ミッション破壊作戦～小剣に魂の叫びを乗せて

■リプレイ

●デウスエクスにぶつける想い
　ヘリオンはケルベロスの希望を受け、ミッションに向けて移動する。
「エインヘリアル、ですか……」
　ヴァルリシア・ゲルズ（シャドウエルフのウィッチドクター・e11864）は父が牧師を務める教会でシスターを行っており、普段から身につけているシスター服で依頼に臨んでいる。
　彼女の父親は、エインヘリアルに仲間を殺されたのだそうだ。
「お父さんのような思いをする人を出さない為にも此処を潰さないと、ですね！」
「不滅のポリュデウケス……」
　今回の行き先を提案したのは、チーム唯一の男性、氷鏡・緋桜（矛盾を背負う緋き悪魔・e18103）だ。ポリュデウケスは緋桜にとって、浅からぬ因縁のある相手。倒すべき敵であり、恩人であり、越えるべき壁でもある。

　鹿児島県霧島市。
　現場への到着し、グラディウスを手にしたケルベロス達は、次々にヘリオンから降下していく。
　真下にあるのは、新燃岳。その火口にある魔空回廊を彼らは目指す。ただ、メンバーは強風に煽られてしまう。
「バラバラにならないよう、固まって」
　カロリナ・スター（ドーントレス・e16815）は仲間達に注意を促す。
　しかし、気づけば、火口はもう目の前まで迫っていた。真っ先に舞い落ちてきたのは、ヴァルリシアだ。
「色々と言いたい事は有りますが……、私は暴力で人々を虐げる貴方達が大嫌いです！」
　彼女が握るグラディウスが魔空回廊を覆うバリアに触れる。
「家のお父さんのように、大切な仲間を奪われて苦しむ人に出てほしくない！　だから……」
　ミシリと小さな音が響き、バリアに亀裂が走り始めた。
「絶対の絶対に止めて見せます！　全力で！！」
　ヴァルリシアの叫びに応じ、ガラスが割れるかのごとくバリアは砕け散っていく。
　そうして、露出する魔空回廊。この破壊を目指し、メンバーは飛び降りてくる。
「いるんだろ、ここに……会いに来たぜ！　成長した俺の力を示しにな！」
　魔空回廊へと初撃を浴びせるのは、緋桜。彼はこの場にいるはずのエインヘリアルに呼びかけながら、グラディウスを振り下ろす。
　次に、カロリナ・スター（ドーントレス・e16815）は翼を羽ばたかせ、舞い降りてきた。
「主よ、どうかボクの手に力をお与えください」
　カロリナはグラディウスに体を預けるようにして、その切っ先を回廊へとぶつける。
　刃が突き刺さった瞬間、周囲に眩い光と爆炎が巻き起こった。続いて、溢れるスモークが新燃岳の火口を包み込んでいく。
　煙の中、猫夜敷・愛楽礼（吼える詩声・e31454）と伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）が魔空回廊へと攻撃を重ねる。
「貴方達が居るから、誰もが安心して暮らせないんです。貴方達が居るから、私達が戦わなきゃいけないんです。貴方達が居るから、私達みたいなのが生まれるんです……！」
　エスキモードッグのウェアライダーである愛楽礼は、やや肩肘を張ってこの依頼へと臨んでいた。
　愛楽礼は養護施設の出身で、デウスエクスの侵略によって家族を失った多くの子供達を見てきている。
　全部、全部、デウスエクスがいるから。それが居さえしなければ。自分達は平和に暮らせたのに……。胸に秘めたその思いを、愛楽礼は眼下の魔空回廊へとぶつけていく。
「地球の皆は、私達は、ただ生きたいんです！　それを邪魔するっていうのなら……！」
　同時に、勇名も小さな体で魔空回廊へと特攻する。
「……ぼくの魂、どこにある？　あるなら、こたえろ」
　無表情でローテンションな勇名は、自らの心を探している。
　それが本当にあるのか、そして、それはいずこにあるのか。探す上で自分に今、出来ること。
「……いたかったりつらかったりしたら、いやなひと、いるから」
　愛楽礼と勇名の想いが小剣へと込められて。
「私は、貴方達を、貴方達の望みを、砕いてみせます！」
「つよく……なりたい」
　グラディウスが魔空回廊に突き刺さる瞬間に起こる雷光と爆発に合わせ、勇名は「ぴかっ、どかーん」と効果音を口にしていた。
　濃くなる煙。だが、ケルベロスの攻撃は終わらない。
　ケルベロスに成って日の浅いレヴィア・リヴァイア（海星の守護龍・e30000）だが、この場で賭ける想いまで浅いわけではない。
「妾が愛す海と命とこの星を守る為ならば……」
　そこに、義務も責任も大儀も無い。レヴィアにあるのは、海より深き愛だけ。ただ、その海すらも消し去りかねないデウスエクスを見過ごすわけにはいかない。
「この身を賭して戦おうぞ」
　その隣には、ヴァルキュリアのホルン・ミースィア（極光束ねし者・e26914）が巨大鎧装に変身した上で、回廊を見つめている。
「かつてボク達を管理していた種族、エインヘリアル……」
　以前、エインヘリアルの奴隷兵として、特殊機甲部隊に所属させられていたホルン。その最前線で何人もの先達が傷つき、倒れて行った。
「デウスエクスたる彼らは、覚えていないんだろうね」
　この場のエインヘリアルと直接関係はないのだろうが、彼らを倒すことで、新たな悲しみを減らすことが出来る。ホルンにとって、これは小さな復讐の一矢なのだ。
「今も草木の苗床で眠るおねーさん達への、せめてもの償いっ」
　そうして、彼女はメインシステム、【The SoulConductor】を起動させる。
　少し遅れ、クオン・ライアート（緋の巨獣・e24469）が２人に続く。
「エインヘリアルの英雄、か。分身体とは言え、戦士冥利に尽きる相手だ、な」
　静かな口調で語り出す彼女だが、この下に待ち受ける強敵に、少しずつ喜びを感じていて。
「さあ、行くぞ！　我は巨獣！　この戦場に君臨し、全ての存在を破壊し蹂躙する緋の巨獣！」
　クオンは少しずつ、感情を爆発させていき……。
「愛すべき海と星と命の為に、必ずやその侵略を止めてみせよう！」
「砕けろ、魔空回廊っ！　キミらの死を看取ってあげるっ！」
「英雄よ！　黄金の英雄よ！！　貴様が真の英雄ならば、見事『我』を討ち果たし！　その英雄譚に華を添えてみよ！！」
　護りたいというレヴィアの想い、一矢報いたいというホルンの願い、そして、爆発しそうなクオンの感情が、一度に魔空回廊へと叩き込まれる。
　強い想いは力となる。グラディウスは力を解放し、突き立てた魔空回廊へと光を走らせた。
　これまで以上のスモークが噴射する。更なる七色の煌きが当たりを照らし出し、一際激しい爆発が起こった。
「魔空回廊が……」
　誰からともなく漏れた声。魔空回廊は乾いた音を立ててひび割れ、瓦解する。
　その光景に喜ぶのも束の間のこと。メンバー達はすぐにグラディウスを自身の体に固定し、あるいはすぐに翼で離脱できそうな仲間へと渡す。
「……よくも、やってくれたな」
　なぜなら、煙の中から、金色の星霊甲冑を纏った男……不滅のポリュデウケスが現れたからだ。
「侵略行為ではなく真向勝負であれば、モット気持ち良く戦えたデショウに……」
　レヴィアは降下時と違い、片言な口調で悪人には見えないと仲間に本音を漏らす。
　ただ、侵攻の拠点となる魔空回廊の破壊は大きい。敵もまた、それなりの心構えで攻めてくる。これ以上の増援はないのだから。
「行くぞ……！」
「あぁ、かかってこい！」
　襲い来るポリュデウケスに、緋桜は髪をかき上げ、身構えるのである。

●不滅のポリュデウケス
　敵を前に布陣するケルベロス。
　ホルンは前衛の護りをウイングキャットのルナに任せ、自らはアームドフォートの主砲をポリュデウケスへと叩き込む。
　後方のカロリナもマインドリングから光の弓を具現化し、時間を凍結させる弾丸を矢となして飛ばし、敵の体を射抜く。
「……やっつける、ぼくのしごと」
　直接己の拳で語りかけてくる相手に、勇名も仲間に合わせてバスターライフルから凍結光線を放射した。
　３連で射撃を受けるポリュデウケス。だが、多少傷つき、その身を凍りつかしたところで、その動きは止まらない。
「余り暴力は好きじゃあないですけど、貴方達みたいな人には容赦はしませんから！」
　ヴァルリシアはそう叫び、自らの罪を悔いるよう敵に促す。
「自分の過去に向き合ってください！」
　彼女の呼び出した鏡は、これまで手にかけた人々の幻を敵へと見せ付ける。
「それがどうした……」
　刹那、眉を動かしたポリュデウケスだが、さほど気にした素振りは見せずに拳をケルベロスへと叩きつけてくる。
　その痛烈なる連撃を前に飛び出したシベリアンハスキー型のオルトロス、火無が身を挺して受け止めた。その行動は、「任せろ、必ず守る」と告げているかのようだ。
　火無はすぐさま態勢を整え直し、くわえた刃を敵へと浴びせかける。
「あんたらがおらへんかったなら……！」
　やや地が出掛かっている愛楽礼もドラゴニックハンマーを振り上げ、超重の一撃を叩き込む。
「さぁ！　楽しもうぜ！」
　緋桜にとって、心待ちにしていたポリュデウケスとの戦い。彼は挨拶代わりに降魔の拳を叩きこんだ。仲間の攻撃で凍りついた体に亀裂を走らせる。
　ポリュデウケスとて緋桜の手合いは臨んでいたはずだが、魔空回廊を失った今となっては、戦いを楽しむ余裕はなかったかもしれない。彼は本気でケルベロスを体術を繰り出してくる。
　それを、レヴィアは後方で見つめていた。自身の実力不足を自認してはいるが、それでも、彼女もまた人々を、仲間を護りたいと強く思っている。
「サテ、ワタシの役目は皆様方への支援デス」
　前で戦う仲間の背後に、レヴィアはカラフルな爆発を起こす。
　それを受け、両手に大剣と三叉の槍を持つクオンは、正面から堂々とポリュデウケスへと無銘の大剣を力の限り叩きつける。
「ここだ！　私はここに居るぞ！　さあ戦いを続けよう、英雄よ！」
　巨獣のごとき存在感に、ポリュデウケスは注意を払う。
「よかろう。その身でとくと我の力を知れ！」
　挑発するクオンへ、敵は刃のような衝撃波を飛ばす。それは執拗に彼女を狙い、その上でさらなる衝撃波が浴びせかけられた。刻まれる２発の波がクオンの体へと十字に刻まれる。
　だが、戦うクオンとしては敵の攻撃を受けるのは望むところ。英雄を相手にする彼女は嬉々として、焔を纏わせた両の刃で攻め入るのである。

　不滅のポリュデウケス。幾度も蘇り、ケルベロスの前に現れるという男。
　しかしながら、彼は今までにない猛攻を見せ、拳と十字の衝撃波がメンバー達を苦しめた。
　愛楽礼は火無と共に敵の注意を引くクオンへの攻撃を肩代わりし、負担を減らそうとする。だが、敵の一撃は非常に重く、彼女達の傷を深めていく。
　回復メインで動くヴァルリシアはそれを見て、雷の壁で仲間を護りつつ、電気ショックを飛ばして個々に活力を与える。
　しかし、エインヘリアルの拳は容赦なく叩きつけ、この場から火無を吹き飛ばしてしまう。
「どうした！　英雄！　その程度ではこの私は止まらんぞ！！」
　クオンがさらに敵へと呼びかけて注意を引くが、彼女もかなり消耗してきているようだ。
「ここは断頭台、その首頂きます！」
　自分達を護ってくれたオルトロスの分まで。愛楽礼は足を大きく振り上げ、全霊をもって敵の頭へと踵落としを見舞う。
　だが、敵は倒れない。もはや自身が最後の砦とでも言う様に、ケルベロスの前に立ちはだかる。
「無駄だ。我は倒れん」
「さきにいく……つづいて」
　小柄な勇名は敵を見上げ、アームドフォートの主砲を浴びせる。
　それに応じ、カロリナが光の弓と矢を具現化して構えていた。
「天に滅せよ！！」
　宙を飛ぶ矢はカロリナの狙い違わず、ポリュデウケスの体を貫く。
「コレは撤退戦、強敵なれど迅速に退けねばなりマセン」
　作戦は成功だが、レヴィアが言うように目の前の相手をいち早く倒してこの場を離れねばならない。新たな分身と対する余裕など、一行にはない。
　レヴィアは溜めた気力で仲間の回復に当たりながらも、タイミングを見てルーンアックスを振るう。空の霊力を帯びた刃は、仲間の与えた傷に重なって傷口を広げていく。
「…………」
　顔を小さく歪ませたポリュデウケス。だが、彼の猛攻は止まらず、ウイングキャットのルナを吹き飛ばしてこの場から消してしまう。
「さあ、此度の英雄譚。その幕を下ろそうか！」
　息を荒くしていたが、勝機を感じたクオンは自らを獣と強い暗示をかける。
「我が深層にして真相、覚醒せよ！“スカーレット・ベヒーモス！！”」
　吼える彼女は狂ったように、大剣と大槍を振り回す。敵の動きが完全に止まるまで、その蹂躙は止まらない。
『カノンモードへ移行、フォトンライン全開放』
　ホルンも構える砲塔を敵に突きつける。そして、段階を経て、その中心にエネルギーが集まっていく。
『目標捕捉、最終セーフティ解除……撃てます』
　アナウンス音を確認し、ホルンは荒ぶるエインヘリアルを見据える。
「……世界を生んだ始まりの炎にて、全て、無に還れ」
　力の奔流がホルンの大砲から一気に放たれ、ポリュデウケスに浴びせかけられた。
　だが、そいつは自らを覆った高エネルギーに耐え、地面に踏み止まってみせる。銀河で繰り返される再生の力をその身に降ろし、彼はなおも戦う構えだ。
　そいつの前に、緋桜がゆっくりと歩み寄る。
「あんたには感謝している。あんたがいなければ今の俺はなかった」
　相手に幾多の拳と蹴りを浴びせてきたが、これが最後の攻撃と彼は悟っていた。
「だから俺は……あんたを越えて、明日を掴む！」
　全身全霊を込めた攻撃。それはたった一撃だが、とてつもなく重い一発。それがポリュデウケスの頬を殴打した。
「見事、だ……」
　煙の中、落ち行く敵。だが、そのポリュエウケスが潰えたことを、ケルベロス達は疑いもしなかった。

●意志を受け継いで……
　魔空回廊は粉々になり、霧散していく。
　破壊は完了したものの、スモークが晴れれば、ポリュデウケスの分身が現れる可能性は否めない。
　仲間からグラディウスを回収したカロリナは後方を気にしつつ、翼を広げて離脱していく。レヴィアもまた、竜の翼で火口から飛び立っていた。
　見れば、ミッションに挑む別チームのケルベロスの姿もある。その助けを受けつつ、愛楽礼はクオンと共にこの場を退く。
「…………」
　魔空回廊のあった場所を、緋桜はじっと見つめる。
「早く行くよっ！」
　装甲を解いたホルンは、そんな緋桜の袖を引く。袖が捲れて露わになる右腕を見た彼は、何かを感じてその場から背を向けた。
　それは、黄金の戦士より受け継ぐ想い。緋桜はそれを胸に、新燃岳から離れていく。
　勇名、ヴァルリシアが殿を請け負っていたが、この場のケルベロス達の助けもあって脱出はできそうだ。
「言伝は必要なさそうですね……」
　最悪の事態も想定していたヴァルリシアであったが、最善の形でこの場を離れることになったのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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