怨嗟ゆらめくドラグナー

作者:霧柄頼道

 光の届かぬ、冷たい空気と乾いた静寂に包まれた、鉄さびの匂い漂う一室。
 弱々しい燭台の明かりに照らされ、部屋の中心部に据えられた実験台の上に、一人の男が横たえられている。
「喜びなさい、我が息子」
 その側へ不気味な仮面を着けた黒衣の男――竜技師アウルが佇み、目覚めを呼び起こすように語りかけたのだ。
「実験は成功だ。お前はもはや人間ではない。ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得たのだ」
 そうささやかれ、横たわる男は驚きに目を見開く。
「しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死亡するだろう。それを回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取る必要がある」
「お、俺には……力があるんだな?」
「そうだ」
「これで、今まで俺をこけにしてきた奴らを皆殺しに、できるんだな……?」
 アウルが頷くと、戸惑いがちだった男の表情に変化が生まれる。目がつり上がり、ぎりりと食い締めるように歯をむき出しにして。
「……ちょうどいい。どうせ俺はどいつもこいつも殺すつもりだったんだ。こんな力があるなら、一人だって逃がしやしない……!」
 生き延びられる可能性などどうでもいい。全てを奪った者どもへ、報復を。その末路の死すらもすでに覚悟は済んでいた。
 男は立ち上がる。煮えたぎる怒りを抱え、混沌化した両腕から確かにドラグナーの力を感じ、狂気に顔を歪めながら。
「……生き残れれば、いいドラグナーとなれるだろう」
 彼の背中を見送り、一人闇に立ち尽くすアウルの唇にもまた、薄い笑みが浮かべられていた。
 
「ケルベロスの皆さん、来てくれたっすね!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、集まって来たケルベロス達を認めて声を上げる。
「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が事件を起こそうとしているっす!」
 この新たなドラグナーはまだ未完成とでも言うべき状態で、完全なドラグナーとなるために必要な大量のグラビティ・チェインを得て、また、ドラグナー化する前に嘲り落ちぶれさせられた復讐と称し、人々を殺戮しようとしているのだ。
「ドラグナー化する以前から自暴自棄になっている危険な相手っす。取り返しのつかない事になる前に、未完成のドラグナーを撃破してくださいっす!」
 ケルベロス達の了承に頷き、ダンテは状況を説明し始める。
「ドラグナーの名前は平田・和男。とある私立高の教師を務めていたんっすけど、度重なる学校側の無茶な指示と過酷な労働に疲れ切っていたようっすね」
 遅くまでの残業、泊まりがけは当たり前。他の教師達の助けもなく、和男は一人孤立していたという。
「さらには生徒達にも馬鹿にされ、奥さんにも逃げられ、完全に家庭は崩壊。いよいよもって追い詰められていたところをアウルに接触され、実験に荷担したんす」
 和男は自分をここまで追い込んだ高校へ赴き、そこにいる人間を無差別に虐殺しようとしている。
「だから皆さんには先んじて学校に向かい、待ち伏せて倒して欲しいっす。先生や生徒さんがたも逃がしたいところっすけど、和男がやってくる前に人払いしてしまうと予知が変わり別の場所を襲撃してしまうので、戦闘と避難誘導は同時に行わないといけないっすね」
 その場合の時間稼ぎや一般人護衛、避難役などの役割分担は必要だろう。
「行動開始できる詳細なタイミングは和男が校門に踏み込んだ瞬間っすね。校舎内、校舎外……戦う場所や作戦はお任せするっす。敵は和男一人のみで、配下や竜技師アウルは現れないみたいっすよ」
 また、和男は未完成のドラグナーなため、ドラゴンへの変身能力は持ち合わせていない。
「和男の使う武器は簒奪者の鎌、ポジションはクラッシャーっす。神風特攻上等の精神状態なんで、逃走の可能性はゼロっすね。最期までしゃにむに向かってくるっす」
 ドラグナーの力と合わさり、何もかも失った人間の暴走は恐ろしいものとなるだろう。
「こうなったらもう倒すしかないし、境遇には同情もできるんすが、たとえ学校中の人間を皆殺しにしても和男の憎悪が収まるとは思えないっす。だからここで絶対、皆さんの手で食い止めて下さいっす!」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
珠弥・久繁(病葉・e00614)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)
ジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)

■リプレイ


「少しいいか」
 職員室を訪れたジャニル・クァーナー(白衣の狩人・e20280)が尋ねると、大量の書類と忙しなく格闘していた教師は手を止めて向き直ってきた。
 ジャニルは自分をケルベロスと説明し、内密の話があると廊下の端まで呼び出す。
「昼休みにデウスエクスが現れる。それを始末する為に助力を願いたい」
 なんと、と教師は目を見開く。
「まだおおっぴらに動けないが、その時が来たら放送室で避難の呼びかけを頼みたい。構わないかな?」
「ええ、ぜひ任せてください! これも我が校と我が生徒達のためです!」
「あ、ああ……」
 教師は生気のない目をぎらつかせ、快く無線機を受け取り放送室へと向かってくれる。
「平田先生、か」
 昼休みの喧噪に湧く校内を見て回りながら、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)は呟く。
 何ら問題もなさそうに見えるこの学校。だが実際の彼は過酷な中でも教師として頑張っていたのだろう。空回りし成果を上げられず、私生活を顧みないから家庭が壊れ。
「恨みつらみを心に溜めちまうのもそりゃ判るぜ」
 しかもそんな哀れな男を倒さなければいけない。まったくやりきれなかった。
 その頃、佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)は赤茶のトラ猫へと変身し、校門の塀沿いに身を隠していた。
(「当のクソ親父ことアウルは居ないようだけど、とりあえず尻尾はつかめたんだから良し! ってね」)
 今回の敵は宿敵、竜技師アウルによって生み出された存在。やっと掴めた手がかりという意味でも、凶行を始めようとしている意味でも、見逃すわけにはいかない。
(「色々苦しいから力を得て八つ当たりしようなんて奴は、徹底的にフルボッコにしてやるんだから!」)
 そう。同情するか否かで言えば、微妙。人を辞め、ケルベロスに敵対したのなら報いは与えようぞ、とノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)も校門から少し離れた茂みの中で動物変身し、機を窺っていた。
「あ、可愛いワンちゃんが……あひっ!?」
 好奇心で覗き込んだ生徒がピンクの犬にじろりと睨まれ、尻餅をついて逃げ出す。好きでもない変身にノーザンライトが機嫌を悪くしていたための不運であった。
「さて、そろそろ標的がやってくる頃ですが」
 学校周辺のテナントビルの屋上に立つシマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)は、校門を中心に双眼鏡で索敵を行っている。
 事前に学校の構造を把握し、仲間と共有。その上で監視を行い、ドラグナーが現れれば全員にメールで伝達と中々忙しいが、工作の一つ一つに全力を注ぐシマツから疲れは窺えない。
 と、視線を傾けた先の地上にある店舗の一つ。床屋の入り口付近には珠弥・久繁(病葉・e00614)の姿があった。
 予知を阻害せず素早く敵の元へ駆けつけるために、久繁は店主に事情を話して待機場所を借りている。それにこの位置なら、シマツ側の死角となっている路地や曲がり角も確認できるのだ。
「……あれは」
 ふらりとした足取りで通りへ歩み出る人影を認め、久繁は静かに眼を細める。
「――きたっ。メール!」
 貸してもらった学校の制服を着用し、生徒に紛れていた月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は携帯へ届いた連絡を目にするや否や、殺界形成を展開。
「それみんな! デウスエクスが来るから避難を頼む!」
 続く朔耶の言葉に、廊下をふらついていた生徒達が慌てて動き始める。外には出ないよう誘導しながら、オルトロスのリキには彼らの警護を指示。
 その時、校門から歩いてくるそいつを窓から一瞥し、一言。
「やっぱり……ドラグナーって変っ!」
 にわかに騒ぎの巻き起こる校舎へ近寄る和男の前へ、ライドキャリバーのクラヴィクに騎乗したライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)らが飛び出して行く。
 警戒を強めて飛び退く和男。直後、その胴体へ赤い糸が飛来し、弾丸のように貫いた。
「何処に行くの? あなたの相手はこっち」
 運命の赤い糸(エンゲージ)――糸状に伸びた自身の血液を束ねて握り、ノーザンライトが根本をぴんと指ではじけば、振動が伝わり和男の表情が憎悪に歪む。
「その境遇に同情はしよう。でも無関係な人まで巻き込もうとするのはいけない。殺人を軽く見るのだけは」
「俺の邪魔をする気か?」
「ああ……その悪意は断ち切る! 変身っ……!」
 ライゼファクターへ鍵を差し込み、高らかに叫ぶ。
 瞬く間にフォームチェンジを果たしたライゼルは、闘志を込めて竜殺しの大剣を掲げた。


 校舎の外で怒号、爆音が飛び交い、徐々に駐車スペースの方へ移動している。仲間達がうまく引き込んでいるのだろう。
 ジャニルは校内に響き渡る放送室からの呼びかけを聞きながら生徒達の避難を続けていた。合間に無線機を取りだし、役目を終えた教師へ向けて。
「もう十分だ。あんたも全てが終わるまでそこから出ないように」
『はい。溜まった仕事を片付けていますね。では』
「……微妙に会話が噛み合わんな」
 和男がいなくなった事で彼にはその分のお鉢が回って来ているのかもしれない。
「校舎の近くにいる人は中へ! そっちの棟にいるならそのまま隠れててくれ!」
 校庭では朔耶が浮き足立っている生徒達を見つけては安全な場所へと向かわせる。
「……ふうー。かなりいいペースで来てるよな。やっぱ効率って大事やね」
 適切な避難誘導が行えるのも仲間との連携のおかげだ。この調子なら、予定より早く戦闘に駆けつけられそうだった。
「デウスエクスの襲撃だ! 俺達が抑えるから落ち着いて避難してくれ!」
 ウタは人の集まる校舎の出入り口に陣取り、流れ弾を通すまいと戦場を背にしつつ、隣人力と力強い言葉で安心させながら生徒や教師を次々と校舎へ避難させている。
 光の翼で中庭へ舞い降りたシマツも、怪力無双を駆使して避難に当たっていた。
「そちらの道はふさがってるので気をつけて下さい」
 戦いの余波で崩れた建物のがれきを速やかに押しのけ、校舎へのルートを作る。転んだり、体調不良の人間は直接抱え上げて安全地帯へと運び込む。
「……こんなところですね。私も合流に向かいますか」
 担当場所からは全員避難できた事を確認すると、おもむろに光の翼を広げ、一気に戦場へと飛翔していく。

「君の過去に同情出来る点はたくさんある。人情としては復讐を容認したい気持ちもあるが……それよりあなたの敵になった方が沢山人を助けれそうだ」
 和男が校舎側へ近づかないよう慎重に立ち回りながら、久繁が告げる。
「だから立ちはだかるか? ケルベロスらしいな」
「んー、そうだな。君をここで通すと100や200は殺しそうだしね」
 軽く目を閉じ、腕組みをした久繁の身体にある刺青が、見る間に光を宿していく。
「俺にとっての天秤はそちらの方が重いんだ」
 願いの行先に手向けを(イニティウム・アモーレ)。まぶたを開いた瞬間、ラインからまばゆく輝くエネルギーが津波のように和男へと襲いかかった。
 怯む和男に、横合いから炎を纏って突っ込んで来たライゼルが大剣を振り上げる。
「ドラゴンだけを殺す「聖毒」、味わうといい!」
 全身全霊で打ち下ろした巨塊がこれでもかと和男を打ち据え、勢いそのままに振り抜けば相手の身体が地面をバウンドして転がっていく。
 しかしさすがにドラグナーの肉体というべきか、立ち上がった和男は視線を校舎の方へ送る。
「よそ見しないで」
 目論見を阻むようにノーザンライトのライトニングボルトが放たれ、電流をもって敵をその場へ縫い止めた。
「やーい、インスタントドラグナー!」
「なんだと!」
「本当の力っていうのは、こういうのだよ!」
 挑発を織り交ぜながら接近したささながハンマーをふりかぶる。うなりを上げた大振りの一撃が、和男を高々と吹き飛ばしてのけていた。
 和男は咆哮を上げながら身を起こし、あふれる憎しみに任せてささなめがけ鎌を振るう。
 刹那、割って入ったリキが斬撃を受け止めて見せたのである。
「ありがと、助かったよリキ!」
 少ない人数を互いに支援し、補い合いながら、ケルベロス達は懸命に生徒達が避難する時間を稼いでいく。


「何が人をやめるほど、追い詰めたの?」
 和男が憎々しげに校舎を見る度に赤い糸を投げつけて引き戻し、ノーザンライトが問いかけた。
「教頭も同僚も、目をかけてやった生徒も誰も俺の言葉に耳を貸さなかった! 俺には何も落ち度はなかったのに!」
「君の気持はわからんでもないが、命まで取るのは間違いだな」
「弱っちぃからそんな出来合いの力に頼ってしまうんじゃないの?」
 本音をぶちまけた和男へ、気力を溜めながら久繁とささなが挑発を浴びせる。何を、と歯を食いしばる和男へ、ライゼルが腕を構えた。
「見せてあげよう。ボクの中の片鱗を……」
 しかと拝せよ偽腕の焔鎖(カラミティブレイズ)。地獄化した腕が燃え上がり、焔と鎖が赤い糸ごと絡めるように和男へと巻き付き、身動きを奪う。
「こ、こんなもの……ぐぁ!」
 すかさず反転したクラヴィクが機銃を叩き込み、苦悶の声を上げさせる。
「困ってなくても唱えてください♪」
 力任せに拘束を引きちぎった和男が目にしたのは、戦線へとたどり着いた朔耶と、側に顕現した翼持つ巨大な獣の御業。
 天狼召喚(テンロウショウカン)。雷撃の如き攻撃が和男をぶち抜き、盛大に跳ね飛ばす。
「間に合ったけぇ、こっからは俺も参戦させてもらうな」
 ですね、と上空から軽やかに着地するのはシマツである。
「どうも、平田さん。シマツです」
 なめらかに挨拶し、きちんとお辞儀をするシマツに和男がこめかみを引きつらせた。
 続いて、笑顔で。
「では、死んでもらいますね」
 直後、広げたままの翼から全身までが光の粒子へと拡散し――光そのものとなったシマツが和男へ斬撃を浴びせながら通過する。
 まるで不可視の一閃に、鮮血を散らし思わず膝をつく和男。
「教え子や同僚達の命を奪うなんざ、教師ならそんなコト考えない筈だぜ。……な、平田先生」
 続いて合流を果たしたウタが、和男を見据えて「青の凱歌」(ブレイブソングオブガイア)を歌い始める。
「あんたにも聴こえるだろ? 地球の歌が。メロディが」
 青き地球を想起させる勇気の歌が、激しい攻防を繰り広げて傷を負っていた仲間を癒していく。
「こんなはずじゃ……俺は、奴らに目にものを……ッ!」
「藁にも縋る思いだったのだろうが。ジャニルはその藁を焼き尽くしたくて仕方がない」
 左目の地獄をいっそう燃え上がらせたジャニルが、蒼い炎を纏う魔弓クァーナーにつがえた武神の矢を放つ。
 それは正確に和男の背中へ吸い込まれ、荒々しい噴火のような、あるいは華麗な花のような炎を咲かせた。
 これでようやく、全員が揃う。憎悪逆巻く戦闘は佳境へと移ろうとしていた。


「へい、デスサイズシュートかまん」
 くいくいっ、と何重に巻き付けた赤い糸を引っ張りノーザンライトは和男の意識を向けさせる。
 青白く輝く槍で強引に突っ込み、流し込んだ魔力の稲妻が敵の動作を数瞬、停止させていた。
「まぁ、先生が大変なんも気持ちも判るけど……他人の力を借りた時点でお前も奴らと同じやろが……」
 好機とばかり朔耶の攻性植物が和男を締め上げ、側面から走り込んだリキが刃を深々と突き立てる。
「他人の力とか、奴らと同じとか……そんなのはもうどうでもいいんだよぉッ!」
 理屈も理性も消し飛んだ憤怒に突き動かされ、和男は鎌を振り回す。
「それでも取返しがつかないことって、あるもんだよ」
 久繁が反応して斬り結ぶ。だがあわや押し戻されかけた矢先、敵の全身を鎖が縛る。
 鎖尽くし。腕の地獄から、そして鎖に覆われた大剣から鎖を無尽に伸ばし、クラヴィクに騎乗したライゼルは捕らえた和男を引きずり回す。
 因子を埋め込まれる前に助けられなくて悪ぃ、とウタは憐れみを込めて謝って。
「あんたを止めてやるぜ。……それが今の俺達がしてやれるせめてもの事だからな」
 光の盾を張り巡らし、怒れる和男の攻勢を寸前で防ぐ。
「交われ、2つの三日月!」
 隙を突いたささなの蹴りから、二つに分かれ、そして交差する三日月の雷光――雷光双月輪(テスラ・クレセント)が和男を打ちのめした。
「……せめて、一人、あいつだけでも道連れに……!」
「そうですか。でも殺しますね」
 息も絶え絶えに怨念を漏らす和男をあっさり気味に受け流し、シマツがナイフの刀身をかざす。
「今の貴方には何が映るのでしょうね」
「ぐっ……ぎゃああああああッ!」
 一番思い出したくないトラウマを垣間見て絶叫する和男へ、ジャニルがとどめの弓を引く。
「まぁ、何だ。縋る藁を盛大に間違えたな、としか言えないのが、実に残念だ」
 そのせいで我々は元・地球人であったモノを殺さねばならないのだから。本当に残念そうに告げ、地獄の矢が叩き込まれる。
 轟音と爆発が連続し、立ちこめた煙が晴れた後には、かすかな和男の呟きを最後にその姿は跡形もなく消え去っていた。

「粉々だし、検分は無理だわな」
 砕けた通路や建物を修復する傍ら、ドラゴン因子のサンプル採取や調査を試みるも空振りに終わった朔耶は、肩をすくめるにとどめる。
「竜殺しの大剣、効果の程をまとめておこうか」
 一方、得られた戦闘データを書き留めるライゼル。今後ドラゴン因子を故意に植え付ける敵に対するならば、役に立つ時も来るだろう。
「……どうも頭に引っかかるんだよなぁ。何か思い出せそうな、そうでもないような……? まぁいいか」
 元々アウルとの具体的なエピソードも思い出せないささなである。大した事じゃないだろうと頭を振って周辺のヒールに集中するのだった。
「誰かを助けるために誰かを殺す。多分、そういうことしか俺は出来ないんだよ」
 言った久繁は、人の姿が戻りつつある校庭を見回して。
「生徒達も、この戦いを見て自分の行いを少しは反省してくれるといいな」
「反省っていうか」
 茂みに隠し、和男とのやりとりの一部始終を記録していたカメラを手に、ノーザンライトがジト目で呟く。
「この学校、今年のブラック企業大賞取れるかも……。十年後には廃校かな」
 情けないモノを見る目で学校を眺め、溜息を一つ。録画は然るべき所に提出する事としよう。まことに遺憾である。
「全く、不愉快だ。この手の敵の親玉は、死神並かそれ以上にタチが悪い。早いところ、手がかりを見つけて追い詰め、そして仕留めねばな」
 ジャニルの言葉に、あぁ、とウタも頷く。
「平田先生……あんたは何も悪くない。あんたも犠牲者なんだ。地球の重力の元で安らかに眠ってくれ」
 そして、と決意を込めて続ける。
「……いつか必ず竜技師とやらには落とし前をつけさせてやるぜ」
 一人の教師だった男の死を悼むように、学校の片隅でメロディアスな鎮魂曲が静かに奏でられていた。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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