●少女は冷たい視線を向ける
中学校の校門の近くで、エルナ・トゥアールは下校している中学生たちを見ていた。
エルナの着ている制服は、この中学のものと同じ服。黒いマフラーを口元を隠した。
「あの子達を殺したらグラビティ・チェインが得られる。イマジネーターの力にもなれる……」
エルナは下校途中の生徒たちの中に紛れ、獲物を探す。そして、一人、本を読みながら帰宅している男子学生を見つけた。
「……まずは一人目」
エルナは隠し持っていたレーザーソードを握りしめると、男子生徒に襲いかかった。
●ヘリオライダーより
デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、事件のあらましを話し始める。
「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようなんだ。指揮官型の一体『イマジネーター』は、規格外のイレギュラー達を取りまとめ、地球侵略の為の活動を始めている。ダモクレスの中でも、イレギュラーな存在の彼らは統一された作戦は行っていないんだ。でも、グラビティ・チェインの略奪や、ケルベロスの撃破を目的として動いているんじゃないかって考えている。で、今回、そのグラビティ・チェインの略奪を狙ったと思われる事件が発生しようとしているんだ。みんなにそれを防いでほしい。お願いするよ」
デュアルは敵についての話を始める。
「今回事件を起こそうとしているのは、エルナ・トゥアールっていうダモクレスなんだ。見た目は中学低学年の人間姿の女の子。制服を着ていて下校生徒の中に紛れ込んでいる。長い黒いマフラーを巻いていて、髪型はショートカット。髪の色と同じ薄紫色の粒子が髪から出ている。後、前髪で目が隠れているね。制服が中学校と同じで紛れているから、特徴に気を付けて探し出して欲しい。武器はレーザーソード。動きは素早く、螺旋忍者のそれと似ているみたいだ。エルナを見つけ出して戦うか、事件発生時に防ぐか……色々と作戦はあると思うけれど、頑張ってほしいな」
デュアルは最後に強い言葉を投げかける。
「今回の相手は、人間の姿をしているダモクレス。イレギュラーな存在だからこそ、未知の怖さもあるとは思う。でも、俺は、みんなの力を信じているよ。みんななら解決できる。だから、頑張って! 応援しているよ!」
参加者 | |
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千手・明子(犬の天稟・e02471) |
夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878) |
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709) |
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925) |
ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276) |
黒江・神流(独立傭兵・e32569) |
ユウ・アーベロート(黄昏と生きる・e32575) |
霧山・和希(駆け出しの鹵獲術士・e34973) |
●少女は冷たい視線を向ける
オレンジ色の光が世界を彩る時間。中学校の校舎も、校庭も、校門も、そして学生達も、オレンジの光に染まっていく。
下校時刻。学生達は帰途につく。友人と話しながら帰る学生もいれば、本を片手に読みながら帰る学生もいる。少し賑やかな、そんな時間だ。
「……ひとにそっくりなダモクレス……こういう時には、やっかいですね」
ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276)は、生徒達の上空を飛びながら、目標であるエルナ・トゥアールを探す。
エルナ・トゥアールの特徴は、中学低学年の女の子。長い黒いマフラーを巻いていて、髪型はショートカット。ほとんど人間と同じ姿とも言えるが、一つだけ大きく異なった特徴がある。
髪の色と同じ薄紫色の粒子が髪から出ている。これだ。しかし、この特徴も注意深く見ていかなければ分からない。
「……全く、どこかな、うちの妹は」
夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878)は、妹を迎えに来た学生を装いながら探していく。
「いやー。授業さぼる気はなかったんだけどな。突発の解放クエストさえなければな。これは運営が悪い」
大学生の通行人を装うガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)は、ゲームをしながら歩きスマホをしている様に振る舞う。このスマートフォンの本当の目的は、仲間達との連絡用。連絡を直ぐに受け取る為の物だ。
近所の人を装う千手・明子(犬の天稟・e02471)は、標的になってしまいそうな注意散漫な学生を見つけた時は、接触テレパスを使い、相手を混乱させない様な言葉を選びながら、そっと誘導もしていく。
ユウ・アーベロート(黄昏と生きる・e32575)、霧山・和希(駆け出しの鹵獲術士・e34973)も学生服を着て、エルナを探していく。絶対に被害者を出さない。そう強く思いながら。
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)はOL姿。道を迷った、そんな風に装いながらターゲットを探していく。
その時、近くで黒く長いマフラーが風に吹かれているのが目に入った。薄紫色のショートカットの少女が口元をマフラーで隠し、何かを見定めている様に見える。……そして、彼女の髪からは淡い粒子が零れていた。
モカは急いでアイズフォンを使い、全員に位置情報を発信する。だが、それと同時に少女がモカへと振り返った。その水色の瞳は氷のような冷たさで彩られている。
「……あなた、敵ね?」
そう言うが早いか、エルナはモカに向かってレーザーソードを抜いて飛びかかってきた。
「直ぐに、この場からに逃げるんだ!」
一番に駆け付けたのは、黒江・神流(独立傭兵・e32569)。モカはエルナの猛攻で、彼女を抑える事で精一杯になっている。とにかく、中学生達や一般人の避難を優先した。続き、ユウ、和希、明子、そして、空からヴィオレッタが避難誘導をしていく。少し場の混乱が収まった所で、神流とミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)が、キープアウトテープを貼って、戦場に人が入らない様に施した。
対し、罪剱、ガロンドはモカの支援に入る。ガロンドのミミック、アドウィクスが噛みつき、一旦、モカからエルナを引き離した。その間に、ガロンドがエルナとの間に入り、罪剱が足止めにかかる。
「まずは手当てを……!」
「……助かった。ありがとう」
誘導を終えたヴィオレッタとユウがモカの傷を癒していく。
次々と集結するケルベロスに、エルナは氷のような視線で見回した。
「私の邪魔をするなら……殺すわ」
●エルナ・トゥアール
エルナの行動は素早かった。高速で接近すると、一気にガロンドと和希をレーザーソードで一閃する。その光は一瞬で見えない程だ。そして、直ぐに跳びあがるとケルベロス達から距離を取る。
「流石、速いねえ。アドウィクス、援護頼むよ?」
ガロンドの蹴り出す炎と、アドウィクスのばらまく黄金がエルナに向かう。それを、エルナは身を翻し、かわしていった。
(「……見た目、中学生じゃん。戦い難いな……」)
罪剱はエルナを見ながら、複雑な気持ちになる。彼には亡くなった妹がいる。その妹の姿が思い出されるのだ。しかし、倒さないといけない相手。罪剱は、空の霊気を帯びた斬撃を喰らわせる。それをエルナは受け止めるが、その表情には何の変化も無い。ただ受け止めただけ。そんな感じだ。
「あなた達が単独行動なんて滑稽ね。わたくしのエルナは一人だけ。渡したりしないわ」
明子の赤日の名を冠すドラゴニックハンマーが、エルナに向かって放たれ直撃する。それを彼女は軽く受け止めた。
「何の事を言っているのか、よく分からない。私は元々単独行動。イマジネイターの力になれればそれで良い。よく分からないけれど、私はあなたのエルナなんていらない」
どうやら、明子にとっての妹分であるエルナ・トゥエンドは、このエルナ・トゥアールにとってどうでもいい存在のようだ。しかし、倒すべき相手、朗報を齎す、明子の目的は変わる事はない。
手負いのモカだが、今は味方のサポートに専念する。彼女はガロンドと和希に紙兵を放ち、守備を固めた。ヴィオレッタもそれに続き、オウガメタルによるオウガ粒子を放って、その神経を研ぎ澄ませていく。更に神流の射撃がエルナの動きを制限していった。
ユウとミーミアは施術による回復で手負いのモカの回復を行い、ミーミアのウイングキャットのシフォンはガロンド達に清き風を送っていく。
和希も足止めに銃弾を次々放つが、こちらはエルナの跳躍によりかわされてしまった。やはり速い。
そのエレナは高速移動を開始し、エレナの分身が次々と現れていく。それは螺旋忍者による分身の術を思わせるものだ。
「思い通りにはいかせるつもりはないからな」
ガロンドはチェーンソー剣を、アドウィクスは噛みつき攻撃をエレナに向かって攻撃する。しかし、それを瞬時に判断したエレナはかわしてしまった。まだまだ、こちらの攻撃は当たり難いようだ。動きの素早さ、判断の早さ、一筋縄ではいかない相手である。
明子はエルナに向かって月の弧を描きながら斬り付ける。当たりはしたものの、エルナには半分いなされてしまった感があった。
「……これは速いな」
罪剱は、動きの速いエルナに狙いを定めながら重い蹴りを叩きつける。これは確実に入った。
「エクシャメルさん、霧山さん、命中率を上げよう」
「明子さん達の力の底上げをします」
モカはオウガメタルによるオウガ粒子をガロンド達に重ねていく。そして、ヴィオレッタは爆発の力により明子達の士気を高めていった。
「……これは確実性を取った方が良いな」
最初の攻撃は効いたが、仲間達の攻撃の状態を判断して、神流は確実性を狙う為にエレナを今以上に狙える位置へと移動を開始する。
「大丈夫、キミは、一人じゃないよ」
ユウは、もう一度、モカに対して雨粒を纏った光で彼女の傷を癒していく。
「思い通りにさせるものか」
和希はケルベロスチェインをエルナに向かって放つ。その鎖は何とかエルナを捕らえ、捕まえる事に成功した。
「力を与えるのよ!」
ミーミアは罪剱達にオウガ粒子を放つ。スナイパーにも必要だとの判断からだ。シフォンはヴィオレッタとモカに清らかな風を送り込み加護の力を高めていった。
「……」
エルナはケルベロス達を素早く見渡す。誰が彼女にとって面倒な相手なのかを見極めているようだ。
「……あなた」
狙いを定めた相手は罪剱。手にしたレーザーソードからレーザー光線を罪剱に向けて撃ち放つが、それを和希が庇った。
「作戦を成功させる。一般の人々や仲間達を守り切る。……そのためならば。痛みにも恐怖にも、耐えてみせます」
それは和希の覚悟でもある。しかし、その瞳には敵に対する強い殺意と狂気が篭っていた。
「助かった。和希の想いも、俺の力にしよう」
罪剱はエルナに向かって、正確に斬り付ける。戦いにくい相手だ。だけど、仲間の想いはもっと大切なのだから。
「いつまでも逃げてばかりなんてさせねえよ」
アドウィクスが黄金を振りまき視線を奪っている所に、ガロンドは渦巻く炎をエルナに向かって蹴り出した。小柄なエルナの姿が炎に巻かれる。更に明子は大量のグラビティ・チェインを乗せた一撃で、彼女を護っていた力を打ち破った。
「守備の力を高める」
モカのケルベロスチェインが和希達に魔法陣による守護の力を与えていく。
「夜刀神さん、宜しくお願いします!」
ヴィオレッタは罪剱にルーンによる破壊の力を送った。
「目標の予定座標到達を確認、これより極光作戦を発動する」
神流の重火器がグラビティ・チェインを纏った淡く光る砲弾でエルナに向かい集中砲火する。その間を縫って、ユウとミーミアはかなりの怪我を負っている和希の治療に専念した。シフォンは神流達へと清らかなる風による加護の力を高めていく。
エルナは再び高速移動を開始する。次々と現れる分身が彼女を癒し、護りを高めた。だが、直ぐにガロンドによるチェーンソー剣による騒音により打ち消され、アドウィクスが更に噛みつく。明子も飛び込み、急所を狙って名刀『白鷺』を突き立て動きを奪い、罪剱による静謐なる熾天の葬送者による大鎌が激しく斬り付けた。
「どの程度、回復の助けになるかは分からないが……」
「それでも癒しの力を……」
モカは紙兵による、ヴィオレッタはオウガ粒子による回復を和希達へとかけていく。仲間を倒れさせる訳にはいかない。
神流はエルナの死角を狙い銃弾を撃ち放つ。ユウは光の雨粒を、ミーミアは雷による力で和希に癒しと力を与えていった。
「――動くな。壊せないだろうが」
十分な回復を貰った和希は攻撃に移る。彼の唱える術は異形の術式。複数の蒼い魔法剣がエルナに向かって貫いていった。
度重なる猛攻に、エルナは人の姿ながら、機械の軋む音を放っている。それは、彼女がダモクレスである証。
「……イマジネイターの為にも、私は負ける訳にはいかない。負ける訳にはいかない!」
エルナはレーザーソードを構えなおす。そして、青き光はガロンド達を薙いだ。流石にこれは受け止める以外に他無い。
だが、相手はもう倒れる寸前の所までに来ている。後は、止めを狙う。それだけだ。
アドウィクスが幻を振りまき、ガロンドは炎の渦をエルナに叩き込む。
「――それは、無音の銃声が故に」
それは罪剱自身を堕天使と定義とした暗殺術。葬送の銃弾がエルナに撃ち込まれた。
「エルナは妹分。わたくしが確実に仕留め、良い報告を――」
明子は彼女の妹のようなエルナではない、もう一人のエルナに狙いを定める。
「墜ちなさい!」
明子は刀を上から下に振り下ろす。それは竜を模したグラビティの塊となりエルナの頭上から襲い掛かった。それをまともに受けたエルナはふらつきながら倒れ込む。
「……あなたの力になれなくてごめんなさい、イマジネイター。……でも、迷惑だけはかけないから……」
その言葉と共に、彼女は崩壊する。薄紫色の粒子となっていく。……何一つ、形を残すことなく……一切の情報をケルベロスには与えない、それを強く示すように……。
●終幕
「最近のダモクレスの猛攻……何か、起こるのでしょうか……」
戦いが終わり、ヴィオレッタはどこか不安そうな言葉を零す。彼女はダモクレスとの戦いに縁が無かったからこそ、それが心を曇らせるのだ。
そんな彼女にユウが声をかけた。
「侵略なんかさせないし彼らの思い通りにもさせない。誰かを死なせて誰かを傷つけて、そう在り続けるなら、ボクらはずっと対峙し続ける」
その強い言葉に、神流と和希も頷く。
「デウスエクスがいる限り、倒すだけだ」
「ええ、そうです。それは変わりません」
戦場で生きてきた神流、デウスエクスを破壊する、どこか狂気を感じさせる思いを持つ和希。しかし、それはデウスエクスを倒すという変わらない思いでもあるのだ。
「中々、手こずらせてくれたが、エルナの敵を無事に倒せたな」
「大規模構成ってのも困ったものだけど……一つの芽は無事に潰せたしな」
モカ、ガロンドは明子に話しかける。今回、一番の思い入れを持っていたのは彼女だ。
「ええ、良い報告が出来るわ」
そう笑顔で返す明子は、エルナ・トゥアールの言葉が引っかかってもいた。
エルナ・トゥアールにとって、エルナ・トゥエンドに対する執着すら持っていなかったのだから。
それは、明子の大切なエルナ・トゥエンドにとって朗報かもしれない。
一方、罪剱は別の想いを巡らせる。亡き妹を思い出させる、あのダモクレスに。
(「……まあ、安らかに眠れば良いさ」)
『――貴女の葬送に花は無く、貴女の墓石に名は不要』なのだから。
作者:白鳥美鳥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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