ここで会ったが百年目!!!

作者:つじ

●――だっけ?
「オオオオオォッ、貴様ァッ、ついに見つけたぞッッ!!」
 雄叫びの如く響く低音。ショッピングモールに突如現れた髭面の男は、その右腕で居合わせた市民……スーツ姿のサラリーマンを指し示した。
「よくもこの俺をあんな檻に! ただで済むと思うなァッ!!」
 3mを超える巨躯から放たれる糾弾に、不幸なサラリーマンが身を竦ませる。
「えっ、お、俺?」
「忘れたとは言わせんぞォッ!!!!」
 身に覚えがない、などという弁解は出る間もなく、振り下ろされた大斧によって男性は血煙と化した。
 理不尽極まりない展開に、周りの人々はしばし呆気にとられていたが……。
「ンン? 貴様、しばらく見ない内に縮んだか?」
 飛び散る赤と、充満する血の香りに、一斉に悲鳴を上げて逃げ始めた。

「――アアッ!? よく見たらそこの貴様もあの時のォッ!!!」
 止める者、もとい止められる者の居ないまま、エインヘリアルの暴走は続く。
 
●もしかして:人違い
「エインヘリアルによる、虐殺事件が予知されました」
 頭痛を堪えるようにこめかみを押さえつつ、ヘリオライダーのセリカが状況の説明を始める。
「この個体は、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者のようです。ある意味、尖兵としては相応しいのかも知れませんが――」
 その口調は、どこか苦いものを含んでいる。予知の光景からして、何か作戦があるようには見受けられない。このエインヘリアルの扱いは、『捨て駒』と見て差し支えないだろう。
「このまま放置すれば、無残に人命が奪われるだけでなく、恐怖と憎悪から他のエインヘリアルの定命化を遅らせる事にもなるでしょう」
 急ぎ現場に向かい、対処する必要がある。セリカはそう言葉を続けた。
 
「おそらく、敵の出現と皆さんの到着は同じタイミングになるでしょう。避難の事前手配はこちらでしますので、皆さんは何とか敵を引き付けてください」
 とは言え、その時点で避難が完全に終わっているとは思えない、ある程度避難誘導などにも手を貸す必要があるだろう。
「敵の戦法は単純で、手にした大斧を使ったものになります。状況からして、戦闘になれば敵が逃げ出すことはないでしょう」
 そこで言葉を切り、少し間を置いた後、セリカは眉根を寄せて口を開いた。
「そして、度し難い事なのですが……この個体は、襲っている相手を『憎い誰か』と勘違いしている節があります」
 犯罪者として長く閉じ込められていたという経歴ゆえか、それとも生来のものか……定かでないが、とにかく判断力に難があるのは確かなようだ。
 ただ、それを利点とできるかどうかは、立ち向かう者次第だろう。
「何にせよ、このような敵を野放しにしておくわけには行きません。一刻も早い撃破を、お願いいたします」
 頭を下げるセリカに、ケルベロス達が応じる。
 その中の一人、黒柄・八ツ音(レプリカントの降魔拳士・en0241)が右腕を掲げて見せる。そしてそのまま口を開く様子もなく、三度、天を突いた。

 えい、えい、おー。


参加者
ローゼマリー・ディマンティウス(デアヘッレラッヘ・e00817)
クリス・クレール(盾・e01180)
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
シルキー・ギルズランド(ぱんつはかない系無表情座敷童・e04255)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
千代田・梅子(一輪・e20201)
月井・未明(彼誰時・e30287)

■リプレイ

●宿敵との再会?
「貴様ァッ、ついに見つけたぞッッ!!」
 ショッピングモールに響く怒鳴り声。現れた巨躯の男は、眼前に居たサラリーマンに大斧を振り下ろす。
「ち、違……っ」
「忘れたとは言わせんぞォッ!!!!」
 ここまではヘリオライダーの見た予知通り。だがここで、それを覆すべくケルベロス達が駆け付けた。
 大斧とは逆の側から振るわれた鎌が、刃を絡ませ、受け止める。
「相変わらず人の顔も覚えられねえな」
 割り込んだのは八崎・伶(放浪酒人・e06365)。重い一撃をどうにか止めながらも、不敵な笑みで彼は言う。
「間違えるなよ、お前の相手はこっちだろ?」
「ヌウ……! まあいい、貴様からの方から来てくれたのなら好都合よォ!!」
 巨躯の男、エインヘリアルのオルドゴートも好戦的な笑みでそれに応える。火花を散らした刃が離れ、両者は一端距離を置いた。
「オルドゴート……相変わらずの馬鹿面ね」
 伶と並び立つように武器を構え、シルキー・ギルズランド(ぱんつはかない系無表情座敷童・e04255)もまたエインヘリアルに言葉を投げる。
「チッ、やっぱり貴様も一緒か。仕方ねェな、まとめて相手してやろうじゃねぇか!」
 何とも威勢の良い返し。そしてその内容に、姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)が察したように頷く。
「おっ、二人とも知り合いなのかなー? ここで会ったが百年目ってやつだね!」
「そんなもんじゃすまねェよ。だが長く続いた腐れ縁も、ここまでだ!」
「言ってろよ。もう一度、檻の中にぶっこんでやるぜ」
 記憶の先に思いを馳せるように遠い目をした後、オルドゴートと伶が軽口を叩き合う。彼等二人、そしてシルキーは互いの視線を絡ませ、火花を散らした。
 数奇な運命に導かれ、再び出会った彼等の戦いが、今幕を開ける――。

 なお、ここまでの登場人物は全員が初対面である。

「迷惑千万だな」
「あたまのよわ……えっと、イシキコンダクしてるお方、なんでしょうか……」
「うっかりさんもここまでくると救えんのう」
 冒頭の様子を遠巻きに眺めつつ、月井・未明(彼誰時・e30287)とアニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)、千代田・梅子(一輪・e20201)はそんな言葉を交わしていた。何かあればすぐに一般人を庇いに入れる構えだが、目下のところ、その心配はなさそうだ。
「じゃあ、避難誘導の方は任せた」
 クリス・クレール(盾・e01180)が黒柄・八ツ音(レプリカントの降魔拳士・en0241)の方へと声をかけ、オルドゴート達の方へと動き出す。
 最後にローゼマリー・ディマンティウス(デアヘッレラッヘ・e00817)が一つため息を吐き、地獄化した両腕でそれぞれの刃を抜き放つ。
「……認めるわけには行かないわね」
 そもそも、復習者の在り方としてどうなのか。内に燻る怒りをこめて、ローゼマリーは殺気を解き放った。

●因縁の対決?
「はい、こちらケルベロスです。落ち着いて近くの建物に避難してください」
「押さぬ、駆けぬ、喋らぬ! いや、駆けてもよいか。とにかく落ち着いて、避難するのじゃよー!」
 未明の割り込みヴォイス、そして梅子の呼び掛けがそれぞれ別の方向で響く。このショッピングモールは三棟の建物で形成されている。ゆえにそれぞれの方向に避難を促すのは順当な判断だろう。
 避難箇所の最後の一角では、霧山・和希(駆け出しの鹵獲術士・e34973)と祝部・桜(残花一輪・e26894)もまた避難誘導に当たっていた。
「みなさん、ケルベロスです!」
「誘導に従ってご避難ください!」
 割り込みヴォイスはこういう場でもとても有効に働く。市民に迅速に声を届け、二人は戦いに巻き込まれる人間が出ないよう力を尽くした。
 ローゼマリーの張った殺界の効果もあり、ほどなく避難は終わりを迎える。冒頭で絡まれ、腰を抜かしていたサラリーマンを未明が運び出し、護衛を和希へと引き継いだ。
 これで良いだろう、と八ツ音が親指を立て、戦場と化した広場の中心へと向かう。
(「大丈夫でしょうか……」)
 それと同じ方向に向かいつつ、桜はその戦いの中に居る、知人の方へと意識を向けた。

「あァ? なんだ貴様、邪魔すんのか?」
「当然だ。好きにはさせん」
 大斧の一撃を縛霊手で受け止め、クリスが真っ向から敵を睨む。
「重罪人オルドゴート!大人しくお縄を頂戴しろーっ」
 その隙に、側面からの銃撃。ロビネッタの拳銃が火を噴き、敵の体に銃痕でその名を……刻もうとして、微妙に中途半端なところで諦める。
「アニエスも格闘術はちょっとかじってます、よ……!」
「プップー!」
 続けてアニエスが破鎧衝を放ち、テレビウムのポチが残虐ファイトを開始、敵に傷を刻んでいく。
「チッ、こんなにぞろぞろ連れてきやがってよォ」
「喜べよ、檻の中は寂しかったろ?」
 舌打ちするオルドゴートを挑発しつつ、伶もまた敵の弱点を探して一撃を放った。
 エインヘリアルに調子を合わせ、戦いの序盤は探るようにして過ぎる。積極的に仕掛け、『宿敵』として敵を引き付ける伶に、自然と攻撃は偏っていく。それをクリスをはじめとする味方がカバーしていく事になるだろう。
「アニエスがまもり、ます!」
 敵の力任せの一撃を、アニエスが手にしたテディベア、もといオウガメタルで受け止める。
 そしてローゼマリーが絶空斬で反撃に出たタイミングで、避難誘導に出ていたメンバーが合流した。
「すまない、待たせた」
 仲間の様子を見て取り、未明と梅子は状況を即座に察する。作戦の出だしは順調。ならば……。
「よし、存分に戦ってくれ」
「わしも手伝うのじゃよー」
 『宿敵』と相対する者を援護すべく、未明が伶に盾を張り、梅子が地を叩き割る一撃で相手の足を止めにかかった。
 そうして生じた隙を突くように、シルキーが仕掛ける。
「籠女……囲め……」
 詠唱に応じ、童巫女の影が複数出現。敵を取り囲むように動いたそれらは、手にした凶器で無慈悲に振り下ろしていく。
「後ろの正面だあれ……?」
 最後にシルキー自身が一撃を刻んだ。
「えぇい、鬱陶しい!!」
 下がるシルキーを追いきれず、オルドゴートが歯噛みする。次の標的を探すその眼に、ロビネッタの姿が映った。
「おォ……!!」
 飛び上がってからの振り下ろし、単純明快なそれに伶が応じ、ロビネッタに届く前に受け止める。彼女もまた、即座にその背を回り込んで射線を確保。
「そういえば重罪人さん、自分が何の罪を犯したのかは覚えてるの?」
「さあ、なんだったか。悪いなんて思ったことは無いからなァ!」
 堂々と吼える敵に狙いを定め、ロビネッタは時空凍結弾を放った。
「重症だね、ちゃんと反省して!」

「攻撃が重いな、大丈夫か?」
 仲間の負傷具合を鑑み、未明が前衛に癒しの雨を降らせる。目立って重いバッドステータスなどはないものの、敵の攻撃は単純に威力が高い。
「まるでバーサーカーみたい!」
「なに、まだやれるさ」
 的を得たロビネッタの感想を聞きつつ、伶が軽く手を振って応える。
「分かった。まぁ後ろは任せてくれ」
 未明の言葉と共に、八ツ音が応援するように手を突き上げ、ヒールドローンを展開した。

●現れた黒幕?
 続く攻防。激化していく戦いの中、八ツ音の放った攻撃をかわし、オルドゴートがまた伶に襲い掛かる。
「おいおいどうしたァ! 昔より動きが鈍ってんじゃねェか?」
「気のせいだろ、この体力馬鹿が」
 憎まれ口を一つ。攻撃が一人に集中しているのは確かだ。味方も適時庇いに入ってはいるのだが、それでも伶の負担は大きい。
「満ちろ、秋月」
 ボクスドラゴン、焔に回復を任せながら、伶自身もまた失った体力を取り戻しにかかる。
 そしてまた、その状況を打開すべく動いた者が一人。
「本当にそ奴が、おぬしの宿敵だと思うておるのじゃ?」
 ふと手を止めて、梅子が含みを持たせた言葉を投げる。
「何ィ? わけのわかんねェ事を――」
「おめでたい奴じゃ……目の前の真の敵に気付けんとはな」
 にやりと上がる口の端。彼女の相棒のリス、太郎丸もまたあからさまに悪そうな顔で笑っていた。
「ッ! まさかあの時の……ッ!? 貴様が裏で糸を引いていたのか!!」
「ふふ、どうかのう?」
 乗ってきた相手に怪しげな笑みを返し、梅子の擬似遊戯が幕を開ける。
「宿敵いっぱい、いそがしそう、ですね」
「もしかして、あれ言いたいだけなんじゃないか」
 仲間を含めて回復しつつ、反応に困った様子のアニエスに、未明が同意するようにそう返した。

 何にせよ狙い通り、オルドゴートの攻撃目標は梅子へと移った。
「俺を騙していた代償、払ってもらうぞォ!!」
 一体どんな心当たりがあったのか、足音高らかに梅子を追う敵に、クリスが立ちはだかる。
 重い一撃を受け止めるのは何度目か、シャウトで身を奮い立たせた彼がオルドゴートを抑える内に、ローゼマリーが絶空斬でこれまで刻んだ傷をより効果的な形に変えていった。
 そして打ち合う事数度、早々に、梅子は気付いていた。攻撃目標を逸らす内に、伶に余裕が生まれてきている。そして付け足すなら、敵の攻撃が意外と痛い。ならばやる事は一つだ。
「くくく……まだわしが真の宿敵だと思っておるのか?」
「何だと? 貴様が事の黒幕だとさっき――」
「気のせいじゃろ」
「はァ!?」
「冤罪っていやよね、気を付けないと!」
「メガネかけた方が良い……」
 ロビネッタと、達人の一撃を放ったシルキーが調子を合わせる。
「でも、結局宿敵って誰なのかな? 本当に憎いなら勘違いなんてしないだろうし……」
 首を傾げるロビネッタ。拳銃に弾を込めながらの言葉ではあるが。
「まさかとは思いますが、この「宿敵」とは、あなたの想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか」
 名推理、と言わんばかりの真顔の言葉に、オルドゴートが言葉に詰まった。
「いや、そんな、まさか……」
 一瞬、あからさまに動揺したように見えたが、しかし。
「ええい、そんなこと言って煙に巻こうとしてもそうはいかんぞ!!」
 結局のところ、オルドゴートはそう結論付け、斧を握りなおす。
「どうした、オルドゴート。俺の事を忘れたのか?」
「忘れるわけがないだろう、我が宿敵!」
 差し込むようなクリスの声に堂々と答え、オルドゴートは高く飛び上がった。

●決着の時、来る?
「慟哭の詩が汝を喰らう。堕ちよ英雄。汝の鍍金は今剥がれ落ちた。汝は罪人が故に、その幕を下ろすのだ。生贄の羊の報いを受けよ」
 ローゼマリーのグラビティ、天墜終滅・断罪復讐劇。溢れ出た殺意が敵を貫いていった。
 戦いは佳境に至る。『宿敵』として囮となる役割を引き受け、何度目かのオルドゴートの攻撃を、クリスが受け流す。
 ここまでの戦いの成果と言うべきか、敵は負傷で動きを鈍らせている。特に体の各所を覆う氷が致命的だ。
「強がってみてもそろそろ限界だな?」
 もう一度鎌と斧を交錯させ、見通したように伶が言う。付き合いは短いが、何度も攻撃を受けてきた分、その見立ては正確だ。
「一気にやっつけちゃおう!」
 ロビネッタが畳みかけるべく仲間に声をかけ、連携の起点としてリボルバーを素早く抜き撃つ。
「終わらせてやろうではないか」
「わ、わ。続きます……!」
 梅子の矢がそれに続き、アニエスの押したスイッチによって爆発が起こった。
「それじゃあな」
 そして最後に、未明の振り下ろした槌が決定打となる。弾き飛ばされた斧が地を転がり、オルドゴートもまた膝をつく。
 じり、と無理矢理一歩を進み、敵が見据えたのはやはり、『宿敵』の姿だった。
「おのれ、また貴様に敗れる事になろうとは。だが、次こそは……!」
「悪いな。『次』は無い」
 焦点の合わないその眼に、クリスが応える。
「それに、人違いだ」
 最後の言葉は、果たして聞こえていたのかどうか。その言葉に反応を見せる前に、オルドゴートは力尽き、地に伏した。

 暴れ回る敵を仕留め、辺りに静寂と平穏が訪れる。被害者は無く、辺りの戦闘痕もヒールで十分消せる範囲だ。ケルベロス達の護ったものは、やがて暖かな賑わいと共に戻ってくる事だろう。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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