本物偽物

作者:遠藤にんし


「『出る』って噂のお化け屋敷がーーこちらになりまーす」
 言って青年がカメラを回した先には、廃病院風のお化け屋敷がある。
「まあ今日は休業日なんでね、人はいません。お店の人に許可も取って、仕掛けとかも止めてもらってます。つまり何かいたらホンモノってことですねー」
 ハンディカメラでじっくりと外観を撮影してから、青年は中へと踏み入る。
「では、まずは一階から見ていきま……うおっ!」
 踏み出してすぐのところにちょっとした段差があり、うっかり踏み外した青年の手からハンディカメラが滑り落ちる。
 落下の衝撃で電源がオフになるカメラ……暗闇の中、声が響く。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味」に興味があります」
 意識を失う青年、姿を消すのは第五の魔女・アウゲイアス。
 闇の中に浮かぶのは、白い姿のドリームイーターだった。
 

「ありがちな噂ですね」
 しかし、それがドリームイーターの発見に繋がるとはーーナハト・オルクス(終夜礼讃少女と眠れ・e21881)の言葉に、高田・冴もうなずく。
「第五の魔女・アウゲイアスによってドリームイーターが生み出された。これを倒すことが、今回の目的だ」
 今回のドリームイーターは、あるお化け屋敷の中にいる。
「今日は休業日だから人はいないのが不幸中の幸いだね。動画の撮影に店主の許可も取っていたようだから、お化け屋敷に入るのに苦労はいらないようだ」
 人のような形のドリームイーターは、お化け屋敷のお化けがそうであるように人を襲う。
「休業日中の事件で助かったよ。被害が出る前に、撃破してほしい」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
八代・社(ヴァンガード・e00037)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
神山・太一(かたる狼少年・e18779)
シトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e25869)

■リプレイ


 お化け屋敷の中、ひと筋の光が差し込む。
「昼間でも怖いところですよね?」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)の言葉に、まあな、と八代・社(ヴァンガード・e00037)はうなずく。
 昼間でも恐ろしいお化け屋敷に、今は人に害為すドリームイーターが巣食っている……『興味』という想いを狂気に変えた恐ろしさに、泉は目を細める。
 ふむ、シトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e25869)はつぶやき、明かりがあってなお暗い雰囲気の周囲を見回す。
「出ると噂のお化け屋敷に実際にお化けが出てしまった形になりますね」
 お化けのドリームイーターは白い姿をしているというから薄暗い中では目立つはずだが、今のところ、それらしきものは見えない。
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は怯えることもなく、むしろ興味深そうに辺りを見回している。
「ま、お化け屋敷の中で、本物の化け物が出たんだから、ある意味、噂通りってか?」
 冬場のお化け屋敷もまた情緒がある――言いつつ、鬼人も目配りを忘れはしない。
 神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)は退魔のプロとしての自負を胸に、いつでも戦えるよう気持ちを整えている。
「霊に見せかけたデウスエクスも居るかもしれないし、あんまり一般人が近づくべきじゃあないと思うんすけどね」
 お化け屋敷はともかく、いわゆる心霊スポットには近付かないで欲しいっすねー、と言葉を続ける結里花。
「ユウレイノショウタイミタリカレオバナ……って、誰の言葉だっけ?」
 首をかしげる神山・太一(かたる狼少年・e18779)の隣を歩くのは、テレビウムのてっくん。
 お化け屋敷のおどろおどろしさに腰が引けているイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)を励ますように、太一はこう告げる。
「大丈夫です! 僕とてっくんがいれば、バンジニョイ! カンゼンムケツのコンビネーションで皆を支えますよ!」
 ……その直後、吊るされていた骨格標本に驚きの声を上げもする。そんな太一にイリスは微笑みながらも、ドリームイーターの被害に遭った青年のことを気にかけていた――アウゲイアスの魔手にかかった青年のことを。
 魔女たちによる被害は後を絶たない。だからこそ、一つ一つを食い止めなければ……精霊結晶たちの輝きを受け、イリスはそう思うのだった。
 ――不意に、社の歩みが止まる。
 光に照らされてはいても暗い室内に浮かび上がったのは、白く、人のような形をした何か。
 それが何であるか判然としない理由は、それがモザイクに覆われているから。
「――とっとと片付けてメシにするとしようぜ」
 簒奪者の鎌『GS01-Rampage Bayonets』を手に、社は肉薄する。


 刃が捉えたのは、ドリームイーターの首と思われる部位。
 そのまま勢いよく刎ねようとする――しかし蜃気楼のように揺れ、胴と頭を切り離すには至らなかった。
「てめえらの『興味』一つで人がポンポン死んじゃあな、こっちも商売上がったりなんだよ」
 言葉と共に社が後方に跳ぶと同時に前に出たのは鬼人。無名刀を手に一閃すると、薄布を裂くような実感が手には残った。
 斬撃の直後であっても背を向けないようにと体を反転させる鬼人の胸元にはランプ『Angel's Hymn』。
「よく見るとよ、作り物の化け物の方が怖くないか? こんなのに驚かされても、お子様が驚くだけだな」
 光に照らされた鬼人の眼差しは、油断なく敵を見つめている。
 泉の持ち込んだ明かりも含めて十分な視界を確保できる中だからこそ、結里花のドラゴニックハンマー『白蛇の咢』が砲撃形態を取るところもよく見えた。
「白蛇の息吹よ、敵を縛れ! 急々如律令!」
 大きく開いた咢に集う白き光。強すぎる輝きが放たれた刹那、一同の視界はホワイトアウトした。
 全てを覆う白を引き裂くのは、イリスの鋭い声。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参りますッ!」
 翼を広げるイリスの元には剣。それはイリスの手に握られることがないまま撃ち出され、空間を歪めてドリームイーターの元へ届けられる。
 腹部を貫く音は短く、体を揺らす様子からは負ったダメージを知ることができる。
 シトラスは髪を飾る青薔薇も美しく、ドリームイーターへと接近する。
「ふむ、せっかくの本物のお化けだと言うのに、ありがちな白いもやもやで驚きが足りませんね」
 いくら接近しようとも、ドリームイーターを覆う白モザイクが消えることはない――言葉と共に、シトラスは脚を振り上げ。
「お化け屋敷で生まれたのですから、少しは人を驚かせる能力を磨いてから現れなさいな」
 鋭く蹴りつける――吹き飛んだドリームイーターは、床をごろごろと転がる。
 倒れ伏したままのドリームイーターを前にして、泉はかかとで三度、床を叩く。
 戦いが無事に終わるように、この暗闇が晴れるようにというおまじない。千鳥の花舞う鞘から抜き取る刃『larkspur』は、風のようにドリームイーターを突く。
 キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)が槍で薙ぎ払えば、ミミック『千罠箱』も黄金を溢れさせて攻撃に加わる。
 太一は戦場近くにいる青年を担ぎ上げ、辺りをきょろきょろ見回す。
「どこなら、安全なのかな……?」
 戦場近くに、社員用の通用路と繋がるドアが隠れていることに気付き、太一はドアの向こうに青年の体を置き、ドアを閉める。
 ドリームイーターの妨害を受けずに済んだのは、てっくんが『にとんはんまー』でドリームイーターをめっためたにぶん殴っていたお陰。
 武器の用意を整え、戦場へと戻る太一――避難は完了している。
 闘気が、戦場には満ちていた。


「ナウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ」
 声は結里花のもの。
「雷神よ、大蛇となりて敵を薙ぎ払え」
 呼び声に応じて姿を見せたのは、雷の大蛇――くねる体は帯電し、バチバチと火花を上げている。
 結里花の命じるままに、雷蛇はドリームイーターへと接近する。
 鞭のようにその身がしなる――キーリアは黒き輝きで闇を照らして後に続いた。
 千罠箱も噛みついて、ドリームイーターの動きを阻む。
 噛みちぎられ、白いモザイクを散らすドリームイーター……モザイクの破片は踏んでも感触もない。
 それでも、床や壁に散ったそれらはほのかに光り、戦いの手助けを為していた。

 胡乱なる悪魔が呼ぶは深淵に至る病魔。
 みすぼらしい悪魔がドリームイーターの白い体を取り囲めば、たちまちドリームイーターの姿は黄ばみ、黒ずみ、力を奪われていく。
「ふふっ、この程度で動きが鈍るのですか? 貴方も大したことないですね?」
 嘲ってもシトラスの言葉も表情も穏やか。
 青年を避難させる手伝いを終えて舞い戻った太一も、支援のためにオーラを広げる。
「僕とてっくんにおまかせ、ください!」
 てっくんもハンマーを持つ腕を下ろし、代わりに画面をぴかぴか光らせて仲間たちを鼓舞している。
 ドリームイーターの体力もそう残ってはいないようだ……判断した社は、袖をまくる。
 そんな社の様子に泉がちらと背後を窺ったのは、後衛に位置する者たちを気遣ってのこと。
 斬霊刀を手にするイリスがこくりとうなずくのを見て取って、泉はドリームイーターへ呼びかける。
「制御できる自信はありませんが、ヒトツメ、行きますよ?」
「悪いがとっとと退場してもらうぜ、デウスエクス」
 泉と社、二人の声が――攻撃が重なる。
 速く、重く、そして正確な一撃は泉のもの。
「M.I.C、総展開! 終式開放ッ!!」
 魔術回路の総てを集めて打ち貫くのは、社の拳。
 二つの攻撃が炸裂し、二人はほぼ同時に左右に飛び退く――直後、イリスが弾丸のように飛び出た。
 イリスの青い双眸は暗い中でも美しく、不気味な敵の前でも臆することはない。
 翻る刃はしなやかで、掴みどころなく避けようとするドリームイーターを追い捉える。補足されたドリームイーターは引き裂かれる。
 大きく一歩、鬼人は踏み込んだ。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ!」
 刹那、剣が閃く。
 切り上げ・右薙ぎ・袈裟――ぶち抜き。
 連なる斬撃により脆弱性を増したのはドリームイーターの喉笛。
 貫かれ動かなくなるドリームイーター。鬼人は、刃を横に払う。
 力なく崩れ落ちた体は、やがてお化け屋敷の闇に吸い込まれるように消えた。


 戦いを終え、一同は戦場と被害者の青年を癒す。
「本当に霊とかいないっすかねー?」
 結里花はそんなことを言って辺りをうろうろしてみたが、あるのは作り物のからくりばかり。
 塩なども持ち込んでいたが、それらの出番はなさそうだ……とはいえ、『何もない』のだから喜ばしいことではあるだろう。
「なぁ、全力で怖さMAXに直さねぇか? 本物よりも偽者の方がよっぽど怖いって思わせとけば、変な噂も立たないんじゃないか?」
 素直に修復するのもつまらない、という鬼人の提案に、楽しそうだと太一は顔を輝かせる。
「皆、出番だよ!」
 太一の声にもふもふが集い、もふもふと癒し、破壊された部分はもふもふと直る。
 そこにてっくんが応援動画を浴びせかけると、ゾンビっぽい奇妙な獣のオブジェが通路の床に浮かび上がる。
「こ、怖いですね……」
 戦いの中では果敢だったイリスは再び縮こまり、仕掛けの飛び出る棚に幻想を含ませて癒す。
 キーリアもそこに加わって、お化け屋敷はたちまち修復される。
 ケルベロスが癒す限り、完全に元通り、というわけにはいかない。
 それでも、幻想交じりのお化け屋敷というのも新鮮で良いはずだ――生まれ変わったお化け屋敷を楽しんでもらえたら、とイリスは思う。
 泉はブルースハープでレクイエムを奏でる。
 敵とはいえ、生まれた命への手向け……社は音色に耳を傾け、「来世はもっとマシな存在に生まれてくるんだな」とつぶやく。
 戦いは終わり、お化け屋敷は客人を待って静けさを取り戻した。
「一件落着ですね」
 シトラスは言って、紳士然とした微笑を浮かべるのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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