはいえ、戦闘に対してはかなり熟達しているので、戦術的な動きはしてくるだろう。
 エインヘリアル勢にとっては使い捨ての戦力。戦闘で不利な状況に追い込まれようとも、撤退するという選択肢は存在しない。罪人自身も、逃亡などは端から頭になく、徹底的に暴れ回るつもりでいるはずだ。
 微かな苦衷を滲ませながら、ザイフリート王子は瞳を伏せる。
「凶悪犯罪者を敵地に放つとは、小賢しい真似をしてくれたものだ。エインヘリアルの不始末をお前達ケルベロスに預けてしまう事になるが……皆、よろしく頼む」


参加者
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
相馬・竜人(掟守・e01889)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
畑山・幸(降魔剣士・e02163)
干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)
ケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●唾棄すべき悪
 人々の行き交う駅前を見下ろし、禿頭のエインヘリアルは嫌らしく唇を舐め上げ、禍々しい黒斧を担ぎあげた。
 今にも跳躍せんと力を込めた膝が、ぴくり、と動きを止め、エインヘリアルの瞳が小さく見開かれる。
 次の瞬間、銃撃の乾いた音が、屋上のコンクリートを打った。
 ……威嚇射撃。エインヘリアルは背後へと緩やかに首を振り向かせた。
 視界に、寸前まではいなかったはずの、複数の人影。
 ヘリオンから屋上への直接降下を果たした、ケルベロス達であった。
「待ちな! 相手が欲しいなら俺達がしてやる。よそ見してるんじゃねーぞ」
 ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)が、毅然とエインヘリアルを呼び止めた。
「あァ……? なんだテメェら」
 跳躍寸前のままに姿勢を固め、抑制された声色で低く吐き捨てながら、エインヘリアルは眼光鋭くケルベロス達を睨みつける。
「おーおー、扱いきれなくなった駒を使いだすとは向こうも余裕がねえと見た。まあ、そういう始末はそっちてやって欲しいんだがな」
 相馬・竜人(掟守・e01889)は不機嫌そうにぼやきながら、髑髏の仮面の下に表情を隠していく。
「危ない薬でも使ってそうな風体やな……! 早く止めるで!」
 桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)は緊張感をみなぎらせ、油断なく構えを取る。
「殺人鬼……「ああ」はなりたくないですね。虐殺は絶対に止めないと……」
(「相手はデウスエクス。……思いっきり戦える」)
 解放を待ち望む衝動と暗い熱を秘めた瞳で、畑山・幸(降魔剣士・e02163)は敵をひたと見据える。
「人殺しが好きらしいけど、させないよ……お前にやる命なんて、一つもない」
 干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)は無表情に、しかしはっきりと敵へと突きつける。
 まっすぐにぶつけられる敵意に、エインヘリアルの口許が怪しく吊り上がったように見えた。
 その表情をまじまじあらためる暇を与えず、エインヘリアルは首を正面に正し、後ろ姿で大仰に肩をすくめて見せる。
「こいつぁ傑作だ。『黒斧の戦闘狂』とまで恐れられたオレ様に、地球の連中如きが盾突こうなんざ――――クッソ面白ぇじゃねぇかよぉぉぉおぉ!!」
 振り向きざま、落下防止用の柵をなぎ倒しながら、二挺の黒斧を豪快に構えるエインヘリアル。その凶相は、戦いへの昂揚と狂喜に歪んでいる。
「……戦闘狂だと? エインヘリアルの世界では、無抵抗の者を虐殺することを『戦闘』と呼ぶのか?」
 ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は、感情を込めずに淡々と言い放つ。
「アンタはただの快楽殺人者。そして俺らは処刑執行人だ」
「ノウガキなんざどうでもいいだろうが、えぇ!? テメェらも結局は殺しをしにきたんだろうがよォ!! 血! 肉! 悲鳴! 楽しめッ!! 戦争なんざ娯楽よ、こんなカンタンに愉しめるシゴトはねぇぜ!!」
 哄笑がけたたましく屋上の空に轟き渡った。
「なんともはや……嫌われ者集団だっていうアグリム軍団よりもタチ悪いかもね、こいつ」
 まぁ強さは全然っぽいけどさ、と煽るように付け加えるヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)。
「戦争なんざカンタンかにゃ?」
 バスターライフルを構える手に嫌悪と怒りを籠めながら、ケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)は青い瞳を爛々と輝かせる。
「それじゃ、カンタンに退けてみせてもらおうかにゃ」
 幼いウェアライダーの挑発に、エインヘリアルは禍々しく破顔した。

●『人殺し』
「う――ッらぁ!!」
 エインヘリアルの巨体が高々と宙に舞い上がり、黒々とした残影を引きながら打ち下ろされる。的確に守備の薄い場所を狙ったスカルブレイカーは、すんでで割り入ったヴィットリオによって防がれる。
「効かないね……攻撃が単純すぎるんだよ!」
 啖呵を叩きつけつつ、白色の炎で周囲を包み、瞬く間に傷を治癒するヴィットリオ。限られた攻撃手段しか持たぬ敵に対して、事前の防備は万全だった。
 すかさず飛び出したのは、髑髏仮面を装着した竜人。一息で距離を詰め、強化された竜の右腕を叩き込む。
「竜が相手だ、かかって来な挑戦者。咬み千切ってやるからよ」
 挑発と、剛腕の放つ威圧感に、一瞬、エインヘリアルの瞳が暗い闘志を燃やしてぎらついた。
「そこや、痺れろ!」
 敵が前衛に気を取られている隙を突き、ナギが死角から瞬間的に肉薄した。鋭い旋刃脚が、敵の足の関節に的確に叩き込まれる。
 ジョーは黄金の果実を実らせ、周到に耐性を振り撒く。それに合わせて近衛木・ヒダリギ(シャドウエルフのウィッチドクター・en0090)も紙兵散布で耐性付与を盤石にしていく。
「ぼっくん、いってくるにゃ!」
 ケーシィは、ゴーイングオーバーで魔方防御を食らい尽くす力を前衛に付与しながら、ミミックを敵へと投げつけた。投げられ慣れているぼっくんは、着地と同時に鮮やかな(ちょっとだけ待遇に対する憂いを含んだ)動作で敵へと食らいつく。
「サイレンナイッ、フィーバァァァァッ――!!!」
 感情を含まぬ語り口から一転、ベースギターを激しくかき鳴らすウルトレス。疾走感溢れるデスラッシュ・サウンドが、後衛の攻撃的衝動を高めていく。
 宝玉に宿る龍の気を解放しながら、郷里は名乗りを上げる。
「十獣が一匹、干支郷里……名乗れよ、名があるならな」
 問われ、エインヘリアルは口の片端を皮肉げに吊り上げて嗤った。
「つまらねぇこと訊きやがって。ま、そうだなぁ……『マーダー』とでも呼んでもらおうかぁ~?」
 しゃあしゃあと『人殺し』を名乗る敵へ、郷里は表情を変えぬまま、暴風の力を纏う高速の貫手を無言で放った。
「行きます……ッ!」
 幸は身の内にある衝動を解放しながら、凶暴な旋刃脚を叩き込む。
「っは、いいねいいね、熱いねぇッ――こっちもいくぞオラァッ!!」
 黒斧が呪力を輝かせ、強烈なルーンディバイドを竜人へと振り下ろす。『怒り』に引きずられたというより、いっそそれに合わせて攻撃を一人に集中させてしまえ、とばかりの行動だった。
 しかし直後、ジョーの蹴り技がマーダーの背部を襲った。
「どうした? 俺はコッチだぜ? 捉えてみろよ!」
 目にも留まらぬスピードで縦横無尽に周囲を駆け巡りながら、何度となく一点に蹴りを集中させるジョー。ビハインドのマリアも加勢し、確実に敵を足止めする。
 全撃あまさず浴びせられ、マーダーは凶悪に舌打ちを放つ。歪む眼差しの奥底には、確かに、新たな『怒り』の炎が色づいたようだった。

●ドブに捨てる命
 戦いは激しさを増していく。
 恵まれた体躯で敵へと立ちはだかるジョー。竜人は仲間の攻撃に重ねて攻撃を叩き込みつつ、皆が立ち回りやすい状況作りに余念がない。ヴィットリオは堅実な命中を意識し、ケーシィとヒダリギは状態異常の治癒に従事。ナギは敵への行動阻害に注力、幸は攻撃力に枷をかけ、ウルトレスは手数の多さを活かす氷結の付与、郷里の斬撃はそれらを増幅させていく。
「はははッ、あー痛ぇ痛ぇ」
 マーダーは速やかに破壊のルーンを発動させた。魔術加護を打ち破るルーンの力は、付与された即座にケルベロス達の攻撃によって破壊されるも、削がれた体力は瞬時にして大幅に取り戻している。戦いを長引かせる意図も明らかに、マーダーは嗤う。
 マーダーの凶暴性は、異常の一言だった。
 血に飢え、戦いに飢え、歪んだ悦楽を求め続ける。時に自身より吹き出す血さえ愉しみながら、しかし決して満たされる事は無い。
「反省の色ってもんがねえなこのハゲ。こんなのがいる辺り、エインヘリアル連中のレベルもたかが知れてるってもんだ」
 収監されていたにも関わらずこの態度というのは気に食わない、よし殺す、と短絡思考で雑な闘争心を燃やし、轟竜砲をぶっぱなす竜人。
「生きてるぽいイグニス王子の差し金なのか、それとも別の王子が指揮官になってやらせてるのか……どっちにせよ、こんなイカれた奴らを使って来るなんて迷惑極まりない……ね!」
 呟きつつ、ヴィットリオは達人の一撃を叩き込む。
「ああいう「戦いを遊び感覚でやるヤツ、ナメてるヤツ」は大嫌いにゃ!」
 素直に憤りながら、ケーシィもフロストレーザで応戦する。
「隙だらけやな! 雁字搦めにしたる!」
 余裕を見せる敵へ、ナギは関節への的確な指天殺を見舞うと、素早くその場を退いた。
 ケルベロス達の猛攻を幾度となく浴び、徐々に傷を増やしながら、しかしマーダーの愉悦は留まる所を知らない。
「あーくそ、愉しいなァおい! なかなか死なねぇ敵とヤるのもさァ!」
「殺させないし、死ぬ気もない。でも、死に片足を突っ込むくらいならいくらでも」
 降魔真拳を叩き込みながら、郷里はふと、敵に訊ねる。
「なぁ……お前にはそういう覚悟はあるか?」
「アァ?! 命なんざ、使い道は一つだ。戦えッ!! 戦って戦って戦って、ドブに捨てっちまえ!!」
 覚悟などとは程遠い哄笑。ただ刹那的に享楽ばかりを追い求める、本物の戦闘狂。
「ならば、あんたの命もドブに捨ててもらおう」
 淡々とウルトレスが言い放つと同時、弦をタッピングする動作に合わせて、腰元のバスターライフルが凍結光線を照射した。
「かはっ……」
 断続的に氷結効果に晒され、マーダーは小さな霜を吐いた。

●人知れぬ勝利
 強烈な存在感と苛烈な攻撃を放つマーダーだったが、戦いの手応えは確実にケルベロス達の優位を示していた。
 元よりマーダーの攻撃手段は、単体にしか対応できない上、接近戦に特化した、非常に偏ったもの。二名のディフェンダーから重ねられた『怒り』による標的誘導は、選択の自由となけなしの戦術をほぼ封殺してしまった。そして着々と蓄積されていくダメージと大量の状態異常。もはや、敵に勝ち筋はない。
「やっぱ戦争ってェ、数がモノ言うからなァ? 一人で戦争とかほざいた時点で負けてンだよなァ、キヒヒッ」
 螺旋氷縛波で氷結の追い討ちをかけながら、フィジールが笑った。
「チィッ!」
 『怒り』に引きずられるように斧を振るうマーダー。しかしその軌道は空振り、黒斧は屋上のコンクリートを豪快に抉った。
「テメーの斧は戦えねえ奴しか壊せないのか?」
 回避に成功したジョーは、挑発しながらハウリングフィストをお返しする。
 敵の死角となったその背後から飛び出したのは幸。コンクリートに沈む斧の上を跳躍し、マーダーの背後へと急降下する。
「斬り、殺ス。――ああアアッ!」
 欲望に忠実に振る舞う敵への憤りと、少なからぬ羨望――あざなえる想いを籠めた斬り下ろしが、大刀より放たれる。
「武器に頼りっきりだから、そうなるんだよ!」
 全身全霊のグラビティブレイクを叩き込むヴィットリオ。続けざま、ライドキャリバーのディートが激しいスピンで追随する。
「どの世界でも一緒だぜ。罪を犯せば捌かれる。そいつがルールだ。分かったらさっさと死んどけや、なぁッッ!」
 竜人はヌンチャク型如意棒で、構え直された敵の黒斧を捌きながら、深々と一撃を叩き込む。
「往生しいや! ガルド流、竜嚇散!!」
 芯を見極め、攻撃を繰り出すナギ。ライトニングロッドが敵の足を貫き、動きを止める。
「戦争なんざ、カンタンなのにゃ」
 馬鹿がたった一人で調子に乗ってる戦争、戦闘狂史上最悪のイージーモード――マーダーの劣勢を皮肉るケーシィ。
 マーダーは苦痛を誤魔化すように嗤った。
「ハッ、こんな子猫ちゃんがなァ……!」
「――全力で死ね。慈悲はないよ」
 瞬時にして語尾を捨て、ケーシィは冷え冷えと吐き捨て、ケイオスランサーを繰り出す。
「覚悟が理解できないお前に、俺達から何も奪うことは出来ない。……死に逝くお前に、その斧はもう、無用の長物だな」
 火力を乗せた一撃でマーダーの魂を食らいながら、郷里はちらりと黒斧に視線をやった。もはや戦いの熱を与えられる事もないであろうそれを、かすかに憐れむように。
 ウルトレスのチェーンソーが唸り、さらに敵の負傷を夥しく増大させる。傷だらけになったマーダーは、肩で息をつき、額から流れる血に顔を赤く濡らしながら、それでもニィィィと口元を歪めた。
「……あーあー認めてやるよ。テメェらは大した敵だ」
 落ち窪んだ眼球が、限界まで見開かれ、ギラギラと輝く。
「――オレ様の命を捨てるには、ちょうどいいサイズのドブってもんだぜェェェェッッ!!」
 二挺の黒斧が高々と掲げられ、振り下ろされる。全身全霊の一撃を、ジョーは全身で受け止めながら、しかし耐えきった。
「っ……どうした? そんなもんじゃ、俺はまだまだ倒れんぞ!」
 敵の余力を見切り、渾身の漢牙龍星脚を繰り出すジョー。
 流星降り注ぐが如き光景の内側で、醜悪な絶叫を解き放ちながら、マーダーは絶命した。
 カラリ。乾いた音を立てて、一挺の黒斧が屋上の床に落ちる。
 静けさを取り戻した屋上の中央で、仁王立ちになった『人殺し』の死体は、血液のように融け崩れ、消え果てていく。握りしめられたままのもう一挺を道連れにして。
「屋上ゲリラライブ、終了」
 ベース弦を素手で引き千切り、あの世でゆっくりと休むといい、とウルトレスは呟いた。どんな意図であれ、自身が捨て駒である事を知りながら、最後まで命を賭して戦った事に対しては、敬意を表しても良いだろう。
「ふううゥぅぅ……」
 幸は昂ぶった気持ちを落ち着かせながら刀を納めた。たっぷりと間を置いて、一度駅前広場の平常な様子を確かめると、仲間達を振り返る。
「それじゃあ……帰りましょうか?」
 静かに屋上を後にしたケルベロス達がいた事を……彼等がどれほどの死闘の末に平和を勝ち取ったのかを、駅前を行き交う人々は知らぬまま、日常の喧騒を享受していくのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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