遥か遠海の幽霊船

作者:犬塚ひなこ

●噂の幽火
 凍えるほど寒い夜の海に幽霊船が現れる。
 妖しい火に包まれた船は新たな乗組員を求めて海を彷徨っている。幽霊船に見つかった者は命を奪われ、死者として乗船させられてしまう。初めてその噂を聞いたとき、何故だか胸が高鳴った。
 或る海沿いの街、噂通りの寒い夜のこと。
 少年はランプを片手に家を飛び出し、暗い海を眺めていた。
「見えるかな、幽霊船……。見つからなければ見るだけで済むし、ね」
 クラスの誰もがその噂を信じてはいなかった。子供を夜に出歩かせない為の大人の作り話だ、と。だが、少年だけは本当に違いないと噂を信じきっていた。
 岩陰に隠れた少年は目を凝らして海を見つめ続けたが、何時まで経っても船など現れる筈がない。
「今日は寒い夜のはずなのにな。もっと探さないと無理なのかな……」
 そのとき――凍える風が肌を撫で、少年の背に悪寒が走る。されど寒さを感じたのは冬の寒さの所為だけではなかった。
 突如として少年の背後に現れた魔女が冷たい視線を向けていたからだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 パッチワークの魔女、アウゲイアスはそういうと彼の胸に魔鍵を突き刺した。一瞬のうちに『興味』を奪われた少年は岩陰に崩れ落ちる。
 そして、その場から魔女が去った後――海辺には興味を具現化したおどろおどろしい幽霊船の夢喰いが出現していた。
 
●海辺に彷徨う
「幽霊船か。また妙な物に『興味』が向かったもんだぜ」
 此処最近、多発しているドリームイーターの事件が見つかったと語り、スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)は肩を竦めてみせた。
 夢を奪った魔女は既に姿を消しているようだが、奪われた興味を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしている。ヘリオライダーから伝え聞いた話を説明したスピノザは、協力して欲しいと仲間に願った。
「場所は海辺の街。地域で言うとこの辺りになるな」
 スピノザは用意した地図を広げ、とある海岸を指さした。
 現れた幽霊船型のドリームイーターは空中を浮遊しながら周辺を彷徨っているらしい。時刻が夜という事もあってケルベロス達が現場に向かう際、周囲に人の気配はない。
 だが、現時点で幽霊船が海辺の何処にいるかは掴めていない。
「まずは敵を誘き寄せないといけないらしいぜ。確か、噂を信じていたり話をしている奴が居ると引き寄せられる性質があるみたいだな」
 それを利用してうまく誘き出せば有利に戦えると話し、スピノザは敵の能力についての注意をあげてゆく。
 敵の見た目は物語に出てくるような幽霊船そのもの。
 夢喰いは見る者を殺して乗組員として組み込もうと狙い、人とあらば無差別に襲ってくる。攻撃時は幻影の骸骨兵を出現させて来る他、幽霊めいた青い火や惑わしの効果を持つ灯火を放ってくるだろう。
「まあ俺達の手にかかれば何てことない相手だ。油断さえしなけりゃな」
 ケルベロスとしての力を見せてやろうぜ、と薄く笑ったスピノザは腰に提げていた銃を静かに撫でた。そうして、ふと呟く。
「それにしても海辺の街か……少し、似てるな」
 無意識に言葉が零れ落ちた事に気付き、スピノザは何でもないと顔をあげた。
 確かに少年は夜の海という危ない場所に赴いた。
 だが、それでも何に興味を抱くかや何を好きになるかなど、知的好奇心を持つこと自体は悪いことではない。そうだろ、と仲間達に問いかけたスピノザは手にしていたコインを指先で軽く弾いた。
 宙に躍った硬貨は煌めきを反射しながら回転し、彼の手で掴み取られる。
「助けてやるとするか。ほら、コインも行くべきだと示してるからな」
 そう云って、悪戯っぽく口元を緩めたスピノザが見せたそれは確りと表を向いていた。


参加者
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
サイファ・クロード(零・e06460)
スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)

■リプレイ

●夜の海
 冷たい北風が頬を撫で、冬の寒さを知らしめる。
 漣の音が響き渡る海岸に踏み込み、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)は夜空を見上げてみた。空と海の境界は遠く、遥か遠海は暗さに紛れて見えない。
 海洋譚に幽霊船はつきもの。こんな夜更けに人気がない黒い水面にこそ幽霊船が現れると語られてもおかしくはない。
 確か、故郷でも幽霊船の噂話は聞いたことがある。そんな語り口で、スピノザ・リンハート(忠誠と復讐を弾丸に秘め・e21678)は幼い頃に思いを巡らせた。
「俺もガキの頃は、噂に惹かれて夜の海に来たもんだ……懐かしいぜ」
 スピノザは白く染まった吐息が夜の空気に混ざり消えてゆく様を見送り、仲間達の方に振り返った。始めようぜ、という誘いから幕開けるのは敵を誘き寄せる為の噂話。
 朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)は頷き、仲間達と共に海を眺めた。
「幽霊船と言えば海賊。子供の頃、凄く憧れたよね」
 きっと少年も憧れていたんだろう。そう考え、斑鳩は必ず助けてやると心に決める。
 続けてルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が、少年らしいわくわくした様子でとある伝承について語る。
「幽霊船と言えば、やっぱりフライング・ダッチマンの伝承だよな!」
 ルトが知る話の内容は、こうだ。
 止まない嵐に怒った船長が神への呪いの言葉を口にした。
 嵐こそ止みはしたものの彼等は悪魔に呪われてしまい、永遠に海を彷徨う幽霊船になってしまったという。
 なるほどな、とサイファ・クロード(零・e06460)は興味津々に相槌を打つ。
「幽霊船ってロマン以外の何ものでもないよなあ」
 生きてる間にお目にかかりたい、とサイファは憧れを口にした。だが、今回の噂では見つかってしまえば強制的に乗組員にされてしまうらしい。まさかな、と首を振ったサイファはふと海の方を見遣る。
 そのとき、遠くにぼんやりした影が見えた。
 波間に揺れる船。おそらくあれが夢喰いとして具現化した存在だろう。
 海を感じる為に塩飴を舐めていたフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)は敵が来たと感じ、更に引き寄せる為に船の話をしてゆく。
「うおお、ワクワクしてきたね。船といえば海。そして海といえばそう、マグロ漁だよ!」
「……ん?」
 フェクトが自信満々に語った話にスピノザが首を傾げた。
 同時に幽霊船の影がすうっと遠ざかる。漁船の話はどうやら誘き寄せの話としては間違えていたらしい。夢喰いがそのまま水平線の彼方にフェードアウトしそうになった瞬間、ルトが慌てて両手を振る。
「なっ……待て、待ってくれ! 皆、幽霊船の話の続きだ!」
 その呼び掛けに応え、ネロが言葉を継ぐ。
「夜の海に漂い出る幽霊船だなんて、中々物語として出来ているじゃあないか。ネロは大好きだぞ、そういうの!」
 すると、去ろうとしていた船がぴたりと止まった。
 香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)も続けて船への思いを紡いでゆく。
「そうや、寒い夜に現れる幽霊船……なんや雰囲気あるよねぇ。幽霊船の中、ちょっと探険してみたいかも!」
 楽しげに雪斗が語ると、シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)も期待に満ちた瞳を海に向けた。
「やっぱりワクワクしてしまいますね。さすがに幽霊船は探検したことがありませんでしたから、本当にあるのならぜひ探検してみたいです」
 懸命なシャルローネ達の言葉によって、去っていこうとした船が戻ってくる。何とか誘き寄せはうまくいったようだ。
 ごめんね、と仲間に謝ったフェクトは安堵を抱き、戦いに備える。
 やがて、ゆらゆらと揺らめく火を纏った幽霊船がケルベロスの前に現れた。
「引きずり込まれるのはゴメンだが……まるで漁火みたいだな」
 やるか、と呟いたスピノザがリボルバー銃を構え、夢喰いに銃口を差し向ける。彼の動作を合図にして仲間達も其々に身構え、戦いは始まりを迎えた。

●幽霊船の火
 ケルベロス達を標的と見做した船は敵意めいた雰囲気を纏う。
 先手を取ったのはドリームイーターの方だった。幽火が燃えあがり、サイファに向けて放たれた。しかし、前に踏み出した雪斗がその一撃を肩代わりする。
「う、うわ……結構本格的……!」
 代わりに六花ノ舞を放った雪斗は敵を見据えた。噂話をしている間は出会うのが楽しみではあったが、いざ本物を目の前にすると圧倒されるような気がする。
 雪斗は震えそうになった身体を押さえ、痛みに耐えた。無理はしないで、と仲間に告げた斑鳩は地面を蹴り、浜辺まであがってきた船に向けて駆け出す。
「確かに小振りだけど雰囲気は出てるね」
 斑鳩は幽霊船を見遣り、炎を纏う蹴撃を見舞う。確かに、と答えたサイファだったが、激しく襲い来る船の姿にはいまいち風情が無いとも感じていた。
「幽霊の正体見たり何とやらってね」
 次の瞬間、前衛に防護の雷壁が展開される。それからサイファは杖を構え直し、更なる力を紡いでいった。
 其処に続き、ネロが紙兵を散布していく。
「やあ、幽霊船そのものと戦えると云う経験は中々無いからな!」
「けれどあれは幽霊船もどきってところだな。さて、遠慮なくいくぜ!」
 ネロの力が施されていく中、ルトは刃に宿した星座の力を解き放った。星光の一閃が船体を穿ち、マストを凍り付かせる。
 その間にシャルローネは戦場を見渡し、未だ癒しは必要ないと判断した。
「行きます。この子達はちょっと乱暴者、ですよ」
 シャルローネは掌を天高く掲げ、夜の案内人を召喚する。その場に現れた三体の小人達は主の命によって敵に向かい、暴虐の限りを尽くそうと暴れはじめた。
 仲間達が次々と行動に移っていく最中、スピノザは銃弾を敵へと放つ。
「人を襲うとか、シャレになんねーぜ。こういうのは遠くから面白がって眺めたり、本気にならない程度に怖がるのがちょうどいいもんだ」
 途端に浮かんでいた船の真下の地面に強い重力が生まれた。足止めされる形になった幽霊船は動き辛そうな様子を見せたが、更なる力を紡ごうとした。
 だが、フェクトも皆の勢いに続いて雷杖を掲げる。
「幽霊なんて神様からしたらいい的だね! 一発成仏させて神様ポイント爆稼ぎ!」
 自称神様の少女は二本の杖を大きく振り、周囲に光、闇、水、地、星、と様々な概念を創造した。刹那、神の力が敵を貫くために迸る。
 魔力が幽霊船を包んだと思った瞬間、敵は幻の骸骨達を生成した。乗組員らしきそれらはルトに向かって突撃していく。
 身構えたルトは骸骨達の一撃に耐え、地面を踏み締めた。ネロが大丈夫かいと仲間に問えば、ルトは平気だと答える。
 ネロは良かったと頷き、船を見つめた。
「君はフライング・ダッチマン? それともメアリ・セレスト?」
 機嫌良く船体に語り掛けたネロはファミリアロッドを撫でる。すると杖は夜色の眼をした白い蜥蜴に変わった。指先でその頭を撫でたネロが、宜しく頼むよ、と告げると白蜥蜴は幽霊船に立ち向かっていく。
 雪斗とサイファも今一度の攻撃に移り、戦いは巡っていった。
 そして、負けるか、と呟いたルトは腰に携えたジャンビーアを抜く。其処に現れた扉が開けば荒れ狂う風が巻き起こり、召喚された幻獣達が飛翔した。
 もしかすれば件の話のように風が船の怒りを誘発するかもしれない。そう思ったルトだったが、船体は平然としていた。
「少年の夢の化身だからか、流石に伝承のようにはならないな」
 獣達が幽霊船を斬り刻む中、ルトは軽く肩を落とす。されどその瞳はしっかりと戦いを見据えていた。攻撃を受けた彼の様子を察し、シャルローネはすぐに癒しに移る。
「大丈夫です。いま治しますから」
 魔術による回復の力が施され、痛みごと傷を取り払った。
 敵の力は八人を一気に相手取っても尚余裕をみせるほどではあるが、こうしてひとつずつ対処していけば怖いものではない。シャルローネは癒しに徹しようと心に決め、戦況を見誤らぬよう気を付けていく。
「こうしてみると、やっぱりなんだかカッコいいなぁ」
 続いていく戦いの中、斑鳩は幽霊船を改めて瞳に映した。けれど容赦はしないと語るようにして、斑鳩は強烈無比な火炎と雷の拳撃を放つ。
 キュクロプスの雷霆が迸っていく機に合わせ、雪斗はバスターライフルを構えた。
「そうや、もう怖くなんてない。油断も慢心もせんと行くね」
 当初に感じた恐怖は既に消えており、雪斗の眼差しには真剣さが宿っている。凍結の光は狙い通りに敵を貫き、船体を凍らせた。
 徐々にではあるが幽霊船の見た目は崩れてきている。
「元漁師の息子として、船を破壊するのは忍びねーが……これが戦いだからな」
 スピノザは頭を振り、思い切り地面を蹴った。その勢いによって海辺の砂が散り、魔力の炎が巻き起こる。スピノザの蹴撃が激しく船体を穿ち、マストの一部が折れた。
 フェクトはこれが好機だと感じ取り、拳を握る。
「なんだかもうすぐ倒せそうな雰囲気だね。よーしやる気出てきたよーっ!」
 素早く駆けたフェクトの元気よく放たれた一撃によって、更に船体が壊れていった。よくやったな、と少女に声をかけたサイファも身構えることで備える。
 挑発の灯火が放たれたが、彼はその一閃を軽く躱した。お見事です、とシャルローネがサイファへ賞賛の眼差しを送る。
「間もなくですね。頑張りましょう」
「ああ、最後まで愉しもうじゃないか」
 シャルローネの言葉に続き、ネロが静かに頷く。そして、サイファも敵を見据える。
「壊れゆく船、か。怖いというより綺麗……かもしれないな」
 崩れかけたその姿には何故か惹かれてしまう。だが、それが夢喰いであるならば壊すのみ。放たれた一閃は強く、幽霊船の帆先を砕いた。

●船の末路
 戦いは激しく巡り、攻防が繰り広げられる。
 ドリームイーターからの攻撃も厳しかったが、こちらには前半戦でネロやサイファが施した守護の力があった。更には雪斗達が仲間を庇い、シャルローネがずっと癒しに専念していたおかげで未だ誰も倒れる気配は無い。
 ルトは仲間達に頼もしさを覚えながら、刃の切っ先を敵に差し向けた。
「一気に畳みかけて行こう。更に船体をバラバラにしてやるぜ!」
 これまでに付与した炎や氷、足止め。それらを更なる力とする為にルトは幾重もの斬撃を見舞っていった。
 スピノザと斑鳩もルトに合わせ、それぞれの攻撃を重ねていく。スピノザの時空凍結弾が放たれる中、斑鳩は詠唱の言葉を口にした。
「――高貴なる天空よりの力よ、無比なる炎と雷撃にて全てを焼き尽せ」
 再び紡がれた炎と雷が天から降りそそぎ、幽霊船を確実に弱らせていく。フェクトはしかと敵を見つめ、大漁旗に見立てた杖を振り上げた。
「幽霊って事は未練があるのかな。私が……神様がそれを解消してあげるよ!」
 フェクトの雷撃が敵を貫く様を捉えながら、シャルローネは小さく笑む。
「そろそろ頃合い、でしょうか。では……失礼して」
 そしてシャルローネは今一度、夜の案内人達を呼び出した。雪斗も魔力を練り上げ、其処に一閃を添える。
「吹雪の中の幽霊船、なんていうのも中々雰囲気あるよねぇ?」
 吹き荒ぶ白い一閃が敵を包む最中、雪斗が差し向けたのは凍えてしまうほどに冷たい笑み。激しい攻撃が敵の力を奪い、いよいよ終わりが見え始めた。
 船からは骸骨達が突撃してきたが、ネロは動じずに双眸を細める。さあ、と手招きをして敢えて敵を呼んだネロが咲かせるのは、悪辣の花。
「無骨な幽霊船でも、花で飾れば華やかだろう? 如何かね、乗組員諸君!」
 その花のいろは死人の賜物。
 見る間に足許から桜が咲き、その枝が敵を搦め捕る。
 サイファは既に見る影もなくなった幽霊船へ、少し悲しげな顔を向けた。
「夢喰いじゃなかったら良かったのにな。……でも、今度は無害な夢になって子供たちを楽しませてあげてくれよ?」
 其処からすぐに攻勢に移ったサイファは敵にのみマンドラゴラの叫びを聞かせる。揺らぐ気配が船から伝わり、スピノザは一瞬だけ目を瞑った。
 船は人を守るためにあるもの。襲うために存在しているのではない。海を、船を知る者としてそれだけは断言できた。
「海に還してやるよ。跡形もなく、な」
 スピノザは銃口を敵に向け、彼なりの別れの言葉を送る。
 そして――夢から生まれた幽霊船は完全に崩れ落ち、無に帰した。

●憧れは海の果てに
 静けさが満ち、海辺には来た時と変わらぬ波の音が響く。
 斑鳩は戦いが終わったのだと感じ、仲間と共に倒れている少年の元へ向かう。
「見て、少年がいたよ」
「ほら、目を覚ましたみたい!」
 フェクトがひょこっと岩場の影を覗き込むと、ちょうど少年が起き上がる所だった。
「あれ? 僕、どうして……?」
 首を傾げる彼の横に屈み込み、シャルローネは事情を説明してやる。
「もう少しで攫われちゃうところだったんですよ?」
 笑いながら冗談めかしたシャルローネだったが、危険だったのは間違いない。雪斗も傍につき、彼の頭を優しく撫でた。
「怖い夢やったね。……もう大丈夫やよ」
 少年の身には傷ひとつなく無事なまま。だが、信じていた噂が夢喰いになったという事実を知った彼は少しばかり落ち込んでいるようだった。
 サイファはどうしたものかと考え、一先ずの注意を少年に告げる。
「一人で危ないところに行くのはダメだぞ」
「幽霊船に興味を持つ気持ちはわかるけどな、あまり周りに心配かけんなよ」
 スピノザも戒めとして一言を付け加える。
「はい……ごめんなさい」
「……だから今度一緒に行こっか?」
 しかし、謝る彼にサイファは笑みを向ける。自分は怖いものが苦手だからキミが先頭な、とそっと耳打ちされた言葉に少年はぱっと顔をあげて大きく頷いた。
 噂が本当ではなくとも、夜の冒険は心躍るもの。
 もう彼は大丈夫だろうと感じたルトは安堵を覚え、遥か遠海の水平線を見つめる。今回の相手は夢喰いではあったが、幽霊船の伝承は浪漫そのもの。
「空と同じで、海だってこんなに広いんだ。もしかしたらそのどこかには、本物の幽霊船がいるのかも知れないぜ」
「そうだな。それにさ、昼に見る船ってのもいいもんだぜ」
 ルトが希望を口にすると、スピノザは薄く笑んで少年の肩を軽く叩いた。
 少年はルトの視線の先を目で追い、うん、と強く答える。その瞳には冒険に憧れる男の子特有の輝きが見て取れた。
 ネロは微笑ましさに目を細め、仲間達と一緒に海を眺める。吹き抜けた風は冷たいが、耳に届く波の音は不思議な力強さを感じさせてくれた。
 冒険好きの男の子に、いつか幽霊船に出逢えるような素敵な夜が在ると良い。
 そう願ってやまない、静かな夜のひとときが流れてゆく。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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