嘆き降り積んで憎しみに変ず

作者:質種剰

●買われた命
 真っ暗な部屋に狂気じみた哄笑が響く。
「喜びなさい、我が娘」
 横たわった女がうっすら目を開くや、銀の仮面と黒いマントを被った男のニタリと笑う顔が見えた。
「お前に、ドラゴン因子を植えつけてドラグナーの力を与えてやった」
 だが、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死ぬ運命にあろう——男、竜技師アウルは女が声もなく驚愕するのへも構わず、陶酔した様子で囁く。
「良いか我が娘よ。定めし死を逃れて完全なドラグナーとなるには、与えたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取れば良いのだ」
 女は怠そうな瞼を持ち上げ、暫くぼんやりと考えていたが。
「いいわ」
 昏い決意のこもった声で答えた。
「どのみち惨めに死ぬだけの人生よ。今さらこの世に未練もないけど……そう、人間を殺す、ね……やってやろうじゃないの」
 女はやおら立ち上がると、己が半生が如何に不如意だったかを呟きながら、部屋を出て行く。
「……あの人の浮気癖を嘆いているだけならまだ良かった……でも、仕方ないわよね。嘆いて嘆いて、もう嘆き疲れて、嘆きが憎しみに変わってしまったんだもの……」
 私を虚仮にしたあの人とあの女ども、絶対殺してやるんだから……。
 その殺意に満ちた後ろ姿を見送る竜技師アウルは、満足そうに口角を吊り上げた。

●無差別の復讐
「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が、事件を起こそうとしてるでありますよ」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が陰鬱な表情で説明を始める。
 この新たなドラグナーはまだ未完成とでも言うべき状態で、完全なドラグナーとなるのへ必要な大量のグラビティ・チェインを得ようと、尚且つ、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐と称して、人々を無差別に殺戮するつもりのようだ。
「……皆さん、どうか急ぎ現場に赴いて、未完成のドラグナーを撃破してくださいませ。お願いであります……!」
 そう悲愴な声で訴えるかけら。
「皆さんに倒して頂きたい未完成ドラグナーは1体のみであります。また、この個体は未完成な状態である為、ドラゴンに変身する能力は持っていません」
 未完成ドラグナーは、手にした簒奪者の鎌を用いて攻撃してくる。
「ギロチンフィニッシュとドレインスラッシュを交互に使ってきますが、他にも……何やら竜語魔法らしき物を繰り出してもきますので、お気をつけくださいね」
 その竜語魔法は敏捷性に長けた破壊力を有し、命中した相手のトラウマを呼び起こす。
「未完成ドラグナーが現れるのは岐阜県の街中であります。人の往来が多くてありますから、一般人の避難誘導も必要となるでありましょう。皆さんご自身のお力で一般人の方々を守って差し上げてくださいませ」
 そう補足するかけら。
「ドラグナーとなってしまった人を救うことはできませんが、理不尽で無差別な復讐を行わせない為にも、どうか事件を阻止してくださいませ。宜しくお願い致します」
 かけらはそう説明を締め括り、ケルベロス達へ頭を下げた。


参加者
夜陣・碧人(幼竜の守歌・e05022)
ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)
メイリーン・ウォン(見習い竜召喚士・e14711)
カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)
黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)
烏丸・コジマ(魔忍ヤタガラス・e33686)
アン・ボニー(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e35233)

■リプレイ


 岐阜県。
 ケルベロス達は街中へ急行、未完成ドラグナーの出現に備えた。
「ふ、ふふふ……皆殺しにしてやる、あの人を誑かす女も、悪い事を唆す男も全員!!」
 現れた未完成ドラグナーは無闇に簒奪者の鎌を振り回し、その血走った眼やうわ言の如き呪詛からすると、相当に精神の均衡を欠いている。
「死ねぇぇぇぇっ!!」
 鎌の刃に『虚』の力を纏わせ、立ち竦む一般人へ勢いよく斬りかかる未完成ドラグナー。
「誰かを犠牲になんてさせない」
 すぐに2人の間へ走り込んだカティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)が一般人を我が身で庇い、ドレインスラッシュの直撃を喰らった。
「皆を守るために、ボクの歌が少しでも役にたてれば……」
 灰色の瞳に映る強い決意は、鋭い痛みに体力を奪われようと決して揺らがない。
 感情を表に出すのが苦手で、歌う事のみを楽しみに生きてきたヴァルキュリアのカティア。
 大切な弟を人質に取られ、戦いを強いられていたが、定命化を果たした今、生きる目的を見失っているらしい。
「その世界は既に終わりが確定した世界だった……そこに住む人は皆、俯き沈んだ表情で立つ気力も無く佇んでいた」
 そんなカティアの魅力は、整った無表情からは想像つかない程に感情豊かな歌声。
「ただ一人、ただ一人だけ、その道化師は諦めなかった。例え明日世界が終わろうとも変わらず、その道化師は人々に笑顔を取り戻そうと懸命に過ごしていた」
 ショートドレス丈の着物の裾を風に遊ばせて、道化師の詩を唄う。
「……一人また一人と笑顔を取り戻し、明日世界が終わるとしてもその世界に住む人々は幸せだったであろう」
 カティアの美しくも心を打つ歌声が、前衛陣に不思議な力を与えた。
 傍ら、ウイングキャットのホワイトハートは、未完成ドラグナーへ飛びかかり顔を爪で引っ掻いている。
「おネーサンにどんな悲しいことがあったかわからないガ、それで他人に当たるのは、ましてや命を奪おうなんて絶対に間違っているアル!」
 次いで、未完成ドラグナーの注意を引く為に声をかけるのはメイリーン・ウォン(見習い竜召喚士・e14711)。
 香港生まれの人派ドラゴニアンで、ピンクの髪と青い瞳に鮮やかなチャイナドレスがよく似合う巫術士だ。
 ボクスドラゴンの時刻竜クロノを連れた年端も行かぬ少女だが、その顔つきは内面を表してかやけに大人びている。
 だが、やはり年相応な面もあるのか、実は泣き虫らしいメイリーン。
「ドラゴン勢力の侵攻を防ぎ竜十字島の戦力を少しでも削る。それだけが今のワタシに出来る償いアル……」
 メイリーンは、当人にしか解らぬ悲壮な覚悟を決めて、未完成ドラグナーへ肉薄。
 超硬化した手の爪を振り下ろし、超高速の動きでドラグナーの装甲を呪的防御ごと貫いた。
 時刻竜クロノも主の意思に忠実に封印箱へ入ると、器用に地面を滑って体当たりをぶちかました。
 続いて。
「詳しい事情なんて知らないけどアンタ馬鹿ね、くだらない男なんかに縛られてないほうが自由になっていたでしょうに」
 アン・ボニー(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e35233)が、敢えて冷めた語り口で未完成ドラグナーを挑発、ボクスドラゴンのシャドウと共に前へ進み出る。
「今さらこの世に未練もないなんて言っておきながら、その男には未練タラタラだったんじゃない?」
 空賊を自称するドラゴニアンだが、特に略奪等の悪事を働いたりする事は無く、ただ自由に毎日を過ごすアン。
 地球が平和になった暁には、自らの翼で世界中の空を飛び旅するのが夢だそうな。
 赤茶の髪と赤い瞳が内に滾る野心を思わせる、豊満な美女鎧装騎兵である。
「せめてアンタにも最後の自由をあげるわ」
 アンはドラゴニックハンマーを振りかぶり、未完成ドラグナー目掛けて力いっぱい殴りつける。
 超重の一撃が生命の『進化可能性』を容赦なく奪い取り、彼女の身体を凍結させた。
 それに合わせてボクスブレスを吐き、未完成ドラグナーの凍傷へ更なる追い打ちをかけるのはシャドウだ。
(「悲しい記憶は簡単には捨てられません。しかし彼女がその記憶と向き合い生き続けていたら、いつかは立ち直れたかもしれないのに……」)
 黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)も、ディフェンダー達の動きに沿って、自分も未完成ドラグナーを包囲する位置に立ちはだかる。
 若き歌舞伎役者の青年サキュバスで、漆黒の髪と紫の瞳が落ち着いた雰囲気を醸し出す美青年。
(「その希望を潰した竜技師アウルの行い、見過ごせません」)
 真面目かつ感受性豊かな朔太郎だけに、未完成ドラグナーにされた女性を救う手立ての無い事を歯痒く思っている為、その表情は固い。
「貴女はデウスエクスからいいように利用されて、使い捨てられようとしているのですよ……悔しくないのですか?」
 だが、未完成ドラグナーへ呼びかける声は戦場へ清冽に響いて。
「さあ、お手を拝借」
 両手を二度打ち鳴らし、舞台衣装と淡い輝きを纏う兎を生む様も、流石に役者そのもの。
 忍術で顕現された金の兎はドラグナー目掛けて跳ねながら駆け寄り、周りを躍り回った挙げ句、一発強烈な跳び蹴りを見舞った。
「あんたに何が解るのッ!?」
 未完成ドラグナーは激昂し、耳を覆いたくなる嘲罵を何度も喚き散らした。
「憐れなひとだ。人間のままでいさえすれば、いくらでも希望はあったというのに」
 まあ、同情しても仕方がないね。もはや、斬ってなんとかするしかないんだ。
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)もまた、朔太郎同様に一般人を守る為、未完成ドラグナーの挑発役を買って出ていた。
 話術に長けて人を楽しませる技にも優れた、ゆとり世代が生んだムードメーカーといえる燐だが、その実、真面目な一面も持っている。
(「……とはいえ、一途な恋のみちをゆくさっくんにとっては、きっと心中穏やかじゃないだろう。万が一にも、彼女の言葉に刃を鈍らせることがないよう、戦況を斬り拓いてやらなくちゃ」)
 なればこそ、親友の朔太郎の気持ちを思いやり、密かにやる気を出しもするのだ。
「さっくんの言うとおりだ。まあ、それで悔しくないってんなら、あんたも本当に終わりだね……結局、誰かの喰い物にされ、最期は僕らに斬られるだけの人生だったってことで」
 ともあれ、きっちり挑発するのも忘れない燐はすぐさま鬼門大通天を引き抜くや、猛然と未完成ドラグナーを斬りつける。
 風を巻いて打ち込んだ一閃によって、未完成ドラグナーは胸から血煙をあげて転倒する。
 一方。
「何度浮気されても、狂ってしまうまで愛してたんだね。次は、ドラゴンを狂愛してしまう種族になるとは、因果かね……」
 夜陣・碧人(幼竜の守歌・e05022)は、身体から殺気を放って一般人を自然と遠ざける形で避難誘導を助けつつ、自らは足止め役として未完成ドラグナーと対峙していた。
 伊達眼鏡がよく似合う、端整な顔立ちのシャドウエルフの青年。
 様々な妖精魔法を操る鹵獲術士で常に長袖を着用、性格はわりかし子どもっぽく、時に悪戯を仕掛ける事もある碧人。
 また、幼いボクスドラゴンのフレアを溺愛し、フレアの為なら何だってする親馬鹿だそうな。
「結局、嘆くだけで止めきれなかったんだもの。次は竜に捨てられるんだね。主人の竜の属性すら知らないでしょ?」
「主人ってそんなんじゃ!」
 鎌を振り回しながら未完成ドラグナーが抗弁する。
「ふうん、その程度の関係だったんだ。強く繋がってる私とフレアとは大違い。私もこの子も、相思相愛。羨ましいでしょ?」
 ギリッと歯噛みする未完成ドラグナーへ、挑発の手応えを感じる碧人。
 すかさず掌より『ドラゴンの幻影』を放って、焼き捨てんばかりの業火で彼女を覆い尽くした。
 フレアも碧人と息を合わせ、ボクスブレスを吐いて攻撃、ドラゴニックミラージュによる火傷の範囲を広げた。
 他方。
「ドラゴンの因子を移植されてドラグナーにされている人がいるなんて……その竜技師アウルというのは許せませんね」
 ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)は、その豊満な肢体を着物に包み、周囲に凛とした風を纏っている。
 時にサキュバスと間違われる程の妖艶な色気——大人しく泣き虫な性格とのギャップもあって、様々な衣装から最大限に引き出された色っぽさが、ガラムの揺るぎない長所だ。
「被害者となった女性を救う事はできませんが、なんとしてもその企みを阻止してみせます——ドラゴニアンとしても!」
 けれども、本人は日頃からサキュバス扱いされる事が複雑だったのだろう。ドラゴニアンを殊更強調して断言するガラム。
 彼女は、未完成ドラグナーを目にして脅える一般人へ丁寧に声をかけ、ボクスドラゴンのマンダーを殿につけて護衛させながら、避難を促していた。
「竜語魔法、わたし、気になります! ……じゃなかった、不義密通は重罪でござる!」
 さて、余裕のある軽いノリと口調で、戦場と化した道路の張り詰めた空気をふっと和ませるのは、烏丸・コジマ(魔忍ヤタガラス・e33686)。
「とはいえ今は現代、さらには無差別殺人ともなれば、お天道様だって許せない上にボクらも見逃せないってね」
 ゲルマン魔術とジャポニカ忍法を組み合わせたマッポウの使い手と自称する、自由奔放な気性の少女である。
 『神様』に育てられ『神様』に造られた番犬であると嘯くも、趣味は自警活動と食べ歩き。
 最近の悩みは美味しい店が多すぎる事——平和な日常も充分に満喫している鹵獲術士だ。
 コジマは、身軽に戦場を駆け回って一般人の避難誘導に奔走している。
 草臥・衣(神棚・en0234)と御衣櫃も、それを手伝った。


 周囲に一般人へ誘導組が避難を促し、無事に遠ざけたところで足止め組と合流、戦闘に加わった。
「不愉快不愉快不愉快不愉快皆許さない!」
 怒り狂う未完成ドラグナーが放つは竜語魔法。
「おっとボクの首と胴体が離婚しちゃうところだったよ!」
 コジマは反撃とばかりに古代語を詠唱、魔法の光線で石化を狙う。
 ガラムにとってこの日は、恋人と行った備前にて刀匠に打って貰ったNINJA刀のお披露目でもある。
「ギュっと握るとなんかエ……げふんげふん、なんでもありません」
 思わず柄を握る手に力の入った彼女の頬は桃色に染まっていた。
 ビュッビュッと空を切って緩やかな弧を描く白刃は、的確に未完成ドラグナーの両足の腱を斬り裂く。
 マンダーも体を丸めて封印箱に収まり、ボクスタックルを繰り出した。
「キミが何を思ってそんな身体になったのかは興味ない。でもそれで誰かを傷つけると言うならボクはそれを許さない」
 強い意志の篭った瞳で未完成ドラグナーを見据え、きっぱりと断じるのはカティア。
「ボクは戦う力は弱いけれど、そんなボクでも誰かを守る事はきっと出来る」
 そう言い終わると同時に、彼女の全身を覆うブレイブスター・メタリックガイアが『鋼の鬼』へと変化。
 カティアは可変式金属武装に覆われし拳をドラグナーの腹へぶち込んで、その厚い装甲を砕いた。
 ホワイトハートも尻尾の輪を飛ばし、鎌の刃に損傷を与えていた。
「無限の時を経て、今こそ来たれ! 時空の龍よ我が意のままに時を歪めよ!! 『タイムリバース』」
 メイリーンは時刻竜クロノの活性化した『時空』属性の力を一時的に開放すると、己が成長した姿を以て時空魔術を発動。
 時間を歪めて未完成ドラグナーの負傷した時へ近づけ、ダメージをすぐそこの過去から掬い上げた。
「ねーねー、キミの男ってどんなヤツだったんだい? やっぱりアッチが凄いとか!? そーだよねー、アッチが達者でなきゃ外に女は作れないよねー?」
 と、やたら軽口叩いて根掘り葉掘り訊くのはコジマ。どうやら戦闘中の癖らしい。
「でもキミなかなか胸デカいよねー。充分男を満足させられそうなのに、テクの問題かなー?」
 コジマは螺旋を籠めた掌で未完成ドラグナーの胸へ軽く触れるや、彼女の身体を内部から破壊、威圧感を与えた。
 普段使いの仕込み傘と違って二刀流のナイフを逆手持ちに扱うのは朔太郎。
「……さあ燐さん、『大通天』を……貴方の力を、振るって下さい!」
 狙い澄ました挙動で舞うように闘い、未完成ドラグナーの胴体を切り刻みながら、燐へ声を投げた。
「さっくん、ナイスアシスト。――ここなら、叩き込める!」
 燐は親友に応えてドラグナーの頭を踏み蹴り、空中へ高々と跳躍。
「来世では、僕の親友のような真っ直ぐな人と、巡り逢いな。――おやすみよ」
 すかさず鬼門大通天の霊力の一部を解放し、天へも通ずるかの如き巨大な鬼火の刃を形成。
 真下へ向かって思い切り振り下ろし、未完成ドラグナーの肩をばさりと切り裂いた。
「華麗忍法後ろからガラムマサラさんが現れたの術です!」
 師団の仲間と密かに呼吸を合わせて、世界中のカレー力を右脚に集約するのはガラム。
 炎と共にとてもお腹の減る香りを立ち昇らせて燃え盛る蹴撃を加え、未完成ドラグナーの体力を削った。
「貴女の竜語魔法には愛を感じない。繋がりを感じない。魔法使いの魔法、世界と繋がる力、フレアとの絆、見るが良い!」
 碧人は毅然と言い放って、フレアの陽属性を一時的に開放する。
 眩いばかりの竜の力を光弾に変えて上空から叩きつける事で、未完成ドラグナーへ苦痛と恐怖感を与え、その動きをも鈍らせた。
「アンタに同情はしなくもないけどね、浮気するような男なんかとはさっさと別れて自由になるべきだったのよ」
 アンは変わらず冷めた声音で未完成ドラグナーへ語りかける。
 シャドウが機敏に飛び跳ねて体当たりをかました。
「自由……ですって」
「さぁ、今すぐ解放してあげるわ、せめてドラグナーになりきる前に……人間としての死という自由をアンタに」
 動揺する未完成ドラグナー目掛けて、アンが炸裂させたのは重い飛び蹴り。
 光の尾を引いた一撃は未完成ドラグナーの頭蓋を容赦なく打ち砕いて、機動のみならず遂にその命までも奪った。
「……」
 遺体を前にコジマが黙して目を伏せる。
 果たして未完成ドラグナーの竜語魔法を鹵獲できたか否は、コジマや碧人自身にしか判らない。
 ただ一つ判るのは、未完成ドラグナーの遺体も他のデウスエクス同様、自ずと無に還る場合があるという事。
「竜技師アウル、必ず止めて見せます!」
 ガラムは消えゆく遺体を眺め、アウルの打倒を誓う。
「帰ろう……彼女が、待ってるんだろ?」
 ドラグナーの冥福を祈る親友へ、手を差し伸べるのは燐。
「ここで挫けていては、彼女にも怒られてしまいますからね……有難うございます」
 手を取り立ち上がる朔太郎は、普段の調子に戻っていた。
「竜技師アウルには落とし前付けて貰わないとね。この子の想いの分も上乗せして倍返しにしてあげるわ」
 アンも地面を見つめて呟いた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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