殲虐の紫

作者:流水清風

 瀬戸内海に数百はあるとされる小島の中に、いくつか存在する有人島。
 漁業と最低限の農業で生計を立てるが、学校は小中を兼ねた小さな建物が1つ、医療施設も小さな診療所がかろうじて存在しているだけだ。娯楽施設も商業施設もありはしない。
 その不便さから人口は減り続け、今では50人を下回ってしまっていた。
「……任務完了」
 いや、今この瞬間に0人となった。
 島の海岸から住宅施設のある地域に向かって、狙撃が行われたのだ。
 それによって、住人達は何が起こったのかも分からないまま、皆殺しにされてしまった。
「生存者の有無を確認する」
 狙撃者は、一見すると少女にしか見えない。だが、人ではない。
 その正体は、ダモクレスの指揮官機の一体ディザスター・キングの部隊に属するシェーバ・カシャットだ。
 紫を基調とした色彩の軽装甲を纏った体は、油断の無い足取りで生存者を探し歩く。島内の居住区を隈なく調べ、次に畑が耕された一帯を、さらに小さな山の中へ至り、海岸へ戻って来るというルートだ。
 もっとも、その捜索は徒労に終わるだろう。この島には、生きている人間など1人も残ってはいないのだから。
 それを確認した後には、シェーバは次の有人島へと向かう予定だ。
 さらなる殺戮を繰り広げるために。
 
 ダモクレスの指揮官機ディザスター・キングの部隊によって、立て続けに引き起こされる惨劇。
 この部隊による活動は、その特質から予めヘリオライダーが予知することが出来ない。
 その事実に悔しさを噛み締めつつも、表面上は平静を装い静生・久穏はケルベロス達に状況を説明する。
「瀬戸内海に位置する有人島の1つが、ダモクレスの襲撃を受け壊滅してしまいました。島民の方々は、1人残らず殺されてしまっています」
 その報を受け、ケルベロス達は己が為すべき事柄を概ね理解していた。
「島内に生存者がいない事を確認すれば、次の島が標的となり同様の惨事が起こってしまいます。その前に、皆さんの手で敵を倒してください」
 敵であるダモクレスは1体のみ。しかし、それは身軽であるという事を意味し、かつ単独で作戦行動を行えるだけの力量を有しているという事でもある。
「敵の名前はシェーバ・カシャット。狙撃や射撃を得意とする個体のようです」
 島の人々を殺した方法も、狙撃であった。勿論、近接での戦闘も相応にこなすだろう。
「シェーバは島内を生存者がいるかどうか調べています。それが済んでしまうと次の島に向かってしまうので、その前に倒してください」
 厄介な事に、シェーバの目的は一般人を抹殺しグラビティ・チェインを収集するというものだ。そのため、ケルベロスの存在を察知した場合は即座に逃亡する。如何なる事情や状況であろうとも、それは変わらない。
「このため、まずシェーバの逃走を封じる必要があります。その上で、戦いに持ち込んでください」
 一旦戦闘が開始すれば、逆にシェーバは逃亡を図ることは無くなる。任務を遂行する上で、ケルベロスを排除することが必須となるからだ。
「高い戦闘能力を有した敵を討たなければなりませんが、今回の作戦ではそれと同様に如何に敵の逃げ道を封じて戦いに持ち込むかも重要になります」
 ダモクレスであるシェーバは、海中に没してもさして問題はない。追い詰めるに当たっては、地形を考慮しつつ作戦を練らなければならないだろう。
 戦闘と逃亡阻止、2つの作戦が必要となる難事である。
「この事態に対処できるのは、皆さんだけです。厳しく困難な戦いになりますが、どうかさらなる悲劇の連鎖を防いでください」
 久穏からの激励と嘆願。それは非業の死を遂げた人々の想いでもあるだろう。
 犠牲者の無念を胸に、ケルベロス達はヘリオンへ乗り込んで行く。
 


参加者
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
飛鷺沢・司(灰梟・e01758)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033)
アシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)

■リプレイ

●誘導
 ダモクレスの手によって無人島となってしまった小島を、8名のケルベロスが音も無く駆けていた。
「ヘリオライダーに気付かれず村一つ壊滅させるとは……。敵はどんな手段を使ったのでしょうか……?」
 純粋な疑問を口にするユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)に答えを返せる者はいない。
 ケルベロス達の目的地は、この島の居住区である。
 前時代的な住居が居並ぶこの場所は、島民達の生活の場であった。深刻な過疎化を迎えていたにせよ、人々が日々を懸命に紡いでいた場所だ。
「この建物が良さそうですね。これ以外では、無理でしょうし」
 淡々と告げるアシュレイ・ヘルブレイン(生まれたばかりの純心・e11722)は、この居住区に唯一存在する公共施設を指して言った。
 その建物は、公民館としての役割を担っていた物だ。島で行われる行事についての話し合いが行われたり、日々の節目節目に島民が集って宴席が催されたりといったような。
「急ごう。姉さんが来る前に……」
 公民館の入り口を静かに開け放ち、そこに入り込んで行く足跡を地面に刻み付けるティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は、焦りと逡巡が入り混じった声音であった。
 この虐殺を行い、今ここに生存者の有無を調べに向かっているダモクレスは、ティーシャの姉妹機であるシェーバ・カシャットだ。かつての姉と対峙する事を思えば、それも止むを得ないだろう。
「ティーシャ様、心中お察しします。ですが、敵は非道なダモクレス、迷いがあれば貴女自身が危険です」
 あたかも狙撃の生存者がこの建物に逃げ込んだかのように血痕を偽装する旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)の仕草は、その行いに関わらず優美さがあり、艶やかな舞の一部であるかのように錯覚してしまう。
「今はこの作戦に集中しましょう。ここで起こった事を、繰り返させないためにも」
 ティーシャに迷いを振り切るよう、エフイー・ノワール(遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033)は、敢えて周囲の状況に目を向けるよう促した。
 そこには、酸鼻を極める惨状があった。身体の半分が消失している人々の遺骸が転がっている。
 もしシェーバ・カシャットを討ち損ねれば、この光景が別の場所で再現されてしまう。それだけは、何としても阻止せねばならない。
「お喋りはそこまでにしよう。そろそろ、敵が着いてもおかしくないからな」
 敵を誘導する工作を終え、飛鷺沢・司(灰梟・e01758)は仲間達にそれぞれ敵を待ち受ける場所に潜むよう促した。自身は近くの建物内に隠れる。
 ここに許可無く踏み入っても、もうそれを咎める者はいない。普段は無表情な彼が複雑な表情を浮かべたのは、そんな思いを抱いたからだ。
 ケルベロス達は周囲の建物や物影に隠れ、退路を塞ぐため動けるよう身構える。
「あはっ。キングの手下なら、何か知ってるよね。殺す前に聞き出せるといいな~」
 物影で呟くアンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)の笑顔を見た者がいたなら、背筋が凍える気分を味わっただろう。
 アンノもまた、この戦いに特別な情念を抱いている。もっとも、ティーシャとは異なり、その念が向かう対象はこの場にいない別の存在だけれど。
(「敵は手練れの狙撃手。……この島の地形、環境、状況全てが相手の掌中に在ると評しても過言ではないわね」)
 公民館に近い民家の中で敵の能力を懸念するローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)にとって、この状況は敵を誘いこんでいるようで、その実は自分達が誘いこまれたのではないかと危惧してしまうものだ。
 どちらにせよ、後は敵の出方を待つしかない。
 ケルベロス達が息を潜めて待ち受ける場に、ダモクレスの足音が近づいて来る。隠れる位置によっては、その姿を目視できるメンバーもいた。
(「【データベースに該当あり。準一級コギトエルゴスム回収対象:シェーバ・カシャット】……? 何でしょうか? 今のデータ……いえ、最優先指令は……?」)
 シェーバの姿を目にしたユーリエルは、己の内から発された情報に困惑を覚えた。
 それはただの緊張から生じた混乱だったのだろうか。或いは、自覚せず己に課した使命だったのかも知れない。
 ともあれ、悠長に自己分析をしている暇はない。もう間も無く、シェーバがここに到着する。
 いつでも動き出せる姿勢を保ちつつ、ケルベロス達はその時を待った。

●看破
「……」
 居住区を捜索するシェーバ・カシャットは、血痕や足跡、そして公民館の開け放たれた扉を視認し、そこで歩みを止めた。
 周辺に隠れるケルベロスの存在を察知してはいない。
 だが、ケルベロス達の建物内へと誘導する作戦は、結論から言えば失敗に終わった。
 何故なら、シェーバは狙撃によって島民を殺害したからだ。狙撃は対象を視認しており、その結果も目撃している。撃ち漏らしなどあるはずがない。
 負傷者など、唯1人もいない。狙撃対象は鏖殺されており、狙撃を免れた者がいたとすると、撃たれていないのに負傷しているのでは辻褄が合わない。
 つまり、これは明らかに狙撃後にシェーバが移動している間に何者かが行った偽装なのだと答えが出る。
 さらにケルベロスは公民館内から録音していた物音が聞こえるよう再生し誘導を試みているが、これでは明らかに建物内に誘いこみたいという意図が読み取れてしまう。
「撤退する」
 ケルベロス達の目論見を看破したシェーバは、迷う事なく撤退行動に移った。

●包囲
 咄嗟に身を翻したシェーバだが、その退路には長髪を靡かせながら物影から飛び出した竜華が立ち塞がる。
「ごきげんよう……。ここから先、貴女のお相手は私達が致します。さぁ、一時の逢瀬、存分に楽しみましょう……!」
 言うが早いか、竜華の意思で動く八岐の鎖がシェーバの装甲に巻き付き締め上げた。
「小細工は不要だったようね。狩る者を罠に嵌めようとするのは、無謀だったということかしら?」
 こちらの思惑を見破ったシェーバを称賛しつつ、ローザマリアは竜華とは別の路地を塞ぐ。両手に握る一対の愛刀に霊的防護を断ち切る力を宿しながら。
 2人に続き、ケルベロス達は姿を現し包囲を完了した。この状況から戦闘を回避し撤退することは不可能だ。
 ケルベロス達のシェーバを補足する工夫は無意味以上に逆効果ではあった。もし、ここに到着する前にシェーバが気紛れに狙撃の際と同じように目視を行っていれば、ケルベロス達は発見されその時点で逃亡されていただろう。
 しかし、それは結果論に過ぎない。何より、こうして包囲し戦闘に持ち込む事には成功したのだから。
「シェーバ姉さん、ここで仕留めさせてもらう」
 かつては共に在り、今では敵味方に分かれた姉へと、ティーシャは自身用に改造されたバスターライフルから光弾を射出する。
 被弾したシェーバは、受けた痛みを意に介していないかのように、ほんの一瞬だけではあるが無反応だった。それは、戦闘中には致命的となりかねない、呆けであった。
 けれど、ケルベロス達がその隙を突くよりも先に戦意を取り戻す。
 そうしてシェーバがティーシャに向けて見せた表情は、憎悪と呼ばれるものだったのだろうか。
「外見だけティーシャに似せた紛い物だと思いたいが、私を姉と呼ぶということは慣れの果てか……。ハミシィのような極度の変わり者であれば連れ帰るなどと言い出しもするだろうが」
 明確な殺意を以って、シェーバはティーシャを撃った。
 避けることなど到底叶わず、仲間の誰が庇うことも間に合わず、魔法光線はティーシャに直撃した。
「妹の顔で、妹の声で、変わり果てた妹であったモノが私を姉と呼ぶなど、許せはしない。貴様はここで必ず滅ぼし尽くす」
 平坦な声音で必殺を謳うシェーバに、ケルベロス達は気圧されはせずとも不気味なものを感じずにはいられなかった。
 ダモクレスにとって、レプリカントがいかなる存在であるか。シェーバの底知れない冷たい殺意は、それを物語っている。
「そうか。だが、それはこちらも同じ事だ。鬼ごっこを気取った貴様の殺戮は終わり、ここからは貴様が狩られる番だ」
 月光が宿ったかのような白磁の刃が、司の卓越した技量によって赤く煌めき踊るような動作でシェーバの装甲を切り刻む。
「ティーシャを妹と認識しながら、殺すだと。ダモクレスには、仲間を守るという合理的判断すらないのか?」
 怒りに口調を荒げるエフイーだが、戦闘行動は冷静そのものだ。仲間の中でも倒れ易いユーリエルを浮遊する光の盾で防護する。
「アレを妹の名で呼ぶな。悍ましい」
 極寒の地の風のような声音でエフイーに応じるシェーバこそが、その実は冷静ではないのだろう。平素のシェーバであれば、敵の言葉に返答などしなかったはずだ。
「奔れ、苦難を越えし覚悟の旋風……カーディナルガスト!!」
 あらゆる艱難辛苦をも乗り越えるというアシュレイの覚悟が、グラビティの波動となって放たれる。突きや蹴りによって赤い波動の奔流がシェーバへと襲い掛り、その体内を透過し内部から破壊を齎した。
 その存在を許容できないというのなら、それは殺された島の人々の無念を心に留めるアシュレイにとっても同じだ。
 その感情は外見からは窺い知れないが、アシュレイはシェーバの撃破に執念を燃やし全力を尽くしている。
 互いに受け入れられない排除するべき敵。そうした見解の一致によって、戦いは凄絶なものになった。
 数で勝るケルベロスの猛攻に対し、シェーバは一歩も劣らず、不利な状況を覆そうとする。
 ユーリエルの電光石火の蹴りが躱され、ドリルのように回転するシェーバの拳の反撃が致命的な傷となった。
 しかし、ケルベロスは互いを支え合うことが出来る。深手を負ったユーリエルを、即座にアンノが癒し窮地を脱した。
 戦いの鉄則の1つに、敵の支援を優先的に潰すという手法がある。ケルベロスの中でも癒しを担当するアンノにシェーバの注意が向いたのは、戦術的な理由であった。
「ねえ、キングは今どこにいるの?」
 それに対し、アンノは全く怯まない。それどころか、この戦いに関係の無い問いを口にする。
 アンノにとって縁の深い相手であり、シェーバを指揮する存在。
 それについての情報をアンノが欲するのは当然だが、シェーバがそれについて何を教えることも無い。
 交わされた言葉は事態の進展には繋がらず、ただ互いを滅ぼすための攻防が紡がれるのが戦場というものなのだろうか。

●愛別離苦
 やや攻撃的な編成で戦うケルベロス達は、着実にシェーバに傷を負わせるものの、そのために負傷を重ねてもいた。
「動作を停止するがいい、屑鉄」
 激しい憎悪がエネルギーとして溢れ出すかのように、シェーバの両手に構えたバスターライフルから、後衛のケルベロス達へと巨大な魔力が迸る。
 シェーバがティーシャを狙ったことは明白だが、魔力流はティーシャに届く前に遮られていた。
「……あなたは、目の前の事実を受け入れられ……ないのでしょうか? ……ティーシャさんは、妹……なのでしょう」
 自身を盾として魔力流を受けたユーリエルは、疑問とも叱責ともつかない言葉を口にしつつ意識を失った。
「妹を屑鉄呼ばわりするなんて、あなたに姉を名乗る資格はありません」
 この戦いに勝利するという熱いまでの意志を完全に押し隠し、アシュレイは無表情のまま小振りなチェーンソーの刃をシェーバの装甲に穿たれた傷に押し付ける。
「シェーバ! お前には兄弟姉妹の絆など理解できはしない!」
 変形した刃でシェーバの装甲を斬り刻むエフイーにとって、妹を蔑み殺傷せしめんとする言動は、到底許せるものではない。胸の内からは、自身の大切なものを穢されているような怒りが湧いて来る。
「その屑鉄は、私の妹では断じてない。だからこそ、完全に破壊する」
 シェーバがティーシャを見る目は、あってはならないものを見るそれだ。
 ダモクレスではないケルベロス達には理解できないが、シェーバにとってレプリカントとなったティーシャは、妹が死した後に記憶を有し動く屍となって活動しているのにも等しい。
「……いいさ、姉さん。もう分かって欲しいとは言わない。私も、私の仲間を、同志を傷付けた敵を討つ」
 負傷した仲間達、倒れ伏したユーリエル、虐殺された島民達。それを行った敵を撃破するのだと、ティーシャは躊躇いを振り切って竜砲弾を放った。
 終始敵味方が入り乱れ動き走り続ける戦いも、互いにその動きに鈍りが見え始め、決着が近いと感じさせる。
「走り回って熱くなっただろう。温度調整が苦手でね、寒かったら悪いね」
 司は武器を高く投げ上げるという、一見無意味な行動をとった。意識を誘導する類の行為かとシェーバが疑った次の瞬間、吹雪が呼び起こされ幾千もの氷柱が飛来しシェーバを貫いた。
 シェーバがその衝撃から立ち直るよりも、戦いの快楽に狂喜する竜華の接近が早い。
「貴女が今まで奪った命に償う時が来たようですね……。炎の華と散りなさい……!」
 司の攻撃とは対極を成す、真紅の炎を纏った八本の鎖が異なる方向からシェーバを襲い串刺しに貫く。そして、オーラを纏った無骨な巨剣が紫の装甲を断ち割った。
「キングの居場所、教えてくれてもいいでしょ? どうせキミはここで死ぬんだし、そこまで忠義を払う意味もないんじゃない?」
 既に勝敗は決している。アンノに言われるまでもなく、シェーバは己の敗北を痛感している。問いに答えないのは忠義や意地なのか、せめてもの抵抗なのか。或いは全く別の意図や理由なのかも知れない。
 もはや尽きるのを待つだけとなったシェーバの命運を、ローザマリアの斬撃が断った。幾度も繰り返されながらも動作が捉えられない剣閃は、一太刀ごとに陽光を反射し舞い散る花吹雪のようだ。
「手向けの花弁の中で斃れるなら、幸せな最期でしょ。……瀬戸の春を見ることなく逝った、この島の人々に比べれば、ね」
 全身を斬り裂かれ、崩れ落ちたシェーバの頭部は偶然にもその瞳はティーシャを正面に見据える位置にあった。
 だが、その瞳にはもう誰の姿も映ってはいない。
「私の妹を……ティーシャを、奪った、この星が……憎い」
 シェーバの最期は、妹への愛とこの星への怨嗟に塗れたものだった。もっとも、ダモクレスに愛などというものがあるのなら、だが。
 装甲の一片も残さず消えていくシェーバを、竜華は優雅に一礼で葬送した。
「さよなら、姉さん」
 自分が弔っても、シェーバは喜ばないだろう。そう思いつつも、ティーシャは別れの言葉を口にせずにはいられなかった。
 ケルベロス達が立ち去った後、この島に人が住むことはもう無いだろう。
 海岸に建てられた犠牲者の冥福を祈る銘が刻まれた墓碑が、誰の目にも触れはしないように。

作者:流水清風 重傷:ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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