テレビウムの模造品

■リプレイ

　ひっそりと静まり返った、ビル街の廃墟。
　朽ちゆく景観を眺めながら、ケルベロスたちは歩を進めていく。
「テレビウムを模した量産機とは……敵は誤認による攪乱を狙っているのでしょうか？」
　セデル・ヴァルフリート（秩序の護り手・e24407）は足元や周囲の壁に気を配りながら、こう続ける。
「まあ今は分かりやすい見た目ですが、いずれもっと精度が上がると……。いえ、ともかくは目の前の敵を倒さなければいけませんね」
「そうね……できれば先手を取りたいけれど」
　仲間の後ろにつくリシティア・ローランド（異界図書館・e00054）は、無表情のまま足音を立てずに歩いていく。
「はー……めんどくさ……」
　ホワイト・ダイヤモンド（面倒臭がりな妖刀持ち・e02709）は不機嫌そうに顔をしかめ、そうぼやく。
「じゃあすぐに終わらせましょう。見つけたら叩き斬ってやるわ」
　野太刀を抱えたブラック・パール（豪腕一刀・e20680）は、仲間の最後尾で後方警戒にあたっていた。
「くぁ、ポンコツテレビの群れとかとか、ここはキッチリ壊して粗大ゴミの日に捨てるべきのオチね～」
　難解な口調でそう話すのは、ヒナタ・イクスェス（世界一シリアスが似合わない漢・e08816）。隠密系ミッションにも関わらず赤いペンギンの着ぐるみというやたら目立つ格好であったが、全力で気流を放って存在感を消していた。

　地上班がしらみ潰しに辺りを捜索する一方、他の仲間は空から敵の姿を探していた。
「何の酔狂かは知らんが、私たちの友たるサーヴァントの姿に造られたダモクレスを放置するつもりはない」
　フィスト・フィズム（白銀のドラゴンメイド・e02308）は竜翼をはためかせて辺りを旋回しながら、そうつぶやく。今のところ地上班からの連絡はない。
「いい眺めじゃ……廃墟を見ていると胸が切なくなるのう」
　立派な白髭をたくわえた山内・源三郎（姜子牙・e24606）は、眼下に広がる広大なビル街を眺める。無人の街というのはどこか物悲しく、違和感がある。
「ん……あれはダモクレスじゃろうか？」
　源三郎が指さす。よく見ると立体駐車場の屋上で、プラズマテレビウムがたむろしていた。
　サーヴァントのテレビウムに似せた外見だが、その正体は量産型のダモクレス。外見を真似て作った模造品に過ぎない。
　空を飛んでいたケルベロスたちはすぐに地上の仲間へ連絡を入れ、合流してから全員で立体駐車場へと向かった。
　階段を駆け上がって屋上に出ると、ケルベロスたちは武器を手にして走り出し、奇襲を仕掛ける。
「……予想よりもかわいくない。お陰で、遠慮なく戦えそうね」
　枝折・優雨（チェインロック・e26087）はぼんやりとした表情のまま、ショートの黒髪を揺らして駆けていく。

　ケルベロスたちが至近距離まで接近した時、ようやくダモクレスたちは気が付いたらしく、一斉に振り返った。
「ヒャッハー！　粗大ゴミ回収しに来ました～のオチ」
　真っ赤な残像をひらめかせながら、ヒナタは駆ける。
「くぁ、屋上に隠れるのはいいけど、上からは丸見え～のオチ」
　ヒナタは言いながら敵群へ突っ込み、ものほし竿を振り下ろしてBSを撒き散らす。
　凄まじい旋風が沸き起こり、前衛のダモクレスは風圧に煽られて転倒した。攻撃を終えたヒナタは、ペンギンみたいに手をパタパタさせながら素早く跳び下がる。
「これ以上ミッションの邪魔はさせません！　ここで全機破壊させて頂きます！」
　セデルは、転倒した敵へ向けて御霊殲滅砲を放つ。手の平から放たれた光弾が空中で炸裂し、空間を焼いていった。
　探索を入念に行って奇襲攻撃を成功させたケルベロスたちは、戦闘の序盤で一方的に攻撃を加え、全力でグラビティを叩き込んでいった。
　燃え上がる爆炎の中から、やがてダモクレスたちが飛び出してきた。
　そのうち三体のダモクレスが工具を突き出し、セデルめがけてプラズマ光線を放つ。
　だがリシティアが前へ回り込むと、水の刃を持つ鎌を振り抜き、飛来するプラズマ光線を切り裂いた。
『呼び出したるは我が怒りの具現。激情の叫喚、怒りの日』
　リシティアが詠唱を紡ぐと、辺りに重力場が発生した。彼女が片手を振り上げた瞬間、青空が一瞬煌めき、轟音と共に雷が光る。
「赫き稲妻よ、奔れ」
　ダモクレスが避ける間もなく雷が落ちてきた。光と熱の奔流が広がり、巻き込まれたダモクレスのうち一体が力尽きて倒れ込む。
　リシティアは硬い表情のまま、手をおろす。彼女の腕にはまだ稲妻の残光がバチバチと光っていた。その目つきからして敵に関してはあまり興味はなさそうだが、依頼なので手抜かりはない。
「ん……いくよー」
「まずは各個撃破ね」
　続いてホワイトとブラックが飛び出す。
　白と黒の影が敵へと迫り、ホワイトは刀とナイフ、ブラックは野太刀を振りかざし、それぞれ月光斬を放った。
　二人はダモクレスの硬い金属の体をものともせず、ばっさりと切り捨てる。
　そして源三郎が蒼く輝く手刀を振り抜き、ジュデッカの刃を放った。冷気が弾け、敵の足元が凍結する。
　一方、ダモクレスたちは工具にプラズマを宿し、全員同時に青い光弾を飛ばしてきた。その狙いは中衛のケルベロス。
　プラズマがほとばしり、周囲に青い光が煌めく。一撃の威力はそこまで脅威ではないが、集中砲火を浴びると危険だ。
　フィストは飛んできたプラズマ弾を刀で切り払い、その銀の目をカッと見開く。
『この目を見るがいい！　目を以って人を殺すナアァイエッの目を！』
　フィストはウイングキャットにヒールをさせつつ、ものすごい目で敵を見据えた。その圧倒的な目力に、ダモクレスは一瞬怯む。
　すると次の瞬間、フィストの瞳からジグザグの光線が飛び出し、ダモクレスたちへ襲い掛かった。
「なにっ……目からビームじゃと……！？」
　源三郎が驚愕する。
　ダモクレスたちは必死になって光線から逃げ回っている。
「神話の化け物『ナアァイエッ』の力があれば、このぐらい、容易いことだ」
　フィストはフフンと微笑み、なおも目からビームを飛ばし続ける。
「いつかの偽ケルベロス事件を思い出すわ。あれは螺旋忍軍が起こしてた事件だけど」
　優雨は足元に鎖を広げてサークリットチェインを発動し、中衛の味方の傷を癒していく。
「でも、もう少し似せる気力はなかったのかしら？　元のテレビウムは、かわいいのに」
　そう言って優雨はチラリと自分のサーヴァントに目を向けた。するとワイルドな山猫姿のビハインドが、ふかふかのクッションに横顔をうずめて、可愛らしい仕草でアピールをしてきた。
「いや、別に貴方にかわいさ求めてないから」
　それを見た優雨は、クッション越しに裏拳を放ってビハインドを思い切り殴り飛ばした。そして地べたに倒れ込んだビハインドは、なぜか嬉しそうにニヤニヤするのだった。
「なんで主人に殴られて喜んでるんですか！？　この子、Ｍなんですか！？」
　セデルが尋ねると、優雨は半目のままこう答えた。
「ああ……カッツェは多分、私の事ツンデレだと思ってるんです」

　なおも戦闘は続く。ケルベロスたちは、ちょこまかと動くダモクレスたちへ攻撃を加え、敵の数を確実に減らしていった。
「とっとと倒して終わらそー……」
　ホワイトは果敢に敵へと迫っていったが、思わぬ反撃を受けてしまった。
『耐えてみれば？』
　肩にプラズマ弾を受けながらも、ホワイトは両手にグラビティ・チェインを集め、拳の連撃を叩き込んでいく。ダモクレスが握っていた工具が砕け、彼女は顔色一つ変えずにしつこく打撃を浴びせていく。
　ホワイトは拳を振り上げてとどめの一撃を放ち、ダモクレスを粉砕した。
　無残にも破片が散る中、ダモクレスたちはホワイトめがけて一斉に突っ込んできた。
『さぁ……花を咲かせましょう……！』
　だがブラックは怯まず前へ出て、左手一本で野太刀を操り、紅桜を放った。
　長い純白の刃が一閃する。白い残光が煌めき、ダモクレスは真っ二つに両断された。
　すると、すかさず他のダモクレスが殺到し、工具を振り下ろしてきた。ブラックは野太刀の腹で辛くも受け止める。
「……っ」
　ブラックは両手で柄を握って押し込み、力づくでダモクレスたちを転倒させた。
「そこ動くんじゃないわよ、面倒くさい」
　リシティアはぼんやりとつぶやくと、手の平から竜の幻影を打ち出した。幻の炎が敵を飲み込み、焼き捨てていく。
「我らケルベロスを支えてくれるテレビウム様を模すなど、決して許しはしません！」
　セデルが駆け出すと、ダモクレスたちは彼女めがけてプラズマ弾を打ってきた。
　するとビハインドがセデルの前に出て、両手を広げて被弾を肩代わりする。
　ビハインドはなぜかちょっと嬉しそうに体をくねらせるのだった。
「……あえてスルーしましょう。……ていうか、本物のテレビウムはもっと可愛いです！　外見を真似るなら、そこをもっと重視してください！」
　セデルはそう注文をつけてから、スターゲイザーを放った。飛び刺さり蹴りと共に眩しい光が飛ぶ。
　その蹴りを顔面に受けたダモクレスは、倒れ込んでズザーッと滑っていった。セデルは敵の顔に足を押し付けたまま、一緒に滑っていく。
　そして反対側からフィストが飛び出し、竜爪撃を放った。二つのグラビティをほぼ同時に叩き込まれたダモクレスは、いともたやすく砕け散り、鋼鉄の破片となって転がった。
　その時、残る二体のダモクレスが、自らの体に青い稲妻を宿してヒールをかけた。
「くぁ～……回復ならこっちだって負けてないよ」
　ヒナタが両手を広げると、どこからともなく巨大ステージが出現した。
「イッツあ、ショ～～タ～～イム！！」
　ヒナタはぴょこぴょこ駆けて壇上に上がると、小さなペンギンたちと一緒に謎のダンスを踊り始めた。ヒナタは全身全霊で癒しオーラを振りまいて味方を回復させていく。
「我を天に産み落とした星よ、生命の加護を我と我に味方す者へ！」
　さらにフィストもスターサンクチュアリを発動し、前衛を援護する。
　と、そこでダモクレスたちは突然くるりと背を向け、屋上から飛び降りた。
「くぁ、なぜ逃げるの！？　そんなにワタシの踊りが気に食わなかったの？」
　ヒナタは慌てて屋上からダイブし、鳥のように手をばさばさ動かす。
　他の仲間も彼に続き、立体駐車場の屋上から次々と飛び降りていった。アスファルトの路地に着地したケルベロスたちは、すぐさま走り出して敵を追走する。
　逃げ回られるのは厄介だが、敵のほうもかなり消耗している。追撃をかければ仕留められるはずだ。
「多分、踊らなくても逃げてたんじゃないでしょうか……？」
　そうフォローしつつ、優雨は敵の背中へ旋刃脚を叩き込んだ。瞬足の回し蹴りが炸裂し、ダモクレスは頭から地面に転がる。
　これで残る敵は一体。優雨がちらりとその姿を確認すると、今まさに仲間がとどめを刺そうとしていた。
『闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動――』
　源三郎は敵の眼前に回り込み、大きな数珠を掲げる。
『――彼の者の前に驟雨の如く撃ち付けよ！』
　鬼火がふわりと宙に漂い、黒い狼が二頭現れた。ダモクレスはとっさに工具の先からプラズマ弾を放ったが、狼はそれを払いのけて噛みつき、冥界パワーを流し込んでいく。
「超、エキサイティンじゃ！」
　源三郎が手を払うと、狼はポンッと音を立てて消え去った。最後の一体となったダモクレスは、力尽きて地面に倒れ込む。そのまま二度と起き上がることはなかった。

「……これ、片付けたほうがいい？」
　ホワイトは辺りの街並みを見渡す。不自然な破壊跡が少しばかり残っていた。
「元々ボロボロだったけど、そのまま帰るわけにもいかないでしょ。直していきましょ」
　ブラックは片手をかざしてヒールグラビティを発動する。街の破壊跡が発光し、少しずつ修復されていった。
「……サーヴァントを似せたダモクレスがもし他にもいるようなら、気が抜けないな……お前もそう思わないか？」
　と、フィストはウイングキャットのテラの頭をぐりぐり撫でる。想像するだけでも恐ろしいのか、テラはびくびく縮こまっていた。
　街の修復を終えたケルベロスたちは、静かに帰途につく。
　果てしなく広がるビル街の廃墟。彼らの背後には鉄屑の破片がいくつも転がっていた。

作者：氷室凛	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 4
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