秋の実りはたわわにて

作者:湖水映

 秋。澄み渡った青空に、ぷかりと白い雲が浮かんでいた。
 やんごとなき事情があって、しばらく前に放棄された廃村。人はいなくなっても、畑の植物たちは、元気よく育ち、実っていた。
 リンゴ畑。ブドウ畑。ナシ畑。それらのあぜ道が交差する辻に、一本の松が生えていた。
 そこに、謎の胞子がふわりと舞い降りる。
 すると、松はめきめきと急成長し、太い根を蛸足のようにのたくらせ、移動を始めるのだった。
「鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)さんの報告によれば──」
 セリカ・リュミエールが、報告書のページをめくりながらケルベロス達に伝えた。
「岐阜県の山中で、攻性植物の発生が確認されました。どうやら、鎌倉戦以後に飛び散った攻性植物の胞子を受け入れた植物が、同じく攻性植物に変化してしまったようです。
 発生した場所は人里から遠く、周囲に危険はありませんが、このまま放置すれば仲間を増やし、いずれは、人里へと出てきてしまうでしょう。
 そうなる前に、攻性植物を撃破して欲しいのです」
 セリカは手短に報告をまとめた。
「攻性植物は一本の松がいるのみですが、周囲の植物をサーヴァントのように支配下においているようです。配下となるサーヴァントは、リンゴ、ブドウ、ナシの木が各一本。周囲にはリンゴ畑、ブドウ畑、ナシ畑が広がっています」
 最近人がいなくなった為に手入れはされていないようだが、たわわに実っていることだろう。
「さきほども言いましたが、今回の事件はおそらく、鎌倉奪還戦で生き残った攻性植物が遠因となっているのだと思われます。しかし、このまま繁殖を許せば大変なことになります。その危険を免れる為にも、確実に撃破してきて下さい」


参加者
ルトゥナ・プリマヴェーラ(陽憐花・e00057)
アイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)
難駄芭・ナナコ(フリーダムバナナラバー・e02032)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)

■リプレイ

●一本松へ向かう
「見つけたよ!」
 アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)が空から大きな声で報告した。
 示された方向に、地上のケルベロス達が赴く。
 ターゲットの一本松は、まだ動き出してはいなかった。ブドウ畑、リンゴ畑、ナシ畑の畦道が交差する辻に生えている。しかし急速な成長を続け、既に根をのたくらせていた。その周りに、サーヴァントの果物三本が寄り添っている。
「……果物か」
 リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が口数すくなに呟いた。
「果物って美味しいよね! 終わったら食べたいなー!」
 アルベルトが頭上で明るく言う言葉に、リューデが答える。
「その前に、まず勝ってからだな。これ以上果物に被害が出ないうちに、倒すぞ」
「鎌倉での戦いからもう1ヵ月経つけれど、まだ残っているものね」
 ルトゥナ・プリマヴェーラ(陽憐花・e00057)が嘆息する。
「大きな戦いが終わっても、他の戦いは続く……だからこそ、私達の出番。しっかり退治して、秋の味覚、楽しみましょうね?」
 そういうルトゥナの腰には、果物摘みに用いる籠が下げられている。
 鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)も同様に、さらに大きな籠を背負っていた。沢山の果物をとってくる気満々の様子だ。
「そうです。攻性植物の繁殖をこれ以上許すわけにはいきません。なんとしても駆除しなくては」
 口では真剣な台詞を吐きつつも、頭の中はおいしい果物のことでいっぱいなのだった。
「何でもない木が動き出すとか、攻性植物って厄介だよね。幸いまだ被害は出て無さそうだし、早々に文字通り木端微塵にさせて貰おうか」
 ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)が言うと、キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)が頷いた。
「うむ。実りの秋とはいっても此方が食われ兼ねんのは困るしのぅ。どれ、ここらでひとつ間引いてやるとするかの」
「……んで、何でバナナがいねぇんだ。バナナは美味くねぇってかぁ! ってかバナナが一番美味しいだろうがぁ!」
 難駄芭・ナナコ(フリーダムバナナラバー・e02032)は、この実りの秋にバナナに出会えないことを嘆いていた。美味いかどうかの問題ではないのだが、ナナコはそのように怒っていた。今度はバナナを探そう、今はブチのめすのみ!
 そんなナナコをアイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)がなだめる。
「まあまあ」
 そしてじっくりと相手を見分する。
「攻性植物、今回は敵が4体か。やっぱり強敵なんだけど、見ているとお腹空きそうになるね。色々な意味で速く倒さないとだね」
 そしてなんとなく思ったことを呟く。
「こういうのって、ナシ狩り、ブドウ狩り、リンゴ狩り──」
 やや間があり。
「──マツバガニ」
「……松葉狩り?」
 アイリスが言いたかったであろうことを察して、ミルカが尋ねる。
 言い間違えに気付いたアイリスは、顔を真っ赤にしながら、
「アイツらが美味しそうに実っているのが悪いんだもん」
 と言って、無理矢理誤魔化した。そして剣を抜くと、八つ当たりでもするかのように、松どもの下に突進するのだった。

●交戦
「ナシを叩く!」
 アイリスが声を掛け、内在するグラビティ・チェインを破壊力に転換し、ナシに叩きつけた。その一撃で、皆の狙いが定まった。先ず、ナシだ。
「分かったわ」
 サキュバスの姿に変じたルトゥナが、魔力を込めた花びらを舞い散らす。花弁はナシの根本──いや、足元へと舞い落ち、その動きを封じ込める。
「了解!」
 ミルカは護殻装殻術を自らに施した。半透明の御業を用いた鎧で自らを守護する。敵の防護を打ち破る、攻撃の為の備えだ。
 そしてアームドフォートの主砲を発射する。衝撃に仰け反るナシの木。
 リンゴのサーヴァントがナシにヒールをかけると、みるみるうちに傷が塞がり、しなだれていた枝が張りを取り戻す。
「こちらも了解じゃ。焼いた果物も美味しいかも知れんのじゃ」
 キーリアの掌からドラゴンの幻影が生じ、ナシの木に火焔を吐きかける。炎上するナシの木。
「僕もいくよ!」
 地上に降りたアルベルトの翼が聖なる光を放ち、ナシの木を撃つ。
 捕食形態に変貌したブドウの木が、アイリスに襲い掛かる。腕を噛み裂かれ、苦痛の呻きを上げるアイリス。
「治療用ナノマシン生成、目標への散布を開始します」
 アイリスの腕を、琥珀の散布したナノマシンが癒していく。
 松の胴体がのたくり、地面に融合し、侵食する。地面が陥没し、後衛が足元を取られ、傷つけられ、よろめく。
「厄介だな」
 リューデの発したオーロラの様な色鮮やかな光が、ケルベロス達の後衛を包み、癒す。
「フルーツ相手だろうがおまかいなしだぜ、ナシだけになぁ!」
 ナナコが両手のバナナを交差させる。さらにバナナへの愛を込められたバナナは、爆発的な破壊力を生み出す。名付けて、C・C・B・S──クロス・クラッシャー・バナナ・スペシャル。
 バナナ派のナナコとしては、バナナ以外は全て倒す! 今回バナナはいないから全滅! 即ち生き残ったバナナが最強! ということらしかった。
 何はともあれ、バナナへの愛がこもりにこもった連撃を浴びせられ、ナシの木は地に倒れ伏した。

●リンゴとブドウ
「次はリンゴね」
 ルトゥナがルーンアックスを振り上げる。輝く呪力を纏った刃がリンゴの木の幹に深々と傷を刻んだ。
「よし」
 ミルカのアームドフォートから、対象の時間を止める弾丸が撃ち出され、リンゴを凍り付かせる。
 すると、リンゴの果実が黄金の光を放って輝き、凍り付いた時間を動かす。
「心得た。収穫じゃ収穫」
 キーリアが次元の狭間から水晶剣の群れを招来し、敵群に解き放ち、リンゴの木が得た守護を破壊する。
 その隙に、千罠箱がエクトプラズムから武器を具現化し、リンゴに打ち込む。
「よっし、それじゃ!」
 アルベルトが、高揚の侭、思うが侭に銃をふるう。狙いを定められた弾丸が、リンゴの果実を正確に破壊していく。
 一本松の幹が膨れ上がり、開いた。破壊光線がアルベルトの肩を撃ち抜く。
「ぐっ──!」
 苦悶に顔をしかめるアルベルト。その傷を、リューデが、魔術を用いた緊急手術で素早く塞いでいく。
「……油断するな」
 無愛想に一言、友人に声を掛ける。
「ごめん、ありがと!」
 素直に謝意を伝えるアルベルト。
「さあて、反撃だぜぇ!」
 ナナコが達人の一撃を放ち、リンゴを大きく仰け反らせる。
 ブドウの一部がハエトリグサのように変形し、ナナコに襲い掛かる。
「そうはさせんよ」
 キーリアがナナコの前に立ち塞がり、ブドウの攻撃を食い止めた。
「ありがとさん、なんだぜぇ!」
 礼を言うナナコ。
「礼には及ばんよ」
「治療します」
 琥珀の放出した小型治療無人機が、キーリアの傷を癒す。
「すまんな」
 礼には及ばんと言っておきながら、反射的に礼の言葉を投げかけてしまった。
「礼には及びません」
 先ほど言った言葉を琥珀から返され、苦笑するキーリア。それもまた、仲間同士のやりとりというものだろう。
「──吹き荒れよ、烈風」
 アイリスの言葉とともに、その愛刀・白煌に風の魔力が集中する。極限まで高めた風の魔力で、リンゴの幹を一刀両断に切り裂いた。リンゴが地に倒れ伏す。
「これで回復役はいなくなったね」
 アイリスが言った。

「次の狙いはブドウだな」
 ミルカのフォートレスキャノンが強力な閃光を放ち、ブドウの木を撃ち抜いた。
「そのキレイな果実をフッ飛ばしてやるぜ!」
 ナナコの手にした2台のスマホから、なんやかんやで敵を洗脳する電波が放出され、ブドウの木を襲う。植物に洗脳電波が効くのかどうかは未知数だったが、なんやかんやで一定の効果はあったようだ。
「寒い季節に耐えられるかのぅ?」
 キーリアが氷河の精霊を召喚し、吹雪の形をしたそれが敵の群れを襲う。
 千罠箱が武器を具現化してブドウの実を刈り取る。
 ブドウが捕食形態に変形し、ミルカの腕に噛み付こうとするが、琥珀のウォーヘッドがそれを阻止する。
 そして琥珀の二刀流バスターライフルから放たれた魔力の奔流がブドウの幹に大きな穴を穿つ。
 アルベルトが螺旋の力を込めた掌打を放ち、ブドウの木を内側から破壊する。傾ぐブドウ。
 その隙に、リューデが対象の生命力を食らう地獄の炎弾を放つ。
 さらに、アイリスが古代語の詠唱と共に魔法の光線を放ち、ブドウを石化させる。
「伸びすぎた木は、しっかり刈り取らなくちゃね」
 ルトゥナが高々と跳躍し、身の丈ほどもある大斧を振り下ろした。真っ向から斧の一撃を受けたブドウの木は真っ二つに裂け、倒れるのであった。

●一本松
 うろたえる、という衝動を持ち合わせていない攻性植物・一本松が、異形と化した口を開き、根と幹をのたくらせ、耳ざわりな咆哮を上げた。
「あとは、あれだけね」
 ルトゥナが言う。
「そうだな、あれが本番だな」
 ミルカが応じた。
「さっさと倒して、秋の味覚を堪能しましょう」
 琥珀が付け加えた。背中の籠がうずうずしている。
「賛成!」
 アルベルトが明るく同意する。
「異存はない」
 リューデも友人に同じく同意。
「賛成じゃ。はよ片付けてしまおうぞ」
 キーリアも同じく。秋の味覚の前に、目の前の危険物を取り除いてしまうことが肝心だ。
「じゃあ、まず私から」
 アイリスが愛刀を抜いた。そして、剣に風の魔力を乗せ、松の表皮を深々と切り裂く。
「次は、アタイだぜぇ!」
 ナナコが改造スマホをフルスイングし、その角で松を強打した。
 他のケルベロス達も、攻撃に移っていく。
 ルトゥナの禁縄禁縛呪が松の表皮を鷲掴み、千切り取る。
 キーリアのドラゴニックミラージュ。現れた竜の幻影が火焔を吐く。
 千罠箱が松に噛み付き、食い千切った。
 アルベルトの翼が聖なる輝きを放って松を焼く。
 松が根を地に伸ばし、広い範囲を陥没させた。前衛が脚を取られ、のたくる根に脚を傷付けられる。
 リューデの放ったオーロラの如き光が前衛の傷を癒していく。
 さらに琥珀の放ったヒールドローンが前衛の脚を治療する。
「フォトンドライブ、モードブレーザー!」
 ミルカのグラビティ・チェインを圧縮した光の羽が円環状に連なり、幾重にも同心円状に展開。磁界フィールドを形成して高火力のプラズマビームを放った。
 焼け焦げ、燃え尽きていく一本松。
 こうして、攻性植物との戦いは終息したのだった。

 戦い終わって。一同は秋の味覚を楽しむべく、放置された畑に足を踏み入れていた。
「どれも皆、美味しそうだよねえ!」
 と、なっている木を見回しつつ移動するアルベルト。
「なんでバナナがねぇんだ……バナナの良さが分からねぇとは……」
 激しく消沈するナナコ。それを優しく慰めるルトゥナ。
「まあまあ、そう落ち込まないで。他の果物もいいものよ? ところで、皆、怪我はない?」
 果実を摘んで籠に入れながら、ルトゥナの問いかける言葉に、リューデが答える。
「問題ない」
 リューデの言葉はあくまでも端的だ。しかし、メディックらしく、全員の安否に注意を払っていたのだ。
「そうそう、問題ないって!」
 調子良く合の手を入れるアルベルト。
「ああ、大丈夫だ」
 同じく答えるミルカ。
「それなら、良いんだけれど」
 ルトゥナが微笑んで言った。たわわに実った旬の味覚を、お土産に籠へ放り込んでいく。
「生で食べるのもいいけれど、ジュースやお菓子にも使いたいものね」
「それ、良いね」
 アイリスが頷いた。アイリスは倒したリンゴやナシが気になっていた。ナシをもぎ、一口、口に入れてみた。もぐもぐ。口一杯に熟れた果実の甘味が広がる。特に問題はなさそうだった。
「せっかく美味しそうな果物が揃ってるんだし堪能させて貰おう」
 ミルカがそういって、もいだブドウの粒を口に放り込む。他にもリンゴ・ナシと全種類を制覇し、お土産用にもいくつか頂戴する。放棄されたものだし、誰に怒られる心配もないだろう。
 琥珀にとっては、待ちに待った収穫タイム! 秋の味覚収拾に余念がない。放置された畑から、良く熟れたブドウ、リンゴ、ナシをもぎとっては背中の籠に放り込んで歩く。
「ここら辺一体の植物に攻性植物の影響が残っていないか調査しなければいけませんね」
 口ではそう言いつつ、うきうきとして背負い籠いっぱいに果物を集めていくのだった。
「千罠箱、お主も好きに喰らってみるといいのじゃ」
 キーリアは、もいだリンゴを千罠箱に与えていた。美味そうに食べる千罠箱。自身もリンゴを手に取り、しゃりっと一口。うむ、美味い。
 リューデが戦闘で傷付いた畑の木々にヒールをかけていた。
「僕も手伝うよー!」
「ああ」
 アルベルトが元気よく声をかけ、同じ様に傷付いた木々にヒールをかけていく。
「あと、ナシを食べたいんだけど……僕、不器用なんだよねえ。リューデ、剥いてほしいなー」
 リューデをチラ見するアルベルト。
「……ナシくらい、自分で剥け……」
 と言いつつ手渡されたナシを手に取り、ナイフで剥いてやるリューデ。
「えへへ、リューデってなんだかんだいって優しいよねえ!」
 アルベルトがナシを頬張り、笑顔で言う。リューデはなんとも答えない。
「これ、旅団の皆に持って帰ろうかー?」
 もいだ果実を抱えて言うアルベルト。
「……そうだな」
 相変わらず無愛想な態度のまま、リューデはブドウを摘んでいた。しかし、戦闘後の穏やかなひと時に、心臓の無い胸に、少しだけ温かいものを感じるのだった。

作者:湖水映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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