●駅前ロータリー広場
白い光が夕暮れの大気と停車中のタクシー数台を貫いた。
爆音が連続し、巻き起こった炎と風に駅前ロータリー周辺は一瞬にして混乱の渦と化す。
「おい大丈夫か!? 逃げるぞ!」
爆風に転んだ息子を抱え起こして、壮年の男性は駆け出した。早くここから離れなくてはいけない――だが、それは果たせなかった。
男性の行く手を塞ぐように現れたのは、十代半ばほどの少女だった。
長い黒髪に、透けるような白い肌、そして右腕に携えた長大な狙撃銃……。
少女の背後に転がる死体を見るまでもなく、本能的に男性は後ずさった。
「頼む、殺さないでくれ……せめてこの子だけは……」
「神薙が命じます。ならば助けを呼びなさい」
我が子を背に庇う男性に、少女――ダモクレスは無表情のまま告げた。左腕に装着する盾から、付着していた返り血が蒸発する。
「ケルベロスに助けを乞いなさい。助かる道はその一つだけです」
「た、助けてくれケルベロス!」
少女の形をした殺意に促されるまま、男性はかすれた声を絞りだした。
「ケルベロス、どうか助け――」
「声が小さい」
ダモクレスの左腕が跳ね上がった。盾の先端から伸びた光の爪が男性の顎から頭頂部までを無残に斬り割る。
「神薙が命じます。ケルベロスに助けを乞いなさい。子供の泣き声ならば、ケルベロスに届きますか?」
父親の血を浴びる幼い少年に、ダモクレスは銃口を向けた。目の前の現実に少年は声もない。
●ヘリオン内部
「指揮官型ダモクレスの侵略が始まった」
挨拶もそこそこに、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)は硬い口調で切り出した。
「指揮官型ダモクレスの一体、『踏破王クビアラ』。ソイツが自軍団を強化するために、ケルベロスとの戦闘経験を得ようと配下を送り込んできてる。配下の連中は、キミたちの正確な戦闘データを引き出すためなら手段を選ばない。今回現れたのもそのうちの一体さ」
ティトリートの指が制御卓を叩く。壁の電子パネルに表示されたのは今回の事件現場――兵庫県の某駅前ロータリーだ。
「現れたダモクレスの個体名は『SR07神薙』。対ケルベロス戦用に開発された機体だよ」
SR07神薙はその武装をもって周辺を破壊し、居合わせた人々を殺しながらケルベロスを待ち構えている。。
「キミたちが現れるまで、SR07神薙の破壊活動は止まらない。逆に、キミたちとの戦いさえ始まれば周囲に危害を加えることはなくなるよ」
ケルベロスが介入する段階で、SR07神薙は子供に銃を向けているが、ケルベロスたちが戦いに応じれば子供を解放するはずだ。
とはいえ周辺にはまだ逃げ遅れた人々もいる。もしそちらの避難に人数を割いたりすれば、ケルベロスが手を抜いていると判断したSR07神薙はさらなる破壊に打って出るだろう。そうなっては、かえって被害が拡大してしまうかもしれない。
「戦う前に話しかけるとかして、少しは避難の時間を稼ぐことはできる。だけど、いざ戦いを始めたらそちらに集中するのがベターだ」
しかし戦えば敵にデータを得られてしまう。それでは敵の思惑通りだ。
「戦闘データを渡さない方法はいくつかあるよ。たとえば、短時間で敵を撃破するとか、有効だね」
交戦時間が短いほど、敵が得られるデータ量は少なくなる。
また、わざと手を抜くことでデータの信憑性を下げる方法もあるが、こちらは敵に悟られた場合のリスクが大きい。行うときは細心の注意が要求される。
「それと、普段キミたちが使わないような戦略で挑む手もあるよ。敵が得られるデータの信憑性を下げつつ、こっちは新しい作戦を編み出して実験できる、ってね」
凝ったグラビティ選択やピーキーな布陣……普段なら採用しないような作戦を試すチャンスでもある。
ただし、それで敗北してしまってはしようがないので、作戦の実行にあたっては充分な検討が必要だ。
「まあ……敵の目的を考えたら、出撃しないのも一つの手かもしれない。そうすればキミたちのデータを取られずに済むからね。でも――」
ふと、ティトリートの声が震えた。だがそれも一瞬のこと。帽子の下からじっとケルベロスたちを見つめ、ティトリートは最前までと同じ口調で尋ねた。
「それでもキミたちは、キミたちの助けを待つ人たちの元へ行ってくれるかい?」
参加者 | |
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佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771) |
桐山・憩(災買・e00836) |
月枷・澄佳(天舞月華・e01311) |
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404) |
七種・酸塊(七色ファイター・e03205) |
ルオン・ヴェルトラング(第五天道・e11298) |
九十九折・かだん(供花・e18614) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
●SR07神薙
ヘリオンから飛び降りるケルベロスたちの眼下には、惨状が広がっていた。
散乱する瓦礫、燃え盛る車両、倒れた人々、そして――。
「たわけたわけたわけーッ!」
敵影を見てとり、服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は空中でライフルの引き金を引いた。氷結のレーザーは黄昏空にのぼる黒煙を突き破り、敵から離れた何もない舗道に着弾する。
幼い少年を見下ろしていた敵――SR07神薙が視線を、グラビティが着弾した側方に転じた。だがSR07神薙の瞳に映るのは凍結した路面ではない。その向こうに降り立った、八人の戦士たちだ。
「……来ましたね、ケルベロス」
「待ち侘びたかよ」
睨み返す九十九折・かだん(供花・e18614)の声は底知れぬ熱を孕んでいる。七種・酸塊(七色ファイター・e03205)も拳を固めて進み出た。いつでも戦えるよう膝をたわめる。
「こんなやり方でおびき出そうなんていい度胸じゃねえか」
「挑戦というのはもっと正々堂々するものじゃ! からくり人形どもは戦の作法も知らんと見える!」
無明丸の挑発にもSR07神薙が動じる様子はない。観察するような無表情のまま静かに口を開く。
「神薙が命じます。ケルベロスよ、この者たちを助けたくば戦いなさい」
「操り人形の分際で偉そうに命令しやがって……鉄クズ野郎が神サマ気取ってんねぇぞ!」
ギザ歯を剥いて吼えながら、桐山・憩(災買・e00836)は辺りに目を走らせた。ケルベロスの登場に気付いた警察や消防、救急隊員たちに目配せする――今のうちだ。
「これ以上の破壊活動は止めて貰えませんか」
負傷者の救助と避難が始まったのを確認しつつ、月枷・澄佳(天舞月華・e01311)は話しかけた。被害を食い止めるためにも、避難の時間を稼ぐ必要がある。そしてそれは全員が共有する方針だ。
「神薙、といったか。どうしてケルベロスを呼び寄せた?」
「拒みます。回答する積極的な理由がありません」
既知ではあるが、ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)はあえて訊ねた。答えがあれば交渉にも発展させて時間を稼ぐ算段だったが、このダモクレスは雑談をする気がさらさらないらしい。
「元々の同族ながら、さすがの融通の利かなさといったところか」
さりげなく位置取りしながら、ルオン・ヴェルトラング(第五天道・e11298)は想定内の返答を寄越したダモクレスに鋭い視線を向けた。
「では、貴様らの階級・所属を聞いておこうか」
「それも拒みます。回答する理由がありません」
取り付く島もなくルオンの質問もはねのけて、SR07神薙は狙撃長銃を構えた。
「神薙が命じます。戦いなさい。応じないなら、応じるまで破壊するのみです」
「貴方が欲しいのはわたしたちのデータだよね?」
そう訊ねたのは佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)だ。今にも発砲してきそうな敵を押し止めるように言葉を選ぶ。
「なら、こうしてわたしたちが現れたんだし、他の人たちに手出しする必要はないよね?」
SR07神薙の動きが止まった。吟味するような沈黙でケルベロスたちを見つめた後、その視線が足下の少年に再び落ちる。
直後の行動は、勇華の発言に対する無言の同意だったのだろう。呆然とへたり込んだ少年の肩に長銃の銃身を添え、押し出す。無理やり突き出されてよろめく少年の手を、かだんがすかさず引き寄せた。
か細い「おとうさんが……」の呟きを耳にしながら、かだんは少年を後方の憩へ託す。
「えっ、私?」
反射的に受け止めてしまった憩の目が、かだんと少年の二点を往復した。親友の唇が『励ましといて』と動いたのを読み取り、憩の困惑度が急上昇する。いきものは苦手なのだ。とんだムチャ振りだ。慣れない柔肌の感触に体が小刻みに震えてすらきて――違う、震えているのは自分じゃなく、腕の中の小さな……。
「だっ、大丈夫だ、もう大丈夫だからな!」
まるで自分こそ大丈夫と言って欲しいかのような響きだったが、憩は口の端を上げ、努めて明るい声を拵えた。機械の腕が少年を強く抱き締める。
「私たちはケルベロスなんだ。だからもう大丈夫だ!」
――奮闘する親友の姿に、かだんは口元を緩めた。子供には怖いときほど見た目にわかりやすい頼れる腕が必要だ。それなら自分よりも憩が適任だろう……苦手なのに悪かったとは思うが。
「――満足ですか?」
およそ感情のこもらない確認は、熱風を伴っていた。
背面に展開した翼状ユニットが噴き出すグラビティが、SR07神薙の黒髪を激しくあおる。
「神薙が参ります。全力の抵抗を推奨します」
「望むところ――ですが、支援機が単騎ですか? それだけの性能を持っていると言うのでしょうか?」
救助活動はまだ続いている。もう少しだけ時間が欲しい。戦闘態勢に入ったSR07神薙に澄佳が訊ねる。だが――。
「神薙が断じます。あなたは賢い。また、甘い」
翼状ユニットがひときわ激しく噴射したときには、SR07神薙の姿は澄佳の眼前にまで迫っている。高々と振り上げられたのは左腕のシールドだ。
「戦う性能の無いものなどいません」
シールド先端の五爪刃が風を裂いて澄佳に迫る。
●氷結連撃
澄佳が迎撃するよりも速く、SR07神薙の爪刃は割り込んできたドラゴニアンの拳に弾き返されていた。
「満足かだって? ああ、そうだな――あとはお前をぶっ飛ばせばな!」
空中で身をひねり、酸塊の拳が凍気を纏う。
「お前がやったこと、すぐに後悔させてやるぜ!」
怒りの乗った拳はSR07神薙の反応速度を上回っていた。直撃した腹部のダメージを振り払うようにSR07神薙がシールドを横薙ぎする。肌を裂かれながらも軽快な体術で回避する酸塊を、SR07神薙の狙撃長銃『神薙刃』が照準する――だが次の瞬間、銃口はとっさに、より差し迫った脅威へと目標を変更していた。
「戦闘を開始する。任務内容、ガラクタの破壊だ」
忍び寄っていたルオンが右掌を繰り出すのと『神薙刃』が白光を撃ち出したのはほぼ同時だった。
大熱量がルオンの右掌と衝突し、彼の鋼の腕を灼く。だが直撃を浴びながら、ルオンの顔に苦痛の色はない。弾ける白光と身が灼かれる悪臭の中、逆にビームを抑え込むように腕に力をこめる。
「貴様程度に潰されたのではレプリカントの名折れだ――悪いが時間をかけるつもりはない。このまま、押し切らせてもらおうか」
ルオンの右掌から漆黒が膨れ上がった。たちまち牙と化した漆黒のグラビティはビームの光を音もなく飲み込み、射手たるSR07神薙へと肉食獣のように喰らいつく。
「……!」
SR07神薙の回避機動がほんの少しでも遅ければ、絶対零度の咀嚼は致命打となっていたに違いない。翼状ユニットの噴射による急加速で難を逃れたSR07神薙だったが、ふとその脚がふらついた。思わぬ重みは長銃と盾の部分的な凍結によるものだ。
SR07神薙が分析に割いたわずかな隙を、時空凍結弾の乱射が塗り潰す。
「堅守をもっとうとするならば、その上を行って削り切り押し切るまで!」
無明丸の表情は戦いの風にあてられたかのように晴れやかだ。いただけないやり方で自分たちを呼び寄せた敵に、決闘の作法を教授してやるかのごとく撃ちまくる。
長期戦を得手とするSR07神薙に対し、ケルベロスたちはできるだけデータを渡さぬために早期決戦を選択。氷の大量付与を絡めた速攻戦を組み立てた。
シールドを掲げて時空凍結弾を凌ぐSR07神薙の死角から勇華の正拳突きが翼状ユニットを打ち据え、よろめいたSR07神薙をムスタファのレーザーとかだんの重量級の拳撃が追い立てる。
装甲の大部分が凍結し、アスファルトの路面を転がったSR07神薙は早くも満身創痍。作戦がうまくはまったと言える展開だ。
「これで終わりにしましょう」
憩から少年を受け取った救急隊員が遠くへ走り去っていく。避難の完了を察した澄佳が、とどめを刺すべく宿敵を見下ろし――その視界がふいに暗くなった。
「!?」
なぜか意に反して閉じてしまった目を澄佳は驚愕しながらも開くが、まぶたがまだ重い。そのうえ脚からは力が抜け、膝をついてしまう。
「これは強制睡眠……『魂鎮め』!」
異常の正体を澄佳が見破ったときには、彼女の背後で硬い音が連続していた。知らぬ間に誘眠装置の影響を受けていた前衛・後衛のメンバーが同じく膝をついたのだ。
「――修復波『清めの風』起動……修復完了」
眠気に抗うケルベロスたちの前で、立ち上がったSR07神薙の装甲の凍結が解けるように剥がれていく。
●強制誘眠
まず狙われたのは眠りの影響を唯一受けていない無明丸だった。『神薙刃』の砲撃を無明丸はドラゴニックハンマーで迎え撃つが、炸裂した衝撃で吹き飛び、背中からタクシーに激突する。
「短時間でこの損耗。しかし情報はまだ微少」
薙ぎ払う気か、銃口が向くのはケルベロスたちが最も固まっている地点だ。引き金にかかる指に力がこもった。
「最適なる魔障がため、より精密なデータを」
――狙撃長銃から吐き出されたビームは空を灼いた。発射寸前にムスタファが銃身を蹴り上げ、狙いを上に逸らしたのだ。
「俺を素通りはさせん」
ムスタファとSR07神薙の眼光が交錯した。次の瞬間、互いの得物は唸りをあげて激突している。横合いからボクスドラゴンのカマルが、硬直する一瞬を突いてSR07神薙にブレスを吹きつけるが、それは巧みに動いた背面装甲に阻まれた。逆に至近からのビームに晒される。
(「攻撃機ではないとはいえ、腐ってもデウスエクスか」)
二度、三度と、エクスカリバール越しに繰り返し伝わる重い衝撃にムスタファの皮膚が裂け、全身の鋼が悲鳴をあげる。カマルも被弾した翼が深刻だ。覚悟のうえではあったが、二人だけで抑えるにはやはり限界がある――だが、折れるわけにはいかない。
奴は親を殺したのだ。子の前で。
仇を取らねばならない。あの子のためにも。
ダメージと誘眠装置の影響で霞む視界の中、SR07神薙がシールドを振り下ろした。震える脚を叱咤し、ムスタファが武器を振り上げる。
瀑布のごとき『鬼神変』の一撃は、ひときわ甲高い音とともに受け止められた。だがそれを成したのはムスタファの力だけではない。
「お前ら、そんなに、データが欲しいか……あと、あとほんの、数分早く着くことすらできない私たちのデータなんか、欲しいか」
凍った灼熱が存在するとしたら、今のかだんはまさにそれだった。
「くれてやる」
『鬼神変』と拮抗していた惨殺ナイフが鋭く翻った。SR07神薙が急速後退するが、刃には確かな手応え。
「九十九折……」
「ムスタファ、カマル。へばるなよ。お前たちが倒れたらキレそう。いや、キレる」
「……誰に、物を言っている。お前こそ巻き込まれて無様を晒すな」
警告とも命令ともつかないかだんの激励に、ムスタファはかすかに笑いの息を吐いた。萎えかけた体に鞭打ってライフルの照準を定める。
「お前に祈る言葉はない。神すらお前を愛さない。死ね」
ムスタファのフロストレーザーをSR07神薙は避けなかった。正面に構えた盾で受け止め、そのまま突進してくる。かだんもまた地を蹴った。
「凍え殺してやる」
悔しい。
何が番犬だ。私たちは間に合うこと叶わなかった。だから――。
「私たちの前で、人々を利用したことを、後悔しろ」
――交錯の瞬間、鮮血が散った。裂かれた脇腹を押さえてかだんが膝をつくが、そのときには絶冬を見舞われたSR07神薙もレオタードに似た体表装甲が白く霜に覆われ、もはや氷像となりつつある。
「遠慮はいらん! おかわりどんどん持ってけ!」
憩が叫び、治療用ドローンが展開。今日何度目かのエクストラホイップが味方に噴霧し、ウイングキャットのエイブラハムも清浄の風を送って睡魔を吹き散らす。
その風に乗るように路面を蹴りつけた勇華が、大きく腕を引いた。
「データのために手段を選ばない、そんな貴方たちは……許せない!」
風を巻いて突き出した勇華の破鎧掌は盾に阻まれた――だがそこで終わりではない。
最も分厚く凍結した一点に据えた掌底が、内部へ衝撃を通す。爆発したように盾に大穴が開き、そこを起点にシールドが氷細工のように崩れ落ちた。
「いざと覚悟し往生せい!」
そして盾を失った驚愕を表現する暇はSR07神薙にはなかった。ダッシュで復帰した無明丸の光る拳が頬下駄にめり込む。今度はSR07神薙が吹き飛ぶ番だった。アスファルトを削りながら転がり……しかし、まだ倒れない。
「神薙が診断します……武装ロスト、バランサー破損。戦闘続行は困難……」
「逃がしはしねぇよ!」
持ち上がりかけた狙撃長銃を酸塊が殴り飛ばした。打ち上がったそれをルオンの右掌が掴み、凍結粉砕する。
「これも、縁が結ばれたということでしょうか」
舞い落ちる氷片の下、澄佳の黒髪が、鮮やかな真白に染まった。瞳は紅色に変じ、その身を赤い霧が覆う。
魔人降臨【紅霧装】。先立って撃破したSRシリーズの魂を制御し、己に憑依させた独自のグラビティだ。
この姿に、SR07神薙は何を見ただろうか――詮無きことだ。
「――終わりです」
澄佳の宣告とともに拡がった赤い霧が、SR07神薙を覆い隠すように飲み込んだ。
●黄昏時の終わり
「なにか、言い残すことがあるのならば聞くが?」
「いい、のこす……」
体の大部分を赤い霧に分解されてなお、SR07神薙はまだ機能していた。もっともそれも、あと数分と持たないだろう。
ルオンの申し出に、SR07神薙は力なくオウム返ししただけでそれ以上は何も言わなかった。ケルベロスに残すことなどないのか、あるいはすでに送信済みなのか。
「クビアラに送れ。データが無きゃ動けないチキンに地球は踏破できねぇってな」
ムスタファとともにかだんに肩を貸しながら、憩が声を張り上げる。それに反応したようにSR07神薙の首が動き――それが最期だった。溶けるように光の粒となり、消滅する。
「終わりましたね……市街の修復と、負傷者の治療に行きましょう」
手応えを覚えつつ澄佳が切り出したときには、酸塊も修復作業に向かっている。怪力無双が瓦礫の撤去に貢献するだろう。
「あまりデータを取られずに戦えたかな?」
建物の修復に向かいながら勇華は戦いを思い返す。時間稼ぎも速攻も、作戦すべてが結実した。敵に渡るデータは最小限に抑えられたはず。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
拳を突き上げた無明丸の高らかな宣告が、戦いの収束を知らしめた。
作者:吉北遥人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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