堕落者のなり損ない

作者:幾夜緋琉

●堕落者のなり損ない
「……っ……??」
 視程はほぼ無い、薄暗闇に包まれた室内。
 気がついた男性は……実験台の様な所に横たえられていた。
 そして、男性が気を取り戻したのに気付いたのか……その下へと近づいてくるのは、仮面で素顔を隠したドラグナー。
「……喜びなさい、我が息子よ」
 その言葉に対し、息子……と朧に呟くが、ドラグナーは更に。
「息子よ。お前は今、ドラゴン因子を植え付けられた。植え付けられた事で、今、ドラグナーの力を得たのだ」
「しかし息子よ。お前は未だにドラグナーとしては不完全な状態なのだ。このままでは、いずれ死亡するだろう」
「だが、大丈夫だ息子よ。それを回避し、お前が完全なドラグナーとなる為には、与えられたそのドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺し、グラビティ・チェインを奪い取る必要があるのだ」
 ……そんな仮面のドラグナーの説明に、自分の身体を見返す男。
 その肉体の一部が、混沌化している状態に……己が最早人ではない事を認識すると。
「……まあ、いいさ。どうせオレは……この先惨めに死ぬしかなかったんだ。この力で、オレを侮辱した連中に、全力で仕返ししてやるぜ……!」
 と狂的な笑みを浮かべ、立ち上がるのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね? それじゃ、早速ッスけど、説明させて貰うッスね!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に軽く挨拶すると、早速。
「ドラグナーの一人、『竜技師アウル』によって、ドラゴン因子を移植された男性が、新たなドラグナーとなって事件を起こそうとしている様なんッス。ケルベロスの皆さんには、このドラグナーを倒して来て貰いたいッス!」
「この新たなドラグナーは、まだまだ未完成の状態と言うものの様で、完全なドラグナーとなる為に必要な大量のグラビティ・チェインを得る必要がある様ッス。さらに、彼はドラグナー化される前は大学生だった様なんッスけど、恋人に振られ、友人に裏切られ……散々な目に逢った結果として、その復讐と称して人々を無差別に殺戮しようとしているッス。急いで現場に向かい、未完成のドラグナーを撃破してきて欲しいんッスよ!」
 そして、更にダンテは。
「このドラグナーが荒逢われるのは、人が多く、学生の多い所……どうやら、明大前の駅前に突如現れる様ッス」
「幸いな事に、時間は深夜0時ちょっと前……駅前を歩く人はそんなに多く無い様ッス。とは酒を飲んだ帰りのサラリーマンさんとか、夜まで騒いでいる学生達やらもいるので、被害に逢いかねない人達は居ない訳ではないッス」
「現れるのは未完成ドラグナー一体のみで、その他に配下の者達が居る様ではなく、ドラゴンに変身する様な力も持っていない様ッス」
「しかしながら、恨みの力で以て、自分の死を厭わずに簒奪者の鎌で攻撃為てくる様ッス。攻撃種類はこの一つのみッスが、一撃一撃が強力ッスから、要注意ッスよ!」
 とダンテは最後に。
「このドラグナーとなってしまった彼を救うことは最早出来ないッス。でも、理不尽で無差別な復讐を行わせない為にも、皆さんにはこの事件を阻止してきて欲しいッス。宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の双銃猿忍・e29164)

■リプレイ

●自棄の果て
 不完全なドラグナーと、完全なドラグナー。
 竜技師アウルにより、ドラゴン因子を移植された男が、不完全体から完全体になろうと、大量のグラビティ・チェインを奪取しようとしているという……。
「-ム……復讐……か……」
 と、バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)が目を瞑り、こめかみを叩きながら呟く。
 ……ドラグナーの青年は、元々大学生だったと言う。
 そして、大学生活の中、恋人に振られ、友人に裏切られ……と散々な目にあってしまい、その復讐と称しての大量無差別殺人を犯そうとしている。
「辛かったんだろうね……同情はするな……」
「なんたる笑えぬ話よ。拙者も復讐の為に、螺旋忍軍と取引して力を得た身。よもや同類の相手をする日が来ようとはな」
「そうね……友達に裏切られたりとか……その境遇には同情する……けど、それは、何の罪も無い人を不幸にして良い理由にはならない……!」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)、岩櫃・風太郎(閃光螺旋の双銃猿忍・e29164)、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)らが言葉を紡ぐと、それに阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)が。
「まあ、この世界はある意味『壊れて』ますからね……一度滅んだ時に全てが歪んでしまったともいえますから、これ位の事は……普通にありそうで……」
 と龍城の言葉に、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)、バーヴェンも。
「ンー。まぁ、そうネ。恨み辛みに怒り狂って正気を失った事件は色々とありそうネ」
「ーム。復讐という甘美な果実に踊らされたのだろうな……哀れな。オレたちの手で止めねばな……」
「そうですね……ただ、怒りと憎しみに染まってあるべき姿になり得なかったといっても、今を生きるものとしては放置はできませんので……しっかりと討伐させてもらいます」
 そしてシャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)、山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)二人が。
「そうだね。ドラグナーのなり損ないだとしても油断しないわ。きちんと葬ってあげないとね」
「ええ。ドラグナーになりきってしまう前に、人殺しになってしまう前に、必ず貴方を止めてみせます」
 そして、瑠璃、リーナ、風太郎らも。
「無差別に人殺しをするなら、止めなきゃならない。ごめんね。怨むなら幾らでも恨んでいいよ……」
「ここで必ず止める……絶対に……!」
「うむ。殺す事でしか救えぬ。赦せ」
 静かに、己の怒りを静めるが如く、螺旋忍軍の仮面を装着し……ドラグナー討伐に、町へと向かうのであった。

●日の境に暴れる影
 そして、深夜0時の刻が迫る頃。
 ……ケルベロス達は、東京は新宿近くの明大前駅に到着する。
 間もなく終電という頃合いで、酒に酔ったサラリーマンと、近くの大学に通う大学生達なども、大声を上げたりしながら歩き回っている。
 ……ケルベロス達は到着すると共に、明大前駅周辺から一般人達の避難を開始。
「ンー。余り時間が無いからネ。要所要所に張り巡らせるヨ」
 とパトリシアはキープアウトテープを、駅の入口や繁華街の入口辺りをメインに張り巡らせていく。
 ただ、酔った人とかが。
『えー、何だよー。こっちいけねーのかよー』
 と不満を口にしたりする人が出てくるのだが、そんな一般人達に瑠璃が。
「すいません……でも、皆さんの安全の為に必要なんです。お願いします」
 と頭を下げて依頼する一方、アルティメットモードを展開しながら、ビートが。
「大丈夫です! なんとかなりますから、だからここから避難して下さい!」
 と人当たり良く、一般人達を避難させていく。
 ……そして、あらかた一般人達が避難し、時計の針も深夜0時を丁度過ぎた頃……。
『くそっ……何だよ、いねえじゃねえか!!』
 舌打ちし、叫ぶ男。
 その声の方を見ると……人とドラゴンが融合したような姿の男……ドラグナー。
 そして、ドラグナーはケルベロス達の前に到着すると、そんなドラグナーに対し。
「おお、愚かなものヨー。ワタシはアナタを責めたりはシマセン。アナタの殺意も敵意も絶望も快感も、ゼーンブワタシは通った道なのデース」
「ドーモ、デウスエクスに救いを求めた同類よ。エイプニンジャでござる。駅周辺への迷惑行為はや直ちにやめて頂こうか?」
 とパトリシア、風太郎が宣言。更に風太郎は頭上に照明弾を打ち上げ、周囲を照らす。
 その宣言に対し、ドラグナーは。
『あぁ? てめぇら何だよ? お前達を殺してやろうか?』
 と睨み付ける。でも、そんなドラグナーの言葉にパトリシアは笑顔のまま。
「マアマア。たっぷり同情して、こってり愛してあげマスよ。ワタシはぶち殺す事にかけてはアナタよりずっと年季があるってことを、その身体に刻んでさしあげマース。心行くまで味わってちょうだい!」
 と言うと共に、パトリシアが先手を切り、螺旋氷縛波を叩き込む。そして風太郎も、間髪入れずにバスタービーム。
 ドラグナーはその攻撃を喰らい、ぐぉっ、と苦悶の表情。でもすぐに。
『この、てめえら!! ふざけんじゃねーぞ!!』
 と怒り叫ぶ。
 でも、更に。
「……っ」
 その背後から、リーナが雷刃突を放つ。
 首元への一撃、すぐにその刃を振りほどくドラグナー。
 しゅたっ、とそのまま仲間達の所へ降り立つリーナが。
「……奇襲、暗殺はわたしの得意技……望んで得た技術じゃないけど、ね……」
 と宣言し、更にシャルロットも。
「そうだな。貴様の話は聞いている……振られ、裏切られたとな。だが、その程度の事で自我を失うなど、な」
 と言い放つ。
『くそ……てめえら、絶対に殺す。殺してやる!!』
 と、脳天まで怒りに包まれたドラグナーが、その手に備えた簒奪者の鎌で、目の前に立ち塞がる者を、がさっ、と斬りつける。
 かなり大振りに振り抜く一撃……その一撃を、己の身を呈して庇う風太郎。
 傷痕から飛び出る血飛沫……しかし、怯む事無く。
「中々強力な一手だな。しかし……甘い。それにお主の不遇は余りあるな……聞こう、お主の名は?」
 と、風太郎が敵の名前を聞き出そうとする。
 が、ドラグナーは。
『うるせえ!!』
 当然というべくか、苛立つ言葉で吐き捨てる。
 そして、傷を負った風太郎に、直ぐに瑠璃が後衛のメディックのポジションからサークリットチェインで盾と共にヒーリングを飛ばす。
 シャルロットは風太郎の前に立ちふさがるよう立つと。
「さあ、私達が相手だ。ドラグナーになるべくして、グラビティ・チェインを求めているのだろう? 私達はケルベロスだ……倒せば、貴様にとっては願っても無い力になるぞ?」
 と言うと共に、その斬霊刀を構え。
「竜の羽ばたきの如く、敵を圧倒し、翼風と共に散れ!」
 と『蒼眼竜の翼戟』を放つ。
 更に続くはビート。
「私は貴方の詳しい事情までは知りませんし、同情出来る部分もありますが……その行いを見過ごす訳には行きません」
 と言うと共に、放つサイコフォース。
 武器封じ効果を伴う一撃を、ジャマー効果で更に倍加。
 そして、残る前衛である、クラッシャーのバーヴェン、龍城。
「ーム……取りあえずは、こちらで行くとしよう」
「判りました。では……私は最初から仕掛けましょう」
 と頷き合うと共に、バーヴェンはインフェルノファクターで自分に壊アップを付与する一方、龍城は接近し、アイスエイジインパクトの振り落としを叩き込んで行く。
 ……そして次の刻。
 ドラグナーは、狂気と共に。
『くそっ……くそ、殺してやる!!』
 と一層の恨み辛みを口にし、鎌を大きく大きく振り回していく。
 今度はシャルロットが、その剣戟をその斬霊刀を構え、太刀筋を受け流し、地面へ。
 体勢を崩すドラグナーが転倒……すぐ、体勢を整えて立ち上がる彼は。
『ちくしょう。バカにしやがって!!』
 と顔を激昂させる。
 そんな彼へ、再度風太郎は、名を問いかける。
『ああ、杏だよ杏! 判ったか、オレの名前、しっかりと耳に残しとけ!!』
 ……根負けしたのか、それとも……うざったくなったのかは判らないが、自分の名前を口にする。
「そうか……杏殿か。その名前、確りと焼き付けた。では……こちらも全力でお相手するとしよう」
 と言うと共に、風太郎は熾炎業炎砲を全力で繰り出すと、シャルロットが攻勢捕食で攻撃。
 又、リーナの雷刃突に続き、瑠璃がエレキブーストで仲間達の壊UPを付与。
 そしてビートは。
「凍える白き虚ろの刃よ、楔となりて歩みを止めよ!」
 と霊光潜刃で斬り掛かる。
 そしてバーヴェン、龍城は上昇した攻撃力で以て、雷刃突と『碧皇耀炎斬』で斬りつけていく。
 ……そして、ドラグナーへ奇襲を仕掛け、十数分。
『グゥ……』
 と、片膝から崩れ墜ちるドラグナー……どうにか再度立ち上がるも、限界に近い事は間違い無い。
 ……そんなドラグナーに、風太郎が。
「貴様如きの鎌では、拙者は倒れぬぞ!」
 と言い放つ……それにドラグナーは。
『うるせえ……お前も、同じように復讐の力を利用してんじゃねえか!』
 と叫ぶ。
「確かにこの螺旋、一度は復讐の道具として使おうとした。だが今は、人々の心を護る為に使うと拙者は固く誓ったでござる。ゆえに、その信念は鋼よりも硬いと思い知れ!」
 と声高らかに叫ぶ風太郎。
 そして……そんなドラグナーへ、バーヴェンが。
「せめて祈ろう。汝の魂に……救いアレ!!」
 と『水龍天翔斬』の一閃が、ドラグナーの身を一刀両断に斬り裂くのであった。

●龍になれず
「……杏殿の無念、拙者が請け負った。だから今は、心安らかに逝くが良い」
 と、ドラグナーの消え行く姿を見つめながら……風太郎は一言。
「ーム……終わったか。せめて祈ろう。何時の魂に幸いあれ……」
 と、続き瞑目し、弔いを捧げるバーヴェン。
 リーナ、瑠璃も。
「……ドラグナーの力に縋った、哀れな男性の冥福を……」
「こんな事でしか助けられなくてごめん。来世では、良き人生を迎える事を……」
 と、なり損ないのドラグナーに、弔いの祈りを捧げて行く。
 ……そして、完全にその姿が消え失せた後。
「ーム。しかし、ドラゴン勢力……早く何とかしなければ被害者が増えるばかり……か……」
 とバーヴェンが言うと、ビートが。
「そうですね。竜技師アウルですか……また倒すべき相手が増えたのですね……」
 と呟くと、それにシャルロットが。
「所によっては定命化ドラゴンが襲いかかっている所もある様だしね。最近はドラゴン達の動きが色々と激しくなっている様だし……少し気合いを入れてかないといけないわね」
 と頷く。
 ……ともあれ、そんなドラゴン、ドラグナー達の動きは、これから先、注意していかなければならないだろう。
「まぁ、事件も無事に解決ネ。後は荒れた土地をヒールするネ」
 とパトリシアが仲間達へ提案し、周囲をヒーリンググラビティで修復。
 そして……一通りの回復が終わった後に、ケルベロス達は帰路へとつくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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