あの子がここにいてほしい

作者:土師三良

●母娘のビジョン
「撤退命令か……やり残したことがあるのだけれど、帰らないわけにはいかないわね」
 公園のベンチで女が呟いていた。
 とても優しい笑みを浮かべて。
 だが、よくよく観察すれば、判るだろう。細められた目や綻んだ口許から邪悪なものが滲み出ていることが。
「でも、手ぶらで帰るというのも芸がないわ。『シンディ・スコルーク』になって以来、ずっと狩りをしていないし……リハビリがてらに何人か狩っていこうかしら」
 優しくて邪悪な笑みを浮かべたまま、その女――シンディ・スコルークは立ち上がった。
 夕日に染まった園内を横切り、パンダのようなオブジェが組み込まれたジャングルジムに近付いていく。
 ジャングルジムの傍にはエプロン姿の女と小学校低学年らしき女児がいた。おそらく、親子だろう。帰りの遅い娘を母が迎えに来たのかもしれない。
 シンディになにか不穏なものを感じたのか、娘は母にすがりつき、母は娘の肩に手をやった。
「そうそう。その手を決して離してはダメよ」
 と、シンディは母に語りかけた。例の笑顔を浮かべたまま。
「家族は一緒にいなくてはいけないの。生きる時も――」
 シンディの胸部が展開した。
 そこから現れたのは短い銃身のガトリング砲。
「――死ぬ時も」
 掃射音が響き、母と娘は無数の肉片に変わった。
 
●音々子かく語りき
「六体の指揮官型ダモクレスが動き始めたことは既にご存知だと思いますが――」
 ヘリオライダーの根占・音々子がケルベロスたちに語り始めた。
「――そのうちの一体である『コマンダー・レジーナ』の配下の凶行を予知しました」
 コマンダー・レジーナが率いる軍団は潜入・工作・諜報に特化しており、多くの軍団員がかなり以前から地球に潜伏していたらしい。
 レジーナの着任と同時に潜伏者たちは帰投を開始したが、中には行きがけの駄賃とばかりに人々の命を奪っていく者もいる。
 音々子が予知したダモクレスのように。
「そのダモクレスは人間の女性のような外見をしていますが、それは本当の姿ではありません。『シンディ・スコルーク』と名乗っていますが、それも本当の名前ではありません。地球に潜伏する際、本物のシンディ・スコルークさんを殺害して、彼女の姿に擬態しているんです」
 シンディ・スコルークの外見を得た自称『シンディ・スコルーク』は人間社会に紛れ込み、日本各地を巡って情報を収集してきた。その間、一度も事件を起こしていない(だから、ヘリオライダーに予知されることもなく、親の仇として狙うシンディの遺児に見つかることもなかったのだ)。しかし、レジーナから帰投命令が出たことを機に一般人の殺害を始めるらしい。潜伏期間中に溜まったフラストレーションを晴らすべく。
「擬態野郎が凶行を起こすのは茨城県日立市の公園。狙われるのは近所に住んでいる親子です。心苦しいですが、その親子を事前に避難させることはできません。予知と違う行動を取ると、擬態野郎は別の場所に出現してしまうので……」
 とはいえ、ケルベロスが目の前に現れれば、自称『シンディ・スコルーク』はもう親子には手出ししないだろう。手出しする余裕がないからではない。一般人の親子二人よりもケルベロス一チームのほうが殺し甲斐があるからだ。
 最後に音々子は皆に言った。悲痛な面持ちで涙を堪えて。
「その親子を助けるため……というのは当然として、本物のシンディ・スコルークさんの尊厳のためにも、擬態野郎を倒してください! お願いします!」


参加者
エニーケ・スコルーク(戦馬乙女・e00486)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
鮫洲・蓮華(ぷえっと・e09420)
久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)

■リプレイ

●血よりも濃く
「家族は一緒にいなくてはいけないの。生きる時も――」
 身を寄せ合う母子に微笑みかけながら、シンディ・スコルーク(に擬態したダモクレス)は胸部のガトリングを展開した。
「――死ぬ時も」
 ガトリングの硝煙が巻き起こり、公園を染める夕日の赤に血の赤が加わる……はずだった。
 だが、シンディと母子の視界を覆ったのは硝煙ではなく、土煙。
 それが晴れた時、そこには十数人の戦士が立っていた。
 ヘリオンから降下したケルベロスたちだ。
「そこの二人を安全な場所へ!」
「おう!」
 サキュバスの鮫洲・蓮華(ぷえっと・e09420)の指示を受け、ヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)が比嘉・アガサとともに母子を安全圏へと誘導していく。
 いつものヴァオであれば、一般人の誘導にかこつけて自身もまた退避しかねないところだ。しかし、今回は公園の外に母子を送り出すと、すぐに仲間のもとに戻ってきた。
 もっとも、それは責任感や使命感のなせる行動ではなく――、
「……逃げたりしないよね?」
 ――と、睨みを利かせるアガサを恐れてのことだが。
 母子が避難している間にオラトリオの神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)がキープアウトテープを四方に張り巡らせていた。
 外部から遮断された戦場で対峙するケルベロスたちとシンディ。
「……やはり、生きていらしたのね」
 唸るように呟いたのは馬の獣人型ウェアライダーのエニーケ・スコルーク(戦馬乙女・e00486)。シンディの娘だ。もちろん、擬態したシンディではなく、本物のシンディの。
「君がエニーケのお母さんの紛い物か」
 エニーケの横に立つレプリカントのヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)がシンディに言った。
「ダモクレスなんだね。かつての俺と同じか」
「でも、ダモクレスのくせして、理論的な行動を取ることはできないみたいだな」
 ドワーフの久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)がシンディに嘲笑をぶつけた。
「潜伏任務が済んだのなら、さっさと帰りゃあいいのに……私欲に走って余計なことをしているうちは二流だぞ」
「か弱い獲物に対してガトリングなんぞを大袈裟に向けるところも二流くさいよな。実は意外と臆病なのか?」
 玉榮・陣内が眞白に調子を合わせ、鼻で笑ってみせた。
 両者ともにエニーケへの注意を削ぐことを狙ったのだが、シンディは挑発に反応しなかった。優しくて邪悪な微笑を更に優しく、更に邪悪なものにして、エニーケを見つめている。
「ママに会いに来てくれたのね、エニーケちゃん。怪我を押してまで……」
 そう、エニーケは重傷を負っていた。シンディと同様に人間社会に潜伏していたアンゲリカというダモクレスとの戦いで。
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)が眉を顰める。
「なんで、エニーケの怪我のことを知ってるの?」
「エニーケちゃんがアンゲリカにいたぶられる様はしっかりモニターしてたもの」
 どこか誇らしげにシンディはそう言った。陽葉の疑問に答えたわけではなく、自分の想いをエニーケに伝えたいだけだろう。
「アンゲリカの時だけじゃない。レジーナ様からおとなしくしているように命じられていたから干渉することはできなかったけど、ママはエニーケちゃんをいつも見守っていたのよ。遠くから……」
 当人は擬態のプログラムに従って、理想の母親像を演じているつもりなのかもしれない。しかし、その言動は母親というよりも――、
「――一種のストーカーですわね」
 ヴァルキュリアのスノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)が嘆かわしげにかぶりを振った。
「こんなのに執着されるなんて、エニーケ様も本当に災難ですわね。心より同情いたしますわ」
 その言葉に気を悪くする様子も見せず、『こんなの』であるところのシンディはゆっくりと歩き出した。
 エニーケに向かって。
「家族は一緒にいなくてはいけないの。これからはずっと一緒よ、エニーケちゃん」
 ダモクレスのシンディにとって、『ずっと一緒』というのは『ともに生きる』という意味ではない。今日、ここで、エニーケの、なにもかもを、奪い去る――そういう意味だ。
 シンディの前進に合わせて、エニーケはじりじりと後退した。もちろん、恐怖のためではない。
 他のケルベロスたちが偽りの母子の間に立ち並ぶ。
 そのうちの一人、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)が――、
「家族は一緒、か……そういうのはよく判らないな」
 ――サークリットチェインの魔法陣を描き始めた。良好な関係を築けぬまま亡くなった両親のことを思い出しながら。
 うずまきの魔法陣が完成すると、エニーケはシンディに言い放った。
「貴方を母だと思ったことなど、一度もありませんわ。ですが、感情は共有できそうですわね。貴方がそうであるように私も嬉しいですのよ」
 後退していた足を止め、マスケット型のバスターライフルを構える。
「待ち望んでいた日が来たのですから。そう、殺しの業を貴方に向けられる日が……」

●火よりも熱く
 シンディがゆっくりと左腕をもたげた。前腕部のそこかしこが展開し、手首があり得ざる方向に曲がり、五指が折り畳まれて収納されていく。
「受け取って、エニーケちゃん。ママの――」
 地面と水平になった時、それはもう腕と呼べる物ではなくなっていた。
 長大な砲身だ。
「――愛を」
 青白い光線が発射され、エニーケに命中した。破壊耐性を有した防具(その光線は破壊系の兵器だった)とうずまきのサークリットチェインの恩恵によって致命傷にこそならなかったが、ダメージは決して小さくない。
 だが、エニーケは悲鳴を上げることもなければ、苦痛に顔を歪めることもなく――、
「言ったはずですよ。貴方を母だと思ったことなど一度もないと!」
 ――バスターライフルの引き金を引いた。
 ゼログラビトンの光弾が飛び、シンディの体で弾ける。一発ではなく、二発。エニーケを守るような位置取りをしつつ、空鳴・無月もまたバスターライフルを発射したのだ。
 続いて、鈴が宙を舞って蹴りを放ち、眞白が地を駆けて拳を叩き込んだ。スターゲイザーと地裂撃。それらで回避力が低下したところにスノーが稲妻突きでパラライズの洗礼を浴びせ、陣内が『雪豹ノ吐息』で氷結させた。
 しかし、容赦のない連続攻撃を受けてもなお、シンディは笑顔を消さなかった。憎悪に染まったエニーケの視線を優しく受け止め、愛に満ちた視線を返している。『愛』の定義は常人のそれとは違うようだが。
「エニーケさんしか眼中にないみたいね」
 シンディの狂気に怯えると同時に呆れつつ、蓮華がエニーケにウィッチオペレーションを施した。その頭上ではウイングキャットのねこさんが翼をはためかせ、エニーケたちに異常耐性を付与している。
「でも、エニーケは倒させないよ」
 そう言って、陽葉が妖精弓を構えた。
「いや、エニーケだけじゃない。皆、倒させやしない。倒れるのは――」
『金烏の弓』という名のその業物でクイックドロウを放つ。回復役として戦闘に臨んだ陽葉ではあるが、この段階では治癒はまだ必要ないと判断したのだ。
「――おまえだけで十分だ!」
「お願い、先生!」
 陽葉と蓮華の声が重なり、シンディの肩に矢が突き刺さった。間髪を容れず、ウイングキャットのぽかちゃん先生が飛びかかり、追い打ちをかける。
 それでもシンディは笑顔を維持したまま、エニーケに肉薄しようしたが――、
「おまえの相手は俺だ!」
 ――ヴィが行く手を阻み、鉄塊剣を叩き込んだ。
 シンディは衝撃でのけぞったが、倒れ伏すことはなく、逆回転の映像を思わせる不気味な動きで元の体勢に戻った。
「親子水入らずとはいかないみたいねえ。残念だわ」
 彼女のガトリングが火を噴いた。視線はエニーケに向けられているが、攻撃の対象はヴィを含む前衛陣だ。先程のヴィの一撃――デストロイブレイドによって、怒りを植え付けられたのである。もっとも、怒りによって生じた変化は攻撃の対象だけ。表情は笑顔のままだ。
 前衛陣が多いために減衰しているとはいえ、ガトリングによるダメージは大きかった。それをヒールすべく、陽葉が『ブラッドスター』を歌い始める。
 その歌声に爆発音の伴奏が加わった。蓮華のブレイブマイン。
「援護感謝!」
 陽葉と蓮華に礼を述べながら、眞白がシンディに突進し、旋刃脚を抉り込んだ。
 彼女の脚が引き抜かれると同時にシンディの胸部で小さな爆発が起こる。うずまきがサイコフォースを使ったのだ。
「あらあら」
 傷だらけになった自分の体をシンディは見下ろしたが、すぐにまた愛娘へと視線を戻した。
「つきあう相手は選ぶべきね、エニーケちゃん。貴方のお友達って、乱暴な子ばかりじゃないの」
「その笑顔、やめてよ……」
 と、『乱暴な子』の一人であるうずまきがぼそりと吐き捨てた。
 後に続く言葉は声に出さなかったが。
(「なんだか自分の笑顔を見てるようで嫌だから……」)
 普段から人懐っこく振舞っているうずまきではあったが、本当は他者に心を開くのが苦手だった。だから、重ねずにいられないのだ。シンディの偽りの笑顔と自分のそれを。
「ほらほら、まきちゃん! ボーッとしてちゃダメですよ!」
 うずまきの後方から鈴が駆け抜けていった。翼を広げ、自身を大きな光の矢に変えて。奥義『天星狼牙(テンセイロウガ)』だ。
 光の矢がシンディにぶつかった。
 更に別の光が命中した。スノーのペトリフィケイション。
 そして、光に続いて、炎が襲う。ボクスドラゴンのリュガが蒼炎のボクスブレスを吐き、オルトロスのイヌマルがパイロキネシスで燃え上がらせたのだ。
「イヌマルばっかりに任せてないで、ヴァオ様もしっかり働きなさい!」
 スノーが後方を振り返り、イヌマルの主人のヴァオを見やった。
「でないと、『今日もヴァオさんはかっこよかったわ。またお店に来てくださいね(はぁと)』という手紙を送りつけますわよ」
「はぁ? そんなウソっぱちの手紙を貰っても、べつに困りゃしねえよ」
 訝しげな顔をするヴァオに対して、スノーは悪魔めいた天使の微笑を返した。
「判っておられませんわね。送り先はヴァオさんじゃなくて、別れた奥様のところです」
「や、や、やめてぇー! 本気でやめてぇー! それ、洒落にならないから! なーらーなーいーかーらー!」
 半ば恐慌状態に陥って、『紅瞳覚醒』の演奏を始めるヴァオ。
 そのハードな演奏で防御力を高められながら(それでいてヴァオのギャグ空間に呑み込まれることなく)エニーケがシンディの足元にニートヴォルケイノを噴出させた。
「いいかげん、子離れしなさい」
 と、冷たい言葉を熱い溶岩に添える。
 だが、シンディは意に介さない。
「ママが子離れできないのはエニーケちゃんが心配だからよ」
「心配?」
「ええ。今だってほら、ぬるーい攻撃ばかりしてるじゃない。エニーケちゃんの力はそんなものじゃないでしょ?」
 重傷を負っているとはいえ、エニーケが見舞ったグラビティは決して『ぬるーい攻撃』と呼べるものではない。しかし、シンディには物足りないらしい。
「エニーケちゃんの本気を見せてちょうだい。やればできる子だということを証明してちょうだい。そしたら、ママが褒めてあげる。いっぱい褒めてあげる。エニーケちゃんもママに褒めてほしいんでしょ? 褒められたくて、ここに来たんでしょ?」
 溶岩で足の外皮が焼け爛れていくことも気にせず、シンディはエニーケに向かって歩き始めた。
 その前にまたもヴィが立ち塞がる。先程とは違い、シンディと対峙する顔は無表情だ。心を初期化してダモクレスに戻ったかのように。
 表情なきレプリカントと笑顔のダモクレス。数瞬の睨み合いの後、後者がよろめいた。前者のグラビティ『虚空の睛(コクウノメ)』によって生成された極小ブラックホールにエネルギーを吸収されて。
 そのブラックホールが消えると、ヴィの顔に人間らしい表情が戻った。

●憎しみよりもなお深い
 シンディの武器はどれも威力が高かったが、ケルベロス側は誰一人として倒れなかった。デストロイブレイドで狙いを分散させたことと回復役たちが次手以降は治癒に専念したことが功を奏したのだ。
 しかも、戦いが長引くにつれて状態異常が蓄積し、シンディの攻撃力は減じていった。
「攻撃特化型もこうなってはただの木偶ですわね」
 ジャマーに陣取ったスノーがゼログラビトンを発射し、シンディに新たな状態異常を付与した。
「回避力も低下していますから、面白いように当たりますね」
 鈴が翼型の二張りの妖精弓を束ね、武神の矢を放った。もっとも、『面白い』という言葉に反して、表情は少しばかり強張っている。鈴だけでなく、他の者たちも。
 この期に及んでもまだシンディが笑っているからだ。
 彼女はずっとエニーケを見ていた。デストロイブレイドによる作用で意思に反してヴィを攻撃する時でさえ。
 その目から光線が飛び、盾役が庇う間もなく、エニーケに命中した。
「痛いでしょ、エニーケちゃん? ねえ、痛いでしょ?」
 微笑を崩さずにシンディは語りかける。
「痛みに耐える必要はないのよ。泣いてもいいの。叫んでもいいの。感情を爆発させなさい。そして、全力でママにぶつかってきて。エニーケちゃんの愛を見せて」
 暴走を促しているのだ。
『母』に言われるまでもなく、エニーケは暴走も覚悟に入れて戦いに臨んでいた。だが、仲間たちがこまめにヒールしていることもあり、暴走に至る精神的なトリガーは引かれていない。
 この時もまた――、
(「暴走なんかさせない」)
 ――と、心中で誓いながら、ウォーレン・ホリィウッドがサキュバスミストをエニーケに吹きかけた。
 更にマグル・コンフィがエレキブーストで攻撃力を上昇させる。
「少しでも力添えができれば……」
「力添えですって? よく言うわ」
 マグルの呟きを聞くと、シンディはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「貴方たちがやっているのは力添えじゃなくて、ただのお節介じゃないの。エニーケちゃんも本当は迷惑がってるのよ。そうでしょ、エニーケちゃん?」
「そんなわけない!」
 と、エニーケより先にうずまきが答え、エアシューズで達人の一撃を決めた。
「なに言ってるのよ。貴方たちなんかにエニーケちゃんの気持ちが判るわけないでしょ。他人なんだから」
「他人じゃなくて――」
 ヴィが二本の鉄塊剣を振るい、シンディの胸部をタルタロスクラッシュで十字に裂いた。
「――友人だよ」
 陽葉が後を引き取り、『金烏の弓』でクイックドロウを仕掛けた。仮にエニーケが他人だったとしても、彼女の境遇を陽葉は他人事と見做すことはできないだろう。自身もまたデウスエクスのせいで家族を失っているのだから。
 そのような事情など知らぬ(知っていても反応は変わらないだろうが)シンディが初めて怒声を発した。笑顔のままで。
「友達面して家族の問題に口を挟まないでちょうだい!」
「歪んだ愉悦なんかのために『家族』という言葉を使うなー!」
 負けじと叫んだのは蓮華。身に纏っていた中華風の衣装を漆黒の獅子を思わせる戦闘服に変化させて(原理は不明である)腕部の刃でシンディを斬り裂く。『コスチュームプレイ・オメガ』というグラビティだ。
「そうだ、そうだ! 親の務めもまともに果たしていない奴が家族について偉そうに語るんじゃねえーっ!」
 ヴァオもまた叫びながら、バイレオンスギターをかき鳴らして『ヘリオライト』をぶつけた。いつになく真剣な顔をしている……が、その表情は五秒と持たなかった。
「うぉぉぉーっ! 今の言葉、自分自身にグサグサと突き刺さるぅ! 娘たちよ、不甲斐ないパパを許してぇぇぇ~ん!」
 ここにいない(別居中なので家にもいない)娘たちに詫びながら、半泣きの状態でギターの演奏を続けるヴァオ。
 そんな情けない彼に構うことなく、眞白がシンディに拳を叩きつけた。その拳を含む体の一部は異形と化している。魔人降臨を応用したグラビティ『鬼神降臨・拳魂一擲(キジンコウリン・ケンコンイッテキ)』によって。
「とどめだ、エニーケ!」
「……」
 眞白の叫びに応じて、エニーケは無言でアームドフォート『ヒルフェンファイア』の主砲を一斉発射した。
 たちまちのうちにシンディの姿が砲煙に包まれる。
「……ニーケちゃ……マと……緒に……」
 砲声に紛れて途切れ途切れに聞こえてくるシンディの声。
 だが、エニーケは耳を貸さずに撃ち続けた。

 やがて、砲弾は撃ち尽くされた。
 砲煙が消え去り、クレーターのような弾痕がいくつも穿たれた地面が現われる。
 そこに散らばっているのは、愛の意味も家族の意味も知ることなく死んだダモクレスの破片。
 彼女の本当の名前は最後まで判らなかった。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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