猫の爪

作者:絲上ゆいこ

●閉園後、夕刻の動物園
 動物たちの微かな嘶きが響くサファリゾーン。
「にゃ♪」
 客が居なくなった筈の園内で、どこからともなく少女の声が響いた。
「――……」
 何かの気配を感じ取ったライオンが小さく威嚇の唸りを上げ、身構える。
 猫耳帽子からぴょんと跳ねる、緑色の2つに括られた髪。
 ウェアライダーのような少女の姿を目に捉えた途端、目を見開いたライオンは踵を返した。
「やあやあ、君たち、みーんなこんな場所から助けてあげるよー」
 しかし、もう遅い。
 地が爆ぜる。少女の蹴り上げた大地が捲れ、ライオンは一瞬の内にその掌の中に収められてしまう。
「かわいい猫ちゃん! ね、怖がらないで」
 怯えたような視線。
 こちらを伺う動物たちの気配を、沢山沢山感じる。
 その視線を感じながらも少女は笑う。恐怖から硬直したライオンの緊張を解すように、膝の上に抱き上げ優しく撫でる。
 気まぐれに揺れる少女の尾。
「みんな、みんな、ちゃーんと助けてあげるからね」
 ――イマジネイター率いる軍団。ダモクレスの中でも規格外とされた者が集められたイレギュラーズ。
「……えっへへー、こんなに仲間を増やしちゃったら、まーたイマジネイターに褒められちゃうにゃ~」
 ある動物園のサファリゾーンに現れた巨大なダモクレス、歯車ネココは幸せそうに呟いた。
 
●軽巡級ダモクレス、歯車ネココ
「クリスマスに現れたゴッドサンタを覚えているか? アイツが言っていた指揮官型ダモクレスの一人、――イマジネイターが率いる軍団のヤツが暴れる事件が予知されたぞ」
 ヘリオンからケーブルを引き抜きながら、レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)はケルベロスたちに向き直る。
「ダモクレスの中でもイレギュラーな存在とされるその軍団には統一された作戦は無く、それぞれが自己判断で行動しているみたいだなぁ」
 連携らしい連携は行われないが、その分何をしてくるか解らない怖さがある奴らだな、と付け足して瞳を細めたレプスは掌の上に地図を表した。
 表示された地図のポイントは、ある動物園のサファリゾーンを示している。
「ここでヤツは、動物たちを集めて全部ダモクレスにしようとしている」
 野生の動物の住処を模したサファリゾーンは、本来の観光ならばサファリカーで無ければ入る事の出来ない場所だ。
 広い草原では人払いの心配は無いが、動物たちに配慮をする必要はあるかもしれない。
「ダモクレス――歯車ネココは、お前たちで言う猫のウェアライダーのような見た目をした軽巡級ダモクレスだ、……ところで、クリスマスの時のゴッドサンタの言葉は覚えているか?」
 その名をひとつのランクとして冠されたその言葉は、強さでは無く大きさを表すとゴッドサンタは言っていた。
 地図を掌で握りつぶすように消したレプスは、人差し指をピンと立てる。
「つまり。ネココはデカいダモクレスだ。そして、他に活動しているダモクレス達と比べても大きさだけでは無く、強いと予知されている」
 大きな体から繰り出される、猫のように素早い動きと鋭い攻撃。
 サファリゾーン上空より直接ヘリオンから降下し、そのまま戦闘になると予想されるこの戦いでは、強いと予測される相手との小細工無しのぶつかり合いとなるだろう。
 歯車ネココは動物たちを愛している。
 偏愛している。
 閉じ込められている動物たちを憐れんでいる。
 そして動物たちは全てダモクレス化される事が救いで、ソレこそが自らの使命だとネココは考えている。
「何にせよ、動物園の動物が丸ごとダモクレスなんてぞっとしない話だろう? 今から急げば阻止ができる、さあヘリオンに乗ってくれ。今日のオニーサンはちっと飛ばしちゃうぞ」


参加者
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)
ティアリス・ヴァレンティナ(プティエット・e01266)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
高辻・玲(狂咲・e13363)
白石・翌桧(追い縋る者・e20838)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)

■リプレイ

●救世気取りのダモクレス
 空の色は燃えるような緋色。
 風を切る音をかき消すように土を巻き上げ、派手な音と共に草原に着地したケルベロスたち。
 隠れていた動物たちは更に現れた新たな闖入者たちに慌て、逃げ惑い始める。
 彼らの避難先を守るように、立ちはだかった高辻・玲(狂咲・e13363)が口を開いた。
「皆、必ず護るから。どうか落ち着いて避難して待っていてね」
 彼の言葉の意味は分からずとも、友に叱咤激励されたかのように感じる所はあったのだろうか。
 泡を食った動物たちは、本能に従い駆けてゆく。
「……なぁに、ケルベロス。ボクの邪魔をしにきたの?」
 獣を抱く少女は、瞳孔を丸くして彼らを睨め付ける。
 その瞳に宿る色は憎しみの色に似ているように感じられた。
「――俺達の要件はあくまで君だ、彼らを傷付けたくはあるまい」
 二丁のリボルバー銃を構えたヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)が瞳を細め。
 アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)がペコリと頭を下げた。
「こんばんは、ネココ。……貴女は可哀想な動物達を救いたいのでしょう?」
「お前も動物たちを戦闘に巻き込むのは本意じゃないだろう、取り合えず避難くらいはさせてくんねえか?」
 動物の友の力を発揮しながら震えるメスライオンの背を押した、白石・翌桧(追い縋る者・e20838)が首を傾げ。ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)が大きく頷く。
「ねえ、ネココ。戦って、勝った方が動物たちをどうこうできることにしない?」
 人には人の、ダモクレスにはダモクレスの基準があるのだろう。
 歪んでいるように思えるとは言え、彼女にも動物愛があるのだろう。
 ――だからと言ってダモクレス化を許せる訳では無いのだが。
「貴女の使命はわたくしたちを倒した後にどうぞ。――出来るものなら、ね」
 両手にヌンチャクのように如意棒を構えたアイヴォリーが、棍を繋ぐ紐をピンと張る。
 目を見開いたネココは、撫でていたライオンを下ろしてやると立ち上がった。
 一目散に走り去るライオンの背を見る事も無く、彼女は吠える。
「シンも、水晶も、シーカー、エルナも! スンも! お前たちは殺した! 猫ちゃん達もこんな場所に閉じ込めた!」
 振りかざした拳こそ、彼女の答えだ。
「言われなくてもお前たちを倒して、助けられる動物たちをみーんな助けてやるにゃッ!」
「……ッ、動物達に手出しはさせないよ」
 風圧がバチバチと土を巻き上げ、思い一撃が勢い良く叩きつけられる。
 オウガメタルを硬化させた両腕で、それをガードをあげて受け止めたのはヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)だ。
 勢いに押し込まれ、踏みしめた足形に地が削れて轍が生まれる。
「少なくともボクはダモクレスになる事がいい事だとは思えないからね。――ボクは全力でダモクレスにしようとしてる君を止めるよ」
 弾けた肉より溢れた鮮血、金髪が靡く。
 ああ、良かった。……動物では無く、俺たちを狙ってくれて。
 冷たいはずの心のどこかに安堵を覚えながら、ギリリと奥歯を噛み締めて。
 ヴァーノンは視線をネココと交わした。
「お前の言い分はもっともだよ。動物園なんて、言ってみりゃ見世物小屋だからな」
 マインドリングを侍らせた翌桧が、指で指揮すれば負傷した彼女に向けてリングが跳ねる。
「動物たちが何を望むかは分からんが、助けるって発想自体はそんな間違っちゃいねえさ」
 一瞬であれほどの体力を持っていくのか。随分と痛そうなもんだな。
 翌桧は間合いを取り、彼女の観察に努める形で言葉を次いだ。
「けど、ダモクレス化こそが救いっつーのは勝手な意見だ。動物たちは別にそんなモン望んじゃいない」
 ――いいや、これも綺麗事だなと独りごち。
 彼は仲間を守る光の盾を顕現させ、細く息を吐いた。
「俺らとしちゃ、侵略兵器をポンポン増やされちゃ溜まったモンじゃねーんだ。――俺らは俺らの都合で、お前を止める」

●空華
「ヴァーノン! ――フォトンドライブ、モード・クリスタライズ!」
 重ねてミルカより放たれた光の羽は、ヴァーノンの抉れた肉を覆って一瞬で再生させた。
「うん、ありがとう」
 自らもオウガ粒子を放出し、完全に自らを癒すと共に仲間たちに加護を与えたヴァーノン。
「犬か猫かで言えば猫派な俺ですが、暴れ回る子には躾タイムですよ!」
 加護を受け。鋭く地を踏み込んだ霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は怪しげなローブを翻し、飛ぶ。
「大人しくして貰いましょう! 物理的にッッ!!」
 膝裏を狙っての打ち込みから、網状の魔力を爆ぜさせる。
 忌々しげにステップを踏んだネココの前を、迎え撃つ形でティアリス・ヴァレンティナ(プティエット・e01266)が横合いからオーラを膨れ上がらせた。
「動物園の動物を哀れに思う気持ちは分からなくもないわ、でも彼らが怖がっているのは何故か考えて頂戴」
 ダモクレスを喰らうオーラを叩きつけたティアリスは、彼女をただ真っ直ぐに見上げる。
「動物達の代わりに遊んでやろう、シニョリーナ」
 ヴィンチェンツォの達人の一撃が放たれ。大地を跳ねて転がるように受け身を取ったネココは、鋭く呼気を漏らして素早く体勢を立て直す。
 地に転がった空薬莢は、巨大な少女に踏み潰され、彼女の大きさを改めてケルベロスたちに感じさせる。
「その身体で良い速さだ。……しかし見上げるほど大きな少女とは、初めてだな」
「少女(でかい)。なんというギャップでしょうね、これ」
 リボルバー銃のリロードをしながらヴィンチェンツォが軽い足取りで薙ぎ払いを避け。
 どこか感心したような口調で裁一は呟く。
 薙ぐように払われただけの腕は大きさも、その力も、それだけで強力な攻撃と言えよう。
 護符を一枚取り出した玲は、口許を隠すように符を翳し囁いた。
「本来の猫パンチは愛らしいのに、これは文字通り骨が折れそうだ」
 ――来たれ雷公。刃に宿る霊力。
 雷神の御業をその身に降ろし、玲は駆ける。
 紫電を纏った一撃は、瞬きする隙も与えずネココの足を裂くが手応えは浅い。
「――正しく規格外、だね。その分、腕も鳴る」
 鼻を鳴らし玲は、どこか楽しそうに唇を歪めた。
 さあ、どう料理したものか。
「……定命化した我々は生きて、死ぬ。永遠に手が届かなくても、一瞬を燃やして何かを願う」
 如意棒で裁いたネココの腕を蹴り、登り、アイヴォリーは彼女を駆け上がる。
「だから、いのちは美しいのですよ!」
「邪魔!」
 ネココが体を揺すって振り落とそうとした瞬間に、肩を蹴って踏み切り、アイヴォリーは棍を顎下に叩きつけた。
 ――ネココが、いのちの美しさを。――それを知る日が来るかはわからないけれど。
「言葉で決着がつかないのなら。どちらが正しいかは、拳で、証明するしかありませんね!」
「……上ッ等だよ!」
 ぐわりと頭を揺らしながら、既に地へと退避したアイヴォリーに噛み付く様にネココは吠えた。

●慈悲の死火
 ケルベロスと軽巡級ダモクレスの真正面からのぶつかり合いは、熾烈を極めていた。
 大地は荒れ、振り回された巨大な工具が大地に突き刺さる。
 ケルベロス達の体力も削られては回復を重ねた結果、疲労が溜まってきていた。
 ――しかし、それはネココとしても同じだ。
「鎮静剤的なあれこれでこう……、イエス注入!」
 裁一が羽根を広げ一気に間合いを詰める。
 取り出した注射器の中身を地味に注入し、バックステップしようとした瞬間。
 合わせて空を駆けたのは、裁一の背を踏み台に勢いを付けたミルカだ。
「俺を踏み台にしたッ!?」
「行くよ! は、ああああっ」
 ミルカの白い羽根はぐんと風を飲み込み、一気に跳躍した彼女はネココの脳天に向けてエクスカリバールを振りかぶる!
「……お前たちは、お前たちは、どうして動物をそんなに閉じ込めようとするの? ……可哀想でしょう、縛り付けるなんて」
 軋む音を立てるネココの瞳からは、感情の色を読むことは出来ない。
 鈍い駆動音が響き、彼女の指先から炎が爆ぜた。
 ヴァーノンと玲は獲物を構えたまま、どちらが庇うか競うように同時に距離を詰める。
「僕も動物は好きだ。彼らにだって、心が在る。……その心を殺して冷たい兵器に変えようというのは、見過ごせないよ」
 玲は炎すら断つ一閃を放ち、殺しきれなかった炎を腕で地へと払いのけて仲間を炎から庇う。
 肌を焼く痛みにも、涼しい顔で彼は言葉を次いだ。
「心を殺す事と心が生きている事の違いは大きいよ。……君とは意見が合いそうになく残念だけれどね」
 炎を玲の背でやり過ごしたヴァーノンは、リボルバー銃を構え。
 ネココの眉間へと狙いを定める。
「ダモクレスになる事が、本当に動物達の幸せ?」
 ――願いの力を俺に。
 問いかけと共に放たれたのは、折り鶴の魂を封じ込めた一撃だ。
「ネココは本当に動物のためにやっているの? 動物を保護しているつもりで、貴方がダモクレスという檻に入れてるんじゃないのかしらね」
 回復手段を持たぬ分。ケルベロスたちよりも、ずっとずっとネココはダメージを蓄積していた。
 ネココの装甲が音を立てる。
 蹈鞴を踏み、その場に倒れ込んだネココをティアリスのカーマインに燃える眸が捉えた。
「だから、貴女の主張は一切賛同出来ないわ」
 弓に矢を番えたまま、ティアリスは言う。
「動物の友でお前とも仲良くできりゃいいんだが、地球の動物じゃあねえもんなァ……」
 玲に癒しを与えながら、翌桧は頬を掻く。
 一度銃口を唇に寄せてから、ヴィンチェンツォは慎重にリボルバー銃を構えた。
「勝敗は決した、難しいだろうが君に対して選択の余地を与えたい」
 甘い考えだろう。
 難しいことは知っている、きっと、それは、無駄な問いかけなのだろうと。
 しかし、少しぐらいは可能性を信じてみようか。
 見守る裁一が、喉を鳴らす。――翌桧はそれでも、問うた。
「なあ、お前は動物を愛しているんだろう? 例えば、一度眠って――」
 動物を愛することができるのであれば、――それらが住まう地球も愛する事が出来るかもしれない。
「ばっかじゃないの?」
 始めと同じく。
 彼女の答えは拳だ。
「翌桧ッ!」
 気を緩める事無く構えていたミルカが、その拳を弾くように間に割り込んだ。
 地を削り、両端を支えるように構えたエクスカリバールと巨大な腕が噛み合い、ミルカの体ごと引きずられる。
 同時に動いたのは、花躔み散す靴音を響かせたアイヴォリーとティアリスだ。
「――忘却は蜜の味、どうぞ心ゆくまで」
 心臓を煮詰めてあげましょう、甘い蜂蜜で。
 黄金の生地で包んであげましょう、幾重にも。
 甘い芳香、心を身体を記憶を溶かす、甘い一皿。
「猫も動物も、嫌いじゃないけど貴女とはソリがあわなそうね。――処方箋はなしよ。さようなら」
 おかえり願うわ、『また』の機会などないように。――私は、アナタに何もあげる気が無いんだもの。
 医者たる彼女は慈愛の心を籠めて、番えた矢をネココの額へと。
 アイヴォリーとティアリスは、同時に一撃を捧げ放つ。
「地球はこの地を愛する人々のもの。侵略者になど絶対に渡しはしません」
 罅割れ、軋み、装甲がこぼれ落ちる。
 オイルを流し、ネココは引き絞るような声を零す。
「ごめんね、……ごめんねみんな……、仇、とれなか、………ごめん、イマジネイター。……しくじっちゃった、にゃ」
 モニタにノイズが走る。
 最後に彼女が見た光景は、紫電を纏う銃口と刃だ。
「お休み」
「Addio」
 玲とヴィンチェンツォの声が、重なった。

●星夜光
 ミルカに壊れた柵が癒やされ、蔦が絡み、花が芽吹く。
 ファンタジックに修復されたポールを踏み台に、更に高く、高く。
「後は、壊れている場所はないかな?」
 翼を広げたミルカは、修復残しは無いかと周りを見渡した。
 一番始めに目に入ったのは、興奮状態に陥っていた動物たちに声をかける仲間たちだった。
 玲が動物の友を発揮しながら、怯えたライオンを呼び寄せる。
「皆、大丈夫だったかい?」
「猫には勿論効くけれど……、ライオンもマタタビは効くのかしら?」
 頭に過るのは、最近飼い始めた猫のマタタビに酔った姿だ。
 結局使わなかったマタタビを片手に首を傾げるティアリス。
「まって、動物たちに手出しさせないよ」
「そんなにくっついてお前たち、……もしやリア充ですか!?」
 リア獣をどうこうしようとした裁一のローブを引っ張りヴァーノンが引き止める。
「裁一くんはライオンカップルにまで嫉妬するのかい?」
 猫じゃらしを片手に玲は肩を竦めて呟き、ケルベロスと動物。彼らを見守る。
 人も動物も、これ以上被害出ぬよう、ただ願う。
 同じ光景を眺めながら、ヴァーノンは呟く。
「……ボクには、何ができるのかな」
 ヴァーノンは考える。考える。
「……修復はこんなものかな?」
 ミルカは頷き、そのままポールに腰掛けた。
 落ちだした陽は、橙色が夜色を引き連れて。留まることも無く夜闇を広げる。
 ヴィンチェンツォは愛する義妹お手製のシガーケースから一本煙草を取り出し、煙草に灯をともしてから地に置いた。
 煙を捧げるは、動物を愛したダモクレスに。
 後ろから近寄ってきた翌桧が、マタタビジュースをその横に置く。
「一本貰えるか?」
 翌桧が首を傾げ、ヴィンチェンツォは一本彼に手渡す。
 もう一本の灯がともる。肺一杯に深く深く煙を吸い、ゆっくりと吐き出した翌桧は瞳を細めた。
「――ま、解ってた事だけどなァ」
「愛することは大切なことさ、難しいものだがね」
 皆から少し離れた場所。夜の匂いに紫煙が混じる。
 それとは逆方向。柵に腰掛け、アイヴォリーは瞬き出した星々を眺めていた。
 この星はあの人が生まれた場所。
 ショコラの瞳が揺れ、掌をきゅっと握りしめる彼女。
「――誰にも触らせない、そのために此処にいるのですから」
 ケルベロス達の活躍により動物たちの動物園での日常は、守られた。
 今日も、明日も、ずっと。
 彼らは柵の中で暮らす。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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