ミッション破壊作戦～想いの頂

■リプレイ

●声、響かせ
　眼下に広がるは木曽山脈、その一端。
　敵の領域たる場所へと、ケルベロス達は思うままの、心の叫びを以て降下する。
　俺達は仲間と助け合うが、頼り切りにはならない――誰かを操り利用するだけのテメエとは違う。
　鵺咬・シズク（黒鵺・e00464）はヘリオンから飛びつつ、紡ぎグラディウスの切っ先を向ける。
　眼下に広がる緑。この地の魔空回廊も必ず解放するのだとカルナ・ロッシュ（彷徨える霧雨・e05112）は決意秘める。
　いつまでも侵略の楔を残しておくわけにはいきませんから、と。
「グラディウスよ、僕のありったけのグラビティを喰らいなさい」
　そう祈るようにカルナはグラディウスへと語りかけながら降下する。
　そして、触れる間際にその想いを力と共に。
　螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）は手にしたグラディウスを、そして足元を見詰め、降下する。
　セイヤの中にあるのは、故郷を滅ぼし、自身から全てを奪ったドラゴン達への滾るほどの怒りと憎悪だ。
　必ず、ドラゴンは全て討ち滅ぼす――そんな、苛烈なる決意を秘めていた。
　今その想いは、グラディウスに乗せて叩き付けられる刃となる。
「――……覇者を気取っていい気になるなよ？」
　何度侵略しようと喰い止めてやる。
　何度謀略しようと討ち砕いてやる。
　そう疎影・ヒコ（吉兆の百花魁・e00998）は紡いだ。
　その背の羽根は今、飛翔するためでなく身に受ける風を切るものだ。
　降下と共にニケ・セン（六花ノ空・e02547）はストップウォッチをスタートする。霧はどれほどで晴れるのか、今後の為になるようにと。そしてすぐさま、グラディウスを握る。
　私は守りたい！
　最初の言葉は降下と同時に。
「自分の大切な人を、友人たちを、沢山の人々を！！」
　アトリ・カシュタール（空忘れの旅鳥・e11587）は傲慢かもしれない、それでも、守りたいと声をあげる。
「守ってみせる！！　だからこそ」
　その先の言葉は、これから貫く先へ辿り着く瞬間に紡がれる。
　白いうさぎのぬいぐるみ、その手をぎゅっと握りクロエ・ランスター（シャドウエルフの巫術士・e01997）も飛び降りた。
（「戦うの……嫌い……」）
　でも、と少女は小さく呟き言葉飲み込む。
「ウオオオォォォ！！！」
　雄叫びをあげ、ウォリア・トゥバーン（獄界の流浪者・e12736）もまた降下した。
　生きる意味、生まれた理由、それはわからないとウォリアは言う。
「オレ達いつも一人……だから強いヤツと戦って、もっとその先に行く！」
　強さの果ての後継に、求めるモノがあるのかもしれないと。
　その為にウォリアは――強い相手と戦いたい。
　そして強い相手と戦う為に――強くなりたい。
「……最強の果て……その先へ進み続ける程に！」
　そして、刃が触れる瞬間にすべては爆発する。
「大地の……地球の力はテメエだけのモノじゃねえんだよ！　この星の力、利息付きで返して貰うぜ！」
　宣戦布告のように。
「今、ここで終わりにします！」
　自らの決意を高く。
「樹龍ミステル……貴様の本体もいずれ、必ず滅ぼす……！！　これまで滅ぼしてきたヤツ等と同じ様に……！　……だが今は……大人しく封印されていろっ……！！」
　怒りを言葉として。
「俺は、俺たちはこの地を駆る猟犬。護るべきモノを蹂躙され、嘲笑われて尚――黙っていられるほど絶望に飼い慣らされちゃいねぇのさ！」
　矜持を以て絶望を否定して。
「封印されてたのならそのまま眠っているといいよ――配下量産型なんて、お断り！」
　このさらに下、封じられた物に告いで。
「だからこそ、その糸口になる魔空回廊を壊したい！！」
　自分に立てた守りの誓いを刃に乗せて。
「誰か……傷つくの、もっと……嫌い」
　だから、戦う――これ以上……誰も操らせないと決意の想いをその刃へ。
「……ドラゴン！　オマエを超越して……『オレ／我』は最強へまた一歩進むッ！」
　八つのグラディウス、その刃が八人の心の叫びを載せて突き立てられる。
　木曾山脈、その一角にて激しい爆発音が響いた。

●白煙の中で
　雷光と爆炎が響いた。敵は混乱し襲撃には今はまだ、対応できない様子だ。
　しかしこういった中でも、動ける強者はいる。
　木曾山脈に封印された巨大なドラゴン、樹龍ミステル――その複製体が姿を現したのだ。
　緑の体をゆっくり動かし、その鋭き瞳は敵であるケルベロス達を認識した。
「もうおでましか！」
　緑の巨体が白煙の中に見える。シズクはその巨体へと向かい、二振りの斬霊刀を抜き放った。
　限界まで研ぎ澄ました剣気が黒い鵺の形を取る。
「喰らいつけ！　引き裂け！　咬み砕け！」
　　丁度、雷光が周囲を踊っている。鵺にはおあつらえ向きの御馳走。シズクの声と共に敵へと大気中の電気を吸収、増幅し雷獣の如く飛びかかる。
　シズクの声を聴きながらカルナは頭上に黄金の実りを。この耀きを捧げるのは後列の仲間達へ。
「劣化複製体とはいえ油断せずに行きますよ」
　欲を言えば、樹龍ミステルごと破壊してしまいたい。けれどそれは然るべき準備をしてとカルナは思う。
　一気に距離を詰め、降魔刀『叢雲』で緩やかな弧を描き、セイヤはその脚、その腱と思しきところを斬り裂いた。
　硬い樹の感触、その刃は全てを断絶することは簡単ではないと知らしめる。
「俺の全てを以てでも……貴様等を倒すっ……！！！」
　セイヤの漆黒の瞳には強い怒りが見て取れる。
　普段は比較的冷静なセイヤが目の前にいるドラゴン。そのドラゴンが相手であるという想いが心震わせてしまうのだ。
　その姿にまだ序盤だ、落ち着こうかとニケが柔らかに声かけ、セイヤは僅かにその怒りを緩めた。
　ドラゴン――その存在に対して思い入れがあるものはセイヤだけではない。
　ニケにとってもドラゴンとは人一倍思い入れが強い敵なのだ。その紫色の瞳は黄金の果実で中衛の仲間達に耐性の加護を与えながら、敵の能力を見定めるべく向けられている。
　まず攻撃が中らないとどうにもならない。白煙と雷光の間を抜けてヒコは樹龍の身に飛び蹴りを一閃。
「お前に個人的な恨みはないんだがな」
　種族としては忌むべき相手――そしてヒコにとっては倒しがいのある強敵。
　しかしふと、因縁ある知人の姿が過る。その知人を想うと一刻も早く倒さねばならないとも思うのだ。
　すでに敵からの攻撃は向けられている。しかし焦らず、まずやるべきことをアトリは行う。
　一番攻撃を受けることになるだろう前衛の皆の前に現れたのは雷の壁。それは異常耐性を高めるものだ。
　アトリの瞳は決して閉じられることはない。己の力を振るう瞬間、しっかりと戦場を見据えているのは守りたいという堅き誓いがあるからこそだ。
　見上げるばかりの樹龍の巨体。
（「ドラゴン……大きくて、怖い」）
　一歩後ずさりそうになる怖さをクロエは飲み込む。ぎゅっとぬいぐるみを抱いてみんな一緒と呟いた。
「……怖くない」
　そう紡いで、走り込む。脚に流星の煌めきと重力を乗せた蹴りを一撃。
「……来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ……」
　ウォリアは詠唱を紡ぐ。顔面、その右側の炎が踊るように揺らめきながらのそれにより、足元から四方八方に炎が奔り、火柱が吹き上がった。
　その中から現れるのは多様な武具を構えた己の分身。
「……神魔霊獣、聖邪主眷！！！　総て纏めて……いざ尽く絶滅するが好いッ！」
　炎の揺らめきと共に反響する声、現れた分身と共にウォリアは激しい攻撃を繰り出した。一撃であり、また一撃ではないその攻撃が終わると同時に、炎の分身体は灰が崩れるように消滅した。
　そしてその攻撃の中、ウォリアが振るったのは竜殺しの大剣――その大剣の持つ『聖毒』は効くのかどうか、ニケは注意深く観察していた。
　しかしそれがすぐ効いたような、そんなそぶりはない。
「さて、どうなるかな」
　一撃必殺でなくても、じわじわ効けばいいのにねと零しながらミミックが攻撃している姿を目にする。
　樹龍はケルベロス達を薙ぎ払うように攻撃を仕掛けてくる。
　それぞれの攻撃はしっかりとあたっているのだがまだ樹龍を押し崩すには足りないのだ。
　まだ周囲のざわめきが収まらぬ今の内にと、次々に攻撃が畳みかけられる。
　樹龍の攻撃をシズクが庇い受けながら、その直後後方からニケとクロエと続く。
　アトリが庇いだてたシズクへ癒しの力を振るう間にヒコとカルナが絡め手を掛け鈍らせてゆく。二人掛かりで行うそれは徐々に募り、樹龍は確実にその力を制限されていた。
　セイヤが己の想いを込めた強力な一撃を振るい落とすのと合わせてウォリアもその剣を向けた。
　樹龍も攻撃の為動くのだが、一瞬の体の痺れにその機会を奪われまた攻撃を受けるのみ。
　少しずつ白煙と雷光は、薄く弱くなっていた。

●崩れゆくもの
　樹龍との戦いは一進一退。どちらかが何かひとつ取り違えば戦況は傾く気配さえもあった。
　おそらくこの白煙が晴れ、他の敵が統制を取り戻した時がそうなのだろう。
　複数を襲う樹龍の攻撃――それによりアトリは仲間達の状態に常に気を配っていた。
（「私には過去も記憶もないけれど、それでも良いといってくれた大切な人、仲間がいる……それを……何者からも守りたいの……」）
　ドラゴニアンがドラゴンとどんなかかわりがあるかは、アトリにはわからない。けれど確かなのは、敵に違いないということ。
　大切なものを脅かす以上――必ず、必ずとアトリは紫竜の花のお守りを握った。
「旅人達への守護をあなたに……！」
　そして翡翠色の鳥に祈りを捧げ、旅人の――仲間達の行く道を、その戦いを守護する。
「ドラゴンは全て、俺の敵だっ……！！！」
　セイヤは自身の手、その爪を硬化させる。そのまま、懐に飛び込んで振り下ろすが樹龍は相殺するように自らの爪を合わせて弾いた。
　感情を向けた一撃は推しとどめられセイヤは少し距離を取る。
　その間に樹龍がヤドリギを放つ――その一端をシズク、そしてミミックも受け止め、後列の仲間達を守った。
「ヤドリギの無駄遣いとは、罰当たりなヤツだ」
　体に根を張るヤドリギ。しかしそれに阻まれる前に後腐れのないようにきっちりケリつけるぜ！　と裂帛の叫びで振り払う。
　その時間を稼ぐようにクロエは影の如き斬撃を繰り出しその脚を切り裂いて止めた。
　動きの幅を狭めるべく、カルナは攻性植物を伸ばす。振るったそれは樹龍の身と一体化するように絡みついた。樹龍がそれを払おうとすれば攻撃の煽りを喰らうのは必至。
　カルナは絶妙のタイミングでその戒めを解き距離を取る。
　攻撃が重なり、巨体が傾ぐ。
　その瞬間、今がチャンスと後方から狙いつけた攻撃が放たれた。
　ニケの放った矢は妖精の加護を受ける一矢。その矢は急所貫く一撃となり樹龍の呻くような声が響いた。そこへ主に続けとミミックはその口開いてかぶりつく。
「一撃一撃が俺達の魂の叫びだからね」
　決してどれも容易い攻撃じゃないんだよと、戦場であっても穏やかにニケ紡ぐ。
　どの攻撃も全力で、そして支える心もすべてを捧げているのだから。
「弱ってきたみたいだね、一気にいけそうかな」
　冷静に戦況を見てきたニケは相手の限界も近いと見極めていた。
　ニケの言葉に頷いて、デカイ図体では当たり前かとヒコは言う。
　攻撃重なり、相手の命中精度は落ちている。逆にこちらの攻撃は当たりやすい状況になっているのだ。
「世の中は　恋繁しゑや　かくしあらば――……其の望み、抱いたまま零れろ」
　涅槃西風を纏って一蹴。一撃の重さに樹龍は一瞬の白昼夢に浸され甘き痺れを帯びて引き戻される。
　ヒコが離れる一瞬に、シズクと名を呼ぶ。
「どんなにタフだろうと限界はあるはずだぜ！」
　早く落ちろとシズクは二刀を振り抜いた。放たれた衝撃波が十字を描いてその身体を切り裂く。
　仰け反る首を持ちこたえながら、前に立つ者達へ向かい樹龍はその足を阻む攻撃を仕掛ける。
　しかし樹龍の限界は近かった。
　それぞれがもう一撃と攻撃を確実に放ってゆく。
　シズクが鵺に雷纏わせ襲わせれば、他方から氷結の槍騎兵のエネルギー体がその力を振るう。それは召喚者のクロエの心に呼応するように。
「ウオオオオオォォォォーーーッ！！！」
　気が高ぶる。ウォリアの咆哮は戦場に高々と響いた。
　その声は強敵と見えた事への歓びでもある。
　強くなりたい、歩み続けるためにと、目の前の敵は間違いなくその糧となってくれるのだと感じていた。
　己の地獄の炎を纏う竜の爪、それはウォリアが向ける一撃の為に固く鋭く磨かれたもの。
　深く入ったその攻撃に、樹龍は悶える。
「穿て、幻魔の剣よ」
　自らの魔力を圧縮して形成された不可視の魔剣をカルナは展開する。それはカルナの剣であり盾ともなるもの。
　今それは、攻撃にすべての力注いで樹龍へと降り注ぎ、深く突き刺さった。
　仰け反る首元に走り込んだのはセイヤだ。
「イルシオンやメギド、城ヶ島のドラゴン共など、数多の竜を葬って来た……貴様も必ず……っ！！」
　叫びと共に、全身に漆黒のオーラが漲る。利き腕のオーラは黒龍を象り樹龍へと向けられた。
「打ち貫け！！　魔龍の双牙ッッ！！」
　オーラを纏った拳により全力の破壊の一撃が叩き込まれる。
　その轟音の中、まだ樹龍はどうにか立っていたのだ。
　樹龍はその身を回復しようと動く。しかし、それは今まで募った阻害によって阻まれた。
　その間にニケは矢を番えていた。
「これでさよならだよ」
　放たれたのは心を貫くエネルギーの矢。それは樹龍を眠りに誘うように貫いた。
　樹龍ミステルの複製体は倒れ、朽ち果ててゆく。
　そして周囲の敵も混乱を収めてきた様子だ。しかし白煙はまだうっすらと漂い、完全に視界が開けているわけではない。
「壊せませんでした……」
　アトリはこの先に魔空回廊が、と白煙が晴れ行く先を見る。しかし、今は撤退が優先だ。
　この場所を解放はできなかったが、戦果としては十分。
「さて、東風にのせ春と勝利を告げようか」
　風を喚ぶ御守を懐から取出したヒコは撤退先を示しクロエと声かける。クロエは頷いて先をゆく。植物達はケルベロス達の歩みを妨げない。
　時間にしてほんの数分の出来事だ。この木曽山脈に赴く機会はまだある――これ以上ここに長居する意味はないとケルベロス達は撤退した。

作者：志羽	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月18日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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