恐羅漢山、凍血の儀剣隊

作者:白石小梅

●恐羅漢山、儀剣隊
 朝方。まだ空の白み始める前。
 冬風の吹きすさぶ恐羅漢山。広島と島根の間に位置する、中国地方の最高峰。白色の影と化した山頂を背に、雪のちらつく深い森の中。
「上手く闘えてたわ。ダモクレスフランケンは強敵なのに、頑張ったわね」
「そんな……先輩こそ」
 山を下りる十人ほどの番犬たち。
 共に傷を負いながらも、一人の女剣士が後輩を気遣う。
 その時だった。
「せ、先輩、あれを!」
 緊迫した叫びに、女剣士が振り返った。
 いつの間にか崖の上に佇むのは、八体の機械天使。黄金の剣で、番犬たちを指し示して。
『ソードメイデン01。識別コード、トランぺッター・メイデン。ケルベロス部隊を確認。戦闘データ転送開始。交戦を開始します』
「……!」
 女剣士が後輩を突き飛ばす。抜き放った一閃と、天使の大剣の切っ先がぶつかり合った。
 雪崩を打つように飛び降りてくる機械天使。数人の手練れがすぐさま戦闘へと飛び込むも、敵はすでに機先を制していた。無数の剣閃が番犬たちを崖へと押し込んでいく。
「飛び降りて走って! 撤退よ……っ!」
 番犬たちは辛うじて崖下へと身を翻す。背を斬りつけられつつも、最後に残った女剣士が転げ落ち、仲間に支えられながら走っていく。

 機械天使の群れは無表情に林間の影を見つめて、森の奥へと踵を返した。
『……敵部隊の撤退を確認。任務を続行いたします』
 彼女らは、ただひたすらに任務を繰り返す。
 やがて来る大いなる戦の時に、彼女たちの剣が番犬の布陣を押し潰す……その日の為に。
 
●怒涛のダモクレス軍団
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が、居並んだ番犬を前に口を開く。
「再びマザー・アイリスの放った試作機が現れたとの報告がありました」
 現在、ダモクレス勢力は六体の指揮官を地球へ送り込み、それぞれ競争させながら異なる手法の侵略を進めている。
「マザー・アイリスの軍団はやがて来るケルベロスとの闘いに生産性に優れた量産型ダモクレスを投入するべく、実戦段階までこぎつけた試作機をダモクレス制圧下のミッション地域に投入しているのです」
 事実、いくつものミッション部隊が、帰還時に正体不明部隊に襲撃を受けている。試作機の群れはすでに損耗している部隊や少人数の巡回中、戦闘能力の低い者に襲い掛かり、自身の性能テストを行っているのだ。
 放置すればこちらの戦力は擦り減り、敵には有用な勝利データが積み重なっていくばかり。
「量産型試作機はミッション地域の外縁部に潜み、襲撃活動を行っています。皆さんはミッション部隊とは別に、試作機に対する索敵攻撃隊として出撃。外縁部に潜む量産型試作機を見つけ出し、殲滅していただきます」
 それが、今回の任務となる。
 
●ソードメイデン
「こちらが今回出現を確認した量産型です。正式名TM-S01。識別コードはトランぺッター・メイデン」
 それは、流れるような金の髪と白布を棚引かせた機械天使の画像。
 類似事件のファイルに目を通して来た者は、違和感を感じた。トランぺッターは『少女』の形の機械天使であったはずだ、と。
「基本構造とパーツを流用しマイナーチェンジを施した機体……生産性を犠牲に性能を底上げした上位機種。愛称『ソードメイデン』です。八体の出現が恐羅漢山に確認されました」
 基本を流用しつつ、全く質の異なる機体。
 今までにない存在に、番犬たちが首を捻る。
「恐らく開発段階では少女型を率いる指揮官機……すなわちトランぺッター・メイデンとは、エクスガンナー達のような中隊規模の独立部隊構想だったのでしょう。それが何らかの形でマザー・アイリス軍団に取り込まれ、初期構想から変質。次世代量産機群の候補に上がった……」
 そんなところだろう、と、小夜は言う。
 機体の生産性は低く、数こそ半減したものの、個の実力でもケルベロスに引けを取らぬ性能を実現しているという。
 
「恐らく量産体制の中で実現可能な最高スペックを目指した機体……とは言え、同一性能の量産型に違いはありません。互いの多様性を認め合い、個々を高め、補い合うことこそ地球文明の強み。皆さんの連携を、見せてやりましょう」
 それでは出撃準備をお願い申し上げます。
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)
流・朱里(陽光の守り手・e13809)
燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)
巽・清士朗(町長・e22683)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)

■リプレイ

●恐羅漢山、索敵行
 はらはらと雪のちらつく、西中国地方の最高峰。
 時は朝方。未だ空は暗い蒼。
 恐羅漢山の威容が、居並んだ八人の番犬たちを見下ろしている。
「寒いのは慣れてるけど、あまり長居したい場所じゃないね……さっさと探して倒そうか。ヘリオンからじゃ、さすがに敵は確認できなかったからね」
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)はボクスドラゴンのコキュートスと寄り添い、白い息を吐いて手を温める。
「うむ! これまでになくダモクレスの侵攻が活発化している以上、これを放置する訳にはいくまい。しかし胸元がキツいな、この服は……!」
 迷彩模様の防寒具を着込み、リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)は熱く気を吐く。
「駄目駄目。もこもこは閉じておかないと風邪引くよ? さ、みんな。暗視双眼鏡っていうの、買って来たの。すっごい高くてビックリしちゃった」
 燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)が、代表で買って来た装備品をウイングキャットのもあに配らせる。
「暗視装置まで来ると調達できるかギリギリじゃったな。家電量販店にあって良かったの。余は自前のものがあるが、持ってない者はみんなきちんと代金払うのじゃぞ」
 ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)は、にやりと笑って自前のゴーグルとスコープを取り出し、仲間たちにインカムを配っていく。
 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)は、ブリーフィング時に配布された、ソードメイデンの画像を眺めて。
「トランペッターに似た外見……いや、随分成長してやがるな。なあ、先の依頼の後に聞いたんだが、この姿を見ると俺も思う。顔立ちが俺に似てるんだ……そう思うか?」
 差し出されるのは、流・朱里(陽光の守り手・e13809)。その画像に思うところはあるが、戦闘前に戦意を逸らすわけにはいかない。
「まぁ、確かに似ていると言えば似ているが……あぽろの方が、魅力的だな」
 冗談とも本気とも取れぬことを言って肩を抱き寄せ合う。
(「他人の空似か、それともこれの初期設計者は……だとしても、今はその手を離れている……か」)
 そう、胸の奥に引っかかるものをしまって。
「……ミッション部隊の帰還を狙うなら、敵の潜伏場所は下山ルートを目視可能な崖を有する森の中だろう。恐らくルート上に扇状に散開して、待ち構えていると想定できる」
 一方、巽・清士朗(町長・e22683)は地図を広げてそう当たりを付けた。共に地図を指していた紗神・炯介(白き獣・e09948)と、頷き合う。
「そうだね。ミッション部隊が下山に使うルート……そこを目視可能な位置……地図じゃ詳しい地形まではわからないけど、この辺りの外側から索敵していったらどうかな」
 素直に登山道を使えば、敵に補足されてしまうだろう。道を逸れ、敵の布陣の外へ進み、そこから横合いを突くのだ。
 装備は整い、作戦は決まった。
 八人は敵の潜む山間へと分け入っていく。

 山の中は、未だ厳しい冬の風が吹きすさぶ。暗い中、雪もちらつき、視界は悪い。敵味方共に索敵には悪条件。
 隠密気流を発揮する五人を先行させつつ、後方のメンバーは奇襲を警戒する。
(「こちら後方。特に問題はなしじゃ。敵の気配はない。痕跡も皆無じゃ」)
 浮かびながら後方を確認し、ステラが小声でインカムに囁く。続くのは、アビスの冷えた声音。
(「後方、空にも敵影なし。流石に目立つから、飛んではいないみたいだね」)
(「やはり、登山道側に敵は展開しているようだ。先行組、よろしくお願いする」)
 時間や方位を図りつつ、清士朗が檄を飛ばす。応えるのは、先行組の炯介。
(「了解。こちらも奇襲の気配はないよ。上手く、敵の警戒網の外に出られているんだろうね」)
 言う間に、あぽろと朱里は樹々の影を伝うように走り抜け、リヴィは樹上へと飛んで周囲に視線を走らせ、桃愛は望遠鏡で樹々の合間に目を光らせる。
 やがて、リヴィの声がインカムから響いた。
(「見付けたぞ。二体が崖の中腹にしゃがみ込んで、登山道を見張っているな」)
 すぐさま仲間たちが彼女のところへと潜行する。崖の中腹で登山道を見張るのは、二人組の機械天使。面々はその更に後ろ……すなわち崖の上に出た。
(「……スナイパーとクラッシャーか? てことは、四組に分かれてこの道を見張ってるってことか」)
(「あの二体が陣形の端にいるなら合流に手間取ってくれると思うが……他は見えるか?」)
 あぽろと朱里が囁く。
 炯介が素早く周囲に双眼鏡を向けるが、すぐに首を振る。残りの敵は視界の外にいるようだった。
(「でもこっちは上にいるし、気付かれてないの。狙えるなら、始めちゃうのが良いと思うの」)
 番犬たちは頷き合う。取れる先手は取るべきだ。
「じゃ、おまじないするね。これは、あなたと私の秘蜜の魔法。誰にも言えない内緒の魔法。ねぇ、お願い、目を閉じて。あなたの力を目覚めさせるの」
 桃愛が仲間たちを寄せて、ちゅっと口付けを投げる。
 破壊の加護を身に宿し、番犬たちは一斉に飛びだした。

●山中の剣劇
「さてと……せっかくの新型テストに悪いんだけど、敗北データを持って帰って貰おうかな」
 音も無く飛び降りるのは、アビス。冷気を編みあげた鎖……氷縛結界・鎖牢封印が、顔をあげた機械天使を縛りあげる。その顔面にコキュートスがタックルして、天使は崖から転げ落ちた。
「うむ! 早速で悪いが我らの手で武器のナマクラ共々鉄屑にしてくれよう!」
 正反対の豪快な叫びと共に、猟犬縛鎖を弾けさせるのは、リヴィ。そのまま飛び降り、両者の鎖が機械天使を叩きつける。
「……まずは、倒すとしよう。考えるのは、後だ」
 縛りあげられた一体を朱里が稲妻の如く突き刺すと、金色の光を纏った左腕がすぐさまその体を捕らえた。
「戦場に浄、不浄無く。運足にこそ極意あり……今この時、我が身はただ一条の槍よ」
 槍の如く漆黒の右手を貫き、敵を吹き飛ばすのは清士朗。顔をあげれば、もう一体はすでに飛翔し、身を守る姿勢に入っていた。
「あっちはスナイパーだ! 今は無視するぜ!」
 あぽろが居合い抜いた刀が、立ち上がろうと剣を突いたクラッシャーの背を貫く。
「うん。最優先は各個撃破。後顧の憂いはなるだけ潰しておかないといけない。今は目の前の仕事に集中だね」
 もがく機械天使の頭を、炯介が鋭く踏み潰す。旋刃脚に頭部を潰され、天使は火花を散らして動きを止めた。
 奇襲は成り、八人は開けた登山道に立つ。
 正面にはすでに奇襲を察知した残りの七体が集結してきていた。
「さて、奇襲に成功した今は癒す傷もないが、ここからがニンファエアのウィッチドクターの本領発揮なのじゃ! 水の精霊よ。余が護ると誓う者に汝の力を宿したまえ!」
 最後に降りてきたステラがその周囲に淡い睡蓮の花が開かせ、後衛に精霊の加護が咲き乱れる。もあも共に、前衛に解呪の風を振り撒いて。
『戦闘データ転送開始。交戦を開始します』
 機械天使は一斉にそう呟くと、番犬たちへと襲い掛かってきた。

「さっきの奴、桃愛の加護もあったのに、大分固かったな……数は前の半分だが戦闘力は倍ってワケか? フン、上等だ! 光あれ!」
 あぽろの呼び寄せた輝きが、先んじて突っ込んでくる三体に豪雨の如く降り注ぐ。焼き鏝を振り下ろされたような衝撃の中を、天使たちは突っ切ってくる。
「ふ、氷の剣か。我が熱を凍らせられるものなら、やってみるがいい!」
 リヴィのサークリットチェインが前衛を守り、そのまま天使の剣を絡めて引き寄せる。打ち合う横から、軽やかに飛びこむのは、桃愛の蹴り。
「悪い人たちにはお仕置きが必要なの。行くよ、もあ……!」
 炎を纏った一撃が、天使の顎を弾く。
 揉み合う前衛三体。その背後から、スナイパーたちが剣をかざした。
『援護射撃、開始』
 剣の中央に走った光が、レーザーの如く煌めいて、前衛に襲い掛かる。こちらからはそれを支える癒しの輝きが跳ね飛び、闘いは瞬く間に乱戦と化した。
 斬り込んで来た一体と打ち合いながら、朱里が思案する。
(「この顔……記憶喪失の私は覚えていない。覚えていないが……いや、思考を逸らす余裕はないな」)
 天使は身を捻って受けの姿勢を取り、腰に下げた冷却水を全身に循環させる。だがその隙を見逃す朱里ではない。流水の如き斬撃がその加護を裂き、天使たちを押し戻した。
「今だ、頼む……!」
 後方の天使たちが撃ち放つ剣光の中、炯介が身を捻って空へ跳ぶ。
「前衛たちの剣技もだけれど……後方から援護射撃が厄介だね。早急に前を潰すよ。さて……君たちには傘を差すことを勧めておくよ」
 炯介が中空で指を振るえば、敵の一群が黒いキューブの中へと閉じ込められる。
「合わせるよ。それに……ふん。この程度の攻撃、通さないよ。いくら数がいても大したことないね」
 応えたのは、アビス。閃光の下を滑り込み、冷気の手刀を振り放った。冷気は刃となって閉じ込められた敵群を斬り裂き、降り注ぐのは皮膚を灼く黒い雨。遂に一体が崩れ落ち、黒雨の中に融けていく。
『ユエ4、ダウン……』
 辛うじて二体は黒い檻を脱する。しかしその隙を、清士朗の瞳は見逃していない。
「極意とは 別にきはまる事もなし……」
 ふらりと目の前に現れた影に反応し、天使の抜き打ちが炸裂する。しかしその一撃は清士朗の首があったところを虚しく掠めた。
「……たえぬ心の たしなみとぞ知る」
 あるべき武の姿勢を歌い上げた時には、その貫手が天使の胸倉を貫いている。もつれ合った姿勢のままその肢体が崩れ落ちた。
 残る前衛は一体。だが微塵も怯む気配はなく、前衛に斬り込んでくる。勢いを緩めぬ攻めに、こちらを押し返しかねない。
 無論、その背を支える者がいなければ、だ。
「さあさあ、押して来とるぞ! この勢い、殺させはせぬ。皆、存分にその武を振るうのじゃ!」
 ステラが広げる枝葉が果実を実らせ、光厳の輝きが迸る。石化や氷の呪縛は解けて消え、コキュートスともあも共に前線を支え続ける。
 戦況は、傾きつつあった。

●決着
「血も凍てつかせる閃光、か。俺は氷はそんなに得意じゃねーが、石化対決なら負けねえよ!」
 あぽろの光弾が、凄まじい勢いで最後のクラッシャーの首を捥いだ。
「勢いで貫いてるだけで、石化何にも関係ないぞ! 豪快で私は好きだけどな!」
 リヴィが笑いながら己の血を払い、遂に後衛へと雪崩れ込む。
「あーあー、勢いが良いのは結構じゃが、かなり喰らっておるぞ。前衛の膝を折らせるのは支援者の恥とはいえ、押し込む時は苦労するのう。朱里、共に頼めるか」
「ああ。トランぺッターの時には世話になった。任せてくれ」
 頷き合うのは、ステラと朱里。色鮮やかな爆炎が前衛の背を押し、輝ける盾が無数の剣撃からリヴィの身を守護する。
 敵は残り半数。こちらは前衛は擦り減ったが、未だ戦力は健在。サーヴァント二体も加えて、残りの天使を押し包んでいく。
「流れは決しましたか。しかし戦とは、如何なる勝ちを得るかも重要。犠牲の上に成る勝利では、まだまだというもの」
 飛翔して距離を取ろうとした天使を、清士朗の闘気の弾丸が撃ち抜いた。羽を折られて滑落していく天使の頭上に跳躍するのは、炯介。
「同感だね。確実に、迅速に。一体ずつ」
 もがく天使の剣がその前髪を断った。炯介の金色の目が、獣のように光る。何かを思い出したかの如く、その瞳の奥に憎悪を、そして右手に地獄の火炎を燃え立たせて。
「すまないけど、砕かせてもらうよ。ダモクレスの侵略を見逃すことは、もうできない」
 大地と渾身のフレイムグリードに挟み込まれ、天使の体が砕け散る。
『ユエ7、ダウ……』
「極大の恐怖の嵐……お前たちに感じ取れるか! 震え上がれ!」
 振り返れば、仲間の撃墜を報せるアナウンスも半ばに、リヴィの回し蹴りがもう一体を砕き散らした。
 殺到する攻撃をもはや捌き切れなくなった二体は、背中合わせに互いを守る姿勢に入る。だがそこに小鳥が舞うように跳躍する小柄な影が一つ。
「さあ、これ以上、暴れさせるわけにはいかないの! これに懲りて、天国では大人しくしてね!」
 桃愛が天から振り下ろした轟竜砲が、一体の頭蓋を砕く。たたらを踏んで崩れ落ちる天使。
 だが、最後の一体が振り返る間は、なかった。
「これでお仕舞だ。立ち上がる必要はないよ」
 血を拭い、アビスの渾身の破鎧衝が、その胴体に突き刺さる。
 最後の機械天使は、二、三歩をよろよろと後ろに下がって……。
 破裂するように砕け散った。

●朝日の帰路
 闘いは終わった。見上げれば曇っていた空は晴れて、刺すような朝日が山の向こうを照らしている。
「終わったね……もう出てこないといいんだけど、敵はまだこんなことを繰り返すのかな」
 各人のヒールも終え、アビスがコキュートスの頭を撫でる。清士朗は深く息を吐きながら残骸を眺めつつ。
「これらは試作機と聞く。であるならば、生産する手筈自体はすでに整っていると見える。同型機でなくとも、再び量産型が現れることもあるだろう」
「では、こうして撃破したところで大して意味がないということか?」
 ジャケットの胸倉を肌蹴させ、リヴィは少し不機嫌そうに問う。
 いや、そんなことはないよ、と、声を掛けるのは炯介。
「車だって設計は完成しててもレース前には最終調整に時間を掛けるものだよ。そこが疎かになれば、本番で全力を発揮することは出来ないからね」
 そう。この闘いはきっと、やがて来る決戦の時に大きな意味を持つはずだ。
 一方、あぽろは砕け散った天使たち……いや、今は焦げ付いた残骸を、見下ろしていた。その肩に、どうした、と朱里が手を置いて。
「いやその……こいつらの恰好だよ! 露出多すぎるぞ! 顔が似てるから俺まで恥ずかしいぜ……」
「なんだ、そんなことか。あぽろの防具も露出多いと思うが……着るか?」
「お、俺は普段あれほどじゃねーぞ朱里! コート差し出すなっ! それに、朱里だって寒いだろ? だからー……」
(「俺に記憶はない。が、話に聞くもう一人の幼馴染と関係があるのか……それとも」)
「とうっ!」
 考えに耽っていた朱里の思考を断ち切るように、あぽろは彼の外套に頭を潜り込ませる。
「おー……お熱いのう」
 動きづらさの中でじゃれつく二人を、ステラは笑いながら眺める。
(「何度も何度も、頭を抱えながらも前線で立つあぽろはまさに太陽なのじゃ。余は尊敬しておるよ」)
 だが、今は恋人二人の時間を大切にしてやるべきだろう。ステラは何も言わぬまま、踵を返す。仲間たちもすでに、帰還の準備に入っていた。
「この道もこれで安全なの。今は帰ろ。また悪い人達が現れたら、何度でもお仕置きなの」
 桃愛が言う。
 昇ってきた太陽が、番犬たちの帰路を照らしていた……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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