プラズマ渦巻く量産歩兵

作者:氷室凛


「なんだあれは……テレビウムなのか?」
 それは突如として戦場に現れた。
 青い光をまとった、柴犬の成犬程の大きさのダモクレス。くすんだコートを羽織り、内部の部品が一部むき出しになっている。
 突然現れた敵を前に、ケルベロスたちは身構える。すると物陰からさらなる新手が続々と飛び出してきて、敵の数は合計八体となった。
 そのダモクレスたちはテレビウムによく似た姿をしているが、サーヴァントのような愛嬌は全くない。どこまでも無機質で、そして言い知れぬ凶暴性をはらんでいる。
 ダモクレスたちは大きな工具を振り上げ、青い光弾を飛ばしてきた。地面で閃光が弾けた直後、敵が一斉に飛びかかってきた。
 ケルベロスは応戦するが、次第に防戦一方になっていった。
「くそっ……一旦引くぞ! 撤退だ!」
 ケルベロスはやむなく敵に背を向けて逃げ出していった。
 そんな彼らを尻目に、ダモクレスたちは追いかける素振りも見せず、くるりと向きを変えてその場を立ち去っていく。


「みんな大変です! どうやら指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まったようです!」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003) が慌ただしく切り出す。
「指揮官型の一体『マザー・アイリス』は、ケルベロスとの戦いの為に、コストパフォーマンスに優れた量産型ダモクレスを投入しようと、試作機を戦場に放っています。既にケルベロスがミッション終了後に撤退しようとした所を多数のダモクレスに襲撃されるといった事件も起こっています」
 敵は、ミッション帰還時の消耗したケルベロス、少人数で行動するケルベロス、練度の低いケルベロスを中心に狙って攻撃してくる為、少なからず被害も出ているのが現状だ。
「量産型ダモクレス『プラズマテレビウム』が、ミッション地域の外縁部に潜伏して襲撃活動を行っているので、みんなはその潜伏場所に踏み込んで撃破してください!」
 敵の数は合計八体。大きな工具を装備しており、戦闘能力はどの個体も同じである。
 技の外見が異なる場合があるが、使用する技は全て『ブラックスライム』のグラビティに準拠した技だ。
 ねむはくるくると地図を広げる。
「敵が潜伏しているのはこのエリア――廃墟となったビル街です。敵は一ヶ所に固まって潜んでいるので、みんなはこのエリアを探索して、敵を見つけ出して奇襲を仕掛けてください!」
 奇襲がうまく成功すれば、戦闘時の初動で優位に立ち回ることができるだろう。
「このところダモクレスの攻勢が続いていますが、ここが踏ん張りどころです! ねむはみんなを送り届けることしかできませんが……みんなの無事を信じています! 頑張ってくださいね!」


参加者
ポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
高原・結慰(四劫の翼・e04062)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ユーディアリア・ローズナイト(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24651)
水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)

■リプレイ

 廃墟と化したビル群が立ち並ぶ地区。
 荒れ果て、朽ちていくのを待つばかりの文明の残骸がどこまでも広がっている。
 ケルベロスたちは苔むしたアスファルトの上を進んでいく。この地区に潜んだ敵を見つけ出すべく、彼らは途中から二手に分かれて辺りの探索を行った。
「悪いテレビウムにはお仕置きです!」
 水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)は指先でくいっと眼鏡を上げる。たとえゆるい見た目の敵であっても油断はできない。
「テレビウムに似せるならもっと可愛い感じに……あ、いえ! どんな姿だろうと、新たな戦力を見過ごすわけにはいきません!」
 うっかり本音を口にしかけたルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)は、あわあわと首を振る。
「敵影なし……少なくとも目視した限りでは」
 高原・結慰(四劫の翼・e04062)は四色の翼で羽ばたきながら、仲間の上を旋回する。現時点では敵の姿はなかった。
「早いとこ見つけたいなぁ……こっちは準備万端やで~」
 小柄なおじさんの流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)は、元気に歩き回る。
 彼らはその後も、しらみつぶしに辺りを捜索していった。

 一方、こちらは別の班。
「えと、こういうのは残党狩りっていうんですか? あれ? 違う? えと、えと……うん、とにかく作戦帰りの仲間を危険に晒しちゃいけませんもんね!」
 ユーディアリア・ローズナイト(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24651)は気を取り直して周囲を見回す。
 逆に敵のほうから奇襲を受ける可能性もあるため、油断はできない。
「奴らが心を得たらテレビウムになんのか? レプリカントに……? いや、益体もねェ話だな。ケルベロスに手ェ出すとどうなるか思い知らせてやるぜ」
 バアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)は歩きながら拳をぶんぶん振り回す。
「ラッパ隊とは違うおぞましさね……マザー・アイリスって奴はよく分析してるわ。アタシ達が嫌がる敵とか、戦術とかをね」
 先頭を歩くリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は、その赤い瞳で辺りを見つめる。
 と、公園に置かれた土管から何やら青い光が見えた。
 気づかれないよう注意しつつ、離れた場所から目を凝らしてよく見てみると、土管の中にプラズマテレビウムたちが隠れているようだ。
 しかし青い光のおかげで遠くからでも分かってしまう。
 リリーはすぐに仲間たちへ伝えた。
「頭隠して尻隠さずとはこのこと……ポートさん、敵よ!」
「……目標発見。場所は西方の公園付近、至急合流をお願いします」
 ポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)が別の班に連絡すると、数分後、仲間たちが駆けてきた。
「これ……やっちゃっていいんですよね?」
 香織が尋ねる。敵はまだ土管の中に入っており、こちらには気づいていない。
 無論、奇襲をかける絶好のチャンスである。
 ケルベロスたちは土管を挟み撃ちにして一斉攻撃を仕掛けることにした。
「……確かに帰還時を狙うのは戦術としては有効です。機械らしいと言えばらしいですね。けれどそれもここまで。お覚悟です」
 そう言うと、ポートは駆けていく。
 続いて仲間たちも武器を手に、全速力で走り出した。

 ケルベロスたちは最大火力のグラビティを四方から容赦なく叩き込んでいく。
 土管が粉々に砕け散り、盛大に爆発が起きた。
 煙が広がる中、青いプラズマ光と共に敵が飛び出してきた。その数は七体。先ほどの攻撃で一体落としたようだ。そして残る七体も体力を若干削られているだろう。
 量産型ダモクレス――その外見はテレビウムによく似ているが、色合いといい、立ち姿といい、どこかすさんで見える。
「誰一人落としたりはしないわ……行くわよ、護法士鬼開封! 行っちゃって!」
 リリーは紙兵散布を発動して味方の異常耐性を高めていく。
「超合金合体っ!」
 清和は叫び、一気に距離を詰めていく。
 清和は敵の群れの前に立ちはだかり、自ら囮となる。
 ダモクレスたちが一斉に飛びかかってくる中、清和は地面を蹴って飛び上がった。するとどこからともなく飛んできたパーツが変形し、巨大ロボに組み変わった。
「必殺っ! フォートレススラッシュ!」
 清和はロボと合体し、その巨体で路地を滑りながら大剣を斜めに振り下ろす。火花が散り、金属音と共にダモクレスが真っ二つに割れた。
 攻撃を終えた清和は仲間たちの前に戻り、壁役として立ちはだかる。
「燃えて砕けてください……!」
 ポートは黄金のガントレットに炎を宿し、最も弱っている敵に狙いを定め、殴りつける。敵の数は多いが、落ち着いて処理すれば何ということはない。
「新型とはいえ、万全の状態であれば私も後れは取りませんよ!」
 新型ダモクレスに対してひそかに対抗心を燃やすルーチェは、手足や肩のミサイルポッドを続々と展開する。
「ぷりずむルーチェが、愛の魔法で成敗します!」
 黄色とオレンジの魔法少女衣装に身を包んだルーチェは、轟音を上げながら次々とミサイルを射出する。
 爆炎が立て続けに上がり、熱と衝撃で道路に穴が開いていく。ルーチェは微笑みながらミサイルを乱射し、敵群へパラライズを撒いていった。
「どうです? 私の魔法攻撃、すごいでしょう?」
 ルーチェは胸を張ってウインクする。
「ミサイルをぶっ放す魔法少女ですか……うーん、斬新すぎます」
「まあ……強ければ正義よ」
 さらに香織と結慰も続く。
 香織は如意棒に紅蓮の炎を灯し、薙ぎ払う。地を焼き焦がすほどの灼炎が広がり、敵を飲んでいった。
 そして結慰も、炎が広がる中へと突っ込み、グラインドファイアを放つ。蹴りを浴びたダモクレスが一体弾き飛ばされた。
 ダモクレスたちは道路を駆け、一度距離を取る。戦いの中でいつしか戦場は公園から道路へと移っていた。
 ダモクレスたちは手にした工具に青い稲妻を宿し、タイミングを合わせて光弾を飛ばしてきた。
 青い光が路地で弾け、眩しい光を放つ。
 バアルルゥルゥは光弾を一発喰らいながらも走り続け、両手をバッと広げる。
「なんだァ、最初ッから随分とボロボロじゃねェか。ジャンクは処分しなきゃなァ、ヒャハハハッ!」
 バアルルゥルゥは両手のケルベロスチェインを操って宙に飛ばし、弱った敵に狙いを絞って鎖を巻き付けていった。
「ハッハァ! 暴れても良いぜェ? 無駄だがなァ!」
 ダモクレスを縛って高々と持ち上げ、バアルルゥルゥはチンピラめいた凶悪な笑みを見せる。デウスエクス相手なら多少暴れても問題はない。ケルベロスという仕事はある意味、彼女にとって天職である。
 バアルルゥルゥは甲高い笑い声を上げ、お辞儀をするように腰を折って両腕を振り下ろした。ダモクレスは頭から路地に激突し、ひび割れて砕け散る。
 道路にもヒビが入ってしまったが、この辺りは廃墟なので問題はない。むしろバアルルゥルゥは破壊跡を見て楽しげに笑うのであった。
「てれびうむって聞くと、サーヴァントになってる子を思い出すのですけど……そういうタイプとは違うのですね」
 ユーディアリアは敵の姿をまじまじ見つめる。その紫の瞳は好奇心に溢れ、きらきら輝いている。
 このダモクレスたちはあくまでテレビウムの模造品。姿かたちを真似て作られたものに過ぎない。だがサーヴァントの形を模した敵の姿はどこか新鮮であり、少なくともユーディアリアにとっては興味深いものだった。
 ダモクレスたちは工具を振って光弾を飛ばしてきた。
 ユーディアリアは味方の前に出て、剣を薙いで光弾を切り裂いていく。溢れ出たプラズマがユーディアリアの体を焼いていったが、それでも構わず彼女は剣を振るい、味方を守る。
「なんで皆、仲良く出来ないんでしょうね……」
 プラズマを体に受けながら、ユーディアリアは悲しげにつぶやく。もしかしたらあのダモクレスたちと分かり合えるかもしれないと思っていたのだが、その願いは遂げられそうもなかった。
 ユーディアリアはその場に倒れ込む。
「妖精魔術強制執刀! 絶対に助けるから!」
 リリーはユーディアリアのもとに駆け寄って介抱し、ウィッチオペレーションで彼女の体力を回復させていった。

 朽ちかけた廃墟に、ただ戦闘音だけが繰り返しこだます。
 激しい戦いの中、ケルベロスたちはグラビティを何度も浴びながらも敵を確実に撃破していった。
 残る敵は四体。半数を打ち倒すことに成功したが、ケルベロスたちのほうも消耗しているため、慎重に仕掛ける必要がある。
『打ち抜け、太陽のビート! サンライト……インパルス!!』
 ルーチェは可愛くポーズを決め、詠唱を紡ぐ。一体どんな技かと仲間たちが見守っていると、ルーチェは真っすぐに駆けて行って、手近なダモクレスの頭を、ゴンッ、と素手で殴りつけた。
 ダモクレスはよろめきながらも、工具を振り上げて反撃してくる。
「ただの力技やん。おっちゃん怖いわぁ」
 清和はすぐさまルーチェの前に回り込み、手にしたバールで相手の工具を受け止める。
 ダモクレスは両足で踏ん張って力をかけてきた。
「ふんっ……!」
 清和も両足で路地を踏みしめ、それからバールを振り抜く。敵は後方に転がっていった。
 そして転倒したダモクレスの頭上で、ポートが両腕をかざす。金色に輝く巨大なガントレットが陽光を受けて煌めく。
『崩れる。壊れる。砕ける。消える。無常の理、其の身に受けて……!』
 ポートはその地獄化した異形の両腕を操り、次々と拳を叩き込む。黄金の残像が彼女の周囲に広がり、アスファルトにぼこぼこ大穴が開いていった。
 細身な体つきのポートであるが、その一撃は重い。
 凄まじい殴打のラッシュを受け、ダモクレスは粉々に打ち砕かれ、小さな破片と化して辺りに散っていった。
 だが残る三体のダモクレスが工具を振り上げ、青い光弾を同時に打ってきた。そのうち二発がポートの体に直撃し、『ジジジ……』と青い光が走る。
「妖精術式救阿霊印! 今すぐ元に戻すから!」
 リリーはすぐさま片手を掲げ、メディカルレインを発動する。リリーは薬液の雨を降らせて前衛を支援しつつ、敵の様子を伺う。
 するとまたダモクレスたちが青い光弾を投げ飛ばしてきた。
 敵の狙いはリリー。回復手を先に叩くつもりだろう。リリーは漆黒の刃を振り抜き、三発の光弾を切り払う。
「あと三体。殲滅は任せたわ」
 リリーは蒼い稲妻に半身を焼かれながらも、仲間にそう伝えた。
「よっしゃァ、いくぜ!」
 バアルルゥルゥは威勢よく飛び出し、気咬弾を放つ。だがその攻撃はダモクレスにたやすく回避されてしまった。
「遠慮すんなってェの!」
 バアルルゥルゥは射線に回り込んで気咬弾を蹴り返し、敵にぶち当てる。
 ダモクレスが一瞬怯んだ隙に、結慰は腰を沈めてぐっと拳を握った。
「醜く穢れたアナタにも平穏を与えてあげるよ。偽りの平穏、だけどね?」
 結慰の背に生えた四色の翼のうち、青い翼が天からの光を受けて輝き出した。深海のような幻想的な青い光を全身にまといながら、結慰は拳を突き出す。
 青い閃光が一直線に伸びていき、敵が飛ばした光弾を打ち砕く。そしてそのままダモクレスの顔を打ち抜いていった。プラズマよりも色の濃い禍々しい青い光が散り、ダモクレスの金属の体が割れて崩れ落ちる。
「――っ」
 その時、結慰の背後で別のダモクレスが工具を振り下ろした。
「何があったのか知りませんけども、悪さをするなら容赦はしないですよ!」
 ユーディアリアは横から『insania.02』を叩き込み、敵の攻撃を阻害する。黒煙をまとった彼女の手刀はダモクレスの胸を軽々と貫き、たちどころに焼き尽くしていった。
 残る敵は一体。それでもダモクレスは諦めず、果敢に攻撃を仕掛けてくる。
 振り下ろされた工具を、香織は緋色のオーラを宿した右腕で受けた。
 それから香織は敵の工具を掴み、ブンッと空に投げ放った。ダモクレスは空中に高々と投げ飛ばされ、放物線を描いて飛んでいく。
「悪い子にはお仕置きですよ! 月まで飛んでけー!! ……なんてね」
 香織は握った弾丸に力を込めつつ、走り出す。
『打ち砕け!渾身の一撃!!』
 そして香織は飛び上がり、落下してきたダモクレスに向けて至近距離から弾丸を撃った。爆風と共に風が吹きすさび、強風が辺りを薙いでいく。
 ダモクレスは空高く弾き飛ばされ、やがて爆発して木っ端微塵に砕け散った。
 穴だらけの道路で、ケルベロスたちはひとまず息を整える。対象の敵を全て撃破することに成功し、彼らは安堵する。
「それにしても嫌らしい敵だったわね。何か……手掛かりになりそうなものは無いかしら? うーん……もうちょっと調べておこうかな」
 リリーはマザー・アイリスの居場所を探るため、敵の残骸を調べ始めた。
 十分ほど辺りを捜索したが、それらしい物は何も見つからなかった。とはいえ報告にあった量産型を全て撃破できただけでも大いに収穫である。
「戦闘終了ですね、お疲れ様でした。……わたし達も他のダモクレスに襲われる危険があります、手早く撤収しましょう」
 ポートは辺りを警しながら言った。今は幸い敵影はない。
 ケルベロスたちは一応周囲に気を配りつつ、その場を後にした。

作者:氷室凛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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