復讐は蜜の味

作者:ハル


 人生に絶望に絶望を重ねた男は、見知らぬ場所に寝かされていた。そこは、まるで地獄のような光なき空間。
「喜びなさい、我が息子」
 ならば、白い仮面を被った妖しい男は、地獄の閻魔なのだろうか。いや、もしかすると、それ以上に――。
「今、お前はドラゴン因子を植え付けられ、ドラグナーの力を得た」
 その意味が、男は最初よく分からなかった。
「だが、ドラグナーとして不完全な状態のお前には、必ず遠からぬ未来に死が待っているだろう」
 しかし、『死』という単語を聞いた瞬間に、男は自身の内に渦巻く力を理解する。そして、それが完全にはコントロールできない事も……。
「死ぬのは恐かろう? ならば、完全なるドラグナーとなる為に、力を振るい、人間を殺してグラビティ・チェインを奪いとらなければならない」
 狂ったように、笑いながら説明する仮面の男。慈悲はどこにもなく、ただ真実だけが告げられていた。最初から、戻れる道などないのだ。
「は、ははっ、いいさ、どうせ自殺するつもりだったんだ」
 乾いた声で男は笑う。妻に浮気をされていた。浮気相手は男の上司だった。妻を愛していたし、上司を尊敬できる人だと慕っていた。男にとって、家族と会社が生きがいだった。でも、どちらも嘲笑うように男を裏切った。
「ふ、ふざけやがって! そうだ、俺が死ぬ必要なんかない! 俺以外が皆死ねばいいんだよっ! は、はは、はははは、なんだ、それで全部解決じゃないか!」
 仮面の男の狂気が乗り移ったかのように哄笑し、部屋を出て行く男。
 パチパチパチ。
「素晴らしい!」
 その背に向け、仮面の男は拍手を送ると、ニヤリと笑うのであった。


「……酷い」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、その一言は発した後、しばらく言葉を出すことができなかった。しばらくして、ケルベロス達が全員集まったのを確認すると、ようやくセリカは口を開いた。
「……ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった男性が、深い絶望に犯されて凶行に及ぼうとしています」
 ドラグナーとなった男性は、まだ未完成と呼べる状態だ。完全な状態に至るには、大量のグラビティ・チェインが必要になると推察される。
「そのため、男性は自分の中にあるどうしようもない鬱屈とした感情、絶望に身を任せ、復讐と称して人々を無差別に殺戮を行おうとしているのです。皆さん、現場に急行し、未完成のドラグナーを撃破してください!」
 セリカは、敵ドラウナーに関する資料を配る。
「敵は、未完成のドラグナー1体のみ。配下や、元凶である竜技師アウルの存在は確認されていません。また、未完成ゆえに、ドラゴンへの変身能力は持ち合わせていないようですね」
 敵装備としては、簒奪者の鎌を装備している。
「その鎌で急所を狙い、時に生命力を奪う攻撃。それに加え、竜語魔法を行使してくるようですので、お気をつけください」
 現場は、岡山県の駅前で、時間は午後6時30分頃。
「これからの通勤、通学ラッシュを狙っていると思われます。幸いにしてピーク時までには少し時間があるため、ドラグナーが現場に出現と同時に避難誘導をしてあげてください。もしドラグナーが現れる前に避難誘導してしまうと、予知が変わってしまうので、その点はお気をつけください」
 逃走の可能性は皆無。命が尽きるその時まで、ドラグナーは襲いかかってくるだろう。
「駅にはこちらからの要請で、電車を一車両待機してもらっています。ドラグナーの姿を確認次第、駅員さん方を含め、その電車で一気に避難してもらう事も可能です」
 だが、その辺りは現場の臨機応変な判断もあるため、セリカはあくまでも一つの案として御一考くださいと頭を下げた。
「男性の苦しみ、絶望は理解できます……でも、だからとって無関係の人々にまで害を及ぼすのを黙って見ている訳にはいきません! 必ず止めてください!」


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
花筐・ユル(メロウマインド・e03772)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
ハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)
岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)
エナ・トクソティス(レディフォート・e31118)

■リプレイ


 岡山県駅前、午前6時30分。日の出まで、もう10分少々となった薄暗いそこでは、人々が忙しなく行き交っていた。
「愛した……尊敬した者に裏切られた彼を可哀想、と思うのは傲慢なのでしょうね」
 そんな人々に紛れるようにして、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は、白い息を吐きながら呟いた。
「(彼は自殺するつもりだった。それを人殺しにさせたのが……アウル。だけど……)」
 果たして、彼の意思の介在さえ曖昧な無差別殺人に、意味なんてあるのだろうか。古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)には、とても『ある』なんて言えなかった。
「もう戻れないなら、せめて止めてやらないとな」
 携帯で仲間とやり取りをしながら、翼飛行で周辺の状況に目を配る天音・迅(無銘の拳士・e11143)が言った。同情できる点も、できない点もある。だが、ケルベロス達にできる事は一つしかない。
「ええ、そうですね。悲しみの連鎖は、此処で断ち切らないといけません」
 花筐・ユル(メロウマインド・e03772)も、スッと目を細める。できるならば、彼の最後の本当の望みを聞いて、受け止めてあげられることを願って。
 そして――。
「見つけました、彼です。駅までは少し距離がありますね。ですが、皆さんからも目視できると思います」
 隠密気流を纏い、そう告げるエナ・トクソティス(レディフォート・e31118)の声は、すでに機械的な冷たさを宿している。
「分かった。こっちでも見つけた、すぐに行く」
 岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)もまた、竜の鱗を身に纏う異形の男を捕捉。その姿は、彼が未完成であることを示すように、酷く不格好で醜いもの。
 真幸とエナは、すぐに近くに居る者に合図を送り、そうでない者へは連絡して状況を伝える。
「では、ハインツさん、ビーツーさん、そちらはお任せします。僕らは予定通り――」
 彼を足止めします。
 そう伝える景臣の声に、朝特有の爽やかさは欠片もなく、
『元々人だった敵相手は、いつも心が滅入るぜ』
 インカム越しに聞こえてくるハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)の、そんな諦観混じりの言葉に、心の底から同意するしかないのであった。

「オレ達はケルベロスだ! 落ち着いて駅に逃げて欲しいんだぜー!!」
「近くにいる者は、駅員の指示に従って退避して欲しい!」
 敵の姿を捕捉したという連絡を受けた、ハインツとビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)が、割り込みヴォイスを使用して声を張り上げる。
「お客様、こちらです!」
 事前に二人から状況の説明を受けていた駅員達も声を上げ、手早く待機中の車両に一般人を誘導しようと協力してくれていた。
 同時に事態を察し、周辺が騒然とし始める。
「(比較的駅から遠い場所で男性を見つけてくれたのが僥倖だったな)」
 駅から離れれば、それだけ人も少なくなる。この時間帯なら、なおさらの事。
「急ぐ必要はない! 皆で協力して、落ち着いて行動するんだ!」
 なおも、ビーツーは声を張り上げ続けた。
「大丈夫か?!」
「す、すみません」
 その間、ハインツもお年寄りなどの、素早い行動ができない者らを補助する事もかかさず、円滑な場の進行に全力を傾けている。
 ともかく、後は仲間達が少しの間、足止めを成功させてくれるのを信じるしかない。


「――ああ。少し、痛むかも知れませんよ?」
 景臣の、意図的に冷気を帯びさせる事により、切れ味を鈍らせた刃の一撃が、首筋を狙って迫る簒奪者の鎌を迎撃する。
「ここは僕達が請け負います! 皆さんは駅側へ!」
 男の腹部へと一太刀入れた変わりに、喉元を僅か抉られながらも、景臣は残る周辺の人へと声をかけた。
「邪魔をするなあああああッッ!!」
 怒りを付与され、感情を制御できなくなった男は、避難を呼びかける景臣に再度襲い掛かった。それを景臣が舞藤で捌いていく。
「邪魔ですか? おやおや…弱い者苛めがご趣味とは。竜の手先も大した事ありませんね?」
 その際に、景臣は言葉でも煽ってさらに怒りを増幅させようと試みた。
「浮気されたそうだけど、それは貴方が愛されていなかったという事よね。裏切られたというのも同じ、要するに捨てても惜しくない程度の存在だったのよ、つまりゴミよね?」
 ガムシャラに景臣へ鎌を振り下ろす男。その隙をつくように、るりは神槍「ガングニール」のレプリカを召喚。同時に、言葉を叩き付けていく。
「消えて終わりよ……ジャッジメント!!」
 るりが男を指し示すと、ガングニールはその意思をくみ取って男を穿ち貫く。
「ゴッホァ!? オ、お前達に、俺の何が分かる!?」
「確かに、貴方の受けた痛みは私には計り知れない」
 激昂する男。そんな彼に向け、ユルは諦めずに語りかける。
「貴方は、目を瞑ることもできない真面目なヒトだったのかもしれません。まっすぐで、深い愛を持つヒトだったのかもしれません」
 だけど……。
「ねぇ、それが貴方のほんとうの望みなのですか?」
 私には、とてもそうは見えないと、ユルは言外に込め、男へと迸る雷を放った。合わせて、助手も神霊撃で男を引きつける。
「(ユル嬢はパラライズか。なら、俺は――)」
 迅は、バッドステータスで男にダメージを蓄積させるため、時空凍結弾を射撃した。男の肩口に撃ち込まれた弾丸によって、肩周辺が氷に覆われていく。
「あなたは、牙を剥くべきではなかった。そうなった以上は、たとえ元が人であったとしても、処理するしかないわ。被害を抑えるために」
「やれるものならやってみろ!!」
 男は、エナのドラゴニック・パワーで加速しての強力な一撃を、鎌を盾のようにして受け止める。その際、接敵したエナは、男が竜語魔法を行使するための詠唱を行っていることに気付く。
「真幸さん!」
「ああ、分かっている」
 エナの呼びかけに、真幸の反応は極めて早かった。元より、男が無差別殺人を目的としていたゆえ、その行動は予測できるというもの。
 無数の漆黒の刃が戦場に出現すると同時、真幸とビーツーの指示を受けたボクスを筆頭にして、周囲に残った僅かな人々を守るように、刃をその身を盾にして受け止めたのだ。
「自業自得だろ、同情もできねえ。浮気するような嫁選んだのはお前で、上司の本性見抜けなかったのもお前だ。それだってドラグナーの策によるものかもしれねえのに、自分は悪くないとはとんだ馬鹿だな! その能天気さが罪だ、絶望的に頭使わずに生きてる奴はこの世の中に必要ねえわ、死ぬならてめえ1人で死ねよ」
 駅に駆け込む一般人を背に、無数の傷を負いながら、真幸は鋭い目で男を睨み付けると、ケルベロスチェインを展開、魔法陣を描く。チビも同様に補佐に回り、属性をディフェンダーから注入。
 そして、その時であった。
『今、最後の一人だという一般人が電車に乗り込んだ。そっちの状況はどうだ?』
 後衛のユルの元へ、ビーツーからの連絡。ユルはフッと表情を僅かに緩めると、
「大丈夫です、こちらの周辺にも、もう人の姿はありません」
 そう返した。
「……お前には、誰も殺させないぜ? もちろん、オレ達も含めてだ」
「グゥゥ!!」
 歯嚙みする男に、迅は前だけを見据え、そう告げた。
 すると、チビ助はハインツの帰還を待ち侘びるように、神器の剣で男に斬り掛かるのであった。


 戦闘開始から数分が経過した。
 戦場には、仲間達と合流したハインツ、ビーツー両名の姿があり――。
「皆、皆死んでしまえ! お前達も死ね!」
「そんな事を言って、お前は最初自殺するつもりだったんだろ? 改造されなきゃ、復讐なんて思いつきもしなかったんじゃないのか!?」
 ハインツが、助手を斬りつけ生命力を簒奪せんとする男に、竜砲弾を撃ち込んで援護する。
「人を手にかけるということが、いかに恐ろしいことか。貴方に味合わせるわけにはいかない」
 ビーツーは、男の事もアウルの被害者だと考えていた。改造が思考にどんな影響を及ぼすかは不明だが、自殺しようとしていたという事は、生きる気力を失っていたという事。男の変わり様は、あまりに不自然であった。ビーツーは、ボクスにチラリと視線を向ける。それだけで、合図は事足りた。
 ビーツーが、最もダメージの蓄積している景臣へと気力を溜める。その隙を潰すようにボクスは立ち回ると、エナに属性を注入する。
「ッッ!!」
 攻撃は、主に景臣と助手に集中していた。景臣は、ヒールしてくれたビーツーに軽く目礼をすると、喉元を執拗に狙う鎌を間一髪で打ち払う。ヒールしてくれた矢先から、また新たな傷を作ってしまうも、景臣は気にした風もなく、達人の一撃で男にバッドステータスを重ねた。
「(エナさんと真幸さんの命中率が少し心配ですね。特に、エナさんは唯一のクラッシャーですから、優先すべきでしょう)」
 かといって、ダメージも軽視できるような状況ではない。ユルは、隣で戦況を読む迅に視線を向けると、
「分かってるぜ、そっちはオレに任せろ!」
 そんな、力強い返答が返ってきて、柔らかな笑みを浮かべた。
「――そう、もっともっと。燃やして、焦がして」
 ユルが深紅の薔薇を形勢する。咲き乱れる花弁に、誘う甘い芳香は、前衛に強い祈りと共に力を芽吹かせ、助手も真幸に祈りを捧げる。
「任せろって言った手前、しっかりやらねぇとな!」
 迅も、主に前衛に集中するバッドステータスを解除するために、一旦攻撃の手を休め、仲間をオーロラのような光で包んだ。
「俺が何をした!? ただ、大事だと思ってたものを信じていただけだ! どうして俺がこんな目に! お前等は、俺をゴミだと言うのか!?」
 男が、まるで癇癪を起こした子供のよう。
「言ったわよ、悪い? ……だけど、ゴミのまま終われとは言ってない。正しい未来を選びとる事だったできたかもしれないのに、人を殺してしまえば、それこそゴミ以下よ!」
 そうなる前に止めるのだと、るりが「ドラゴンの幻影」で男を焼く。
「人殺しはお前等だって同じじゃないのか!?」
「ああ、そうだ。俺は人殺しだ。フッ、だからといってなんだ? 俺の過去に何があろうと、それは俺の自業自得だ。だがな、今は守るものがある。死ぬ気も嘆く気もさらさらない。お前のような薄っぺらい人間と一緒にするな」
 本当に、家族と会社以外に、何も信ずるに足るものがなかったのか? もし、そうならば、哀れな人生という他にない。一瞬だけ自嘲するような笑みを浮かべた真幸だが、それを掻き消すと一喝し、古代語詠唱と共に光線を放つ。
「(戦言葉と皆さんの支援で、防備は問題ないわね)」
 あとは命中率が問題であったが、ユルの茨姫の微笑に加え、足止めの効果で多少は改善されただろう。勝利のためには、エナの火力は不可欠ゆえに。
「追い詰めるまでは、確実に当てていくわ」
 エナの紅眼が男を射貫く。駆け出すエナに合わせ、男は鎌で激しく斬りつけるべく構えをとった。対してエナは、自身よりも遥かに巨大な手斧――Expiatioを抱え、高々と飛び上がる。
 激突するExpiatioと鎌は、凄まじい衝撃と轟音、粉塵を撒き散らした。


 瞳に奥に地獄の炎を宿した景臣を中心に、竜語魔法である漆黒の刃が次々に襲い掛かる。
「ぐっ!」
 今まで欺し欺し、卑怯技も駆使しながら戦ってきたが、さすがにダメージと疲労が限界近い景臣は膝をつき、自身に向けて気力を溜めた。同時に――。
「よく頑張ってくれましたね」
 怒りで男を引きつけてくれていた助手が姿を消しており、その労をユルがねぎらう。
 だが、消耗しているのは男も同じだ。
「もう良いだろう? まだ無関係な人への殺意を抱いているのか?」
「ギッ! グッ、も、もう戻れる場所なんてないんだよ!!」
 進んでも死、戻っても死。アウルに改造された時点で、男の人生は詰んでいる。だが、足掻こうにも足止めを重ねられた男の脚は藁のようで……ビーツーの惨殺ナイフでのジグザグ斬りも、
「胸糞悪いぜ。でも、あんたの心だけでも救うには、それしかないんだ!」
 ハインツの流星の煌めきのような飛び蹴りも、チビ助のオアイロキネシスも満足に回避できずに、直撃を男は受けるしかない。その度に男は苦痛に呻き、血を流す。
「本当にいいの? 無差別殺人をしたところで、彼の妻も上司も何も困らないじゃない」
 それはもう、復讐ですらなく、ただの憂さ晴らしだ。
「だったら、どうしろって言うんだ!」
「最後くらい正しい選択肢を選んでみなさいよ!」
 るりと男の言葉の応酬。つまる所、それは『死ね』という事。だが、死に方だって千差万別。ケルベロス達に男は救えないとしても、楽に逝かせてやる事はできる。
 その時、石化の影響か、迷いか、鎌を振り上げた男が硬直した。
「未完成のドラグナーに、竜語魔法を見せてあげる。私が操る魔法体系の一つに過ぎないけどね」
 そこへ、るりがおぞましい触手を招来し、男を飲み込ませた。
「ギャ、イ゛イ゛イイ」
 凄まじい絶叫を上げる男。
「大丈夫です、全てさらけ出して、私達が受け止めてあげますから」
 最後の時を悟り、ユナが優しくそう告げ、電気ショックをエナに飛ばす。
 その時、ポツリと男が言う。
「信じたかった。愛されていると、信じたかったんだ……自分がどうしようもない人間で、最低な事をしている事くらい、気付いているさ……」
 男の信じた世界は壊れた。
 だが、もう自分では止まれないのだろう。
「大丈夫だ、安心しろ。オレ達が止めてやる。初めからそう言ってるだろ?」
 迅がそう言うと、男にあったほんの僅かな理性が、再び闇に飲まれる。だが、最後に見せた表情は、どこか安らかで……。
 アウトレンジから、迅が衝撃波の嵐を放つ。男はなんとか捌こうとするも、四方から襲ってくる掌打に着実に消耗していく。
「……馬鹿が。いくぞ、チビ」
 最早、かける言葉もない。体力を簒奪する鎌を真幸が受け止め、チビがタックルで男の体勢を崩す。崩れた所を真幸が轟竜砲で追撃した。
 男の身体が、フワリと浮き上がる。
「さようなら、貴方の怨嗟は『地獄(ゲヘナ)』で聞くわ」
 男は最後、女の声と頭部を掴まれる感触を覚えた。その手は、エナのもの。エナは掴んだ男の頭をまるでリンゴにそうするのと同じように、
 ――グシャリ。
 軽々と、粉砕してみせるのであった。

 使い終わった救急箱を片付けるユルの表情にも、周辺の被害を確認してきたビーツーの表情にも、明るさはない。
「恨むなら、どうか私を恨んで下さい……」
 十字を切るエナの表情に、戦闘時の機械的な冷徹さは見られない。せめて向こうでは救われて欲しい、そう願った。
「竜技士アウル……今回は届かねえがいつかケリをつける。いずれ矢面に立たせてやる」
 もうこんな悲劇は御免だと、迅は男の亡骸の前で強く心に刻んだ。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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