ミッション破壊作戦~攻勢

作者:鉄風ライカ

 ミッション破壊作戦で使用したグラディウスが再使用可能になった、と、蛍川・誠司(虹蛍石のヘリオライダー・en0149)は明るく頬を弛める。
 ヘリオンに設置された机上には長さ七十センチメートル程度の小剣型兵器――『グラディウス』が八本、淡い光を放っている。
 名の通り形状こそ剣ではあるが通常の武器として使用するのではない。デウスエクスの『強襲型魔空回廊』をぶっ壊すことのできるミラクルな性能を備えている、まさにファンタスティックな兵器なのだ。
 強襲型魔空回廊を破壊できれば、デウスエクスによる地上侵攻は大きく滞る。誠司の説明も普段より若干テンション高めのようだ。
「ってことなんで、ドカンとやっちまえっす!」
 一度使用すると暫くの間グラビティチェインを吸収する必要があるグラディウスの性質上、その都度、攻撃するミッション地域の選定も肝心なのだろう。
 今回、誠司が担当を受け持つのはダモクレスのミッション地域。
「俺も張り切ってコイツ飛ばすからさー」
 どこを攻めるかは皆に任せるとヘリオライダーは告げ、ニッと笑ってヘリオンの内壁を二度ほどノックした。
 というのも、強襲型魔空回廊は概ねミッション地域の中核に位置するがゆえ。ヘリオンを利用した高空からの降下作戦を行うこととなる。
 回廊の周囲は半径三十メートル程度のドーム型バリアに囲われているものの、
「そのバリアにグラディウスが当たればオッケーだから、高ぇとこからでも効果は充分なんすよ」
 つまりは、通常の方法で辿り着くのが困難な上、貴重なグラディウスが敵に強奪される危険を冒さぬよう、この作戦が取り入れられたらしい。
 集結した八人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊へと攻撃を集中させれば、場合によっては一撃で回廊を砕くことすら可能だという。
 たとえ一回の降下作戦で破壊できずとも、回廊に与えたダメージは蓄積する。最大でも十回程度積み重ねれば確実に破壊することができるだろう。
 更に、強襲型魔空回廊の周囲に存在する強力な護衛戦力が高高度からの降下攻撃を防衛不可能な点も見逃せない。
「グラディウスって攻撃するときに雷光と爆炎を出すみたいなんすけどね、この雷光と爆炎、グラディウスを持ってねぇ相手に無差別に襲い掛かるんす」
 いかに回廊守護の精鋭といえどそれらを防ぐ手段を持ってはいないようだ。
「そんでもって、皆は回廊に攻撃したあと、発生したスモークに紛れて撤退する形になるっすね」
 グラディウスを持ち帰るのも重要事項。回廊への攻撃と無事の帰還、ふたつの目的を示すように、誠司はピースサインを作る。

 魔空回廊の護衛部隊それそのものはグラディウスによる攻撃の余波である程度無力化される。
 とはいえ、当然完全な無力化には至らないので、強力な敵との戦闘は避け得ない。
「でも相手も混乱してるだろーから連携してくることはないし、パパッと目の前の強敵を倒して撤退できたら最高かも」
 仮に時間が掛かり過ぎて脱出前に敵の態勢が整ってしまうと、こちらに残された手段は降伏か暴走か……どちらにせよ、あまり望ましくない選択肢である。
「ミッション地域によって敵の特色とかもいろいろだし、そーゆーのを『どこを攻撃するか』の参考にするのも良いかもっすねー」
 今も増え続けるミッション地域をひとつでも多く潰し、デウスエクスの侵攻を食い止めるため。ケルベロス達ひとりひとりの双肩に地球の命運が掛かっている。
 ミッション破壊作戦の成功を願い、全員に信頼の眼差しを向けて、誠司は力強く操縦席へ続く扉を開けた。


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
レイン・プラング(解析屋・e23893)

■リプレイ


 空港特有の広いアスファルトの陸地と、それに似つかわしくない禍々しい気配。展開する強襲型魔空回廊を遥か上空から見下ろす。
 ヘリオンに勢いよく流れ込む風を身に受けながら、クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)はグラディウスを握る手にぎゅっと力を込めた。
 本来、己が戦いに不向きな身体構造であることは自覚している。それでも戦闘スーツを纏い戦地に赴くのは任務遂行と、なによりも。
「ロザリー姉さんを諦められるワケないし、何も諦めてないわよ」
 デウスエクスの脅威から空港を奪還することが『彼女ら』のオリジナル――姉の元へと辿り着くための近道と信じ、
「まずは、空を返してもらうわ!」
 眼鏡越しの眼下に見据えるバリア目掛け、その身を宙に躍らせた。
 一心に突き立てる刃に奔る衝撃、バリバリと鼓膜を震わせる雷鳴に似た轟音と閃光は確実なダメージを回廊に与えている証。続く仲間達もまた、懸ける熱い思いを声に乗せる。
「これ以上、好きにはさせないにゃ! 空の玄関口を返してもらうにゃ!」
 信念こそ力と、奪還と解放を信じて刃を振るう志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)と並ぶように、レイン・プラング(解析屋・e23893)もまた轟雷を迸らせる小剣を振るう。
「ここは翼を持たぬ者たちが、広大な空へと夢を羽ばたかせるため作り上げた場所だから!」
 これまでも、そしてこれからも、想いを空へと運ぶために。
「人々が空へ上がる事を、邪魔させはしない――!!」
 震える大気を切り裂くように降下する霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)とギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)も続く。
「泣きたくても手がかりの為に堪えてる奴だっているんだ」
「安全な生活が脅かされているこの状況、俺達が変えてみせよう!」
 ケルベロスとデウスエクス、その表裏一体とも言える存在同士の水際に於いて示すは『感傷』ではなく『覚悟』。
「北陸の空、返して貰うぞ!!」
「ここで必ず魔空回廊を破壊し、人と猫の平和な世界の実現に近づける!」
 次々と撃ち付けられる衝撃にバリアが鳴動する。
 一方で、ダモクレスの誇りと名誉を重んじる黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)は異なる視点を以って臨む。
「ダモクレスの誇りと名誉、そして未来の為に! 退いて貰うぞ、飛翔機士!」
 こんな終わりの見えかけた戦場ではなく、戦機として在るならば、より重要な場所で戦うべきであると。方向性こそ違うものの彼の意気は高い。
 八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)もまた、闘志を静かに燃やす。
「望まぬ悪夢には幕を下ろしましょう。其の全てを、断ち切ります」
 例えどのような意思があろうとも、『此処』に立ち続けるのであれば討つだけだ。それはある意味で完全で明確な殲滅意志と云えた。
 そして終に残った御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)の内側に巣食うは、
「折角だから逃げずに殺されてくれよ」
 衝動を抑える必要のない相手へ向ける、殺意と呼ぶにはあまりにも当たり前に肌を這う残酷な気迫。人の世に紛れて生きる上で堆積せざるを得ない様々なモノをこれ幸いにと全力で叩き付ける。
「気にせず殺って良いのは貴重なんだからな!」
 生まれながら奥底より滲む本能を解き放って繰り出した一撃が、この破壊作戦最後の爆音を轟かせた。


 生じた爆煙が晴れた空に見えたのは、未だ健在なバリアの姿だった。
「撤退するにゃ」
 短く告げた藍が事前に確認したルート方面へと駆ける。時間を掛ければ掛けるほどに、危険度は増してゆくのだ。全員の無事な帰還を目指すのなら、ここで無用な時間を浪費するわけにはいかない。
 何しろここは今、敵地の只中に他ならないのだから。
 幾度目かの破壊作戦ではあるが、やはりグラディウスが発する閃光と轟音、そしてバリアに与える打撃は、デウスエクスに混乱を与えるには十分な効果を発揮しているらしい。ミッションの攻略ルートへの合流を目指すケルベロス達にとっては、この混乱が収まるまでがタイムリミットと言っていいだろう。経過を許せばたちまちのうちに敵に囲まれてしまいかねない。
 だがそれも、全ての目を盗むまでには至らず。
 ミッション攻略ルートまであと少しというその時、先頭を走る白陽の足元へと光の帯が降り注ぐ。
「おっと、お出ましか?」
 当てに来た、というよりは足を止めるための威嚇射撃か、さして大きく避けずとも回避出来る程度の射線をするりと抜けて見上げた先には、戦闘機モジュールに接続された女性型ダモクレス『飛翔機士』の姿。
 皮肉めいた笑みを浮かべる白陽とは対照的に、真剣な表情で飛翔機士に相対するクロエ。
「コレで三回目。顔、見飽きたでしょ?」
 相手がこちらを認識しているかはわからない。けれど、どこかで姉に通じていればと僅かばかりの期待を籠めて。
 そこに滲む想いへの返答は、ミサイルの雨によって為された。
 目前に現れた飛翔機士は一体のみ。とはいえ、油断の出来る相手でもない。時間という制限を課せられている以上、短期決戦に向けて動くのは自明の理と言えるだろう。
 カイトの散布するオウガ粒子が味方の命中率を底上げする横で、ボクスドラゴンのたいやきがどことなく美味しそうな属性をインストールしてゆく。
「守護者よ顕現せよ、不浄なるものから護りたまえ」
 藍の振り撒く紙兵もまた、行動阻害の軽減効果を仲間達へと施して盤石の構えを取る。補助を受けた白陽が自信あり気な笑みを浮かべ、構えのない体勢から一歩踏み出した。
「殺って良いんだろ?」
 刹那、短めに仕立てられた斬霊刀が飛翔機士の機体を穿つ。殺すことに特化した悪夢のような業に対し、飛翔機士は凍てつく光を照射して応戦し。
 狙いが白陽へと向いたのを見て取り、全力で接敵した鋼が高速演算で導いた弱点を的確に打った。更に鎮紅が振るう黒の刀身が緑光を靡かせて緩やかな弧を描く。
 航空機能を失うまではいかずとも、装甲や機動力を損なった飛翔機士の真下から、今度はギメリアの流星を纏う蹴撃が襲い掛かり。死角からの攻撃は相手の行動を阻害し、更に動きを鈍らせた。
 この状況を克明に、正確に。レインの演算回路が高速処理で飛翔機士のデータを解析してゆく。
「―――解析完了、データリンクします」
 ここまでのこちらの攻撃に対する対処や反応、思考パターン、身体機能のデータ、それらの解析とそこから導き出される予測行動を仲間達へと伝達するレイン。ラプラスの魔の名を冠する解析機能が、更なる戦闘効率の上昇を導く。
 レインの示したデータが、クロエの進む先を照らし出す。滾る炎を纏った一閃が、敵の胴を薙いだ。孕んだ熱は内側からその身を焦がしてゆく。
 それでもなお、敵の意気も行動能力も、失われたわけではない。決着に至るまでには、今しばらくの時間が必要なようだった。


 戦闘開始から数分が経過する頃。そこかしこに穿たれた破壊の痕は、互いに繰り出す攻撃の爪跡。飛翔機士のダメージもそれなりに入ってはいるが、ケルベロス達とて無傷とはいかない。
「……あまり動いてくれるなよ? 近くで診ないとやり辛いんだ」
 負傷の残る鎮紅を修復プログラムを起動させて癒すカイト。だが、ディフェンダーとして他者を積極的に庇いに入っていた鎮紅に蓄積されたダメージは他のメンバーに比べて少なくはなかった。それはカイト自身にも言えることで、決着を急ぐ必要があることを多くのケルベロスが肌で感じ始めていた。
「そろそろ殺してやるよ」
 それならと白陽が空の霊力を帯びた斬霊刀で切り裂けば、ここまでに積み重ねた呪縛が功を奏したか、相手の身体が見るからに傾ぐ。
「チャンスにゃ!」
 心は熱く、しかし冷静に戦況を観察していた藍がこの好機に乗った。自らの瞳に意識を集め、開放する。
「視線より早く確実に貫く者なし。瞳よ覚醒せよ」
 藍の瞳が蒼穹の輝きを放ち、視線は槍と化して飛翔機士を射貫く。溶け落ちるかの如く身を灼く痛みに身を捩れば、ダメージすら構わずに執拗に迫り続ける鋼の姿。
 隙間なく覆われた鎧兜の隙間から向けられた視線に籠めた思いは口には出さず、振り上げたナイフの斬撃が彼女の身体を蝕む様々な傷痕を無残に切り開いていった。
 それでも、抗うように放たれたミサイルの雨が後衛陣へと襲い掛かる。ディフェンダー勢が庇いに入るものの、全てを防ぎきることは流石に出来ず。
「……くっ!」
 飛来するミサイルの直撃を喰らい、片膝を付きそうになるギメリア。彼のウイングキャット、ヒメにゃんが慌てたように翼をはためかせ、ギメリアの傷を心身共に癒す。
「ありがとう、ヒメにゃん最高!」
 思わず笑顔で褒め称えながら、無論戦いの最中であることも忘れはしない。強く念じた平和への想いを力へと変じ、生み出すは絶対零度の炎。
「無から創造するは我が決意。凍炎により全ての悪意を無へと封ぜんッ!」
 戦闘機モジュールを剣閃が薙ぐ。無から生まれた双極が機体の機能を半ば停止寸前に追い込んだ。
 絶好の機会に、鎮紅は両の手に翳したダガーナイフに力を籠める。自身から流れる力が、深紅の刃に深紅の光を重ね。
「其の歪み、断ち切ります」
 舞い散る花弁の如く翻った刃先がモジュールを深々と貫いて爆ぜる。既に外装部には亀裂が走り、本来の機能の多くは失われているのだろうが、今一歩撃破には届かない。
 しかし、それは転じてあと一歩。だからこそ、ここでこそ。
「データリンク……アングルナージュさん!」
「任せて!」
 開放型可変バレルを展開し、結合させた動力炉を全力稼働させ。クロエの定めた照準が、レインの解析で完璧な精度を叩き出す。
「お待たせ、綺麗な流れ星を一つあげるわ。だからそのまま……地に堕ちなさいッ!」
 巨大な結晶が矢の形に生み出され、豪速で射出される。既に行動パターンを解析され尽くし、満身創痍の飛翔機士に避ける術はない。奔る光は文字通り流れ星のように敵を穿つ。
 地に縫い止められるように落とされた飛翔機士は、やがてその機能を停止すると爆炎の中に消えた。
「私が連れ帰りたいのは、本当の姉さん。悪いわね」
 彼女の来歴がどのようなものかは存ぜぬが、僅かに抱いた憐憫をも振り切って、クロエは彼女だったものに背を向けた。


 交戦開始から十分余りが経過しようとしていた。早急に撤退行動を開始する必要がある。
 その上で、鋼は飛翔機士が消えた場所へと敬礼を残した。
「俺は、最後までダモクレスとして戦った貴方を誇りに思う」
 どのような存在であれ、そうあるべきとして戦い抜いた。それは間違いのない事実であり、汚されてはならない名誉だと、信念を敬意として。
 その横で、カイトは複雑な表情を浮かべていた。
 ――辿る道は似ていたかもしれない。もしかしたら、自分が彼女のようになっていたかもわからない。自身が辿った変遷を考えると、思うところは少なからずある。
 けれど、ちまちまと足元で心配そうに見上げてくる相棒の姿を見ていると。
「……そうだな、俺は俺だもんな」
 今、自分が自分としてここにいること。
 肌身に伝わる感覚こそが何よりの答えなのかもしれないと、足を踏み出した。
 次々に走り出すケルベロス達の中で、クロエは微かに震える腕をぎゅっと握る。ともすれば今すぐにでも泣き叫びたい衝動を必死に抑えるように。
「どう、姉さん? 私を感じられるかしら……?」
 伝わるかなどわかりはしない。ただの感傷と笑われたって構わない。たとえ抱いた感情が誰とも共有されぬものだったとしても、確かなことがひとつだけある。
「アングルナージュさん、行きましょう」
「深くは訊かぬが、今は脱出を」
 レインやギメリア、自分を助け、信じ、こうして支えてくれる仲間がいる。だからこそ、どんなに僅かな可能性であっても賭ける価値はあるのだと。
「帰ろう」
 破壊作戦はまだ終わってはいない。今は撤退し、次の機会でこそ、必ず。
 眼鏡の奥に微かに光る涙が零れ落ちて、地に煌めいて散った。

作者:鉄風ライカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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