北の殺意

■リプレイ

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「わざわざここまで運ばれたかのかは気になるけど、眠っていたところを起こされた気分は最悪だろうね」
　そう言って振り返る小華和・凛（夢色万華鏡・e00011）の三つ編みにした金髪が揺れ、ウイングキャットの『白雪』が、同意を示す様にふわふわの白い毛を揺らしコクコクと頷き、
「それも永久の眠りからですから、尚更でしょう」
　同じ様に頷いた桐生・冬馬（レプリカントの刀剣士・en0019）の纏めた白い髪が、一陣の風に煽られて踊る。
「かと言って一般人に被害を出す訳にはいかない。後手に回った故その場限りの対処しかできないのが悔しいが、押し留めるぞ冬馬」
　そう冬馬を見遣り、R.F.NVゴーグルを装備し、闇の中での視界を確保するマティアス・エルンスト（レプリフォース第二代団長・e18301）。
「……目覚めさせられた事より、意思もない人形にされてしまったこと……そう死者を侮辱した死神が許せないのです。ね、ヘメラちゃん」
　その後ろで、ロゼ・アウランジェ（時謡いの薔薇姫・e00275）が頬を膨らませた顔を向けると、偽翼を付けたテレビウムの『ヘメラ』も、怒っている顔を映し、ぶんぶんと縦に首を振る。
「あれ……だね」
　目を細めた四乃森・沙雪（陰陽師・e00645）が指す方……湿地帯の方から闇に人影がうっすらと見え、周囲を漂う影も見て取れた。
「クソ野郎のお出ましってか。そのまま眠っときゃいいもんを……あんな魚に踊らされやがって」
「ほんと優雅に泳いじゃって……相変わらず死神ってのはむかつくわね。死者を操るなんて、今を懸命に生きる者への冒涜ってやつよ」
　その影に目を凝らしたアルヴァ・シャムス（逃げ水・e00803）がそう吐き捨て、沙雪と同じ様に目を細め、純白の入場用マントを外した稲垣・晴香（伝説の後継者・e00734）がその右拳で左掌を打つ。
「思ったより見えるな。あたしはこれ必要ないか……」
　その隣、紫煙を漂わせ、革手袋で掴んだ暗視ゴーグルに目を落としたハンナ・カレン（トランスポーター・e16754）が、ゴーグルを装着するマティアスの方に視線を這わせてから、それを後ろに放り投げる。
「まったくこの厳しくも美しい自然溢れる大地に無粋なものよ……」
　近づいて来る事で、ケルベロス達の用意した灯に晒され、姿が露わになるドラグナーと怪魚をそう評したのはアベル・ウォークライ（ブラックドラゴン・e04735）。
　その灯りの中に浮かび上がるケルベロス達を視認したのであろう。
　ドラグナーの足が止まり訝しげに小首を傾げると、周囲を泳ぐ怪魚達がガチガチと牙を鳴らし、その動きを速める。
「……コロ……ス」
　次の瞬間、そう呟いき僅かに腰を落としたドラグナーが地面を蹴ると、
「やれやれ、損な役回りだぜ、まったくよ」
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
　苦笑と共に咥えていた煙草をドラグナーに向けて飛ばしたハンナが、巨大な刃を振り上げ、印を結んだ沙雪がその刀身に指を滑らせた。

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「はっ……分かり易くて助かるぜ、クソ野郎。露払いは俺様に任せろや」
　２体の怪魚が怨恨弾を吐き、その弾と共に突っ込んで来るドラグナーと２体の怪魚を見たアルヴァが軽口を叩くと、愛刀『夕星』に空の霊力を纏わせ、ドラグナーの右に寄り添って来た怪魚を裂くが、怪魚も身を捩ってアルヴァの左肩に食らい付き、先程穿った傷がやや塞がる。
「生憎とリング上じゃないから、ノータッチでいかせて貰うわよ」　
　そこにリングシューズで地面を蹴った晴香が、滞空時間の長いドロップキックを見舞って怪魚を押し返す。
　正面から迎え撃ったハンナとマティアスが、ドラグナーを怒らせながら引き付けており、突っ込んで来たもう１体の怪魚は、突っ込んだアベルが振るう鎌の刃に牙を突き立てている。
「皆様は私達が支え守ります。希望を……この声が届く限り何度でも歌いましょう」
　詠う様なロゼの声と共に、放出されたオウガ粒子が前衛陣の感覚を研ぎ澄まし、ヘメラはチアガール達が踊る姿を映し出してアルヴァを応援している。
「このクソ野郎。三下にいつまでも時間を掛けてられねぇんだよ。頼んだぜ！」
　トンボを切って再び牙を鳴らして向かって来る怪魚に対し、最後仲間の方を見てそう声を上げたアルヴァが食らい付かれる直前、死天剣戟陣で降らせた刃が、前面の２体の怪魚とドラグナーに降り注ぐ。
「！　根性だけはある様ね！」
　晴香が口角を上げて言う様に、向かって来た怪魚は降る刃に鱗を散らしながらもアルヴァに牙を突き立てた！
「ヘメラ！」
　自身のテレビウムを呼んだロゼがスイッチを押すと、カラフルな爆発が起こって彼女の髪に咲く七彩の薔薇を揺らし、指示されたメヘラは白いマイクを振りながらアルヴァに向けて応援動画を流す。
　その間、後ろからの怨恨弾に撃たれながらも、もう１体の抑えを凛に任せたアベルに冬馬そして沙雪が、アルヴァに食らい付く怪魚に横撃を見舞い、
「こんな人気のない所で戦うとか、プロレスラーとして商売あがったりなの。とっとと片付けさせてもらうわよ」
　その怪魚を掴んだ晴香が仰け反る様にして、怪魚の頭を地面に叩き付けた。
　地面に頭をめり込ませ突き立った尻尾がピクピクと痙攣するが、それも僅かな間で直ぐに動かなくなると、皆は凛の抑える怪魚に向かう。

　怪魚型の死神を先に始末する事を決めたケルベロス達の中にあって、ドラグナーの押えを任されたのはハンナとマティアスの２人。
「コロス……」
「怒りで動きが直線的になっているな。バカがよくやる悪い癖だ」
　両腕を右に振り被って迫るドラグナーをそう評したハンナが、振るわれる両斧に鉄塊剣を叩き付ける。その反動を殺さず、体を一回転させて反対の左からハンナに斧を振るったドラグナーも流石だが、手首の動きだけで自身の頭上を回る様に弧を描いた鉄塊剣の切っ先を地面に突き立て、足を添えてそれを防いだハンナも見事であった。
「ギギッ……」
　連続で攻撃を阻まれ歯噛みするドラグナーの脇に、至近距離から生命力を喰らう炎弾を叩き込むハンナ。
「攻撃起動、計算完了。ハンナ下だ」
　後ろからのマティアスの声に上体を沈めたハンナ。先程までハンナの首があった場所を、マティアスが振るう機械的な『Schwert』の刃が剣圧と共に抜け、ドラグナーを一閃する。
「あちらも上々か」
　その間に転がり出たハンナが体勢を立て直して視線を這わすと、２体目の怪魚がアベルと凛の攻撃に沈み、沙雪の援護を受けながら怨恨弾を飛ばす２体に向け、駆けてゆくアルヴァと晴香の姿。
「……どうした？　お前の相手は、俺だ」
　唸りながら冬馬達の方に視線を向けるドラグナーを挑発するマティアス。
　キッとマティアスを睨んだドラグナーが広範囲に紅蓮のブレスを吐くが、生憎とマティアスの近くに他の者は居らずダメージは限定的だ。
「いやいや、あんたの相手はあたしだろ？」
　ロゼがマティアスに回復を飛ばす間に、鉄塊剣を肩に担ぐ様に構えたハンナが、濡れた椿色に彩られた唇から言葉を漏らして地面を蹴る。

「アベル、後はよろしくだよ」
　鈴音を響かせつつ白雪の飛ばしたリングと共に宙を舞った凛が、重い飛び蹴りを見舞い、そう言いながら怪魚の顔を蹴って跳び退さると、
「ドラゴニック・グランドクロー！」
　アベルの巨大化した竜爪が裂く空間が歪み、生じ出た超重力の衝撃波が、凛の蹴った怪魚の額から尾の先まで突き抜けてその身を砕く。
「祓い給い、清め給え、……槍騎、招来、急急如律令！」
　沙雪は投じた護符を氷雪纏う騎士と化して突っ込ませようとしていたが、崩れ落ちる怪魚を見て、標的をその後ろから怨恨弾を飛ばす怪魚へと変えて突っ込ませ、アルヴァと晴香が、それと歩調を合わせて駆けてゆく。
「ロゼは二人を！　一気に片付けるぞ、全力突撃！」
　ロゼにドラグナーを相手取るアティアスとハンナの援護を託したアベルは、龍神の外套を翻し湾曲した双刃の大鎌を頭上で振り回しながら、残る怪魚目掛けて突っ込んでゆく。
「さて、今回の薬はどの程度効いてくれるかな」
　２つの怨恨弾に太腿辺りを撃ち抜かれた冬馬に、錠剤に衝撃を加えて華を咲かせて癒す凛。白雪も羽ばたいて仕寄るケルベロス達に清浄の風を送り続けている。
「感謝します」
　凛に短くそう言って、怪魚に太刀を振るう冬馬。
　頼みの綱であるドラグナーも怒りに我を忘れて２人を追い回しており、４匹でも止められなかったものが２匹で止められる筈もなく、次々と放たれるケルベロス達の波状攻撃に鱗を散らす怪魚達。
「鬼魔駆逐、破邪、火之迦具土神！　臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前！」
　刀印を結び九字を斬った沙雪の放った破邪の炎が怪魚の一体を灼滅し、黒焦げになった怪魚は嫌な臭いの煙を上げながら地面に突っ込み、尻尾で地面を叩く。
「……行くぞ！」
　そう短く発し踵を返すアベル。
　その声に沙雪が顔を向けると、既に最後の１体は晴香によって投げられたところに、アベルの吶喊を喰らい、両断され痙攣していたのだった。

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「っと……」
　双斧の刃と鉄塊剣がぶつかる度に激しい衝突音が響き、睨み合うドラグナーとハンナ。直後、ドラグナーの尻尾が薙がれハンナが足元をすくわれ、尻もちをつく様な形なるが、
「させない。ん？」
　Photonenstrahl Generatorから現した光剣を手に庇う様に前に出るマティアスは、ドラグナーの向こうから跳び上がって来たテレビウム……ヘメラに気付き、そのヘメラはドラグナーのこめかみに白いマイクを叩き付け、ハンナが足払いをかますと、ドラグナーの気が逸れた瞬間にマティアスも光剣の一閃を叩き込む。
「ガ、ガアアアアアアア！」
　咆えるドラグナーの体から禍々しい漆黒のオーラが立ち上り、空気がビリビリと震える。……が、その空気を裂く様に、怪魚達を片付けた仲間達の姿がドラグナー越しにマティアスの瞳に映る。
「この圧……攻撃力が増したかな。と言う事は追い込まれていると言う事、あと一息だ。頑張ろうか」
　凛が降らす癒しの雨を受けながら、
「今日のメインイベントね。できれば貴方みたいな相手とは、生前に堂々やりあいたかったわ！」
　リングコスチュームで颯爽と掛ける晴香。もしここに観客が居れば大歓声であったであろう流れる様な動作で飛び蹴りを見舞い、ドラグナーを蹴って空中で一回転する。
「この命の炎、仮初の命しかない貴様に消せると思うか！」
　その宙を舞う晴香の下をくぐる形で仕寄ったアベルが、大鎌を薙いでドラグナーを裂く。
「ンーーガァ！」
　大きく息を吸い込んで、威力の増した紅蓮のブレスを吐くドラグナー。
「おら、ここはもう一丁だぜ」
　そのブレスに焦がされながらも、バレーボールのレシーブポーズをとったアルヴァが、宙を舞って着地しようとする晴香の足をレシーブして跳ね上げると、再び両腕を横に伸ばして晴香が宙を舞い、
「私の視線が届く範囲、この腕が伸ばせる範囲では、誰も倒れさせはしません！」
　ロゼが詠う様に口を開き、毛先が桜色になった金髪をリズムを刻む様に揺らして、オウガ粒子を放出し仲間を回復する。
「祓い給い、清め給え、禁縄、禁縛、急急如律令！」
「哀れな魂を……ただ斬るのみ！」
　沙雪が破邪の法を用いて喚んだ御業がドラグナーを縛り、冬馬が右に斬り抜けると、それに続いたアルヴァも左へ斬り抜け、ダメ押しとばかりに上から晴香が襲い掛かる。
「ふっ……まったく耐えた甲斐があるってものだな」
「大丈夫か？　冬馬」
　流れる様な仲間の波状攻撃にハンナが微笑を浮かべ、尻尾に薙がれて弾き飛ばされた冬馬と、アベルを庇って飛ばされた白雪をマティアスが支える。

　前後左右に上からも攻められ、闇雲にブレスを吐いて尾を振り回し二丁斧を振り回すドラグナー。
「鬼魔駆逐、破邪、火之迦具土神！　臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前！」
「天の原あかねさし出づる光には いづれの沼かさえのこるべき」
　刀印を刻む沙雪が呼ぶは天津神『火之迦具土神』の炎。その炎と、菅原道真の詩を口ずさみ、アイヌの老女の姿をした火の神『アペフチ』の力を得たアルヴァの刃。２つの神の炎で火勢を増した一撃が、ドラグナーの身を強かに穿ちその傷口が焼けただれる。
「グオッ……」
　苦悶に顔を歪めたドラグナーだったが、それでも庇おうとした白雪を押し退け、二丁の斧をアルヴァに叩き込んだ。
「きらりきらり夢幻の泡沫。生と死の揺籠、幾億数多の命抱き。はじまりとおわり、過去と未来と現在繋げ咲き誇る時の華―導きを」
　後ろからロゼが六つの金翼を開いて詩を紡ぐと、光の薔薇と異郷の言葉に彩られた魔法陣が煌めき、今しがた穿たれたアルヴァの傷を癒す。
「異形よ、地の底に沈め！」
　そこにアベルのアームドフォートが連続で火を吹き、ドラグナーの体表が爆ぜると、ドラグラーの纏うオーラが勢いを増して邪な瘴気が漂い、
「ゴロズゥ……」
　凄まじい勢いのブレスが前衛陣に叩きつけられ、晴香を庇った白雪と、丁度斬り掛るところで至近距離に居た冬馬が火達磨になる。
「白雪！　冬馬！　……良薬は口に苦し」
　凛はヘメラが白雪を応援しているのを確認すると、冬馬に回復を飛ばし、
「攻撃の隙を与えるな！　一気に押し込めェ！」
　その身を燻らせながらも、双鎌で双斧と打ち合うアベルが怒声を上げ、そのアベルの背後から左に躍り出たのはマティアス。
「なかなかの力だな。……だが、相手を見て喧嘩を売る事だ」
　僅かに口角を上げたマティアスの周囲に、次々と大剣が現れドラグナーに斬り掛ると、
「この一撃を、不沈艦ことスタン・ハンセン氏に捧ぐ」
　右側に踊り出た晴香の強烈なラリアットの一撃にドラグナーの体が、地面と水平になる形で吹っ飛んだ……そこにハンナ。
「悪いな。あたしは素手の方が得意なんでね」
　腰に貯めて繰り出した拳が、ドラグナーの胸板を貫いた。
「ゴ……ガ……ガフッ……ウ……オ……」
　風穴を開けられ呻きながらドス黒い血を吐いたドラグナーは、そのままよろよろと三歩ほど後ろに下がると、糸が入れた様に仰向けに倒れ動かなくなったのだった。

「……特にヒールをしなければならない所も無い様だね」
　風に吹かれてはためく四乃森流陰陽道式服の袖口を、寒そうに押さえ暗がりを見渡した沙雪がそう言って肩を竦めると、
「そうですね。冬馬の服の様な被害が無くて良かった」
　応じたマティアスが視線を向けると、最後に吐かれたブレスのせいだろう。冬馬の死経装が焦げ焦げになっており、視線に気づいた冬馬が苦笑を浮かべて首を左右に振る。
「白雪、今回もよく戦ってくれたね」
「ヘメラも御苦労さまよ」
　焦げた毛先を気にして舐める白雪の頭を撫でる凛の隣で、ヘメラを抱っこするロゼ。その腕の中でヘメラは嬉しそうな顔を映し出している。
「荘厳だな……」
「……そうだな」
　色濃い闇に吹く寒風に揺れる草を見て、腕を組んだアベルがごちると、火を付けた煙草の紫煙をその風に棚引かせたハンナが短く応じる。
「うう、寒い。何か温かいものでも食べて帰りたいわね……」
（「いやいや、そんな格好してるからじゃねぇの？」）
　震えながら言う晴香に心の中でアルヴァがつっこんだ様に、幾人かが思ったが、みんな大人なのでつっこまず、釧路の湿原を後にしたのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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