殺戮のイヴ

作者:紫村雪乃


 刃風に雪が舞う。
 時刻は夜の八時。普段であれば人々の姿が多いその一角は無人と巷と化していた。舞い散った雪は真紅に染まっている。
 血を払い落とすと、女は足元にころがった死体を見下ろした。皆、五体を切断されている。
 数は二十一。彼女にしてみれば大根でも切るような呆気ない殺戮であった。
「……つまらない」
 苛立たしげに顔をしかめると、女はつまらなそうに少女の首を蹴り飛ばした。
 女の年齢は二十五歳くらいだろうか。美しい娘であった。腰までとどく長い金髪は陽光をもわせて煌めいており、瞳は燃えるような紅色をしている。肌は躍動的な小麦色であった。
 その手には一振りの直刀。刃は闇を鍛えたかのように黒く、ちろちろと炎がまとわりついていた。
 女の名はイヴ・エウクレイデス。ダモクレスであった。レプリカントを破壊する為に作られたレプリフォースハンターである。
 かつてイヴは、あるレプリカントと同じ人工知能を二つに分けて創り出された。が、そのレプリカントはケルベロスに、そしてイヴはダモクレスとなっている。そして今、イヴはケルベロスと戦うために地球に降り立った。
「早く来なさいよ、ケルベロス。私が殺してあげるから」
 綺麗な顔からは想像もできないほど獰猛に笑うと、血刀を引っさげ、イヴは殺戮を再開した。


「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようです」
 顔を強ばらせたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が告げた。
「指揮官型ダモクレスの一体である『踏破王クビアラ』は自分と配下のパワーアップのために、配下を送り込んできました。ケルベロスの全ての力を引き出して戦う事で、より正確なケルベロスの戦闘データを引き出そうとしているのです」
 その為ならば一般人を惨たらしく殺したり、人質を取るなどの行為も平気で行なってくる。敵の目的がいかなるものであろうとも、やはり見逃す事はできなかった。
 今回、ターゲットとなるダモクレスは遊びであるかのように人々の五体を切り捨てている。残酷な殺戮であった。
「けれど急いで現場に駆けつけたなら間に合います。最初の一人が殺害される前に到着することが出来るはず」
 そしてセリカは告げた。敵の名を。イヴ・エウクレイデスであると。
「武器は黒刃の直刀です。その威力は絶大。刀剣士のものに似たグラビティを使います」
 セリカはいった。そして敵はケルベロスとの戦闘を目的としているため、戦いが始まればそれを一般市民へは振るわないだろうと付け加えた。
「ただケルベロスが一般人の救出などに人数を割き、全力で戦闘して来ない場合や、戦闘データを取られないように手を抜いて戦闘していると考えた場合はその限りではありません。ケルベロスを本気にさせるため、周囲の一般人を殺すような行動を取るでしょう」
 しかし、だ。まだ難しい問題があった。戦えば戦うほど戦闘データが集められてしまうという点だ。それを防ぐためには可能な限り短い時間で敵を撃破しなければならないだろう。
 わざと手を抜いて戦闘を行う事でデータの信憑性を下げるという方法もある。が、それで敗北してしまえば元も子もなかった。
 もう一つの方法として、普段のケルベロスが使用しないような戦略を用いて戦うという方法もある。が、この場合でも敗北したら元も子もないのは同じであった。
「皆さん」
 セリカはケルベロスたちを見回した。
「たとえ敵の策略であろうと、このダモクレスによる惨劇を見過ごすことは出来ません。必ず撃破してください」


参加者
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
ル・デモリシア(占術機・e02052)
斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
ユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)
エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)
御忌・禊(憂月・e33872)

■リプレイ


 ローター音の響く多目的ヘリのキャビン。ぽつりと声がもれた。独語である。
「人助けって柄でもないんだけど、これから起きることを知った上で見て見ぬふりも出来そうにないしね」
 声の主はちらりと目をあげた。どこか乾いた物言いだが、声の主たる紅い髪の少女の雰囲気は思いの外幼い。それは彼女――ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)の精神が幼いままであるからかもしれなかった。
 かつて死神に襲われ、ロベリアは両親とともに両腕をも失った。そして五年の年月も。ずっと昏睡していたのであった。その影響でロベリアの精神はいまだ幼いままの状態でいるのである。
「やーれやれ」
 うんざりしたようなため息まじりの声がした。腰までとどく長い碧髪の少女だ。眼鏡をかけているのだが、その奥の目は切れ長で鋭かった。
 二人めのケルベロスで、名はル・デモリシア(占術機・e02052)。かつて不確かな運命という事象を観測するためにダモクレスによって作られた占術機シリーズの内の一体である。
「あっちの因縁が片付いたらこんどはこっちかやー?」
 ルは続けた。
 今回の敵であるイヴ・エウクレイデスは、彼女の所属するレプリフォースの前団長の宿敵である。他人事ではなかった。
「つまりは仇討ちじゃな!」
「仇討ち?」
 ユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)という名の少女が眉をひそめた。銀髪紅瞳の持ち主で、人形のようの整った容姿をもつ美しい少女だ。が、どこか昏いところがあるのはどういうわけだろう。もしかすると、それは彼女がダモクレスの実験機であった過去に起因するのかもしれなかった。
「その前団長さんは亡くなったのですか?」
「いいや」
 ルが首を横に振った。すると傍らの若者がずるりとシートが滑り落ちそうになった。これは名を斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)といい、サキュバスであった。
「亡くなってないのに仇討ちかい?」
 面白そうに霧夜は笑った。背筋がぞくりとするほど妖しく魅惑的な微笑だ。さすがはサキュバスというべきであるかもしれなかった。
 笑み返すと、ルは背をのばした。
「まー、最後残っておったら黒イヴの刀ぐらいは土産に持って帰ってやるかやー?」
「そう簡単にいくかな?」
 相変わらず薄い笑みを顔にはりつけて霧夜はいった。
「手を抜けば人が巻き込まれる、本気で戦えばデータを取られる、と。いやぁ、全く厄介だねぇ」
「大丈夫です」
 自身満々といった様子で一人の娘が大きくうなずいた。綺麗な金髪に湖面のように澄んだ蒼瞳。可愛らしい顔立ちの娘だ。名をエストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)といい、メイド騎士を自称するケルベロスであった。
「我々の全力を出し切りましょう! そうすれば短時間で敵を斃すことができるはず。それが人々を救う唯一の手段です!」
 何の屈託もなく、眩い声と表情でエストレイアは宣言した。
「そうだね」
 霧夜はうなずいた。
「僕らはケルベロスだ。今日の戦いが明日の枷になろうとも、今目の前にいる人を、見捨てる理由にはならないさ。ね?」
「確かにそうなのですが」
 暗鬱な顔で、その少年は口を開いた。幻想的な白髪、透けるほど白い肌に華奢な体躯。一見したところひ弱そうだ。が、溢れるほどの精気を少年は放っていた。
 地獄化した右目をバンダナで隠した少年――御忌・禊(憂月・e33872)は哀しそうに続けた。
「本来であれば…戦うことなく終わらせたかったのですが……」
「人の命を安易に弄ぶ様な輩を許す事は出来ません」
 月光で織り成したような銀髪をかすかにゆらせ、楚々たる美少女が生真面目そうな目を禊にむけた。
 名はサラ・エクレール(銀雷閃・e05901)。シャドウエルフである。どこか幻想的な雰囲気をまとっているのだが、それも当然であった。
 そのサラの語調には、どこか怪訝そうな響きがある。殺戮者と話し合うなどという選択肢は、真っ直ぐな思考をもつ彼女にはなかったからだ。
 すると多少慌てた様子で禊は口を開いた。
「いえ、わかっているのです……僕達が戦わなくてはいけないことは……だから、僕は無力な人々を守ります」
 哀しげに禊はいった。
 やはり戦うしかないのか。心中、禊は慨嘆した。
 もし理解し合うことができるなら、世界はもう少し良くなるはずだ。もし、理解しあうことができたなら――。
 彼の思考は、八人めのケルベロスの声で遮られた。
「もうすぐ作戦域ですよ」
 眩しい黒瞳の娘が告げた。どこか華があるのは、彼女がアイドルとして芸能活動を行っているからかもしれない。
 イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)。オラトリオの娘であった。
 すると、キャビン内に緊張が満ちた。イピナの可愛らしい顔も緊張に強ばっている。
「クビアラの配下と戦うのはこれで二度目……前回のような不覚は取りません!」
 イピナの視線が指輪におちた。
 敵が剣士なら、我も剣士。父に叩き込まれた剣術がどこまで通用るか――。
 戦慄とともに、イピナは胸の高鳴りを覚えた。


 呆然と佇む人々を、イヴ・エウクレイデスは見回した。やがて、その視線が一人の女の前でとまった。まだ恋も知らぬ少女の前で。
「ケルベロスをおびき寄せる餌ども。まずはお前から殺してあげる」
 イブは残酷で美しい笑みを端正な顔にうかべた。そして直刀を振りかぶった。
 そうと知りつつ、しかし少女は動けない。イヴの放射する悽愴の殺気にうたれ、気死してしまっているのだった。
 薄く笑いながらイヴはびゅうと刃を薙ぎ下ろした。彼女にしてみれば案山子でも斬るような呆気ない殺戮であったろう。
 目にもとまらぬ速さで薙ぎつけられた刃は少女の首をあっさりと刎ねた。いや――。
 刃はとまった。少女の首の寸前で。
 イヴの腕に漆黒の鎖がからみついていた。それがイヴの腕をとめたのである。
「来たようね、ケルベロス」
 ニンマリし、イヴが振り向いた。
 そこに、いた。月光にうかぶ八人が。
「どうやら間にあったようじゃの」
 ルが鎖を引いた。が、動かない。するとエストレイアが叫んだ。
「ティアクライスのエストレイア、参上です! 私達が来たからには、これ以上の暴挙を許す訳にはいきません!」
 ふふん、とイヴは楽しそうに笑った。
「ずいぶんと早く現れたものね。礼をいうわ。つまらない時間潰しをしなくてよくなったから」
 イヴは立ち尽くす人々を一瞥した。叩き切るのは好きだが、弱い虫けらをひねり潰してもあまり面白くはない。
 するとロベリアがイヴを睨めつけた。
「笑えるのもここまでだよ。もうお前には何もさせない。何もできないまま、ここで斃してあげる」
「私を斃す?」
 可笑しくてたまらぬようにイヴは口をゆがめた。
「ケルベロスごときが私を斃す? 本気でいってるの」
「本気さ」
 霧夜が片目を瞑ってみせた。
「というわけで、一つ手合わせ願おうか?」
「いいわ」
 ニヤリとすると、イブはすうとケルベロスにむけて黒刀の切っ先をむけた。
「待ってください」
 ユーベルが静かに制止の声をあげた。
「貴方が狙っているのは私達でしょう? それなら一般の方々は必要ないはず」
 皆さん、逃げてください。ユーベルが叫んだ。はじかれたように人々が逃げ去っていく。その様子をちらりと見やり、イヴは鼻を鳴らした。
「もう準備は済んだの?」
「まだです」
 こたえたサラの身から凄絶の殺気が放たれた。辺りの空気が見る間に硬質化していく。
「これで気を散らさず戦うことができます」
「そうね」
 ゆらり、とイヴが動いた。どん、と地を蹴る。一瞬でイヴは距離をつめた。
 瞬間、その眼前にするすると滑り込んだ者がいる。イピナだ。指輪からのびる光剣を振りかざしながら。
「いつぞやの白いダモクレスと同じところに贈って差し上げます!」
「やれるかしら?」
 次の瞬間、二つの影が交差した。二条の光流もまた。
 数歩いきすぎて、イピナとイヴは足をとめた。
「くっ」
 がくりとイピナは膝を折った。その腹から鮮血がしぶく。
 イヴは振り返った。同じように腹が裂かれているが、傷は浅い。
「よくつかう。でも、まだまだね」
 振り返りざま、イピナめがけてイヴは一撃を放った。 


「させません」
 禊がイヴの懐に飛び込んだ。その手の日本刀――我見・無明が暗黒の炎の尾をひいて疾る。哀しげに禊が告げた。
「その体、地獄の炎に包みましょう……」
「無駄よ」
 イヴがわずかに身をひいた。その眼前を我見・無明の刃が疾りぬける。切断されたイヴの前髪がはらりと空に舞った。
「さすがに……強い」
 サラは呻いた。呻かざるを得ない。サラは冷静にイヴの戦闘力を計算していた。
「我が護り貫くこと能わず!」
 サラはグラビティを発動させた。守りに関する仲間の潜在能力が賦活化される。奥義、不動の陣改であった。
「今度は私の番よ」
 イヴが踏み込んだ。逆袈裟の一閃は禊の身体を斜めに裂いている。
「くっ」
 禊は傷を手でおさえた。が、血がとまらない。その眼前、さらにイヴが踏み込んだ。
「今度は首を刎ねてあげる」
 イヴの黒刀がうなりをあげて禊に。
 ギインッ。
 黒刀の刃がとまった。ユーベルの蹴りが刃をはねあげたのである。
「ユーベル・クラルハイトと申します。……貴方は?」
「イヴ・エウクレイデスよ」
 イヴは跳び退った。その眼前、炎が吹きすぎる。ドラゴンさん――ボクスドラゴンのブレスであった。
「今のうちに」
 ユーベルが叫ぶと、わかりましたとこたえ、エストレイアは手をあわせた。
「かの者に、守りの加護を!」
 エストレイアは祈りを捧げた。何に対してなのか、彼女自身にもわかってはいない。それは失われた彼女の記憶に隠されているのかもしれないが――ともあれ祈りは何者かによって聞き届けられた。イピナの傷が回復していく。
「逃がさないわよ!」
 ロベリアがとてつもなく巨大なハンマーをかまえた。形態変化。組み上げられたそれは砲撃形態だ。
 一刻も早く斃さなければならない。ロベリアはトリガーをしぼった。撃ちだされたのは成竜のブレスにも匹敵する破壊力を秘めた竜砲弾だ。
 咄嗟にイヴは黒刀で防いだ。
 爆発。破壊の嵐が辺りを席巻した。さすがのイヴも吹き飛ばされ、コンクリートの地を削りつつ後退。この場合、しかしイヴはニヤリとした。
「ふうん。これがケルベロスの戦闘力なのね」


 イヴの紅瞳を数字が流れすぎた。取得したケルベロスのデータである。
「もっと力を見せてもらうわよ」
 イヴはニンマリと笑った。するとイピナが憫笑をなげた。
「クビアラ強化のための捨て石……よくもまあ、そんな務めに励めるものですね」
「余計なお世話よ。人類の番犬なんかには所詮はわからないわ」
「その意気やよし」
 ルがニヤリとした。
「が、の。それは無駄というものじゃ」
「無駄、ですって?」
「さよう。データ収集など好きなだけすればよいのじゃ。我らは生きておる。生きるものは成長するのじゃ。主らと違ってな? 明日の我らは今日よりも強いぞ?」
「ねえ」
 霧夜は再び片目を瞑ってみせた。
「イヴちゃん? 報告書を書く事があるならこう添えておくれよ。ケルベロスには美男美女は多いってさ♪」
「いいえ」
 イヴの瞳が赤光を放った。そして、添えるのは、と続けた。
「お前たちの首よ」
 イヴが地を蹴った。衝撃にコンクリートが砕け、飛散する。
 瞬間移動。そうとか思えぬ速度でイヴはケルベロスたちに肉薄した。そして颶風と化して襲った。雷閃のごとき剣光が疾りぬける。わずかに遅れて鮮血がしぶいた。ケルベロスたちの鮮血が。
 いや、ロベリアとユーベルのみは無傷であった。ビハインドのイリスとドラゴンさんが身を挺して防いだのである。
 酷薄ようにイヴは口の端をつりあげた。
「健気なものね。でも、もう守ってくれる者はいないわよ」
「いいえ、私たちが守ります」
 サラが薬液の雨を降らせた。のみならずエストレイアが第二星厄剣アスティリオで地に守護星座を描く。ケルベロスたちの血がとまった。
「そうだね」
 白刃を手に、すすうと霧夜が前に出た。


「刀の扱いでは負けないつもりだよ」
 霧夜が告げた。するとイヴの瞳に刃のごとき光が閃いた。
 今相対する霧夜とイヴ。手にあるは共に刀だ。霧夜は雪君、イヴは黒刀であった。
 その時だ。一際強く雪が吹き付けた。白く霞む世界の中、イヴは迫った。
 横殴りの迅雷の一閃。誰が想像し得ただろうか。絶大なる自信を込めて放ったイヴの一撃が空をうとうとは。
 その時、霧夜は地にするほど身を伏せていた。イヴの刃は、その彼の頭上を流れすぎていたのである。
 一刹那後、霧夜は刺突を放った。紫電をからみつかせた、それこそ稲妻のごとき刺突を。
 さしものイヴもその一撃は避け得なかった。霧夜の刃は深々とイヴの胸を貫いている。
「……やるわね、あんた」
 胸をつらぬく刃をイヴは掴んだ。同時に黒刀を翻らせる。
 咄嗟に雪君の柄から手をはなし、霧夜は跳び退った。が、遅い。黒刀は霧夜の首を刎ね――。
 小さな爆発が起こった。イヴの足もとで。たまらずイヴが刃をとめた。
「何っ」
 愕然としてイヴは呻いた。いつの間に忍び寄ったか、ルに良く似た自律型アンドロイド数体、彼女の近くにいた。爆発は、そのアンドロイドが自爆したのであった。
「そこまでじゃ。もはや足はきかぬはず」
 ルが告げた。が、イヴはふんと鼻を鳴らした。
「まだよ」
 イヴは雪君を引き抜いた。黒血に似たオイルがしぶく。
「それなら」
 イピナが動いた。接近。が、イヴは動かない。動けないのだった。
「穿つ落涙、止まぬ切っ先」
 イピナは無数ともみえる刺突を放った。常人は散りしぶく無数の光しか見えなかっただろう。イピナの必殺業、春夏秋冬・夕立だ。
 が、イヴの技倆はイピナのそれを凌いでいた。無数の刺突を悉く黒刀ではじく。
「くっ」
 イヴの顔が、しかし焦りで歪んだ。イピナの攻撃に黒刀の動きが追いつけない。イピナの全力を防ぐにはイヴは負傷しすぎていた。
 刺突から逃れるために、片足のみでイヴは跳んだ。一気に数十メートルの距離を。
 が、イヴの目は雪風に舞う黒影をとらえていた。もしかするとこの時、イヴは己の死を悟ったのかもしれない。
「あなたの辛苦、あなたを裂く刃としましょう……」
 必殺剣、幻灯無明。禊は流星のごとき静かな一撃を放った。

 街角に静寂がもどった。ほっとエストレイアが息をつく。さすがに疲れていた。
「皆様、お疲れ様でした! 私、皆様のお役に立てたでしょうか?」
「はい、とっても」
 イピナがうなずいた。
「でも……敵に手の内を知られるというのは、やはりいい気持ちはしませんね」
「そうですね」
 サラはイヴの骸に黙祷した。
「もし生まれ変わることがあり、再び戦う事があれば、今度は我が剣を持って対峙させて頂きましょう」

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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