イービルファング・ディスチャージ

作者:鹿崎シーカー

「ヒィーッハハハハハァッ!」
 野蛮な哄笑とともに、軽自動車が飛んでいく。空き缶めいて放られた車は、転がった別の車に激突し爆発炎上。割れた窓や車の下から飛び出た人のパーツを見ながら、老婆は自分の背中を踏みつける甲冑の巨躯を見上げた。
「た、助け……お願いします、お助けをぉ……」
「ヒッヒッヒ……どうすっかなァー!」
 逆立った黒髪の男は笑い、わざとらしく悩むフリ。近くの炎に照らされた毛皮のマントがざわざわと波打つ。
「ウーンウーン! オレじゃあ決められねーなァ! どーしよっかなァ! ……そうだ、ブラザーに決めてもらおう! なぁブラザー、どうしたい?」
 楽しげに笑う男の肩に、黒い狼めいた頭が浮かんだ。人間一人を丸飲みにできそうなほど大きな口からよだれを垂らし、血のように赤くたぎる瞳を光らせる。だがその頭に胴は無い。男の腕に巻き付いた鎖が、体に代わって首の断面につながっているのだ。
 荒い息を吐く相棒をニヤニヤと見ながら、男は無慈悲に言い放った。
「ダメだってよ! アディオス!」
「やめっ……」
 振るわれた腕が制止をさえぎる。ムチめいて振り切られた狼の頭は老婆の首を食い千切り、音を立てて噛み砕いた。血と骨の欠片を散らす獣を他所に、男は周囲を見回した。そこかしこで炎と死体をぶちまける、無残なスクランブル交差点を。
「さぁーて、まだ生きてるヤツぁいねーかなっと。ヒッヒッヒ……久々のメシだぁ、もうちょい贅沢しようぜ? なァブラザー?」
 老婆を飲み下した獣の頭は、地面に落ちた血を舐め獰猛にのどを鳴らした。
「エインヘリアル?」
「うん。それもけっこータチ悪そうなヤツ」
 首を傾げるミッシェル・シュバルツと茶をすすりつつ、跳鹿・穫は資料をめくった。
 様々な種族が活発な今、エインヘリアル側にも動きがあった。というのも、彼らはかつてアスガルドで猛威を振るい、永久コギトエルゴスム化の刑罰に処されていた重犯罪人エインヘリアルに地球での虐殺を命じたのだ。
 重罪人のため殺された所で問題なし。殺されなければ人々の恐怖と憎悪でエインヘリアルの定命化を遅らせてくれる。厄介払いと延命を兼ねた、非道な侵略作戦というわけだ。
 だが既に被害は出てしまっており、人々の虐殺をこのまま放置するわけには行かない。皆には今すぐ現場に急行し、これ以上の犠牲を食い止めてほしいのだ。
 そして今回解放されたのは、『シェパード』と名乗る男性のエインヘリアルだ。瞬発力と筋力にものを言わせた肉弾戦を得意とし、ブラザーと呼ぶ狼の頭部のような武器を操る。これらの力を思うさま振るったシェパードにより、現場は大量に散乱したバスや軽自動車がそこかしこで火を噴くなど壊滅的な被害が出ている。反面、避難できる市民は全員逃げており、シェパード自身も弱い市民より強い敵を無惨に殺すことを好むので、一度ケルベロスの存在に気づけばこちらを最優先で襲ってくる。また、彼はあくまで使い捨ての戦力であるため、不利になっても増援や撤退はない。
 最後に、現場にいる市民についてだが……予知の結果、生存者はいないようだ。ただ、シェパードは一応生き残り探しに夢中になっているようなので、不意打ちは容易に行えるだろう。
「こいつのためにこれ以上の被害は出せないよ。遊び半分感覚で殺しまくった罪、必ず償わせてやって」
「……ん!」


参加者
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702)
天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)
屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)

■リプレイ

 蹴とばした車が何かを落とした。回転バウンドして離れていく車をよそに、落ちた物をのぞき込んだシェパードは、つまらなそうに相好を崩した。
「チッ……ンだよまた死体かよ。何回目だってんだよ。はぁーあ」
 転がった死体を踏み潰してその場に屈む。腕の鎖を揺らしながら、浮遊する獣に目を向けた。頭だけの相棒は、潰した死体を見つめてよだれを垂らす。
「お前の鼻が良けりゃあなァー。もっと探すの楽なんだがなァー……」
 無いのどを鳴らし、獣が鎧に頬ずりをする。相棒のあごをなでてやりつつ、シェパードはげんなりとつぶやいた。
「腹減ったか? ……オレもだよブラザー。イキのいいヤツぶっ殺してえよォー……」
 深い溜め息を戦場に溶かし、血に飢えた男が立ち上がる。その瞬間、甘えるのを止めた獣の頭が百八十度振り向いた!
「あ? どうしたよブラザッ……!」
 サッと反転したシェパードの前を一条の光が貫く! 獣のルビーめいた赤い瞳がにらむ先、廃車に登った天月・光太郎(満ちぬ紅月・e04889)は赤マフラーの下で口をつり上げた。
「よう、犬のおっさん。エサ探しは順調か?」
 うなり声で威嚇する獣の隣、硬直したシェパードがゆっくりと顔を上げる。各所で立つ火に照らされた面立ちには喜悦が張りつく。悪魔めいた、凶悪な笑みが!
「見ィィィつけたァッ! イキのいいヤツがァァァァッ!」
 アスファルトを蹴りシェパードが爆走! 黒い軌跡を引く襲撃者に光太郎はライフル放ってボールを投げる。シェパードは即座に邪悪なオーラの拳で迎撃。殴り割られたボールは煙を吐き出した!
「ぶわッはァ!? 辛ェェッ!」
 煙から響く悲鳴に背を向け、水切り石めいて廃車や瓦礫を跳ぶ光太郎。肩越しに煙幕を振り返り、挑発的に呼びかける!
「おいおい、天下のエインヘリアル様が、たかだかケルベロス一人も落とせねえのか!? 情けねえなぁ! ほれほれ! 鬼さんこちらだ!」
 光太郎がジャンプすると同時、足場だった車が潰れた。車体に食らいついた黒獣の目と視線がかち合う。煙を貫きシェパードは加速しながら疾駆し跳躍! 光太郎に手を伸ばしす。オーラを燃やした黒い籠手がマフラーを握り乱暴に引いた!
「逃げんなよォーッ! オレと楽しく遊ぼうぜェェェッ!」
「ハッ……」
 光太郎の右手、ガントレットについたヒマワリ種の飾りがせり出す。即席のスパイク付き拳で、左手のボールを殴り割った!
「お断りだッ!」
 空中で煙幕が破裂! 光混じりの煙を気にせずシェパードは神速のジャブを繰り出した。拳に伝わる手応えと苦悶の声。邪悪な笑みを浮かべ、苦痛に堪える声を聞く耳は、煙の外で張る声をキャッチした。
「今だ! 全員、突撃ィーッ!」
「ア!?」
 辛い煙を吹き飛ばし、虹の炎が噴きあがる! 獣の咆哮に振り返った黒瞳は、背後から奇襲を仕掛ける二者を捉えた。鳥の翼めいた柄の刀を構える風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)と解ける風に足を押された北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702)! 光太郎を捨てひねろうとする甲冑の肩を、恵の刺突が射抜く。鎧の隙間から零れる鮮血! 腕を押し返された無防備な背中に、銀河は虹と白銀の剣を交叉した。
「おッ……おぉぉぉお!?」
「痛いか。だが痛いで済むと思わないことだッ!」
 虹色の光が縦一閃、続けざまに横一文字の銀閃が走る! 突き抜けた二の太刀が大地を揺るがす。反撃の裏拳が打ち砕いたのは、割り込んだ丹羽・秀久(水が如し・e04266)のタワーシールド型ドローン。着地したシェパードめがけ、瓦礫を飛び越えたシュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)と葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)の飛び蹴りが襲いかかる!
「逃がしませんよ。篁流格闘術!」
「ヘハッ!」
 鎖を打ち振り引き寄せる。弧を描いて飛ぶ獣の横面を、八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)は尾で弾いて妨害。噛みかかる大あごを押さえて叫ぶ!
「行け兄弟! 一発入れてやれッ!」
「今が好機……はっ!」
 急加速した風流の靴裏が、跳びかけた鎧のももに突き刺さった! わずかに体勢を崩した脇腹に、シュテルンのロケットめいた一撃!
「『吹雪』ッ!」
「ぐぉッ……ヘヘヘヘヘ」
 鎧の軋む音を聞きながらシェパードはにやりと笑う。その両腕が一瞬かすみ、両肘が二人を真後ろに吹き飛ばした。めくれたアスファルトを破壊して飛ぶ二人と入れ替わるように屍・桜花(デウスエクス斬り・e29087)は間合いに踏み入る。はやるようにうずく手で刀を握り、刃を引き抜く!
「ふふ……あははははははははっ!」
「ヘハハハハハハハ!」
 シェパードは邪悪なオーラをまとった鎖を操り斬撃をガード! 念願の玩具を手にした子供めいて笑う二人の背後に回った恵に獣が噛みかかる。高速タックルでインターラプトする秀久! シェパードは斬り下ろしを鎖で防御し、桜花を前蹴りして振り向いた。掲げた腕に刃が食い込む!
「ヘッヘヘヘヘヘ……ンだよいるじゃねえか、イキのいいヤツ! ッハァ!」
 剣を振り払ってアイアンクロー! 顔面をつかまれながらも恵はへこんだ太ももに刺突を突き出す! 刺し傷は無視してシェパードが回転、背に斬りかかる銀河に恵を投げつけんとする。燃える翼に桜花を包んだ要は手の赤い宝石を突き出し炎を流した。虹色の爆風が切れ目のついた腕に命中、押し流す!
「外道が……貴様のような輩は反吐が出るッ!」
「ヘハハハハハ! イイ子ちゃんぶりやがってよォーッ!」
 恵を投げ出し高速フック! 虹色の刃を弾かれた銀河はもう一刀で脇腹を狙う! シェパードは二の太刀をステップ回避し銀河の腕を拳で払った。空いた腹にめり込むブロー!
「がッ……!」
「ヘハァーッ!」
 振り下ろされた拳の前に盾を背負った秀久が飛び込む! くぼむ黒鉄の裏、背中の衝撃に耐えて銀河を突き飛ばす。盾ごと蹴り飛ばすシェパードに、ヨタローにまたがったシュテルンが瓦礫の道を無理矢理踏破し突撃! 青錆色の装甲に宿る黄金の輝き!
「篁流格闘術!」
「フヘッ! そうだよもっと来いよォ!」
「じゃあ行くっ!」
 残り火の散る刀を持って桜花は滑らかに走った。笑ったシェパードは誰もいない方へ一足跳びに行きつき、車をシュテルンに投げた! 桜花には石つぶてを蹴って目潰しを図る! シュテルンは飛来する車にジャンプし殴り飛ばす!
「『雪狼』ッ!」
 ルーフが潰れ中央が粉々に砕け散る。開けた視界を、粘る唾液と真紅の口腔が埋め尽くした!
「廻ッ!」
 要に呼ばれた緑の翼竜がブレスを放射! 横顔に炎を当てられながらも獣はシュテルンの腕にかぶりつく。鎖を引っ張り獣ごと振り回すシェパード! ジャイアントスイングの軌道上には凶悦の桜花が刀を振るう。横薙ぎの頭に飛びついた光太郎は獣の目に瓦割りをたたき込んだ!
「せあァッ!」
 ルビーの目が潰れ黒い気が噴出! 絶叫する口から落ちるシュテルンに手をかざしオーラを溜める。
「交わり伝われ癒しの鼓動……ッ!」
 噛み跡のついた腕が脈動めいて発光して装甲修復。再三上がった虹の爆発を追い風にした銀河は二刀を束ね、鎖をすくい上げるように斬り裂いた! 断たれ明後日の方へ飛ぶ黒狼とすれ違う桜花と追い付いた恵! シェパードは哄笑しながら身構える!
「ヒヒハハハハハハハ! そうだァ! もっと来やがれぇぇぇッ! オレも行くぞォォォッ!」
 漆黒の巨躯がかき消えた! ワープめいて目の前に来た鎧を見据える恵の髪が突風に揺れる!
「穿ち、貫け……烈風穿ッ!」
「ヒィィィハァァァアアアッ!」
 竜巻まとう剣が拳とすれ違い胸を穿つ! 拳圧に食い破られた肩と頬。隣で懐に入った桜花は刀を振るい鎧を削る! シェパードの膝蹴りで仰け反るも止まらぬ! 鮮血と鎧の破片を散らしながら剣と拳が火花を飛ばした!
「あはっ! あははははははははは!」
「はぁぁぁぁぁッ!」
「ヒャハアアアアッ!」
 気勢と狂笑、金属音の合唱が鳴り響く! 秀久は両手を突き出し水弾めいたオーラを発射。ダブルフックで二者を突き放したシェパードは全身に黒オーラを燃やした。鎧奥から垂れる血が蒸発。興奮に血走った目で叫ぶ!
「ヘハハハハハ! 楽しいなァ! 楽しいだろ!? 綺麗ごと並べたってホントはよ、楽しいんだろ! オレと同じ臭いすっからわかんだ! お前らも散々殺してきたんだろ! 血の臭いがプンップンするぜェェェッ!」
「貴方と一緒にしないで下さい」
 ぴしゃりと言い放ち風流はコマのように回った。機械の駆動音と怨念宿る剣が火を噴いて首を襲う! 切れた鎖をムチめいて振るシェパード。彼の回転と逆方向にローラーダッシュしたシュテルンが回し蹴りをぶつける!
「『横雪』!」
「うお!?」
 勢い不十分! 斬撃回転で鎖を弾いた風流は削れた胸元を連続で斬る! 鎧を裂き、肉を引っかく! シェパードは歯をむきヘッドバット! 風流の頭を地面に頭を打ち込みシュテルンの足をつかんだ。身をひねって回転しこちらも地面に叩きつける! 砕ける地面!
「くはッ……!」
「シュテルン!」
 紅蓮の翼を広げて飛翔する要。追撃の鎖を背中で受け、熱風を巻き起こす! 三撃目の拳を振り下ろさんとす!
「今だリゲル! 遠慮はするなッ!」
 顔を上げたシェパードと銀河の目が合う! 剣を持つ腕に嵌めたブレスレット溶けて膨らみ、拳を作った!
「お前の拳を、ぶち込んでやれッ!」
 流星めいたパンチが鼻面を打つ! 連撃をブレイクされたシェパードに光太郎は煙玉をさらに投げる。爆発! 赤い光とともに舞い散る煙幕を一刀でさばいた桜花は胸の傷に突きを出す!
「斬って、斬る……血を見せて……!」
「ヘヘヘヘヘ! いいぜ、見せてやるよ……」
 大きくのけ反ったシェパードが腕をしならせ、思い切り屈んだ! 空に長方形の影が差す!
「お仲間のをなぁぁぁッ!」
「天月さん、危ないッ!」
 鎖に巻かれ宙を舞う廃バスに秀久は跳ぶ! 空中縦回転に乗った両足がひっくり返った車体側面に命中! 中でシェイクされる死体に眉をひそめた瞬間、首に鎖が毒蛇めいてからみついた! 宙のバスに乗りシェパードは鎖を引く!
「ヘハハハハハ! ご傷心かよォッ!」
「ぐぁっ、くっ!」
 一本釣りのごとく引き上げ、エインヘリアルは凶悪な相貌で挑戦的に嘲笑う。
「そんな大事か? 放っときゃいいだろこんな連中! オレを殺さなくていいのか!?」
「いいわけがありません」
 片腕にオーラがくすぶらせたシェパードに、ヨタローにまたがった恵が応える。いななく一輪バイクを走らせ、裏返った車をジャンプ台に飛んだ! 落ちるバス真上で刀を手に急降下。翼の装飾が風邪にはためく!
「ここで人々を殺した報い……その身で受けてもらいます!」
「やァってみろよォ! ウラァッ!」
 天に伸びる鎖が踊り、打ち据える! 流れるオーラにヤスリがけめいて削られながらも落下、シェパードの鎖骨に剣が食い込んだ。そして、バスが……着地する!
「その汚い足を、どけろッ!」
「どわっ!」
 銀河の二刀突きが胸板に刺さった。返しのアッパーカットを二人は剣を抜いてギリギリ回避。そこへ翡翠の翼を広げた風流が裂けた胸当てにチェーンソーをねじり込む! ミキサーのようなくぐもった音、ぶちまけられる血と肉片!
「ぐおァァアアアッ! 痛ぇぇぇぇぇッ!」
「そうですか。ですが真剣勝負なので悪しからず」
 言うやいなや風流はダイブして股下を抜ける。遅れて着地した秀久が受け身を取って刀身を指で挟み、鎖を斬って走った! 流水めいた太刀筋が甲冑を滑る! 返しのエルボードロップをインターラプトした要が受け止めた。腕を回しホールドする!
「今だ! 俺が腕押さえてるうちにッ!」
 尻尾で片足を巻き取り地獄の翼で大きく羽ばたく! 風に髪をなびかせて突っ込むのは焦れた表情の桜花!
「みんなばっかり、斬ってずるい……私も、斬りたい……!」
 加速! 鎧に目まぐるしく刻まれていく刀傷、桜吹雪めいて散る血の玉! シェパードは要の顔面をわしづかみ斬撃の嵐の盾に。間一髪で入ったタワーシールドがフレンドリーファイアを防ぎ、光太郎とシュテルンが回り込む! 要を蹴って押しのけ鎖を振り回すシェパード!
「へへ、ヘハハハハハ!」
「ヨタローッ!」
 突進するライドキャリバーを鎖で捕まえ投げ飛ばし、光太郎の頬を打つ! 高速で描かれる漆黒の軌跡が視界を徐々に塗りつぶしていく。タワーシールド、小さなワイバーンをもなぎ払い、全方位に墨汁めいたオーラの結界が作られた!
「ヘヘヘヘハハハハハハ! なんだかんだ言ってもよォ! やっぱりイイだろこういうの! 向かってくるヤツを全力でぶちのめすのァ楽しいンだ! 最高だぜ! なあおいッ!」
「別に……」
 四度目の虹色爆発! 結界に空いた穴に転がり込んだ秀久は鎖を肩で受け、隙間に刀を突き下ろす。刀はくさびとなって鎖を地面にぬいつけた! 振りかぶった光太郎のガントレットが作動!
「楽しくねえよッ!」
 撃ち出した右ストレート! トゲのついた拳が赤い線の走る顔を殴り、えぐりとる! 次いで肉迫する恵と風流、三刀にはそれぞれつむじ風と翡翠の炎!
「おい! いつまで大人しいフリしてんだ!? もっと全力出せよ……ブルァァァズァァァァアアアアッ!」
 廃車を跳ね飛び咆哮が響いた。隻眼の黒獣は怒号を放って襲いかかる! 瓦礫も障害物も噛み潰して吹き飛ばす捕食者の前に、要が立ちふさがった!
「邪魔はさせない! お手だ、ワン公ッ!」
「ヒハァーッ!」
 二人三刀に対するシェパードは後転しブレイクダンスめいた回転蹴り! 胸板や額をはがされながらも二人は回る足の下に潜った。二刀流で支えの手を斬り刺突が背中を捉える! すぐさまバック転で離れるシェパードにシュテルンが追随! 伸ばした指で傷だらけのガントレットを傷つけ返り血を浴びて突撃する! 装甲に付いた赤い飛沫を黄金の中に吸い込み両手を握った。高速で放たれる零距離ラッシュ!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「ぐおおおおおおおッ!」
 バックステップするシェパードに密着しひたすらに連打! ひび割れ行く星霊の甲冑が破片をこぼし、崩れていく。大きく踏み込み、最後の一発!
「オラァァァッ!」
 満身創痍の鎧が爆砕! 古傷に走る幾重もの血の筋、新たな傷跡を昏い眼差しを向ける桜花は、シュテルンを追い越して懐に飛び込んだ。血濡れの刃がひるがえる!
「血が見える……斬れるとこ、見える! あはははははははは! あはははははははははははははっ!」
 狂笑とともに振るわれた刀が無防備な身を斬り刻む。血と肉片が桜吹雪のように流れる方では、首だけの狼が両目を潰され、喉奥から火を噴いてくずおれた。返り血で赤く染まった着物を乱し、最後の太刀で胸を突き刺す! そして腹までをかっさばいた!
「ハハ……ハハハハハハ!」
 あふれる血をこぼしながら、エインヘリアルはなおも笑う。ズタズタになったその顔を照らす光を銀河は強く握りしめた!
「貴様がこの場で弄んだ尊い命! ……もはや選択権はない。その罪、貴様の身で償えッ!」
 光を収束させたパンチが、無残になった胸に埋まった。傷の奥からほとばしる、まばゆい光。
「原初の星、起源の力! 正しき光となりて我が拳に宿り……弾けよ、開闢の閃光!」
 光芒が全身を貫いた。閃光は黒いオーラを押し流し、体内でなおも膨らむ。顔面を死の光にむしばまれながら、シェパードは変わらぬ狂相を見せ不敵に笑う。
「ヘヘヘヘヘ……やっぱお前ら、こっち側の方が似合うと思うぜ。アディオス、偽善野郎……」
 吐き捨てるようにつぶやき、シェパードは爆発四散した。


 数十分後。ガードレールに腰かけ、光太郎は人気のない交差点を眺めていた。
 ファンシーな外観になったスクランブル交差点。アスファルトは花畑になり、脇に寄せられた車はSF映画のガジェットめいた見た目になってはいるが、総じて問題なく復興はした。殺された被害者以外は。
 様変わりした都市の光景に、面々は無言を貫く。じっと沈黙を保つ仲間たちのもとに、桜花は小走りに駆け寄った。
「屍さん……いましたか?」
「いなかった……」
 問う秀久に、無表情でふるふると首を振る。
「でも……一緒に来てた人が、遺品とか集めるって……家族のところにもどれるように、って……」
 重苦しい静寂が降りる。要は耐えかねたように声を上げた。
「……あーもー! なーにシケた顔してんだよ!」
 後ろ手にたたいたガードレールがひん曲がり、驚いた廻が小さく跳ねる。
「仇はきっちり取ったわけだし、もうあいつが人殺しをするこたない。治せるものも全部治した。俺たちに出来る限りことはやったさ。だろ?」
 装甲を解いたシュテルンがうなづく。
「派手にタコ殴りにしてやりましたからね。少し殴り足りないですが」
「どちらかというと、滅多斬りにしてましたね。あんな人に仕える気はないのでいいんですけど」
 口元をほころばせつつ、風流。重い空気が少し和らぐ中、銀河はガードレールから腰を浮かせた。
「帰ろう。休んで、しっかり鍛えて……今度は誰も死なせないように、な」
 そうして、一同は静かな街を後にした。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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