人食い雪だるまの怪

作者:baron

「そういえば子供の頃、悪いことをすると、人食い雪だるまに食われるぞって良く言われたっけなあ」
 雪道に作られた雪だるま。
 おじさんが覗きこむと、そこには、目が口が書いてありました。
 不思議なことに目も口も釣り上がり、恐ろしい表情なのです。
「待てよ、あっちのも同じ顔だよな。もしかして、コレって子供を叱りつける童話じゃなくて、もしかして本当にあった話じゃ……」
 右を向いても、左を向いても。
 同じ様な顔が沢山。
 おじさんは子供の悪戯だと思っていましたが、もしかしたらと思いつきました。
 自分と同じ様にお母さんに怒られた子供が居るとして、過去に本当に人食い雪だるまが居たかもしれません。
「面白いな。ちょっと聞いて……」
 ソレが本当に居た化け物なのか、悪い人が誤魔化した事件なのか、ただの童話なのか……。
 突き止める事はできませんでした。
 何故ならば……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 おじさんの後ろにおばさんが居て、鍵の様なナニカで突き刺していたからです。
 そしたらヒョッコリと、白くて大きな雪だるまが……。
 残念ながら、おじさんが見る事も確かめる事も、できませんでしたけどね。


「ようするに、興味を元にしたドリームイーターを倒せば良いのね?」
「はい。そうすれば興味を奪われた被害者の方も助かります」
 話を聞いて居た花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が要約すると、セリカ頷いた。
 興味の感情を奪い、ソレを元にしたドリームイーターが暴れているらしいのだ。
「敵のドリームイーターは1体のみで、配下などは存在しません。この怪物型ドリームイーターは、自分の噂を口にしたり、悪い子ど~こだ? と聞いて来て、指差された人を優先するそうですが、結局はドリームイーターですので、あくまで最初に優先するかくらいです。ですが、上手くやれば有利に戦えるでしょう」
 セリカの話を聞く限り、どうやら基本的には怪物型ドリームイーターと同じ様な感じらしい。
 被害者の近くをうろついて、段々と人を殺して遠出するのだろう。
 だが、最初は近くに居る筈だし、噂でおびき寄せが出来るなら、話すのも良いだろう。
「スケジュール次第だけど構わないわ。でも雪だるまというのも懐かしいわねえ」
「冬限定で、子供のころの風物詩ですしね。いずれにせよ、感情を奪って人を殺すような存在を放置できません。よろしくお願いしますね」
 リリ達が昔話を始めるので、セリカは微笑みながら相談用の資料を手渡したのである。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
ノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398)

■リプレイ


「それにしてもやたら寒いわね」
「そりゃ雪振ってるしな」
 花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が空を見上げながら呟くと、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は面倒くさそうに応えた。
 止める暇もあらばこそ、ルースはそっけなく、リリ達を置いて風下に歩いて行く。
「ライターに火を灯して気慰みに……ならない、わよね。寒むっ……まだ?」
「確かヴェルセアさんの担当だったと思いますけど……」
 リリにはマッチ売りの少女を気取る趣味は無いので、手っ取り早く近くで、雪だるまを覗きこんでる幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)に経過を訪ねる。
 意味する事は二つあるが、この場合はあまり差が無い。
 鳳琴は指先を吐息で温めつつ、先ほどウロウロしていた仲間の事を口にした。
「とっくに終わってルゾ。寒いノには慣れっこダガ、にしたって雪の日に路傍で突っ立ってるよリ、暖房の効いた部屋で茶を飲むほうがいいに決まってル」
 人払いの結界と、敵を包囲する為のカウントダウンは終了。
 ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)に限らず、さっさと済ませたいところである。
「そりゃ良いニュースだ。クソ寒いからさっさと出てきて欲しいからな」
「しっかし、ドクタ-。人食い雪だるまってのは……何のために人なんか食うんだろうナ? 案外寒がりデ、温かい血の通った生き物が憎らしいのかもしれないゼ」
 風下で独り煙草をくゆらせるルースをからかいながら、ヴェルセアは胸元を叩くフリして煙草を一本くすねるのであった。
 それに火を点けもせず、黙って咥えるまでが一連の仕草だ。
「お前でいいような気がしてきたが……、まあ事前に決めた作戦が優先だな」
「俺を誰だと思ってんダヨ? 泥棒ダゼ、十年遅せえヨ。ま、これも御役目ってやつダ」
 なんて言いながら、二人は雪だるま召喚の為に悪い子の話を始める。

「でも、雪だるまが人食いとはちょっとしたホラーですね、鬼のような顔とはまた……っ」
「悪い子用の雪だるまがいるです? 恐ろしい顔で追いかけて来るのですかね……」
 鳳琴が一つ一つ雪だるまを確かめて、途中で足を止めると、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)がニョキっと首を伸ばして来る。
 もちろんキリンさんのように延びる訳ではないので、雪だるまのお面を上げているだけなのだが、どことなく良い匂いがする様な気がした。
「ホントです。確かに怖い顔です。でも噂とは尾鰭がつく物ですっ」
「は、はい。コレです」
 興味深そうに覗きこみ始めるマロンに、鳳琴は驚いてドキドキしながら説明していく。
 他に普通の雪だるまや一部に顔付きが在る中で、この周囲にだけ厳めしい顔が在るのだ。
 もしかしたら、ヴェルセアが言うように由来があるのかもしれない。
「地球には面白い文化ガあるのですねェ……」
「はい、はい雪だるまです」
 なお貌の無いノーフェイス・ユースティティア(それは無貌であるが故・e24398)を見て、もう一度びっくりした所まで御約束である。


「そういえば、雪だるまは、暖炉に恋した童話を聞いたことがございました」
 ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は珍しいモノを見た代金代わりに、物語を詠い始めた。
 知って居るだろうか?
 雪の海と森の海に閉ざされた中世にとって、吟遊詩人の語る物語は何よりの愉しみなのだ。
 それは南北が逆転し、雨季や乾季が酷い場所でも変わらない。
「その雪だるまが、棒を芯にしていたから、だそうで。雪だるまには馴染みがございませんでしたが、こうして沢山拝見でき、ようやく意味が解りました」
 ギヨチネの言葉に誘われたからだろうか?
 それとも最初から近くに居て、自分の話題が出るのを待っていたのだろうか?
 ピョコピョコと雪だるまがやって来る。
『悪い子ど~こだ?』
「そうです、このお兄さんです!」
 マロンは現われた雪だるまに、気ぐるみで対抗した。
 ピョンピョンとキョンシーのように跳ね、自己主張。
 雪だるまとは、本来可愛いものであると体現していた。
「その雪だるま、私に似ておりますでしょうか。斯様に凶悪な顔は……して……な……」
『ホントウ?』
 ぽとり、と首が落ちた……。
 雪だるまの首が落ちたのに、胴体にはまだ、もう一つ首がある。
 その顔は……。
『ほら見て、コル凍るベーユの顔! 見たミタ目通りコワ……違った、悪いヤツやつ!』
「これは先ほど、雨祈が言った言葉……いけませんね……」
 そう言えば、悪い子や不良を凍りつけにして、閉じ込めた刑罰が……。
 いや、あれは、不幸にも遭難した子供の伝承……意識が遠くなる。
『ところでコルベーユに似てない?』
『そうです、このコノコノお兄さんです!』
『ソウデス!』
『そうだヨ』
 気が付けば、周囲の誰もが自分を指挿している様な気がした。
 満場一致の有罪判決。
 いけない、イケナイと危険信号が心で早鐘を打つのだが……。体が雪だるまの様になったかのごとく動かない。

 そんな時、どこか良い香りが彼を包んだ。
「良く判りませんが、大丈夫なのです?」
「助かりました。敵の攻撃を食らっていたようですね。どのくらい、こうしてましたか?」
 マロンが青ざめた表情の彼を温かな光で包んで居た時、ギヨチネはハンマーを握って盛んに雪だるまの顔を殴って居た。
「ジャスト3分だゼ。良い夢見れたかヨ? さぁ遊ぼうぜスノーマン」
「ええとだね、『詩人の後胤よ、我が見るは、汝が母なり』とコルベールが攻撃した後で、その後は殴りあいだよ」
 ヴェルセアが蹴りを浴びせ、藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)は殴りかかりながら一端、距離を離した。
 彼らが殴って居る雪だるまは、ドリームイーターであって、自分ではない。
 そして、自分を含めた前衛陣全体に光の加護があることを考えれば、数回分の攻防が過ぎ去ったのは間違いが無いだろう。
「その、その間に、御迷惑を掛けて居ませんでしたか? 棒立ちだったりとか」
「そんな事は無いよ。顔が青い以外はいつも通りさ。なあ『刎ね飛べ、真火』もう一度、燃やしてやれ」
 ギヨチネもハンマーを握って居たが今一実感が無い、だが雨祈が保証してくれるなら大丈夫だろう。
 なにせ混乱した自分より、友人との絆の方が信じられる。
 そう思っていると、雨祈は笑顔で指全てに蒼い炎を灯して攻撃していた。
 そして炎に焙られることで、マロンの香りに紛れて気がつかなかった、自分が放った技の香りに自覚する。
「ええ、エエ、ワタクシ雪だるまという物と相対するノは初めてですガやって見せてまショウ。処で、雪鍋の具には丁度良い相手デスネ」
「……あのー。雪鍋に雪は使いませんよ?」
 翼で斬り割いて居たノーフェイスの独り言に、鳳琴がおっかなビックリ御忠告。
 いつもの破ぁぁっ!! という掛け声にも蹴りにも少しだけ気合いが足りないが、意を決して話しかけた様だ。
「では、雪ならバ溶けてもらいまショウ!」
 紳士であるノーフェイスは陽気に頷くと、それっきり雪鍋の話は忘れることにした。
 せっかく少女が勇気を振るって勘違いに訂正をしてくれたのだ(怖かったのはそこではないが)、無駄にすることなど出来まい!
 刀に炎と闘志を灯し、雪だるまを盛大に燃やす事にした。


『悪いコには、オシオキ?』
「悪い子? ああ、知っている……人相の悪い雪達磨、お前だ、お前。せっかくの雪景色を穢す者は排除する」
 ルースは仲間の陰に隠れながら、トリガーを引いて豪砲を唸らせる。
 悪い奴だから倒すのではなく、気に入らないから排除すると嘯いた。
「今度こそ当ててやるから、ちゃんと見てなさいよ?『意外と痛いらしいわよ。』そいつらの行進はね」
「ただの確率だろ? 『命の行動原理はふたつ。「愛」と「恐怖」だ。』まあ当たるも八卦、当たらぬも八卦ってやつさ」
 以外に素早い雪だるまに対して、リリとルースは挟み討ちに出た。
 リリは先ほど外したが、まあ運である。そして今回は山ほどイワトビペンギンがダンスしてるのもただの運である。
 それを見ながらルースは不機嫌なリリに対し、フォローとは言いかねるフォロー。
 今は良いさと、すねる処も悪くないなと思いつつ、呪いをかけ始めた。
「あー、雪だるまが襲ってくるってなんかシュールだな。早く倒して酒飲んで温まりたいね。……そういえば、拳法スタイルだけど武器も使うの?」
「武器術も、拳法では重要です。……かわいくない雪だるまなど切り捨てましょう。早く帰りたいですしね……いざ!」
 ラブラブだねー、ラブラブですねー。
 雨祈と鳳琴は素直に成れない恋人達をみながら、溜息ついて刀とナイフを取り出した。
 面倒くさいな素直に成ればいいのにと一人は思い、もう一人は寂しくなって早く帰りたくなる。
 思いは別であるが、さっさと帰りたいと考えることは同じなのだろう。
 鳳琴はナイフで雪だるまを切り刻み、雨祈も手刀にグラビティでえコーティングを掛け悪しき空間を断つ。
「おお。皆さん、やる気デスネ」
「まあ寒いのは面倒だしナ」
 ノーフェイスとヴェルセアは何とも言えない顔で、お互いの顔を見る。
 そして、先に行きます? どうぞどうぞと譲り合い、どちらともなしに動き始めた。
「この雪が砕けル感覚ハ、童心のわるい遊びノ様でなんとも言い難いですネ」
 ノーフェイスの翼は再び拳、いや竜の爪と化して雪だるまに食らいつく。
 そこへもう一人が駆けよって、ナイフを突き立てた。
『俺が謂うなら本当ダ 三度唱えて現実となル』
 右手と左手で御手玉しながら、クルクルと切り刻む。
 そして懐に仕舞っておいたおむ一本を、手品の様に取り出して突き刺したのだ。


「ここはもう倒しに方が良さそうですね『蜂さん、れっつニードルアタックです!』ゴーゴーなのです」
 びゅーん。
 蜂の巣を飛び出す絵本のように呼びだしたマロンは、勢いよく蹴り飛ばした。
 魔導書という異空間で平穏に包まれていた彼らは、眠りと食欲を邪魔された事に怒り、雪だるまに向かっていくと言うシュールな光景が見受けられる。
 そして最後に現われたのは、寒いからか、赤いマフラーを首に巻いた立派な女王蜂であったという。
「では、トドメと参りましょう」
 ギヨチネはハンマーを天に放り投げると、鉄拳気味に闘気を解き放った。
 拳は雪だるまの頭に突き刺さり、闘気は内側から頭を弾けさせたのである。

 そして、丁寧に落ちて来たハンマーをキャッチして、雪を落として手入れを始めた彼の元に、少女たちがやって来る。
「作戦上のこととはいえ、すいません」
「悪い子扱いして、申し訳ないのです。良ければ、一緒に可愛い顔に書き換えて……はダメですかね?」
「しかし、こんな顔ですよ? よろしいのですか?」
 謝る鳳琴とマロンに、ギヨチネは改めて尋ねた。
 美醜にこだわりがあるつもりはないが、筋肉質で身長も大きい男は怖いのではないのだろうか?」
「……やはり、雪だるまはかわいくないといけません、よね。ほら、ギヨチネさんも一緒にかわいい顔の雪だるまを作っておきましょうか……!」
「そうなのです。雪だるまはやっぱり笑顔が似合うと思うのです」
「OKしてくれないと、この子たちも俺も困っちゃうよ。ほらほら、さっき好き放題言っちゃったからコレで勘弁して」
「好物ですのでありがたく頂きますが……ここで頂いてしまいましょうか」
 二人の少女に囲まれて困り顔の友人に、雨祈はウオッカの入ったスキットルを一口だけ呑んで渡す。
 ギヨチネは最初、どうしたものかと思っていたが、やがてスキットルを受け取るとグビグビと傾ける。
 その様子に、呑み過ぎ注意! とか即座にストップが入って、厳つい顔は動かないが、その周囲から笑顔が零れた。
「まったく、素直じゃねえな。とりあえず熱燗3合……と、その前にもう少し雪景色を見ていくか」
「御酒の力を借りないといけないなんてね。偶には……っいま、ぶつけたの誰? いま私にぶつけたのはどこのどいつかしら」
 ルースとリリは、素直に成れない大男に、自らを重ねて……。
 良い雰囲気だった処に、雪玉が直撃した。
「どっちが素直じゃないンダ? せっかく体が温まったんダ。もう少し雪で遊んでいかねぇカ?」
 ヴェルセアがヒューヒュー言いながら、素直に成れない恋人たちに雪玉を投げ始めた。
 そこからは、泥試合ならぬ雪合戦の開始である。
「せっかくこの恐ろしい寒さの中ここまで来たのだから、働くだけでは損よ。そう思ってたの」
「同感だな。せっかく守った雪化粧だと思ったんだが………」
「待テ、何に入れタ! かわいい悪戯に大人げないとは思わねぇのカ!!」
 恋人たちは、石とメスに雪と言うコーティングを掛けた。
 二人の共同作業の前に、御邪魔虫は尻尾を巻いて退散。
「……石とかだけは止めておきましょうね?」
「「あ、ハイ」」
 ギヨチネの表情は変わらないので、底冷えするような声で判断するしかない。
 あえていうなら、冷たい笑顔を受かべてないだマシと言えたかもしれない。
「とはいえ、みなさん、これでも私、悪ノリなるものに興味がございまして。邦では見られないモノです、愉しむとしましょうか」
「ヴェルセアサン、まだ立てますカ? わたくしくらいはまあ、援護しまショウ」
 とはいえギヨチネもせっかくの雪を愉しむ事にしたようだ。
 ノーフェイスも陽気に集中砲火を食らう誰かさんの側に立って参戦。
 最後は皆で雪合戦を愉しんだと言う。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。