早朝、埼玉県山中の合宿所。激しい轟音と振動が、宿泊施設で眠る者達を残らず目覚めさせた。彼等の眠りを妨げたのは、バスターライフルを携えた蒼い人型のダモクレスだ。
挨拶替わりの射撃によって入口付近で朝の準備をしていた施設スタッフ達を葬ると、ダモクレスは滑るように施設内を進み始めた。悲鳴を上げて逃げ出す者を速やかに撃ち倒し、室内に留まる者も見逃さずに仕留めてゆく。
「もう少しは楽しめるかと期待したが、所詮は烏合の衆か」
バスターライフルを降ろし、独り言つダモクレス。辺りには静けさのみが残った。
「──任務完了。生命反応……無し。これより次なる任務地へ向かう」
「またしても『ディザスター・キング』配下による襲撃事件が起きてしまいました……」
目を伏せたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の口から出た言葉に、集まったケルベロス達の間から悔し気な声が漏れる。
「襲撃者の名はオレヴ・ケホリーム。高速戦闘特化型のダモクレスで、『蒼い鴉』との異名も持ちます」
ダモクレスは埼玉県の山奥の合宿所を襲い、そのスタッフと合宿所を用いた社員研修に参加していた社員、総勢30名を皆殺しにしてしまったのだという。
「残念ながら今回の襲撃は阻止できませんでしたが、このままこのダモクレスを放置するわけにはいきません。よって、次の襲撃場所へと山中を移動しているところを皆さんに叩いてもらいたいんです」
戦場となるのは埼玉県の山中。周囲に人気は無いとのことだ。
ダモクレスの目的はグラビティ・チェインの略奪であるため、迎撃時には相手を逃がさないような工夫が必要になるだろう。戦場からの離脱が困難と判断すれば、その後は離脱を目論むことなくケルベロスとの戦いに専念するはずだ。
「オレヴ・ケホリームは戦闘を楽しむタイプらしいので、そこをつけば良いかもしれませんね」
もっとも、相手は敏捷に長けたダモクレスだ。俊敏な身のこなしで翻弄してくるに違いない。くれぐれも油断は禁物だ。
「犠牲となった社員の方々は都会を離れた山奥の合宿所での厳しい研修の最中で、中には昇進や結婚を控えた方もいらっしゃったようです。これ以上悲しむ人を増やさないよう、皆さんの力が必要です。どうか、速やかな討伐を」
セリカの言葉に力強く頷くケルベロス達。それを見て、セリカはようやく表情を和らげるのだった。
参加者 | |
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結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327) |
オーフェ・クフェロン(友を朱に覆隠す機人・e02657) |
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883) |
永代・久遠(小さな先生・e04240) |
メドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102) |
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●
清涼な風が頬を撫でる。普段ならば心地よく感じて目を細めていただろうが、今日はどうにも勝手が違った。
(「うう、恐い、怖い……」)
白い毛並みのウェアライダー、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は、身震いしながら山中を慎重に進んでゆく。頭上の木々の合間から覗く空には雲が垂れ込んでいた。
今感じている恐怖は、ダモクレスの犠牲となった人々が味わったものと比べれば小さいものだろうが、
(「震えが止まらない……でも、これ以上犠牲を出すわけにはいかない……!」)
ここからでは姿が見えないが、仲間のケルベロス達も散開し、それぞれダモクレスを捜しているはずだ。
景色に溶け込むような迷彩服に山岳用靴を装備したレオナルドは、目を凝らして索敵を続けるのだった。
足早に進む兎のウェアライダー、クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)の瞳には、怒りの色が滲んでいた。デウスエクスによって天寿を全うすることなく未来を奪われた人々と遺された者達の嘆きを思えば、怒りは心の奥底からとめどなく湧いてくる。
足元の植物はクルルを支援するかのように道を開け、彼女の歩みはどんどん速まっていく。しかし、いまだダモクレスを見つけることはできずにいた。
(「おや……あれは……?」)
ターゲットを真っ先に捕捉したのは御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)だった。
目の前の細い山道を疾駆する、武装した蒼い機体。全体的にシャープな形状であり、脚部と腕部は細い。頭部はさながら嘴といった趣だ。
(「死線を潜ってきた輩の臭いがするな──」)
己と近しい存在との戦いを控え、白陽は薄く笑いながらインカムを通じて仲間達を呼び集めるのだった。
●
白陽の呼びかけがあったものの、まだ仲間は全員揃っていなかった。
「できればここで叩きたいところですわね」
木陰に身を潜めるクルルが小声で呟いたが、そのためにはもう少しだけ時間稼ぎをする必要があった。
「オレヴ! 私だ、ようやく見つけたぞ!」
叫びとともにダモクレスの前にその身を晒したのはオーフェ・クフェロン(友を朱に覆隠す機人・e02657)。オレヴ・ケホリームとは浅からぬ因縁を持つレプリカントだ。
大声で呼びかけられたオレヴは足を止め、バスターライフルを構える。
「誰だ、貴様は?」
銃口を向けながら問う。
「この姿では初めてだろうが、因縁の決着をつけに来た、と言えば察するだろう?」
幾許かの沈黙。そして、
「──成程。隊長殿が屈辱の上塗りを重ねに来たという訳か」
嘲りを帯びた声色。
「かつてのようにはいかんぞ」
ちらと横目をやれば、ようやくダモクレスを包囲する仲間達の配置が整ったようだ。
「相手は隊長殿だけか? いや……違うな。兵を伏せるならば……」
言いつつ銃口を素早くいくつかの木陰や茂みに向けるオレヴ。その先にはいずれもケルベロス達が潜んでおり、一同の背筋に冷たいものが走るのだった。
(「そろそろ頃合いだな……」)
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)はオレヴの背中にコインを投げつけた。仲間達へ向けた襲撃の合図だ。
オレヴは即座に反応し、振り向きざまの射撃によってコインは撃ち抜かれてしまったが、ケルベロス達は構わずに躍り出る。
「一般人相手よりも、俺らの方が戦いがいがあるってもんだろ?」
長短二振りの斬霊刀を抜き放ちながら綾鷹が言えば、
「そうそう。弱い者いじめよりも私達と楽しみましょう?」
眼光鋭いレプリカント、メドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102)が続けて挑発する。
「心遣い感謝する。ならば礼として、瞬く間に殲滅してさしあげよう」
言うが早いか、蒼い光の乱れ撃ちがラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)とオーフェを襲った。
「くっ……やはり一筋縄ではいきそうにないですねえ」
激しい衝撃に思わず膝をついたラーヴァ。しかし、言葉とは裏腹にレプリカントの鉛色の大兜から漏れる炎はその闘志を表すが如く勢いを増すのだった。
「オウガ粒子装甲、展開しますっ」
小柄なオラトリオ、永代・久遠(小さな先生・e04240)が羽織った武装白衣が翻る。緑色に光輝くオウガ粒子が放出され、綾鷹、久遠、メドラウテの超感覚を呼び起こす。
「うおおおっ!」
刀を強く握り締め、咆哮と共にレオナルドが神速の突きを繰り出した。しかし、オレヴの滑るような挙動により紙一重で避けられてしまう。
(「うっ、速い! もっと落ち着いて攻めなければ……」)
ケルベロス達はオレヴの機動力を削ぐべく果敢に挑んでゆくが、縦横無尽に戦場を疾駆するダモクレスに対し大きな成果は得られないまま時が流れてゆくのだった。
そんな中、自信有りげな笑みを浮かべながら戦う白陽は一撃離脱を繰り返し、ダモクレスに少しずつではあるが傷を負わせていた。その奮闘に触発され、
「わたくしも負けてられませんわ!」
クルルの攻性植物が蔓触手と化し、オレヴを締め上げるべく殺到する。だが、この攻撃も同じように避けられ──避けられはしたが。
「ぬぅっ!?」
突然の足元の爆発に、大きく身を傾がせるオレヴ。見下ろせば、機体のあちこちに高粘着性の液体が付着している。オーフェの放った地這型移動地雷の副次効果によるものだ。
「──解っていたさ、そちらに逃げるとな。スクリプトユリウス──懐かしい名だろう?」
「フフフ……面白くなってきたな」
ダモクレスの上体が愉快そうに揺れた。
●
蒼い閃光にメドラウテが射抜かれたのを横目で見ながら、久遠は前線に立つ仲間達の超感覚を覚醒させてゆく。
「お返しはきっちりさせてもらう!」
メドラウテは砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを構え、しかと狙いを定める。
「ええい、ちょこまかせずに大人しくくらえっ!」
勢いよく放たれた竜砲弾は見事オレヴに命中し、その胸部装甲を大きく剥いだ。すかさず綾鷹が追い討ちをかけ、オレヴは唸りながら後退する。
好機到来とばかりにオーフェとラーヴァが仕掛けたが、惜しくも紙一重の旋回で躱されてしまった。
「舐めてもらっては──」
一旦距離を置いたダモクレスが再びケルベロス達に肉迫する。右に左に揺さぶりをかけ、気づけばクルルの脇腹に銃口が突きつけられていた。
「──困るな!」
容赦のない接射。クルルは衝撃に吹き飛ばされ、大木に思い切り叩きつけられてしまった。
「あううっ!」
へたり込み、意識を失いそうになるのをなんとか堪える。
「気丈だな。だが次は耐えられるかな?」
休む間もなく追撃が迫る。しかし、それを遮る者があった。頭部と正気を地獄化した、バケツヘルムのレプリカントだ。
「次ですか? お次は捕食タイムになっておりますよ」
クルルの窮地に駆け付けたラーヴァが勢いよくブラックスライムを放つ。スライムは瞬く間に膨張し、オレヴを丸呑みにしてしまった。
「さあ、そのまま消化されてしまってもかまいませんよ……おやおや、お早いお帰りで」
スライムを振り払ったオレヴはライフルを乱れ撃ち、メドラウテと綾鷹は少なからぬダメージを受けてしまう。
すぐさま、久遠はより傷の深いメドラウテを癒すため魔術切開とショック打撃を行使し、回復役の補助としてレオナルドが溜めた気力によって綾鷹を癒す。
「まだです! 倒れるならば、戦いの後です!」
久遠の言葉に頷き、ケルベロス達はなお粘り強く攻め続ける。しばらくするとオレヴの機動力にも翳りが見えてきた。様々な対策が実を結び始めたのだ。
(「蒼鴉の翼を引き裂いた、といったところか」)
綾鷹の放ったオウガ粒子によって超感覚を呼び起こされながら、次なる攻撃の機会をうかがう白陽。戦いの終局は近い。おそらく誰もがそう感じていた。
●
「やらせませんわ!」
オレヴがオーフェを狙った射線に割って入り、クルルが身代わりとなって蒼射を浴びた。
オレヴの動きに当初ほどの機敏さは見られなくなったものの、対するケルベロス達も疲労の色が濃い。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
居合いの構えから、矢継ぎ早に斬撃を繰り出すレオナルド。反応が遅れたオレヴはその斬撃をもろに喰らい胸元が深く裂かれ、大きく身を傾がせた。
その背後から白陽が跳躍し、ダモクレスの頭部に炎を纏った蹴りを叩き込む。
炎による攻めはこれのみに留まらず、
「我が名は熱源。炎をお見せ致しましょうか」
ラーヴァが大げさな手振りと共に言うや、可燃液を取り付けた矢と高熱を宿した矢が雨あられと降り注ぐ。二種が混ざり合って炎の海が展開され、オレヴはその中で悶えるのだった。
ようやく可燃液が燃え尽き、炎の海から脱したオレヴの眼前で、オーフェが地を蹴って跳び上がる。
「隊長殿、そろそろ決着をつけようか!」
機体のあちこちから煙を上げながらも、オーフェを迎え撃つ体勢をとるオレヴ。
重力の乗った煌めく蹴りと蒼い閃光が交差する。双方とも傷を負ったが、
「渾身の一撃では無かったな……俺を……愚弄するか」
着地した相手に恨み言のような言葉を投げるダモクレス。
「私自らの手でとどめを刺してもらえるとでも思ったか?」
背中合わせで言葉を交わす二人を見やりながら、綾鷹が刃まで黒く染まった太刀をゆっくりと構える。
「あばよ、俺の前に二度と出るんじゃねぇ」
振り下ろされた闇より深き漆黒の霊力が、オレヴの胴体を斬り裂いた。激しく火花が散った。
「これがお前への懲罰だ──」
力無く崩れ落ちるオレヴ。それを振り返ることもなく、オーフェは颯爽と歩き出すのだった。
「クッ……まだ戦場を駆け足りぬ……が……」
横倒しになったオレヴは最期の言葉を吐くと、そのまま動かなくなるのだった。
(「仇は取りましたよ……皆さん、どうか安らかに……」)
心中で犠牲者に報告し、そっと目を伏せるクルル。
メドラウテが大きく息をついて空を見上げれば、雲は晴れ、山中には静寂が戻っていた。
こうしてケルベロス達はダモクレスによる脅威を除くことに成功した。この事件は氷山の一角にすぎなかったかもしれないが、これからも地道な対処を続けること、そして一刻も早い抜本的な解決を胸に誓いながら一同は帰途につくのであった。
作者:舎里八 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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