碧空を眺めゲレンデ滑り転け

作者:奏音秋里

 親子で訪れた、久万高原町のスキー場。
 初めはちょっと怖かったけれども、段々と滑れるようになってきた。
「たのしー!!」
 だが、少年は白い塊にぶつかって転けてしまう。
 なんとか起き上がってよくよく見てみると、白い毛が生えているではないか。
 眼が合ったと思ったが早いか、ころころと回転して此方へ向かってくる。
「ゆきおとこだぁーーーーーっ!!」
 じたばたしたのちに瞼を開けると、其処は自宅の布団のなか。
 午前中のスキーが楽しすぎて、きっとこんな夢を視たのだ。
 誰もいないと安心して、お昼寝を再開しようと寝ころんだのに。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
「ぇっ!?」
 魔女の鍵は布団ごと少年の胸を貫き、感情を奪い去る。
 ずんぐりむっくりした雪男が、窓から飛び出した。

「もうすぐ節分ですけど、ぜーんぜん暖かくありませんねー!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の頭には、鬼の面。
 袋の豆を左手に持ち、準備は万端といったところだ。
「それにドリームイーターもぜーんぜん大人しくならなくて、今度は雪男が現れちゃいました! 皆さん、今回もよろしくお願いします!」
 またもや少年の『驚き』が利用されてしまったと、残念がるねむ。
 隣では、ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)もやはり嘆く。
 少年の意識をとり戻すためにも、ドリームイーターを倒してほしいと訴えた。
「ドリームイーターは、なんていうか一般的な雪男の姿をしています!」
 全身が白い毛で覆われていて、力もあるし爪も鋭い。
 近距離ではその鋭刃で物理的な攻撃を繰り出し、トラウマを呼び起こす。
 たいして遠距離になると、悪夢を視せるモザイクを飛ばしてくるのだ。
「雪の上で戦いにくいかも知れませんが、スキー場がイチバン楽ですね! 施設内への放送とか、お願いすれば大丈夫だと思います!」
 少年の家は、なんとスキー場から徒歩5分。
 ただし利用客が残っているため、一般人を巻き込まない対策は必要となる。
「いまは、驚かせる相手を探しているみたいです! 驚けば、ひとまず攻撃対象から外れます! ドリームイーターは、驚かないヒトを狙ってきます!」
 位置関係上、わりとすぐにスキー場へ到着するだろう。
 誘導と戦場の準備を上手く分担してほしいことを、ねむは付け加えた。
「感情を悪用するなんて、ねむは絶対に許しません! みんなを信じています!!」
 大きな声で、ねむはケルベロス達へと依頼を託す。
 みんなの分の豆はとっておきますね~と、手を振った。


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)
九十九折・かだん(供花・e18614)
響命・司(霞蒼火・e23363)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)

■リプレイ

●壱
 おやつの時間をまわったスキー場では、既に利用客の避難が始まっていた。
 出入り口や駐車場に、一般人が集まっている。
「済まん、誘導は任せた。避難は任せろ。コイツは持っていっていい」
 響命・司(霞蒼火・e23363)が、ずいっと差し出すウイングキャット。
 首のうしろを掴まれて、じたばたしている。
「分かった分かった。あとでご馳走を用意してやるから」
 幾つか候補を挙げるとなんとか宥められて、司は相棒を押し渡した。
「ゆずにゃんさん、よろしくね。この子はトパーズよ。では、避難指示お願いします」
 同じくウイングキャットを連れた、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)が託される。
「トパーズもゆずにゃんさんも、ディフェンダーだから驚いちゃダメだよ」
 言い聞かせながら、誘導班の一員として出発。
 沙慈を入れて、ケルベロス3名と、サーヴァント3体がメンバーだ。
「うぅ、せっかくスキーに来ているのにごめんなさい……」
「ここに、デウスエクスが……近づいて、います」
 出入り口には、1箇所のみ残して立入禁止テープを。
 ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)が、左から。
 右からは、櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)が張っていく。
「誘導に、従い……落ち着いて、避難。してください……!」
 ちなみに。
 到着前に避難が始まっていたのは、叔牙が事前にアイズフォンで連絡しておいたから。
 いまも流れている場内への避難放送を、要請したのだ。
「うぅん、こうしてみると、ちょっと綺麗、かも?」
 ぽつりと、自信なさげに零すラティエル。
 相変わらず雪は苦手だが、踏み締める白銀に深紅の散っていないことには安堵する。
「いろんなデウスエクスを見るせいか、雪男のドリームイーターくらいでは驚かないなー」
 一方の誘導班は、少年の家の前でドリームイーターと遭遇。
 両手を軽く挙げて、ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)は驚かない仕草をする。
「雪男、か。どこの雪山にもある伝承だと思うけど……」
 九十九折・かだん(供花・e18614)も、平然としていた。
 スキー場まで同行しなければならないため、此処で興味をなくされては困るのだ。
「さくっと誘導して、さくっと倒しちゃおう。行くよ、ダンボールちゃん」
「雪が踏み固められて戦い易い場所へ誘導できると、よりよいか?」
 ミミックを抱き、ルビーはスキー場へと足を向ける。
 かだんは頭のなかで、到着後の算段をしていた。
「みなさーん! ボンジュー、ボンジュー! うち、ケルベロスのジジです☆」
 仏語混じりの関西弁で、ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)がご挨拶。
 避難する一般人に、不審に思われないように。
「驚きながら逃げるんやで~! こう! うちみたく!」
 1人ひとりに、雪男と遭ってしまったときの対策を教えながら。
「倒したらまたスキーできるから、ひとまず逃げてねー」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)がいつもの笑顔で見送ったのが、最後の客らしい。
 見えるかぎりには、人影はなさそうだ。
「うん、ばっちりだね!」
 避難が間に合ったことに、陽葉も班のメンバーも一安心。
「さて……あぁ、そこのお前。客が出てこないよう、駐車場で足止めしておけ」
 再度プラチナチケットの効果を発動して、司は受付スタッフに指示を出した。
 みすみす襲われにくる者はいないだろうが、念には念を入れて。
「もういいかーい? 到着するよー」
 其処へ聞こえてきたのは、誘導班であるルビーの声。
 割り込みヴォイスと拡声器で、接近を報せてくれたのだ。
「雪女の次は、と思ったけど本当に出るとは。早く、春になってほしいなぁ……」
 遠方に映る白の躯を認識して、ラティエルが呟く。
 次なる季節の到来が待ち遠しいと、桜色の髪に触れた。
「まー雪山なら雪男ぐらいいてもおかしくないよね。フツーだよフツー」
 眼前の状況を受け入れて、なにごとも元気で前向きに。
 陽光を思わせる金の瞳を細めて、陽葉は笑う。
「これは、熊……いえ、イエティ!?」
 満を持してスキー場へと招き入れたそれに、叔牙が驚いてみせる。
 辿々しくも、めいっぱいの感情を乗せて。
「Ouh la la! Homme des neiges! うち、初めて見まシタ!! 驚きの白さ!」
 わくわくを抑え、吃驚な台詞を発するジジ。
 チームの雰囲気をポジティブに維持するためなら、敢えてボケる献身さだ。
「ゴメンね、トパーズ……ビックリしたんだもん」
 これまで我慢していた沙慈も、やっとのことで気持ちを露わにする。
 力一杯ぎゅっと抱いてしまったウイングキャットの頭を、優しく撫でた。
「はじめまして、逢えて、嬉しいよ。どっちの方が、力強いか決めようじゃねえか」
 耳を研ぎ澄ませてみたが、どうやら逃げ遅れた一般人はいないらしい。
 心置きなく戦えると、かだんはドリームイーターを見据えた。

●弐
 振り下ろされる鋭い爪が、冷えた空気を切ってケルベロス達へと襲いかかる。
 ディフェンダーのかだんとウイングキャット達が、寸前で受け止めた。
「私、攻撃は少し苦手。痛いのはやっぱり嫌だもんね。でも、このままにしておいたらもっと痛い思いする人が増えるから。ぐっと我慢して戦う。トパーズが居てくれるから平気。優しいジジさんもいるから私、がんばるね」
 後衛の沙慈が陣取るのは、最も出入り口に近い位置。
 絶対に逃がさないよう目を配りつつも果敢に攻め、超硬化させた竜の爪で腹部を掻いた。
 同じくウイングキャットも、伸ばした爪で傷を与える。
「ま、まさか本当に雪男がいるなんて! ドリームイーターだから少しぐらい捻ってあるかと思ったのに、そんなテンプレじみた姿だなんて!」
 狙いを逸らすべくわざと驚きながら、陽葉が稲妻を帯びた得物を超高速で突き出した。
 刺さる痛みに、どすどすと後退る巨体。
 離れたところから、モザイクを放ってきた。
「悪いけど、図体がでかいだけじゃあ、もう驚かないもんでな。びっくりさせてみてくれよーーーーウ"ゥルルォ"お"オ"オ"アア"ァ"!!!!!!」
 しかし体勢を立て直したかだんの咆哮に、逆にドリームイーターが耳を塞ぐ。
 意志までも揺さぶるほどの轟音は畏怖の念を抱かせ、その場から動くことを許さない。
 モザイクまでも、かき消した。
「人騒がせなドリームイーターにはさっさと退場願わないと、一般の人が安心できないからね。容赦しないよ」
 相手の属性からして、炎の効果が高いのではないかとラティエルは予想する。
 ゲレンデが溶けないよう火力に注意して、御業から炎弾を発射した。
 瞬間の火炎は、ドリームイーターの輪郭に燃え上がる。
「お前等デウスエクスは何処にでも出現するな。『驚き』だ。全て壊す。灰すら残るな」
 それは、これから生まれる総てのドリームイーターへの強い決意。
 小型治療無人機の群れを敵と味方のあいだに並べて、司は護りを固める。
 羽搏けば、ウイングキャットも前衛陣へとバッドステータスへの耐性を付与した。
「皆に……協力頂き。お膳立て、したのですから……ここで、仕留めましょう!」
 ものすごい勢いで手首を回転させ、最大限の威力を溜めて。
 叔牙は言葉に乗せた想いのまま、冷静に拳を撃った。
 ぐぅっと唸る声を漏らして、だが長い爪を叔牙の背中へ突き立てる。
「わあっ、爪なっが!?」
 細かいトコロまでよくよく観察して兎に角、驚きまくるジジ。
 放出するオウガ粒子で、前衛から順に超感覚を覚醒させていく。
 なによりもまずは、皆の命中力上昇を目指して。
「さあさあ、守りはしっかり固めていくよー」
 大きな灰色のリボンを揺らしながら描いた守護星座が、地面に目映く輝いた。
 これで前衛陣全員が、バッドステータスへの耐性を得たことになる。
 ルビーのサポートに応えるように、ミミックは左腕へかぶりついた。

●参
 最初は勢いのあったドリームイーターも、ダメージを受けて少し減速気味。
 ケルベロス達も疲労に負けじと、気合いを入れ直す。
「端子展開、放電開始……Ready Impact!」
 両掌の電撃端子から最大出力で放電し、叔牙が生成する小規模の雷電。
 体術を駆使して、ドリームイーターの背中へ叩きつける。
「いくよ、トパーズ!」
 普段は物静かだが、戦闘中はちょっと攻撃的になる沙慈。
 鋼の鬼と化したオウガメタルとウイングキャットの爪が、同時に炸裂する。
「疲れたら、寝るのが一番。しっかり眠って回復だよー」
 ディフェンダーであるかだんを包み込むのは、ルビーの発する温かい光。
 そのあいだミミックが、偽物の財宝をばら撒いてドリームイーターの気を引いている。
「これ以上、好きにさせるわけにはいかんな」
 主人の言葉に頷くような仕草を見せて、爪を立てるウイングキャット。
 司は可能な限り戦況の把握に努め、惨殺ナイフに写しとったトラウマを具現化する。
「避けられるなんて思わないでよね!?」
 身内のグラビティ・チェインを乗せて、踏み込み面を打つゲシュタルトグレイブ。
 痛そうに抑えて睨みつけてくるが、陽葉も視線を外さない。
 反撃にモザイクが放たれるも、ディフェンダーが割って入った。
「くっ……いまは、そっちを……嘆いている場合じゃねえんだ」
 かだんが視せられたのは、懐かしい故郷や友達だった山の獣達。
 淋しさを満面に湛えつつも、意識を確かに電光石火の蹴りを繰り出す。
「火足り即ち左、水極即ち右、あわせて火水(カミ)の一手となりて降りませよ、降臨諸神諸真人!」
 火と水を召還した両手で以て、己の信ずる神を降ろすラティエル。
 守るための矛であろうと決めたから、攻撃の手は緩めない。
「うちらジャマーのお仕事は当たってナンボ!」
 チャレンジャーなジジが、隙をみて貼り付けておいた爆弾。
 スイッチを押して爆発させ、確実にダメージをあてる。

●肆
 白い息も絶え絶えに、膝を着くドリームイーター。
 終わってみれば、あとは最後の2撃を待つのみだった。
「温かそうな毛皮だけど、僕の凍気にも耐えられるかな? 凍てつけ!」
 陽葉の薙刀は、極低温の凍気を纏う。
 結わえる真っ白な髪を揺らし、空気も凍らせるような一閃を放った。
「全て壊れろデウスエクス。これがテメェ等への送り火だ」
 右腕から巻き起こる蒼炎と烈風を、殴ることでドリームイーターへと叩きこむ司。
 蒼い鳳凰となる爆発は総てを呑み込み、その生命とともに霞のように消えた。
「終わり……ました。ね」
 骸の消滅していくのを確認して、ほっと一息。
 叔牙は荒れた雪面にオーラを溜めて、ヒールしていく。
「ヒールグラ、持っとってよかった~v ね、さっちゃん」
 受付ゲートやリフトなどの施設も、ジジや沙慈を中心に原状復帰。
 カラフルな爆発が起こるたびに、人工物にファンタジーが開花する。
「はい、ジジさん。あの、あとで雪だるまとかつくらない? 可愛いのつくろう」
 ウイングキャットと協力して完成させた折り紙は、灯籠のカタチ。
 柔らかく息を吹きかければ、癒しの光りが灯る。
 申し出が嬉しくて、ジジは沙慈をぎゅっと抱きしめた。
「こんな感じで大丈夫かなー? せっかくだから、ここで遊んでいこうよ」
 客も呼び戻してもらい、賑やかさをとり戻したスキー場。
 八重歯の見える笑みでルビーが提案すると、皆も首を縦に振った。
(「ああ、怖くない、怖くない。頼れる仲間が居すぎて、ちっとも……」)
 白い雪を黙々と踏み歩き、かだんは独り、故郷を想い出す。
 ぼんやりと前を向いて、自分に言い聞かせるように。
「スキーは楽しかった?」
 このあいだにラティエルは、少年宅を訪ねていた。
 すっかり元気になり、とっても楽しかったんだと笑う。
「そういえば私、スキーは経験ないかもなぁ。練習、してみようかな」
 少年の様子を見て、ラティエルのなかには少し前向きな気持ちが生まれていた。
 雪に向き合い、過去を克服するための、小さな希望。
「やっぱりちょっと寒いねぇ……うぅ、温かい飲み物がほしい……」
 スキー場へ戻り、道具をレンタルしてじわじわと、滑ってみるのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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