●ゆきだるまあたっく
凛とした冬の風が淡雪を運び、草原を白く染めてゆく。
辺りには見る間にふかふかの雪が積もり、一面が真白な景色になった。小さな雪玉を作ってころころと転がせばそれはすぐに体のパーツになる。
もうひとつ、小さな頭を作って葉っぱと木の実で顔をつけてマフラーとバケツの帽子を被せればほら、ゆきだるまの出来上がり。
「できた! 僕のお友達第一号!」
少年は自分の背丈ほどの雪像を眺め、満足そうに頷いた。そして、彼はもうひとつのゆきだるまを作ろうと考えて雪に手を伸ばす。
だが、そのとき。少年は妙な気配を感じて動きを止めた。
「え? 待って、どうしてゆきだるまが勝手に大きくなってるの!?」
振り返った先では先程作った雪像が巨大化していた。そうして、ゆきだるまはゆっくりと体を動かし――突如として少年目掛けてごろごろと転がり始めた。
「わあああっ! あれ……なーんだ、夢かあ」
慌てて逃げ出そうとした少年はベッドから転げ落ち、はっとして起き上がる。転がるゆきだるまに押し潰されそうになったのはただの夢。
明日はふわふわの雪原で本当にゆきだるまを作ろう。少年は期待を膨らませてベッドに戻る。しかし、悪夢は其処で終わらなかった。
「私のモザイクは晴れないけれど……」
不意に怪しい声が響き、少年の胸に魔鍵が突き刺さる。
夢を奪われた彼は何かを思う暇もなく倒れ、意識を失った。その姿を一瞥した魔女ケリュネイアは薄く笑む。
「あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
そして――パッチワークの魔女が去った後、其処には少年の夢を具現化した巨大ゆきだるま型ドリームイーターが姿を現した。
●ふゆのあそび
「ゆきだるまも遊びたかったのでしょーねえ」
子供が見た夢の『驚き』が魔女によって奪われ、夢喰いと化す。そんな事件が起こったのだと話した平坂・サヤ(こととい・e01301)はゆるゆると語った。
彼女が伝えた通り、今回の敵はゆきだるま型。
二メートルほどの巨大な敵は現在、少年の家の裏手にある雪原付近を遊び相手を探して彷徨っている。木の実と葉で作られた顔はにこやかで温厚そうに見えるらしい。だが、ゆきだるまの『遊び』とは相手を驚かせ、グラビティ・チェインを奪うこと。
「サヤたちが現場にいれば、ゆきだるまは驚かせにやってくると聞きましたあ。ころころ、ごろごろ、いきおいよく転がってくるようですねえ」
出会い頭の驚かせは敵の挨拶代わり。目の前でぴたりと止まって驚いた相手の顔を見たいだけらしいのでダメージはない。
それゆえにだいじょうぶですよ、とサヤは語る。
「それからドリームイーターは最初の驚かせが通じなかった相手を優先的に狙ってくるのですよ。うまくやれば敵の攻撃を分散したり、集中させる策もとれますねえ」
どう戦うかは向かう者との作戦次第だと話し、サヤは説明を終えた。
必要以上の詳しい事を語らずとも戦いに関しては特に心配はない。そう語る青い瞳が黒髪の隙間から見え隠れしていた。
すると、話を聞いていた遊星・ダイチ(戰医・en0062)が提案があるといって片手をあげる。折角だから、と語られたのは遊びの誘いだ。
「今回は一般人の保護も被害も出なさそうだからな。戦いが終わったらそのまま雪遊びに洒落込むのはどうだ? 広くてなかなかいい場所らしいじゃないか」
「わあわあぜひぜひ! ふんわりゆきあそびですねえ」
サヤは頷き、何をしようかと考える。童心に戻ってゆきだるまを作るのも、雪合戦も悪くない。ゆっくりと雪を見ながら温かい飲み物を楽しむのも良いだろう。
雪遊びの考えを巡らせた後、サヤは両手でスカートをつまみ、裾を軽く持ち上げてカーテシー式のお辞儀をする。それはまるで、よろしくおねがいします、と仲間達に告げるような仕草だった。
「それでは、まいりましょーか」
そうしてサヤは戦いと雪への思いを馳せ、もう一度いつもの言葉を口にする。
だいじょうぶですよ、と――。
参加者 | |
---|---|
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218) |
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814) |
平坂・サヤ(こととい・e01301) |
朝霧・美羽(そらのおとしもの・e01615) |
羽乃森・響(夕羽織・e02207) |
遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978) |
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674) |
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342) |
●ゆきだるま
やわらかな雪とひんやりとした空気。真白な光景。
地面を踏み締め、一歩分の足跡を残す。さくりとした感覚が爪先から伝われば、ふわふわの雪が自分の靴の形に変わっていく。
「わぁい、雪っ。雪すごーい」
「雪遊びよ雪遊び!」
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)と朝霧・美羽(そらのおとしもの・e01615)は雪原を眺め、瞳を輝かせた。ゆっくりと過ぎ去る季節の中、雪を楽しめるのもあと僅か。
わくわくする気持ちを隠し切れない少女達を眺め、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)は身体を震わせる。
「寒い……さっさ終わらせて帰りましょう」
その傍らではボクスドラゴンのイドも寒さに耐えていた。リィ達は寒いのが苦手なのだと感じた羽乃森・響(夕羽織・e02207)は、もこもこになるほどに防寒対策をした少女に不思議な微笑ましさを覚えた。
「遊ぶ準……お仕事の防寒対策はしっかり出来てるわ」
だから大丈夫、と口にした響はそっと手袋をした掌を握り締めた。すると、遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978)が大きく頷く。
「うん! それにしても、作った雪だるまが動き出す、かぁ。それで一緒に遊べるだけなら素敵に夢のあるお話なんだけどね」
しかし、そうはいかないのがドリームイーターというもの。
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)も鳴海に同意を示し、件のゆきだるまの出現の仕方を思い返す。
「おっきいヤツに追っかけられるって怖いよね。しかもごろごろ転がってくるとか!」
「そんな雪ダルマさんは倒さないとね。頑張るのよ、えいえいおー!」
「おー!」
美羽とフェリシティが片腕を掲げ、決意の気持ちを動作で表した。
そのとき、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)と平坂・サヤ(こととい・e01301)がふと顔をあげた。二人がそうした理由は何かの気配を感じた故。
「お待たせね、遊びたかりの雪だるまさん」
ロビンはそっと呟き、近付いてくる夢喰いに気付かぬふりをした。此方を驚かせようとするゆきだるまはケルベロス達に狙いを定め――突如としてごろごろと転がって来た。
「わっ転がってきたのっ」
きゃー、とメイアが悲鳴をあげ、それに合わせてサヤも驚く演技をしようと口を開く。
「……えっあっ、おもったより勢いがその、ひゃああああ」
だが、演技の心算が割と本気で驚いてしまう。何故なら迫るゆきだるまのスピードが予想以上に速かったのだ。
「う、うわあああああ、巨大な雪玉に潰されるー!? って、雪だるま!?」
「すごーい、おっきな雪だるま!」
「……。わ、わあー。雪だるますごーい!」
続けて鳴海が声をあげ、ロビンとリィも吃驚したように装う。後者の二人は何だか棒読みだったが、それが彼女達の精一杯だ。それにゆきだるまの意識は、この状態で驚きを見せなかったフェリシティに向けられていた。
(「驚いちゃ駄目、驚くのは我慢!」)
仲間につられそうになりながらも耐えたフェリシティは超真顔。
いいぞ、とひっそりと声援を送った遊星・ダイチ(戰医・en0062)は敵がフェリシティやサーヴァント達に狙いを定めたと判断する。響も頷き、仲間達に戦いの準備が整ったと合図の視線を送った。
そして、サヤはゆきだるまを見つめる。
「可愛らしいゆめは、ゆめのままに。たくさんあそんでねむりましょーねえ」
緩やかな、それでいて何処か凛としたサヤの声が響いた、その刹那。
白い雪が舞い上がり、戦いの幕があがった。
●しろのけしき
ゆきだるまが再び構えを取り、今度は本当に体当たりを仕掛けようと動く。
来るのよ、と美羽が呼びかけた声に反応してビハインドのシホが前に飛び出していった。敵のごろごろ攻撃をシホが受け止める最中、メイアが攻勢に移る。
「ライちゃん、ビリビリーってしちゃってなの」
少女が放ったのは神鳴雷絲。
呼び出された雷獣が駆け、ゆきだるまを貫く勢いで突撃した。まるで絲のような軌跡を描いた獣。其処に続き、ボクスドラゴンのコハブが属性を援護の光に変える。
更にフェリシティの相棒竜であるそば粉と、響の匣竜レーヴが力を重ねていった。
竜達が連携していく中でリィはイドを蹴り出す勢いで前に向かわせる。
「死ぬまでひたすら庇いなさいね」
無慈悲なリィの言葉にイドはぶんぶんと首を振った。だが、当のリィはその様子には構わずに雪の地面を蹴りあげる。
翼を広げ、高く跳躍したリィが放った旋刃の一閃はゆきだるまを貫いた。
その間に響が地面に番犬の鎖を展開し、フェリシティが紙兵を散布することで仲間の防護を高めてゆく。
巡る力を感じながら、ロビンは愛鎌のレギナガルナを振りあげる。
「もういやっていうくらい、めいっぱい、遊んであげる」
ゆきだるまに向けてロビンが放ったのは激しい竜炎。その緑の瞳に焔が映り込んだ次の瞬間、雪原に赤い色が躍った。
其処に合わせてサヤも竜語魔法を紡ぎ、更なる炎を齎すべく狙う。
「力いっぱい、おあいてしてあげますねえ」
サヤの魔力に呼応した幻影竜が激しい力を解放し、ゆきだるまに炎を付与した。じりじりと熱が雪を融かす様は相手の力が削がれていることを示している。
良い感じ、と小さく微笑んだ鳴海は雪灯の名を抱く刃を強く握った。
「悪夢はさっくり終わらせて、雪遊びを楽しもう!」
そして、意気込みと共に放たれた絶空の斬撃は敵の不利益を増幅させる。鳴海達の連携に目を細め、響はこの仲間となら必ず勝てると信じた。
だが、ゆきだるまも反撃を狙ってくる。
雪玉を生成する動作に気付いたロビンが仲間に目配せを送り、リィもイドに含みのある視線を向けた。さっさと行きなさい、と告げているような少女の眼差しに匣竜は敢えて気付かぬふりをする。
「使えないやつね。ほら、しっかり仕事しなさい」
するとリィはイドの尻尾を掴み、敵が投げた雪玉の軌道へとぶん投げた。攻撃を真正面から受け止めたイドの声なき悲鳴があがった気がしたが、リィはそのまま気咬を練り上げて敵に放つ。実に無情だ。
頑張れ、と匣竜にささやかな応援を送った美羽とダイチは癒しに移る。
「ダイチ、そば粉! いっしょにキュアキュアしちゃおうね!」
「ああ、こっちも頼りにしているぜ」
美羽とダイチは視線を交わし合い、名を呼ばれたそば粉も白い翼を広げて応じた。その際に頭と前脚に飾られたリボンが愛らしく揺れる。
その様子に、帽子を軽く被りなおしたシホが薄く微笑んだ様子が見えた。何だか心がつながっている気がする。そう感じたメイアとフェリシティは微笑ましい気持ちを抱き、早く戦いを終わらせようと心に決める。
「どんな悪夢も夢から醒めてしまえば怖くないってのが世の常だよね!」
すぐに悪夢をやっつけちゃお、と意気込むフェリシティの狼耳がぴんと立った。瞬刻、雪原を駆けたフェリシティの稲妻突きが敵を翻弄した。
頼もしさを胸に抱き、メイアも其処に続く。
「えへへ、サヤちゃんやリィちゃんやフェリスちゃんも。皆が一緒でとっても心強いの」
肌や翼を刺すような冬の寒さにはなかなか慣れないが、この心に宿る温かさは誰にも奪えない。メイアは掌を高く掲げ、凍結の弾をひといきに解き放った。
だが、ゆきだるまは未だしっかりと耐えている。
響は敵の穏やかな表情に数度瞬き、ふとした感想を零した。
「何だか、楽しんでいるようにも見えるわね。でも、これは避けられるかしら?」
作られた表情とはいえ、ゆきだるまの風貌のおかげか戦いすら遊びの一環のように感じられる。そして、バスターライフル構えた響は鋭い一撃を見舞った。
「まだまだ行くよ!」
響に合わせ、鳴海もサイコフォースを重ねる。更にはレーヴが体当たりに向かい、サヤも古代語魔法の詠唱に入った。
「ゆきあそび、楽しんでいただけています?」
青い瞳を微かに緩め、サヤはゆきだるまに問いかける。返答が戻ってくることはなかったが、もとより反応は求めていなかった。返される攻撃が返事の代わりだと感じ、サヤは魔法の光を放ち返す。
ケルベロス達の連携により、少しずつ敵の動きが鈍くなっていた。
ロビンは掌を広げて炎を宿す。終わりに向けての道標を作るなら、いま。
「わたしの炎で、そう、ぐずぐずに蕩けてちょうだい」
敵を見つめたロビンは炎の獣をその拳に纏う。華奢でか細い腕が大きく振り上げられた、瞬間――烈しく迸った衝撃がゆきだるまを深く抉った。
そして、戦いは終局へと導かれてゆく。
●あそびのじかん
ゆきだるまはごろごろと転がり、ケルベロス達を押し潰さんと迫ってくる。
狙いが狂ったのか、その軌道はサヤに向かってしまっていた。ヒャー、とサヤが驚くふりをするが、敵は勢いよく突っ込んでくる。
「大丈夫、任せて!」
しかし、咄嗟に飛び出したフェリシティが敵の体当たりをしっかりと受け止めた。吹き飛ばされそうになりながらも、尻尾と足に力を入れたフェリシティは痛みに耐える。
「負けないよ。もっとたくさんの炎でゆきだるまのこと溶かしてあげちゃう!」
其処から反撃として放つのは幻影竜の炎。
どんなに寒くても熱い思いがあるから、と地面を踏み締めたフェリシティの一撃は大きな熱量を持った衝撃に変わっていく。
リィはその機を逃さず、イドを蹴って体当たりに向かわせた。
そうして、リィも終焉に向けた一撃を放とうと狙う。
「……おいで、」
掌を軽く掲げ、呼び出したのは何者でもない何か。自らディドルディドルと呼ぶそれらを放ったリィは、白いゆきだるまを黒蛆達が汚していく様をじっと見つめていた。
されど、その一閃は敵を揺らがせる。
美羽は頼もしい仲間達に笑顔を向け、シホに更なる補助を願った。
そうして、美羽は寒さも吹き飛ぶようなあったかい歌を唄おうと唇をひらく。
「――Let's sing a lovely song!」
ゆきだるまが崩れてしまうのは寂しいけれど、悪夢を蔓延らせてはいけない。癒しの力を紡ぐ美羽がステップを踏むたびに、ひらりと待夜草が召喚される。
生み出された花々は五線譜を描くように流れ、空高く舞い上がってゆく。祈りを込めた花びらは雪原を淡く彩り、傷をやさしく包み込んだ。
いよいよ最後が近付いていると察し、鳴海も霊刀に宿る力を最大限に解放する。
「行こう、雪灯……今日も私達は全力でッ!」
全力と書いてフルパワーと読む、その激しい力を凍気に変えた鳴海は刃を振り下ろした。恐ろしいまでの衝撃が弾け、ゆきだるまの一部が砕かれて散りゆく。
今が好機だと感じ取ったメイアは今一度、雷獣を召喚した。
「ライちゃん、もういっかいビリビリなの。コハブも一緒に、ね」
メイアが匣竜の名を呼べば、愛らしい鳴き声が返ってくる。そして、メイアの指先が敵に差し向けられ、雷撃と竜の吐息が迸った。
響もレーヴに攻撃に移るよう告げ、自分も掌を空にかざす。
「終わらせるわ」
「そうね、さよならにしましょう。あなたとの遊びは、これでもうおしまい」
響が殺気を纏ったことに合わせ、ロビンもレギナガルナの切っ先を敵に向けた。
駆けた響の夕焼け色の髪が一瞬、雪のように白く染まる。飛ぶより速く、歌うより遠く。夜色の剣戟が夢喰いを斬り裂いた次の瞬間、少女の戦う意思を宿した大鎌が舞う。
ふたつの刃が敵の力を削り、雪を殺いだ。
あと一撃で終わると感じたリィとフェリシティは自然と仲間に視線を向ける。同様に美羽とメイアも頷く。少女達の瞳が映すのは、そう――サヤだ。
皆の期待と信頼を感じ、サヤは一瞬だけ瞼を閉じた。すぐに顔をあげた彼女が手繰り寄せるのは否運の断章。
「おやすみなさい。また雪の日に」
サヤがそっと口にした別れの言の葉と共に因果は反映される。
そうして、戦いはまるで物語のページが閉じられるかのように静かな終幕を迎えた。
●ですまっち
悪夢はただの夢に還り、訪れたのは雪遊びのひととき。
雪原に残る戦いの跡は僅かであり、まだまだふわふわの雪が積もっている。一仕事を終えて体も温まったところで開始されるのは勿論、雪合戦。
やることが決まれば開始は早いもので、既に何となく陣営が分かれていた。
「シホ、ぜーったい勝つのよ! 勝ったご褒美はコンビニの肉まん!」
「ふふん、負けないわ。わたしね、コントロールにはわりと自信があるの」
「……寒い」
「せっかくの雪ですよ、遊べばもっとポカポカですよ」
片方は姉と一緒に意気込む美羽に、胸を張るロビン。マフラーに顔を埋める響、そしてサヤの四人。ていやー、というサヤの声と同時に雪玉が宙を舞う。
それに対抗したのは反対側に立つメイアだ。
「どんな球が来ても、バールでカッキーンって迎え撃っちゃうの!」
「全力投球、いっくよー!」
「ふふん、雪山生まれの本気、見せてやろうじゃないの。いっくよそば粉!!」
見た目によらず豪快なメイアに続いて、鳴海が雪玉を投げ返す。
更にはそば粉を従えたフェリシティが必殺トルネード旋風を巻き起こしていった。ちなみにそば粉が飛びながら雪玉を落とすというこの技は昨日考えたものらしいと聞き、感心したダイチも陣営に加わる。
「さて、俺も本気を出してみるか。負けないぜ!」
雪球が舞い、賑やかな声が響ていく。
そんな中で、物好きね、と口にしたリィはひとり静観していた。
「こんな寒い中、外で遊ぼうだなんて。リィは早く戻って温かいココアでも飲――」
だが、最後まで言い切ることなくリィに流れ弾が当たる。雪を顔に被ったまま、リィは低い声で呟く。どうやら身の程を知りたいようね、という声が落とされ、仁義なき雪合戦デスマッチが開始された。
鳴海は遊びに来ていた輪夏の手を引き、これで五対五だと笑顔を浮かべる。
いつしか仲間達のボクスドラゴン達も本格的に戦いに参戦し、メイアは両手を広げてコハブを応援する。
「じゃーん。ボクドラ雪合戦ー! ふれーふれー、こーはーぶー」
「んん、サーヴァント持ちの連係プレイはちょっと、厄介ね……」
雪玉を作らせたり、保護色を利用したりと意外と器用なお伴達を見つめ、ロビンは対抗策を考える。反して、美羽はシホと一緒に勢いのままに突っ込んでいく。
だが、そんな美羽にフェリシティとそば粉の連携攻撃が襲い掛かった。
「油断してた? でも、これからもっとそば粉トルネードが舞うよ!」
「No Way……」
雪まみれになった美羽の頭をシホが払ってやる姿は微笑ましい。頑張りましょう、と仲間に手を貸した響も雪玉を作る為に地面に手を伸ばした。
しかし、その間にも相手チームの攻撃は激しくなるばかり。後頭部からの雪を受けてぺしゃり、と倒れた響だったが、心ではまだ負けてはいない。
「今度は反撃よ」
小さく笑った響は延々と雪玉を作らされているイドに狙いを定め、レーヴと共に攻勢に入る。そうして、雪原には楽しげな声が響き続けた。
戦いの最中、自分に当たった雪玉を払ったサヤはふと首を傾げる。
「……ところで勝者はどうやって決めるのでしょう」
「はは、そういやそうだな。まあ良いじゃないか、楽しければ!」
ダイチが笑うと、サヤはこくんと頷いた。勝ち負けなど関係なくただ皆で遊べる。そんな時間が過ごせるのは、かけがえないことだ。
仲間達は嬉しさと楽しさを感じ、雪景色の中でめいっぱい遊び続けた。
ただひとり、雪に埋もれている少女以外は――。
「寒い、冷たい……もう、だめ……」
それが、イドを押し潰すように倒れて敗れ去ったリィの最後の言葉だった。(※後ほど温かいココアで暖を取って事なきを得ました)
●ゆめだるま
それから、雪合戦を終えた仲間達は其々の遊びや休憩に向かう。
鳴海は改めて輪夏を誘い、一緒に雪うさぎを作ろうと誘った。柔らかな雪を手に、二人は以前の事を思い出す。
「前の兎耳たまごのマシュマロ、可愛いかったから」
「確かに可愛かったもんね♪ ほら、できた!」
そうやって出来た二匹のうさぎはまんまる。そして、其処へ鳴海がひっそり作っていた雪の猫を並べる。
「あ、ねこ! すごい、ちゃんと形になってる」
ピンと伸びたおひげが素敵ね、と笑った輪夏は鳴海と視線を合わせた。兎と猫、三匹がちょこんと並ぶ様は愛らしく、二人は淡い微笑みを交わす。
響は和やかな様子に目を細め、改めて雪景色を眺めた。
「不思議ね。真っ白なのに暖かい」
響が落とした言葉を聞き、ロビンは雪をそっと踏み締める。それなら、とふわふわの雪に倒れ込んだロビンは全身で雪を堪能してゆく。
「ふかふかね」
「雪って何だかすごいのよ」
美羽とシホも倣って雪に寝転び、空を振り仰いだ。
そうして穏やかな時間が流れてから暫く、仲間を集めたサヤは提案する。
「ゆきだるまをつくってゆきません?」
「わー、賛成! さっきの雪だるまくらいおっきいのにしよっ!」
「……」
フェリシティは同意を示し、ぶるぶる震えるリィを問答無用で引っ張ってきた。メイアも良い案だと微笑み、まずはちいさな雪玉を作る。
「雪をぎゅっぎゅってして固めるのね。わたくし、最後まで頑張っちゃう」
「帰りは肉まんを買って、あたたまっていきましょーねえ」
仲間達の手によって形を成していくゆきだるまに思いを馳せ、サヤは思う。
――のこしていくなら、たのしいゆめを。
或る雪の日。楽しく巡るひとときはまだまだ、続いてゆく。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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